ブーンが同窓会に呼ばれたようです

  
1: 愛のVIP戦士 :2007/02/22(木) 06:29:10.36 ID:EoWFPEJD0
  
母「なんかあんた宛に手紙来てるわよ、珍しいわね」
( ^ω^)「な、なんだお・・・・同窓会?」


【同窓会】
出席
欠席←

( ^ω^)<これでいいお



  
4: 愛のVIP戦士 :2007/02/22(木) 06:39:42.56 ID:EoWFPEJD0
  
数日後

ジリリリリリジリリリリリ

母「はい森永です、はい、はい、ちょっと待ってください・・・・ブーン!織田くんって子から電話よー」
( ^ω^)「なんだお?(織田?誰だお?)・・・・はいかわりました」
織田「おう、ブーン久しぶり」



  
6: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:50:05.22 ID:5a9jK/+a0
  




〜〜〜ここから乗っ取り〜〜〜




  
7: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:50:35.92 ID:5a9jK/+a0
  

( ^ω^)「おっおっ、久し振りかお……?」

織田「卒業式以来だよな、元気にしてたか?」

( ^ω^)「おっ……元気っちゃあ元気だお」

 僕は電話のコードを、指でいじりながら答えた。
それはくるくると、ウィンナーみたいな指先に絡みつく。
カーチャンが玄関の扉を閉めて出て行った。
パート行ってくるね、と明るい声を残して。

織田「なんだよ、その曖昧な返事は」

( ^ω^)「なんでもないお。……織田君、かお?」

 誰だ、一体。
僕は織田なんていう名前のクラスメイトは知らない。
そして、僕はクラスメイトにブーンとは呼ばれていない。



 僕は名前すら呼ばれていなかったのだから。



  
10: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:51:58.82 ID:5a9jK/+a0
  

織田「そう、織田博之」

( ^ω^)「知らないお、ひと間違いじゃないですかお?」

織田「冷たいことを言うんだな。
   俺は入学式の時から、ブーンのことを知ってるんだぜ」

 絡めていた電話のコードが、不意に締まったような気がした。
指先が冷える。廊下で立ち話してるせいだ、きっと。

( ^ω^)「……なん、で僕のことをブーンって呼ぶんだお」

織田「それがお前の名前だからじゃないか」

 当然だろ、とでも言うような口調に僕は苛々した。
入学式から?僕を知っている?
知っているなら尚更、僕のことを名前で呼んだりはしない。

(#^ω^)「つまらん冗談は止めるお、電話切るお!」

織田「切らないでくれよ。話があるんだ。
   同窓会のハガキ、届いただろ?」

( ^ω^)「……届いたお、それが何だお」

 欠席にまるを付けたまま、投函していないから
きっとまだ家のどこかにある筈だ。



  
14: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:53:54.97 ID:5a9jK/+a0
  

織田「それ、俺が出したんだよ。
   出席してくれるよな、今夜やるんだ」

( ^ω^)「一方的過ぎるお。それに僕は会いたいヤツなんていないお」

 殺したいほど憎んで怨み足りない人間しか。

 卒業してから親が離婚し、僕は内藤から森永へと変わった。
辛い思い出ばかりの地から離れたのに。
どうして、今更。

織田「みんなブーンに会いたいって言ってるぜ」

 その言葉に頭の中で何かがプツン、と切れたような気がした。

(  ω )「嘘言ってんじゃねぇおおぉおおおッッ!!!!」

 その言葉に受話器を強く握り締めて叫んだ。
身体中から怒りが溢れ出して、指や耳や顔が真っ赤に弾け飛びそうになる。



  
15: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:55:13.84 ID:5a9jK/+a0
  

(  ω )「僕のこと知ってるんだお!? いじめられてたこと知ってるんだおおッ!?
       だったら僕が行かないのも判るだろぉおおお!!!」

 今まで出したことがない怒声を、受話器に向かって吐きだした。
どんなに卑劣ないじめをされても、一切表現しなかった僕が。

織田「ちゃんと言えるんじゃないか、嫌だって」

 息を荒げる僕の耳に、落ち着いた声が滑り込む。

織田「女子トイレに押し込まれた時も
   裸でプールに突き落とされた時も
   机ごと運動場に捨てられた時も」

(  ω )「やめ……るお、それ以上言うなお…………」

 受話器を離せば良いのに、張り付いたように離れない。
織田の声が脳に直接響いている気がする。

織田「彫刻刀で腕を彫られた時も
   鉛筆削りに指を入れさせられた時も
   教室でオナニーさせられた時だって
   なんにも言わなかったのにな」

(  ω )「黙れおぉおオおおおぉお――――ッッ!!!!!!」



  
16: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:55:46.26 ID:5a9jK/+a0
  

(  ω )「僕は忘れようとしてたんだお!
      それなのにッ、どうしてお前は掘り起こすんだお!!
      放っといてくれお! 僕のことを見て見ぬフリしてたんだお!?
      ○○や××が怖くて、僕のことを放っておいたくせにおおおおおッ!!」

 忘れたくても忘れられない。
だからせめて思い出さないように、精一杯努めて生きてきたのに。

(  ω )「お前誰なンだおォオおおおおゥおオお!!?」

 声がふるえて発音がおかしくなる。
怒りなのか恐怖なのか憎しみなのか狂いそうなのか。
腹の底からあらん限りの咆吼をあげた後、受話器の向こうで声がした。

織田「俺、ブーンの怨みを晴らしてやろうと思ってさ」

 ずっと変わらない落ち着いた、冷静な口調。



  
17: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:56:39.31 ID:5a9jK/+a0
  

織田「見てるだけしか、出来なかったから。
   いや、触れることすら出来なかったな」

(  ω )「……何を、言ってるんだお」

 怨みを晴らす?
熱を帯びている頭に、その言葉は上手く溶け込まない。
思考が麻痺しそうな僕を置いて、織田はさらさらと続けた。

織田「校舎の裏に埋められた時、言ってたじゃないか。
   あいつらを殺してやりたい、って」

(  ω )「どうし、て……知ってるんだお……」

 体育の時間に首まで埋められて、翌朝になるまで放っておかれた。
○○と××達が去ったあと、僕が無心に呟き繰り返していた言葉。
どうしてそれを、知っているんだ。

織田「知ってるって言っただろ、ブーンのことを。
   それを聞いて、俺は奴等に仕返しをしてやろうと思ったんだ。
   ちゃんと、意思があったんだと判ったから」



  
18: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:58:08.07 ID:5a9jK/+a0
  

 周りに誰も居ないことを確認してから、僕は呪詛を唱えた筈。
誰もいなかった。誰も。
僕に近付いてきてたのは、無数の蟻と毒々しい蛾だけだった。

 受話器を当て続けていた耳が痛い。
思わぬ言葉たちに僕は正しい呼吸を取り戻し、
手のひらや背中が汗ばんでいることに気が付いた。

( ^ω^)「……一体、誰なんだお」

 先程までの勢いは何処へ行ったのか。不意に背中が薄ら寒くなる。
名前も声も聞き覚えのない相手に、僕は遅い恐怖を感じ始めた。
いじめの状況を把握しているだけならまだしも――

( ^ω^)「あの時、僕の周りに人は居なかったお。
       それなのに、なんで殺したいって言ったこと知ってるんだお……」

 訪れる沈黙。
受話器を片方の耳へと移動させて、汗を拭う。
指先に絡みついたままだったコードを解こうとした時に
受話器から何かが、聞こえた。



  
19: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:58:47.36 ID:5a9jK/+a0
  

( ^ω^)「お……?」

 相手の息遣いではない、
もっと低くて喉の奥から絞り出すような、声……?
上手く聞き取れなくて、僕は受話器に耳を寄せる。

織田「ブーンが早く来ないから、起きてしまったじゃないか」

 起きてしまった?……何が?

 僕の質問には答えず、突拍子のない言葉を残された。
ごとり、と受話器を堅い何かの上に置いたらしい音。
続いて微かに聞こえていた声らしき音が、突然大きく溢れ出す。

「ギャアアァアァアッァァア痛い痛いよォオオ!!!」

「ごめんなさイごめンなサぁあアぁいイぃああアァあアあッッ」

(;^ω^)「――――え、ぁ、ひィッ……!!?」

 もう片耳へと鋭く貫いてしまうほどの悲鳴に
僕は思わず受話器を放り投げて尻餅をつく。
壁に当たったが、通話は途切れずに小さな穴から高い音が漏れている。



  
20: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 15:59:29.19 ID:5a9jK/+a0
  

 なに。何、なんの、誰のだれだれ誰の、声……!
電話機から伸びるコード、その先で揺れる受話器。
悪戯にしては、悪趣味すぎる。
ハガキにしろ、電話の内容だって、今の悲鳴だって
まるで。

(;^ω^)「……まさか、本物じゃない、お、ね……?」

 まさか、ね。
自分へ言い聞かせるようにして呟いた声はか細い。
僕はぶらぶらと揺れる受話器を見ていられなくなり、
立ち上がろうと廊下に手を付いた。
指先に触れる何か。素早く手を引いて僕は身構えをする。

(;^ω^)「おっ、あ……ハガキかお、ビビらせんじゃねーお……」

 恐る恐る横目で確認すると、数日前に届いた同窓会のハガキだった。
何処かへ行ったものだと思っていたのだが。
そっと腕を伸ばして、ハガキを拾い上げる。
宛名は『ブーン様』と書かれてあった。



  
21: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:00:20.11 ID:5a9jK/+a0
  

( ^ω^)「差出人名は……書いてないのかお」

 織田博之、と言ったか。
差出人名は書かれていない。ミミズが這ったような筆跡。
何気なく裏返してみる。確か『欠席』にまるを付けたままだった――

( ^ω^)「…………え」

 僕は確かにまるを付けた。
ボールペンで何度も何度もなぞって塗り潰すぐらいに。



  
22: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:00:51.97 ID:5a9jK/+a0
  





  , -―――‐-、
 (  出 席   ) 
  `‐-------‐'´

  ■▲■●■▲●





 欠席の文字は無く、ただひとつ『出席』の文字が
どす黒い赤で何重にも囲まれていた。
何度も、何度も僕が『欠席』に付けたように。



  
23: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:01:48.55 ID:5a9jK/+a0
  

( ;^ω^)「な、何なんだお……ッ!!?
      気持ち悪いお、怖いお、嫌だお!!」

 容赦なくふるえる指先で摘んでいたハガキを、
ひと思いに握り潰そうとした時に赤色が滲み始めた。
縁取っていた赤は徐々に盛り上がりを見せ、
ぷっくりとした水泡を幾つも作っては割れて、ハガキから雫が落ちる。

「ご、グェッゲぎャナあサぁあアギギィいいイィいッ!!」

 受話器がぶらんぶらんと揺れながら、悲鳴を紡ぎ出した瞬間に
薄っぺらい紙面から一気に赤が勢いよく噴き出した。

 目の前が、僕の顔が、手が、身体が、
 壁が、廊下が、電話が、鮮血を浴びたように染まる。

( ゚ ω゚ )「――――――」



  
24: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:02:31.44 ID:5a9jK/+a0
  

 前髪から赤い液体がぽたぽたと落ちて、目の中に入る。
顔に飛び散ったそれは、生臭くてひどく鉄の臭いがした。
僕は吐き気を堪えきれずに、両手で口を覆う。
とてもぬるぬるしていて、吐瀉物が指の間からすり抜けた。

( ;ω;)「う゛ぉえッ、げッエえうぇゲぼッ」

 足元に広がっていくのは、
透明度の無い淀んだ赤い水と、僕の胃酸と昼間に食べたラーメンの残骸。
止みそうにない嗚咽感。恐ろしくてこぼれる赤い涙。
僕はそこに崩れて、吐き続けて痛む喉を押さえる。

( ;ω;)「はぁッ、はあッ、はッはッ……!
      もうやだお、やだおやだお死ねお織田死ねお!!
      なんで僕がこんな目に遭わなくちゃならないんだおッ!?
      何が怨みを晴らしてやる、だお! ふざけんなおぉお!!」



  
25: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:03:11.46 ID:5a9jK/+a0
  

織田「死ね? ふざけんな?」

 横たえた僕の頭上で受話器が左右に揺れている。
断続的に聞こえていた悲鳴に替わって、あの落ち着いた声が聞こえてきた。

織田「折角、怨みを晴らしてあげてたのに?
   ○○の血液シャワーは、お気に召さなかったのかな」

 認めたくなかった。
僕だって馬鹿じゃない。薄々勘付いていた。
でも、常識的に考えてこんな事は有り得ないから
認めるつもりはなかった、のに。

 通話口から赤いそれと一緒に、細かい破片が溢れ出る。
白くて、脂っぽくて、中には毛束が付いたのもあって。
全部あの小さな穴からぼちゃぼちゃと吐き出され、僕の顔を埋めていこうとする。

( ;ω;)「ひッ、ヒ、ひィやぁァアああッッ!!
      止めるおォオおオおお! ぶぇップ、ヴォげぇえ!!」



  
26: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:04:50.10 ID:5a9jK/+a0
  

織田「××はブーンにやらせてあげようと思ったんだけど、ね。
   気が変わった。死ねって誰に言ってんの? ねぇ、俺?」

 声色がふっと変化したのを、僕は聞き逃さなかった。
予期せぬことで誰かの機嫌を損ねた時の、あの空気が張り詰める感じ。
いじめられて学習した筈だった、僕の防衛本能は錆び付いていた。

織田「ブーンとは友達になれると思ったのに。
   お前も俺をいじめてた奴と一緒だ、俺に死ねって言った」

 だから俺は死んでやったのさ。
眼前に広がる景色よりもずっと爽やかな声が、頭に響いた。
耳にはもう固まりつつある血液と、○○の細切れで詰まっている。

 口答えをすると、ひどいことになる、と。
昔の僕が囁いた。
現状よりもひどいことが、この世にあるのか?
今の僕が嗚咽と胃液に塗れて呟いた。



  
27: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:06:04.95 ID:5a9jK/+a0
  

織田「学校の教室で首を吊ってやった。
   死んでからは暫くそこから動けないで退屈だったよ。
   何度目かの入学式で、お前を見付けた。
   俺と似てたんだよね雰囲気が、そしたら案の定いじめられっこだった」

 ぎち、ぎち、ぎぢぢぢぢぢィ。
吐く気力さえも失った僕の頭上で、
織田の声と折り重なって奇妙な音が聞こえ始めた。

( ;ω;)「ぐ、おぉおッ……!」

 人間の中身と腐敗臭で満たされた廊下。
ぐったりと重たい身体を壁際まで、ゆっくりゆっくりと移動させる。
とてつもなく、嫌な予感が胸をかすめたから。

織田「どんな酷いことされても、文句のひとつも言わないから
   生粋のマゾなのかと思ってたけど、埋められた時に呟いた言葉。
   あれを聞いてね、ああ俺と同じで苦しんでるんだって思った。
   …………でもさあぁあアアァアアアアア!!!?!」

 不意に甲高い声を上げたかと思えば、
受話器の通話口が凄い音を立てて吹き飛んだ。
それは僕の頬を霞めて壁へと突き刺さる。



  
29: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:07:04.99 ID:5a9jK/+a0
  

織田「ねぇ、ねぇねぇえねえええええッッ!
   なんで俺に死ねって言うの!? 俺はお前と同じなんだよッ!?
   だから○○と××とお前を見放してた奴等を集めてさぁあアア
   盛大に殺しちゃおうと思ったンだよ!! 俺と、お前でッッ!!」

( ;ω;)「――――、ぐァッ!!」

 突如、狭い通話口から腕が撓るように伸びてきて僕の首を掴んだ。
嫌な予感はしていたものの、それを回避出来るかどうかは別問題で。
痛んだ喉を押さえつけられ、僕は必死にその腕を引き剥がそうとした。

( ;ω;)「ふゥ――ッ、!?」

 掴めない。指先も手首も腕も、何処も掴めない。
通話口から伸びた腕は真っ赤に染まり、皮膚が所々爛れて腐っている。
更なる異臭が僕の鼻を突き抜いて、両手は空を切るばかりだ。



  
31: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:13:24.29 ID:5a9jK/+a0
  

織田「でももォいいやあああァあッハッはッはっははは!!
   同窓会来いよブーン! 嘘、来ンな!! ××も俺が殺すから!
   俺を馬鹿にする奴は死ね! 死ね死ね!! 死んでしまえッッ!!」

 卒業式以来聞かなかった嘲笑、罵声、気狂い。
酸素が枯渇しているのか、頭が白くぼやけている中で
僕は入学から卒業までのことを思い返していた。

 そしてそれを、僕の首を絞める腕の主が
三年間も『同じ仲間』として眺め続けていたのかと思うと。
 
( ;ω;)「…………ご、め……
      死ね、言……って、……ごめな……さ……」

 僕はずっとひとりだと思っていた。
クラスメイトも先生も助けてくれず、親にも言えないで本当にひとりぼっちだと思っていた。
朝なんて来なければいい。
布団の中で何度も祈ったけれど、毎日朝は訪れて。

織田「○○もずっと言ってたよ、ごめんなさいってねぇえェえ!!
   今更だろッ、謝って済むと思ってるらしィよ!
   単純だねええ馬鹿だねぇえェえッッ!!」



  
32: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:16:00.32 ID:5a9jK/+a0
  




 死ねって言われた。
 死ねって書かれた。
 死ねって思われた。
 死ねって願われ続けた。
 

 言葉だけで簡単に人が傷付くことを、僕は知っていたのに。




  
33: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:20:45.19 ID:5a9jK/+a0
  

( ;ω;)「……ッく、ゥ……
      なん、で……死んじゃッ、たんだ、お…………
      僕、は……ァ、……」


 僕は、もしかしたら。
 君と。


織田「なんでッて!? そりゃ死んだ方がラクになれると思ったから!
   生きてて良いことがあるのか?
   いいやないね、いじめられっこは何処へ行っても同じ扱いしかされない。
   お前が良い例だろブーンちゃんよォおオオ!!!」

 高らかな笑い声と共に、僕の首が一気に絞められる。
喉仏を押さえ込まれ、酸素を求めて
空中を泳いでいた腕が電話機に当たった。
それはがしゃんと不格好な音を立て、台から落ちると足許に転がった。



  
34: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:23:27.96 ID:5a9jK/+a0
  

( ;ω;)「ひゅ、…………
      ぼ、くだ、ッて、……死にた、い……と……
      思、た…………お、……で、も……ッ」

 痺れ始めた僕の腕。
首を絞められるぐらい、日常茶飯事だっただろ。
今にも飛びそうな意識を奮い立たせ、
血の気を失いつつある指先を少しずつ動かした。
動け、動いてくれ、僕の指。

織田「でも死ぬ勇気がなかった! 俺は死ぬ勇気を持っていた!
   なあッ、そうだろ、そうなんだよォおォオオ!!」

 真っ黒に染まった爪が首に容赦無く食い込む。
こんなにも細い腕で、織田は滅茶苦茶に喚き散らして更に力をこめる。
 死ねしね、しね死ねシねしネシネシネシネシネシネ。
織田の奇妙に歪み潰れた声が、僕を取り巻くように聞こえている。



  
35: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:26:17.14 ID:5a9jK/+a0
  

 三年間どんなに辛くても、歯を食いしばって耐え抜いた強さを持っていた。
織田とは違う強さを、僕は持っているって自分で自分を信じて、いるから。
あの三年間と共に忘れさろうとしていたことを、はっきりと思い出して。


( ;ω;)「――――……そン、なのは、勇気じゃ、ないお!
     僕が死ななかったのは、負けたくなかったからだお!!
     自ら死ぬことが勇気なんじゃねぇおッ、生きることが勇気なんだおおおお――ッ!!」

 涙も鼻水もぼろぼろに溢しながら、僕は雄叫びのように吠えた。
なんで泣いているのか判らない。 哀しいのか苦しいのか切ないのか。
涙が止まらない。
首から入り込むこの複雑な感情。
眼球が水中に浸かっているように、視界がゆらめく。赤く、白く、黄色く。

 僕の首を圧迫していた腕が、すこしだけ弱まった。
朦朧とする頭から殆ど無意識に指令が発せられる。
冷たく、真っ赤に塗られた白い指先を、電話機のフックに掛けた。

( ;ω;)「はッァ、がハッ、げほ、……さ、よなら、だ、お…………ッ!!」


 最初で最後の、希望を乗せて―――



  
36: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:27:00.96 ID:5a9jK/+a0
  

( ^ω^)「……出来れば二度と来たくなかったお」

 僕はマフラーに顔を半分埋めて、校門の前で佇んだ。
冷たい風に吹かれ、提げているビニル袋がかさかさ鳴った。
夕暮れを背中に受けて、影が真っ直ぐに伸びている。

( ^ω^)「…………」

 来客用のインターフォンを押し、
卒業生であることを告げると、校内へ入ることを許された。
緑色のスリッパを鳴らして、冷えた廊下を歩く。
こうやって堂々と真ん中を歩くのは初めてで、少し気持ちが良かった。

( ^ω^)「……ここ、かお」

 1年C組と高い位置に掲げられている。
一応お邪魔します、と断ってから教室に足を踏み入れた。
壁に張られた時間割。きちんと並べられた机。
夕陽を通して薄く橙色になったカーテン。



  
37: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:27:51.31 ID:5a9jK/+a0
  

 僕は教室の隅にある水槽の横に、
手に提げていたビニル袋から、鉢植えを取り出して置いた。

( ^ω^)「亀さん、隣に置かせて貰いますお」

 澄んだ水の中でゆったりと泳ぐ亀に一言告げ、
僕は教室の天井へと視線を上げた。

( ^ω^)「……織田君がここにいるのかどうか、判らないお。
      でも、僕はきちんと謝りたかったんだお。
      死ねって言ってごめんなさいお……
      痛みを僕は知ってたのに、本当に悪かったお」

 両手を合わせて、僕は教室の中心に向かって頭を下げた。

( ^ω^)「あと、……織田君に花を買って来たお。
      気に入って貰えたら嬉しいお。
      ここの生徒さんに水をあげるよう、先生に言付けておくおね」

 僕はさっき置いた鉢植えを指差した。
花屋のお姉さんに選んで貰った、鮮やかな赤が美しいゼラニウム。
花言葉は「慰め」「真の友情」なのだと、お姉さんはやさしく言ってくれた。



  
38: 愛のVIP戦士 :2007/02/26(月) 16:29:34.42 ID:5a9jK/+a0
  

( ^ω^)「……いつか。僕もそっちへ行ったら、一緒にぷよぷよして遊ぶお!」

 親指を立てて、僕はにぃっと大きく笑った。
間抜け面だと散々笑われてきた、笑顔。
いま、胸を張って堂々と笑えることが出来るようになった。
自分が持っている強さと、勇気を。思い出すことが出来たから。

 何処からか風が吹いて、カーテンを揺らす。
その向こうに人影が見えたような気がして、僕は目をこらしたけれど。
そこには何もなくて。
運動場から野球部らしい声が、聞こえてくるだけだった。

( ^ω^)「……織田君。
      僕たちは友達、だお」

 マフラーで覆われた、指先の痕を辿って呟く。
夕暮れ差し込む教室で、僕はしばらく佇んでいた。
いつまで経っても、あの電話で聞いた声は聞こえてこなかった。



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