ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:21:43.81 ID:t80tMjVi0
番外編『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 最終話


月明かりの下、二つの影が狂った様に踊っていた。

一つは、銀色の人狼。
一つは、少年。

ミ,,゚(叉)「ジャッ!!」
手の甲に刀の突き立てられている銀狼の右腕が、空を横に薙いだ。

( ´∀`)「!!!」
バク転してそれを回避するモナー。

回避と同時に、銀狼に向かって矢を放つ。
しかしその矢は銀狼の急所に命中することはなく、
その太い左腕で受け止められた。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:23:37.52 ID:t80tMjVi0
( ´∀`)「ハハッ――!」
一秒後死んでいてもおかしくない、
そんな絶体絶命の状況で――
なおも、モナーは笑っていた。

何という強さ。
何という美しさ。
まさにこの世のものならざる、人外故の領域。

ああ――
なんて――

本当に、
何ていい女なんだ……!



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:24:34.39 ID:t80tMjVi0
( ´∀`)「最高だよ、アンタ!
      今までの誰より、ずっとイイ!!」
言った瞬間、モナーの頭上から唐竹割りに、
銀狼の一閃が降りかかる。

いかにモナーの弓が金属で出来ているとはいえ、
まともに受ければ弓ごと叩き斬るだけの速度と重さを秘めたその一撃。

だからこそ、モナーはその一撃をただ弓で受けるのではなく、
刀身が弓に触れた瞬間、力点をずらして受け流す。

( ´∀`)「これは殺し合いじゃねェ! 闘いでもねェ!
      そう、これは告白だ!!
      俺の『魔弾』の一発一発が、愛の言葉を載せた恋文だ!!!」
暴風の様な銀狼の攻撃をいなしながら、モナーが弓に矢を番えた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:25:37.84 ID:t80tMjVi0



ミ,,゚(叉)「シィィィィッ!」
銀は一瞬でモナーの懐まで踏み込み、モナーに後ろ回し蹴りを放った。
しかし、その渾身の蹴りはモナーに命中することなく空を切り、
代わりに無防備になった自分に必中必殺の矢が飛んでくる。

ミ,,゚(叉)「チィッ!」
完全に回避出来ないと判断した瞬間、体を捻じって急所だけは外す。

おかしい――

闘いながら、銀はどこか違和感を感じていた。

モナーの攻撃――
『魔弾』と言ったか。

銀がどう避けようと、モナーがどういう体勢だろうと、
狙い済ましたかのように、矢が自分目掛けて飛んでくる。
その命中率は、最早単に『腕が良い』というだけでは説明のつかない領域だ。

狙った場所に正確に射撃することが出来る。
成る程モナーには、その技量があるのだろう。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:26:35.64 ID:t80tMjVi0
しかし動く目標に対しては、狙った場所に当てるという技術だけでは捉え切ることは出来ない。
特に銀のように、超高速で動くような者が相手の場合、それは尚更のことである。

そのような相手に射撃を命中させるには、
相手の現在の動きを見極め、過去の動きを解析し、先の動きを予測する力。
それが、必要になってくる。

恐らくモナーはその能力に秀でているのだろうが――
それでも、この命中率は異常である。
人外魔境の域、とさえ言っていい。

いや、それだけではない。
最初不意打ちしてきた時の、あの一撃。

モナーはこの夜の闇の中――
あれだけ離れた距離から、森の中にいた自分を正確に射抜こうとしてきた。
普通の人間なら、銀を目視することすら出来ない筈だというのに、
それでもあれだけの正確さで狙ってきたのだ。

何故、こんな異常な事態にすぐに気が付かなかったのか。

奴には、何かがある。

何か、常人ならざる能力。
そう、それこそ神のように全てを見通す目でも持っていない限り――



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:28:16.89 ID:t80tMjVi0
ミ,,゚(叉)「……!!」
そこで、銀は一つの結論に達した。
まさか、だとすると、この少年は――

ミ,,゚(叉)「お主、『千里眼』の持ち主だな!?」
『千里眼』――
その名の通り、千里先まで見通すことが出来るという特殊能力。

それは単に遠くのものを見ることが出来るということに限らず、
本来人間には不可視の領域――
透視、過去視、未来視など、因果の糸すら『見る』ことが出来ると言われている。

およそ突拍子も無い考えだが――
これならば、あのふざけた『魔弾』にも説明がつく。

( ´∀`)「ヘェ…… 俺の『魔弾』の秘密を見抜いたのか。
      伊達に長生きしてるって訳じゃあねえってことか」
感心した様子で、モナーが嘆息した。

ミ,,゚(叉)「あれだけ闘えば、な。
     まあ、お主の目がどこまで『見える』のかまでは分からぬが」
( ´∀`)「だろうな。 こっちも、そこまで教える気はねえよ」
自分の能力を相手に知られることは、それがそのまま敗北に直結する。
だからこそ、モナーは銀が完全に自分の能力の限界を把握出来ていないことに少し安心した。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:30:00.58 ID:t80tMjVi0
――が、楽観は出来ない。
恐らく、銀も薄々とは感づいてきているだろう。

『千里眼』といえど、万能ではない。
モナーは確かにその『目』で相手の先の動きを見通し、それに合わせる形で矢を放ち、
必中必殺の『魔弾』を撃っているのだが――

先の動きが読めると言っても、
うっすらと、動きの流れが『見える』程度。
そして、それも完全というわけではない。
あくまで予測の範疇であり、決定した未来を見ているわけではない。

もし本当に未来の世界を完璧に予知出来るのであれば、
最初の一撃で心臓を貫いている。

それが出来なかったということは、つまりはモナーの『千里眼』が、
決して神の如き領域にまで達するものではないという証明だった。

( ´∀`)「……で、いつまでくっちゃべってればいいんだ?
      やるんだろ? 続きを」
内心の不安を悟られないように、モナーは余裕を持たせた言い回しで銀を挑発した。

ミ,,゚(叉)「……そうじゃな」
モナーの心の内に気付いているのかいないのか、
銀は静かに構えを取り、モナーを見据えた。

ミ,,゚(叉)「これ以上の言葉は無用!
     己が業と業で心ゆくまで語り合うと――」
銀がモナーに飛びかかろうとした瞬間、それは起こった。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:31:53.92 ID:t80tMjVi0
ミ,,゚(叉)「――――!!」
銀が、驚愕に目を見開く。
その視線の先には――

( ´∀`)「あッ――かッ――!」
モナーの腹部から、腕が突き出ていた。

モナーが何が起こったのか分からないといった風に口をパクパクと動かす。
その間にも、彼の腹部は瞬く間に血で真っ赤に染まっていった。

何だ、これは!?
一体、何が起こった!?

( ´∀`)「ぐぅッ……!」
モナーが痛みを堪えながら後ろを振り返る。
そこには――

(’e’)「クククッ」
セントジョーンズが、モナーの背後から、彼の腹部を手刀で貫いていた。

モナーは混乱した。
何だ、こいつは。
いつの間に、自分の背後に来ていたのだ!?

いくら『銀獣』との闘いに集中していたとはいえ――
ここまで接近されるまで、気が付かない筈がない……!



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:33:27.12 ID:t80tMjVi0
( ´∀`)「あ……がああああああああああああああああ!!!」
モナーが叫びながら振り向き様に裏拳を放つ。
が、既にそこにセントジョーンズの姿は無く、一瞬のうちに別の場所へと移動していた。

ミ,,゚(叉)「セントジョオオオオオオオオオオオンズッ!!」
銀がセントジョーンズに斬りかかる。
が、横薙ぎに放たれた一閃はセントジョーンズの体を捉えることなく、
ただ何も無い空間を薙ぐだけだった。

瞬間的空間跳躍――
この能力がある限り、セントジョーンズにはあらゆる攻撃は届かない。

(’e’)「ククククッ……
    そんなに怒られるとは心外だな。
    何やら命を狙われているようだから助けてやったというのに」
銀の背後、十数メートルの位置に瞬間移動したセントジョーンズが邪悪な笑みを浮かべる。

ミ,,゚(叉)「黙れ!!
     貴様、よくも邪魔をしてくれたな!!」
折角、自分の全力をぶつけられる相手と巡り会えたというのに――
折角、あの密度の濃い時間を共有出来ていたというのに――
この男が、全てを台無しにしてしまった。

許せない。
この罪は、万死を以って償わせねばならない……!



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:35:03.59 ID:t80tMjVi0
( ´∀`)「野郎ォアッ!!」
モナーがセントジョーンズに向かって『魔弾』を放った。
しかし『魔弾』がセントジョーンズに到達する直前、
セントジョーンズはその場所から消えてしまっている。

( ´∀`)「チッ……!」
モナーは舌打ちした。

まずい。
体の先から感覚が無くなってきた。
血が、流れ過ぎている。

このままでは失血で気絶――
いや、絶命してしまう……!

(’e’)「ククククククククク!
    無駄無駄。 いかなる剣撃も射撃も、私の前では無力。
    どれだけ攻撃してこようと無意味よ!!」
セントジョーンズが嘲るように笑う。

いかなる攻撃も、命中する直前に回避出来る。
そう考えているからこその、自信であった。



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:36:51.69 ID:t80tMjVi0
ミ,,゚(叉)「ルオオオオオオオオッ!!」
銀がセントジョーンズに飛び掛った。

(’e’)「徒労だと、何回言えば分かるのかな?」
何をしてこようと、どれだけの超スピードだろうと無駄。
口の端に笑みを浮かべながら、セントジョーンズが瞬間移動をする。

行き先は、『銀獣』と闘っていたあのどこの馬の骨とも知らない少年の前。
あれだけ深手を負わせれば、最早まともには動けまい。

どういう成り行きだったかは知らないが、
『銀獣』はあの少年に随分と御執心の様子だった。
そんな少年を目の前で殺せば、どういう顔をしてくれることか。
考えただけで、笑いが止まらない。

(’e’)「クハハハハハハハハハ!」
空間を飛翔し、少年の前に現れる。
このまま止めを――



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:37:59.51 ID:t80tMjVi0
(’e’)「ハ……?」
そこで、セントジョーンズの動きが止まった。
彼の体に起きた異変に、気がついたからだ。

(’e’)「な――ん――」
何だと……!?

これは、何だ。

どうして、自分の胸に矢が突き刺さっている……!

( ´∀`)「様ァ見やがれ……!」
急激な失血により顔面を蒼白にしながらも、モナーは獰猛な笑みを浮かべていた。

モナーの『魔弾』が、セントジョーンズの体を射止めていたのだ。

遠くから見ていただけのセントジョーンズには、聞こえていなかった。
銀が、モナーの『千里眼』を見破ったときの会話を。

おぼろげではあるが、未来すら見渡すことの出来る『千里眼』。
それをもってすれば、セントジョーンズの瞬間的空間跳躍の移動先を予測することも不可能ではない。
セントジョーンズは、それを知らなかったのだ。
知っていれば――彼は、決してモナーと闘おうとはしなかっただろう



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:39:41.63 ID:t80tMjVi0
(’e’)「こ――! こんな筈は無い!! こんな――」
セントジョーンズが狼狽した様子で再び瞬間移動をする。
しかし――

(’e’)「がはッ!!」
移動した先にも、『魔弾』が飛んできていた。
飛来する矢が、次々とセントジョーンズの体を串刺しにしていく。

一見無敵に思えるセントジョーンズの瞬間的空間跳躍能力であるが、
それも完璧というわけではない。

連続して能力を使用することは出来ないし、
一度に移動できる距離にも制限がある。
完全無欠な能力など、この世には存在しない。

そしてその不完全さ故――
モナーの『千里眼』と『魔弾』は、まさにセントジョーンズにとって天敵だったのだ。

ミ,,゚(叉)「セントジョオオオオオオオオオオオオオオオオンズッ!!」
銀が、再びセントジョーンズへと向かって踊りかかった。

もしセントジョーンズがこの瞬間、瞬間的空間跳躍能力を使用すれば、
あるいは銀のこの攻撃を回避することは可能だったかもしれない。

しかし――
自分の能力を、あんな少年に破られたという驚愕が、
彼の反応を遅らせていた。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:41:54.78 ID:t80tMjVi0
ミ,,゚(叉)「ごおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」
唸りを上げる銀の左腕。
その一撃が、セントジョーンズの胴体を捉え、
彼の上半身と下半身を内臓を撒き散らしながら両断する。

(’e’)「ごぼッ……!」
血反吐を撒き散らしながら、セントジョーンズの体がぼろきれのように宙を舞って渓谷を流れる川に落ちる。
そのまま彼の体は動かなくなって川の中を流れて行き――
その先の滝壺へと落ちていった。

ミ,,゚(叉)「朽ち果てよ。 二度と儂の前にその姿を現すな!」
吐き捨てるように銀が言った。
これで、二度とあの不愉快な面を見なくて済む。

ミ,,゚(叉)「――ッ。 モナー!」
銀が、慌ててモナーへと視線を移す。

( ´∀`)「…………」
モナーはぐったりしたまま、その場に倒れていた。
腹からは血が流れ続け、赤い水溜りを作っている。

ミ,,゚(叉)「モナー! モナーーーーーーーーー!!」
銀が叫んだが、モナーは何の反応も示さなかった。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:43:41.44 ID:t80tMjVi0



( ´∀`)「……――――!」
木製のベッドの上で、モナーは目を覚ました。

……ここは?
霞む目で周囲を見回す。

薬品の独特の匂いがする部屋。
どうやら、ここは病院のようだった。

……病院?
どうして、こんなところに?
自分は確か、『銀獣』と闘っていた筈だ。

あの、狂熱に焼かれていたような暑い夜。
あの極限まで凝縮された時間――
あれは、夢だったとでもいうのか?

( ´∀`)「つッ……!」
だが、腹部を襲った痛みが、
あの夜が夢ではなかったことを如実に物語っていた。

そうか、自分はあの傷を受けて、気絶してしまったのか。
どうやら――命拾いしたらしい。



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:44:44.35 ID:t80tMjVi0
「おお、目が覚めたかね」
壮年の、人当たりのよさそうな医者が、ドアを開けてモナーの病室に入って来た。

「いやはや、あれだけの傷を負っておったから、もう駄目かと思っておったが……
 どうやらもう大丈夫のようじゃな」
医者がほっと胸を撫で下ろしたように言う。

「しかし、夜中に銀色の髪のお嬢さんが、血塗れのお前さんを担いできたときには吃驚したわい。
 どこの誰かは教えてくれんかったが、もし会うことがあれば、よくお礼を言っときなされ」
( ´∀`)「……そうモナか」
『銀獣』が、自分をここまで運んできてくれたのか。

自分はあいつの命を狙っていたというのに――
全く、お人好しな奴だ。



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/23(土) 00:45:37.95 ID:t80tMjVi0
( ´∀`)「ふう……」
恐らく、もう『銀獣』は自分の前に姿を現さないだろう。
何となく、そう思った。

しかし、これからどうするか。
任務は失敗。
加えて負傷までしたとなれば、相応の処罰が下される筈だ。

まあ、そんなことは後で考えればいいか。
モナーは目を瞑る。

今はただ休むとしよう。
あの夜の夢の残り香を、ゆっくりと思い出しながら。


〜番外編『魔弾』VS『銀獣』、真夏の夜の夢』 最終話 終
 次回、第三十九話『そして二人の別れ』乞うご期待!〜



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