ドクオは正義のヒーローになれないようです

1: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:26:57.55 ID:JJVv25WU0
第二部 第六話『血着! 〜ドス女VSハインリッヒ 後編〜』

〜前回までのあらすじ〜

俺は敵の海賊島に潜入し,船長の部屋に乗り込んだ。誰もいない。
くそっ,ヤツはどこだっ!
とそこで,ベッドの上に鎖で縛り付けられている黒人娘を見つけた。
彼女は叫んだ「カズマ! 来てくれたの?」
俺にはこんな丸顔の黒人女は知り合いにいないのだが……ってマノン?

そんな馬鹿な,彼女は卵形の顔をしていたし,薔薇色の肌だった。
そして二重で勝気なグリーンの瞳を持っているんだ。
しかしそれは間違いなくマノンだった。
顔と肌はボコボコに殴られ腫れて黒ずんでいて,片目はつぶれている。
左脚は膝から逆方向にまがっており,歯も1本も残っていない。

「ごめんね,カズマ。分からない? そうよね,私ここに連れて来られてから
 一度もお風呂に入っていないし,汚くて分からないわよね。

 あれからね,私ずっと何度も海賊たちに抱かれたわ。
 でもね,私その相手をカズマだと思うようにしたの,だってカズマなら
 殴られても何をされても嫌じゃない。耐えられるから。許してくれる?

 私,鏡すら見てないのよ。
 前に思い切り抵抗したとき殴られて以来,目も良く見えなくて……。
 ねぇ,私醜くなった?」

俺は彼女を抱きしめ,唇を吸った

「いや,マノンは綺麗なままだよ」



3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:28:56.80 ID:JJVv25WU0


          * 以下、何事も無かったかのように再開 *


イ从゚ ー゚ノi、「ったく、儂がどうしてこんなこと……」
五時間ほどかけ、やっとのことで川を塞き止めていた土砂を全て取り除き、
銀はやれやれと悪態をついた。

いくら自分が人間以上の身体能力の持ち主とはいえ、
重労働であることに変わりはないし、疲労だってする。

なし崩しとはいえ、何の縁もない人間達の為にここまでするなど、
到底考えられないことだった。

('e')「やあ、半日もかからずやってのけるとは、流石だな」
感心したように、セントジョーンズが声をかけた。

イ从゚ ー゚ノi、「貴様……! 儂一人に仕事を全部押し付けおって!
       自分で受けた仕事なら、少しは手伝え!!」
('e')「最初に言っただろう?
   私は肉体労働は得意じゃないんだ。
   適材適所、というやつさ」
憤慨する銀を尻目に、セントジョーンズは微笑を浮かべながら答えた。



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:29:22.47 ID:JJVv25WU0
('e')「さて、一先ずはこれで大丈夫だな。
   どうだい? 人助けというのも、たまには良いものだろう?」
イ从゚ ー゚ノi、「誰が……! いいか、儂は二度とこんなこと……」
そう言おうとする銀の袖を、一人の少女が引っ張った。

イ从゚ ー゚ノi、「……? 何じゃ、お主は?」
少女は訝しがる銀の視線を避けるように目を伏せ、
何やらもじもじとしていたが、やがて意を決したように銀の手に一輪の花を差し出した。

「あ、あの……ありがとう、お姉ちゃん!」
少女はそれだけ言うと、恥ずかしさからか銀の前から駆け出して行ってしまった。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
銀は少女から手渡された花を持ったまま、ぽかんとした様子でその場に立ち尽くしていた。

今のは、何なのだろうか。
自分は別に、あの少女達を助けてやろうなんて気持ちはさらさら無かった。
にもかかわらず、何故あの少女はお礼なんて言ってきたのだろう。

銀達人外には、ありえないことだ。
超常の力を持つ人外は、他者からの手助けなんて必要としないし、
見ず知らずの者を助けることもない。
それ故、誰かにお礼を言うことなんてほとんど有り得ないのだ。

誰かに助けて貰わねば生きていけないなど、弱いという証拠であり、耐え難き恥辱。
ずっと、そう思ってきた。

なのに――
なのに人間は、どうしてああも真っ直ぐ誰かに感謝の気持ちを向けることが出来るのか。



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:29:45.28 ID:JJVv25WU0
('e')「良い物を貰ったようだな」
セントジョーンズが銀の後ろから声をかけた。

('e')「どうだい? 誰かからお礼を言われて、どんな気持ちかな?」
続けて、セントジョーンズが訊ねた。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
銀はもう一度手に持った花を見やり、しばし考えた。

ずっと一人で生きてきた。
一人で、やってこれた。
それで充分だと、思っていた。

だけど、今、感じているこの気持ちは――

イ从゚ ー゚ノi、「……悪くはないな」
それだけ、銀は短く答えた。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:30:02.76 ID:JJVv25WU0

                     ・

                     ・

                     ・

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
仰向けに倒れた状態で、銀は意識を取り戻した。

……何故自分はこうして倒れているのだろう。
思い出しながら、体を起こそうとする。

イ从゚ ー゚ノi、「つッ……!」
右脇腹に、激しい鈍痛が走る。
見ると、折れた肋骨が肉から飛び出し、血がそこから流れ出していた。

そうか。
さっきハインリッヒからの一撃を喰らって、派手に吹き飛ばされたのだった。
つまり、今はまだ戦闘の真っ最中で――

从 ゚∀从「うおるああああああああああああああああああああああああ!!」
その時、頭上からハインリッヒが叫び声と共にバットを振り下ろしてきた。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:30:21.24 ID:JJVv25WU0
イ从゚ ー゚ノi、「くッ!!」
体を横に回転させ、寸前でその一撃を避ける。

先程まで銀が居た場所をハインリッヒの金属バットが打ち据え、
地面を抉って大量の土を巻き上げる。

激しい轟音と地響き。
まともに喰らえば、間違いなく上半身を粉砕されていただろう。

从 ゚∀从「ンだよ。 外しちまったか」
ハインリッヒがバットを両手に持ち直しながら銀の方に向いた。

このままでは、ヤバい。
銀の額を冷たい汗が伝う。
何とかして、この状況を打開する手段を考えなければ。

ミ,,゚(叉)「る……おおおおおおおおおオォォ!!」
人狼へと姿を変え、ハインリッヒに突進した。

だが、これだけでは駄目だ。
いくら筋力や速度を強化しようが、
ハインリッヒの能力の前には全て跳ね返される。

ロマネスクのように、その能力の容量すら凌駕する程の圧倒的な力があれば話は別だが、
今の自分にそこまでの力は無い。
ならば――



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:31:07.20 ID:JJVv25WU0
ミ,,゚(叉)「るあァッ!!」
走りながら落ちていた石を拾い上げ、
ハインリッヒの眉間目掛けて投げつけた。

ただの石でも、銀の力で投げれば銃弾以上の威力を持つ。
当たれば、痛いでは済まない。

ミ,,゚(叉)「シィィッ!!」
そして、その石は囮。
上段の石に目を奪わせた隙に、下段から本命の一閃を斬り上げる。
これなら――

从 ゚∀从「甘えんだよ」
しかし、ハインリッヒは余裕の笑みを崩すことは無かった。
次の瞬間――



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:31:40.55 ID:JJVv25WU0
ミ,,゚(叉)「!!?」
銀の体と石とが、同じ方向に跳ね返された。

ミ,,゚(叉)「がはッ!」
突進してきたのと同じ速度で背中から地面に叩きつけられ、
銀が苦しげに呻き声を上げる。

从 ゚∀从「フェイントかけりゃどうにかなると思ったんだろうが無駄無駄ァ。
      単純な物理攻撃じゃ、絶対にオレは倒せねえんだよ」
背中にバットを担いだまま、ハインリッヒが銀を見下ろしてきた。

さっき、追い討ちをかける時間はあった筈なのに――
いつでも殺れると言いたいのか……!

从 ゚∀从「さあ来いよ。 まだまだこんなもんじゃねえんだろ?
      パーティはこれからだぜ」
ハインリッヒが、挑発するように手招きをした。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:32:07.99 ID:JJVv25WU0

                    ・

                    ・

                    ・

('e')「ぐうう……! がああッ……!」
老人の亡骸を前に、セントジョーンズは獣のような嗚咽をもらしていた。

あれから――
銀とセントジョーンズは、一緒に各地を巡っていた。

その先で、人間達と関わり、
助け、時には助けられて、何十年も旅を続けていた。

その中で、銀は確実に変わっていた。
人間から教えられることは沢山あった。

助け合うこと、他者を慈しむことの尊さ、
挙げていけば枚挙に暇が無い。

だから、銀は人間と関わり合うことが好きになっていた。
セントジョーンズも、それは一緒だったのだろう。

だが――



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:32:35.09 ID:JJVv25WU0
('e')「う、うああああ、がああああああああああ……!」
人間と人外とは、同じ時間を共有することは出来ない。

今、セントジョーンズの前に横たわる老人の遺体も、
出会った時は腕白な少年だった。
ずっと友達でいると、そう約束していた。

だけど――
人間の寿命は、人外に比べて余りに短過ぎた。

イ从゚ ー゚ノi、「セントジョーンズ……」
銀はセントジョーンズの肩に手を置いた。

これで、人間との死別は何度目になるだろう。
幾人もの人間が、銀達の横を通り過ぎていった。
幾人もの人間が、銀達より先に死んでいった。
この痛みには、いつまでも慣れそうにない。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:33:00.79 ID:JJVv25WU0
('e')「どうして…… 何故だ!
   何故私達は老いない! 何故朽ちない! 何故死なない!
   何故、こんな思いをしながら生きていかねばならないのだ!
   これが、超人の業というものなのか!?
   普通の生を我々は望んではいけないというのか!?
   何故、これ程の責め苦を受け続けねばならないのだ!!」
狂ったように、セントジョーンズが叫ぶ。

イ从゚ ー゚ノi、「セントジョーンズ……」
それ以上、銀は何も言えなかった。

セントジョーンズ、彼は、人外として生きていくにはあまりに人間的過ぎ、そして繊細過ぎた。

イ从゚ ー゚ノi、「…………」
銀は俯いたまま、セントジョーンズに何も声をかけることが出来なかった。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:33:39.69 ID:JJVv25WU0



('e')「…………」
あれから、セントジョーンズはどこか変わってしまった。
銀はそう感じていた。

具体的にどこが、と聞かれても答えられないのだが、
とにかくどこか、以前の彼とは違ったもののように思えてならないのだ。

思い過ごしかもしれない。
しかし、そう楽観的に考えるには、あまりに違和感がある。

セントジョーンズが、
人間でも人外でもない、
もっと別の『何か』になっていってしまっているような――



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:34:05.87 ID:JJVv25WU0
イ从゚ ー゚ノi、「なあ、セント……」
銀は声をしたが、出来なかった。

('e')「どうしたんだね?」
いつもと変わらぬ穏やかな笑みで、セントジョーンズは銀の方を向いた。

イ从゚ ー゚ノi、「いや、何でもない……」
それだけ言うと、銀はそれ以上詮索するのをやめた。

そうだ。
そんな訳が無い。
自分の考えすぎた。
そう、思い込もうとしたのである。

――しかし、後で銀はそれを、死ぬ程後悔することになるのだった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:34:38.65 ID:JJVv25WU0

                     ・

                     ・

                     ・

ミ,,゚(叉)「ガハッ……! ハアッ……ハアッ……!」
塊のような血を吐き出しながら、銀はよろよろと立ち上がった。

全身の骨のあちこちに罅が入り、砕かれ、肉は内出血でどす黒く変色していた。
再生能力も、余りのダメージの酷さに追いつかない。

あれから幾度と無くハインリッヒに向かっていったが、
ハインリッヒに掠り傷一つ負わせることが出来ない。
それ程、奴の力は圧倒的だったのだ。

从 ゚∀从「頑張るなあ、ええおい?」
銀の血で紅く染まったバットを振り回しながら、ハインリッヒが笑った。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:35:08.99 ID:JJVv25WU0
从 ゚∀从「あの化物のロマネスク程じゃねえが、
      オレを相手にここまで頑張った奴は多くねえ。
      そこは誇りに思っていいぜ?」
ミ,,゚(叉)「ふざけたことを……!」
言いながらも、もう体はほとんどまともに動かない。
このままでは、追い詰められて殺されるのは時間の問題だった。

だが、まだ手はある。
あと少し、もう少しだけこのままじっとしてくれていれば――

从 ゚∀从「まあでもそろそろ飽きてきたしな。
      ちゃっちゃと死んでくれや」
ハインリッヒが、銀に向かって歩みを進める。
と――



28: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:35:44.89 ID:JJVv25WU0
从 ゚∀从「あァ!?」
背後から聞こえてきたメキメキという音に、
ハインリッヒは思わず振り返った。
見ると、巨木がハインリッヒ目掛けて一直線に倒れてきている。

銀が木に予め切り込みを入れておき、
時限式でハインリッヒに向かって倒れるように細工をしていたのだ。

从 ゚∀从「なあァ!?」
思わぬ光景に、一瞬ではあるがハインリッヒは取り乱した。

ミ,,゚(叉)「貰った――!」
その隙を突いて、銀がハインリッヒに飛び掛った。

後ろからは巨木、前からは銀。
挟み撃ちの形で、それぞれハインリッヒに襲い掛かる。
だが――



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:36:08.55 ID:JJVv25WU0
ミ,,゚(叉)「ぐああッ!」
その不意打ちは、失敗に終わった。

ハインリッヒは左腕で巨木を受け止め、
銀を運動ベクトル操作によって弾き飛ばしたのだ。
弾き飛ばされた銀は、土煙を上げながら地面を転がる。

从 ゚∀从「危ねえ危ねえ……
      今のはちいっと肝が冷えたぜ」
受け止めた巨木を地面に払い落としながら、ハインリッヒが呟くように言った。

しくじった……!
今のが、正真正銘最後のチャンスだったのだ。

从 ゚∀从「だけどまあ、今ので打ち止めなんだろ?
      顔にそう書いてあるぜ」
勝利を確信した笑みで、ハインリッヒが銀を見据えた。

ミ,,゚(叉)「…………!」
銀は唇を噛んだ。
ハインリッヒの言う通り、もう自分には何も手立てが残っていない。
ここまでか……!



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/10/31(水) 20:36:53.51 ID:JJVv25WU0
ミ,,゚(叉)「!!?」
その時、銀の脳裏にある言葉が甦った。


从 ゚∀从「危ねえ危ねえ……
      今のはちいっと肝が冷えたぜ」


危ない?
危ないだって?
まさか、それなら、もしかしたら――!

ミ,,゚(叉)「…………!」
銀の目に再び力が宿る。

さっきのハインリッヒの言葉。
あれが本当なら、一つだけ奴に勝つ方法が残っている。
確実ではないが、これに賭けるしかない……!



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