('A`)ドクオは透明人間のようです

  
40: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:43:33.58 ID:uGaQhEucO
  
  *



 透明な物は、人間にとって綺麗に見える事が多々ある。
 『スケルトン』とか。『クリアカラー』だとか。
 よくよく考えれば、全くもっておかしい事だ。



 おかしい事。大まかに分けて、二つある。



 まずは一つ目のおかしい点。
 ガラスでのレプリカは駄目。ダイヤモンドは綺麗。これだ。
 人間達は、その観念の愚かさに気付かない。

 『豚に真珠』ということわざがある。
 意味を要約してみよう。すると、こうなる。
 『どんなに貴重な物でも、価値がわからない人間にとっては何の役にもたたない』。

 つまり、"人間界"で宝石という物は貴重なのだ。
 見た目からは、透明度の違い程度しかわからないというのに。

 仮にも例えではあるが、この理論は宝石好きにとっては愚論にしかなりえない。
 だが、それが当たり前なのだ。人間の価値観はそれぞれ違ってこそ、であるから。



  
41: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:44:47.22 ID:uGaQhEucO
  
 そして、二つ目のおかしい点。

 先程、クリアカラーは人間にとって綺麗に見える述べた。
 いや――そのもの自体"が"綺麗なのではないのだろう。
 クリアカラーの物体。その先が透き通って見える事こそ美しいといえるのだ。

 携帯電話やゲーム機。時計や子供の遊び道具。
 中には『透明そのもの』が好きな者もいる。
 が、基本的には人間にとって『透明』は他の色を引き立たせる色でしかない。



 だが、そもそも透明は色なのだろうか。
 色が無いものが透明なのではないのだろうか。

 そう。透明というものは、恐らく色ともとれる。
 もちろん、それさえも人それぞれではある。
 だが、ここでは『透明=一つの色』として話を進めていこう。



 空気。無。零。それらは『透明』と殆ど同義の存在。



  
43: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:46:54.78 ID:uGaQhEucO
  
 さて、一番最初に説明をした事を覚えているだろうか?

 『空気と呼ばれる人間は、透明人間とも呼ばれる』。これだ。
 これについては、恐らくその通りではないだろうか。
 その事についてはドクオやブーンの存在が証明にあたる。

 今までの文には、一つの矛盾――いや、幾つもの矛盾があるのがわかる。
 その中でも、一番興味深い矛盾について記述しよう。



 透明な"人間"は忌み嫌われる。
 透明な"色"は好まれる。



 しかし、これではらちがあかない。
 なので、この事実を矛盾ではなく――それが当たり前だと解釈してみよう。
 するとどうだろうか。こう考えられそうではないか。



 『透明』というものは、不確定な存在ではないかと。

 『透明人間』だとしても、存在価値を見い出せるのではないかと。



  
44: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:47:34.15 ID:uGaQhEucO
  
   *



 木の葉が散り、雪が舞い。
 気付くと俺は受験の年を迎えていた。

 迎えたとは言っても、まだ四月だ。桜だって満開じゃない。
 だけども、今のところ六分咲き程度のこの桜。
 俺は今の桜が好きだ。綺麗じゃない代わりに、美しい。

 俺は完璧じゃない人間。
 だから、同じように完璧じゃない桜が好きなんだと思う。

('A`)「うぇ……寝過ごした訳だが……」

 窓際にある俺の部屋。
 四階だから、自殺しようと思えばいつでも出来る。良心設計だな。

 破れかけたネクタイを直しながら、テレビをつける。
 遅く起きたおかげで、今日の占いカウントダウンを見る事が出来た。



  
47: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:48:48.61 ID:uGaQhEucO
  
#「蟹座のあなた。今日はガッカリな一日になりそう。
  でも大丈夫! 普段は話さない人から、何か親切があるかも!」

('A`)「暴力という名の親切ですか。そりゃどうも」

#「占い信じないと地獄に落とすわよ」

(;'A`)「!?」

#「ラッキーカラーは青! 目に見えない場所なんかに付けるといいかも!かも!
  それではまた来週☆ ばいばいなのだぁ☆」

(;'A`)「あれ……なんか、変な占いだったな……」

 テレビを消して、座り込む。
 学校には七時半までに家を出ればいい。十分間に合う。

 しかし、占いなんてのは笑いの種にすらならない。
 俺にとって、非科学的な物体や事象はゲームの中の話だ。

 奇跡とか神様とか、そんな存在はいない。
 そうとでも考えなければ、悲しくなってくる。



 しかし――ラッキーカラー、か。



  
48: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:50:31.20 ID:uGaQhEucO
  
 靴を鳴らし、玄関を開ける。
 目の前には見慣れたピザがつっ立っていた。

 音で気付いたのか、欠伸をしながら手を振った。
 俺はそれに応えるように、笑いかける。

('A`)「俺達の色は、もう決まってるもんな?」

( ^ω^)「おっ? ……急にどうしたお」

('A`)「知らねーよwwwwwwww」

( ^ω^)「ちょw」

('A`)「死ねwwwww」

 俺とブーン。
 二人とも、れっきとした『透明人間』だ。
 どうやら――同色は引かれ合う運命らしい。

('A`)「じゃ、行くべ!」

( ^ω^)「……おkだお」

('A`)「……?」

 並んで、歩き出す。
 学校までの道のりで、話題が尽きる事は無かった。



  
49: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:51:49.36 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「じゃ、また帰りにな」

( ^ω^)「今日も頑張れお。あの、助けられなくて……」

('A`)「だー、うるせーよ。お前が気にすんなって。
    ……帰り道が楽しけりゃ、多少のパンチくらい耐えられるっつーの。
    迷惑はかけたくないしな、そういうこった」

( ^ω^)「ドクオ……すまんお」

('A`)「あいあい、んじゃな」

( ^ω^)「おっお」

 校門の手前に差し掛かり、そんな会話をする。
 五階にある教室へ向かって、階段を時間差で登っていった。

('A`)「はぁ……鬱だ」

 俺にとって、ブーンが友達であること。
 これを知られると、ブーンまで暴力を振るわれてしまうかもしれない。
 そんな事を俺は望んでいないし、アイツもそれは避けたいだろう。

 だから俺達は、学校だと赤の他人でしかない。
 仮に俺がいじめられてても、けして助ける真似はしない。
 それが俺からブーンに課した、友達同士でいる事の条件。

 他の人間を巻き添えにするなんて、もっての他だ。



  
53: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:53:47.19 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「ふぅ」

 すでに九割近い生徒が席についている。
 その内の半分以上は、俺を殴った事のある生徒だ。

 モララー達は、必ず俺に友達を作らせない。
 今更、俺とうっかり親しくしまう奴はいない訳だ。

('A`)「……」

 一年の二学期、俺に話しかけてきた奴がいた。
 別に、同じいじめられっ子なんかじゃない。
 どちらかと言うとイケメンの類だと思う。

 俺はそいつと、一週間だけ友達になった。



( ・∀・)「昨日は驚いたよ。まさかの素早さだった」

 「「あるあるwwwwデブのくせに機敏wwwwwwww」」

('A`)(一対一で戦えない奴らが偉そうに……死ねよ)

( ・∀・)「ねぇ、ショボン。君ならどうだったかな?」

(´・ω・`)「あぁ。僕ならまぁ、余裕勝ちだったかな」

 「「てめぇwwwwねーよwwwwww」」



  
54: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:54:58.97 ID:uGaQhEucO
  
('A`)(あーあ……何を考えてんだか……)

 何の因果か、ショボンとは三年間同じクラスだ。
 先生は空気嫁よ。モララーとも一緒じゃねーか。

('A`)(アイツは、楽しそうだな……)

 代わりに、ブーンとは一度も一緒になれなかった。
 仕方ないか。どちらにしろ、学校ではブーンと話せない。



 「「去年は面白かったよなwwwwwドクオいたしwww」」

( ・∀・)「ん? ドクオ、あそこにいるじゃないか。
     どうせだし、朝からってのもいいかもね」



 そのセリフは、もう慣れっこだった。
 今日も始まるのか。朝から始まるなんて、ついてないな。
 ……そう考えていた、矢先だった。



(´・ω・`)「ドクオは放っとけばいいと思うよ。
      ……そんな事よりトランプしようか。七並べね」

 「「七並べつまんねーっすwwwサーセンwwww」」



  
55: 留学生(樺太) :2007/04/23(月) 19:56:16.91 ID:uGaQhEucO
  
('A`)「あ……」

 『ありがとう』。そんな事、言いたくても言えない。
 あいつは、そんなセリフが欲しい訳じゃないから。

 ショボンとの距離は、昔とずいぶん変わってしまった。
 ……けど。ショボン自体は、全く変わっていない。

 今だってそうだ。俺とモララーを、遠ざけてくれた。
 あいつは俺と違って、頭もいい。
 直接的じゃなくとも、俺を助けてくれるんだ。

('A`)(ショボン……)

 友達になる前から、ずっとこうだった。
 俺を何かと気に掛けてくれて。すげー嬉しかった。

 ……それだけに、あの日だけはショックだった。
 たまたま教室に行っただけで、あんな事聞いちまうなんて。



 どうせなら、友達という関係にならなけりゃ良かった。
 出会いがなければ、別れもないんだから。



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