ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:27:10.11 ID:yQS+Mznj0
前回の予告では、
『大脱出! 闘いの果てに』
になっていましたが、
今回のタイトルは
『( ФωФ)杉浦ロマネスクは宇宙大魔王になれないようです』
に変更しました



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:28:43.50 ID:9/fbwQrz0
第三十七話『( ФωФ)杉浦ロマネスクは宇宙大魔王になれないようです』

〜ネタ切れ〜

初代モナーを退け、廊下を奥へ奥へと進んだ先に、頑丈そうな扉を見つけた。

( ▼w▼)「うおおおお!」
力任せにドアを蹴りつけ、施錠ごと破壊する。
その中には――

( ▼w▼)「ドス女!!」
ドス女が、牢屋の檻の中に囚われていた。

イ从゚ ー゚ノi、「マスク仮面!?」
ドス女が、驚いたように声を上げる。

イ从゚ ー゚ノi、「どうして、ここに――」
( ▼w▼)「ロマネスクが助けに来てくれたんだ。
       今も、化物みたいな鶏野郎と闘ってくれてる。
       早くここを出よう」
鉄格子を手でこじ開けて、無理矢理に出入り口を作る。

( ▼w▼)「行こう、ドス女」
牢屋の外から、ドス女に手を差し出した。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
しかし、ドス女はその手を取ることなく、黙って俯く。
何か、迷っているかのように。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:30:19.06 ID:9/fbwQrz0
( ▼w▼)「行こう!」
もう一度、強く呼びかけた。
そこで、ようやくドス女はこちらに向き直り、
イ从゚ ー゚ノi、「……ああ!」
強く、俺の手を取った。



ドス女の捕らえられていた牢屋を脱出し、
俺は、ロマネスクのところへと急いだ。

ロマネスクのことだ。
そう簡単にやられるようなことは無いだろうが、
それでもあのクックルとかいう鶏男も相当の化物。

しかし、例えどんな化物であっても、
俺とドス女とロマネスクとの三人で闘えば、
勝ち目の無い相手では無い筈だ。

ロマネスクは3対1という闘い方は嫌がるかもしれないが――
今は、そんなことを言っている場合ではないだろう。

だからこそ、一刻も早くロマネスクの所へと辿り着いて加勢しなければ――



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:31:27.45 ID:9/fbwQrz0
( ▼w▼)「…………!!」
イ从゚ ー゚ノi、「…………!!」
ロマネスクの所に到着した瞬間、そんな考えは一気に吹き飛ばされた。

何だ。
これは。

壁に、天井に、床に――
周囲のありあらゆるものが、破壊されている。

( ФωФ)「ごおおおおッ!!」
( ゚∋゚)「…………!」
その破壊の中心部で――
ロマネスクとクックルが、殴り合っていた。

一撃一撃が、空間を歪ませ、大気を振動させる。

何という闘いなのだ。

加勢をする?
冗談じゃない。
こんな地獄のような光景に、他の誰が割り込めるというのだ――



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:32:56.90 ID:9/fbwQrz0
( ФωФ)「フンッ!!」
ロマネスクがクックルにストレートを放つ。
触れただけで意識まで持っていかれそうな、重いパンチ。
宇宙大魔王のパンチ。

( ゚∋゚)「――――!」
しかし、クックルは両腕でその一撃を受け、お返しとばかりに左腕でのフックを返す。

( ФωФ)「!!!!!」
ロマネスクはその攻撃を防御しようとすらせずに、そのまま喰らった。
クックルの拳がロマネスクの胸板に命中し、鈍い音が周囲に響く。

( ФωФ)「ぬぅッ!」
今度はこちらの番だとロマネスクが同様に左フックを放ったが、
これもクックルの丸太の様に太い腕で防がれた。

一見したところ一進一退の攻防に見えるが――
その実、傷を負っているのはロマネスクだけ。
ダメージは、明らかにロマネスクの方が大きい。

防御を全くしないのだから、それは当たり前のことなのだが――
何故、あいつは防御をしようとしないのか。
その気になれば、相手の攻撃を防ぎ切るだけの技量はある筈なのに……!



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:34:02.18 ID:9/fbwQrz0
( ゚∋゚)「…………!!」
と――
クックルが片手でロマネスクの襟元を掴み、
もう片方の手で思い切りロマネスクの頭部を殴りつけた。

( ФωФ)「がッ――!!」
首が固定されてしまっている為、衝撃が分散されることなく、
全て余さずロマネスクの頭部にダメージとなって襲い掛かる。

今のは、まずい。
いくらロマネスクでも、あんなのを喰らってしまったら――

( ФωФ)「――――」
ロマネスクの瞳から光が失われ、ガクリと膝から崩れ落ちていく。

絶対立ち上がってこれない倒れ方。
それが、格闘技には全くの素人の俺ですら、はっきりと分かった。

( ▼w▼)「ロマネスクーーーーーーー!!」
俺はロマネスクの名を呼んだ。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:35:39.95 ID:9/fbwQrz0


             *           *           *


――痛みで消えかかった意識が、別の痛みで呼び戻される。
あれからもう何分、こうやって殴り合っているのか。
ロマネスクは、闘いの最中そんなことを考えていた。

( ゚∋゚)「…………!」
クックルが、無機質な表情と瞳のまま殴りかかってくる。
それを、そのまま受ける。
防御という概念は、ロマネスクの脳内には存在していなかった。

( ФωФ)「フンッ!!」
パンチを放つ。
しかし、その一撃はクックルの太い腕によって阻まれた。

まるで壁。
自分も何発も殴っているというのに、そのガードがビクとも揺らぐ様子は無い。

( ゚∋゚)「――――!」
クックルからの攻撃が返ってくる。
さっき自分が打ったのと同じ、左のフックだ。

( ФωФ)「!!!!!」
それも、受ける。

胸元から鈍い音。
今ので、胸骨が何本かいかれたか。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:37:42.57 ID:9/fbwQrz0
こちらは相手からの攻撃を素通しする分、
どうしてもダメージではこちらが増える。

痛みに構わずキックを返したが、それもクックルに防がれた。
全く、大した男だ。
並みの相手なら防御した腕や脚が破壊されるというのに、
この男は微塵もそんな様子は無い。

そういえば――
ここまで闘いで苦戦したのは、どれぐらい振りだろうか。

そうだ、忘れもしない。
あの、『正義のヒーロー』と闘った時以来――

( ゚∋゚)「…………!!」
その一瞬、クックルが自分の襟元を掴んだ。

まずい、首が固定された。
このままでは――

そう思った時には、
クックルの拳が自分の頭にめり込んでいた。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:38:55.43 ID:9/fbwQrz0


                       ・

                       ・

                       ・


( ФωФ)「馬……鹿なッ……!
       この我輩が……敗れただと……!?」
ロマネスクは全身に傷を負った状態で、地面に片膝をついていた。

ありえないことだった。
まさか、気紛れで侵略してみることにしたこの辺鄙な星に、
自分より強い相手がいたなんて。

今まで――
あちこちの星を巡る間に、死闘を繰り広げることは何度もあった。

しかし、自分はどんな勝負からも逃げず、
どんな相手であろうと打ち倒してきた。
自分より強い者など居はしないと、確信していた。

それが――
その自分が、今、こうして満身創痍になっているだと……!?



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:40:25.18 ID:9/fbwQrz0
ノパ听)「その通り! お前は負けた!!
     だが安心しな! 負けたのはお前が弱いからじゃない!
     このアタシが強過ぎるからさ!!」
やたらテンションの高い女が、自慢気に腕を組んで勝利の宣言を下した。

女もロマネスク程ではないにしろ、
全身傷だらけだというのに――全くそんな素振りは見せなかった。

ノパ听)「よっっっし! 成敗終了!
    そんじゃ今日の所は見逃してやるから、さっさと宇宙に帰りな!!」
女がロマネスクに背を向け、その場を立ち去ろうとする。

( ФωФ)「…………! 何故止めを刺さない!!
       この宇宙大魔王たる我輩を、侮辱する気か!!」
ノパ听)「べっつにぃ? 今日はもう疲れたから、これ以上闘いたくないだけ。
     てかあんた、大魔王たってぶっちゃけ殺さなきゃいけない程悪いことしてないっつーか、
     何故かあんたに感謝してる人までいるんだよね。
     そんな奴殺しても後味悪いってーの」
女はロマネスクに背を見せたまま言った。

ノパ听)「……ま、どうしても納得出来ないってんなら、体を治してからまたかかってきな!
     そん時は、もう一っぺんぶちのめしてやるからさ!」
女が首だけ後ろに向けて、ロマネスクにそう告げた。

一時は、負けてなお生き恥を晒すくらいならばと自決まで考えていたロマネスクであったが――
女の底抜けの快活さにすっかり毒気を抜かれてしまっていた。
何故か、清々しさのようなものまで感じてさえいる。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:41:35.73 ID:9/fbwQrz0
( ФωФ)「……待て!」
立ち去ろうとする女を、ロマネスクは呼び止めた。

ノパ听)「あん? 何だよ?
     こう見えてアタシも多忙なんだけど?」
( ФωФ)「――まだ名前を聞いていなかった。
       名を、教えてくれ」
ノパ听)「よくぞ聞いた! アタシは素直ヒート!
     どこにでもいる『正義のヒーロー』さ!!」
女はロマネスクに完全に向き直り、満面の笑顔を浮かべて答えるのだった。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:43:08.58 ID:9/fbwQrz0


              ・


( ФωФ)「何――故――だ」
よろよろと、ロマネスクは焼け焦げた人間の死体へと歩み寄った。

最早どこの誰かも分からない程無残に黒焦げになった死体が素直ヒートであると、
何人の者が分かるであろう。

内乱を企てたことによる国家反逆罪の罪人として、火炙りの刑によって死刑。
それが、『正義のヒーロー』の末路だった。

噂を聞きつけ、ロマネスクが急いで駆けつけた時には既に遅かった。
死刑は、とっくの昔に執行されてしまっていた。

( ФωФ)「これが、これがお前の望んだ結果だというのか!?
       これが、お前のやってきたことに対する見返りだとでもいうのか!?
       これが、こんなものが――
       『正義のヒーロー』だというのか!!?」
ロマネスクは一人、素直ヒートの骸を抱きかかえて叫んだ。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:44:13.05 ID:9/fbwQrz0


             ・


薄暗い部屋で、数人の男が机を囲んで何やら話し合っていた。

「――今日の昼、あの女は火炙りになったようですな」

「ああ。 あの女、最近民衆からも人気が出てきて、何かと目障りになってきたからな。
 あのままのさばらせては、我々の地位まで危うくなってしまう」

「しかしあの女――鬼神の如き強さの戦士というわりには、あっちの具合もなかなかのものでしたな。
 私など、年甲斐も無く三回も頑張ってしまいましたよ」

「確かに、すぐ殺すには惜しい肉体だったな。
 ま、あの女も、死ぬ前に女になれたのだから、幸せだったろうよ。
 あれも、途中からはよがっていたみたいだしな」

「左様で。 しかし民衆というものも、存外に薄情なものですな。
 以前はあれだけ『正義のヒーロー』と現人神の様に奉っていたというのに、
 根も葉もない流言を真に受けて、手の平を返したように罵倒するのですから」

「何、民衆とはいつの世も総じて愚かなものだよ。
 その方が、こちらとしても扱い易い」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:45:46.06 ID:9/fbwQrz0
「全くもってその通りですな。
 しかしあの女……火炙りになる直前、笑っていたようにも見えたのですが。
 私には、あれが不気味でならんのですよ」

「どうせ開き直ったうえでの諦め笑いだろう。
 どっちにしろあの女はもう死んだのだ。 気にする必要など無い」

「そうですな。
 さて……邪魔者がいなくなったことを祝して、改めて乾杯といきますか」

「そうしよう。 乾ぱ――」

( ФωФ)「そうか。 あいつは死ぬ前、笑っていたのか」
男達が乾杯しようとした瞬間、ロマネスクの声がそれを遮った。

「な、何だお前は!?」
「警備は! 警備の兵はどうした!?」
( ФωФ)「警備の兵? ああ、外で転がっている奴らのことか」
ロマネスクが、一歩男達に近付く。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:46:55.74 ID:9/fbwQrz0
「な、何が目的だ! か、金か!?」
( ФωФ)「金? そんなものは必要無い。
       今日は、貴様らの命を頂きに来た」
ロマネスクが唇の端を吊り上げ、両手を広げて男達を威圧した。
男達は本能的に悟っていた。
こいつは、化物だ。
このままでは、こいつに殺されると。

「た、頼む! 命だけは! 命だけは助けてくれ!!」
( ФωФ)「どうした? 命乞いをするくらいなら、『正義のヒーロー』を呼んでみてはどうだ?
       『正義のヒーロー』なら、あるいは我輩を倒せるかもしれんぞ?」
ロマネスクのその言葉に、男達は凍りついた。

『正義のヒーロー』は、もういない。
何故なら、他でもない彼らが、『正義のヒーロー』を殺したのだから。

「た、た、助け――!」
( ФωФ)「『正義のヒーロー』に頼んでみるんだな!!!」



53: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:48:39.79 ID:9/fbwQrz0


                ・


かつてロマネスクと素直ヒートが闘った場所に、一つの墓が建てられていた。
墓の前には花が添えられ――
その前に、ロマネスクが立っている。

あの後――
この星では世界全体を巻き込んでの戦争が起こり、
ロマネスクが手を下すまでもなく、星は滅亡の道を辿っていっていた。
最早ロマネスクが征服したいと思うだけの魅力は、この星には残っていなかった。

( ФωФ)「――あの女のやってきたことは、全て無駄だったのか?
       あの女の人生は、無意味だったのか?
       あの女は、『正義のヒーロー』なかったのか?」
誰に言うでもなく、ロマネスクは呟く。

( ФωФ)「否! 断じて否!!
       あの女の人生は無意味などではなかった!!
       あの女は確かに、『正義のヒーロー』だった!!」
拳を強く握りしめ、ロマネスクは叫んだ。



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:49:37.13 ID:9/fbwQrz0
( ФωФ)「例え世界があの女を否定しようと、
       例え全てがあの女を見捨てようと、
       我輩は、あの女が『正義のヒーロー』だったと知っている!
       『正義のヒーロー』だったと肯定し続けてやる!!」
あの女は、本当に強かった。
本当に、強かったのだ。

そんな奴が――
ただの罪人として死ぬことが、ロマネスクには許せなかった。

( ФωФ)「我輩は宇宙大魔王! 邪悪の権化! 絶対の悪!
       なればこそこの宇宙の全てを蹂躙し、支配し――恐怖のどん底へと叩き落としてくれる!!
       そして――
       その我輩を止めることが出来たのは、あの女、『正義のヒーロー』しかいなかったのだと、
       全ての者に知らしめてくれる!!」
力の限り、ロマネスクは大声を張り上げた。
どこまでも、天の上にまでも、届くようにと。

( ФωФ)「見ているがいい素直ヒート、『正義のヒーロー』よ!!
       お前のいなくなったこの宇宙など、容易く征服してみせてくれるわ!!!」



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/06/05(火) 21:50:23.76 ID:9/fbwQrz0


                              ・

                              ・

                              ・


そこで夢は途切れ、ロマネスクの意識は現実へと引き戻された。

――今のは。
夢を見ていたのか、自分は。

あれから何十年――何百年経ったのだろう。
あの時の記憶は、未だ色褪せていない。



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