ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:41:28.67 ID:epl8y/ar0
第二部 第十五話 『理想の末路! 正義のヒーローになれなかった男VS正義のヒーローになりたかった男!!』

〜前回までのあらすじ〜

逃亡してました。
ごめんなさい。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:43:17.90 ID:epl8y/ar0


       * 以下、何事も無かったかのように再開 *


( 《;;;||;;》)「…………」
( 0ш0)「…………」
俺とブーンは、無言のままその姿を異形へと変えた。

( 《;;;||;;》)「…………」
( 0ш0)「…………」
そのまま、無言のままに、
俺達は一歩、また一歩と歩を進め、そして――

( 《;;;||;;》)「――――!!」
( 0ш0)「――――!!」
同時に、相手に殴りかかった。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:44:01.78 ID:epl8y/ar0
( 《;;;||;;》)「!!」
( 0ш0)「!!」
ブーンの右拳が俺の左頬に、
俺の右拳がブーンの左頬に、
それぞれ相打ちの形で命中する。
ぐらりと、お互いの体が大きくぐらつく。

( 《;;;||;;》)「!!!」
( 0ш0)「!!!」
だが、そんなもので俺達は止まらなかった。
止まる筈が無かった。
すぐに体勢を立て直し、今度は逆の左腕でパンチを放つ。

( 《;;;||;;》)「!!!」
( 0ш0)「!!!」
これも、相打ち。
まるで事前に申し合わせでもしたかのような、
同じタイミング、同じ技。
故の、いわば必然とでも言うべき結果の相打ちだった。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:45:04.32 ID:epl8y/ar0
( 《;;;||;;》)「!!!」
( 0ш0)「!!!」
肉と肉がぶつかり、体が爆発するかのような衝撃が数瞬遅れてやってくる。
凄まじいまでの威力。
きっとブーンも、この時の為に新しい力を身につけたのだろう。

だけど、それだけ。
ただ、凄い威力なだけ。

何も響いて来ない。
ブーンからの攻撃に、何も感じ取る事が出来ない。

今までに闘ってきた怪人と同じ。
ブーンの強さを支えるものが、何も見えてこない。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:45:41.78 ID:epl8y/ar0
( 《;;;||;;》)「!!!」
( 0ш0)「!!!」
かつてトラギコと闘った時、
その一撃一撃から、彼の想いが、彼が支えてきたものが、彼を支えてきたものが、
ありありと伝わってきた。

痛い程、伝わってきた。
だから、強いと思った。
だから、負けるかもしれないと思った。

かつては、ブーンもそうだった。
ブーンの後ろには、いつもブーンとは違う誰かがいるように感じられた。
それが、かつてのブーンの強さだったのだろう。

だけど、今は違う。
ブーンの後ろには誰も居ない。
ブーンの中には何も無い。

あるのはただ、怖気が走るような底無しの妄執。
正義のヒーローという、歪な理想。
それが、今のブーンの姿だった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:46:54.26 ID:epl8y/ar0
( 《;;;||;;》)「!!!」
( 0ш0)「!!!」
お互いに、何も喋らないまま殴りあう。

無言の戦闘。
聞こえるは、ただ、体が破壊されていく音。

しかし、その中で、俺は確かにブーンからの言葉を聞いていた。
ブーンも恐らく、俺からの言葉を感じ取っていただろう。

『何でだ!』
その言葉を拳に込めて、ブーンにぶつける。

『何で、こんなことをしたんだ!!』
叫ぶように、殴り続けた。

『決まってるお。 正義のヒーローになる為だお』
ブーンの拳から、その声が伝わって来る。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:47:26.58 ID:epl8y/ar0
『正義のヒーローになる為だと!?
 お前は本気で、こんな事をして正義のヒーローになれると思ってるのか!?』
俺の蹴りが、ブーンの腹を打つ。

『そうだお。 正義のヒーローになる為には、ブーンが絶対の正義である必要があるお。
 だからブーンを正義と認めない者は、全部消し去ってやるお』
ブーンの蹴りが、俺の腹を打った。

『ふざけるな! それじゃあ――そんな事の為に、お前は素直クールを殺したのか!?
 いいや、お前の仲間達を、殺したというのか!?』
内臓が破裂しそうな衝撃を押さえ込み、
左拳をブーンの顎目掛けて突き上げる。

『仲間じゃないお。 あいつらはブーンを正義と認めなかったお。
 だから、仲間じゃないお。 そんな奴らは、ブーンには必要無いお』
それと同時に、ブーンの左拳もまた、俺の顎を狙っていた。
寸分の誤差も無く、同じタイミングで両者の顎が跳ね上がる。

『違う! 仲間ってのは、無条件に自分を肯定してくれる奴なんかじゃない!
 自分と違う思い。 自分と違う考え。 自分と違う生き方。
 時にはそれらがぶつかり合って、喧嘩することだってあるかもしれない。
 だけど、それでもその違う部分を含めて、互いに受け入れ合うのが本当の仲間だ!!」
激しく脳が揺さぶられ、視界が大きく歪む。
しかしそれとは対照的に、俺の意識はこれ以上無いくらいはっきりしていた。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:48:14.55 ID:epl8y/ar0
『素直クール達が、お前を否定した理由が分からないのか!?
 あいつらは、お前の事を、仲間だと信じてたんだ! 心の底から、思ってたんだ!
 だから、お前を肯定しなかった! 間違っている事に、気付いて欲しかったんだ!
 本当にそれが、判らないのかよ!!』
仰け反った体を戻す反動を利用して、ブーンに向かって頭突きを放つ。
ブーンもまた俺と同じ様に頭突きを放ち、
互いの額と額が甲高い音を立てて打ち合わさった。

『判らないお。 判りたくもないお。
 仮に、百歩譲ってツン達がブーンの仲間だったと過程するお。
 でも、やっぱり、ブーンにあいつらは必要無いお』
『何だと!?』
額と額を合わせたままの形で、俺とブーンは押し合う。

『正義のヒーローになる為に、必要なのは、
 仲間なんかじゃなく、倒すべき敵だお。
 敵を倒すからこそ、正義のヒーローになれるんだお。
 仲間なんか――ゴミ程度の価値も無いお』
言葉にはしなかった。
だが、ブーンの目が、はっきりと、そう言っていた。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:48:47.62 ID:epl8y/ar0
『手前!!』
仲間じゃないだと!?
仲間なんかいらないだと!?

本気で――
本気でそう言っているのか!?

俺は、ブーンや素直クール達とそれ程長い時間関わっていた訳じゃない。
だけど、これだけは判る。
素直クールは、ショボンは、ツンは、ブーンを仲間だと思っていた。
きっとそう、思っていた。

だが、ブーンは今、そんな彼らを足蹴にしたのだ。
切り捨て、かなぐり捨てたのだ。

『ふざけるな!』
ふざけるな。
そう、心の中で吼えながら殴りかかる。

『ふざけるな! ふざけるな! ふざけるな!!
 何が正義のヒーローになる為だ!!
 正義のヒーローが――俺達の目指したものが、
 そんな方法で手に入れられるものか!!!』
そんな筈がない。
そんなものが、正義のヒーローなんかである筈がない。

そう、信じていた。
そうであって欲しかった。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:50:16.30 ID:epl8y/ar0
『いいや、これこそが、正義のヒーローになる為の、唯一の方法だお。
 だからこそ、ブーンが本当の正義のヒーローなんだお。
 でないと――でないと、ブーンがこれまでやってきた事が、全部無駄になるお。
 ブーンが、正義のヒーローでなくなってしまうお。
 そんなことは、絶対に許せないお!!』
ブーンの目に迷いは無かった。

こいつも、俺と同じ様に、信じていたのだろう。
正義のヒーローのことを。
ただ、それだけお。

何も俺と変わらない。
その筈だったのに。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:50:52.14 ID:epl8y/ar0
『何でだ!!』
いつの間にか、俺の頬を涙がつたっていた。
泣きながら、ブーンを殴る。

これは何の涙か。
ブーンに殺された素直クール達への涙か。
それとも、ブーンに向けての涙なのか。

『何で、そんな風にしか出来なかったんだ!
 何で、そんな風にしか考えられなかったんだ!
 お前は、色んなものを持ってたじゃないか!
 友達も、力も、環境も、仲間達も――
 俺の持っていないものを、全部持っていたじゃないか!!
 なのにどうして――』
今、はっきりと判る。
俺は、ブーンのことが、

『なのにどうして、お前はそんな道しか選べなかったんだ!!!』
ブーンのことが、羨ましかったんだ。
俺に無いものを、全部持っている気がして。
俺が欲しくて、どうしても欲しくてたまらなかったものを、
当然のように手に入れていて。



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:52:56.31 ID:epl8y/ar0
『……何が判るお』
その時、ブーンの表情に少し影が差した。

『お前に、何が判るんだお!!』
怒りのこもったブーンの拳が、俺の胸に突き刺さる。

ブーンが怒っている?
俺に?
一体、どうして?

『少しブーンに無いものを持っているくらいで、いい気になりやがって!
 楽しかったかお!? 周りから正義のヒーローとちやほやされて、正義のヒーローごっこをしているのは!!
 そうやって、ブーンのことを見下していたんだお!!』
俺が、ブーンに無いものを持っていた、だって?
どうして。
何故、ブーンはそんな事を。

『ブーンが今までどれだけ頑張ってきたと思ってるんだお!
 人助けをする為に、どこにでも駆けつけて、傷だらけになりながら闘って――
 それもこれも、全部正義のヒーローになる為だお!!
 なのに、どうしてツンやショボンや素直クールやロマネスクは、
 ブーンの事を正義のヒーローと認めないお!!
 どうして、ブーンを否定するんだお!!!』
怒りに任せて、ブーンは俺を殴り続けた。
その一発一発から、ブーンの感情が、心の声が流れ込んでくる。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:53:33.80 ID:epl8y/ar0
そうか。
そうだったのか。
ブーン、お前も俺を羨ましがってたのか。

滑稽な話だ。
お互いが、お互いを嫉妬し合っていたなんて。

『――ハハッ』
『何が可笑しいお!!』
可笑しいさ。

ブーン、お前は勘違いをしている。
俺には、お前が羨ましがるようなものは、何一つ持ってなどいなかった。
俺には、何も無かった。

もし何か、俺がお前が欲しがるものを持っていたとするならば、
それは俺のものなんかじゃない。

ギコさんが、トラギコが、渡辺のおばあちゃんが、ロマネスクが、
――ドス女が、
皆が、俺に分けてくれたものだ。

そして、それと同じ様なものは、お前も持っていた筈だった。
ツンデレが、素直クールが、ショボンが――
お前に、分け与えていた筈だった。

ブーン、お前には。
お前には、それが判らなかったんだな。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:55:26.68 ID:epl8y/ar0
『……ブーン』
『何だお!!』
一方的に殴られながらも、
俺は精一杯の余裕の笑みを見せて言ってやった。

『この勝負、俺の勝ちだ』
『!?』
馬乗りになっていたブーンを、蹴り飛ばした。

そうだ。
負ける筈がない。

俺は一人じゃない。
皆が、俺に力を貸してくれている。

だから、一人ぼっちで闘うブーンに、
この哀れな正義のヒーローに、負ける筈がない……!



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:55:55.55 ID:epl8y/ar0
『ブーン、お前は、きっと、正義のヒーローの一つの形なんだろう。
 お前は確かに、正義のヒーローになれたんだろう』
そう、こいつは紛れも無い、正義のヒーローだ。
ならば、だからこそ、許せない。
許す訳にはいかない。

『だから、俺は正義のヒーローにはなれない。
 なりたくなんかない。
 今のお前のその姿が、正義のヒーローだというのなら、
 俺は正義のヒーローなんかじゃなくていい!!』
そう、俺は正義のヒーローなんかじゃない。

弱くて、臆病で、醜くて、ちっぽけな、ただの人間だ。

『行くぞ、正義のヒーロー!!
 お前のその夢、ここで微塵に打ち砕いてやる!!!』



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:56:56.67 ID:epl8y/ar0


            *            *             *


( 0ш0)(何でだお……!)
ブーンは焦燥していた。
ドクオとの闘いが、まるでブーンの思い通りにいっていなかったからである。

既に、何発もブーン自身会心の一撃と言っていい程の攻撃を、
何発もドクオに叩き込んでいる。

だが、斃せない。
ドクオの心をへし折ることが出来ない。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:57:19.89 ID:epl8y/ar0
それとは対照的に、ブーンの体は疲弊し切っていた。
体のあちこちで火がついているかの様な痛みが走り、
いくつかの骨や関節が限界を告げるかのように軋んできている。

ドクオと自分との間に、そこまで明確な戦力差があるとは思えない。
どころか、より多く攻撃を命中させているのは自分だ。

なのに、何故だ。
何故、自分だけがここまで追い詰められている。
何故、ドクオを斃すことが出来ないのだ。



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:57:49.75 ID:epl8y/ar0
( 0ш0)(ブーンが正義のヒーローじゃないからだとでもいうのかお……!)
そんな訳が無い。
そんな筈がない。
そんな事があっていい筈がない。

これまで、自分は正義のヒーローになる為に何だってやってきた。
逃げ出したくなるようなことも何度もあった。
だが、それでも自分は逃げる事無くここまで闘い続けてきたのだ。

闘って、闘って、闘って――
障害は全て排除してきた。

戦闘員を殺し、怪人を殺し、
敵となるものを、敵となり得るものを殺してきた。

ツンデレや、ショボンや、素直クールでさえ殺してきたのだ。

そう、自分は、
正義のヒーローになる為に全てを犠牲にし、
全てを捧げてきたと言っても過言ではない。

その自分が正義のヒーローではないだと!?
ドクオこそが正義のヒーローだと!?

冗談じゃない。
そんな事が認められるか。

ここでそれを認めてしまったら、
自分の人生は何だったというのか。
何の為に、正義のヒーローを目指してきたというのか。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:58:50.82 ID:epl8y/ar0
( 《;;;||;;》)「――――!」
そんな事をブーンが考えている間にも、
ドクオは無言でブーンに殴りかかってくる。

( 0ш0)「――――!」
ブーンもまた無言でそれを受け、
お返しにと拳を繰り出す。

掛け声も、悲鳴すらも無い、異様な戦闘。

何故こんな闘い方を選んだのか、
それはドクオにもブーンにも、恐らく判らないだろう。

だが確かに、両者は互いの拳を通じて、
言葉を交わし合っていた。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 01:59:29.64 ID:epl8y/ar0
( 0ш0)「…………!」
ドクオの右ストレートが、ブーンの顔面を捉えた。
ガクリと、ブーンの膝が崩れる。

倒れてなるものか。
ブーンは歯を食いしばった。

こいつの、こんな奴の攻撃なんかで倒れてなるものか。
その意地が、ブーンを支えていた。

だが、こいつの拳は何だ。
ブーンの脳裏に疑問がよぎる。

ドクオの拳からは、ドクオのものだけではない、
何かの力が宿っているように感じる。
それが、ドクオを更に強くしているように思えた。

一体、ドクオの力は何だ。
何がドクオをそこまで駆り立てる。
何がドクオをそこまで強くしているのだ。

ブーンには、それが判らなかった。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:01:06.73 ID:epl8y/ar0
( 《;;;||;;》)「――――!」
もう一度、ドクオの拳がブーンの顔面にめり込む。
その時――


イ从゚ ー゚ノi、


( 0ш0)「!?」
ブーンの心に、何かが流れ込んできた。

今のは、何だ。
今見えたものは、何なのだ。


( ФωФ)


( 0ш0)「!!?」
今度は、さっきとは別の何かが流れ込んでくる。

これは何だ。
これがドクオから感じた、ドクオのものとは別の力の正体なのか。



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:02:11.24 ID:epl8y/ar0


(,,゚Д゚)


(=゚д゚)


从'ー'从


ノパ听)


何だというのだ。
こんなものが何だというのだ。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:02:42.69 ID:epl8y/ar0
誰かの思い、誰かの力。
そんなもの、真の正義のヒーローには必要無い筈だ。

何故なら正義のヒーローは、完全無欠の存在だから。
だから、正義のヒーローには、何も必要無い筈だ。

そして――
自分は、その正義のヒーローだ。
正義のヒーローなんだ。

その自分が、こんな下らないものに圧倒されているだと!?

( 0ш0)「――――!」
そう、自分にはそんなものは必要無い。

ツンデレも要らない。
ショボンも要らない。
素直クールも要らない。
全部、要らない。

だから、ここまで来れた。
だから、ここまで強くなったのだ。
だから――



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:03:34.08 ID:epl8y/ar0


ξ゚听)ξ (´・ω・`) 川 ゚ -゚)


( 0ш0)「!!!!!」
その瞬間、ブーンの心の端を、
ツン達の顔が掠めた。
そしてそれが、ブーンにとっては最悪の致命傷だった。

僅かな逡巡。
僅かな困惑。

千分の一秒にも満たない、
無いにも等しいその一瞬に、
死神の鎌は彼の命目掛けて振り下ろされていた。

( 《;;;||;;》)「――――!」
死神の鎌はドクオの拳。
それが、ブーンの心臓を含む胴体の左半分を、
ごっそりと奪い去っていった。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:05:08.50 ID:epl8y/ar0
.




( ´ω`)「――――」
血溜まりの中、ブーンは仰向けに倒れていた。
変身は解け、周囲にはブーンの内臓と肉片が散乱している。

ブーンは息も絶え絶えの状態で、
肉体改造による生命力強化がなされていなければ、
間違いなく既に絶命していただろう。

( ´ω`)「…………」
負けるというのか、この自分が。
こんなところで、死ぬというのか。

納得がいかなかった。

自分は正義のヒーローなのだ。
正義のヒーローなのだ。

正義のヒーローはいつだって正しい。
正しいから絶対に負けない。
ならば何故、自分は負け、死のうとしているのか。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:05:43.81 ID:epl8y/ar0
( ´ω`)「――――」
自分は正義のヒーローになりたかった。

正義の二文字を背負い、
みんなの為、悪を滅ぼし、平和の為に闘う、
そんな正義のヒーローになりたかった。
どうしても、なりたかったのだ。

その為に、いままでずっと頑張ってきたのに、
どうしてこんなところでつまづいてしまったのか。
どうして、正義のヒーローというその理想に、届かなかったのか。

どうして――

( ´ω`)「…………?」
と、一つの疑問がブーンの頭に浮かんだ。

そういえば、そもそもどうして、自分は正義のヒーローを目指したのだろう。
どうして、あんなにも正義のヒーローになりたかったのだろう。

思い出そうとする。
しかし、その理由が出てこない。
少し前までは、確かに覚えていた筈なのに、出てこない。

何故、自分は正義のヒーローになりたかったのか?

何故――



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:06:51.96 ID:epl8y/ar0



( ^ω^)「みんなー、早くこっちに来るおー!」

ξ゚听)ξ「ちょっと! 少しは周りと合わせなさいよブーン!」



( ´ω`)「!!?」
その時、ブーンの脳裏に見覚えのある映像がフラッシュバックした。

そしてこれはブーン自身は知る由も無い事であったが、
その映像は、かつて素直クールが今際の際に見たものと、
全く同じ光景だった。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:07:50.25 ID:epl8y/ar0
.


( ^ω^)「ハムッ ハフハフ、ハフッ!!」

ξ゚听)ξ「ちょっとブーン! 少しは落ち着いて食べなさいよ!」

( ^ω^)「だってこのお弁当、美味し過ぎだお!」

(´・ω・`)「確かに美味いね。 特にこの唐揚げなんて絶品だ」

川 ゚ -゚)「それは嬉しいな。 ツンと一緒に作ったんだが、気に入ってくれたみたいで良かった」



あの日、あの時、あそこで交わした何でもない言葉。
何でもない記憶。

みんなとピクニックに行った。
みんなでお弁当を食べた。
みんなと仲良くお喋りをした。

それだけの、何の価値も無い、
どこにでもあるありふれた日常。

何故。
それを何故今になって、思い出す。



62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:08:47.36 ID:epl8y/ar0
.


( ^ω^)「うわー、凄い景色だおー!」

ξ゚听)ξ「本当。 とても綺麗……」

川 ゚ -゚)「だな」

(´・ω・`)「今日はここに来れて本当に良かったね」

(´ー`)「左様ですな」



みんなと一緒のピクニック。
そこで見た世界は、確かに綺麗だった、
本当に、綺麗だった。

だけどそれは、景色が綺麗だったからだけじゃないと思う。
みんなと一緒に同じ風景を見て、同じ音を聞き、同じ世界を感じていた。
だから、あんなにも綺麗だったんだ。



66: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:09:18.34 ID:epl8y/ar0
.


( ^ω^)「……決めたお」

ξ゚听)ξ「え?」



そうだ。
だから僕は、あの時決めたんだ。
だから、僕は――



69: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:10:35.48 ID:epl8y/ar0
.


( ^ω^)「ブーンは、この日常を護る為に闘うお。
      ツンがいて、クーがいて、ショボンがいて、ご隠居がいて、
      それで、みんなでこうして楽しく過ごせる日々を護ってみせるお!
      ううん、ブーン達だけじゃない。
      他のみんなの大切な日常だって、きっと護り切ってみせるお!」



だから僕は、あの時、正義のヒーローになろうと決めたんだ。

どうして、こんな大切なことを、今まで忘れてしまっていたのだろう。

みんなとお喋りするのが好きだった。
みんなと遊ぶのが好きだった。
みんなと一緒にいるのが好きだった。
みんなの笑顔が好きだった。

みんなが、好きだった。

だから、それらを護りたかった。
だから、正義のヒーローになりたかった。

しかし、そのみんなは、もういない。

自分が、この手で、殺したからだ。



71: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:11:25.69 ID:epl8y/ar0
もう、ブーンの周りには誰もいない。
誰も、残っていない。

底無しの孤独。

それだけが、最後に、ブーンに残されたものだった。

( ;ω;)「おお……お……お゛お゛お゛おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!」
絶望と後悔と懺悔の込められた涙が、ブーンの涙が溢れ出す。

嫌だ。
このまま死ぬなんて嫌だ。
このまま、一人ぼっちで死ぬなんて嫌だ。

凍てつくような恐怖が、ブーンの心を無慈悲に締め上げる。



77: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:13:36.25 ID:epl8y/ar0
( ;ω;)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!」
以前は、いつだってブーンの傍には誰かがいてくれた。

ツンデレがいて、ショボンがいて、素直クールがいた。

例え近くに誰もいない時でも、
心はいつも繋がっていると、信じ合えた。

いつだって、心の中では、
彼らが微笑みかけてくれていた。

だけど、ブーンがまさに息絶えようとしている今、
彼らのもうどこにもいない。

ブーンの心の中にさえ、いやしない。

ブーンは今、独りぼっちだった。



79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:15:10.75 ID:epl8y/ar0
( ;ω;)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……!」
倒れたまま、ブーンは手を伸ばした。
彼らを探そうと。
彼らに届くようにと。

だけど、
かつてはあんなに、
すぐ近くあった笑顔が、
今はもう、
こんなにも遠い。

( ;ω;)「…………」
泣き顔のまま、天に向かって手を伸ばした恰好で、ブーンは息絶える。
しかし彼が何かを掴もうと、必死に伸ばした手の中には、何一つ残ってなどいなかった。



82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:17:31.95 ID:epl8y/ar0
.

               *             *            *


('A`)「…………」
ブーンの亡骸を、俺は静かに見つめていた。

俺と同じ様に正義のヒーローを目指し、
そしてきっと正義のヒーローになっていた男。

その男の末路を、ただじっと見つめていた。

('A`)「…………」
だが、いつまでもここでこうしている訳にはいかない。
ブーンから目を離し、進むべき方向へと体を向ける。



83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:17:53.77 ID:epl8y/ar0
('A`)「…………!」
振り返ることなく、ブーンの亡骸を後にして先へと駆け出す。

感傷に浸っている時間は無い。
俺にはまだ、やる事が残されている。

さようなら、ブーン。
かつて俺が羨み、嫉み、そして憧れた正義のヒーローよ。

お前はきっと、誰より純粋だっただけなのだろう。
純粋過ぎるが故に、立ち止まる事が出来なかったのだろう。

ああ、だから最後に、俺は祈ろう。
最期に流したお前の涙が、正義のヒーローではなく、人間としての涙であったことを。


〜第二部 第十五話『理想の末路! 正義のヒーローになれなかった男VS正義のヒーローになりたかった男!!』 終
 次回、『夢の終わり 〜銀獣VS魔弾〜』乞うご期待!〜
 乞うご期待!〜



84: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/04/11(金) 02:18:12.42 ID:epl8y/ar0
この番組は、

逃亡して本当にすみませんでした。
時間はかかりましたが、再びドクオ達の物語を完結させる為に書いていきたいと思います。

の提供でお送りしました。



戻る第十六話