ドクオは正義のヒーローになれないようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:42:32.86 ID:LOFX/q7G0
- 最終話 『ドクオは正義のヒーローになれないようです』
〜前回までのあらすじ〜
途中で失速したり、
話終わらせたくない病が発症して逃亡しかけるといったようなこともありましたが、
この物語も何とか最終回までもっていくことができました。
これも偏に、読者の皆様方のおかげだと思います。
苦節一年以上の私の処女作にここまで応援して頂き、本当に有難うございました。
それでは、もう少しだけドクオ達の物語にお付き合い下さい。
- 3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:44:21.50 ID:LOFX/q7G0
* 以下、何事も無かったかのように再開 *
「正義のヒーロー」と聞いて、あなた達は何を想像するだろうか。
それは仮面ライダーであったり、ゴレンジャーであったり、ウルトラマンであったり、
お巡りさんであったり、レスキュー隊であったり、近所のお兄さんであったり、
それぞれ人によって違うだろう。
テレビの中では、誰かがピンチの時、
正義のヒーローが颯爽と現れて、困っている人を助けてくれる。
悪は斃れ、人々は喜び、正義のヒーローは何処かへと去り、
ハッピーエンドで物語は終結する。
そう、正義のヒーローは助けを呼べば必ずやってくる。
だからこそ、人々はそんな彼らを「正義のヒーロー」と呼び、
それ故に正義のヒーローは正義のヒーローとして定義される。
……しかし、それはテレビの中だけの話だ。
現実には、正義のヒーローは困っている人の前には現れたりなんかしない。
正義のヒーローなんか世界の何時何処にも存在しない。
正義のヒーローは、誰も救ったりなんかしない。
- 6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:45:02.33 ID:LOFX/q7G0
- ――それでも、
それでも正義のヒーローを信じ続けた一人の少年がいた。
傷ついて、傷ついて、傷ついて、
それでも、いつか、いつの日か、
正義のヒーローが助けに来てくれると、
心の底から信じ続けた。
……当然のように、正義のヒーローはやって来なかった。
そもそも、居もしないものが現れるなんて、有り得ないことだった。
それでも、少年は信じて、待ち続けた。
いつか、いつか、いつか、いつか、いつか、正義のヒーローが――
――時間だけが過ぎ、少年は青年になり、希望はは歪に捻れ、
それでも少年は裏切られた事に気付かず、気付こうとせず、
ただ、純粋な想いだけが、風化しないまま積もっていった。
正義のヒーローは、誰も救ったりなんかしない。
――正義のヒーローは、いない。
そう、困った時にどこからともなく颯爽と現れ、
人々を助けて風と共に去っていく、
そんな都合の良い存在なんてこの世に在りはしないのだ。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:45:43.55 ID:LOFX/q7G0
- どころか正義のヒーローなんて、
恐らくきっと、この世には全然必要ではない。
正義のヒーローなんかいなくても、世界はどうにか回っているし、
本来そもそもこの世にある問題の多くは、
正義と悪の単純な二分構造なんかで測れるようなものなどではない。
だから、多分正義のヒーローなんてものは、
結局は何も出来ない役立たずの邪魔者でしかないのだろう。
それでも、
それでも少年は正義のヒーローを信じ続けたのだ。
信じて、憧れ、助けを乞い続けたのだ。
これはそんな、哀れで愚かな少年だった男の物語。
そして、その物語は――
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:46:33.94 ID:LOFX/q7G0
* * *
オレは秘密基地の最奥の、一際大きな扉の前で立ち止まっていた。
この中に、あいつが居る。
今までの厄災の、全ての元凶であるあの男が。
そう、はっきりと感じ取ることが出来た。
( 《;;;||;;》)「…………」
深呼吸をして、息を整える。
いよいよだ。
いよいよ、全てに決着がつく。
ロマネスクも、ドス女も、今頃必死で闘って、
そして必ず勝っている筈だ。
後は俺が、フォックスを倒せば万事解決だ。
ああ、そうか。
今頃気がついたが、世界の命運は俺にかかってしまっているのか。
冗談にもならない話だ。
正義のヒーローでも何でもない只のつまらない人間だった俺が、
世界の趨勢を左右することになるなんて。
- 14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:47:20.52 ID:LOFX/q7G0
- もし、俺が負けてしまったら――
……いや、負けた時のことなんか考えてどうする。
勝つ。
それしかない。
これまで俺を支えてきてくれた者達の為に。
俺が犠牲にしてきてしまった者達の為に。
ここで、俺は、必ず勝たねばならない。
だからこそ、ロマネスクも、ドス女も、
俺に任せてくれたのだ。
その信頼を、裏切る訳にはいかない……!
( 《;;;||;;》)「フォーーーーーーーーーーックス!!」
思い切り、扉を蹴破った。
野球場くらいの広さのある、無機質で広大な部屋。
部屋の奥には何やら大仰なコンピューターやモニターが設置され、
そしてそこには――
- 18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:48:36.12 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「――やあ」
そこには、あの男が立っていた。
( 《;;;||;;》)「やっと追い詰めたぞ、フォックス!!」
フォックス。
ただ自分が『正義』である為だけに、
世界の全てを犠牲にしようとした男。
絶対に許してはいけない、
絶対に止めなければいけない狂人。
爪'ー`)「やれやれ、ついにここまで来てしまったか」
フォックスが嘆息しながら肩を竦める。
爪'ー`)「全く――よくもまあ酷くやってくれたものだ。
しぃ、オサム、モナー、ブーン、裏切り者のセントジョーンズ――
君達のおかげで、私の組織はガタガタだよ」
( 《;;;||;;》)「ざまあ見ろ、だ!」
精一杯皮肉っぽい声で言ってやった。
そうか――
ドス女やロマネスク達は、勝ったんだな。
本当に、良かった。
- 21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:49:39.91 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「――が、計画には何の支障も無い。
ここで君を殺し、その後で弱った君の仲間達を殺した後で、
世界を核の炎で焼き尽くせば、全ては予定通りだ。
それで私の正義を認めない者は、この世界から完全に消え去る」
事も無げにフォックスは言った。
こいつ――
こいつはまだ、諦めていないのか。
正義の為なら何でもやっていいと――
本気で、そう信じ込んでいるのか。
( 《;;;||;;》)「ふざけるな!
そんなことさせるか!!
お前は今ここで、俺が倒す!!
お前の思い通りになんか、させやしない!!!」
はっきりと言える。
フォックスの実現しようとしている正義は、間違っていると。
確かに、自分を否定する者全てを消せば、
完全なる正義がそこには完成するのだろう。
だけど、そんなのは違う。
そんな方法でしか実現出来ない正義なんて、
絶対に間違っている……!
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:51:01.93 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「間違っている――か。
随分とまあ、嫌われたものだ。
では逆に私からも問おう。
君の考える『正義』とやらは、本当に価値のあるものなのかな?」
( 《;;;||;;》)「!?」
何だこいつは。
いきなり、何を言っている。
爪'ー`)「判り難いか。 ならば言い方を変えよう。
君の『正義』で人を救えると――本当に思っているのかね?」
フォックスが嫌らしい笑みを浮かべながら続ける。
爪'ー`)「仮に君が私を倒せたとしよう。
が、それでどうなるというのだ?
核ミサイルの爪痕は、既に地球に致命的なダメージを与えてしまっている。
ここで私を止めたところで、それだけはもうどうにもならない」
フォックスが両手を掲げながら俺を見据える。
爪'ー`)「汚された空気は人々を蝕み、汚された大地は草木を枯らし、汚された水は命を奪うだろう。
世界中で大規模な疫病と飢饉が発生し、
辛うじて生き残った者達の間で、残された資源を巡って争いが起きるだろう。
さあ、どうするのだ? 君の正義は、そんな人達をどうやって救う?」
( 《;;;||;;》)「…………」
俺は何も答えられなかった。
- 23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:52:02.49 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「出来る訳が無いな!
そんな荒廃した世界で、君の言う正義が通用する筈が無い
君の正義などより、パンの一切れ、米の一粒の方が遥かに価値があるのだ。!
つまりはそういうことだ!
君の正義など所詮その程度――
そんな脆弱なものが、私に敵うとでも思っているのか!」
フォックスが勝ち誇った様な声で言った。
こいつの言う通りだった。
俺の正義は、決して万能なんかではない。
今までにも、俺の正義では救えなかった人達が大勢居た。
ギコさんに、トラギコに、渡辺のお婆ちゃんに、原子力発電所の人達に。
皆、救うことが出来なかった。
フォックスが言ったことは正しい。
俺の正義なんかじゃ、人々の餓えや病を助けることなど出来ない。
ましてや、それを原因とする争いを止める権利など有りはしない。
俺の正義は、そんなちっぽけで、安っぽいものでしかなかった。
だけど、それでも――
( 《;;;||;;》)「――それでも、お前は間違ってる……!」
それだけは、はっきりと言うことが出来た。
フォックス、お前は間違っている。
そして俺は、そんなお前を絶対に許しはしない……!
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:53:38.83 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「……あくまで私を否定するか。
そうやって、最後まで正義のヒーローを気取るつもりかね?」
フォックスが呆れた様に溜息をついた。
いいや、フォックス。
それは違う。
それは違うぞ。
( 《;;;||;;》)「……お前は一つ勘違いをしている。
俺は、正義のヒーローなんかじゃない。
ちっぽけで、弱っちい、只の人間だ」
そう、俺は正義のヒーローなんかじゃない。
決して、正義のヒーローなんかになれはしない。
爪'ー`)「ならば何故抗う?
単なる人間が、ここまで私にたてつく理由は何だ?
世界平和の為か?
牙持たぬ人々の為か?
それとも、君の無力な正義の為か?」
フォックスはそう問いかけた。
- 27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:55:46.69 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「……いいや、そんなんじゃない。
平和の為だとか、みんなの為だとか、正義の為だとか――
そんな大層過ぎて訳の判らないものなんかの為になど、闘っちゃいない。
俺が闘うのは、俺個人の、大切なものの為だ」
大切だった。
ドス女が。
ロマネスクが。
渡辺のおばあちゃんが。
そんな人達と一緒に生きることの出来る日々が、
何より大事だった。
もし、それを傷つけるような奴がいたらただじゃおかない。
俺の周りの、小さな日常を護る為。
それが、俺の闘う理由だった。
だから、俺は正義のヒーローにはなれない。
- 29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:56:24.13 ID:LOFX/q7G0
- きっと、正義のヒーローは、
もっと広い範囲のものを護れる者の事を言うのだろう。
不変不朽の正義の為に、
命を懸けて闘う者のことを言うのだろう。
俺には、それが出来ない。
世界の人々全てを護る力も無いし、
正義に命を懸けるくらいなら、俺の大切な人達の為に命を懸ける。
ブーンやフォックスの様に、
自分の正義を認めない者を全て消し去ろうとするような強烈な自我も無い。
だから、俺は正義のヒーローなんかになれはしない。
だけど、それでもいい。
どんなに醜くとも、どんなにちっぽけでも、どんなに不様でも、
自分の大切なものさえ護れれば、それだけでいい。
フォックス、お前にはあるか。
自分の正義以外に、身命を投げ出せるようなものが。
俺には、ある。
確かに、俺にはお前のような確固たる正義は無い。
だけど、俺にはそれにも負けないようなものを、
この胸に持っている……!
- 36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:57:48.90 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「……どうやら、これ以上の問答は無意味のようだ。
御託の続きは、あの世でやり給え」
斬り捨てる様に言って、フォックスが俺をキッと見据えた。
( 《;;;||;;》)「!!!!!」
直後、ダンプカーに激突されたような衝撃を受けて、
俺の体は後ろの壁に激突した。
今のは!?
奴は、指一本動かしていない筈だ。
爪'ー`)「ツンの念動力は、君も知っているだろう。
あれの力は、クローン技術によって私の力を移植したものでね。
もっとも、私を力をあの出来損ないなんかと同レベルと思ってもらっては困るが」
フォックスが口の端を吊り上げながら言った。
( 《;;;||;;》)「……ふ――ざけるな!!!」
お前はそんな――
そんな非道なことまでやっていたのか。
やっていて――
何も良心の呵責を感じないのか。
- 38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:58:28.51 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
フォックスに突っ掛けた。
一切の戦略も戦術も無く、ただ、一直線に駆け抜ける。
爪'ー`)「ふん、無駄なことを」
フォックスがそう言うが早いか、
再び俺の体に見えない衝撃波が襲い掛かる。
( 《;;;||;;》)「ぐぅ――!」
両足に渾身の力を込めて、吹き飛ばされるのをこらえた。
しかしなおも不可視の力は俺を抑え込み、
その圧力で両足が地面に埋まる。
爪'ー`)「さて、いつまで持つのかな?」
( 《;;;||;;》)「ぐぅ――ぐ……!」
あまりの力に、膝が折れ、倒れそうになる。
だが、倒れない。
倒れる訳にはいかない。
こんなことで――これしきのことで倒れる訳には、いかないんだ……!
- 42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 21:59:40.56 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「ぐう――おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
渾身の力を両足に込めて踏み止まり、
蓄えた力を一気に解放させ、不可視の衝撃を真正面から押し返す。
衝撃を力ずくで押さえ込みながら
前へと進む。
前へ。
少しでも前へ。
あの糞野朗に、最高の一撃を叩き込む為に……!
( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
爪'ー`)「!?」
充分に加速がついたところで、俺は跳んだ。
そのまま右足を突き出し、
体全体を槍と化してフォックス目掛けて直進する。
( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおりゃあああああああああああああああああ!!!」
爪'ー`)「!!!!!」
会心のドロップキックが、フォックスの胸板に炸裂した。
手応えは、充分。
今度はフォックスが俺の蹴りの衝撃で吹き飛ばされ、
勢い良く壁に叩きつけられる。
- 45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:01:37.39 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「……どうだ!」
壁に激突し、倒れたフォックスを見やりながら俺は言った。
あれだけの蹴りをまともに受ければ、
いくら何でも無事では済まない筈だ。
が――
爪'ー`)「――ふむ」
フォックスはいささかも表情を崩すことなく立ち上がった。
馬鹿な。
効いていないのか!?
いや、そんな筈はない。
涼しい顔こそしてはいるが、痛みのせいかフォックスの呼吸は少し荒くなっている。
それに、今のでフォックスにも判った筈だ。
あいつの力では、俺には及ばないことは。
だが、何だ。
フォックスの、この余裕は何なのだ。
- 48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:02:18.45 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「予想以上に素晴らしい力だ。
ブーンを斃したのも伊達ではないということか」
服についた埃を払いながら、フォックスが俺を見た。
爪'ー`)「どうだね? ドクオ君。
今からでも遅くない。 私と共に私の正義を実現させないか?
役立たずのブーンとは違う、君なら真の正義のヒーローになれる筈だ」
( 《;;;||;;》)「な――――!」
フォックスの口から発せられた言葉は、
あまりに予想外のものだった。
( 《;;;||;;》)「ふざけるな!!
今更よくもそんなことが言えたもんだな!!!」
冗談じゃない。
そんな口車に乗るくらいなら、死んだ方がマシだ。
爪'ー`)「君にとっても悪い話ではない筈なんだがね?
君だって、君の正義の限界は感じている筈だ。
だが、私と共に来れば、絶対に揺るぐことの無い正義を約束しよう。
何、仲間を裏切ることなんか気にすることはない。
そんなもの、真の正義の前ではゴミカス同然だ。
迷うことなど何も無い。
完全無欠の正義のヒーローに、なれるのだぞ?」
ともすれば甘美にさえ聞こえる耳当たりの良い声で、
フォックスが俺に語りかけた。
だが、そんなもので俺の信念は揺るがない。
揺るぐ筈がない。
- 51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:03:04.19 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「……そうやって、ブーンも絡め堕としたのか」
爪'ー`)「そうだよ。
いや、彼は実に操縦し易かった。
盲目的に正義のヒーローに心酔していたからね。
そういう意味では実に有用だったが……
最後の最後でしくじるようでは底も知れたというもの。
全く、とことん期待外れな奴だったよ、ブーンは。
あれだけ莫大な費用をかけて強化改造施術を施してやったというのに」
心底落胆した風にフォックスは溜息をついた。
( 《;;;||;;》)「ざけんじゃねえ!!
あいつは――ブーンは、正義のヒーローを心の底から信じきってたんだぞ!!
その想いを利用するだけ利用して――
そんなブーンにかける言葉がそれだってのか!?」
俺には、最後までブーンの考え方を理解することは出来なかった。
だが、これだけははっきりと判る。
あいつも、正義のヒーローを信じていたのだと。
やり方は間違っていたのかもしれないが、
その想いだけは本物だったのだと。
それを――
その想いに付け込んで、道を踏み外させるなんて――
絶対に許せる筈があるものか……!
- 57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:04:48.31 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「ふう……やれやれ。
結局、君も私の正義を理解することは出来なかったか。
ならば仕方が無い。
最後のチャンスを与えたつもりだったのだが……
矢張りここで死んで貰おう」
( 《;;;||;;》)「――出来ると、思ってんのかよ」
さっきの闘いで確信した。
今の俺なら、フォックスに勝てる。
それは、向こうも判っている筈だ。
その筈――
その筈なのに、
この、心の奥底から湧き上がる不安は何だ?
爪'ー`)「確かに、今の私では勝てないだろうね」
と、フォックスが懐から何かを取り出した。
あれは――リモコン?
( 《;;;||;;》)「何だそりゃ、お得意の罠か小細工か何かか?」
爪'ー`)「いいや。 そんなちんけなものではないよ。
何、すぐに判る」
言って、フォックスがリモコンのスイッチを押した。
直後、フォックスの背後の壁に亀裂が入り、音を立てて横にスライドしていく。
- 62: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:06:04.33 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「奇形男――だったか。
彼は研究者としてはセントジョーンズに遠く及ばなかったが――
それでも彼は一つだけ、とてつもない程大きい成果を遺してくれた」
ゆっくりと、壁がスライドを続ける。
それと共に膨らんでいく不安感。
何だ。
一体、何が起ころうとしているんだ。
爪'ー`)「その成果とは、他でもない君だ、ドクオ君。
怪人製造施術とは違う、怪人の製造方法。
それこそが、新たなる力の導だったのだ……!」
ガコンと音を立て、壁が開ききる。
その奥から――
- 65: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:07:04.54 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「!!!!!!!!!」
俺は自分の目を疑った。
壁の奥から現れたそれ。
全ての光を飲み込むかのような、闇色の物体。
固体とも液体ともつかぬ、アメーバのような不定形の物体が、
おぞましく蠢きながらこちらに近付いてくる。
これは――
間違い無い。
俺は、これと同じものを以前確かに見ている。
これは、
これは――
- 72: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:09:23.14 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「そう! 怪人の出来損ない!
生物とも物質とも、有機物とも無機物ともつかぬ、
負の要素の集合体だ!!!」
フォックスが高らかに言い放った。
俺の中の何かが、
目の前の物体に呼応するかの様にざわめく。
これだったのか。
さっき感じた、言い知れぬ不安の正体は――!
だが、この量。
かつて、奇形男が俺にけしかけた時より、遥かに桁違いの量だ……!
- 79: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:10:21.93 ID:LOFX/q7G0
- 爪'ー`)「全く苦労したよ!
これ程大量の怪人の出来損ないを拵えるのは!
だがその苦労も、ようやく報われようとしうものだ!!」
フォックスが暗黒物質とでも言うべきそれに歩み寄り、
その中へと手を突っ込む。
そこから、闇がフォックスの中へと侵入していく。
( 《;;;||;;》)「ま、まさか、お前――」
爪'ー`)「そう、そのまさかさ! 君はこれの力を得ることで怪人となった!
ならば――私にも同じことが出来ない筈がない!!」
馬鹿な。
正気じゃない。
あの時の俺は、一歩間違えれば怪人の出来損ないの中に取り込まれてしまうところだったのだ。
それを、あんな量を取り込むなんて――
自殺行為としか思えない。
爪'ー`)「ククククク……!
さあ、怪人になれなかった塵芥共よ!
私を受け入れろ! そして、正義の実現の為の大いなる礎となるのだ!!」
そう叫んで、フォックスが全身を闇の中へと投げ込んだ。
出来る筈がない。
あれだけ大量の暗黒体を吸収するなど、どう考えても不可能だ。
だが――
だが、何故嫌な予感が頭を離れない……!
- 81: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:11:26.73 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「!?」
と、蠢く闇が突然大きく収縮し始めた。
その形を少しずつ、少しずつ小さくしていき――
やがて、一つの姿を形作る。
その姿は――
( 《;;;||;;》)「――――!」
( ▼w▼)
その姿は、かつての俺と全く同じ姿だった。
- 83: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:12:14.43 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「な――な、あ――」
驚きの余り声が出なかった。
馬鹿な。
こんなことがある筈がない。
こんなことがある筈がない……!
( ▼w▼)「ハハハハハハハハハ!
何を面食らっているのかね!?
別に驚く程のことでもないだろう。
かつて君の体に起こったことが、私の体でも起こった。
それだけのことじゃないか!」
狂ったようにフォックスが笑う。
以前の俺と同じ姿で。
以前の俺と同じ顔で。
その悪夢の様な現実が、俺に軽い眩暈を引き起こした。
- 91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:13:15.14 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「さて、続きと行こうじゃないか。
この力を試してみるには、これ以上無い絶好の機会だしな」
フォックスが一歩歩み寄る。
( 《;;;||;;》)「…………!」
フォックスが一歩前に出るのに合わせて、
思わず一歩後ろに下がった。
フォックスから放たれる、
圧倒的な負のオーラ。
こいつは、何だ。
何なんだ、こいつは。
怪人でも正義のヒーローでもない。
こいつは、もっとおぞましい何かだ……!
- 94: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:14:26.03 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「どうした、来ないのかね?
だったら、こちらから行かせてもらうぞ?」
( 《;;;||;;》)「う――うおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
フォックスの言葉を合図に、正面から突っ込んだ。
余計な事は考えるな。
フォックスがどんな力を身につけようが――
俺のやるべきことは何一つ変わらない。
何が起ころうと関係ない。
全力で、フォックスの野朗をぶっ潰すだけだ……!
( 《;;;||;;》)「おおおおりゃあァ!!」
思い切り振りかぶって、右のストレートをフォックスに叩き込んだ。
これ以上無いくらいの、必殺の一撃。
が――
- 99: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:15:35.40 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「!!?」
その一撃を受けても、フォックスはビクともしなかった。
何だ、今の手応えは!?
地面でも殴ったかの様だった。
まさか――
まさか、今のがまるっきり効いていないとでもいうのか――!?
( ▼w▼)「その程度かね? だとしたら、正直失望だな。
君も、ブーンと大差無かったということか」
( 《;;;||;;》)「――黙れェ!!」
今度は左腕でフォックスの顔面にパンチを放った。
( ▼w▼)「遅い」
だが、その拳がフォックスに届く寸前で、
左手首をフォックスに捉まれて止められる。
( 《;;;||;;》)「!!!」
慌てて腕を振り払おうとしたが、
フォックスの手が万力の様に俺の左手首を掴んだまま放さない。
まずい、このままじゃ――
- 107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:17:04.80 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「さて、今度はこちらから攻めさせて貰おうか」
そう言うが早いか、フォックスが俺の左手首を握ったままその腕を大きく振り上げた。
( 《;;;||;;》)「――!!」
それに合わせて俺の体が地面から離れる。
そのままフォックスは空中で俺の体を振り回すと、
無造作に地面に叩きつけた。
( 《;;;||;;》)「がはッ!!」
満足に受身も取れない状態で背中から地面に叩きつけられ、
思わず呻き声を漏らす。
( ▼w▼)「ははははは! どうしたどうした。 その程度か!」
しかしフォックスはそれだけで止めることなく、
幾度も幾度も連続で俺を地面に叩きつけ続けた。
( 《;;;||;;》)「ぐああああ!!」
何度も勢いよく地面に激突させられ、
俺の体のあちこちから痛みという形で悲鳴が上がる。
糞ッ!
何とかしないと、このままじゃ……!
- 112: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:17:41.18 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「そおら!!」
と、フォックスが何十度目か俺を地面に叩きつけたところで、
今度は俺を壁に向かって思い切り放り投げた。
( 《;;;||;;》)「がはァッ!!!」
常識外れの速度で壁にぶちあたり、
その衝撃で壁が大きく陥没した。
そのまま、俺のからだがずるずると地面にずり落ちる。
――強い。
まさか、これ程だなんて……!
- 115: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:18:16.65 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「さて、そろそろ終わりとしようか!!」
フォックスが向き直り、俺の体を正面に捉える。
そして、その腹部がゆっくりと開いていき――
( 《;;;||;;》)「!!!!!!」
俺は恐怖に全身を硬直させた。
フォックスの開いた腹部から覗く、
内臓器官による砲門。
やばい。
あれは、あれだけはやばい。
自分のことだったからこそ、
あれの怖ろしさは他の誰よりも知っていた。
あれだけは喰らってはならない。
何としても、逃げないと――
- 119: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:19:23.78 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「――――!!」
だが、さっきの攻撃のダメージからか、
恐怖により精神が萎縮してしまっているからか、
俺の体は指一本満足に動かすことが出来なかった。
何やってるんだ。
動け。
動け。
動かないと。
あれを何とかしてかわさないと――
- 123: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:20:05.07 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「死ねええええええええええええええええええええええ!!」
内臓器官の砲門から、暗黒の虹が俺に向かって幾重にも放たれた。
( 《;;;||;;》)「うわあああああああああああああああああああああああ!!!」
本能が動かない体を強制的に突き動かし、
俺の体が咄嗟に回避行動を取った。
だが、遅かった。
暗黒の虹は既に俺の目前にまで迫ってきてしまっており、
そのまま一気に俺の体を飲み込んでいく。
- 128: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:20:45.63 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「ぎゃあああああああああああああああああああああああああああああ!!!」
地獄の苦痛が俺に襲い掛かった。
全身の肉が瞬時に腐敗していき、
血液が沸騰しているかの様にボコボコと音を立てて泡立つ。
皮膚にはマグマの風呂に浸かっているかのような、
激しい痛みと熱さが走り、
骨髄が侵されて俺の精神までをも蝕んでいく。
一瞬が永遠に思えるような、
想像を絶する苦痛の嵐。
いっそ発狂してしまえば楽になれるのに、
それすら出来ない人外の体がこの時ばかりは憎らしかった。
- 134: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:22:18.39 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「あ……が……は……」
だが――ぞれでも俺は生きていた。
全身がボロボロに腐蝕し、体のあちこちが欠損してなお、
俺は生きていた。
寧ろ、あれを受けてまだ原形を保てていること自体が奇跡に等しいと言っても過言ではないだろう。
だが、それだけ。
俺にはもう、闘う力など、一欠片も残されてはいない。
ただ、生きているだけの状態でしかなかった。
( 《;;;||;;》)「…………」
俺はそのまま前のめりに倒れる。
倒れた拍子に、左腕が崩れ落ちたみたいだが、
もう痛みも何も感じない。
恐らく、俺の体は既に死んでいるも同然なのだろう。
- 141: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:23:48.77 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「ほう…… まだ生きているとは。
頑丈さだけは抜きん出ているようだな」
フォックスが倒れた俺を見下ろし、
勝利を確信した表情で笑う。
( ▼w▼)「だが、そこまでだ。
これで終わりだ、正義のヒーローになれなかった男よ。
せめてその体を取り込み、私の力の一部となって消え去るがいい!」
フォックスの体から闇が噴き出し、
俺の体を包み込んでいく。
( 《;;;||;;》)「…………」
俺の体が、心が、フォックスの闇の中へと取り込まれていく。
ごめん、ロマネスク、ドス女。
約束、守ることが出来なかった。
不甲斐なくて、本当にごめん――
……そこで、俺の意識は完全に暗い闇の底へと沈没していった。
- 148: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:24:52.28 ID:LOFX/q7G0
上も下も右も左も北も南も東も西も過去も未来も無い空間。
底抜けの、虚無の世界。
色の無い闇の世界。
そんな空間を、俺は漂っていた。
闇の中へ、少しずつ俺という存在が飲み込まれていく。
――俺は、誰だ?
もう、自分の名前すら思い出せない。
自分が何者だったのかも、判らない。
- 156: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:26:09.36 ID:LOFX/q7G0
- 何だろう。
俺には、何か、とても大切なことがあった筈なのに、
それも、思い出せない。
……どうでもいい。
思い出せないということは、つまりはその程度のことだったのだろう。
それか、思い出さない方が幸せなことなんだろう。
そう、どうでもいい。
このまま、ゆっくりと消え去っていくのも、悪くは無いのかもしれない――
- 168: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:27:55.28 ID:LOFX/q7G0
* * *
正義のヒーローに助けを求めた少年がいた。
その少年は正義のヒーローに憧れ、
憧れて、憧れて――
いつまでも、正義のヒーローが助けに来てくれるのを待ち続けた。
だが、彼の前に正義のヒーローが現れることは無かった。
正義のヒーローは彼の前にやっては来なかった。
だから彼は自分が正義のヒーローとなることで、
自分自身を救おうとした。
そうすれば正義のヒーローが自分を助けたことになると、
愚かにも、哀れにも、そう信じ続けて生きてきたのだ。
- 171: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:28:21.47 ID:LOFX/q7G0
- そんなものは欺瞞に過ぎぬと、
虚構に過ぎぬと、
徒労に過ぎぬと判っていながら。
それでも、少年はそうするしかなかったのだ。
時は過ぎ、少年は青年となった。
だけど、
正義のヒーローは、彼を救わなかった。
彼は、正義のヒーローにはなれなかった。
彼の望みが叶うことは、決してなかった。
- 176: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:29:23.62 ID:LOFX/q7G0
* * *
「…………」
T都2ちゃん区VIP市のとある民家。
ごく普通の中流家族が住むその家の一室で、
家族が身をすり合わせながら震えていた。
フォックスによる大破壊は全世界に厄災を撒き散らし、
人々を恐怖と絶望のどん底へと叩き落とした。
この家の家族も例外ではなく、
一家揃ってただ明日をもしれぬ現実に打ち震えるばかりだった。
- 180: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:30:04.93 ID:LOFX/q7G0
- (……大丈夫。 きっと、大丈夫……)
いや、一人だけ、希望を失っていない者がいた。
それはまだ幼い、一人の少女だった。
両親が絶望に打ちひしがれる中で、
彼女だけはまだ希望を捨てていなかった。
(助けてくれる…… きっと、あの人が助けに来てくれる……!)
少女はペンダントをぎゅっと握り締め、強くそう信じた。
そのペンダントは、かつてドクオが彼女と一緒に探し出したものだった。
(絶対、何とかしてくれる。
マスク仮面さんが、正義のヒーローが絶対に助けてくれる……!)
少女は、そう信じ続けていた。
- 190: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:31:36.96 ID:LOFX/q7G0
* * *
俺の心の片隅に、何かが灯る。
何だ、これは。
暖かい――
そしてとても、懐かしい。
これは一体何なのだ?
どこかで、俺は、これを――
- 197: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:32:30.17 ID:LOFX/q7G0
* * *
少年は、正義のヒーローになれなかった。
少年の夢は叶わなかった。
だが、彼のしてきたことは無駄だったのだろうか?
無意味だったのだろうか?
――違う。
それは、きっと違う。
彼は残していた。
沢山の人達の中に、確かに、残していたのだ。
- 206: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:33:26.66 ID:LOFX/q7G0
(,,゚Д゚)「へばってんじゃねえよ。
お前は、正義のヒーローなんだろ?
俺はお前に任せたんだぜ、悪党共をみんなぶっ倒してくれって。
その約束、破るつもりか?」
不正を許さず、自分の中の素朴な正義感を曲げることなく、道半ばで殉じた男に、
- 211: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:34:04.68 ID:LOFX/q7G0
(=゚д゚)「……俺はお前が気に入らなかったラギ。
正義のヒーローは俺を助けはしなかったから、
そんなものを目指してるお前が嫌いで仕方がなかったラギ。
――だけど、違ったラギね。
お前も俺と同じで、正義のヒーローに助けてもらえなかったんラギね」
救いの手が差し伸べられぬ世界に絶望し、金に執着し、
しかし誰よりも肉親を愛する優しい心を持っていた男に、
- 217: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:35:02.93 ID:LOFX/q7G0
从'ー'从「頑張って、マスク仮面さん。
あなたは正義のヒーローではないのかもしれない。
だけど、そんなことは大した問題ではありません。
信じて。 あなたは、正義のヒーローなんかより、ずっと素晴らしい人間なのですよ」
慈愛に満ちた心を持ち、最後まで人間として生き続けた真に美しい老婆に、
- 218: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:35:41.57 ID:LOFX/q7G0
( ФωФ)「その程度かマスク仮面!
我輩以外の者に破れるなど、断じて許さんぞ!!」
悪の一文字をその身に背負い、
だからこそ誰よりも正義のヒーローの素晴らしさを知っている宇宙大魔王に、
- 224: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:36:10.91 ID:LOFX/q7G0
イ从゚ ー゚ノi、「立ち上がれ、マスク仮面!
他の誰の為でもない、正義のヒーローを信じるお前の為に!!
信じて、闘い続けてきた自分の為に、お前は立たねばならぬ!!」
孤独に心侵され、それでもなお気高く生きようともがき続ける女に、
- 232: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:37:08.07 ID:LOFX/q7G0
「「「「「「負けるな、マスク仮面!!」」」」」」
彼らの中に、確かに、残していたのだ。
- 248: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:39:06.00 ID:LOFX/q7G0
ノパ听)「そうだ。 それこそが、お前の積み上げてきたものだ」
少年は正義のヒーローにはなれなかった。
少年は、正義のヒーローなんかではなかった。
だが、彼が正義のヒーローを信じ、
それに向かって進み続けてきた中でしてきたことは、
決して無駄ではなかった。
彼は、残していたのだ。
正義のヒーローという、希望を。
- 252: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:39:41.34 ID:LOFX/q7G0
- 彼は正義のヒーローなんかではない。
だが、彼が人々の心の中に創り上げたものは、
紛れも無い本物の正義のヒーローに違いなかった。
辛い時、苦しい時、どうにもならなくなった時、
そんな絶体絶命のピンチに必ず助けに来てくれる。
そう信じることが出来る、正義のヒーローマスク仮面という希望。
その輝きだけは、本当に本物だったのだ。
- 262: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:40:37.49 ID:LOFX/q7G0
ノパ听)「お前は正義のヒーローなんかじゃあない。
だけど、だからこそこんなにも多くの人達と支え合うことが出来た。
それは正義のヒーローには無い、お前だけの強さだ。
それがある限り、お前は誰にも負けやしない!」
正義のヒーローなんか世界の何時何処にも存在しない。
かつて少年はそう嘯いた。
だが、正義のヒーローは、いた。
少年や、その周りの人達の心の中に、確かに存在していた。
正義のヒーローは、やって来ていた。
- 286: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:42:55.43 ID:LOFX/q7G0
* * *
――そうだ。
そうだったんだ。
今、はっきりと判った。
正義のヒーローは、明確な形を持つ何処かの誰かなんかじゃあない。
誰の心の中にでもある、ほんの些細な希望だったんだ。
かつて俺がテレビの中の正義のヒーローに憧れたように、
ピンチの時には助けてくれると信じたように、
そう思える希望こそが、正義のヒーローの正体だったんだ。
いくら探してもいない筈だ。
そもそも正義のヒーローなんてものは、
自分の心の中にこそ存在するのだから。
――だからきっと、正義のヒーローはどこにでもいる。
正義のヒーローを信じる者がいる限り、
正義のヒーローの助けを待つ者がいる限り、
いつだって、どこにだって、ちゃんといてくれてるんだ……!
- 289: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:43:37.85 ID:LOFX/q7G0
- ――いける。
力が、湧いてくる。
自分は何をさっきまでへこたれていたのか。
自分は正義のヒーローなんかじゃないからどうだというのか。
俺には正義のヒーローにも負けないくらいのものを持っていたんじゃないか。
こんなにも多くの人と、支え合って生きていたんじゃないか。
(#'A`)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
体が、心が燃え上がる。
立ち上がれと、闘えと、
俺の中の何かが叫び声を上げる……!
(#'A`)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
俺の中で力が膨れ上がり、炎となって爆発した。
- 325: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:47:16.47 ID:LOFX/q7G0
* * *
( ▼w▼)「ククククク……
フハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
ドクオを取り込んだフォックスが高らかと笑い声を上げた。
( ▼w▼)「所詮この程度か!
余りに貧弱! 余りに脆弱!
矢張り、私こそが絶対の正義ということだ!!」
顔に手を当て、大声で笑い続ける。
( ▼w▼)「さて、次はどうしてくれようか!
そうだ、まずは手始めにこいつの仲間を皆殺しにして――
!!?」
と、そこでフォックスの動きが止まった。
体の内側から感じる、夥しい熱量。
それが、フォックスの内部を焼いていた。
- 329: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:47:44.97 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「馬……鹿なッ!
何だ、何だこれはあァ!!!」
胸を押さえながらフォックスが体を折る。
熱は更に勢いを増し、
フォックスが押し込められない程にまで増大していく。
( ▼w▼)「ぐあ……!
がああああああああああああああああ!!」
フォックスの胸を押し広げて、金色の戦士が姿を現す。
( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」
そしてその戦士は完全にフォックスから抜け出し、
赤いマントをたなびかせながらフォックスの前に立つのだった。
- 341: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:48:48.26 ID:LOFX/q7G0
* * *
( ▼w▼)「馬鹿な! 有り得ない!!
貴様は完全に取り込んだ筈だぞ!!
何故だ!?
それが――それが正義のヒーローの力だとでもいうのか!!?」
フォックスが俺に叫ぶ。
( 《;;;||;;》)「――フォックス、お前は一つ勘違いをしている。
俺は、正義のヒーローなんかじゃない。
ただの、ちっぽけで、惨めで、弱い人間だ」
そう俺は正義のヒーローではない。
だけど、
だけど――
( 《;;;||;;》)「だけど、正義のヒーローはここにいる!
ここにいて、俺に力を貸してくれている!!」
そう言って、俺は自分の胸を親指で指差した。
フォックス、お前にはあるか。
ここに、お前の心の中に、
正義のヒーローという希望が。
溢れるくらいの、熱い想いが……!
- 350: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:49:57.61 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「戯言を!!
何が正義のヒーローはここにいる、だ!!
そんなものは全てまやかし!!
私が――私こそが唯一絶対の正義のヒーローなのだ!!
その私が――負ける筈など無い!!!」
フォックスが吼え、
再び俺に向けて悪魔の極光を生み出す内臓器官による砲門をこちらに向けた。
無駄だ、フォックス。
そんなもので俺は斃せない。
斃せはしない。
もう、さっきまでの俺とは違う。
今の俺は――誰にだって負けやしない。
( 《;;;||;;》)「いいや、お前は負ける。
だけど、お前を倒すのは俺じゃない。
お前を倒すのは――」
それは他でもない、かつて薄っぺらいハリボテに過ぎなかった正義のヒーロー。
だが、今はもうハリボテなんかではない。
皆が、かつてハリボテだったそれに、大きな意味を与えてくれたからだ。
その与えてくれた意味が、俺に力を貸してくれている。
だからきっと、今ここにいるのは俺であって俺ではない。
今の俺は、今だけは、ドクオではなく――
- 362: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:51:01.03 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「――お前を倒す者の名は、マスク仮面!!
どこにでもいる、正義のヒーローだあああああァァァァァァァァァァァァ!!!」
駆けた。
砲門を向けられていることになど意にも介さず、一直線に。
走る。
全力で。
奴をぶっ倒す。
それだけの一念で突っ走る!!
( ▼w▼)「ふゥざァけぇるぅなああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
フォックスの砲門から暗黒の虹が放たれた。
構わない。
どんな攻撃だろうと正面から突破する。
もう、逃げたりしない。
敵からも。
自分からも。
- 377: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:52:32.12 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!」
暗黒の虹を正面から受けながら突き進む。
皮膚が腐り、骨髄が焼ける。
それでも、俺は走り続けた。
( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
一撃を。
ただ、一撃を。
ギコさんのように真っ直ぐな、
トラギコのように熱い、
渡辺のおばあちゃんのようにしなやかで、
素直ヒートのように気高く、
ロマネスクのように力強く、
ドス女のように鋭い、
一撃を。
俺には無い強さを持つ、
俺を支えてくれるみんなの力を。
その力を、最後にもう一度だけ貸してくれ……!
- 386: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:53:37.90 ID:LOFX/q7G0
- ( 《;;;||;;》)「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」
思いっきり右腕を振りかぶる。
自分の中の全てを、
みんなが俺に託してくれている全てを。
かつて俺がテレビの中に見ていた正義のヒーローの必殺技へと変えて、
右拳に込めて叩き込む!!!
( 《;;;||;;》)「マスクパァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァンチ!!!!!!!!!!!!」
一撃。
その一撃が、確かに、フォックスを捉えた。
- 394: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:54:42.15 ID:LOFX/q7G0
- ( ▼w▼)「なああああああああああああああああああああああああああああああ!!?」
顔面に俺の拳を受けたフォックスが、
人形のように弾け跳ぶ。
( ▼w▼)「馬鹿な!! この私が!!
この私がああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
フォックスの体が砕け散り――
そして、粉々になって虚空へと散らばっていった。
- 402: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:55:48.09 ID:LOFX/q7G0
('A`)「…………」
フォックスを倒したことを確認した俺は、
その場で前のめりに倒れた。
体が、動かない。
今ので、完全に力を使い果たしてしまったようだ。
('A`)「……へへ……やったぜ……」
力無く、しかし精一杯の笑顔を作って笑う。
やった。
俺は、ついにやったんだ。
これで、全部が終わって――
('A`)「…………?」
と、いきなり地面が揺れ始め、部屋の中が崩れ始めた。
これは?
基地が、崩壊していっている?
畜生――
フォックスが死ねば、ここも自爆するような仕掛けにしてやがったのか。
最後の最後まで、はた迷惑な奴だ。
- 419: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:57:10.90 ID:LOFX/q7G0
- ('A`)「く――」
何とか起き上がろうとするも、俺の体はぴくりとも動かなかった。
参ったな、これは。
肝心な所で――絶体絶命ってやつか。
「……どうする?」
どこかから、真紅の正義のヒーローが語りかけてきた。
('A`)「どうする、って……?」
質問の意図が掴めず、思わず聞き返した。
「今なら、人として死ぬことが出来るってことさ。
どうするんだ?」
死ぬことが出来るって――
それじゃ、ここで生きるのを諦めろってことかよ!?
そんなこと、出来る訳が――
- 424: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:57:53.74 ID:LOFX/q7G0
「……お前の体は、もう人間には戻れない。
つまり、お前はこれから先、この世界でずっと生きていかなきゃならないってことだ。
核ミサイルでズタズタになり、滅びに向かっていくこの世界で。
恐らく、お前はその世界で目を覆いたくなるような光景を見続けることになるだろう。
正義など何の意味も為さない、生きる為が故の人々の殺し合いを」
……そうだった。
フォックスを倒せば、それで全てが終わりな訳じゃなかった。
重要な問題は、まだ一つも解決していないんだった。
「……お前に、そんな世界で永遠にも等しい時間を生きていく自信があるのか?
もし無いのなら、ここで死ぬ方がきっと幸せだぞ。
この世界でお前を待っているのは――地獄だけだ」
僅かな資源を奪い合い、殺し合う人々。
餓えや疫病で、失われていく命。
それら全てを救うことなど、出来はしないのだろう。
未来には、絶望しか残されていないのだろう。
それでも――
- 432: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 22:59:15.12 ID:LOFX/q7G0
- ('A`)「――それでも、俺は生きていこうと思う。
正義のヒーローという希望を、信じ続ける」
それが俺の出した答えだった。
俺は生きなければならない。
外では、ロマネスクとドス女が、俺が帰るのを待ってくれている。
俺には、帰る場所がある。
約束したんだ。
生きて帰ると。
だから、俺は生きて、帰らなければならない。
それに――
それに、ドス女を独りぼっちになんか出来はしない……!
- 438: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:00:05.90 ID:LOFX/q7G0
「……そうか」
素直ヒートはそう呟いて、寂しそうに笑った。
「だったら、早く行きな。
お前が来るのを、待ってる奴がいるんだろ?」
言って、素直ヒートが俺に手を差し出す。
('A`)「――ああ!」
俺はその手を取り、ゆっくりと立ち上がった。
- 444: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:00:56.00 ID:LOFX/q7G0
* * *
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
銀は横たわったまま、フォックスの秘密基地が崩れていく音を聞いていた。
イ从゚ ー゚ノi、「……ここまでか」
そう言って、大きく息を吐く。
基地から逃げ出そうにも、
満身創痍の体は全く言う事をきいてくれない。
ここで、死ぬのか。
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
ちらりと、セントジョーンズの死骸を横目で見た。
こいつの言う通りだった。
自分は、結局孤独のまま。
こうして、独りぼっちのままで死んでいくのだ。
恐怖は、無い訳ではなかった。
だが、不思議と銀の心は落ち着いていた。
- 451: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:01:56.12 ID:LOFX/q7G0
- これでいい。
自分は確かに独りぼっちかもしれないが、
この心には、確かに思い出が残っている。
ドクオと駆け抜けた、
短い、しかし今まで生きてきた中で一番密度の濃かった、
あの日々の思い出が。
その思い出を胸に抱いて逝けるなら、
このまま死ぬのだとしても、そんなに悪くはないと。
そう、思うことが出来た。
ああ――
それでもただ、心残りがあるとすれば――
イ从゚ ー゚ノi、「……最後まで見届けることが出来んですまなんだな、ドクオ」
それだけが、唯一の心残りだった。
仕方が無い。
元より、ドクオと自分とは違う生き物なのだ。
ならばこのまま――
- 463: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:03:12.92 ID:LOFX/q7G0
- 「――ス女!」
どこかから、声が聞こえてきた。
これは、
この声は――
('A`)「ドス女!!」
忘れる筈も無い。
紛れもない、ドクオの声だった。
イ从゚ ー゚ノi、「ドク、オ――?」
掠れるような声で、その名前を呼ぶ。
('A`)「助けに来たよ、行こう!!」
そう言って、ドクオは銀を支え起こした。
来て――くれたのか。
自分を助けに、来てくれたのか……!
- 468: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:03:38.41 ID:LOFX/q7G0
- イ从; ー;ノi、「…………!」
銀はもう、少しも孤独など感じてはいなかった。
一人ではなかった。
自分は、独りぼっちなんかじゃなかった。
それが、嬉しかった。
嬉しくて――何も言葉にすることが出来なかった。
イ从; ー;ノi、「――ああ。 行くぞ、マスク仮面!!」
銀の瞳からは、涙が止めどなく溢れ続けていた。
- 474: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:04:44.48 ID:LOFX/q7G0
* * *
( ФωФ)「…………」
地響きの音に、ロマネスクは目を覚ました。
何だ、この音と揺れは。
一体何が――
( ФωФ)「なッ!?」
見ると、フォックスの秘密基地が今にも崩れ落ちようとしていた。
何だこれは!?
一体いつの間にこんなことになっている!?
自分は、どれくらいの間気を失っていたのだ!?
いや、そんなことより、
すぐにマスク仮面達を助けに――
- 480: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:06:07.56 ID:LOFX/q7G0
「あいつなら大丈夫さ」
( ФωФ)「!?」
どこからか、聞き覚えのある声がした。
「だから、安心して帰りを待っててやりな。
あいつは、お前が信じた男だろ?」
( ФωФ)「…………」
そうか――
そうだったな。
あの男は、自分が認め、お前が力を貸した男なんだったな。
その男が、約束を違える筈がない。
戻ってくると、誓ったのだ。
ならば、あの男は必ず帰ってくる。
- 492: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:07:28.28 ID:LOFX/q7G0
- ( ФωФ)「…………」
音を立てて秘密基地の出入り口が崩れ落ち、
大きく砂煙が上がる。
その砂煙の中らから――
( ФωФ)「……全く、冷や冷やさせる」
砂煙の中から、二つの人影が姿を現す。
互いに肩を支え合って、
ロマネスクに向かってくる一組の男女。
その姿を見て、ロマネスクは自分でも気が付かないうちに、
僅かに口元を綻ばせるのだった。
- 499: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:08:53.23 ID:LOFX/q7G0
('A`)「……本当に、行ってしまうのか?」
ロマネスクの秘密基地の前、
宇宙船『漢祭り』に荷物を積み込み、
地球を旅立とうとするロマネスクに、
俺は半ば無駄と知りつつも声をかけた。
フォックスを倒し、この世界から怪人が消えて既に二週間。
ロマネスクの作った放射能除去装置、
コスモクリーナーDによって核ミサイルによる放射能汚染は無くなったが――
予想通り、世界のあちこちでは暴動や紛争が頻発し、飢饉や疫病が人々を襲った。。
今、こうしている間にも、
地球のどこかでは万単位で命が失われていっている。
- 508: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:09:58.58 ID:LOFX/q7G0
- ( ФωФ)「ああ。
因果な成り行きでお前を手伝うことになったが――
それも、もう潮時だろう。
あとは、お前達でやるのだ。
我輩の役目は、ここまでだ」
最後の荷物を積み込んで、ロマネスクは『漢祭り』の搭乗口に足をかけた。
( ФωФ)「最早この星に、我輩が支配するだけの価値は無い。
ならば、さっさと次に征服する星を探す方が効率的なのは自明の理。
そもそも、この我輩がこの星の者達に義理立てする道理も無い」
――ロマネスクの言う通りだった。
元々ロマネスクは、この星とは何の関係も無い宇宙人なのだ。
そんなロマネスクが、ここまで手を貸してくれただけでも僥倖というもの。
これ以上、ロマネスクがここに留まる理由は無い。
これ以上、ロマネスクを引き止める理屈は無い。
ロマネスクが言ったように、
この星の未来は、この星の命である俺達で切り開いていかなければならないのだ。
- 517: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:11:12.35 ID:LOFX/q7G0
- 「ワンワンワン!(お待ち下さい、ロマネスク様!)」
――と、今にも宇宙へ飛び立とうとしていたロマネスクの下に、
ジョナサン他何匹もの小動物達が駆け寄って来た。
( ФωФ)「何の用だ?
見送りは無用と言った筈だぞ」
ロマネスクが、冷たい口調でジョナサン達に告げる。
「ワンワンワンワンワン!(ロマネスク様、私達もご一緒させて下さい!)」
ジョナサン達が縋るような声で哀願する。
しかしロマネスクはそんなジョナサン達を見下ろし、
( ФωФ)「ならん。
一度旅立てば、二度とこの星の土を踏む事は叶わぬのだぞ。
お前達に、そこまで付き合わせる訳にはいかん」
そう、突き放すように言った。
「ニャーニャーニャー!(もとよりそのような事は覚悟の上です!)」
なおもジョナサン達が食い下がる。
- 527: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:11:57.87 ID:LOFX/q7G0
- ( ФωФ)「…………」
ロマネスクは一瞬怒ったような仏頂面で顔を強張らせ、
ジョナサン達を睨んだ。
だが、ふっとその表情を少しだけほぐして、
( ФωФ)「……いいか、ジョナサン、ヴィクトリア、トーマス、ダニエル、ヴィヴィアン、ニコラス、
エリック、アーヴェルト、ユーベック、ブラド、デビット、ジャスミン、クインツ、ノルヴ、カイン、
お前達には、重要な任務がある。
――いつかこの星が、再び我輩が支配するに足りるだけの価値を取り戻した時、
我輩は、再びこの星に戻ってくる。
そしてその時、有能な臣下と有用な設備が必要となる。
だからその時まで、お前達にはこの基地を護っていてもらいたいのだ。
この星で生き、子を作り、次の命を育み、
再び我輩が戻るまで代々この基地を守護し続けるのだ。
これは、お前達にしか出来ない、お前達だからこそ出来る、重要な任務だ」
その言葉に、俺とジョナサン達は一斉に言葉を詰まらせた。
('A`)「――ロマネスク、それじゃあ……!」
( ФωФ)「勘違いするな。
これは言ってみれば死刑宣告だ。
お前達が苦難を乗り越え、再びこの星に活力と希望が戻ったその時こそが、
この星が絶対の悪たる我輩に支配され、今度こそ阿鼻叫喚の地獄と成り果てる時だ。
その時、お前との決着もつくことになるだろう。
我輩の勝利という形で、な」
ロマネスクが、ニヤリと不敵に笑う。
今、ロマネスクは確かに言った。
必ず戻ってくると。
はっきり、そう言ったのだ。
- 538: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:13:49.90 ID:LOFX/q7G0
- ('A`)「ああ――見てろ、ロマネスク。
必ず、この星をもう一度元通りに――
いや、前よりもっと素晴らしい星にしてみせる!
お前が驚いてひっくり返るくらい、凄い星にしてみせる!!
その時は、逃げずにちゃんとやって来いよ!!」
( ФωФ)「フッ、誰に物を言っている。
この我輩が逃げるなど、ある筈があるまい」
そう言って、俺とロマネスクは軽く拳の先を突き合わせた。
約束しよう、ロマネスク。
いつか、必ず、また出会うと。
俺は、お前に会えたからここまで来れた。
お前がいたから、ここまで闘ってこれた。
お前に会えて、本当によかった。
だから――いつかまた会うその時まで、
少しだけ、さよならだ。
( ФωФ)「去らばだマスク仮面!!
次に合う時まで、首を洗って待っているがいい!!!」
そう言い残して、ロマネスクは宇宙へと旅立っていくのだった。
- 550: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:15:31.03 ID:LOFX/q7G0
イ从゚ ー゚ノi、「……行ってしまったな」
('A`)「……ああ」
ロマネスクの去って行った空を見ながら、
俺とドス女は呟くように言った。
イ从゚ ー゚ノi、「……お主はこれからどうするのじゃ、マスク仮面?」
ドス女が俺に視線を移してそう問うてきた。
('A`)「……俺は、これから世界中を旅しようと思う。
世界では、今沢山の助けを求めている人達がいるから……」
イ从゚ ー゚ノi、「……その者達全てを、助けることが出来ると思っておるのか?」
ドス女が意地の悪い質問を投げかけてきた。
でも、俺の答えは決まっている。
信念は、決まっている。
- 559: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:17:18.66 ID:LOFX/q7G0
- ('A`)「……無理なんだろうな、きっと。
世界の人々全てを助けるなんて、奇跡が起きても有り得ないんだと思う。
多分、正義のヒーローでも、そんなことは不可能なんだろう。
ましてや正義のヒーローでも何でもない俺なんかじゃあ、可能な筈がない。
現に、俺は身近な人々ですら、まともに助けてこれなかったのに」
イ从゚ ー゚ノi、「なら、どうして――」
('A`)「でも、俺はそれでもやっていこうと思うんだ。
助けを求めても、助けが来ない辛さは、誰よりも知っているから。
そんな思いをしている人を、放っておくなんて出来ないから――」
きっとこれは正義でも何でもない、
俺一人の個人的なエゴでしかないのだろう。
それでも、
それでもそのエゴで誰かを助けることが出来るのなら。
俺みたいな思いをする人が、一人でも減らせるのなら。
なら、やっていくしかない。
幸か不幸か、俺には時間だけは、それこそ無限にあるのだから。
- 568: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:19:18.47 ID:LOFX/q7G0
- イ从゚ ー゚ノi、「――傷つくぞ、マスク仮面。
お主は、永遠の命というものの恐ろしさを、全く判っていない。
お前の旅先で、いくつもの命がお前の手をすり抜け、
お前の横を通り過ぎていくじゃろう。
きっとその時、お主は後悔する。
それでも――
それでも、お主はやろうというのか?」
ドス女が俺を正面から見据え、
強い口調でそう訊ねた。
判ってる、ドス女。
でも、多分大丈夫。
俺は、最後まで立って、進んで行ける。
その強さは、他でもない、
ギコさんが、
トラギコが、
渡辺のお婆さんが、
ロマネスクが、
――そして、銀、
あなた達が、くれたんだ。
だから――
だから俺は、はっきりと答えた。
- 576: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:20:35.90 ID:LOFX/q7G0
- ('A`)「――ああ!」
迷いはある。
不安はある。
だけど、俺はそう答えた。
そう、答えることが出来た。
('A`)「……だから、銀。
お前にも、一緒に手伝って欲しい」
イ从゚ ー゚ノi、「――――!」
俺の言葉に、銀が息を詰まらせた。
- 586: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:21:33.44 ID:LOFX/q7G0
- ('A`)「俺一人じゃ、どうしようない時がいっぱいあると思う。
でも、そんな時お前がいてくれたら、きっと何とかなるって思えるんだ。
一緒に悩んで、一緒に苦しんで、一緒に泣いて――
そして、最後まで一緒に笑っていきたいんだ。
だから――」
だから、
('A`)「……だから、これからも、
一緒の道を、歩いていって欲しいんだ」
それが、今の俺に言える、
精一杯の言葉だった。
イ从゚ ー゚ノi、「……馬鹿者……」
('A`)「え?」
ドス女が何か小声で呟いたが、うまく聞き取れなかった。
イ从゚ ー゚ノi、「――いいや、何でもない。
まあ、確かにお主一人で突っ走られて、
余計に面倒なことを起こされては困るからな。
もう少しだけ、お主の進む道を見ていてやろう。
お主がこれから何を選び、何になっていくのかを、見せてもらうとしよう」
('A`)「それじゃあ……!」
イ从゚ ー゚ノi、「うむ、今後ともよろしく頼むぞ、マスク仮面」
そう言って、ドス女はにっこりと微笑んだ。
ありがとう、ドス女。
こんな俺でも、一緒にいてくれて。
こんな俺を、支えてくれて。
だから、俺は頑張れる。
胸を張って、生きていくことが出来る。
- 591: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/17(土) 23:23:02.92 ID:LOFX/q7G0
- イ从゚ ー゚ノi、「――さあ、ならばこんな所でぐずぐずしている暇は無いぞ、マスク仮面。
すぐにでも、ここを発つぞ!」
('A`)「――ああ!」
そう言って、俺達は前へと進み始めた。
これから、いくつもの困難が俺達を待ち受けているのかもしれない。
死にたくなるくらい後悔することもあるのかもしれない。
世界を呪うことがあるのかもしれない。
未来には、絶望しか残されていないのかもしれない。
だけど、それでも俺は一つずつ積み重ねていく。
泣いて、苦しんで、悩んで、諦めて、絶望して――
それでも、少しずつでも、積み重ねていくしかないんだと思う。
それしか、出来ないんだと思う。
そして――
それでいいんだと思う。
何故なら、
俺は、
正義のヒーローにはなれないのだから――
〜最終話、『ドクオは正義のヒーローになれないようです』 終
次回、エピローグ 『終わらない日々とどこまでも続く物語』〜
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