ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:20:09.76 ID:9dyU60410
第二部 第二話『歪んでいく正義 その2』

〜前回までのあらすじ〜

クイズ:彼らは何をしようとしているでしょうか?

(´゚ω゚`)「あががッ! ぐぎィ! ぐぎぎぎぎ!」

( ゚ω゚)「痛い! 痛いお! もう限界だお!」

( ゚∀゚)「諦めるなお前ら! 努力し続ければ、きっと夢は叶う!」

(´゚ω゚`)「酢を! 酢をもっとくれ!
     少しでも体を柔らかくするんだ!」

( ゚ω゚)「無理だお! これ以上は体を前に折り曲げられないお!」

( ゚∀゚)「ブーンしっかりしろ!
     俺が後ろから背中を押してやる!
     さあ、その見事に反り返ったソレを咥えるんだ!」

( ゚ω゚)「アッ――」



2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:22:02.46 ID:9dyU60410


           * 以下、何事も無かったかのように再開 *


川 ゚ -゚)「ショボン――!
     お前達、これは一体どういうことだ!?」
半死半生のショボンを見やり、クーがしぃとハインリッヒに噛み付くように叫んだ。

(*゚ー゚)「気になる? やっぱりどういうことか気になるかしら?」
そんなクーを挑発するかのように、
しぃが薄ら笑いを浮かべながら言った。

川 ゚ -゚)「貴様……!」
クーが半身になって構える。

(´・ω・`)「クー……! やめろ……!
     逃げろ、逃げるんだ……!」
ショボンが懇願するように、息も絶え絶えにクーに告げた。

从 ゚∀从「おーおー。 死にかけてんのに、自分より相手の心配かー。
     泣かせるねー」
からかう様にハインリッヒが言った。



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:23:09.78 ID:9dyU60410
(*゚ー゚)「あらあら、そんな風に茶化しちゃ可哀想よ。
    ……さて、と。 どうして私達が、彼を殺そうとしてるか、だったわね。
    あんまり焦らすのもアレだし、教えてあげるわ」
言って、しぃはクーの足元に何枚かの写真を投げ落とした。

川 ゚ -゚)「……?」
クーが、注意深く写真に視線を落とす。
直後――

川;゚ -゚)「――!!?」
クーの顔が、驚愕に凍りついた。

写真には、戦闘員や怪人を指揮する、
しぃやハインリッヒの姿。

だが、どうしてそんな奴らが、JOWにいるのだ!?



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:24:29.74 ID:9dyU60410
(*゚ー゚)「彼、悪い子でね。 ここのマザーコンピューターにハッキングして、この映像に気がついちゃったのよ」
从 ゚∀从「つっても、オレ達もまるっきり鬼ってわけじゃねえからよ。
      そいつにこう言ったのさ。 『このことを黙認するなら生かしてやる』ってよ。
      けどそいつ、にべも無く断りやがってよ。
      だったら、殺すしかねえだろ?」
金属バットを肩に担ぎ、ハインリッヒがショボンに目を向けた。

(*゚ー゚)「で、こうなった以上、あなたにも同じ質問をさせてもらうわね。
     服従するか死ぬか、どっち?」
しぃが短くクーに問うた。

川#゚ -゚)「ふざけるな! 誰がお前達のような怪人の仲間どもに……!」
クーが懐から拳銃を抜く。
クーの選んだ答えは服従でも死でもなく、
しぃとハインリッヒを殺すというものだった。

しかし、クーは理解していなかった。
目の前にいるのは、桁外れの魔人だということを。

从 ゚∀从「やれやれ。 分かりやす過ぎる答えで助かるぜ」
ハインリッヒが背中の金属バットを構え直す。
そのバットが、クーの頭蓋を叩き割ろうとした瞬間――



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:25:28.88 ID:9dyU60410
从 ゚∀从「なッ!?」
(*゚ー゚)「!!」
川 ゚ -゚)「――!!」
強烈な爆音と閃光が、辺り一帯を包んだ。

不意をつかれたしぃとハインリッヒが、
数瞬ではあるが感覚器官を麻痺させられ、動きを止める。
光と音が消え、立ち直った時には、既にクーの姿は部屋の中には見当たらなかった。

从 ゚∀从「……やってくれんじゃねえか」
ハインリッヒが、ショボンに視線を移して睨みつけた。

(´・ω・`)「ハァッ、ハァ……」
ショボンの手には、自身の血で濡れたカードが握られていた。
最後の力を振り絞り、ショボンはクーを逃がしたのだ。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:27:10.36 ID:9dyU60410
从 ゚∀从「ゴミ虫が、クズが、オレをコケにしやがって……
      原形止めないくらいに殴殺してやるよ」
ハインリッヒが鬼の様な形相で、ショボンに金属バットの先端を向ける。

(*゚ー゚)「およしなさいな、ハイン」
今にもショボンに襲い掛かろうとするハインリッヒの肩に、しぃが手を置いた。

从 ゚∀从「んだァ? 邪魔するってんのか?」
鬱陶し気に、ハインリッヒがしぃを見る。

(*゚ー゚)「違うわ。 彼には、撲殺なんかより、もっと面白い死に方をしてもらおうと思ってね」
そう言って、しぃがショボンに目を向けた途端――

(;´・ω・`)「!!?」
ショボンの腕が、彼の意思とは無関係に持ち上がった。

いや、違う。
意思とは無関係に、じゃない。
腕を上げなければ、という自分の意思が、彼を強制的に動かしている。
体ではなく、意識自体を操られている。
腕を動かさなければ、と、無理矢理思わされているのだ……!



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:28:47.55 ID:9dyU60410
(*゚ー゚)「少し前、流行った同人ゲームがあってね。
    その中で主人公や脇役がインパクトのある死に方をするんだけど、
    彼にはそれを実演してもらうわ」
しぃが言い終わると、ショボンの手が彼の喉元へと伸びた。
同時に、その手が喉の肉を掻き毟りはじめる。

(;´・ω・`)「!? ギッ! ぐぎィ……!」
ボリ、ボリ、ボリ。
ショボンの爪が、彼の喉の肉を抉り、そこから噴水のように血が噴出す。

(´;ω;`)「あがッ……! ぎひィィィ……!」
ボリ、ボリ、ボリ。

嫌だ。
こんなことをするのは嫌だ。

だが、ショボンがそう拒絶しようとする考えを更に上回る、
喉を掻き毟らなければという強烈な義務感が、
彼を手を動かし続けた。

(´;ω;`)「ひィィィィ……! ひィィィィィィィィ……!」
ボリ、ボリ、ボリ、ボリ、ボリ。

ぶくぶくと、彼の喉元から、口から、
逆流した血が泡を立てて噴出す。

それでも彼の手は喉を掻き毟ることを止めず――
出血多量でショボンが完全に絶命したところで、
ようやく彼はその地獄から開放されたのだった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:29:39.21 ID:9dyU60410
从 ゚∀从「相変わらずえげつねえ殺し方すんなー」
痛みと恐怖に醜く歪んだショボンの死に顔を眺めながら、ハインリッヒはしぃに言った。

(*゚ー゚)「あら、目に指を突っ込ませてそこから脳味噌を掻き混ぜさせるよりは、
    ずっと優しいと思うけど?」
事も無げに、しぃが返す。

从 ゚∀从「しっかし、どうすんだ?
      殺すのにこんなに時間かけて。
      あの女、とっくに遠くまで行ってると思うぞ?」
クーが逃げ出した出入り口のドアを見て、ハインリッヒが訊ねた。

(*゚ー゚)「それなら大丈夫よ。
    さっき、『あの人』から連絡があったわ。
    『こっちで処理をする』、ってね」
从 ゚∀从「そーかい。 ま、それならいーや」
言って、ハインリッヒが既に事切れたショボンの頭部を、金属バットで叩き潰した。

飛び散る血と脳漿。
これが、JOW日本支部特殊戦闘部隊、ショボンの迎えた最期だった。



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:30:54.75 ID:9dyU60410



川;゚ -゚)「ハァッ、ハァッ、ハッ――!」
息を荒げながら、クーは廊下を駆けていた。

逃げなければ。
一刻も早く、ここから。

ショボンは、命を懸けて自分を逃がしてくれた。
だから、ここで逃げ切れなければ、彼のしたことが全て無駄になってしまう。

――しかし、どこに逃げればいいのだ?
誰に助けを求めればいいのだ?

あの二人の女がJOWにいるという事実。
そこから導き出される答えが正しいのなら、このJOWは――



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:31:29.94 ID:9dyU60410
爪'ー`)「そんなに急いで、何処へ行くつもりなんだい?」
川;゚ -゚)「――――!」
クーの前に、一人の男が立ちはだかった。

JOW日本支部支部長。
誰よりも正義を愛し、その実行者として、活動してきただろう筈の男。
正義の具現者、フォックス――

爪'ー`)「おや。 何か私に聞きたいことがあるような顔だね?」
クーの内心を知ってか知らずか、
フォックスはにこやかなその表情を1ミリも変えないまま言った。

川;゚ -゚)「……! 支部長!
     あなたに聞かなければならないことがあります!」
しばしの逡巡の後、クーは意を決したようにフォックスに向かって口を開いた。

川;゚ -゚)「先日、あなたが連れてきたしぃとハインリッヒという女。
     あれは、神威師団の幹部にほぼ間違いありません!
     あなたは、それを知っててJOWに迎えたのですか!?」
自分の思い過ごしであって欲しい。
そう祈りつつ、クーはフォックスに訊ねた。
だが――

爪'ー`)「そうだよ」
だが、そんな小さな祈りは、無残に打ち砕かれた。
さも当然であるかのように、フォクスはそう答えたのだ。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:32:10.58 ID:9dyU60410
川;゚ -゚)「な――!」
予想していないわけではなかった。
だが、それでも、心のどこかで信じていたかったのだ。
自分の勘違いだと。
支部長が、そんなことをしているわけではないと。

川;゚ -゚)「どういうことなのですか!
     怪人は、神威師団は、我々の敵ではなかったのですか!?
     あなたは何故、そんな連中を我々の仲間なんかに――!」
爪'ー`)「君だって、薄々分かってはいるんだろう?」
フォックスが、クーの言葉を制した。
その場に、短く、しかし重い沈黙が流れる。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:32:50.21 ID:9dyU60410
爪'ー`)「……『正義』である為には、多くのものが必要だった」
沈黙を破ったのは、フォックスだった。

爪'ー`)「力、心、権力、財力、頭脳、人材……
     全てかき集めても、まだ足りない。
     いやそもそも、そんなものだけでは、『正義』足り得ない。
     そう、『正義』である為に必要なものは、たった一つ」
そこで一拍、フォックスは間を置いて、

爪'ー`)「――『悪』」
そう、断言した。

爪'ー`)「『悪』を倒すことで、人々はそのものを『正義』と認め、『正義』と呼ぶ。
     『悪』の無いところに、正義は存在出来ないのだよ。
     ハハッ! 何とも皮肉な話じゃないか!
     『悪』を根絶することが、『正義』の使命である筈なのに、
     その行為が『正義』の首を絞めることになるなんてね!」
自嘲するように、フォックスは笑った。

爪'ー`)「だがしかし、『悪』なんてものはそう都合良く転がってなんぞいない。
     そもそも『悪』にしても、角度を変えれば別の『正義』にさえなってしまう。
     我々が『正義』である為には、誰もが『悪』と認める、分かりやすい『悪』が必要だったのだよ」
そこまで言って、フォックスは「ふう」と溜息をついた。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:33:29.87 ID:9dyU60410
川;゚ -゚)「そんな――
     そんな、それじゃあ――」
クーの表情に絶望がよぎる。

思えば、おかしいと感じることはあった。
神威師団の活動資金と、怪人を製造する技術は、どこから捻出しているのか?
組織を運営する上で、一番の障害となるのは金だ。

だが、こう考えれば全てつじつまが合う。
神威師団に協力しているものがいて、その正体は――

川;゚ -゚)「それじゃあ、JOWと神威師団は、裏で繋がっていたということなのですか!!?」
クーは叫んだ。

そんな――
そんなことって。
だったら、今までのことは全て――



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:34:04.59 ID:9dyU60410
爪'ー`)「ご明察。
     『悪』の象徴である神威師団率いる怪人共を、我々JOWが殲滅する。
     この効果は予想以上だったよ。
     今や、我々を『正義』と認めないものはほとんどいない」
誇るように、フォックスは言った。

川;゚ -゚)「待って下さい!
     だったら、何故JOW日本支部を怪人達に襲わせたのですか!
     いいやそもそも、私達は何の為に闘っていたのですか!!!」
食いつく様に、クーが訊ねた。

爪'ー`)「ああ、それか。
     いや、君達は本当によくやってくれたよ。
     君達戦士が血を流し、命を散らして闘ってきてくれたおかげで、
     JOWの『正義』はより美しさを増した。
     何も知らなかったからこそ、本気で闘うことが出来るのだろうな。
     真実を知らないまま犠牲になった者達には申し訳なかったと思うが――
     まあ、それでも彼らは本望だろう。
     彼らが死ぬことで、彼らが『正義』と信じたJOWは、
     より強固な『正義』となることが出来たのだから」
まるで悪びれる様子も無く、フォックスは独白を続けた。
どころか、その表情には清々しささえ漂っていた。



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:34:50.16 ID:9dyU60410
爪'ー`)「さて、説明はこれぐらいでいいかな?
     さあ、素直クール君。
     手を取り給え。 これからも、『正義』の為に共に闘っていこう」
そう言って、フォックスはクーに手を差し出した。

川 - )「……ざ…るな……」
しかし、クーはその手を取らなかった。

川#゚ -゚)「ふざけるな! 何が『正義』の為だ!!
      私は――私達は、そんなものの、そんなものの為に闘っていたんじゃない!!!」
クーは叫んだ。

ふざけるな。
それじゃあ、自分の仲間は、先輩は、同僚は、部下は――
そんな三文芝居の為に、死んだというのか……!

爪'ー`)「何をそんなに怒る必要がある?
     君だって、今までJOWの事を信じ、その為に闘っていたのだろう?
     今更第三者気取りなんて出来ないよ?」
激昂するクーとは対照的に、フォックスは落ち着いた様子を全く崩さない。

川#゚ -゚)「違う! 私が信じていたのは、もっと別のものだ!!
     ――違うものを、信じていたんだ……!」
クーは拳を握り締め、フォックスを睨み据えた。



26: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:35:39.28 ID:9dyU60410
川#゚ -゚)「あの時、あなたは私を助けてくれた!
     テロに巻き込まれ、家族を失った私を!
     あれも――あれも嘘だったというのか!!」
あの時――
自分は、生きることを諦めていた。

両親も、妹も殺され、動かなくなっていた。
自分もすぐに殺されると思った。
もう、駄目だと思った。

そんな時――
助けに来てくれたのだ。
フォックス率いる、JOWが。

嬉しかった。
だからこそ、自分もJOWの一員となって闘おうと決意したのだ。

それも――
それも、まやかしだったというのか。



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:36:03.18 ID:9dyU60410
爪'ー`)「ああ―― あれか」
思い出したかのように、フォックスがポンと手を叩いた。

爪'ー`)「あれも、今回と似たようなものだよ。
     被害が小さいうちに、JOWがテロを鎮圧しても、有り難味ってものが無いだろう?
     だからまあ――気付かれない程度に援助したり放置したりして、なるだけ派手に暴れまわってもらった。
     それだけさ」
表情を変えないまま、まるで聞かれた時間を教えるだけかのように平然と、
フォックスはそう答えた。

爪'ー`)「それに――JOWに助けられた人間が、JOWを目指す。
     中々に良い宣伝材料になると思わないかい?」
川#゚ -゚)「貴様ァァァァァァァァァァァ!!」
そこで、クーの感情は沸点を超えた。

拳銃を引き抜き、フォックスに向かって発砲する。
が――



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:36:46.58 ID:9dyU60410
爪'ー`)「やれやれ。
     命の恩人に向かってこんなことをするなんて」
川;゚ -゚)「な――!?」
放たれた銃弾が、一時停止ボタンでも押したかのように空中で停止していた。

爪'ー`)「今の狼藉は忘れよう。
     もう一度言う。 クー、我々と共に来たまえ。
     君ほどの使い手、殺すには惜しい」
穏やかな表情で、フォックスが告げた。

川 ゚ -゚)「……断る」
だが、クーの答えは変わらなかった。

爪'ー`)「……そうか。 では仕方がな――」
フォックスが一歩前に出ようとした時、彼とクー以外の者の気配を察知した。
何気なしに、そちらに目を向ける。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:37:18.57 ID:9dyU60410
ξ;゚听)ξ「…………」
そこに立っていたのは、ツンだった。
怯えた瞳で、フォックスとクーを見つめている。

川;゚ -゚)「ツン! 逃げろ!!」
クーがそう叫ぶも、ツンは半ば放心したような状態のまま、そこから動かなかった。

爪'ー`)「おや、ツンじゃないか。
     いつからそこに居たんだい?」
いつも、彼がツンに向けていたにこやかな表情のまま、フォックスはツンに言った。
しかしツンは、その中にいつもとは違う歪みのようなものを感じていた。

いや、そうではない。
今まで気付かなかった、気付こうとしなかった歪みに、
今日初めて気がついたのだ。



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:38:41.26 ID:9dyU60410
ξ;゚听)ξ「おと……様……」
震える声で、ツンがフォックスに言った。

ξ;゚听)ξ「今の話は、本当なのですか?
       お父様が、怪人達と結託していたなんて、そんなの――」
声だけではない。
体全体を小刻みに震わせて、ツンは訊ねた。

爪'ー`)「本当だよ」
斬り捨てるように、フォックスは断言した。

爪'ー`)「丁度いい。
     ツン、お前の力でクーを殺しなさい。
     この者は『正義』に盾つく『悪』だ。
     JOW日本支部支部長である私の娘として、その罪に罰を与えるんだ」
諭すような声で、フォックスが言った。



38: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:39:35.35 ID:9dyU60410
ξ;゚听)ξ「…………」
ツンは、しかしその場から動こうとしなかった。

爪'ー`)「どうした、ツン?
     早くするんだ」
優しく、フォックスが促す。

ξ;゚听)ξ「……出来ません」
しかし、ツンが返した言葉は拒絶だった。

ξ;゚听)ξ「クーは、私の大切な友達です!
       その友達を殺すことが『正義』だなんて、私にはどうしても思えません!!」
それは、ツンがフォックスに対して初めて行った反抗だった。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:40:00.95 ID:9dyU60410
爪'ー`)「……そうか。
     中々に従順で、愛嬌のある人形だと思っていたが、所詮は欠陥品だったか。
     ツン――いや、『Trial Undeveloped Nextworld』ナンバー13」
ξ;゚听)ξ「え……?」
爪'ー`)「まだ話していなかったな。
     怪人改造施術の副産物――人間の可能性を広げる、
     未だ解明されていない人間の潜在能力を開発する、
     人間を次なる境地、次なる世界へと導く為の研究――
     それによって生み出されたのが、お前だ」
先程までとはまるで別の、冷ややかな目でフォックスがツンに言った。

ξ;゚听)ξ「そ、そんな! それじゃあ、私とお父様が親子というのは――」
爪'ー`)「いいや。 お前は一部とはいえ、私の細胞を利用して創られたものだからね。
     遺伝子学上は正真正銘の親子さ」
遺伝子学上は。
だが、それがどうしたというのだろう。

親と子を定義するのは、遺伝子だとか、
そんなものでは決してない。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:40:41.63 ID:9dyU60410
爪'ー`)「実験体の中でも相当の逸材だったが――
     私に従わないというのであれば、ただの障害物でしかないな。
     仕方が無い。
     矢張り、最後に頼りになるのは『正義のヒーロー』か」
パチン、とフォックスが指を鳴らすと、彼の後ろから一つの人影が姿を現した。

川;゚ -゚)「!!!」
ξ;゚听)ξ「!!!」
それは、クーもツンも良く知っている男だった。
そいつは――

( ^ω^)「…………」
『正義のヒーロー』、ブーンだった。



45: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:41:48.28 ID:9dyU60410
爪'ー`)「ブーン、『悪』の手先だ。
     そいつらを殺せ」
死刑宣告をするように、フォックスが短く告げた。
それにあわせて、ブーンがゆっくりとクーとツンに歩みを進める。

ξ;゚听)ξ「ブ、ブーン。
       嘘だよね? 私達を殺すなんて、そんなこと思ってないよね?」
ツンが、縋るような声でブーンに言った。

( ^ω^)「……ツンは、僕の大切な友達だお」
にっこりとブーンが笑う。
その笑顔は、どこまでもツンが好きだったブーンの笑顔そのままで。

ξ;∀;)ξ「ブーン!」
ツンがブーンに抱きつこうとしたその時――



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:42:14.87 ID:9dyU60410
( ^ω^)「でも、『悪』だというなら許さないお」
ブーンの拳が、ツンの心臓を貫いた。

ξ;∀;)ξ「――――」
泣き笑いの表情のまま、ツンが絶命する。
一瞬で死んだ為、痛みを感じる時間もほとんどなかったであろうことが、
ツンにとって唯一の救いだった。

( ^ω^)「汚ねえお」
邪魔臭そうに、ブーンがその右腕に刺さっていたツンを払い落とした。
ツンの死体が、ごろりと廊下に転がる。

川;゚ -゚)「ブーン!!!!!」
クーは我が目を疑った。

有り得ない。
あのブーンが、ツンをこうも何の躊躇も無く……!



51: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:43:16.83 ID:9dyU60410
川;゚ -゚)「ブーン!!
     お前は、自分が何をやったか分かっているのか!!?」
大声で、クーがブーンに訊ねた。

( ^ω^)「分かってるお。 『悪』を一匹始末したんだお。
      これでまた一歩、『正義のヒーロー』に近付いたお」
罪悪感など微塵も感じさせず、いやそれどころか、
達成感と満足感に満ちた表情で、ブーンはそう言い切った。

川;゚ -゚)「ブーン……!!」
これが、お前が目指していたものなのか。
これが、こんなものが、『正義のヒーロー』だというのか。

――いや、そうなのか。
自分と敵対する『悪』は絶対に許さず、全力で排除する。
こいつほど、『正義のヒーロー』らしいものは無い……!



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:43:40.58 ID:9dyU60410
爪'ー`)「他人より自分の心配をしたらどうだね?
     ブーン、残るは一人だ。 殺れ」
( ^ω^)「了解だお」
フォックスの言葉と同時に、ブーンがクーに向かって襲い掛かる。

川;゚ -゚)「…………!」
クーが必死に逃げようとするが、間に合わない。
ブーンの拳がクーを捉え――

爪'ー`)「!!?」
( ^ω^)「!!!」
瞬間、爆音と閃光が周囲を包んだ。

ショボンがクーを逃がす際、
こっそりと最後のカードをクーの衣服に貼り付けていた。
それが、クーの危険にあわせて発動したのである。



55: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:44:08.10 ID:9dyU60410
( ^ω^)「…………!」
音と光が消えた時には、既にクーの姿は無かった。

爪'ー`)「ショボンか……
     最後まで、手を焼かせてくれる」
言って、フォックスは携帯電話を取り出した。
素早くダイヤルし、受話器に口を当てる。

爪'ー`)「私だ。 女が一人逃げた。
     発見しだい、殺せ」
受話器越しに、フォックスはそう命令するのだった。


〜第二部第ニ話『歪んでいく正義 その2』 終
 次回、『生きてきた意味』乞うご期待!〜



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/09/17(月) 23:44:28.10 ID:9dyU60410
この番組は、

勝栗
打鮑
昆布

の提供でお送りしました。



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