ドクオは正義のヒーローになれないようです
- 1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 16:50:57.23 ID:A4DhFdNE0
- 第四十五話『血戦 その1 〜ドス女VSつー〜』
人生は有限。
これは誰もが知っている常識である。
いつどこで、事故に遭って死ぬかもしれないし、
病気にかかって死ぬかもしれない。
運よく死ぬような事故や病気に出会わなかったのだとしても、
人間には寿命というものがある。
どれだけ頑張ろうが、せいぜい100年かそこらで死ぬ。
永遠の命などというものはこの世に存在しない。
加えて、人間の能力には限界がある。
身体能力であれ、思考能力であれ、戦闘能力であれ、
記憶能力であれ、経済力であれ、権力であれ、
およそ全ての『力』において万能且つ無敵な者など存在しない。
このように、人生とは極めて不自由なものなのである。
- 2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 16:53:04.73 ID:A4DhFdNE0
- しかし――
不自由だからこそ、人間は目標を定め、努力をし、
闘い、挑み、勝利し、敗北し、達成感を得、挫折を味わい、
幸福を享受し、不幸を嘆き、希望に安堵し、絶望に恐怖し、
泣き、笑い、怒り、悲しみ、楽しみ、苦しむことが出来る。
制限があるからこそ、逆に手に入るものもあるのだ。
だが、もしこういった制限の無い――もしくは、人間に比べて制限の少ない存在がいたとすれば、
果たしてその者達はどういった感情を持つのだろうか。
時間制限が無く、力も莫大で、何ら枷になるようなものも有していない。
そういう存在ならば、望みの全てを叶えることが出来る、幸福に満ち溢れた生を謳歌出切るのだろうか。
永遠に生きるということは、
本当に素晴らしいことなのだろうか――
- 4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 16:55:51.33 ID:A4DhFdNE0
* * *
イ从゚ ー゚ノi、「おおおおおおおおおおおおおおお!!」
銀が日本刀を振り上げ、上段から一気につーの頭目掛けて振り下ろした。
(*゚∀゚)「アヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!」
つーがその一閃を右手のナイフで受け止めた。
直後、自由な左手のナイフを銀の心臓目掛けて突き出す。
イ从゚ ー゚ノi、「くッ!」
銀が右手を刀の柄から放し、つーの左手首を掴んで刺突を喰い止めた。
イ从゚ ー゚ノi、「――――!」
(*゚∀゚)「――――!」
お互いが、お互いの得物を封じている均衡状態。
拮抗しているが故に不動。
不動故に停滞。
しかし――
その停滞は、あっけない程すぐに崩された。
- 5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 16:58:19.20 ID:A4DhFdNE0
- イ从゚ ー゚ノi、「――――?」
ゴトリ。
銀は、そんな音を聞いた。
今の音は?
何かが、近くで地面に落ちた?
何が――
イ从゚ ー゚ノi、「ッッ――!?」
落ちていたのは、銀の右腕だった。
そして、ようやく右腕から先の感覚が無くなっていたことに気が付く。
馬鹿な。
相手のナイフは、二本とも封じていた筈だ。
一体どうやって――
イ从゚ ー゚ノi、「っく! うおおおおおおおおおお!!」
このままではやばい。
反射的に残った左腕で切断された右腕を拾い上げ、後ろに跳ぶ。
眼前をつーのナイフでの追撃が通り過ぎていくのを見ながら、
何とか距離をとった。
- 8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:01:23.40 ID:A4DhFdNE0
- (*゚∀゚)「アヒャヒャヒャヒャ! ハズシタカ!」
見ると――
つーの肩口から、一本の鋭利な刃物のようなものが突き出ていた。
いや、刃物と言うより、刃のついた触手といった方が正しいか。
触手はまるでそれ自体が意思を持っているかのように、
うねうねと不気味に動いている。
あれが、先程銀の腕を斬り落としたのだ。
イ从゚ ー゚ノi、「……寄生獣か、お前は」
銀は吐き捨て、冷めた目でつーを見据えた。
(*゚∀゚)「アヒャヒャヒャヒャ! ウデヲオトサレタッテノニズイブントヨユウジャネエカ!」
つーが嘲るように笑い声を上げる。
しかし、銀はそれに全く意を介さない様子で、
イ从゚ ー゚ノi、「ああ。 この程度、傷のうちにも入らないのでな」
腕の切断面と切断面とを合わせた。
- 9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:03:50.66 ID:A4DhFdNE0
- イ从゚ ー゚ノi、「さっきので、首を落としておくべきじゃったな。
腕や脚が千切れたくらいでは、化物(ワシ)は死なん。
殺すつもりなら、頭を砕きに来い」
程なくして、斬り離された腕は完全に接着した。
(*゚∀゚)「ハッ――ショウブハコレカラダッテカ」
つーがおどけたように肩をすくめる。
ミ,,゚(叉)「その通り! これからじゃ!!」
その姿を銀の人狼へと変貌させ、銀はつーに跳びかかった。
ミ,,゚(叉)「らああああああああああああああああ!!」
横薙ぎに、右手の日本刀で斬りかかる。
(*゚∀゚)「ヒャハッ!」
つーはそれをナイフを交差させて受け止めた。
続けざまに、今度は肩からでなく腹部から刃の触手を生やして、
銀の胴体を輪切りにするべく薙ぎ払う。
ミ,,゚(叉)「!!!!!」
銀はその触手を左手で掴んで握り止めた。
手の平が切れ、流れた血が触手を伝う。
- 10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:06:31.86 ID:A4DhFdNE0
- ミ,,゚(叉)「るおおおおおおおおおおお!!」
しかし銀は掴んだ触手を離さず、
そのまま勢いをつけてつーを投げ飛ばした。
(*゚∀゚)「!!!!!」
つーの体が紙人形のように宙を舞い、
そのまま地面へと叩きつけられた。
ミ,,゚(叉)「ジャァッ!」
逃さず、銀が倒れたつーに追い討ちをかけにいく。
刀を逆手に持ち替え、地面ごとつーを串刺しにしに上空から襲い掛かった。
(*゚∀゚)「チイ!!」
刀が体を貫く寸前、つーは横転してその凶刃をかわす。
かわしながらも触手で反撃。
銀の頭部目掛けて触手の先端を突き出した。
ミ,,゚(叉)「!!!」
銀は頭を横に振ってその一撃を回避した。
触手が頬先をかすめ、赤い血が頬から流れる。
- 13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:09:05.33 ID:A4DhFdNE0
- (*゚∀゚)「……タノシイナア! エエオイ!?」
狂気の笑みを顔面に貼り付かせ、つーが銀に語りかけた。
ミ,,゚(叉)「……何が楽しいものか」
頬の血を拭いながら、銀が答える。
(*゚∀゚)「ツレネエコトイウナヨ。 ホントウハタノシクテシカタガナイクセニ。
オマエモオレトイッショダ。 コロシアイガタノシクテショウガネエンダロ?
イノチノヤリトリヲシテルトヌレテクルンダロ?」
共犯者を見るような目つきで、つーが銀を見据える。
ミ,,゚(叉)「…………!」
銀は何も答えられなかった。
つーの言葉を、否定出来なかったからだ。
- 15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:09:50.01 ID:A4DhFdNE0
- 永遠に等しい寿命。
常識を超越した力。
それがもたらすものは決して充実感などではなく、
果てしない退屈と虚無だった。
最初は、楽しかった。
邪魔するものを全て打ち砕き、望むものを何でも手に入れることが出来るだけの力。
いつまでも欲望を満たし続けることが出来る無限の寿命。
力に酔いしれ、溺れ、
自分の思うがまま生きることが楽しくて仕方が無かった。
だが――
その幸福感は、長くは続かなかった。
飽きてしまったのだ。
全てに対して。
何でも出来るということは、
つまりは何もする必要がないと同じこと。
今日やらなくても、明日やればいい。
そしてその明日は、永遠に存在する。
失敗を恐れる必要もない。
いつまででも、何度でもやり直しは出来るのだから。
- 16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:11:40.76 ID:A4DhFdNE0
- そうして――
命は淀み、魂は腐っていった。
退屈を埋めようと、あらゆることを試してみた。
しかし、足りない。
何をやっても満たされない。
ゆっくりと疲弊していく精神。
漠然とした不安。
それが、心を少しずつ歪ませ、狂わせていった。
その果てに辿り着いた最高の娯楽。
それが、命のやりとり――殺し合いだった。
次の瞬間には、死んでしまうかもしれないという緊張感。
自分の全力、それ以上の力を振り絞ることでの高揚感。
それは、今まで味わったことのない快楽だった。
勿論、自己の快楽の為に無関係な者を殺すような下種な真似をしたことは一度も無い。
しかし――
自分が、そういった刹那の享楽を求める感情を持っていることは否定することが出来なかった。
- 20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:14:17.60 ID:A4DhFdNE0
- 今だって、そうだ。
この怪人騒動だって、本来は自分とは関係無い。
では何故、何の為に自分は闘っているのか。
ドクオは、正義のヒーローという理想の為、苦しむ人々を救う為に闘っているのだろう。
ロマネスクは、自分以外の悪を撲滅する為。
JOWは、正義の証明の為。
では――
自分は、何の為に闘っているのだろうか?
罪の無い人が傷つくのが許せないから?
確かに、それもある。
だが――
本質は、もっと汚くて、醜いものだ。
……考えたくなかった。
認めたくなかった。
殺し合いがしたいから、
こうして、闘っているだなんて――
- 22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:17:36.64 ID:A4DhFdNE0
- (*゚∀゚)「マッタクセントジョーンズサマサマダゼ! オレニコンナカラダヲクレルナンテナ!
コノカラダガアレバ、イツマデモイキテイラレル! イツマデモ、コロシアイヲタノシムコトガデキル!!」
つーが、ケラケラと心の底から楽しそうに笑った。
セントジョーンズ……
あの男も、そうだったのだろうか。
あの男もこの退屈を味わい――
それ故に狂い、こんな馬鹿げたことに加担するようになったのだろうか。
……どうでもいい。
どんな理由であれ、それが他人を殺し、傷つけていい理由になどなりはしない。
何より、自分はあの男が気に入らない。
だから殺す。
それだけだ。
- 24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:19:58.22 ID:A4DhFdNE0
- ミ,,゚(叉)「楽しいか。 永遠の命を手に入れて」
銀はつーに訊ねた。
(*゚∀゚)「アア? ナニワカリキッタコトキイテンダヨ?」
つーが怪訝そうな顔で聞き返した。
ミ,,゚(叉)「一つ忠告しておいてやる。 今だけじゃ。
そのうち、すぐに飽きる。
――いや、こんな忠告必要無いか」
(*゚∀゚)「?」
ミ,,゚(叉)「お前はここで死ぬ。
――永遠の命も、ここまでじゃ!!」
一気に、銀はつーの懐まで飛び込んだ。
抉るように、つーの心臓向けて突きを繰り出す。
- 26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:21:06.02 ID:A4DhFdNE0
- (*゚∀゚)「アヒャ!」
つーがナイフで突きを弾いた。
(*゚∀゚)「シヌ!? オレガ!?
ジョウダンモタイガイニシナ! シヌノハテメエダ!!」
瞬間――
つーの体のあちこちから無数の触手が飛び出し、銀の体を串刺しにした。
(*゚∀゚)「アヒャヒャヒャヒャ! ダレガブキハヒトツダケトイッタ!
コノママバラバラニ――」
つーが勝ち誇った笑みを浮かべようとした瞬間、言葉が止まった。
全身を串刺しにされているといった状況にも関わらず、
銀の目からは闘志が失われていなかったからだ。
ミ,,゚(叉)「……機会は、二度あった」
(*゚∀゚)「!?」
銀の言葉に、つーが動きを止める。
ミ,,゚(叉)「儂の腕を落とした時、そして今――
二度も、儂の首を落とす機会はあった筈なのじゃ。
しかし、お前はそれをしなかった。
いつでも勝てる。 人外故の、人間には有り得ぬその慢心が、それをさせなかった。
それが、お前の敗因じゃ」
(*゚∀゚)「テメエ! ナニイッテ――」
つーが触手を動かそうとして、そこでようやく自分がいかに不利な状況に陥っているかに気がついた。
- 28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:22:39.85 ID:A4DhFdNE0
- (*゚∀゚)「ウ……ウゴカネエ!?」
触手が刺さった瞬間、銀は全身の筋肉を収縮させ、触手を封じていたのだ。
(*゚∀゚)「ク、クソ! ヌケネエゾ!?」
押しても引いても、触手はビクともしない。
そして触手は文字通りつーの体と一体化いている。
それはつまり、つーは最早逃げられないということを意味していた。
ミ,,゚(叉)「死ね」
銀がその口を大きく開いた。
そのままその顎をつーの頭へと持っていき――
(*゚∀゚)「ヒ、ヒアアアアアアアアアアアアアア!!!」
つーの頭を丸かじりにした。
- 30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:23:39.66 ID:A4DhFdNE0
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
銀の足元に、既に原型を止めなくなった死体が転がっていた。
体をあちこちを食い千切られ、まるでボロ雑巾といった有様である。
――セントジョーンズの居場所を訊きそびれてしまった。
だが今更後悔しても、死んだ命は還って来ない。
まあいい。
奴のことだ。
きっと災禍の中心で、高みの見物をしているに決まっている。
ならば、自ずと場所は限られてくるし――
放っておいても、向こうからこちらに姿を見せに来る筈だ。
- 34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:25:42.15 ID:A4DhFdNE0
- イ从゚ ー゚ノi、「…………」
自分は矢張り、化物なのか。
殺し合いによってもたらされた昂ぶりが、収まらない。
もっと闘いたいと、本能が告げている。
……ドクオの前から姿を消して正解だった。
自分のこんな姿――
あの男にだけは、見せられない。
イ从゚ ー゚ノi、「…………」
つーの亡骸を一瞥し、銀もまた国会議事堂を目指す。
恐らく、セントジョーンズはそこにいる。
ならば――討って出るのみ。
行かねばならない。
例えそれが、穢れた欲望から生れた理由なのだとしても。
- 35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/07/11(水) 17:26:57.33 ID:A4DhFdNE0
* * *
(???)「――――」
国会議事堂の屋根――
男が何かを感じ取ったかのように、はっと目を見開いた。
(???)「――来るか」
あの女が、来る。
待ち焦がれた、あの女が。
早く、早く来い。
こっちはもう準備万端だ。
これ以上は、もう我慢出来そうにない……!
(???)「――――」
男は口の端を歪め、獰猛な笑みを浮かべた。
〜第四十五話『血戦 その1 〜ドス女VSつー〜』 終
次回、『血戦 その2 〜ロマネスクVSハインリッヒ 前編〜』乞うご期待!〜
戻る/第四十六話