( ^ω^)がリプレイするようです

7: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:29:10.40 ID:ww9TKBZ60

Last scene :????年、時の狭間


『――さあ、行きましょう。
 貴方の生きたあらゆる思いは我らと一つになり、いずれ別れてはまた別の生を得る。
 そうやって時が流れていく――』 

                「浅倉卓弥 君の名残を(下)『第二部 流転編 平泉之章』」



11: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:31:02.76 ID:ww9TKBZ60

………

……




二度目の死。
三度の目覚めはないであろうと覚悟はしていた。  
                    
しかし、それでも目覚めた内藤。彼の立っている世界は霧のようなものに包まれていた。  

それが霧でないとわかったのは、その中にいる自分の身体がまったく湿っていなかったから。
視界はどこまでもミルク色で、その先に人影はおろか、建物の陰影さえ何一つ見当たらない。

/ ,' 3「……ここはどこなんじゃ? 」

呆然と立ち尽くす内藤。キョロキョロと周囲を見渡し、誰にともなくつぶやいた。
しかし、問いかける老人のその声さえも、白の世界は簡単に飲み込んでは溶かしてしまう。

/ ,' 3「時の番人!おらんのか!?ここは時の狭間ではないのか!? 」

白霧に投げかけた声はやはり飲み込まれ、反響することなく消えてしまう。
その先に言葉の受け取り主は存在するのであろうか? わからない。

わからないからこそ答えを求めて、老人は霧の先へと足を踏み出した。



12: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:33:12.49 ID:ww9TKBZ60

霧中を進む内藤。さまようと形容した方が正しいかもしれない。
周囲に音はなく、自らが発する足音さえも響くことなく、世界は不気味なほどに静かだ。

時間も、方向の感覚さえもない。まさに五里霧中。

あと少し彼がさまよい続けていれば、
上下の感覚をつかさどる三半規管さえも麻痺してしまっていたことだろう。

なんとかそれを避けることが出来たのは、霧の中に細い一本の階段を見つけたから。

/ ,' 3「……ここをのぼるしかなさそうじゃのぅ」

大人一人分の幅しかない階段には手すりさえ付いていない。
終わりの見えないその先に向かい、老人は慎重に足を一歩ずつ踏み出し始める。


一段、二段……五段、六段……十段、十一段……


/ ,' 3「ありゃ? もう終わりなのか?」

階段は十三で終わっていた。下から見上げた際にはもっと長く続いていると感じられたのだが、
それは白霧が見せた錯覚に過ぎなかったらしい。

その代わり、階段の先には細長い道が続いていた。



16: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:35:21.84 ID:ww9TKBZ60

どこまでもどこまでも、白の先へと続いていく小道。
当然のごとく手すりは無く、一歩足を踏み間違えれば白の底へと転落する。

慎重に歩を進めた。やがて、前にも後ろにも白霧に続く道の先しか見えなくなる。

それからもしばらく歩き続け、
いい加減その道程に飽きてきたそのとき、道の先に一つの人影を見た。

/ ,' 3「……何じゃありゃ?」

その人影の奇妙さに、老人は思わず立ち止まった。

何が奇妙かというと、その人影は後ろ向きなのだ。
それなのに、まるで氷上をすべるかのように滑らかに、細い小道をこちらに向けて進んでくる。

やがてその人影がはっきりと見える距離まで進んできてはじめて、老人はその背中に声をかけた。

/ ,' 3「……誰じゃ?」

( ´∀`)「おお! セニョ―――ル!! ようこそいらっしゃいましたムッシュ内藤!!」

目の前で立ち止まった背中は場違いに明るい声を上げ、老人へと振り返った。



20: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:37:30.10 ID:ww9TKBZ60

目の前に現れた男の顔は、ひどいタレ目のニヤけ顔。
人のよさそうなその顔は、時の番人同様、バーテン仕様の服に包まれていた。

異なるのは頭にかぶったシルクハットと手にしたステッキ、そして胸元の蝶ネクタイの青い色。

彼は細い道の上で器用に身を翻すと、
頭上のシルクハットを左手で取り、内藤に向けてうやうやしく礼をする。
  
( ´∀`)「いかがでしたか? わたくし秘伝のム―――ンウォ―――ク!!
     滑らかに! 緩やかに ! そして軽やかに!
     進む足取りのこの華麗さに、あなたは心打たれてくれたでしょうか!?」

/ ,' 3「……」

先ほどの後ろ向き歩きはムーンウォークと言うらしい。

もはや不審者を通り越して変態と呼ぶにふさわしい目の前のシルクハット。
最大限の警戒のまなざしを送る内藤を見て、彼は道化のように驚いて見せ、続ける。

( ´∀`)「お――っと! 大変な失礼をいたしましたムッシュ――! 
     愚かなわたくしの非礼をお許しくださいセニョリ――――タ!!
     わたくしは永久に続く命の連鎖を司る輪廻の番人、名をモナーと申します。 
     どうぞ、お見知りおきを」



25: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:41:00.46 ID:ww9TKBZ60

/ ,' 3「あ、ああ。よ、よろしく」

そう言って握手を求めてくるシルクハット。老人はあっけに取られながらも手を握り返した。

八十年近く生き、二度死んだ。
人の世の憂いを骨の髄まで味わった己の身に、驚くことなど何もないと思っていた内藤。

しかし目の前に現れたシルクハットの行動は、内藤の想像の斜めはるか上を疾走していた。

( ´∀`)「永久なる輪廻の輪を司る以上、わたくしのこの身もまた永久の中に生きております。
     枯れる事の無いこの身はつまり! 後ろ向きでも前へ進めるだけの力を有するということ!!
     その何よりの証拠が先ほどのムーンウォークなのでありますのですよムッシュ―――!!」

/ ,' 3「う、うむ。それで聞きたいことが……」

( ´∀`)「シャラ―――ップ! 皆まで申すな! わかっております! 
     それがしには、あなたのおっしゃりたいことなどよーくわかっておりますのですよ――――!!」

激しいボディーランゲージとともによくわからない様式の言葉を連ねるシルクハット。
彼は手にしたステッキをくるくると回し、その先端を内藤に向け、言う。

( ´∀`)「あなたは知りたいのでしょう?」

/ ,' 3「そ、そうじゃ! 教えてくれ!!」

( ´∀`)「思ったと――り! さすがはわたくし輪廻の万人!! アイムジ―――ニアス!!
     よろしい! 教えて差し上げましょう! わたくし秘伝のム――――ンウォ――――クを!!」

老人は絶句した。



33: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:44:09.05 ID:ww9TKBZ60

( ´∀`)「と、申し上げたいところですが、
     残念ながらこのムーンウォークを極めるにはいささか時間を要します。
     それは人間の時間に換算すると実に五百年!
     所詮は人間に過ぎないあなたの身では、残念ながら極めるまでには至れませ――ん!
     オーノー! ジーザス! オーチンハラショ――――! 
     残念! 切腹!! ジャカジャ―――ン!!」

/ ,' 3「……」

もはや何語をしゃべっているのかすらわからない。
目の前のシルクハットの国籍に疑問を抱きつつも、内藤は一度大きく深呼吸し、たずねる。

/ ,' 3「……えっと、おぬしは輪廻の番人と言ったな? ということは、ここは輪廻の輪の中なのか?」

( ´∀`)ノシ「ノンノン! 非常に惜しいですがまったく違いますよムッシュ―――!!
       こちらは煉獄! 正規の方法で輪廻の輪へと赴くことの出来なかった、
       愚かで浅はかな、さまよえる魂だけがたどり着ける非常にレアな場所なのでございます!!」

どこかひっかかる物言いだが、
とにかくここが何処なのかと、目の前の変態が何者なのかだけは理解した。
相手にペースを握られないように注意しつつ、老人は言葉を重ねる。

/ ,' 3「なるほど。ということは、わしはこれから輪廻の輪をくぐり、そして生まれ変わるのじゃな?」

( ´∀`)「ブラ――ボ――! ご名答! 人間にしては物分りが良いではありませんかムッシュー!!
     それでは早速ゆきましょう! 輪廻の輪へと! 新たな世界の扉を開きに!! レッツ! さあ!!」

/ ,' 3「……それは……出来ん」



37: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:46:07.43 ID:ww9TKBZ60

静かにシルクハットの言葉を否定した内藤。
とたん、目の前の変態の雰囲気がガラリと変わった。

しかしそれにひるむことなく、老人は続ける。

/ ,' 3「わしはもう一度、時の狭間……時の番人のもとに赴かねばならん。
   わしが切り開いた娘の未来。彼女のたどり着いたその先を聞かねば、わしは死んでも死にきれん」

( ´∀`)「……」

/ ,' 3「わしに時間が無いのはわかっとる。じゃからほんの少しの間だけでよいのじゃ。
   どうかわしに時の番人と面会する最後の時間をくれんか? のう、輪廻の番人よ?」

( ´∀`)「……」

老人の懇願の声。

シルクハットの輪廻の番人は、垂れた目とにやついた顔つきはそのままに、
瞳だけにあきらかな不機嫌の色をまとい、老人をただジッと見つめてくる。

そして、言う。


( ´∀`)「……ったく、下手(したで)に出て損したモナー」



42: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:48:00.32 ID:ww9TKBZ60

/ ,' 3「……」

口調までもが変わったシルクハット。
今までの彼の行動が下手に出ていたものなのかは甚だ疑問ではあったが、老人はとりあえず沈黙を保った。

誰の目からもわかる不機嫌なオーラを身にまとい、
手にしたステッキを所在無げにくるくると回しながら、シルクハットはめんどくさそうに話を続ける。

( ´∀`)「あのね、あんたはやり直しだけでかなりの時間をくってるんだモナ。
     これ以上時間がたつと……といってもここには時間なんて流れていないから
     あくまであんたの体内時間の話になるんだけど……あんた、生まれ変われなくなるモナよ?」

/ ,' 3「……」



47: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:50:45.29 ID:ww9TKBZ60

( ´∀`)「本来、死んだ魂はすぐに輪廻の輪へと送られて生まれ変わるモナー。
     今のあんたはその理からはずれ、かなりの負荷を魂に受けているんだモナ。
     これ以上その負荷を受け続けると、あんたの魂はバラバラに砕けてしまうモナ。

     大体ね、やり直し自体が特例中の特例なわけだモナ。わかるかモナ?
     こっちだって抱えてる仕事がたんまりあるんだモナ。
     おまけにさっきも一つ、時の狭間に魂を送ったんだモナ。もうね、けつかっちんなわけだモナ。

     こちとらさっさとあんたを輪廻の輪に放り込んで、
     バーボンハウスで仕事終わりの一杯を楽しみたいんだモナ。

     あ、ちなみに、時の番人にはあんたをやり直させるかわりに、
     僕にスピリタス・ウォッカを一杯奢るよう頼んでるモナ。
     つまり、あんたのやり直しなんて僕たちにとってはスピリタス一杯分の価値しかないわけモナ。

     たかがその程度のことなのに僕はわざわざ煉獄にまで赴いて、人間のあんたのために
     下手に出ながら、今みたいにやる必要の無い仕事までやらされているわけモナ。わかる?
     それなのに挙句の果ては時の番人のもとへ連れて行けかモナ? いい加減にしてほしいモナ」



53: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:52:48.83 ID:ww9TKBZ60

( ´∀`)「それに、四度目のやり直しの後にあんたをここにつれてくるように言ったのは
     他ならぬ時の番人だモナ。あんた、それがどういう意味かわかっているのかモナ?」

/ ,' 3「ど、どういう意味じゃ!?」

シルクハットの思いもよらぬ一言。内藤は声を荒らげ聞き返した。

時の番人が時の狭間を経由することなく自分をここに、煉獄へとつれて来いと言った。

どういうことだ? なぜそうする必要がある? 
無事にやり直しが成功していれば、自分が時の狭間に赴いても何の問題もないはずだ。

老人の心中を恐慌が埋め尽くす。それとは対照的に、
目の前のシルクハットはもともとニヤついていた顔をさらにニヤつかせ、高らかに笑い声を上げる。

( ´∀`)「モナモナモナwwwwwww 本当にわからないのかモナ?
     それならヒントをあげるモナ。これは時の番人から言付かった言葉だから心して聞くモナよ?

     『内藤ホライゾン、あなたに知る必要の無い真実を知る勇気があるのなら、
     もう一度時の狭間へとお越しください。そうでなければ、そのまま輪廻の輪へとお行き下さい』

     さあ、これを聞いてもまだあんたは時の狭間へと連れて行けと言うのかモナ?」



57: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:55:29.96 ID:ww9TKBZ60

/ ,' 3「待て!知る必要の無い真実とは一体なんのことじゃ!?」

知る必要の無い真実。

最後のやり直しにおいて、内藤が麗羅に真実を伝えなかった言い訳として使った言葉。
それなのにいざ自分が伝えられる側の立場に立つと、これ以上に知りたいものは無いと感じられた。
そんな自己の矛盾に気づくことすらなく、内藤は狼狽した。

細い道の先、目の前のシルクハットの肩をつかんで詰め寄る。
しかし輪廻の番人は、慌てふためく老人の顔を間近に捉えても、腹を抱えて笑い続ける。

( ´∀`)「モナモナモナwwwwwww腹が痛いモナwwwww傑作だモナwwwwwwww
     モヒーww笑い死ぬモナwww死なないけどwwwさすがは人間www頭が悪いモナwwww
     それじゃあ、やさしいこの僕からもう一つヒントをあげるモナ」

そう言って老人を突き放すと、輪廻の番人は手にしたステッキの先端を内藤の眉間へと伸ばし、言う。


( ´∀`)9m「内藤ホライゾン。あんたというくだらない存在の自己犠牲一つで、
       誰かの未来を救えると本当に思っているのかモナ? 自惚れるのも大概にするモナ」



63: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/22(日) 23:58:27.73 ID:ww9TKBZ60

突きつけられたステッキの先にあるのは、ジッと、こちらの心中までも見透かすような瞳。
時の番人とまったく同じ、『貴様の強がりなどお見通しだ』とでも言わんばかりの、深い瞳。

/ ,' 3「どういうことじゃ!
   まさか……デレの未来は変わらなかったのか!? デレはあの後死んだとでも言うのか!?」

( ´∀`)「そこまで言ってあげるほど、僕はお人よしではないモナ。
     あとは貴様が実際に、しょぼくれたその目で確認するだけの話だモナ」

そして、パチンと指なりの音がした。
同時に、老人の前に二つの扉が現れる。

シルクハットの番人の姿は、現れた二つの扉の影に隠れて見えなくなり、
扉の向こう側から、わざと神経を逆なでしているかのようないやらしい声が聞こえた。

( ´∀`)「さあ、愚かな内藤ホライゾンの魂よ。扉を選ぶが良いモナ。
     貴様から見て右が輪廻の輪へと続く幸せの扉。そして左が時の狭間へと続く真実の扉だモナ。
     どちらをくぐるかは貴様の勝手だモナ。

     しかしまあ、安心するモナー。こっちも職人だモナ。
     どちらの扉をくぐろうが、時間がくれば僕が貴様を無理やりにでも輪廻の輪へと放り込むモナ。
     慈悲深い僕の行いに感謝しつつ、己のたどるべき道を選ぶがよいモナー」



68: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:00:24.82 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「……」

与えられた二つの扉。
一つは幸福へ、もう一つは真実、それも知る必要のない真実へと続いているそうだ。

普通は前者、幸福への扉を誰もが選ぶだろう。しかし、内藤にはそれが出来なかった。

別の『時』の自分の命までも投げ出して変えた未来。
その先にある真実を知らなければ、彼は死んでも死にきれなかった。
自らの身勝手な行いで閉ざしてしまったあの『時』の内藤ホライゾンに申し訳が立たなかった。

しかしそうは思っても、怖いものは怖い。
知る必要の無い真実。それはどう楽観的に見積もっても悪い知らせ以外の何物でもないはずだ。

足が震え、身体から力が抜ける。生唾ひとつ飲み込むのでさえ億劫だ。
はじめの人生でのあの事故の後、麗羅が眠っている霊安室の扉を前にした時とよく似ていた。

目の前の扉。
右側は美しく装飾された、光り輝く鉄製の扉。幸福の名に違わぬ荘厳な雰囲気をまとっている。
一方で、左側の扉。それははじめの死の後にも目にした、バーボンハウスの木目調の扉。

/ ,' 3「まさか、二度目の死後もこの扉を開けることになるとはのぅ……」

運命の皮肉さにため息をひとつつき、老人は木目調の扉の取っ手に手をかけた。

『キィィィ』と乾いた音が響き、彼の目の前には、あの薄暗いバーの室内が再び現れた。



70: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:02:11.94 ID:s3hVJDaY0

                      *

開けた扉の先。
もはやすっかり見慣れてしまったカウンターの先にいるのは、あの男の姿。
首もとの蝶ネクタイが怪しく赤らむバーテン、時の番人。

彼は扉の前に立つ内藤を一瞥し、
まるで『こちらに来なさい』と言わんばかりにカウンターへグラスを置く。

注がれるテキーラ。
液体がグラスに満たされると同時に、老人はカウンターへと腰掛ける。

(´・ω・`)「……やあ、またお会いしましたね。ようこそバーボンハウスへ」

/ ,' 3「ああ。いろいろと聞かせてもらうことがある。すべてを洗いざらいしゃべってもらおうか」

(´・ω・`)「うん、とりあえず落ち着いてほしい。まあ、一杯どうぞ」

そう言って、バーテンはカウンター上のグラスを内藤の前へスッと差し出す。
目の前の液体を一気に空け、わずかばかりに頬を赤らめ、老人は話を切り出す。

/ ,' 3「輪廻の番人とやらから話は聞いた。わしを煉獄とやらへ送った理由を聞かせてもらおうか」



75: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:04:44.28 ID:s3hVJDaY0

(´・ω・`)「……やはり、伝えねば納得してもらえませんよね」

/ ,' 3「無論じゃ」

時の番人は二つ目のグラスを取り出し、そこにテキーラを注いでいく。
そして勢いをつけるかのようにそれを飲み干し、顔色をなんら変えることなく続ける。

(´・ω・`)「……輪廻の番人に伝言を頼んだのは、単に私が弱かったからです。
     ここまで苦しんでやり直しを続けてきたあなただ。最後の最後までその結果は見届けてほしい。
     しかし、その結果を知らずに輪廻の輪をくぐってもらいたいのもまた、私の本音なのです」

『己の言葉に偽りはない』 

そう言わんばかりに、内藤をまっすぐに見据える時の番人。
垂れ下がった眉の下の双眸は、薄暗い室内の中で場違いに浮いて輝く。

(´・ω・`)「結局、私にはどちらも選ぶことが出来なかった。だから私はその選択をあなたに委ねた。
     あなたが真実を知りたかったらこちらへ、知る必要がないと感じれば輪廻の輪へ、
     それぞれの扉を用意して、私はここでお待ちしておりました。
     そしてあなたは再びこちらへと現れた。それならば、私が出来るのは真実を話すことだけ。
     あなたの成したやり直しの結果を、包み隠さず伝えるだけ」

/ ,' 3「能書きはよい。さっさと結果を教えてくれ。覚悟は出来ておる」

(´・ω・`)「……いいでしょう。しかし、話すのは私ではない。
     すべての真実はこの方が握っている。どうぞ、お入りください」



78: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:07:10.21 ID:s3hVJDaY0

時の番人の声とともに、バーの一番奥、
かつて二度目のやり直しを終えた内藤が心と身体を癒したあの小部屋の中から、何者かが姿を現した。

薄暗い照明の影に隠れて、その顔は遠目からは判別が付かない。
ただ、小さくて丸い身体のラインから、それが女性であることだけは検討が付いた。

彼女はゆっくりと、内藤に向かって歩いてくる。
女性らしい、優雅でしなやかな歩き方。その歩き方から、彼女がツンではないことだけはわかった。

それならば、彼女は誰だ? そらさん? 渡辺さん? それとも……

照明の影に隠されていた彼女の顔が、徐々に正体を現し始める。
内藤の身体が凍り付いていく。

しわがれていて、そして世の憂いを秘めた顔。汚れと白髪の目立つ巻き毛。

変わっていた。すっかり変わってしまっていたけれど、
それでも内藤には、彼女が誰なのかわかってしまった。

彼女は内藤の前に立ち、深々と一つの礼をして、言う。

/ ,' 3「お……お主は……!!」


ζ(゚ー;;゚*ζ「……お久しぶりです、内藤ホライゾンさん。あなたの娘、内藤麗羅です」


現れた女性、いや、老婆は、他の何者でもない、内藤麗羅その人だった。



89: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:09:24.84 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「おお……デレ……大きくなったのぅ……」

ポツポツとまばらに降り注ぐ小雨のように言葉を漏らしながら、
内藤はフラフラと老婆の下へと歩を進める。

顔に深い笑いじわを浮かべた麗羅は、倒れこんでくる老人の身体を支え、答える。

ζ(゚ー;;゚*ζ「……なんですかそれはw 
     私は大きくなってなどいません。枯葉のようにしわがれて、ただ老いてしまっただけです」

/ ,' 3「しかし老いたということは、それだけの時間を過ごしたということじゃろ?
   ならばお前は未来を生きたのじゃな? 幸せな生をまっとうしたのじゃな!?」

ζ(゚-;;゚*ζ「……」

/ ,' 3「おお……おお……よかった……本当によかった……」

立ち上がり、震える声でつぶやき、
目の前の老婆の肩にすがりながらさめざめと泣く内藤。

老婆は何も言わず、ただ悲しそうな表情を浮かべて父を抱きとめるだけ。



97: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:11:11.91 ID:s3hVJDaY0

数十年ぶりに再会した親子。
細く小さくなってしまった父親の身体を受け止めて、娘は一体何を想うのだろうか?

彼女は寄りかかる父親の肩越しに時の番人の姿を捉える。

八の字眉毛のその顔は、コクリと静かに頷いて、言う。

(´・ω・`)「……内藤さん。この方は、あなたのやり直した『時』の麗羅さんです」

/ ,' 3「おお……そうかそうか。おぬしがわざわざデレをこちらに呼んでくれたのじゃな?
  こんなわしのために本当にすまぬ。どんなに感謝してもしたりんくらいじゃw」

そう言って娘から身体を離し、バーテンの方へ歩き出し、手を差し出す老人。
バーテンは差し出されたしわだらけの手のひらを一瞥し、握り返すことなく答えた。


(´・ω・`)「内藤さん、お忘れですか? 時の狭間には、ある一定の人種しか訪れることが出来ないことを」



104: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:13:09.06 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「……ど、どういう意味じゃ?」

(´・ω・`)「内藤さん。ここ、時の狭間には、激しい後悔を持つ人物しか来ることが出来ないんですよ。
     いえ、正確に言うと、激しい後悔を持つ人物しか私はここに招待しないのです」

/ ,' 3「!!」

時の番人の言葉を聞き、内藤は瞬時に老婆へと振り返る。
一瞬だけ内藤と目のあった麗羅は、申し訳なさそうに視線をそらす。


『内藤ホライゾン。あんたというくだらない存在の自己犠牲一つで、
誰かの未来を救えると本当に思っているのかモナ? 自惚れるのも大概にするモナ』


シルクハットの輪廻の番人の言葉が浮かび、消えることなく老人の脳裏を駆けずり回る。
先ほどの喜びの涙はどこへやら、まさに狼狽そのものを体現し、内藤は目の前の娘へと詰め寄る。

/ ,' 3「デレ! お前は後悔を抱えておるのか!? 
   死んでやり直したいと思うほどの重責を背負っておるのか!?」

ζ(゚-;;゚*ζ「……」

/ ,' 3「のう、デレ! 頼むから違うと言ってくれ! 
   お前はあの誠実そうな青年とともに幸せな生を歩んだのじゃよな!? そうなんじゃろう!?」



112: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:15:16.29 ID:s3hVJDaY0

ζ(゚-;;゚*ζ「……」

老婆の肩に手を置き、その細い肩を乱暴に揺さぶる内藤。
彼女は白髪交じりの頭髪を揺らしながら、申し訳なさそうにただうつむき続けるだけ。

まるで彼女の言葉を代弁せんがごとく、時の番人が老人に向かって話しかける。

(´・ω・`)「内藤麗羅。享年は六十一」

/ ,' 3「六十一……じゃと!?」

首だけをバーテンへと向け、すぐに再び老婆へと視線をもどした内藤。
目の前の娘の姿は、六十どころか七十、下手をすれば八十でも通じるほどに老いさばらえている。

呆然とする内藤。老婆の肩に置いたその両手が、続くバーテンの言葉にブルブルと震える。

(´・ω・`)「そして、彼女の命日は二〇〇六年十二月某日。あなたの命日とまったく同じ日です」

/ ,' 3「……なん……じゃ……と」

バーテンの言葉を背中に聞き、老婆の顔を見つめる。
目をそらし続ける彼女に向かい、内藤はすがるような声で問いかける。

/ ,' 3「なあ、デレよ……嘘なんじゃろう? お前は幸せな生を歩んだんじゃよな? なあ!?」



117: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:16:56.75 ID:s3hVJDaY0

ζ(゚-;;゚*ζ「……」

しかし麗羅は、目をそらしたまま何も言わない。
その沈黙の意味は誰の目にも明らか。ただ内藤のみがかたくなに信じようとしないだけ。
その背中に、番人の言葉が追い討ちをかける。

(´・ω・`)「あなただって、もう気づいておられるのでしょう?
     彼女は……内藤麗羅は、あなたの歩んだ生をたどったのです。死んだあなたの代わりに……」

/ ,' 3「ふざけるな!!」

娘の身体を突き飛ばし、カウンターを乗り越えてバーテンへと殴りかかった内藤。

床に転がった麗羅がその光景を見て『やめて!』と叫んだ直後、
老人の手から繰り出された拳を片手で受け止め、
彼の拳ごと小さな身体を自分へと引き寄せ、時の番人は言う。

(´・ω・`)「私は言ったでしょう、内藤ホライゾン。
     『知るべきでない真実を知りたいのであればこちらへおいでください』と。
     答えを望んだのはあなただ。それならば、あなたは真摯にそれを受け止めるべきだ」



125: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:19:01.85 ID:s3hVJDaY0

老人の眼前、ゼロ距離にかぎなく近づいた時の番人の顔は、
己に向けられた憤怒のまなざしにも無表情を崩すことなく、
まるで子供に言い聞かせるような穏やかさで己の見解を述べる。

それでも老人は激昂したまま、つばを飛ばしながら声を張り上げる。

/ ,' 3「出来るか! あの『時』の内藤ホライゾンを殺し、
   二度目の死まで体験して繋ぎ止めた娘の命がわしの歩んだくだらない生をたどったなどと、
   そんな戯言を信じられるわけなかろうが!!」

(´・ω・`)「だが、それが答えであり、結果であり、事実であり、真実だ。
     今のあなたの行動を人は逃避と呼ぶ。そこから逃げても、あなたは何も得ることはできない」

/ ,' 3「何も得られずともよい! 
   デレが幸せな生を歩んだという事実さえあれば、わしは輪廻の輪からさえも逃げ切ってみせるわ!!」


(#´・ω・`)「いい加減にしなさい!!」


頬に走った強い衝撃。
気が付けば、内藤の身体はカウンターの向こう側へと吹き飛ばされていた。

悲鳴を上げながら彼へと駆け寄る麗羅。彼女に支えられながら起き上がり、頬を押さえる内藤。
そこでようやく、彼は自分がバーテンに殴られたのだと理解した。

その事実に再びの怒りのまなざしでバーテンを射ようかと顔を上げた内藤は、
バーテンの表情を見て二の句を継げなくなってしまった。



138: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:21:10.96 ID:s3hVJDaY0

(#´・ω・`)「真実から目をそらすな! やり直しの結果をちゃんと受け止めなさい!!
      あなたはこれまでそうしてきたでしょう? それがなぜ今になって出来ないのですか!?」

/ ,' 3「……」

(#´・ω・`)「私だってくやしいんだ! たとえ最後のやり直しがうまくいかなくとも、
      ドクオさんやツンさんの時と同様、あなたに納得してもらい輪廻の輪へと送りたかった!
      それがなんだ! 最後の最後で、やり直しは最悪の結果に終わってしまった!!」

バーテンの怒声がバーボンハウスに響き渡る。

見つめる内藤の視界に映ったのは、怒りと悲しみを小さな瞳の中でせめぎ合わせている時の番人の姿。
カウンターに隠れその拳は見えなかったが、彼の肩は感情を抑えるかのごとくブルブルと震えていた。

そして、その感情は爆発した。

(#´・ω・`)「私は確かに言ったはずだ! いや、間違いなくあなたに言った!!    

      『ある出来事を担う人物が抹消されたとしても、
      時はその代替たる人物を用意してその者に後を継がせる』と!

      『あなたの不幸が時にとって必要なものであったとしか思えない』と!!

      あなたが身代わりとして死ねば、その跡を麗羅さんが継いでしまうことになる!
      そのくらいあなたにだって容易に想像がついたはずだ!!

      それなのになぜあんな凶行に及んだ!? なぜタブーを犯した!!
      己の不幸の後釜に、なぜ最愛の娘を選んだんだ!?」



142: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:23:07.14 ID:s3hVJDaY0

時の番人が初めて見せた激しい感情の起伏。
能面の下から現れた怒りとも悔しさとも取れるその声は、内藤の心を奥の奥まで深くえぐる。

娘に支えられた老人の視線は放心したかのごとくしばし虚空を漂い、うなだれ、身体はか細く震え始めた。
そして、虫の音のように細々と、小さく、つぶやく。

/ ,' 3「気づかなかった……本当にわしは……気づかなかっただけなんじゃ……。
  わしの出来の悪い脳みそでは、そんなことにまで頭が回らんかったんじゃ……」

小刻みに震える老人の身体は、
神の前で許しを請う咎人のごとく地面に両の手のひらをつき、しゃくれたなみだ声をあげる。

/ ,' 3「わしはただ……デレを助けたいが一心で……
  ただ……それだけじゃったんじゃ……。ほかに方法なぞ……思い浮かばなかったんじゃ……」

震えた声は悲しみの色となって空気を渡り、時の狭間を悲哀に染め上げていく。
そして内藤はうなだれた身体をそのままに、地面に向かって悲痛な叫び声を上げる。


/ ,' 3「時の番人よ! このクソじじいに教えてくれ!
  わしはいったい何をすればよかったんじゃ!? 何をすればやり直しは成功したのじゃ!?
  何をすればデレを幸せに出来たのじゃ!?」



158: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:25:43.03 ID:s3hVJDaY0

(;´・ω・`)「そ、それは……」

/ ,' 3「このわしが持てるものはすべて捧げた! すべて投げ出した!!
   痛み! 恐怖! 願い! 希望!
   そしてわしに人生を書き換えられた哀れなあの『時』の内藤ホライゾンの命!!
   それらをもってしても成し遂げられないと言うのであれば、
   このわしには他に一体何が出来たというのじゃ!? 時の番人よ! 後生じゃから教えてくれ!!」

うなだれたまま地面に投げかけた内藤の声は空気を震わせ、時の番人の口を紡がせた。

問いに対する明確な答えを持たないバーテンは何も言えず、
やり場のないやるせなさを抱え、ただ黙り込むことだけしかできなかった。

老人の瞳から零れ落ちた水滴はバーボンハウスの床に鈍色の染みを作っていく。
それは永遠に乾くことはないと言わんばかりに、濃く、深く、時の狭間へと染み渡っていく。

老人の嗚咽だけが響く室内。
バーテンはいたたまれず、床に伏し懺悔の涙を流す老人から顔を背けた。

やがて涙も枯れ果てたのか、内藤は嗚咽すらも発しなくなった。

ただ身体だけを極寒の中にたたずむ旅人のように震わせ、目的地を見失った鳥のごとく想いを迷走させる。



162: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:27:27.30 ID:s3hVJDaY0

時の可逆性という名の風に吹かれながら、
走馬灯という名の地図を片手に、やり直しという名の旅を続けた。

そしてその先に絶望しかないということを悟り、内藤ホライゾンという名の時の旅人はその歩みを止めた。

まるでパンドラの箱を開けてしまったかのような気分だった。
その箱の中に唯一残されていた未来への可能性を、内藤ホライゾンだけは知ってしまった。

人はまだ見ぬ未来に希望の可能性を追い求めるからこそ、その先へと進んでゆける。
しかしその未来に絶望しかないと知ったとき、人は飛ぶことを止め、その翼をたたんでしまう。

やり直しなんてはじめから成功するものではなかった。
すべては無駄な苦労。過去の傷をえぐり返され、仕舞いには自分の後悔を娘に背負わせる始末だ。

こんな自分など、たとえ別の命へ生まれ変わろうと何も成すことは出来ない。
世界に不幸を振り撒き、己の後悔を他人にまで感染させてしまうのが関の山だろう。

自分はここで消えるべきだ。
輪廻の輪をくぐらず、己の後悔を胸に抱えながら、この時の狭間で魂を砕かれるのがお似合いだ。

罪深い自らの生を嘲り、時の番人に願いを届けようと顔を上げた内藤。

その彼の身体を、暖かい何かが包みこんだ。



173: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:29:56.60 ID:s3hVJDaY0

ζ(゚-;;゚*ζ「……お父さん、もういいんです。これ以上自分を責めないでください」

/ ,' 3「……デレ」

包み込んだのは娘の声、そして両腕。
一度死に、かりそめの身体を得てよみがえった彼女の抱擁は、声は、心地よいほどに温かかった。

ζ(゚-;;゚*ζ「あなたの死後、確かに私は後悔にさいなまれて生き続けました。

     あの日私が旅行に誘わなければ、あなたは死なずにすんだ。
     あの日私があなたの異変に気づいていれば、あなたは死を防げたかもしれなかった。

     そんな後悔とあなたを失った悲しみに打ちひしがれ、私はあの人とも別れ、
     失意の中でひっそりと生きてきました。あなたの命の引き換えたる保険金を使い果たし、
     生活保護というほどこしを受け、それでも暮らしはままならず、
     晩年はあなたに拾われる以前と同様、路上を寝床とする暮らしを続けました。

     そして最後は通り魔に殺され……」

/ ,' 3「ま、待て!」

老婆の独白。その中に、老人はありえない言葉を耳にした。
自分の身体を包み込む娘の腕を離し、内藤は麗羅の顔を眼前に捉え、言葉に問いを投げかける。

/ ,' 3「なぜ……なぜお前は、わしがお前を拾ったことを知っているのじゃ!?
  わしはそんなこと、一言も言ってはおらんぞ!? やはりお前はあの日のことを覚えておったのか!?」



176: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:32:11.90 ID:s3hVJDaY0

ζ(゚-;;゚*ζ「……ああ、そのことですか」

そう呟くと、麗羅はそっとカウンターの方へと視線を動かす。
つられて視線を移した内藤の瞳が捉えたのは、赤い蝶ネクタイの時の番人。

ζ(゚ー;;゚*ζ「すべてはショボンさんからお伺いしました。
     私の過去も、あなたとの出会いも。そして、あなたとの今生の別れとなったあの日のことも」

/ ,' 3「……」

目の前にあるのは、年老いた老婆の顔。

はじめの人生の自分と同じように浮世の後悔と路上のホコリに汚れ、
若かりし頃の面影を過去のかなたに葬り去ってしまったその顔。

それなのにその顔は、幸せだったあの頃と同じ無垢な笑みをたたえて、内藤に言葉を投げかける。

ζ(゚ー;;゚*ζ「あなたのすべてを私は知っています。
     あなたは私とは別の『時』を生きた存在であること。たくさんの後悔を抱えていたこと。
     そして、それをやり直すために再びの過去へと……私の生きた『時』へと現れたこと」

人の世の苦しみを味わいつくしたであろう最愛の娘は、
無邪気だったかつてとは全く異なる慇懃な言葉づかいで、ゆっくりと、優しく、内藤へと語りかけてくる。

そして、その目から涙を流す。



184: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:34:46.87 ID:s3hVJDaY0

ζ(;-;;;*ζ「本当に……つらい人生でしたね。
      親友を失い、その妹さんからはつらい言葉を浴びせられ、妻である内藤麗子さんも失った。
      そして、本来死ぬはずだった私を、その命と引き換えに救ってくれた。
      そんなあなたのつらい過去を知ろうともしなかった愚かな娘を、どうかお許しください……」

そう言って今度は逆に、内藤の肩へとすがり付いて泣きはじめる麗羅。

一瞬戸惑った内藤であったが、彼女のぬくもりに、彼女の泣く声に、
遠い昔、幼い彼女をあやした時のことを思い出し、何も言えなくなってしまった。

しばらくの間、内藤の肩に身体を預け泣き続けた彼女。
やがてその年老いた身体を内藤からそっと離し、泣き顔のままニッコリと笑う。

ζ(;ー;;;*ζ「だけどすべてを知った私に、もはや後悔など欠片もありません。
      私は、あなたが私を救うために過去へ戻ってやり直しをしてくれたことを知った。
      そして、あなたが背負うはずだった後悔をあなたの代わりに背負うことが出来た。
      あくまで結果論ですが、
      あなたが死んではじめて、私はあなたに恩返しすることが出来たのです」



192: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:36:15.43 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「恩……返し……?」

ζ(;ー;;;*ζ「そうです。あなたは失意の中で私を拾い、
      血の繋がっていないデレを娘として育ててくれた。
      
      あなたを失うまでの私は、それはそれは幸せでした。
      正直言うと、私は自分が拾い子だという事実はとうの昔から知っていました。

      それなのにあなたは私をしっかりと育ててくれ、
      おまけに戸籍を偽造までして、最後の最後には娘であると断言してくれた。

      そんなあなたの後悔を、あなたの成したやり直しと引き換えに私は背負うことが出来た。
      それならば、私は私の後悔にも誇りを持つことが出来ます」



203: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:39:19.45 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「馬鹿もん……お前は大馬鹿もんじゃ……」

やわらかく、暖かく、そして懐かしい娘の声。
その言葉に言葉を詰まらせながら、内藤は弱弱しい声で反論する。

/ ,' 3「何が……恩返しじゃ……娘に自分の後悔を背負わせて喜ぶ父親がどこにおる……
  わしはお前に幸せになってほしかった……お前に後悔など……背負わせたくなどなかったのに……」

ζ(;ー;;;*ζ「……ごめんなさい。ダメな娘で」

娘の肩にすがりながら呟く内藤。
そんな彼を受け止めながらも、なぜか笑みを浮かべる麗羅。

発した言葉の内容とは裏腹に、まるで怒られることを喜んでいるかのごとく、彼女の表情は柔和だ。
そしてすがる内藤の背中に手をやり、それを優しくさすりながら続ける。

ζ(;ー;;;*ζ「だけど、もう自分を責めることは止めてください。
      さっきも言いましたけど、今の私に後悔など微塵もないのです。私の生は幸せでした。
      あなたの娘として生き、内藤麗子さんの娘として生き、
      あなたの後悔をこの身に背負い、そしてその生を全うした。
      そう考えれば後悔なんて欠片も感じません。
      私の一生は本当に幸せだったのです。だからもう、あなたには後悔なんてないんですよ」



209: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:40:40.14 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「デレ……」

ζ(;ー;;;*ζ「私のためを想い、時を越えてやり直しをしてくれる。
      そんな人、私にとってはこの世に二人とおりません。誰がなんと言おうと、
      私は内藤ホライゾンの娘。私は、あなたが愛した内藤麗子さんの娘。
      そしてあなたは、私のたった一人の父親」

彼女は内藤の身体を自分から離し、目の前に置いた。
そして流した涙をぬぐい、眼前の父親の顔を見つめ、確かな声で言った。

ζ(゚ー;;゚*ζ「だからもう、これでやり直しは終わりにしましょう?
      ともに輪廻の輪をくぐり、新たな生の中で再び親子となりましょう?」



ζ(^ー;;^*ζ「……ね? おとうさん?」



217: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:42:18.89 ID:s3hVJDaY0


/ ,' 3「おお……おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


両手で顔を覆い、まるで獣の雄たけびのような泣き声を上げた内藤。
その声は、かつて毒田勇男のやり直しの際に発したそれとは明らかに異なっていた。

不完全ながらも自分の過去を認め、受け入れ、そして次の生に希望を持った生命の喜びの咆哮。
最も原始的で、だからこそ何よりも純粋な歓喜の叫び。

それは時の狭間の隅々まで響き渡り、薄暗い室内を希望の色で満たしていく。

そのまぶしさに目を細めながら、時の番人は静かに二つのグラスを用意した。そして、液体を注ぐ。

その液体の名はスピリタス・ウォッカ。
魂にまで火をつけんばかりに熱いその酒は、生命の炎を高く燃え上がらせる。

注ぎ終えたバーテンは、喜び涙を流す内藤と彼を抱きとめる麗羅に向けて静かにささやきかける。


(´・ω・`)「……お二人さん、これはささやかですが、私からの祝杯です。どうぞお飲みください」



224: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:43:37.18 ID:s3hVJDaY0








( ´∀`)「そんじゃ、ありがたくいただくモナー」








しかし、カウンターから差し出されたグラスを受け取ったのは、
内藤ホライゾンでも内藤麗羅でもない、シルクハットのタレ目男だった。



236: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:45:52.71 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「お、お前は!」

(´・ω・`)「……輪廻の」

( ´∀`)「ほわあああああちゃあああああああ! ブラ――ボ―――!! スピリタスは効くモナ!!
     魂に火がつくモナ! 魂ないけど!! モナモナモナモナモナwwwwwwwwwwwwwwwww」

カウンターに置かれた二杯のスピリタスを一気に空けたシルクハット。

流石に少しは酔ったのであろうか? 
わずかに顔を赤らめながら、彼は高らかに笑い饒舌に続ける。

( ´∀`)ノ「よう、時の。約束どおりスピリタスはいただいたモナ。
      いつ呑んでもこいつはたまらんモナ。出来たらもう一杯ほしいモナ。ダメかモナー?」

(´・ω・`)「ああ、ダメだ。それより一体何をしにここへ来た? 君の領分はこちらではないはずだ」

( ´∀`)「ああ、そうだったモナ。仕事だモナ。おい、内藤ホライゾン」

和気藹々とした口調を一転させ、低くドスのきいた声で内藤の名を呼ぶ輪廻の番人。


( ´∀`)「時間だモナ。……反論は受け付けないモナ」



245: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:48:08.39 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「……ああ。わかっとる」

ζ(゚ー;;゚*ζ「それならば、私も」

父親の声に続いて、娘も言葉をつなげる。

( ´∀`)「貴様も輪廻の輪をくぐるのかモナ? 手間が省けてちょうど良いモナ」

そう言って笑うと、シルクハットは手にしたステッキを大げさにくるくると回し、
時の狭間の地面へとその先端を打ち付けた。

『コン!』と甲高い音が周囲に響き、同時に室内を強い光が満たす。


( ´∀`)「いでよ! 輪廻の輪!!」


シルクハットの力強い宣言とともに光が収束し始める。

そして現れたのは巨大な扉。
先ほど煉獄にて内藤が目にしたそれとは姿形は同じでありながら、
大きさは全くといっていいほど異なっていた。

そして、鋼鉄のそれが禍々しい音を立てて開き始める。



256: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:50:18.66 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「……これが」

ζ(゚-;;゚*ζ「……輪廻の輪」

扉の先は強烈な光の粒子で埋め尽くされていた。

まるで無数の蛍火が飛び交っているかのようなその扉の中身は、
この世のものとは思えないほどに気高く、荘厳で、それでいて他を圧倒する光の奔流。

それを前に呆然と立ち尽くす内藤親子。カウンターの向こう側に立ち、バーテンは呆れたように一言発する。

(´・ω・`)「……やれやれ。君のアクションは本当に大げさだな。
     わざわざこんなことをしなくても、指鳴り一つで輪廻の輪は呼べるだろう?」

( ´∀`)「演出の妙ってやつだモナ。それにこっちの方がカッコイイモナ?」

そう言って誇らしげにステッキを掲げ、特徴のある笑い声をバーテンに投げかけるシルクハット。
そして突如笑うのをやめ、表情を一変させて内藤親子へと向きなおる。

( ´∀`)「さて、そろそろ行くモナ。ボーっと突っ立ってんじゃないモナ。
     ちなみにこの扉は一人用だから、どっちが先にくぐるかさっさと決めるモナ」

/ ,' 3「それならば、わしから」

ζ(゚-;;゚*ζ「いいえ、私が」

一歩前に踏み出した内藤を制し、麗羅が名乗りを上げた。
彼女は内藤の前に立ちその行く手をふさぐ。そんな彼女に向けて、老人は呆れたような声を上げた。



267: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:52:22.24 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「デレ……こういうもんは歳の順からと相場が決まっておる」

ζ(゚ー;;゚*ζ「あら? レディーファーストという言葉もありますよ?」

/ ,' 3「じゃが……しかしのう……」

そう言って口をもごもごとさせる内藤。

『口では麗羅には勝てんか』 

内心で思い、どうしたものかと逡巡していると、彼女は内藤の顔を覗き見て、言う。

ζ(゚ー;;゚*ζ「お父さん。あなたはあの日、私を置いて先に逝ってしまいました。
     正直言いますと、私はもうあなたを見送りたくはないのです。独り残されたくないのです。
     だから……ただのわがままに過ぎないかもしれないけど……先に逝かせて下さい。
     去り行く私の背中を……どうか見送ってください」

/ ,' 3「……」

笑いながら、それでも確固たる意志をまなざしに託して言い切る麗羅。

『ああ、本当にツンに似ている』 

そう感じてしまった内藤に、彼女の言葉を覆す術はなかった。
諦めたかのようにひとつため息をつき、彼女に向きなおして、声を上げた。

/ ,' 3「……わかった。旅立つ娘の背中は、父親であるこのわしが、しかと見届けよう」



275: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:54:40.94 ID:s3hVJDaY0

ζ(゚ー;;゚*ζ「……ありがとうございます」

そして最後に、娘は父親の両手を取った。

時の流れの中でしわがれ、小さくなってしまったその手。
しかし、ぬくもりは変わらずあの時のまま。

別れを前に、感慨にふける内藤。
彼女とのさまざまな思い出が走馬灯のごとく現れては消えていく。
その懐かしさに目頭が熱くなる。それを必死に押し留めようとする。

別れは、笑顔で。

下唇を噛み締めながら、握り締めてくる娘の手から顔を上げた。
彼の視線の先で、麗羅は泣いて、笑っていた。

ζ(;ー;;;*ζ「……さようなら。新たな命の中でまた、親子になりましょう」

/ ,' 3「……ああ。ツンと……お前の母とともに、わしは必ずお前を見つける」

涙を見せることなく、内藤は笑いながら麗羅の目じりから流れる涙を指でそっとぬぐってやった。
恥ずかしそうに顔をしかめる彼女。そして内藤の手を離し、輪廻の輪へと一歩踏み出した。

そのときだった。

( ´∀`)「……残念ながら、それは無理な話だモナ」

時の狭間に、輪廻の番人の非情な声が響いた。



289: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:56:51.72 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「なん……じゃと?」

ζ(゚-;;゚*ζ「……それは一体どういうことですか?」

( ´∀`)「よろしい。慈悲深いこの僕が教えてやるから感謝するモ……」

(#´・ω・`)「やめろ、輪廻の! これ以上何も言うな! ぶち殺すぞ!!」

輪廻の番人の声に歩みを止め、振り返った麗羅。
泣きそうな顔でシルクハットとバーテンを交互に見つめる内藤。
誇らしげな顔でステッキをクルクルと回し言葉を連ねようとした輪廻の番人。
そして、その声を怒鳴り声でさえぎった時の番人。

青い蝶ネクタイのシルクハットは、赤い蝶ネクタイのバーテンを見て、言う。

( ´∀`)「時の。あんたは黙っているモナ。これは僕の仕事だモナ。そして僕なりの慈悲だモナ。
     叶うことのない願いを持たせて輪廻の輪をくぐらせるくらいなら、その淡い希望を打ち砕いて、
     まっさらな状態で次の生に集中させてやることこそ、番人たる僕たちの役割ではないかモナ?」

(;´・ω・`)「……」

( ´∀`)「そういうわけだモナ。内藤ホライゾン、内藤麗羅、耳の穴かっぽじってよーく聞くモナよ?」

返す言葉が思い浮かばなかったのだろう。時の番人はそれきりうつむいて沈黙した。
そんな彼を一瞥すると、シルクハットは内藤親子へと振り返り、言った。


( ´∀`)9m「残念ながら、貴様らが現世で会いまみえることは二度とないモナ」



299: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 00:59:26.38 ID:s3hVJDaY0

( ´∀`)「命。魂。
     そう呼称される存在は、常に時の流れの中に縛りつけられているモナー。
     輪廻の輪をくぐり転生するときも、その転生先には『同一の時の川』という制約がかかるモナ。
     つまり、一つの同一の命や魂は、生まれ死んだ時の川の流れからは逃れられないわけだモナー。

     あんたたち二人は別の『時』を生きた命、
     本来は決してまみえるはずのなかった本質的に異なる存在だモナ。
     そして一度輪廻の輪をくぐれば、あんたたちはそれぞれの時の川へと還っていくことになるモナ。

     内藤ホライゾンははじめの人生の『時』へ、
     内藤麗羅は内藤ホライゾンがやり直した『時』へそれぞれ別れ、
     その後二度とまみえることはないモナー。

     さらにもう一つ。
     あんたたちが『人間』として生まれ変わるとしたら、それははるか数万年後のことだモナ。

     そのとき人間という種が存在するかも定かではないし、
     仮にあんたたちが『時』という垣根を越えて会うことが叶ったとしても、
     互いが人間として出会うことは万に一つ、いや、億に一つもないモナ」



307: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:01:15.50 ID:s3hVJDaY0

静寂に包まれる時の狭間。

扉から漏れ出る輪廻の輪の光と、
饒舌に言葉を連ねる輪廻の番人の声だけが場違いに凛としていた。

その声に、内藤ホライゾンと時の番人は何も言わない。
いや、言うべき言葉が見つからないのだろう。

複雑な感情を隠すことなくオモテに出す二人。

そんな二人とは対照的に、内藤麗羅だけはしっかりと輪廻の番人の顔を見据え、言った。



ζ(゚-;;゚*ζ「……わかりました。では、ゆきます」



316: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:02:47.69 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「ま、待て! デレ!!」

扉の先、輪廻の輪へと足を踏み入れた麗羅。

しっかりと筋の伸びたその背中に、
内藤は届くことのない手を伸ばし、叫んだ。

/ ,' 3「おまえはそれで良いのか!? こんな……こんな……!!」

ζ(゚-;;゚*ζ「ええ、かまいません」

/ ,' 3「!!」

全く予期していなかった言葉を聞き、
伸ばした手をそのまま、内藤はその場に立ち尽くした。

輪廻の輪の中で光に包まれ、内藤麗羅の背中は徐々にかすみ始めていた。

そして彼女はゆっくりと振り返り、父親の姿を見据えた。



329: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:04:44.46 ID:s3hVJDaY0

ζ(゚-;゚*ζ「目の前のあなたに会えないのは……とても残念です。だけど私は、
     私の過ごした『時』の内藤ホライゾンの生まれ変わりとはまた出会うことが出来る。
     そうでしょう? シルクハットさん?」

( ´∀`)「……ああ。その通りだモナー」

続けて輪廻の番人を見据え、問いを投げかけた内藤麗羅。
その真剣なまなざしに、シルクハットの番人も同じく真剣なまなざしをたたえ、答える。

その答えを聞いて微笑み、再び彼女は父親の姿を見据える。

ζ(^ー^*ζ「それならば、私は生まれ変わったその先に、私の『時』のあなたを探すだけ。
     そして、あなたと、私の『時』のあなたが私の父親であるという事実は、
     永遠に変わることはありません。この事実さえあれば、
     私は笑って、これを次の生を生きていく希望とすることが出来ます」



336: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:06:20.07 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「……デレ!」

目の前の彼女の姿がかすんで見えたのは、内藤の瞳を涙が埋め尽くしたからではない。
輪廻の輪の中にたたずむ彼女の姿は、光の奔流に包まれ文字通りかすんでいく。

蛍火に飲み込まれ溶けていく内藤麗羅。
彼女は最後に両手を広げ、一筋の涙を頬に流し、笑う。



ζ(;ー;*ζ「……さようなら、私の大好きなおとうさん。
      私は私の『時』の中で、必ず内藤ホライゾンの生まれ変わりを見つけます。

      だからお父さんも、あなたの生きた『時』の中で、
      内藤麗羅の生まれ変わりを見つけてあげて。

      そしてあの日私にしてくれたのと同じように、その暖かい手を差し伸べてあげて……」



348: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:08:27.54 ID:s3hVJDaY0

もはやその輪郭をうっすらとしか光の中に留めない彼女。
なぜだかその姿は、まるで時を逆行したかのように若く、幼く見えた。

消えていく彼女に向かい、内藤は最後の言葉を叫んだ。


/ ,' 3「見つけるぞ! たとえ世界の果てであろうが、わしは必ずお前を見つけるぞ!!
   だから……だから! 『さよなら』じゃないぞ! 『またな』じゃ!!」


投げかけた言葉、そして内藤麗羅の身体は、完全に光へと溶けて、消えた。

( ´∀`)「……扉を閉じるモナ!」

『コン!』とステッキが床を打つ音。
同時に轟音が周囲に響き、輪廻の輪は鋼鉄の扉に閉ざされた。

その隙間から漏れ出た光の粒子がふわりと一つ宙を舞い、そして、消えた。


『………また……ね………』


閉ざされた扉。
静寂包まれる時の狭間に、彼女の声が聞こえた気がした。



358: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:11:12.58 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「……」

閉ざされた輪廻の扉を見つめ、立ち尽くす内藤。その背中をジッと眺める時と輪廻の番人。
彼らの目に映る内藤の背中に悲しみの色は見えなかった。

二人は目を合わせ、コクリと頷きあう。
輪廻の番人は内藤の背後に回り、時の番人はカウンターから出てシルクハットの傍らに立ち、
同じ名を呼ぶ。


(´・ω・`)「内藤ホライゾン」
( ´∀`)「内藤ホライゾン」


同時に発せられたその声に、内藤ホライゾンは振り返らなかった。
ただ輪廻の扉だけを見つめ、何も答えない。その背中に輪廻の番人は問いかける。

( ´∀`)「再び輪廻の扉を開くモナ。最後に何か言い残すことはないかモナ?」

/ ,' 3「……ならば少しだけ。
   ドクオ、ツン、そしてデレは、わしの次の生で一体何に生まれ変わっておるのじゃ?」

振り返ることなく声を発した内藤。

その声色は、絶望にあえいでいた先ほどまでとは明らかに異なっていた。



366: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:12:30.08 ID:s3hVJDaY0

( ´∀`)「それを知っても、生まれ変わったあんたにその記憶はないモナ。まったくの愚問だモナ」

声を発した輪廻の番人。その肩をポンと叩き、時の番人は言う。

(´・ω・`)「……いいんだ、輪廻の。教えてやってくれ」

( ´∀`)「……わかったモナ」

バーテンの姿を一瞥し、シルクハットはスッとまぶたを閉じた。
そのまま何か別の世界を見つめるかのごとく天井を仰ぎ、再びそのまぶたを開く。

そしてステッキをクルクルと回し、その先端を内藤ホライゾンの背中に向け、言った。

( ´∀`)「毒田勇男は犬に、内藤麗子と内藤麗羅は猫に、それぞれ生まれ変わっているモナ」



371: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:13:50.58 ID:s3hVJDaY0

/ ,' 3「そうか……ありがとう。
   最後にもう一つだけ教えてくれ。次の生で、わしは一体何に生まれ変わるのじゃ?」

背中越しに聞こえた声に素直な返事を返した内藤。
そして、もう一つの問いを同じく背中越しに輪廻の番人へと投げかける。

再びまぶたを閉じた輪廻の番人は、すぐに目を見開き、答える。

( ´∀`)「内藤ホライゾン。あんたの生まれ変わりは鳥だモナ。
     その生では、あんたは本能だけに支配される。人間としての過去やここでのやり取りはおろか、
     数分前の自分の行動さえも、あんたは覚えることは出来ないモナー」

辛らつな言葉。厳しい次の生。
それを知り、しかし臆することなく、内藤は背後の二人に宣言する。


/ ,' 3「それでも……それでもわしは、彼らを必ず見つけてみせる!」



383: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:16:04.45 ID:s3hVJDaY0

拳をギュッと握り締め、己に誓った老人。
自分の背丈の倍以上ある輪廻の扉を見上げ、握り締めた拳を広げ、鋼鉄のそれにそっとあてがう。

冷たかった。
だけどその冷たさの奥には、あの日のツンの身体と同じく、何か力強さを感じとれた。

懐かしささえ感じられる冷たさに老いさばらえた手を置き、口の端を少しだけ吊り上げた内藤。
やはりそのまま振り返ることなく、言葉を声に乗せる。

/ ,' 3「時の番人よ、すまなかったな。
   おぬしの望んだ人間の可能性を、わしは証明することが出来んかった。
   そして、ありがとう。やり直しを出来て、おぬしと出会えて、わしは本当によかった」

(´・ω・`)「いえ。感謝するのはこちらの方です。
     再びの悲劇に立たされるという不条理の中、それでもあなたの懸命に再びの過去を生きた。
     そんなあなたの姿に、私はさまざまなことを学ぶことが出来た。本当にありがとうございます」

時の番人は顔に笑みを浮かべ、内藤ホライゾンの背中に一礼した。

そしてその背中を指差し、
出会った頃と同じような能面に戻り、老人に進むべき道を示す。

(´・ω・`)9m「さあ、ゆきなさい。内藤ホライゾンの魂よ。
      新たなる生の中で過去に縛られることなく、大空にその羽を広げ自由な生を謳歌しなさい。
      そしてあわよくば、人間であった今の願いをかなえてください」



394: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:18:55.86 ID:s3hVJDaY0

( ´∀`)「輪廻の輪を開くモナー!」

時の番人の号令。続けて発せられた輪廻の番人の合図。
同時にステッキが『コン!』と床を打ち鳴らし、輪廻の扉が二度目の轟音を上げて開き始める。

その前に立つ内藤ホライゾンの背中が、扉から発せられる光に照らされ影となった。

まばゆい転生の光に目を細めることなく、二人の番人は高らかに荘厳な声で謳う。


( ´∀`)「我が名は輪廻の番人、モナー。
     永久に続いてゆく生命の営みをつなぐ鎖、輪廻の輪をつかさどるものなり!」

(´・ω・`)「我が名は時の番人、ショボン。
     永久に流れる時の川を見つめ、その流れに生きる生命の営みを記録し続けるものなり」

( ´∀`)「これからも我らは永遠の椅子にこの身を座し、そなたの生の歩みを見守り続けよう!」

(´・ω・`)「だから安心しておいきなさい、内藤ホライゾンの魂よ。まだ見ぬ未来の扉を開きに」


( ´∀`)9m「さあ!!」
(´・ω・`)9m「さあ!!」


時の番人は指で、輪廻の番人はステッキの先端で輪廻の扉の向こう側を指し、
内藤ホライゾンにいざないの言葉を発する。

その声に答えるがごとく、老人は開かれた扉の先、輪廻の輪へと一歩を踏み出した。



404: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:21:41.94 ID:s3hVJDaY0

身体を包み込む光の奔流。
なぜか心地よいそれらに抱かれながら、しばし快感を味わうかのごとくたたずんでいた内藤。

最後の最後で振り返った彼の顔は先ほどの麗羅と同じように若返っており
その瞳は時の狭間から見送る二人の番人の姿を見据え、笑った。

( ^ω^)「輪廻の番人、ありがとうだお」

( ´∀`)「ふん。別に感謝されるいわれはないモナ。
     これが僕の仕事だモナ。ようやく終わってせいせいしているモナー」

内藤には、光に照らされる二人の番人の表情が面白いほどに良く見えていた。
そんな彼の視線の先で、輪廻の番人は蝶ネクタイの青を輝かせながら、相変わらず淡々とした声をあげる。

内藤は別れ際まで憎まれ口を叩くシルクハットを微笑みながら見つめ、
そして、時の番人のしょぼくれ顔に視線を移す。

( ^ω^)「そして時の番人。本当にありがとうだお。君にはとてもお世話になったお。
     確かにやり直しはつらいことだらけだったお。だけどその中で僕は、
     生前に知ることの出来なかったたくさんの人たちの想いを知ることが出来たお。
     もう思い残すことはないお。出来ることなら、また君と一お酒を酌み交わしたいもんだお」



408: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:23:19.00 ID:s3hVJDaY0

(´・ω・`)「……いえ、それは遠慮願いたい。あなたが再びここを訪れるということ、
    それはつまり、あなたが二度目の後悔の生を歩んだということに他ならない。
    内藤さん、我々はもう二度と会ってはならないのです。だから、これを永遠の別れとしましょう」

( ^ω^)「……わかったお」

はにかんだように笑いながら、
厳しい言葉の中に優しさの色を含ませるバーテンの顔を見て、
寂しさを感じながらも、それを乗り越えてハッキリと同意してみせた内藤。

彼は最後に両手を羽根のように広げ、満面の笑みで言った。


( ^ω^)ノシ「僕は鳥になってデレたちを探す旅に出るお!
      そして二度とここに来ることが無いよう、後悔のない生の中を飛ぶお!!
      だからここでお別れだお! バイバイだお!!」



416: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:24:47.20 ID:s3hVJDaY0




⊂二二二( ^ω^)二⊃ 「ブ――――――――――ンだお!!」




両手を広げ、光の奥の奥へと走り去っていく内藤ホライゾン。
その背中が消えるまで、二人の番人はずっと扉の奥を見つめ続けていた。

やがてその姿は小さくなり、極小の点となり、光の中に溶けていった。

それをしかと見届けた時と輪廻の番人。

そして、輪廻の扉は閉じられた。



424: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:26:49.57 ID:s3hVJDaY0

                  *

身体の感覚は全くといって無かった。

それは意識だけを残し、まるで自らを包む光の中に
溶けてしまったかのようにあたりに散らばっていた。

ツンとのやり直し。
その際に訪れた暗闇の中の感覚とほぼ同一だった。

唯一異なるのは、この身を包むのがまばゆいばかりの光の粒子ということだけ。

たったそれだけのことなのに、
内藤ホライゾンであった魂には何の不安も感じられなかった。

心地よい。

母の胎内を漂っている胎児がこんな心境なのだろうかと、
かろうじて溶けることのなかった意識の中で、彼は思った。



431: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:28:40.58 ID:s3hVJDaY0

やがて、光の中に散らばっていた感覚が意識を中心に収束し始める。

人間の頃とは違った身体感覚。
きっと自分は今、鳥に生まれ変わっている最中なのだろう。

そう知覚したと同時に、彼の意識は徐々に薄れ始めた。
複雑な思考が出来ない。身体を伝い始めた新たな鳥として感覚がその身を支配し始めていた。

光は徐々に縮まってゆき、視覚は人間の頃とは段違いに広い範囲をぼんやりと映し始める。
縮まりきった光は楕円の形をしており、しばらくして壁面が静かにひび割れていく。

そのひび割れの先に、内藤ホライゾンだった意識は蒼い色をした世界を見た。

そして、彼の人間としての意識が消えていく。その意識の消え際で、彼は始まりの言葉を呟いた。


ああ、これから僕は生まれ変わるんだお。


二〇〇七年。
人として迎えることのなかった未来に向けて、僕は、翼を広げて飛び立つんだお。



443: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:31:10.04 ID:s3hVJDaY0

                  *

すべてが終わった後の時の狭間。
カウンター越しに向かい合い、二人の番人は杯を重ねていた。

( ´∀`)「うーん……テキーラは今ひとつ押しが弱いモナー。
     やっぱりスピリタスが一番だモナ。というわけで時の、スピリタスをくれだモナ」

(´・ω・`)「ぶち殺すぞ。スピリタス・ウォッカとは、いわば僕と君との契約の証。
     君がまたここに魂を送り込んでくれるのであれば、僕はよろこんで君にそれを差し出そう」

( ´∀`)「……」

バーテンの言葉に、ルクハットはしばし沈黙する。
そしてバーテンを見据え、言う。

( ´∀`)「お前は今後も、人間にやり直しをさせるつもりなのかモナ?」

(´・ω・`)「……無論だ」

( ´∀`)「やり直しに意味があると、お前は本当に思っているのかモナ?」



453: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:33:39.11 ID:s3hVJDaY0

(´・ω・`)「……」

問いただす輪廻の番人。何も答えない時の番人に業を煮やしたのか、
厳しい表情を浮かべて、忠告の言葉を述べる。
   
( ´∀`)「内藤ホライゾンのやり直しも含め、
     これまでのやり直しで成功したものはいくつあったかモナ? 
     片手の指で足りるほどしかなかったはずだモナ。

     多くの命は、再びの過去に打ちひしがれて後悔を残し、
     輪廻の輪へと僕に無理やり放り込まれてしまうモナ。
     それならば、はじめからやり直しなんて叶いもしない夢を見せずに、
     何も知らせないまま輪廻の輪へと送ってやる方がまだ慈悲深いモナ。

     そしてお前もまた、なす術も無く再びの後悔に打ちひしがれる魂たちを見て傷つくモナ。

     これは輪廻の番人としてではなく、呑み仲間のモナーとしてからの忠告だモナ。
     ショボン。やり直しなんていう馬鹿な真似はもう止めるんだモナ」

その言葉を聞き、
バーテンは思い立ったかのようにグラスを取り出し、それを布巾で磨き始める。
『キュキュット』と布とガラスがこすれる音が響く中、バーテンは静かに言う。

(´・ω・`)「……ありがとう。君の言葉はしかと受け取った。
     しかしそれでも僕は、やり直しを止めることは出来ない」



454: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:34:43.38 ID:s3hVJDaY0

磨いたグラスをコトリとカウンターの上に置く。そしてそこに、トクトクとテキーラを注いでいく。
淡い照明の灯をその身にまとわせるグラスと液体の美しさに満足して頷き、彼は続ける。

(´・ω・`)「それはほとんどの場合、悲しい結果に終わる。だけど中にはそうでないときもあるんだ
     それに内藤さんは言ってくれた。やり直しが出来て、僕に出会えてよかったと。
     内藤さんのような人間がいるのであれば、そこにわずかな可能性があるのであれば、
     これからも僕はやり直しを続けたい。そう思うんだ」

そう言ってバーテンは目の前のシルクハットの瞳を見据えた。

瞳の奥、身体の奥底まで訴えてくる彼のまなざしと想念の言葉に、
シルクハットは『打つ手なし』と言いたげに首を左右に振る。

( ´∀`)「……それなら僕には何も言うことはないモナ。せいぜい好きにやるといいモナ」

そしておもむろに目の前のグラスを手に取ると、その中身を一気に飲み干した。
『それは僕の分だったのにな』と苦笑しながら、バーテンは言う。

(´・ω・`)「……もう、行くのかい?」



460: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:36:58.50 ID:s3hVJDaY0

( ´∀`)「ああ、おかげさまで仕事がたんまり残っているんだモナ」

傍らに置いたステッキを手に取り、立ち上がった輪廻の番人。
彼はバーテンに背を向け、思い出したかのように一言、ポツリと言った。

( ´∀`)「そうそう。また一人、後悔を抱えていそうな魂をこちらへと送り込んだモナ。
     多分、じきにここにやってくるだろうから、そのあとは頼むモナ」

(´・ω・`)「モナー……」

わざとらしいその言葉。
時の番人が見据えた背中は、被ったシルクハットの位置を所在無げに調整していた。
そして最後にシルクハットは捨て台詞を残す。

( ´∀`)「ま、せいぜい達者でやってくれモナ。あと、スピリタスを忘れるなモナ?」

(´・ω・`)「……ああ。近いうちにまたココへ立ち寄ってくれ。
     その際には必ず、君に魂の酒を奢ると約束しよう」

背中にかけられた声に少しばかり微笑んだ彼の表情を、時の番人は見ることは出来なかった。
直後、ショボンの見送りの言葉と共に、モナーの姿は時の狭間からフッと消えていった。



469: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:38:53.94 ID:s3hVJDaY0

                  *

目を開けると、そこにあるのは木目調の扉。
自分の背丈よりわずかに高いくらいのその扉は、
まるで『開けてください』と言わんばかりにそこにポツリと存在していた。

なぜ、自分はこんなところにいるのだろうか?
 
扉を前にした男はしばしの間逡巡し、恐る恐るその取っ手に手をかける。
『キィィィ』と乾いた音があたりに響き渡る。

開けた扉の先には部屋が広がっていた。
薄暗い室内。淡い照明のかすかな灯だけが照らすその先には、細長いカウンターが設えられている。。

その向こう側にいるのは、赤い蝶ネクタイをつけた一人のバーテン。

彼は手にしたグラスをコトリとカウンターの上に置き、液体を注いでいく。
やがてそのグラスが満たされると、立ち尽くす男の顔をまっすぐに見据えて、言う。


「ようこそ、時の狭間の店『バーボンハウス』へ。このテキーラはサービスだ。まずは受け取ってほしい」


そしてまた、今日も誰かのリプレイが始まってゆく。



478: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:43:48.07 ID:s3hVJDaY0

 File No,××××        『内藤ホライゾン』のケース


 ・概要
  第一のやり直し『毒田勇男の命を救う』 …… 失敗
  第二のやり直し『毒田そらに真実を伝える』 …… 成功
  第三のやり直し『内藤麗子の命を救う』 …… 失敗
  第四のやり直し『内藤麗羅の命を救う』 …… 一応は成功 本質的には失敗


 ・総括
   今回果たされたやり直しは全部で二つ。そのうちの一つは被験者にとって最悪の結果として現れてし
  まったのだから、今回のケースを『やり直し』という限定した観点から鑑みるのであれば、それは失敗に
  終わったと言わざるをえないだろう。

   ただし『被験者の満足』にまでその観点を広げた場合には、一概にそうとは言えない。
 
   最終的に被験者は満足して輪廻の輪へと旅立っていった。その満足が彼の本心からのものなのか、
  はたまた表面上のものなのか、今となっては定かではない。ただ私の希望的観測から言わせてもらえば、
  被験者の満足は彼の本心によるものだったのだと思う。



479: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:44:16.58 ID:s3hVJDaY0

   しかし、今回のケースにおける被験者の満足は『やり直し』自体から得られたものではない。被験者
  の得た満足は、はじめの人生の中で彼が見聞きすることが叶わなかった人々の想い、それらの中から
  得られたもの。それはつまり、書き変えられた過去ではなく、被験者の人生それ自体にあらかじめ
  その布石が存在していたということに他ならない。

   『やり直し』の本来の目的は『過去を変える』ということ。残念ながら被験者は二度しか成功出来ず、
  そのうちの一つははじめの人生より悪い結果を招くこととなってしまった。

   だが、今回のケースは『やり直し』の中に隠された別の重要なファクターを私に教えてくれた。

   それは『被験者がはじめの人生で広い損ねた関係者の想いを拾い集める』という要素だ。これにより
  被験者は多大な満足を得られることが今回のケースで判明した。時の可逆性が立ちはだかる『過去を
  変える』という行為にこだわらなくとも、過去の中で各人の想いを拾い集めるだけで被験者に後悔の払拭、
  あるいはその後悔に納得してもらうことが可能なのだ。

   それならば私は、己の身勝手な欲望である『過去を変える』『時の可逆性に打ち勝つ』『人間の持つで
  あろう第三の可能性を証明してもらう』ことにこだわらず、被験者の満足を優先させてやり直しの方法を
  提供していこうと思う。ただし、チャンスがあればこれらのことを証明してもらう心づもりではある。

                                                               以上



486: 78 ◆pSbwFYBhoY :2007/07/23(月) 01:47:12.27 ID:s3hVJDaY0

 ・追記

  内藤ホライゾンであった命のその後を見るうちに、私は一人の男性の動きに着目することとなった。
 彼は内藤ホライゾンの人生を追う中で、その人生観を大きく変える。彼はその流れの中で彼を取り囲む
 人々、そしてかつて内藤ホライゾンと接触した人物たちにまで少なからず影響を及ぼすこととなる。

  唯一の疑問であった内藤ホライゾンの人生の意味が、彼により解明された。内藤ホライゾンの人生は
 彼を変え、そして彼を通じてほかの人物たちの人生にも影響を与えることとなった。そこにこそ、内藤
 ホライゾンの人生の意味はあったのだ。

  内藤ホライゾンの人生には十分な価値があった。だからこそ時の可逆性は、執拗なまでにやり直しの
 過去に舞い戻った内藤ホライゾンの前に立ちはだかり続けたのだろう。そして、内藤麗羅にその跡を継
 がせたのであろう。

  できれば彼にこの事実を伝えたいところではあるが、私が再び彼とまみえることはないであろうし、
 それは決してあってはならないことだ。


  私にできるのは、彼が悲しみの無い自由な空へ翼をはためかせるのを願うこと。


  ただそれだけである。




                         ( ^ω^)がリプレイするようです 過去編 時の狭間編  <了>



戻るEpilogueとりあえずのあとがき