( ^ω^)ブーンは錬金術師なようです
- 33: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:26:34.91 ID:iNQjs/KpO
- 御世辞にも綺麗とは言えないアパートの一室に案内された。
美しい彼女がこんなところで生活しているという違和感が胸を支配した。
人にはそれぞれ自らが歩んで来た歴史がある。その歩いて来た道を否定することはあってはいけない。そう思って口を噤んだ。
彼女に通された部屋には、天井の柱に紐を通し首を吊って死んでいる年増の女がいた。
穴と言う穴から体液と汚物を垂れ流しているその様に吐き気を催した。
死んでいる女を見て彼女は泣き、嗚咽している。
この死んでいる女が彼女の母と言うのは間違えない。
僕は吊されている死体を紐から外し、床に寝かせた。
- 34: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:27:04.83 ID:iNQjs/KpO
- 死体の胸にそっと触れ、人体の構造式を思考し、精錬する。
これで身体に問題は無い。
続いて魂の精錬に取り掛かる。
そこで思考は止まった。
魂に構造式はない。
(;^ω^)「ツン、すまないお…死んだ人間は甦らないお」
ξ;;)ξ「いやーっ!!」
絶叫しているツンに掛ける言葉が見つからなかった。
- 35: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:27:34.65 ID:iNQjs/KpO
- ξ;;)ξ「いやだよぉ…ママ…なんでよぉ…」
( ^ω^)「ツン…」
ツンの名をただ呼ぶしかできなかった。かわいそうな彼女に掛ける言葉など僕は持っていなかった。
ξ;;)ξ「ねぇ…ブーン…このまま…ママをこのままの状態でとっておくことはできないの?」
思いも寄らない質問だった。
- 37: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:28:04.74 ID:iNQjs/KpO
- ( ^ω^)「それなら可能だお…だけど―――」
ξ;;)ξ「お願い!私からママをとらないで!」
( ^ω^)「…わかったお」
止められなかった。
結果として僕が彼女を殺してしまったのかもしれない。
( ^ω^)「方法は簡単だお。生理電解質と粘性多糖類の精錬溶液にツンのお母さんの肉体を浸しておけば、肉体の損傷と腐敗は防げるお。
あとはこの溶液が痛んできたら僕が精錬し直すお。
そうすればツンのお母さんの肉体がダメになることはないお」
- 38: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:28:25.38 ID:iNQjs/KpO
- ξ;;)ξ「…?」
( ^ω^)「ちょっと難しかったかお?
簡単に言えばちょっと不思議な水にお母さんの肉体を入れておけば大丈夫ってことだお。
それでその不思議な水は僕が作ってあげるってことだお」
ξ*;;)ξ「あり…が…とう」
(*^ω^)「いえいえですお」
- 39: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:29:03.84 ID:iNQjs/KpO
- 彼女とはこの後、一週間に一度溶液を換えに来ると言う約束をして部屋を出た。
翌日、僕は彼女に驚かされた。
彼女とは同じ高校に通っていたのだ。それも同学年。
思い返せば中学生の頃から錬金術一筋だった自分には友達どころか知り合いと呼べる人物すら皆無ことに気付いた。だがそのことに対する後悔は無かった。
ξ゚听)ξ「おはよう、ブーン」
あいさつしてきた。何事もなかったかのような涼しい顔をして。
(;^ω^)「お、おはようだお」
思わずどもってしまう自分が情けなく感じられたがツンはお構いなしな様子だった。
- 40: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:29:36.26 ID:iNQjs/KpO
- 学校では何食わぬ顔で彼女と談笑し、週に一度彼女の家へ出向き溶液を精錬仕直す。
そんな生活が何ヶ月が続いたある日、彼女から相談を受けた。
ξ;゚听)ξ「もうお金がないの…」
それもそうだろう。もともと貧しい生活を強いられてきた挙句に母が自殺したんだ。金があるはずがない。彼女自身が働いている様子もない。
ξ;;)ξ「ママからこれ以上離れたくない…」
- 44: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:34:47.98 ID:iNQjs/KpO
- ( ^ω^)「僕がお金は貸すお…」
彼女と話し合った末、彼女は高校を自主退学することにした。
僕も働いてはいないため貸せる額は限られてくる。
そういうことを踏まえての結果だった。
それだけ話し合ってアパートから出ようとした時、彼女は僕を引き止めた。
ξ゚听)ξ「抱いて…いいよ」
彼女なりの恩返しだったのだろう。
僕は彼女を貪った。
僕は彼女に溺れていった。
僕は彼女を愛してしまった。
- 45: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:35:11.71 ID:iNQjs/KpO
- 学校を辞めた彼女は何をするでもなく母を見つめるだけの生活をしていた。
僕自身も高校卒業後は彼女のアパートに身を寄せていた。
そして僕は狂った様に彼女を求めた。
僕が彼女を求めるのと同じ様に彼女もまた、僕を激しく求めてきた。
そんな日々が長いこと続いた挙句、終わりは唐突に訪れた。
彼女は彼女の母と同じ様に、自分もまた首を吊って死んだ。
残された遺書には『ブーンにもママにも長い間迷惑を掛けました』と書かれていた。
- 46: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:35:32.10 ID:iNQjs/KpO
- とっさに僕は彼女の肉体を精錬し、アパートの浴槽の精錬溶液に浸っていた彼女の母を引き摺りだし、彼女を溶液に沈めた。
彼女が母を失いたくなかったのと同じ様に僕もまた彼女を失いたくなかった。
だが僕は彼女の肉体だけでは満足できなかった。
僕は彼女の魂を精錬するため、彼女と一緒に暮らし出して以来滞っていた錬金術の研究を再開した。
- 47: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:35:52.91 ID:iNQjs/KpO
- だがすぐに研究は行き詰まった。
『死んだ人間は甦らない。これは真理だ』
そう、真理にぶち当たったのだった。
ただそれは通常の錬金術の場合だ。
僕はそれとは別にもう一つの解答を手に入れていた。
錬金術師が歴史上から途絶える直前に編み出された錬金術。
呪術の脈を取り入れた錬金術。
僕は迷わずこれを実行に移した。
- 48: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:36:15.11 ID:iNQjs/KpO
- 『心臓』とは『心』。『心』とはすなわち『念』であり、一定量溜まった『念』は『業』となる。その『業』を錬成することにより『魂』を精錬する。
これが研究の成果であり、彼女を甦らせる唯一の術である。
この精錬を行うには多数の心臓が必要だった。
だから僕は心臓狩りを決行した。
- 49: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:36:38.05 ID:iNQjs/KpO
- 方法は単純だった。
人通りのほとんどない夜道で擦れ違った人の胸に錬金術で大きな穴を開け、ナイフを使い心臓を傷付けないように取りだす。
彼女の母の肉体を維持していたものと同じ精錬溶液で心臓を保存しておき、一定量溜まったら錬成をする。
たったそれだけのことだった。
そして今、僕の目の前には五つの心臓と横たわる彼女の肉体がある。
- 50: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:37:06.02 ID:iNQjs/KpO
- ナイフで指を軽く切り付け、五つの心臓と彼女に血を擦り付ける。
呪術の脈を継ぐ錬金術を行う際には必ず行わなければならないルール。
この行為が術の発動の合図となる。
あとは通常の錬金術と同じ様に思考する。
彼女は甦みがえった。
動き出したのだ。
錬金術は成功した。
なのに彼女はなんで僕の首を絞めているんだ。それもとんでもない力で。
「ありがとう。ブーン」
僕の意識はそこで途絶えた。
- 52: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:39:40.83 ID:iNQjs/KpO
- ( ・∀・)「ここですね。彼がよく出入りしていたのを目撃されているアパートは…」
川゚−゚)「その様だな」
錆び付いた手摺。
軋む階段。
築何十年かは経っているであろうそのアパートの二階にその部屋があった。
( ・∀・)「この部屋ですね…」
川゚−゚)「あぁ…開けるぞ」
- 55: ◆ZGuRy.Pfdg : 2007/01/04(木) 22:40:17.61 ID:iNQjs/KpO
- 今にも取れてしまいそうなドアノブをまわし、部屋に入る。
恐らく居間であろうと思われる部屋まで足を進める。
そこに二人の男女の死体があった。
川;゚−゚)「なっ…」
(; ・∀・)「死んで…ますね?」
男の死体の首には青痣がついている。
女に首を絞められたのだろうか。
女の死体は首から大量に出血している。
女の手がナイフを握っている。自分で首を切ったのだろう。
二人の死体は幸せそうな笑顔をし、互いに手を強く握っていた。
おしまい
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