('A`)ドクオは透明人間のようです

  
13: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:10:47.54 ID:uGaQhEucO
  
   *



('A`)「うぇ……」

 今日は六時間授業で、ラストには体育がある。鬱だ。
 真夏の体育はイコールプールの時間。
 そして、プールの時間はイコール着替えの時間。

 つまりは、そういう事だ。

( ´∀`)「じゃあドクオ。問2をやってみなさい」

(;'A`)「あ、はい?」

( ´∀`)「ったく……ちゃんと聞いとけモナ。教科書を見ろモナ」

('A`)「あ、あの、忘れちゃって……」

( ´∀`)「……ふぅ。じゃあ、誰か見せてあげろモナー」

 モナーが言った、"誰か"。
 その誰かなんて人間、この教室には一人もいない。
 俺に教科書を恵むような奇特な人種、いる筈がないんですよ、はい。



  
15: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:13:04.68 ID:uGaQhEucO
  
 「「……」」

( ´∀`)「あー……隣の奴は」

 「……」

('A`)「……」

 隣に座る女子は、携帯をいじっている。
 関わり合いたくもないのだろうね。

 沈黙に耐えかねたモナーが、別の生徒を指した。
 立ち尽くす俺には、目もくれず。

( ´∀`)「……じゃあ、代わりにモララーがやりなさいモナ」

( ・∀・)「うわ、ヒドいな。教科書忘れたから隠れてたのに」

 「「ちょwwwwそれはねーよwwww」」

 クラスに戻る活気。
 ……この温度差はなんだよ。南極と南アフリカぐらいちげーよ。
 俺だけ南極大陸に置いていかれた気分だよ。いや、実際そうなんだけど。



  
16: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:14:17.12 ID:uGaQhEucO
  
( ´∀`)「じゃあ体育終わったらすぐ学活始めるからね。
       元気に泳いでくるようにモナ」

 その後も滞り……なく授業は進み、最終授業。
 昨日やった雨降らしの儀は失敗したらしい。
 ――空は、嫌味な程に晴れ渡っていた。

('A`)「はぁ」

 水着を持って、階段をのろのろと歩く。
 いかにも楽しそうにはしゃぐ女子が恨めしい。

 「うわ……アイツ今日入るっぽいよー」

 「マジ最悪ー。アイツと同じプールになんか入りたくないんですけどw」



 はっ、俺何かしたか?
 そんな目で見んじゃねーよ。
 てめーら肉便器は黙ってスク水着てろ。萌えんだよ。



 軽蔑の眼差しを送る女を睨みつけて、ため息を吐く。
 ……そして、第一関門が待ち受ける扉を開いた。
 むあっ、と汗の臭いがした。部屋の名前は、男子更衣室。



  
17: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:15:20.84 ID:uGaQhEucO
  

('A`)「……」

 そそくさと着替えを始める。
 因みに、去年は毎回女子更衣室に投げられてた。
 その度に生徒指導室に呼ばれ、叱責を受けて。

 あれ以来、女子からの救いの手も無くなったっけか。
 自殺を考えたのは初めてだったなぁ。

 今年は何をすんのかな。
 何か拒否をすれば、数人がかりの暴力が待っている。
 それはなるべく避けたい訳で。

 そう考えているところで、俺を呼ぶ声。
 クラスを牛耳ってる餓鬼大将なのだが、妙にニヤニヤしてた。

( ・∀・)「ドクオー、ちょっとこっち来て」

('A`)「……はい」

( ・∀・)「まぁ座りなよ」

('A`)「わかりました」

 話す時はもちろん敬語だ。
 こんなカスを敬う気はないが、仕方ない。
 タメ口なんて使ったら、一瞬でボッコボコだから。



  
18: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:16:47.41 ID:uGaQhEucO
  
(;'A`)「――っちょ!」

( ・∀・)「あはははは、よく似合ってるよ。その粗びきポークフランク」

 「「おまwwww粗チンktkrwwwwwwww」」

(;'A`)「や、やめて下さいって……」

 一言で言うと脱がされた。
 もう一言追加すると、携帯を向けられた。
 写真集なんて、作る予定は無かったんだけど。

( ・∀・)「とりま笑ってよ」

(;'A`)「いや……無理っすよ……」

( ・∀・)「いーからいーから、女子には見せないって」

 女に見せないとか、じゃあなんの為に撮るんだよ。
 お前らは うほっ ですか? ちげーだろ。

(;'A`)「……」

( ・∀・)「ねぇ」



 結局、ピースサインまで付けて撮る事になった。
 辱めを受けた事より、誰も視線すら合わせてくれなかったのが堪えたな。



  
19: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:17:57.42 ID:uGaQhEucO
  
( ・∀・)「うわ、キモいね。とても同じ人類には見えないよ」

('A`)「……」

 水着が破れてしまったので、プールには入れなかった。
 ただ、体育の先生は状況を理解してくれていたらしい。
 何も言わず、出席の欄に丸をつけてくれた。

 正直言うと、単位だけは落とせない。
 一年我慢してきて、今更辞めるなんてクソくらえだからだ。

 学校は辞めない。逃げるような自殺だってしたくない。
 そういう"逃げる行為"をしていない、という事実。
 それは俺に、唯一のプライドと自信を与えてくれた。

 俺がいじめられるのを周りで見ている奴ら。
 明日はこの身、だからかもしれないが、俺はそいつらよりも"上"だ。
 身を案じるが為にやりたい事をやらないなんてのは、ありえない。

('A`)「クソが……笑わせんなよ……うざってぇ」

 俺は耐える。耐えて耐えて、いつかアイツらを足で使ってやる。
 いつか見返してやる。……目標がなけりゃ、俺はとっくに自殺してたな。



  
21: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:19:54.12 ID:uGaQhEucO
  
 ……でも、プールに入らず出席出来たのは嬉しい誤算だった。
 なんたって去年は死にかけたからな。

 『ウォーターボーイズやろうぜwwww』
 とか言って俺を一番下にして、三分間くらい水中に閉じ込められた。
 蹴られてるのもあったが、流石に三分無呼吸は無理だったな。

 その時は気絶だけで済んだ。
 けど、これ以上エスカレートするとヤバい気がする。
 いつかと言わず、今にも殺されそうだ。



 「花子ちゃん……さぁ、夕陽に向かって泳ごう!」

 「太郎さん……うん、あたし頑張ってみる!」

 「あははははは!」

 「うふふふふふ!」



('A`)(けっ……高二の分際で恋愛だぁ?
    舐めんじゃねーよ。お前ら溺れて死ねよ。
    むしろ俺にも女の子寄り付けよ。男すら来ねーよ)



  
22: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:21:20.21 ID:uGaQhEucO
  
 勉学。恋愛。遊び。

 俺はこの内、勉学しかしてない人間だ。
 それしかしてないにも関わらず、成績は中の上でしかないのだが。

 若い内には遊んでおけ?
 一人でゲーセンなんか行けないのは当たり前。
 そもそも遊ぶ友達がいない俺にどうしろと。

 豊富な恋愛経験を積んでおけ?
 学校の女子は論外。クラスどころか学年中から嫌われてるからな、俺。
 ナンパは言うまでもない。バイトもしてないから出会いもない。



('A`)「はぁ」

 鬱だ。鬱すぎる。
 このまま大学なんか行って、楽しめるか?
 かといってカス高校の高卒が大企業に就職出来るか?

('A`)「死にてー」

 実際に死にたい訳じゃない。
 だが、それは既に俺の口癖になっていた。



  
23: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:22:45.39 ID:uGaQhEucO
  
 六時間授業のうち、六時間目が終了した。
 第一の関門は体育。第二の関門はプールの授業だ。
 それは回避出来た。だから次は――

( ・∀・)「掃除、今日もやっといてくれるんだよね?
      いやーいつも悪いと思ってるよ。ホントに」

('A`)「……わかりました」

 「「"お前"がやりたいなら仕方ないよなwwwwうぇwww」」

('A`)「……はい」

 お前らが先生の前で言わせたんだろうが。
 モナーも事情わかっててスルーしてんじゃねーよ。

 ……だが、案外気が楽だったりする。
 一人になる事が、最近では一番リラックス出来るから。



('A`)「さ、始めっか」

 既に俺専用となっている、赤い箒をつかむ。
 隅から掃き出していくのが楽しいんだよコレが。



 第三の関門。即ち、学校での最後の関門。
 それは教室内全ての掃除を、一人でする事だ。



  
24: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:23:48.75 ID:uGaQhEucO
  
 携帯で2chを見ながら、適当に箒を動かす。
 教室には俺しかいない。生徒はまだ、沢山残っているのだが。



 「あー、ちょい待ってて……げっ、ドクオ」

 「うわ。ドクオじゃん。いいよ、今日は帰ろ」

 「あーあ。ホント萎えるんですけどー」



('A`)「はいはいいつも通りいつも通り……」

 萎えんのはこっちだよ。
 自分の全身像を鏡で見てみろやブスピザ公害激臭女。

 ……この扱いになってから、もう一年近く。
 我ながら、よくもまぁ耐えてこれたもんだな。
 四面楚歌。村八分。
 まさに隔離されてたような状況だったってのに。

('A`)「いい加減慣れたわ……にゃろう」

 悪態をつき、そそくさと作業に戻った。
 流石の俺でも、掃除より家で寝転がる方が好きだ。
 さっさと帰りたいと思うのは当然だろ、そりゃ。



  
25: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:24:55.43 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「あー、雑巾どこやったっけか」

 さっきまで騒がしかった学校。いつの間にか、静かになっていた。
 そりゃ仕方ない。他のクラスは六人で掃除してる。
 窓拭いて床掃いてゴミ捨てて……それを一人でやると、一時間はかかるんだよ。

 先生はなんなの? ……そう考えていた時期が僕にもありました。
 多分、卒業するまで放置されるんだろうな。
 何でモララー達に注意しないのかとか、そんな事を考える事さえ億劫だ。

('A`)「は? 雑巾……ねーよ……」

 掃除用具が無いからって、サボろうとは思わない。
 強要されたとはいえ、俺は仕事を任された訳だし。
 律義っちゃあ律義なのかもしれないが……これが普通だと思ってる。

 簡単に投げ出したり辞めたり。
 そんなゆとりを代表する行動は絶対にとりたくないから。

 だから、カーチャンやトーチャンに当たる事もしない。
 自分の事情で機嫌が悪いからって、他人に迷惑をかけたくはないし。
 仮に喚き散らしたとして、それはモララー共と大して変わらない行動だと思う。



  
26: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:26:38.16 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「くっそ、ねーな。こりゃ職員室行きかな……」

 雑巾や箒、塵取りを初めとする掃除用具。
 これらを新しく教室に置く場合には一枚紙を書かなきゃならない。
 紛失理由〜とか、使った期間〜とか、いつどこでだれが〜みたいな。
 これがまた面倒臭いから困る。

 俺を放置しておくような学校だ。
 まともな先生の方が稀なのは言うまでもない。
 それも含めて、俺は職員室に行くのがだるかった。

('A`)「はぁ……仕方ねーか」

 時間は四時半を過ぎている。
 この調子だと、あと三十分はかかりそうだな。



 ――そう考えて、ため息を吐いた時だった。



  
27: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:28:17.96 ID:uGaQhEucO
  
( ^ω^)「……」

('A`)「……?」

( ^ω^)「こ、これ」

 一人のピザが、俺に雑巾を差し出してきた。
 真っ白なところを見ると、どうやら新品らしい。

('A`)「あ……」

 いや……待てよ。
 なんかおかしいな……

( ^ω^)「お?」

 あれ? なんでコイツ俺に話しかけてんの?
 ドッキリ? 策略? 謀略? 計略? はっ?

( ^ω^)「い、いっしょに掃除しようお……」

('A`)「え」

( ^ω^)「僕、ブーンだお……よろしくお」

('A`)「え」

( ^ω^)「……ぞ、雑巾絞ってくるお……」



  
29: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:30:01.00 ID:uGaQhEucO
  
 OK……まずは落ち着け俺。
 まずは目の前のカルビ人間から確認するんだ。
 よしわかった。こんな奴見たことすらねーや。

 ……つーか、さっきから慌ててた理由がわかった。
 よく考えたら俺って、今こいつから話しかけられたよな。
 こんな感じで……平和に話しかけられたの、半年ぶり位なんだよね。

 だからビビったのか。日常生活のイレギュラーってやつか。



 でも、そんな事どうでもいいんだ。
 むしろ、俺に話しかけたのは何でだぜ? 逆に恐いよ。

( ^ω^)「じゃあ、始めるお……」

('A`)「ま、待てよ」

( ^ω^)「……お?」

('A`)「俺、ドクオだぜ……ドクオだぞ……」

( ^ω^)「……わかってるお、だからだお」



  
30: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:31:27.85 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「だから? だからって、どんな意味よ」

( ^ω^)「……」

('A`)「な、なんだよ……」

 黙り込む豚。
 直感だけど、こいつは焼いたら旨い気がする。
 よく見たら脂肪だけじゃなく、筋肉もついていたからだ。

( ^ω^)「ぼくも、同じなんだお」

('A`)「あん?」

(;^ω^)「いや……ごめんだお……」

(;'A`)「べ、別に怒ってねーよ……」

( ^ω^)「……」

('A`)「……」

 あれ? あれれー? 何この空気? すごく重いよ?
 正直居づらいよ。掃除も終わんねーよ。



  
31: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:32:18.05 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「あ、あのさ、何が同じなんだよ……」

( ^ω^)「僕と君の境遇……かお? たぶん……」

('A`)「……つー事は、お前もいじめられてんのか?
    クラス違うからわかんねーけど、大変だな」

( ^ω^)「いや、確かにいじめられてるお。
       けど……僕が言いたい境遇は違うんだお」

 俺は窓に息を吹きかけながら、沈黙してしまう。
 アイツはというと、黒板消しの煙でむせてた。きめぇ。

 ……んでも、なんとなく気になってきた。
 俺の境遇といえば、正直いじめられてる事くらいしか思い浮かばないから。

('A`)「……どういう事か、説明してくんね?」

 声をかけて、続きを促す。
 振り返ったカルビは、意味のわからない事を言ってのけた。



( ^ω^)「僕も、君も――透明人間なんだお」



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