('A`)ドクオは透明人間のようです

  
126: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:15:56.85 ID:S6mrRFftO
  
   *



( ´∀`)「おい、起きなさいモナ。下校しないと……」

('A`)「う……?」

( ´∀`)「あ、起きた。……今週の掃除は業者がやるから無しだモナ。
       まーゆっくり休みなさい。先に失礼モナ」

('A`)「……ぁー」

 時計を見る。……五時?
 おいおい、何時間寝てたんですか僕は。
 つーか周りも起こせよ。こういう時だけ安眠させんなよ。

( ´∀`)「しかし、良かったモナ。君にもやっと友達が出来たんだモナ?
       ブーン君、ずっと教室で待ってたんだモナ」

('A`)「え?」

( ´∀`)「あれ? 違ったのかモナ?」



  
127: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:18:36.91 ID:S6mrRFftO
  
 ブーンと、学校でそんな素振りを見せた覚えはない。
 つか待てよ。モナーでさえ知ってるんだったら……
 あれ? これって、ヤバいんじゃねーか?

('A`)「せ、先生。 ブーン、どこにいます?」

( ´∀`)「いや、なんか携帯で電話しながらだったから……
       教室……じゃなくて、あれ……」

 おせぇよ。早くしろよ。
 たまにはその緩んだ脳みそ働かせろ。

( ´∀`)「あ、多分上の教室かもしれないモナ」

('A`)「ありがとうございます!」

 ……この学校は、学年が上がる毎に階が下に下がる。
 今の――この教室は、他でもない三年の教室。
 二年の教室がある四階か、一年の教室がある五階。

 階段を駆け上がり、踊り場を蹴る。
 迷わず、五階の廊下を進んだ。



  
129: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:20:18.98 ID:S6mrRFftO
  
 頭にショボンがよぎる。

 ブーンも、そうなるのか。
 そんなはずはない。俺は、あの日から成長した。

 用心棒じゃなくて、友達を手に入れたんだ。
 心の底からわかり合えるような、親友を。
 ブーンは、俺の親友だよな。当たり前だよな。



 ブーンが俺に接してくれたのは、偽りなんかじゃない。
 仮にモララーなんかに何を言われようが、大丈夫だ。

 繋がりは、切れない。切らせない。

 そう呟いて、あの時とは違う教室の窓を除く。そして――



( ^ω^)「ドクオ」

('A`)「ブーン」

 俺が名前を呼ぶより早く、ブーンは俺を呼んだ。
 そして、教室を見渡す。モララーの顔があった。
 どういう意味なのか――やはり、わからない。

 俺は、成長なんかしてなかった。



  
130: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:22:21.39 ID:S6mrRFftO
  
( ・∀・)「や」

('A`)「……」

( ・∀・)「無愛想だね。まぁいいや、状況はわかるかい?
      ショボンと同じさ。ブーンと君は、今日で終わりだ」

 またか。また、か。
 お前はまた俺を省くのか。

( ・∀・)「ブーンも、苦しかったんだろうね」

( ^ω^)「……」

('A`)「え?」

 苦しかった? ブーンが、なんで?
 また狂言か? はめる為の、嘘か?

( ・∀・)「わからない奴だね。ブーンも、困ってたのさ。
      君は思ったより、周りと『違い過ぎた』。
      透明過ぎたんだよ。だからブーンは、自ら僕に打ち明けたんだ」

('A`)「……はは、ねーよ。ブーンが、んな事……」

 ない、と言い切れなかった。
 その時点で俺は、なんとなく嫌になってたから。この、空気が。



  
132: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:27:44.07 ID:S6mrRFftO
  
( ・∀・)「君さ、ブーンから『透明人間』について聞いたかい?」

 透明な人間。ブーンと出会った日に、教えてもらった。
 俺達は、透明なんだと。一人一人にあるはずの、色がない。
 だからこそ空気であり、いじめられていると。

 ブーンはこうも言っていた。
 透明人間だからって、嘆いたり、恥じる事はない。
 『透明人間とは、心が透き通った人間の事だから』。

 そう聞いて、いい奴なんだと確信してた。
 泣きそうになったから、きめぇとか言ってごまかしたりしてた。
 それがどうした。透明人間が、どうした。






( ・∀・)「あれね、僕が言わせたんだ。はは、ごめんよ?
      『本当に透明な人間』には身に染みたでしょ?w
      ……あはは。勿論、ブーンは違う。君だけだよ、ドクオだけ」

( ・∀・)「この世で一番透明なんだよ、君は」

('A`)「……透明? おれが?」

( ^ω^)「……うんお」

 あはは。こりゃねーわ。



  
134: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:30:07.53 ID:S6mrRFftO
  
 じゃあ、あの言葉はなんだ?
 ブーンの言葉じゃなくて、モララーが作った言葉か。

 どこからどこまでが本当だ?
 ブーンとショボン、どっちがどっちだよ?

 誰が本物だよ。



('A`)「はは……嘘だべ」

( ・∀・)「今日という日をどれだけ待った事か。
      ……あぁ、今は清々しいよ。ホントにね」

('A`)「だから……」

( ・∀・)「もしかしたら、何か言葉でも交わしたいの?
      あはははは、いいよ、じゃあ僕は先に行くよ、はは」

 モララーは、笑いながら出口に向かう。
 出口付近にいたブーン。その傍を、ゆっくり通りすぎて。

( ・∀・)「ごゆっくりー」



 ゆっくりなんて、してられねぇよ。
 早く、本当を、聞きたい。



  
137: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:32:28.31 ID:S6mrRFftO
  





( ・∀・)『それでいい』









( ^ω^)(……)



  
139: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 01:36:18.54 ID:S6mrRFftO
  
('A`)「な、ブーン。やっとモララーいなくなったな。
    演技も大変だったよな。悪い悪い……」

( ^ω^)「違う」

('A`)「あは……え?」

( ^ω^)「僕は……ドクオを騙してたんだお。
       悪いとは思ってないお、身を守っただけだお。
       僕は透明じゃなくて、色があるんだお?」

('A`)「……」

( ^ω^)「だから……」

('A`)「だから?」

( ^ω^)「……」

('A`)「……」



 ブーンは、何も言わずに教室を出ていった。



 何も言わずに、教室を、出ていった。



  
147: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 02:00:54.84 ID:S6mrRFftO
  
( ^ω^)「ぼく…………」



 ばつが悪そうな表情をして、ブーンは駆けて行った。
 放課後の廊下に響き渡る、控え目な足音。
 廊下の奥を曲がっても、アイツは一度も振り返る事は無かった。



 ただの一度も、か。



('A`)「は、はは、はひ」

 なんでこんな事になってるんだろうか?
 俺が何をしたんだ? 俺が、何を――

 そうか。何もしてないよな。俺は悪くないか。
 でも、ブーンも悪くないよな。自分を優先するのは、当たり前だよ。

('∀`)「はは、ふひひひひひ」

 そう考えると、思わず笑みが出た。
 こうなったらどうでもいいか。アイツは、アイツだ。
 つまりアイツは、『透明』じゃなくなったんだ。



  
149: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 02:04:23.20 ID:S6mrRFftO
  
('A`)「俺は生き方変えないぜ。絶対変えないよ、絶対」

 空を仰ぐ。正確には、天井を仰ぐ。
 妙に早口になって、自分でも何を言ってるのかわからない。
 わからないけど、だんだん楽しくなってきた。

('A`)「変えるぐらいならさ……あは……」



 俺ほど『透明』が似合う男は、そうはいまい。
 これは負け惜しみなんだろう。でも、どうでもいい。
 俺にとって『透明』という"色"は、一番近い存在だから。



 ……ゆっくり深呼吸して、また呟く。

('A`)「かえろ……もう、もう無理だわ……」

 行き先は家じゃない。
 去年の、自分の教室。ブーンとの思い出がある場所。
 簡単な事だ。最期くらい、自分で決めたいから。



  
151: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 02:08:08.64 ID:S6mrRFftO
  
 ――透明人間は、透き通った心を持つ人間。



 いつかブーンは、そんな事を俺に言ってくれた。
 その言葉は励ましであり――自分を奮い立たせるもの。
 そう考えていた。実際、その通りだろう。

('A`)「ったく……結局、こんなフィナーレかよ。
    笑えねーだろ……面白くもなんともないわクソが」

 吐き出す愚痴とは裏腹に、俺は笑ってた。
 自嘲的っつーか、諦めの微笑みっつーか。
 とにかく俺は笑ってた。

 最初に出会った時みたく、教室には誰もいない。
 先生も、モララーも、ブーンも、誰も。
 障害物の無い学校に、廊下の窓から風が吹いた。強い風だ。

('A`)「はは、わけわかんねぇよ。よくわかんねぇ。
    つーかさ、何で俺は二年も我慢してたんだよ。
    こんな事ならさっさと死んでりゃ良かったわ」

 どうせ死ぬなら、何の"足跡"も残さずに死にたくない。
 そう思って俺は――黒板に文を書き殴った。

 生きていた証を、残したくて。
 死んだという証拠を、残したくて。



  
154: カラオケ店勤務(樺太) :2007/04/24(火) 02:11:03.40 ID:S6mrRFftO
  
('A`)「へへ、びっくりするだろ。これなら、びっくり……」

 チョークを叩きつける。
 なんとなくムカついた。他でもない、自分に。
 死んだ後の世界を気にするなんて、俺らしくねーや。

('A`)「バッカじゃねーの」

 それから俺は、叫んでみた。
 叫びながら、窓をぶち破った。
 拳じゃなくて、自分の体で。






 別に、死にたい訳じゃなかった。
 ただ逃げたかっただけ。ホントにそれだけ。

 何から逃げたかったかってーと、アレだ。
 ――この、濁っちまった心から。






 俺の心は、ずっと透明でなければならない。
 そうだろう? ブーン。



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