( ^ω^)ブーンと隠のツンξ゚听)ξ

  
3: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 21:51:12.01 ID:o+k2HACW0
  



                          二




(´・ω・`)「こんにちは」
( ^ω^)「あなたがショボンさん……ですかお?」

 小柄で下がり眉のいかにも学者といったような青白い男が玄関先に立っていた。
どうやら彼が数日前に届いた手紙の送り主のようだ。用件は僕に聞きたいことがある、
とのことだったが一体何なんだろうか。

(´・ω・`)「申し送れました。私、こういうものです」

差し出された名刺の肩書きには『文化研究者』と書かれていた。



  
4: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 21:53:58.03 ID:o+k2HACW0
  
( ^ω^)「失礼ですが、文化研究者とは……?」
(´・ω・`)「あ、それは第一印象を悪くしないためのものでして……」
( ^ω^)「では?」
(´・ω・`)「その、言うなればその地方に伝わる伝説ですとか、超常現象ですとか、そういった
      ものを主に調べています」

そう言って彼は少し決まり悪そうに斜め下を向いた。成る程、確かにいきなり目にするに
しては気味が悪い肩書きだ。そう僕は納得した。

( ^ω^)「それで、今日はどう言ったご用件で……」
(*゚ー゚)「あなた、それくらいにして。先ずは上がってもらいましょうよ」
( ^ω^)「お、これはすまなかったお」
(´・ω・`)「失礼します」

僕は男を奥へと案内しながら、何かが胸の奥で燻り始めているのを感じていた。



  
5: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 21:57:14.33 ID:o+k2HACW0
  
 差し出された茶を一杯啜り、ショボンは何やら日焼けしてボロボロになった本をパラパラと
めくりながら、うんうんと唸り始める。何もやることが無い僕はただそれを見ながら茶を啜るばかりだ。

(´・ω・`)「あ、これは失礼」
( ^ω^)「それで、聞きたいこととは?」
(´・ω・`)「隠についてです」
( ^ω^)「隠……」

 繰り返し呟いた僕の頭に浮かんだのはツンの笑顔だった。
隠。確かにここら辺では知らないものが居ないほどに有名な言い伝えだ。
 勿論言い伝えだからと言ってこの世に存在しないと言うわけではない。何年かに一度は
里へ降りてきたのを見るものも多数居る。そして僕のように山で見るものも居るのだ。



  
7: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:01:01.73 ID:o+k2HACW0
  
(´・ω・`)「この隠というもの、非常に興味深いなと思いまして、今日はこちらに伺いました」
( ^ω^)「……何故ウチに?」

当然の疑問だ。僕と隠を繋ぐ物はツンでしかありえないが、その繋がりをショボンが知り得る
わけが無い。何せ僕達は今日が初対面なのだ。

(´・ω・`)「えぇ、自分は見られていないと思っていても噂と言うのは広がるものですよ」
( ^ω^)「あぁ……そうでしたかお」

思い返せば無理も無い。あの時はまだ子供だったし、もしかしたら何かの拍子に口を滑らせた
こともあるかも知れない。その香りを、陰を好む者が嗅ぎつけるのは容易いことだろう。



  
8: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:04:33.11 ID:o+k2HACW0
  
( ^ω^)「……それで――」
(*゚ー゚)「あなた」

続きを促そうとした僕の言葉を遮り、しぃが遠慮がちに僕の肩を叩いた。

( ^ω^)「……わかってるお」
(*゚ー゚)「……」

僕の言葉を聞き、しぃは何も言わずにまた奥の方へと下がって行った。
 大丈夫。今更僕は揺れ動いたりはしない。寧ろこの機会に全てを吐き出して清算してしまおう。
僕は今一度覚悟を決めて、彼に向かった。

( ^ω^)「それで、聞きたいことは何ですかお?」
(´・ω・`)「勿論隠のことです。それも貴方が出会った隠について教えてください」
( ^ω^)「……わかりましたお」

 丁度良い事に僕はつい先日過去を振り返ったばかりだったので、すらすらと筋道を立てて
説明することが出来た。
 出会いから共に過ごした日々、楽しかったこと、悲しかったこと、情けないことに話しながら
時折泣きそうになったこともあった。やはり未だ過去との決別が済んでいなかったらしい。



  
9: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:07:52.96 ID:o+k2HACW0
  
 そして最後の別れのシーン、勿論僕が大泣きしたことは省いたが、ついにそこまでを話し終えた。
声に出して振り返ったことは今までに無かったが、どうやら頭で思い浮かべるのとは訳が違うようだ。
喉はカラカラに渇き、掌は汗ばみ、心はキュウキュウと締め付けられ、目は乾燥してほんのりと熱を
帯びていた。

(´・ω・`)「……なるほど。大体わかりました。貴重な話をどうも」

言って頭を垂れるショボンに釣られ僕も軽く会釈をした。

(´・ω・`)「しかし、これは思ったよりも不思議ですね」
( ^ω^)「不思議?」
(´・ω・`)「えぇ、……いえ、もしかしたら調査不足なのかもしれません。ふむ……」

会話をしているようではあったが、明らかにショボンの言葉は僕を置いてきぼりにしていた。



  
11: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:10:49.83 ID:o+k2HACW0
  
(´・ω・`)「とにかく今日はありがとうございました」
( ^ω^)「……その……」

何か分かったら教えてください。その言葉をブーンは言おうとして躊躇った。
これを言ってはいけない。最早自分には関係の無いことだと。

(*゚ー゚)「もうお帰りですか? 何もお構いできませんで、すみませんでした」
(´・ω・`)「いえ、結構な御もて成しありがとうございました」
( ^ω^)「……」

もやもやしていた。彼を繋ぎ止めておきたいと言う気持ちがあった。その後を知りたいと思う
気持ちがあった。けれどもそれを口にすることは出来ない。だけどもやもやは消えない。



  
12: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:13:03.91 ID:o+k2HACW0
  
( ^ω^)「ショボンさん」

駄目だ。僕は前に進まなくちゃいけない。

(´・ω・`)「はい?」
( ^ω^)「……」
(*゚ー゚)「……」
( ^ω^)「お元気で」
(´・ω・`)「? えぇ」

これで良い。今日でツンは本当に居なくなった。僕の曖昧な思い出は綺麗さっぱり消え去って
これからはしぃと現実を生きていくんだ。



  
13: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:16:21.71 ID:o+k2HACW0
  
(´・ω・`)「あ」

あと一歩、完全に敷居を跨ぎきる寸前でショボンは何かを思いついたように声を上げた。

(´・ω・`)「たしか……ここらに酒屋がありましたよね?」
( ^ω^)「……? ええ、2軒隣に昔から続いているところがありますが」
(´・ω・`)「そうですか。……だそうですよ」

 俄に外のほうを向いたショボンの視線の先、そこには向かいの小さな商店の陳列を眺めている
着物の女性が居た。声を掛けられ、垂れ下がっていた邪魔な髪の毛を耳にかけ直し振り返った
その顔は、僕の心臓を鷲掴みにし、容赦なく握りつぶした。



  
14: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:20:07.25 ID:o+k2HACW0
  
ξ゚听)ξ「え? あ、ごめんなさい。もう一度言ってくれますか?」
(;^ω^)「ッ!」

 視界がぶわ、と放射状に霞んでいき、続いて赤、黄、青、といろいろな色がチカチカと視界を
飛び回る。足元はぐらぐらと覚束無く揺らぎ、心臓は収縮したまま膨らもうとしない。耐えられずに
僕は家の梁に手を掛け、強引に息を吸い込んだ。

(;*゚−゚)「あ、あなた……」

呼ばれてしぃの顔を見てみたがやはりすごい顔をしていた。当然だ、突然こんなものを見せられて
驚かないわけが無い。

(´・ω・`)「どうしました?」
(;^ω^)「いえ、あの……彼女は……」

 段々と焦点の合ってきた双眸で僕はもう一度彼女を見た。年の頃は20位だろうか。スラリとした
体型ではあったが非常に着物が似合っていて、立ち振る舞いからは上品さが溢れていた。
何よりその顔が、あまりにツンと酷似していて幻ではないかと思うくらいだ。



  
15: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:23:09.86 ID:o+k2HACW0
  
(´・ω・`)「彼女? いえ、ついさっきここへ来る間に出会いまして。何でも良い酒を捜し歩いているとか」
ξ゚听)ξ「お知り合いの方ですか?」
(´・ω・`)「いえ、今日少しばかり話を聞かせて頂いただけですよ」

 普通に会話をする2人を、僕としぃは呆然と見守っていた。それを見て挨拶を待っていると
思ったのか、その幻がパタパタと僕の目の前まで駆け寄ってきた。

ξ゚听)ξ「始めまして。私はデレと申します」
(;^ω^)「……ツン」
ξ;゚听)ξ「あの? どうしました?」

その声までもがツンそっくりだった。知らず知らずに僕は涙が溢れそうになる。



  
16: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:26:27.25 ID:o+k2HACW0
  
(*゚ー゚)「えぇと……デレさん……ですか?」
ξ゚听)ξ「ええ。……それが何か?」
(*゚ー゚)「失礼しました。あまりにも私と主人の知り合いにそっくりだったものですから……」
(´・ω・`)「世の中には似た人が3人居るといいますしね」

 似ているなんてもんじゃない。どう考えたってこの女性はツンだ。僕が見間違えるはずが無い。
そのこの世の物とは思えぬ艶やかな髪に、煌びやかに光を反射するしっとりと潤んだ双眸、
すっ、と通った鼻筋から薄らと朱色に染まった肌理細やかな頬、そして完全に熟れてふっくらと
膨み、弾ける様なその唇。僕を惑わせるその見目はツンのものでしか有り得ないのだ。

(;^ω^)「ツン……ツンだお」
ξ;゚听)ξ「え?」

 気付けば僕は彼女の両肩に手を置いて逃がすまいと力を込めながらその顔をじっくりと
観察していた。



  
17: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:30:03.36 ID:o+k2HACW0
  
ξ;゚听)ξ「え、あ、あの……」
(;^ω^)「知らない振りなんてするなお! 僕だお! ブーンだお!」
(*゚ー゚)「あなた!」

その声と共に僕はしぃやショボンに引き剥がされるも、尚目の前の女性に呼びかける。

(;^ω^)「怒っているのかお!? それなら幾らでも謝るお! お願いだから返事をしてくれお!」
ξ;゚听)ξ「えぇと……その……」
(*゚ー゚)「あなた! もう止めて!」
(;^ω^)「そうだお! ツンなら首の後ろに――」

 パァン、と乾いた音が響いた。それは頬の痛みと共に僕の耳に飛び込み、僕の思考を一時
リセットした。何事かと痛みのする方を向くとしぃが口を真一文字に結んで目を潤ませていた。
あぁ、僕は叩かれたのかと、そこでやっと理解した。



  
19: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:33:45.87 ID:o+k2HACW0
  
(*゚ー゚)「お願い……だから……」
( ^ω^)「……すまないお」

みっともない。何が過去と決別だろうか。僕は未だツンの幻影にこれほどまでに囚われて
いたのか。また、しぃに辛い思いをさせてしまった。

(´・ω・`)「ふむ……」
ξ;゚听)ξ「何か分からないけど……その、ごめんなさい」
( ^ω^)「……いえ、無礼な真似をしてしまってすみませんでしたお」

 落ち着いて見直した彼女の頭には髪留めが無かった。もっと早くに気が付けばよかった。
髪留めが無いのならツンではない。もし、ツンだとしたならば、僕の前に髪留めをせずに
現れるとはそういうことだ。つまり僕はみっともない独り善がりを演じただけだったのだ。



  
20: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:36:41.41 ID:o+k2HACW0
  
(´・ω・`)「君、旅の人だったよね?」
ξ゚听)ξ「え? えぇ、そうですけど」
(´・ω・`)「主人、これも何かの縁だ。彼女に一晩の宿を貸してあげられないだろうか?」
ξ;゚听)ξ「え?」
(;^ω^)「え?」
ξ;゚听)ξ「そんな、私……それにまだ陽も明るいですし」
(´・ω・`)「ここから先、宿場はしばらく無いよ。それなら知り合いに似ていると言ってくれた彼らに
      宿を乞うのもまた良いだろうに。勿論、許可が下りればの話だが。主人、どうだろうか」

どうだろうかと言われても困る。さっきのような醜態を晒した直ぐ後に泊まらないかなどと言える
はずも無い。それにしぃだって居るのだ。そんなこと、許可できるわけが無い。



  
21: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 22:40:10.62 ID:o+k2HACW0
  
(;^ω^)「けれども、年頃の女性が見知らぬ家に、と言うのも……」
(*゚ー゚)「いいですよ」

何と言うことか。隣に居たしぃがまさかと思われる返事をした。

(*゚ー゚)「先ほどのご無礼のお詫びといってはなんですが、うちで良ければ幾らでも泊まって下さい」
(;^ω^)「し、しぃ……でも……」
(*゚ー゚)「良いじゃないですか。ショボンさんの言ったようにこれも何かの縁ですよ」
ξ;゚听)ξ「あの……その、でも本当にいいんですか?」
(*゚ー゚)「勿論。ねぇ、あなた?」
(;^ω^)「……お」
(´・ω・`)「良かった良かった。なに、私も少しとは言えど言葉を交わした人が道中倒れて
      しまってはなんとも気持ちが悪くて敵わんのですよ」

ははは、と笑いショボンはそのままどこかへと行ってしまった。

 そうしていつの間にやら僕の家に彼女が泊まることで決定してしまった。急にツンにそっくりな
女性が現れこれから何時間も同じ空間を共にしろとは、神様とやらが居るのならなんとも残酷な
御仁だ。それに何故しぃは彼女を泊めることに同意したのだろうか。まるでわからない。
僕はこれから先どうしたら良いのだろうか。



  
27: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:09:02.99 ID:o+k2HACW0
  

 あれから幾らか話を交わしてみて、彼女、デレのことが次第にわかってきた。

 話の出だしは彼女の母親が無類の酒好きと言うところから始まった。それならば一献、と僕は
酒を差し出したのだが、母親とは対照的に自分は全く呑めないとのことだった。
そんな母親が一月ほど前に倒れると彼女は先が長くないことを悟り、こうして各地の美味しい
酒を買っては母親の為に持ち帰っているそうだ。なんとも甲斐甲斐しいものだと僕は感心した。

ξ゚听)ξ「ですから、朝の早朝にはここを発つつもりですので」
(*゚ー゚)「じゃあ今日は早く寝なくちゃ。ねぇ、あなた」
(;^ω^)「み、みっともないお、しぃ」
(*゚ー゚)「冗談ですよ」

うふふ、と無邪気に笑うしぃの顔と、それを見ながらはにかんで顔を赤らめているデレの顔を
僕はチラチラと見比べていた。



  
28: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:13:01.38 ID:o+k2HACW0
  
ξ゚听)ξ「仲が良いんですね」
(*゚ー゚)「でもこの人、浮気性で苦労させられてるの」
ξ;゚听)ξ「え! こんなに綺麗な人が奥さんなのに!?」
(*゚ー゚)「やぁん、嬉しい! 今晩は奮発するわ!」

頬に手を当てくねくねするしぃを見ながら、僕はよくもこう早くに打ち解けられるもんだなぁと
思っていた。勿論それは他人だからと言うだけでなく、デレのその外見を考えての事だ。

ξ゚听)ξ「えぇと……ブーンさん、でしたよね?」
( ^ω^)「そうだお」
ξ゚听)ξ「しぃさんとの結婚の決め手って何でしたか?」
( ^ω^)「しぃとの結婚の決め手……かお」

 結婚の決め手。それはあまり美しくないものだった気がする。そうだ、僕は自分の為と言うより
しぃの為に結婚したと言う感じだった。いや、違うか。そう思っていること自体、それがしぃの為
だったと思っていること自体自己満足で、つまり僕は自分の為に結婚したのか。どうだろうか。
自分の為にした結婚は不埒だろうか。答えが出ず、僕は曖昧にはぐらかして答えた。



  
29: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:17:03.02 ID:o+k2HACW0
  
(*゚ー゚)「それじゃあそろそろご飯の支度をしますね」
ξ゚听)ξ「あ、私も手伝います」
(*゚ー゚)「いいのよ、お客さんはゆっくりしてて」
ξ゚听)ξ「でも……」
( ^ω^)「いや、明日長旅をする君に仕事はさせられないお」
ξ゚听)ξ「あ、その……」

デレが戸惑っている間にしぃは台所へと行ってしまった。立ち上がったままどうしたものかと
居心地を悪そうにしているデレを見て、思わず僕は噴出してしまう。

( ^ω^)「く……あはは」
ξ;゚听)ξ「え!? なんで笑ってるんですか?」
( ^ω^)「ごめんお。その、なんだか酷く滑稽に見えてしまって、すまないお。……あはは」
ξ;゚听)ξ「ちょっと、笑わないで下さいよ」

 どうやら彼女は思っていたよりもずっと中身は幼いようだった。そのお陰で僕もこうして打ち解ける
ことが出来たのだが。



  
30: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:21:35.99 ID:o+k2HACW0
  
( ^ω^)「ふむふむ、そうかお。なるほど。じゃあここらは人が多くてビックリしたのかお?」
ξ゚听)ξ「人だらけで……もう目が回りっぱなしでした。でも、面白い物も沢山あるし……」

 取り留めの無い話を交わしながら、僕は心の奥が暖かくなっていくのを感じていた。勿論彼女は
ツンではない。けれどもまるでこうして過ごしている時間があの時の様で、僕はそれだけで
嬉しくなってしまうのだ。

( ^ω^)「懐かしいお……」
ξ゚听)ξ「知り合いの方……ですか?」
( ^ω^)「お……昔よくこうやって話をしたんだお」
(*゚ー゚)「そうね、昔はこんなにちゃんとしたご飯じゃなかったけど」

そう言ってしぃは大きな鍋を持ってやって来た。蓋を開けて中を見てみると、色々な具が所狭しと
煮込まれた寄せ鍋だった。暖かい湯気がふわ、と顔面を包み、辺りに出汁のいい香りが広がる。



  
32: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:27:28.11 ID:o+k2HACW0
  
( ^ω^)「これはまた……いつも漬物しか出さないしぃにしては随分と豪華だお」
ξ;゚听)ξ「え!? そうなんですか?」
(*゚ー゚)「あなた、明日から本当にそうしましょうか?」
(;^ω^)「ごめんなさいお」

 そこで再び笑い声が上がった。あぁ、幸せとはこういうものなのだ。僕に何の権利があって
この幸せを壊すことが出来ようか。明日の朝には一度しぃに謝ろう。そしてこれからはもっと
しぃの事を考えて生きていこう。それがきっと僕の幸せだ。

(*゚ー゚)「それじゃあご飯注いで来ます」
ξ゚听)ξ「あ、それくらいなら私も」
(*゚ー゚)「それじゃあこのお鍋を皆に取り分けてくれる?」
ξ゚听)ξ「はい!」

 いそいそとお椀の中に肉やら野菜やらを注ぐデレは見ていて危なっかしいものがあったが、
それが却って微笑ましかった。

ξ゚听)ξ「どうぞ」
( ^ω^)「お、どうも」

だから、思いっきり指が入っていたのは言わないでおこう。熱くはなかったのだろうか。

ξ;゚听)ξ「……あっつい!」

そのあまりの鈍さに僕はまた噴出して、デレに怒られるのであった。



  
33: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:30:56.21 ID:o+k2HACW0
  
(*゚ー゚)「はい、あなた」
( ^ω^)「お」
(*゚ー゚)「はいデレちゃん」
ξ゚听)ξ「ありがとうございます」
(*゚ー゚)「あとは……何も忘れてないかしら?」

 しぃがあごに人差し指を添えて考え始めた。しぃにしては用心深いと言うか、食べながらでも
いいようなものを何故今考えているのだろうか。

( ^ω^)「まずは早く食べるお」
ξ゚听)ξ「そうしましょうよ」
(*゚ー゚)「そう?」
( ^ω^)「そうだお。それじゃあ頂きますお!」
ξ゚听)ξ「頂きます」

 先ほどから何ともいい香りがしていたその椀に僕はまっしぐらに手を伸ばし、箸を添えてその汁を
啜った。色々な出汁が溶け合い、口の中に広がり、ぼんやりと僕は幸福感に包まれた。



  
34: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:33:47.59 ID:o+k2HACW0
  
(*゚ー゚)「駄目!」

 そのもやもやとした幸福感の霧を一気に突き破るように、しぃの声が響いた。
ガシャン、と茶碗の割れる音がして僕は反射的にそちらを向く。そこにはあたりに飛び散った
ご飯と、それを呆然と見つめるデレの顔があった。

ξ゚听)ξ「え? その……」
(*゚ー゚)「あ……違うの……」
( ^ω^)「しぃ?」

 伸びたまま硬直しているしぃの手。デレの茶碗を叩き落としたのはしぃに違いなかった。
態々自分で注いでおきながら一体何故そんなことをする必要があるのか。しかし、しぃは
ただ狼狽えるばかりで何も説明が無い。



  
35: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:36:30.68 ID:o+k2HACW0
  
(*゚ー゚)「違うの……ごめんなさい。違うのよ……」
( ^ω^)「しぃ、落ち着くお。とりあえず、デレさん。申し訳ないけど破片を片付けてもらえますかお?」
ξ;゚听)ξ「は、はい」

僕は震えるしぃの肩を抱き、落ち着くようにと声を掛ける。すると、落ち着いたのかしぃがゆっくりと
こちらを向き、何事かを呟いた。

( ^ω^)「何? 聞こえないお」
(*゚ー゚)「ごめんなさい……あぁぁ」

そしてしぃは赤子の様に泣き出してしまった。

その後結局、鍋はその熱を失っても空になることは無かった。



  
36: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:40:31.85 ID:o+k2HACW0
  

ξ゚听)ξ「あの……」

奥の部屋にしぃを寝かせてきた僕に、困り顔のデレが静かに話しかけてきた。

ξ゚听)ξ「私、もう御暇させていただきます」
( ^ω^)「気にしないで下さいお。こんな夜更けに女性を追い出したとあればそれこそ近所の
      笑い者になってしまいますお」
ξ゚听)ξ「ですが……」

渋るデレに未だ片付けていなかった鍋やらを目配せして僕は苦笑いをした。

( ^ω^)「正直言うと一人じゃ片付け終りそうに無いですお」
ξ゚听)ξ「あ……はい、わかりました」

その言葉にデレはホッとしたような表情を浮かべ、僕達は改めて片付けを始めた。



  
38: ◆HGGslycgr6 :2006/12/29(金) 23:45:56.00 ID:o+k2HACW0
  
 それから暫く沈黙を何とかしようと色々話しては見るのだが、あまり盛り上がらなかった。
互いが互いを意識し、どうにも踏み込んだ会話がし辛くなっていたのだ。

     「失礼」

そんな空気を破るように突然玄関の方から声が聞こえてきた。夜更けだと言うのに一体誰だろうか、
そう思いながら僕は戸口へと向かった。

( ^ω^)「どちら様で……あなたは……」
(´・ω・`)「これは、夜分遅くに申し訳ないです」

戸を開けた先に居たのは、昼間の男だった。確か名前はショボンといっただろうか。
話なら昼間に全て話し終えただろうに、一体どうしたのだろうか。

( ^ω^)「何か忘れ物でもしましたかお?」
(´・ω・`)「いえ、あれから私なりに色々考えまして。したらば今すぐに伝えておいた方が良いと
      思うことが見つかりまして」
( ^ω^)「今すぐに……ですか」

 チラリと家の中に視線を送ると、短く唸り「外で話しましょう」とショボンに告げた。
ただでさえ弱っているしぃの近くであまり隠のことを話したくない気持ちがあったからだ。
 僕は一旦居間に戻りデレに出掛ける旨を伝えると、上着を羽織り、「しぃをよろしく頼む」と
付け加えて家を後にした。



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