ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:10:23.76 ID:qQ9Xjx1t0
第二部 第五話『血着! 〜ドス女VSハインリッヒ 前編〜』

〜前回までのあらすじ〜

初心者でも分かるヤンデレレベル表

レベル0
他の人に比べて少しヤキモチな程度です。
男が他の女性と楽しそうに話しているのを見て、
少し不機嫌になったり怒ったりしますが、
それ以上に発展することは決してありません。

ノパ听)「もう! お兄ちゃんたらまた鼻の下のばして!」
ノパ听)「そりゃ私はあの人みたいにおっぱい大きくはないけどさあ!」



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:11:38.45 ID:qQ9Xjx1t0
レベル1
ヤキモチを超えて嫉妬深いと言った方が適切な域です。
恋愛感情を抱いている対象が他の女性と関わることを極端に嫌い、
場合によっては露骨に嫌悪の情を見せることもありますが、
まだ正常な判断が出切るだけの理性は充分に残っており、
犯罪行為に手を染めるようなことはありません。
ですが、確実に危険信号は点灯し始めています。

ノパ听)「お兄ちゃん、またあの女と楽しそうにおしゃべりしてる!」
ノパ听)「なんであなたがお兄ちゃんと馴れ馴れしくするのよ!」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:13:39.00 ID:qQ9Xjx1t0
レベル2
この辺りからヤバい状態になってきます。
恋愛対象が自分の望む行動を取らなければそれだけで不満を持ち、
そのことに対する怒りを物理的、精神的な形で他人に八つ当たりすることにも躊躇わなくなります。
携帯電話の内容も勝手に覗きます。
また自分にとって邪魔になる存在を排除する為に、
警察沙汰にならない程度の実力行使も行います。
ですが他人にバレる怖れがなければ、法律違反を犯すことにも躊躇しません。

ノパ听)「私からお兄ちゃんを奪わないで!」
ノパ听)「あの女…… お兄ちゃんをたぶらかして……!
    絶対に許さない!!」



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:14:45.44 ID:qQ9Xjx1t0
レベル3
かなり危険な状態です。
恋愛対象は自分のものであるという自意識が肥大し、
恋愛対象の行動を自分でコントロールすることを望み始めます。
その為には手段を選びません。
自分と恋愛対象との閉じた世界が自身の全てと錯覚し、
それ以外の者との共感性が極めて稀薄になります。
当然人の痛みなど判る筈もなく、
他者を排除する際の実力行使も過激なものとなります。
恋愛対象者の携帯に何十件も着信が入り始めるのもこの頃です。

ノパ听)「あんたなんか死んじゃえばいいんだ!」
ノパ听)「お兄ちゃんは私のものなの!
    私だけのものなの!!」



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:15:37.74 ID:qQ9Xjx1t0
レベル4
精神の異常や障害が顕著に出始めます。
自分と恋愛対象者以外のものは一切視界に入らず、考慮にも入れません。
恋愛対象者に自分が愛されることが全てであり、
その妨げとなる者を排除する為ならば殺人すら厭わないでしょう。
現実世界など既に眼中にはなく、閉鎖した自分の中の論理にのみ従って行動する為、
外部からの説得は全く意味を成しません。
恋愛対象者の愛を得るという目的が手段と化してしまっており、
恋愛対象者が怖れをなして逃げ出そうものなら地の果てまでも追いかけてきます。
空の鍋をおたまでかき混ぜたりもします。
お兄ちゃんどいてそいつころry

ノパ听)「お姉ちゃんが、お姉ちゃんがいなくなればお兄ちゃんは私だけを見てくれるんだ!!」
ノパ听)「お兄ちゃんどうして逃げるの?
    やっと邪魔な奴らは全部いなくなったんだよ……?」



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:16:44.56 ID:qQ9Xjx1t0
レベル5
最早完全に理性は破綻してしまっており、正常な反応など望むべくもありません。
恋愛対象は自分を満たすだけのものと成り果てている為、
自分を愛しているかどうかなどすら既に問題ではなくなっています。
というかもう自分の欲望を満たすことしか頭の中になく、
他者の存在など彼女の世界にはありません。
恋愛対象の全てを自分の管理下に置くことを至上の目的とし、
非倫理的な行為も当然のように行います。
その中には、恋愛対象の命を奪うことすら含まれています。

ノパ听)「おいしいよねだって……
    大好きなお姉ちゃんのお肉だもんねええええええええ!!!」
ノパ听)「お兄ちゃんどうして私を怒らせるようなことするのかな?
    腕一本なくなんなきゃわからないのかな?」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:17:27.54 ID:qQ9Xjx1t0


         * 以下、何事も無かったかのように再開 *


――自分とセントジョーンズとの出会いは、もう数百年も前のことになる。
あの時、自分は孤独だった。


「あれが『痛みの銀』か」

「その魔性故、部族を追放されたはぐれ者という話だ」

「あれと関わり合いになるな。
 厄災に巻き込まれるぞ」


強過ぎる自分の力は、確実に母親の命を蝕んでいた。
結果、母は自分を産んですぐ、子供の姿を見る間も無く息絶えた。

そして、
そんな異端の存在を――
群れの秩序が、認めるわけがない。

物心すらつかないうちに、群れから追放され、
そしてそんな烙印を押された者を受け入れてくれる所など、ある筈もなかった。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:17:53.44 ID:qQ9Xjx1t0
一人ぼっちでも、平気だ。
ずっと、そう思ってきた。
そう思わなければ、心が押しつぶされそうだったから。

強がっていることを悟られないようにと、
近付く者全てを拒み、傷つけてきた。
それが、余計に孤独になるだけだと判っていながら。

一人ぼっちでも大丈夫。
ずっと、そう思っていた。

一人ぼっちでも大丈夫。
ずっとそう思い込んでき続けた。


('e')「君がここらで暴れまわっているという『銀獣』かい?」

('e')「ああ、そんなに警戒しないでくれ。
    私の名はセントジョーンズ。 君と同じ、異形の者だ」


――セントジョーンズと出会ったのは、そんな時だった。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:18:29.76 ID:qQ9Xjx1t0

                   ・

                   ・

                   ・

闇の支配する森の中――
二人の女が向かい合っていた。

一人は刀を、もう一人は金属バットを携え。
極限に張り詰めた空気の中、風の音だけが周囲に流れる。

从 ゚∀从「やっぱり残ったのは手前だったか」
沈黙を破ったのはハインリッヒの方だった。

イ从゚ ー゚ノi、「やっぱり、じゃと?」
ハインリッヒの言葉に、銀が怪訝な表情を浮かべた。

やっぱり?
こいつは、自分がここに残るということが判っていたとでもいうのか?

从 ゚∀从「ああ。 セントジョーンズが言ってたぜ。
      俺を足止めするのはお前だろう、ってな」
イ从゚ ー゚ノi、「…………!」
銀は唇を噛んだ。

セントジョーンズ……!
全て、お見通しだとでもいうつもりなのか……!



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:19:27.80 ID:qQ9Xjx1t0
イ从゚ ー゚ノi、「……あいつが何を言おうと知ったことか。
       武器を捨てて、去ね。 さもなくば、殺す」
日本刀の切っ先をハインリッヒに向けて、銀が凄んだ。

从 ゚∀从「――ああ、そういやセントジョーンズは、こうも言っていたな。
      お前がここに残るのは、自分と同類だからだ、ってな」
しかし、銀の言葉には全くお構い無しにハインリッヒは言葉を続けた。

イ从゚ ー゚ノi、「黙れ……! 儂と、あんな奴とを一緒にするな!」
吐き捨てるように、銀は言った。

認められる筈などなかった。
自分と、あのセントジョーンズとが同類などと。
だって、あいつは――



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:19:55.81 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「本当にそう言い切れるのかなぁ?」
ハインリッヒは舐め回すような視線を銀に向けた。

从 ゚∀从「なあ、結局のところ、お前は何の為に闘ってんだよ」
ハインリッヒが銀にそう問いかけた。

从 ゚∀从「自分の為か? 正義の為か? それとも恨み辛みか?
      言ってみりゃ、お前は今回の怪人騒動とは直接的には何の関係も無かった筈なんだ。
      にもかかわらず、お前は今こうして命をかけて闘っている。
      それはどうしてだ?
      何が、お前をそこまで動かしているんだ?」
イ从゚ ー゚ノi、「……! 儂は――――!」
そこで、銀は言葉を詰まらせた。

闘う理由――
それは、今まで意識して目を向けようとしなかったこと。

ドクオは自分の信じる『正義』の為、
ロマネスクは奴の信じる『悪』の為、
それこそJOWや神威師団の連中にだって、
それぞれに何か大切な理由があって闘っているのだろう。

――だが、自分はどうなのだ?
何か大層な理由や目的があって、今まで闘ってきたわけではない。
だったら、自分はどうして……



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:20:36.17 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「答えられねえなら代わりに答えてやろうか?
      退屈だからだろ?」
断言するように、ハインリッヒは言い放った。

イ从゚ ー゚ノi、「違――!」
言い返せなかった。
違うと、言い返せなかった。

从 ゚∀从「何でも出切る強靭な肉体、永遠に続く生、
      そんなもんがありゃ、その使い道にも困るだろうなあ。
      もう、何をやってもつまんねえんだろ?
      暇潰しの手段を思いつかかねえんだろ?
      だから生き死にを懸けた闘いに身を投げ出す。
      それぐらいしか、もう面白いことがねえんだろ?」
イ从゚ ー゚ノi、「黙れ! 違う!
       儂は、違う! そんなものの為などに、闘っていない!!」
本当に?
  本当に?
    本当に?



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:21:03.58 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「いいや、違わないね。
      オレもお前もセントジョーンズも――詰まる所同じ穴の狢なのさ。
      殺したり殺されたり――そんなイカレたことでもやってなきゃ、
      退屈で死にそうなのさ」
ハインリッヒはそう言ってニヤリと笑い――
从 ゚∀从「正直に言っちまえよ。
      殺し合いをしてる時、濡れてんだろ?」
そう、銀に告げた。

イ从゚ ー゚ノi、「貴様ァァァァァァァァァァァァァァァ!!」
その言葉が、銀の理性を断ち切る引鉄となった。

大地を蹴り、弾け飛ぶ様に銀がハインリッヒに突進する。
そのまま横薙ぎの一閃がハインリッヒの首筋を襲い――



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:22:05.37 ID:qQ9Xjx1t0
イ从゚ ー゚ノi、「!!?」
突っ込んでいったのと同じ速度で、銀の体は逆方向に吹っ飛んだ。

ハインリッヒは銀に指一本触れてすらいない。
なのに、銀は後ろに吹き飛ばされたのだ。

イ从゚ ー゚ノi、「くッ!」
地面に激突する瞬間、体勢を立て直して受身を取った。

今のは!?
パワーでもスピードでもテクニックでもない。
そんなレベルの問題では決して無い。

つまりはこれが、
ロマネスクの言っていたハインリッヒの異能ということか……!

从 ゚∀从「ロマネスクから聞いてんだろ?
      オレの能力の前じゃ、単純な物理攻撃は役に立たねえんだよ」
勝ち誇ったかのように、ハインリッヒが言う。
その両手はだらりと下がったまま、構えを取ろうともしない。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:22:37.85 ID:qQ9Xjx1t0
イ从゚ ー゚ノi、「チィッ!」
しかし、銀は怯まなかった。
刀を構えなおし、再び一直線にハインリッヒへと突っ込む。

イ从゚ ー゚ノi、「るおおォッ!」
大上段から刀を振り下ろすと見せかけ――
ハインリッヒの眼前で跳躍し、そのまま直上から降下しながら斬り下ろした。
が――

从 ゚∀从「無駄だって言ってんだろ?」
またしても、結果は同じだった。

ハインリッヒに触れることすら出来ず、
真っ直ぐ降下していた筈の銀の体が
落ちてきた速度そのままで真横に吹っ飛ぶ。

いや、吹っ飛んだ、と言うのは少し間違っている。
落下する方向を無理矢理変えられたのだ。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:23:21.48 ID:qQ9Xjx1t0
イ从゚ ー゚ノi、「…………!」
足から着地し、すぐさま立ち上がる。
が、さっきまでそこにいた筈のハインリッヒの姿が見当たらない。

イ从゚ ー゚ノi、「どこに――」
从 ゚∀从「こっちだよ」
銀の背後からハインリッヒの声。
振り向くと、ハインリッヒがバットを振りかぶり、
今にも銀目掛けて叩きつけようとしている。

イ从゚ ー゚ノi、「チッ!!」
すぐさま右横に跳び、その一撃をかわそうとする。
が――



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:23:54.29 ID:qQ9Xjx1t0
イ从゚ ー゚ノi、「なッ!!?」
右に跳んだ筈の銀の体がトランポリンのように空中で方向変換し、
元居た場所へと戻ってくる。
待ち受けるハインリッヒのように、自分から突っ込んでいくかのように。

斥力による運動ベクトルの操作。
それにより、銀の体を強制的にハインリッヒのバットの当たる場所へと引き戻したのだ。

从 ゚∀从「間抜けが!
      俺の能力が、相手からの攻撃を回避するだけだと思ったか!!」
ハインリッヒのバットが唸りを上げ、銀の胴体に突き刺さり、
その勢いのままハインリッヒはバットを思い切り振り抜いた。

イ从゚ ー゚ノi、「がはッ!!!」
メキリメキリ、と肋骨が砕ける音が響き、
銀はホームランボールの様に吹っ飛ばされていった。



31: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:24:52.03 ID:qQ9Xjx1t0

                         ・

                         ・

                         ・

イ从゚ ー゚ノi、「……で、儂を山から下ろして、何をさせるつもりじゃ?」
銀は不機嫌そうに顔をしかめた。

セントジョーンズという男は、
銀と出会ってからずっとつきまとってきた。

何度銀が追い返しても、その度にもう一度やってきては、
しきりに「自分と一緒に山を下りてみないか」と言って来る。

痛い目に遭わせようともしてはみたが、
瞬間移動のような能力で逃げられ悉く失敗に終わった。

そして何度目かの勧誘の末、
とうとう銀は根負けしてこの不可思議な男についていくことにしたのだ。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:25:13.69 ID:qQ9Xjx1t0
('e')「ちょっと手を貸して貰いたいことがあってね。
   何、すぐ終わるさ」
飄々と、セントジョーンズが告げる。

この男、何度か話してはいるがどうにも掴みどころが無い。
まるで、雲か何かのようだ。

イ从゚ ー゚ノi、「言っておくが、その用事とやらが済んだら儂は山に戻るぞ」
銀は憮然と言い放った。

全く、何故自分はこんな所まで来ているのだろう。
あのまま、山で静かに暮らしていたかったのに。

賑やかな場所に出たら――
余計に、孤独を痛感させられるだけだというのに。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:26:52.88 ID:qQ9Xjx1t0



('e')「やあ、着いた着いた」
そう言って、セントジョーンズは足を止めた。
そこは、お世辞にも豊かそうには見えるとは言えない寂れた村だった。

イ从゚ ー゚ノi、「……ここは?」
銀がセントジョーンズに問いかける。

('e')「この村は、この前私が立ち寄った時にお世話になった村さ。
   実は、先日大雨で土砂崩れが起こってね。
   その際この村に流れてくる川の上流が土砂で塞き止められてしまって、
   危機的な水不足になってしまっている」
それを聞いた銀が村を見渡してみると、
成る程もう田植えの時期だというのに、田んぼには水が張られていない。
どころか、土が乾いてひび割れてしまっている。
これでは稲も育つまい。

イ从゚ ー゚ノi、「……それで?」
興味無さげに、銀が言った。

('e')「君には、川を塞き止めている土砂を除去するのを手伝って貰いたいんだ。
   私は、身体能力は人間に毛が生えた程度しかないのでね。
   是非とも君の力が欲しい」
セントジョーンズが銀を見て言った。



37: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:27:12.22 ID:qQ9Xjx1t0
イ从゚ ー゚ノi、「馬鹿馬鹿しい!
       何故儂がそんな事をせねばならんのじゃ!
       そんな事をして、何の得がある!?」
銀は苛立たし気に身振りをつけて吐き捨てた。

何を言い出すかと思えば、
こんな下らない事の為に、この男は自分をここまで連れてきたのか?

('e')「このままでは、この村の人間は死んでしまう。
   どうか、手を貸してはくれないだろうか?」
あくまでセントジョーンズは紳士的にお願いした。
しかし、銀は態度を改めず、
イ从゚ ー゚ノi、「断る! 人間が何人生きようが死のうが知ったことか!」
そう、にべもなく断った。

('e')「ふむん。 君は人間が嫌いなのかね?」
イ从゚ ー゚ノi、「ああ、大嫌いじゃな!
       弱くて、卑怯で、粗暴で、意地汚いくて、傲慢で、愚かで、すぐ死んで、
       群れねば何も出来ず、百年も生きられないような下等な生物に、わざわざ儂の手など貸せるものか!」
憤然と、銀はそう言い切った。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:27:57.77 ID:qQ9Xjx1t0
('e')「成る程。 ならば君はその下等生物以下だな」
冷たい顔で、セントジョーンズはそう告げた。

イ从゚ ー゚ノi、「何じゃと!?」
銀の表情に殺意が宿る。

('e')「寿命の長さが、その存在の価値を左右するとでも思っているのかね?
   一人で生きることがそんなに偉いのかね?
   そんな考えこそ、愚かで傲慢な考え方じゃないのか」
イ从゚ ー゚ノi、「ッ……!」
銀の殺気に怯えることなく、平然とそう言うセントジョーンズに、
銀は何も言い返せなかった。

('e')「納得出来ないのなら、騙されたと思って私を手伝ってみるといい。
   きっと君にも判る筈だ」
それだけ言うと、セントジョーンズはすたすたと川の上流へと向かって歩いて行った。

イ从゚ ー゚ノi、「あ、おい! 待たぬか!!」
慌てて、銀はその後を追いかけるのだった。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:28:59.52 ID:qQ9Xjx1t0

                     ・

                     ・

                     ・

イ从゚ ー゚ノi、「ガハァッ! ごぼッ……! ぐッ……!」
銀の口から泡立った血が流れ落ちた。

迂闊だった。
まともに、あれだけの攻撃を受けてしまうとは。

イ从゚ ー゚ノi、「クッ……!」
全身がバラバラになるような衝撃が体を突き抜け、
まともに立ち上がることすら難しかった。

いくら人外の回復力とはいえど、
完全に治癒するまでにはもうしばらく時間がかかるだろう。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:29:41.67 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「お〜お〜、派手に飛んでったな〜」
陽気にバットを振り回しながら、
ハインリッヒが銀に近付いてくる。

イ从゚ ー゚ノi、「ふん。 わざわざそちらから殺されに出向いてくれるとはな……!」
おぼつかない足取りで、刀を構え直す。

本調子に戻るまでは、あと数分といったところか。
それまで、少しでも時間を稼がなければ……

从 ゚∀从「虚勢を張るのはよせって。
      まだ、まともに動けねえんだろ?」
ハインリッヒが嫌味な笑みを浮かべる。

お見通し、か。
銀は忌々しそうに歯軋りをした。



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:30:06.02 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「どうする? ここら辺で降参しとくか?
      今ならギブアップ受付中だぜ?」
笑みを浮かべたまま、ハインリッヒが銀に問いかけた。

イ从゚ ー゚ノi、「誰が、貴様などに……!」
歯を剥き出しにして、銀が憤慨する。

从 ゚∀从「強がんなよ。
      勝ち目がねえってことは、自分が一番良く判ってんだろ。
      それに、人間側に味方しても良い事なんて何もねえだろ?
      セントジョーンズだって、何だかんだでお前を仲間にしたがってるだろうしさ」
イ从゚ ー゚ノi、「黙れ! 誰が、あんな奴の仲間になどなるものか!!」
吼えるように、銀は叫んだ。
その目には、煌々と憎しみの炎が宿っている。

从 ゚∀从「そう嫌ってやんなよ。
      セントジョーンズから聞いたぜ?
      昔は、仲良くやってたそうじゃねえか。
      今からでも遅くねえって。 あいつら裏切って、こっち側につけよ。
      どうせ、お前の居場所はこっち側にしかねえんだしさ」
イ从゚ ー゚ノi、「うるさい! 知った風な口を利くな!!」
銀がハインリッヒの声を払うかのように、日本刀を大きく振る。



50: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:31:33.74 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「知ってるさ。 少なくともお前と同じくらいにはな。
      人間側に組してどうすんだ?
      オレ達みたいな異端は、決して受け入れられることはねえ。
      万一奇跡的に居場所を提供されたとしても、それだって一時的なもの。
      『いつか』、『きっと』、排斥される。
      それに、根本的にオレ達化物と人間とは、時の流れが違う。
      お互いにずっと一緒にはいられないし、判りあえない。
      結局、化物は化物同士でヨロシクやってくしかねえのさ。
      でなきゃ、ずっと孤独なままだからな」
イ从゚ ー゚ノi、「…………!」
銀は唇を噛んだ。

判っている。
そんなことは、数百年生きてきた中で嫌と言うほど判っているのだ。

理性を捨て去ることが出来たら、どんなに楽しいだろう。
欲望の赴くまま生きることが出来たら、どんなに楽だろう。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:32:12.07 ID:qQ9Xjx1t0
普段の何気ない穏やかな時間、
眠っている間、こうしている今だって、
常にある衝動を押さえ込むのに精一杯だ。

寂しい。
一人は怖い。
退屈だ。
自分は、一体いつまでこの狂いそうな気持ちを抱えて生きていかねばならない。

衝動が、自分を突き動かそうとする。
何もかも、捨ててしまえ。
壊してしまえと。
それだけが、自分の孤独と退屈という名の空虚な穴を満たしてくれると。

そうするのが一番楽だと、
判りきっているのだ。

イ从゚ ー゚ノi、「…………!」
しかし、それでも、自分はこの生き方を変えることは出来ない。
見も心も、本物の化物――
いや、化物以下の存在になる訳にはいかない。

それでは、あの男、セントジョーンズと――
同じになってしまうではないか……!



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:32:31.58 ID:qQ9Xjx1t0
从 ゚∀从「悩むことなんかねえだろ。
      セントジョーンズから、聞いてるぜ。
      一人ぼっちは、嫌なんだろう?」
イ从゚ ー゚ノi、「黙れえええええええええええええええええ!!!」
それ以上聞きたくない、そう言うかのように銀はハインリッヒに向かって疾駆した。

体はまだ万全ではない。
それでも、ハインリッヒに斬り掛からずにはいられなかったのだ。

从 ゚∀从「あ〜あ〜。 結局こうなるか。
      これだから、頭の悪い奴は嫌いだぜ」
欠伸をしながら、ハインリッヒが面倒臭そうに頭を掻く。

イ从゚ ー゚ノi、「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
大上段から、日本刀を振り下ろす。
しかしその渾身の一撃も、軌道を強制的に逸らされ、虚しく空を切るだけだった。

从 ゚∀从「馬鹿は死ななきゃ治らねえ、と」
がら空きになった銀の胴体に、ハインリッヒのバットが襲い掛かっていった。


〜第二部 第五話『血着! 〜ドス女VSハインリッヒ 前編〜』 終
 次回、『血着! 〜ドス女VSハインリッヒ 後編〜』乞うご期待!〜



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/21(日) 20:32:59.98 ID:qQ9Xjx1t0
この番組は、

嘘だっ!
あなたを殺します
じゃあ死んで
ひどいよ! 自分だけ、桂さんと幸せになろうなんて!!
中に誰もいませんよ

の提供でお送りしました。



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