( ^ω^)エアーがクオリティーを育てるようです

219: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:37:35.84 ID:blKDe3tV0
  




 ( ^ω^)エアーがクオリティを育てたようです


 『( ^ω^)ブーン死刑囚が葛藤するようです 外伝前編』

      〜 ゲーム前 ∩ ゲーム後 〜






全てが終わったあとの――そして全てが 始まるまえのお話








220: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:38:40.59 ID:blKDe3tV0
  
薄暗い一室。
蛍光灯が不気味に点滅している。

部屋は小さく、四角かった。
そして、部屋自体の形が、狭さが、中にあったモノの存在感をより一層大きくしていた。

部屋にはただ一つのモノを除いて何も無かった。
そして、部屋の一辺だけ、他の三辺の壁とは違い無数の「穴」が開いていた。

ただ「穴」といっても、不規則で円形なものではなかった。
外からの進入を拒むような、中からの脱出を拒むような、長方形の規則的に並んだ「穴」だった。



部屋は鉄とコンクリートでできていた。


牢、である。



223: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:39:42.64 ID:blKDe3tV0
  
部屋の外には1人、牢の中身を見張るため立っていた。
中肉中背のどこにでもいるような男だ。
彼は銃を持ち、牢の方向へ絶えず銃口を向けていた。

なぜなら、彼は十分承知していたからだ。
牢の中にあるモノがどれほど危険であるか、を。

牢の中のモノ、それは人間ではなかった。
姿かたちはヒトといって差し支えなかったが、ヒトの姿をした鬼というほうが適当であろう。

部屋の――ヒトの姿の――中身は、大量殺人鬼という名の鬼である。


そう、警視庁を爆破し多くの命を無に帰したショボンは、まごうことなき鬼といえよう。



225: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:40:34.15 ID:blKDe3tV0
  
牢獄は沈黙に包まれていた。
点滅している蛍光灯が微かな音をたてるたびに、沈黙の存在を深くしていた。

こういった沈黙が破られるのは、いつも彼の一言からである。

(´・ω・`)「なあ、君」

ショボンの一言である。

「……なんだ」

牢の外の男は戸惑いを感じつつも返答する。
依然として銃口は向けたままであった。

(´・ω・`)「僕は、退屈だ。少し…話をしないか」

「……好きにしろ」

ショボンは逆らえない雰囲気を持っている。
見張りの男もその何かを十分承知していた。だから、彼に喋るのを許可するしかなかった。
彼がどれだけ危険かはわかっているつもりだったけれど。

(´・ω・`)「じゃあ僕の話をしようか。僕の一生の――もうすぐ終わろうとしている、一生の――話だ」



229: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:41:51.13 ID:blKDe3tV0
  
(´・ω・`)「僕は、君も知っての通り警視庁を爆破した。なぜだと思う?」

「わからんね……殺人鬼の考えることは」

(´・ω・`)「クックック……まぁそうだろう。僕もね、できることならしたくなかった」

「……何を言っている! お前は現に大量殺戮を――」

(´・ω・`)「でもね……仕方なかった――少なくともあの時の僕は仕方ない、そう思っていたんだ」

「……何が、だ?」

(´・ω・`)「復讐、だよ」

「フクシュウ……?」

(´・ω・`)「そうだ。僕の復讐……僕のただ1人の肉親の……復讐だ」

「……」

(´・ω・`)「僕のただ1人の肉親は、彼らに“殺された”んだ」

「警察に……か?」

(´・ω・`)「そうだ。他の人はどう思うかは分からない。でも僕は彼らに“殺された”と思ってる」

「貴様のテロは……そのためだったというのか?」

(´・ω・`)「そうだ、僕の復讐のために……」



230: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:42:25.50 ID:blKDe3tV0
  
また沈黙が場を支配し始めた。

男は考える。彼――ショボンは何を自分に伝えようとしているのか。
自分のやったことの正当性だろうか。
警察に対する告発だろうか。
事件の動機だろうか。

答えはどれも違うように思える。

これから死にゆく筈だというのに、ショボンの目からは迷いのない強い眼差しを感じられるのだ。
彼は言い訳じみたものをする気は、毛頭無いようだ。
むしろ、誇りを持っているようですらあった。

そうか。

彼は自分に、ショボンという人間の生き様を伝えようとしているのだ。
彼の血にまみれた人生を。
復讐に生きた男の姿を。

彼の言葉を果たして全て受け止めることができるか、私には自信がない。

彼の人生は私みたいな卑小な人間には、あまりにも――あまりにも大きすぎるのだから。



232: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:44:14.54 ID:blKDe3tV0
  
(´・ω・`)「……聞いているかい?」

「……ああ……ちゃんと聞いている」

(´・ω・`)「そうか……そりゃよかった」

「で……その復讐は……」

(´・ω・`)「見事達成されたよ。でもね……最近僕は思うんだ、本当にこれで良かったのかとね」

「……良いはずがないだろう。事実、君は犯罪を犯して、今から刑が執行されようとしている」

(´・ω・`)「うん、そうだね。でもそれは善悪の判断ではなく、司法の判断だ。
       本質的な善悪の問題とはまた別次元の観念だと、自分は認識している」

「……じゃあ、どういう意味だ。君の言う、良かった、とは」

(´・ω・`)「そう。例えば君は、功利主義、という言葉を聴いたことがあるかい?」

「何だそれは」

(´・ω・`)「最大多数の最大幸福、というやつだ。ベンサムって人に言わせるとね」



234: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:45:20.76 ID:blKDe3tV0
  
「……よく、わからない、君の言っていることは」

(´・ω・`)「まあ、簡単な話だ。僕は1人“殺された”。そしてその代わりに何百人と人を殺した。
       そして人が死ぬということは、死んだ本人及び周りの人が苦痛をうけることと同義だ。ここまではいいかい?」

「……あ、ああ。何とか」

(´・ω・`)「さて、社会全体から見ると、僕の行いは多くの人を不幸にしたことになる。
       これは功利主義的観点から見たら誤っている」

「こうり何チャラはよくわからんが……自分の為に、多くの人を不幸にしたってことだよな」

(´・ω・`)「そうだ。しかし、僕は復讐せざるをえなかった。
       僕の幸福のためには、彼らを殺す他なかった」

「自分の都合のために、他者を犠牲にした――君の言いたいことは、こういうことか?」

(´・ω・`)「そう。ところで、君は“囚人のジレンマ”って知ってるかい?
       あれと同じさ。自分の利益を優先すると、最大多数の幸福へはたどり着けない……」

「……聞いたこともないな」

(´・ω・`)「まあ、いい。分からなくても。判りやすく言えば、僕は囚人になる前からジレンマしてたってことさ。
       そして、ジレンマ――葛藤――の結果、僕は多くを殺す選択をしたんだ。自分の幸福のために。
       ただ、今、死の間際になって、この選択が間違いじゃないかって思い始めたんだよ」



237: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:47:18.34 ID:blKDe3tV0
  
「なんだ、命乞いか?」

(´・ω・`)「いや、逆、だね。僕はこの間違いを気づいた時点で、死ななきゃいけないんだ。
       僕のやってきたことが間違いだったなら、僕は彼らに命で償わせたよう、僕自身も自らによって償わねばならない。
       つまり――もう僕の居場所はないんだよ、ここには、ね」

男はショボンの話が雲を掴むようで、殆ど理解できなかった。
ただ、ひとつわかった事があった。

彼の話は、懺悔、なのだ、と。

彼の一生消えることのない罪に対する、懺悔。



「それで、その間違いというのは――?」

この時、確かに私は、こう尋ね返したのだ。
そして、彼はこう答えた。

(´・ω・`)「……その間違いを語るには彼の話をしなくてはならないな。
       僕の間違いは、ある一人の男によって、気づかされたんだ。
       その男の名は―――」


ここで私の、彼に関する記憶はお仕舞いである。



240: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:48:36.87 ID:blKDe3tV0
  
一瞬の出来事だったのだ。

彼が、牢から“消えて”しまったのは。


彼は私と話している間に、姿を消したのだ。

そして空の牢が、もともと中に何も無かったのが当たり前かのように、私の目の前にあった。


この世に――先ほどまで目の前に――居たのが疑わしくなるほどに、ショボンは跡形も無く消えていた。


私はこれからどうすれば良いのだろう。
どうやってこの事実を上に伝えればよいのだろうか。

考えれば考えるほど、頭痛がした。



242: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:49:03.34 ID:blKDe3tV0
  
ショボンが目を覚ましたのは暗い森のなかだった。


(´・ω・`)「……ここは……どこだ」

先ほどまで、牢の中に居たはずだった。
なのに今、牢の中とはあまりにもかけ離れた森の中に居る。

僕を包囲していた奴らが、やったことなのか。
いや、彼らがそこまで乙なことをできるはずも無い。

どうしてここに――いや、考えるだけ無駄なのかもしれない。

恐らく自分が森の中に居るという観察事実を、あるがままに受け入れるのがよいのだろう。
科学者としての――爆弾魔という名のマッドサイエンティストだとしても――最善な選択だ。

さて、まず科学者らしく今居る世界を定義づけするとしよう。

例えば……そうだな。
この世界を“地獄”と名づけよう。

罪人が死んだ後に行き着く世界の呼称を、現在の状況に当てはめるのだ。
死刑囚の僕には、お似合いだろう。



244: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:50:14.61 ID:blKDe3tV0
  
この“地獄”は、思いのほか人間に適した環境であることが、幾つもの“実験”で分かった。

まず自分が、その細胞が、生命活動を続けられるという事実。


これから、“地獄”には酸素が存在しているということが分かる。

自身の生命システムが変化しているのなら別ではあるが、そんな様子も感じられない。


近くの葉を持って落としてみる。


葉っぱの振る舞いは、僕が生きていた世界と同じであるし、重力加速度も同程度だ。

ここで他の物理定数も同様だとする仮説を立ててみるとしよう。

精密な実験器具が存在しないので、基本的な物理定数が多少違っていてもわかりそうにはないが、恐らく合っていると言えそうだ。



246: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:50:40.66 ID:blKDe3tV0
  
あたりを見回してみる。


僕の持つ知識の範囲外にあたる存在は目に入らなかった。

この世界は、今まで居た世界と同等としてよさそうだ。


この世界は、今までいた世界の平行世界だろうか、未来なのだろうか、過去なのだろうか、地球上のどこかだろうか。
こういったことは今の段階では分かりそうにない。

それにどんなに情報がそろっても、精密な実験ができたとしても、分からない可能性だってある。

等速直線運動している物体が、自らが動いているかどうかを、どんなに苦心しても分からないように。


ただ、一つ確実に分かったことがある。


この世界は、思いのほか住みやすそうだ。



248: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:51:17.15 ID:blKDe3tV0
  
周りには草木が生えているし、こんな森だ、恐らく動物も居るだろう。
食料には困りそうに無いのが分かる。

人間は食料さえあれば、生きてゆける。


そして、この世界には、自分の罪を知る人間も居ない。
こう仮定できそうではないか。

この世界に辿りついた過程は、あまりにも常識とはかけ離れてるのだから。


確かに今の段階では、いずれも推測の範囲をでない。

しかし、時間が経てばある程度の確証が得られるだろう。


まあ、今の段階で推測できるのはこの程度だ。

これ以上の思考は、立ち止まってしている必要はない。
探索と食料探しに励みながら考えるべきだろう。



250: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:52:33.82 ID:blKDe3tV0
  
予想通り、食用になりそうな雑草はいくらか見つかった。
そして、人間の姿は一人も見ることはなかった――現段階までは。

探索を始めてどれくらい経ったのだろうか。
非常に長い時間のようにも思えたし、そうでなかったようにも思えた。

鬱蒼とした森の中を暫く探索していると、ショボンは前方に明かりを感じ取ることができた。

そして明かりの先に、一つ小柄な影があった。

(´・ω・`)「おや……誰かいるな……」

音を立てないように近づくことにする。


人影は、少女だった。

幼い顔立ちを残した少女。



251: 今年も留年(長屋) :2007/04/10(火) 22:53:33.28 ID:blKDe3tV0
  




僕は、光の差し込む広地で少女と出会った。


そして彼女も――僕と同じように――罪を背負っていた。



この出会いが全ての始まりだった。



ここから僕の運命は、想像もしない方向へと転がり出す。


まるで、サイコロのように、くるくると。






          ( ^ω^)ブーン死刑囚が葛藤するようです 外伝前編  糸冬



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