( ^ω^)エアーがクオリティーを育てるようです

490:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:41:31.74 ID:8EfekdEx0
  
第六話 「集え勇者達よ」


――朝。
雲の隙間から漏れるように、空からは日差しが射していた。
常に雲に覆われたこの世界では稀な天気だった。

(´・ω・`)「で、屍の大量発生が最近深刻でね。何とか策を講じたい所なんだが」

朝食が終わると、店内に皆を集めてショボンは語り始めた。

(`・ω・´)「我々にも是非協力させて欲しい。
      これ以上腐った筋肉が増えるのを防がないといけないからね」

('A`)「俺も筋肉神さまの意見に賛成だ。というかどこまでも付いていく」

(*゚ー゚)「私もコーチとドクオさんに付いて行きます」

『オッス!! 我々も付いて行くッス!!』

('、`*川「……こんな見ず知らずの私に賛同してくれるなんて……本当に有難うございます」

(`・ω・´)「いやいや、私は単純に脂肪と、ドーピングでドロドロに腐ってしまった筋肉が許せないだけだ。
      それに紳士たるもの、レディに優しくなければ」

('A`)「そもそも、これは俺達の世界の問題だ。
    よその世界からわざわざ来て尽力してくれるなんて、むしろ礼を言いたいくらいだぜ」

彼等は口々に意見を述べた。皆の言葉には、それぞれに強固な意志が感じられる。



492:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:43:18.89 ID:8EfekdEx0
  
('、`*川「あとは『J』さんも居てくれたらねえ……」

彼女は唯一姿の無い『英雄』の存在を思い出して、溜息をついた。
彼が居てくれたらかなりの戦力になるものの、今も依然その行方は解らない。

('A`♯)「……いいんですよ。奴は今じゃ只の腑抜けだ。居ても足手纏いになるだけだ」

('、`;川「……はあ」

『J』の名前を聞いたとたん、ドクオの表情は一変して険しくなる。
その様子を彼女は黙って見つめて相槌を打つしかなかった。

(;´ω`)「……」

そんな中でブーンは独り、押し黙っていた。
その表情はどこか暗く、落ち込んでいるように見える。

('、`;川「……ブーンちゃん?」

(;´ω`)「……皆には戦う力があるんですお。でも僕は何にも出来ないですお」

('、`;川「……まただわ」

その様子を見て、彼女はすぐにその原因が分かった。

('、`*川「いいかい、ブーンちゃん?」

彼女は、ブーンに言った。
それはいつもとは違って少し棘のあるようにも聞こえた。



494:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:45:24.64 ID:8EfekdEx0
  
(;´ω`)「……なんですかお」

彼はそれに力なく答えた。

('、`♯川「しゃんとしなさい!! 返事は『はい』よ!!」

Σ(;゚ω゚)「ッ!! は、はいっ!!」

彼の態度に苛立ちを覚えたのか、彼女はきつい口調で言い放った。
普段の穏やかとはまさに正反対であるその態度に、彼は動揺し、ぴくりと身体を震わせすぐに返事をした。

('、`*川「……私の言うことを良く聞いて」

そして、彼女は彼の眼を凝視して静かに言った。
しかし、その眼差しから伺える芯の強さが、彼女の放つ言葉の一つ一つを重みのあるものに感じさせる。

(;^ω^)「……はいだお」

('、`*川「確かに貴方は……ショボンさんのように複雑な機械を造れるわけでも、
     『J』さんやシャキンさん、ドクオさんのように強い力を持っているわけでもないわ」

(;^ω^)「……」

ブーンはその一言一言を噛みしめるように、しっかりと聞いていた。

('、`*川「でもそれは、みんなが自分で出来ることをしっかりと果たしているだけなの」

(;^ω^)「自分に出来ること?」



496:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:47:13.72 ID:8EfekdEx0
  
('、`*川「そう。それは私だって同じことなの。
     むしろ私は特別な力をもっていない只のおばあちゃんよ。
     ペンダントだって、それは借り物の力に過ぎないわ。
     でもね、私は私なりに出来ることをしようと行動しているだけ。なにも特別なことではないのよ」

(;^ω^)「は、はあ」

彼女はさらに続ける。

('、`*川「それに貴方は貴方にしか出来ないことがあるはずよ。
     例えば、私達が屍に追われた時だって……
     貴方が私を引っ張ってくれなければ、私はショボンさんが来る前に死んじゃってたかもしれないわ。
     ……もし貴方が居なければ、私がこの場でこうして喋ることも出来なかったのよ」

(;^ω^)「……でも」

彼は何かを言おうとしたが、彼女は構わずに喋り続ける。

('、`*川「私が見ている限りでは、貴方はきちんと一生懸命自分が出来ることを果たそうとしている。
     大事なのは結果の大小ではないわ。
     ……確かに貴方をきちんと評価しない人がいるかもしれない。
     でも少なくともここに集まっている人たちは、貴方の頑張りを充分に認めているはずよ」

(;^ω^)「……」

その勢いに、とうとう彼は言葉を返すことが出来なくなっていた。



500:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:49:20.30 ID:8EfekdEx0
  
('、`*川「だから、もっと自分に自信を持ちなさい。
     貴方が、『自分に出来ること』を見つけて精一杯やれば、いつか胸を張ることができるようになるから」

彼女は最後に優しく言った。
気がつけば、彼女の表情にはいつも通りの微笑みが戻っている。

( ^ω^)「……わかりましたお。
      まだ、僕ができることはわかんないですけど……全力で頑張ってみますお!!」

彼女の言葉が終わると、彼の表情にも同様に明るさが戻っていた。

('、`*川「それでいいのよ。それでこそいつものブーンちゃんだわ。
     ……あと、敬語は必要ないわ。おばあちゃんって気軽に呼んで頂戴」

( //ω/)「そんな……恥ずかしいですお」

そして、いつものようにそう付け加えた。
とは言え、やはり恥ずかしいのか彼は一向に敬語を崩すことは無かった。
その二人のやりとりを黙って見守っていた周囲の者は、彼の赤くなった表情を見ると、一斉に笑い声を上げる。



503:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:51:10.79 ID:8EfekdEx0
  
そのふいんき(ryを壊すかのように、突然店内に蒼い光と共に雷鳴が響き渡った。

今まで朗らかだった空気は一変して、水を打ったように静まり返る。
気がつけば久しぶりに出ていた太陽の影はすっかり消え去り、店の外は限りない暗闇に包まれつつあった。

(´・ω・`)「これは……一雨来そうだね」

ショボンはハの字に垂れ下がった眉を、ピクリと動かして呟いた。
そんな中で、突然しぃは思い出したように声を上げる。

(;*゚ー゚)「あ、あの……本部にフンドシが干しっぱなしなのを、私すっかり忘れてました。
     雨が降るなら取り込んでしまわないと……」

('A`)「大切なトレードマークのフンドシが……それはマズいな。
   俺も一緒に手伝うとしよう。……筋肉神さま宜しいでしょうか?」

(`・ω・´)「うむ。是非頼んだよ。我々ボディビルダーにとっては、筋肉と命の次に大切なものだからね」

(;^ω^)(それって……そんなに大事なのかお?)

ブーンの疑問をよそに、二人はすぐに『バーボンハウス』から出て行ってしまった。

('A`;)(;*゚ー゚)「……」

しかし、数秒も経たない内に彼らは再び店内に入ってきた。
汗をかいているのか、雨に濡れたのか分からなかったが、二人の美しい筋肉の身体はびしょ濡れになっている。
さらにその筋肉に呼応するように、二人の表情は固い。

(´・ω・`)「……どうしたんだい? 随分早いお帰りだね?
      もう降って来たのかな。良かったら傘を貸そうか?」



508:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:53:57.34 ID:8EfekdEx0
  
二人がショボンの言葉を返すことは無かった。
その代わりに次の瞬間、彼の耳に飛び込んできた音によって状況を悟ったのだ。

『グアアアアアアッ!!!!』

雷鳴にも劣らないほどの遠吠えであった。
その声は、その場に居た者全てにとって聞き覚えのあるものであった。

(´・ω・`)「……ッ!! まさか、こんな時間に?」

只ならぬ気配を外に感じると、店内に居た者は次々と外へと飛び出した。

(;^ω^)「……嘘、だお?」

('、`;川「まさか……こんなに存在していたなんて」

(;`・ω・)「まったく……おぞましいね……」

外の景色を見た三人は、口々に思ったことを吐き出していった。
いや、それしか出来なかったのだ。
何故ならば、彼らは今までにこのような光景を、目の当たりにしたはずが無かったからである。

例えるならば、常世に現れた地獄であった。

全員の眼に映ったもの――
それは、この世界の絶望の温床であり、この世界の人間の宿敵であり、この世界の終末の起源であった。

『グアアアアアアアアアッ……』

――それは『バーボンハウス』を囲む、千にも迫る数の、屍の群であった。



510:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:56:36.09 ID:8EfekdEx0
  
(;´・ω・)「ここまで屍化が進んでいたとはね……」

('A`;)「ああ。ここまで胸糞悪い光景は初めてだ」

(;*゚ー゚)「でも、ここまで多かったら……逃げられませんよね」

蒼雷を反射して、屍達の眼は赤く輝いていた。
瓦礫と化した街の残骸の上では、無数に光の点が宙に浮かんでいる。
そして、生暖かい風が腐臭を運んできた。

('、`;川「ええ。この数では……」

(;^ω^)「戦うしか……ないですお」

(;`・ω・)「……うむ。だが、丁度いい機会だ。是非、直々に鍛え直そうではないか」

まさに圧巻であった。
幾千もの屍達は彼等の新鮮な血肉を喰らわんと、その白い爪を、鋭い牙を剥き出しにしている。

割れたアスファルトに一滴の水粒がぽとり、と落ちた。

それが闘いの始まりだった。

『グアアアアアアアアッ!!!!』

肉食獣の唸りにも似た音を発しながら、屍達は一斉に迫ってきたのだ。
前から、後から、右から、左から、大群は押し寄せるように駆け出してくる。



513:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 03:58:52.10 ID:8EfekdEx0
  
('A`;)「円陣だッ!! ペニサスさんとブーンを中心に円陣を組めッ!!」

ドクオはいち早く、周りに居た者に指令を出した。
かつて『悪の組織』を束ねていた彼の判断は迅速なものだった。

『オッス!!』

掛け声と共に、百人もの筋肉を纏った戦士達は円状に二人を守るようにして並ぶ。

(´・ω・`)「『断駒』ッ!! 来いッ!!」

次にショボンが空中に向かって叫んだ。
同時に、蜘蛛状の八脚歩行戦車が『バーボンハウス』の屋根を飛び越して彼の前へと降り立つ。
彼は素早く戦車の上に登ると、球体上部の乗降口から内部へと入っていく。

(`・ω・´)「では、レッスンタイムを始めようか」

屍の群に向かって先陣を切ったのはシャキンだった。
彼は時速百キロの速度を誇る脚力で、地を割りながら駆け抜けてゆく。

<ヽ:::。Д:::゚)「ギャアアアアアッ!!!!」

彼の豊満な肉体を切り裂かんと、数十の屍達が刃のように鋭い爪牙を立てて襲い掛かる。

(`・ω・´)「必殺ッ!! 『筋肉旋風撃』ッ!!」

彼は両腕を大きく横に広げ、そのまま群に突っ切った。
そして、地面に大穴を空けるほど力強く跳躍し、空中で独楽のように回転を始める。



517:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:00:35.08 ID:8EfekdEx0
  
<ヽ:::。Д:::゚)「ギ――」

彼の肉体は小麦色の渦と化して、次々と屍達を薙ぎ倒す。
屍達は抵抗する間も無く次々と巻き込まれ、吹き飛ばされていく。

('A`)「我々も続くぞしぃちゃんッ!!」

(*゚ー゚)「はいっ!! ドクオさんッ!!」

そう言うとドクオは地面に仰向けになり、頭の横に両腕に通す形で地面に後ろ手を着ける。
そのまま両脚の膝を曲げて、足裏を天に向けるような姿勢を取った。
一方しぃは、彼の足裏に乗って小さく屈む。

('A`)「喰らいやがれッ!! 二人の筋肉への愛が生み出した複合技ッ!!」

(*゚ー゚)「スカイラブ……」

('A`)「マッスル・ハリケーンッ!!」

そして、ドクオはカタパルトのように反動の力を利用して膝を伸ばすと、思い切り彼女の身体を前方に飛ばした。

(*゚ー゚)「はあああああああッ!!」

<ヽ:::。Д:::゚)「ギ――」

彼女の筋肉は一つの矢となって、屍の群を貫いていく。
その姿は、戦場に現れた天使がその翼で駆け抜ける程に美しかった。

(´・ω・`)「……そろそろ僕も働かないとね」



519:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:02:34.35 ID:8EfekdEx0
  
『断駒』は廃墟となった民家跡の上でひっそりと佇むように目を光らせていた。
それを中心にして屍達は唸りを立てて囲む。
戦車内部では戦況を見つめているショボンの姿があった。

(´・ω・`)「では、ぽちっとな」

彼は操縦席の横にあるボタンを押した。
『断駒』の胴体からは無数の穴が開き、その内部から数百もの銃砲が伸び出てくる。

(´・ω・`)「僕は掘るほうが好きなんでね」

そして、銃砲から光が八方に放たれる。

例えるならば光弾の雨。
それらが雨雲から舞い落ちる水滴に混ざり、容赦なく屍達の頭上に降り注いだ。
瓦礫を、廃墟を、地面を、全てを巻き込んで溶かしていく。
屍達の断末魔は爆音と破裂音が混ざった雨音に掻き消されてしまう。

<ヽ:::。Д:::゚)「ギ――」

そして、屍達に抵抗させないまま、次々と蒸発させていく。

『オッス!! オッス!!』

(;^ω^)('、`;川『……』

一方、ブーンとペニサスは、筋肉の円に囲まれながら周りの状況を見守っていた。
彼女は祈りながら、傷ついた者達の治療を行っている。
その傍らで彼は鉄パイプを両手で握り締め、構えていた。



521:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:04:24.88 ID:8EfekdEx0
  
(;^ω^)「僕はどうすれば……」

しかし、彼はその姿勢のまま固まっていた。

迫り来る屍達は、すべて『筋肉教』の構成員が片付けてしまう。
本来なら、彼等が防ぎきれなかった屍から彼女を守る役割を担っていたが、
想像以上にマッチョ達の肉体が強靭だったために、彼がそれをするまでもなかった。

(;^ω^)「う〜ん……」

彼は何も出来ないもどかしさに焦燥する。
とは言え、彼が下手に屍を倒しに行こうとすれば、足手纏いになるだけだということも分かっていた。

('、`;川「ハアッ……ハアッ……」

絶えず祈り続けていたせいであろうか、彼女の顔に疲労が見えた。
それを心配して、彼は声を掛ける。

(;^ω^)「大丈夫ですかお?」

('、`;川「ええ。思ったより順調に屍の数を減らしているわ」

彼女の言う通り、戦況は悪くなかった。
敵の勢力は彼等の数十倍程にも思われたが、確実にその数は減っていた。
気がつけば、何千もの屍の体の一部が地面を埋め尽くしている。
『バーボンハウス』に集まった者たちは順調に屍達を殲滅していった。

だが、戦士達が勢いに乗り、屍の総数の大半を減らした時、敵の軍勢にある変化が起こった。



525:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:06:40.36 ID:8EfekdEx0
  
『ガグッ……ガグッ……』

(;^ω^)「へ?」

屍達の攻撃の手が緩み始めていた。
そして、逃げるように各々の敵との距離を取る。

次に、生き残った屍は信じられない行動を取った。
彼等は生きた人間を喰らうことを諦め、地面に転がる己の同胞の肉を喰い始めたのだ。
まさに、地獄の餓鬼のような凄惨な姿であった。
どろどろに溶けて腐臭を放つ、少なくとも美味ではないだろうそれを、咽び悦ぶかのように喰い千切っていたのである。

(;`・ω・)「これは……」

('A`;)「狂っちまったのか?」

(;*゚ー゚)「むごい……」

さらに、戦士たちがそれを眺める最中、大きな変化が起こった。

『グッ……!! グガグッ……!!』

屍達は仲間の死肉を喰らった後に、痙攣するように身体を前後に揺らした。
それに連動して、敵の身体にも変化が訪れる。
彼等の腕が、脚が、肉が膨張したのだ。

無理にその体積を増やしたため、肉の所々に亀裂が入る。
裂け目を埋め尽くすように中から新しい肉と骨が突き出していく。
本来肉があるところに骨が生え、本来骨があるところに肉が凝縮される。
そんな、奇妙な成長であった。



528:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:08:32.19 ID:8EfekdEx0
  
('、`;川「う、そ……?」

(;^ω^)「これは!?」

(;´・ω・)「……なんて化け物だ」

そして、屍達は再び彼等の前に立ちはだかった。
ただ立ちはだかったわけではない。
背丈も、体の太さも三倍程に膨れ上がって現れたのだ。

『グググググググググ……』

苦労して倒した屍達は巨大な屍鬼と姿を化して復活し、戦況は再び振り出しに戻る。
いや、むしろさらに悪くなっていたのかもしれない。
数自体は一割以下に減ったものの、その威圧感は先程よりも大きい。

『グギギアアアアアアアアアア!!!!』

(;^ω^)「ッ!?」

屍達は廃墟を崩さんとばかりに叫ぶ。
次の瞬間、屍達の身体は宙にあった。
一瞬のうちに跳躍して、眼前の敵に襲い掛かったのである。

(;`・ω・)「クッ……」

シャキンは寸前で空から降ってくる爪を背面跳びでかわす。
地に突き刺さった爪は地面を真っ二つに切り裂く。
先程よりも、屍達は各段に力を増していた。



530:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:10:32.31 ID:8EfekdEx0
  
('A`;)「うおッ!!」

(;*゚ー゚)「きゃっ!!」

『グギャアアアアアアアアアアッ!!!!』

二人も初撃を辛うじて避けたが、すかさず屍は疾走する。
体躯が大きくなったにも関わらず、その速度は更に増していた。
地を縮める程の速さだった。

(;´・ω・)「うわッ!!」

『断駒』の球体は、瓦礫の上を転がり回った。
戦車の三の眼をしても屍の一撃は回避できなかったのだ。
最初は屍を簡単に倒せたはずが屍鬼が現れるなり、力の均衡は逆転してしまっていた。

『ぐわっ!! 我々の筋肉が通用しないッ!?』

ブーンとペニサスを囲んでいた円の陣形は崩れていた。
次々と、筋肉教の構成員達が力無く吹き飛ばされていく。
百程にまで居た、小麦色の肌を持つ戦士達の大半は地面に横たわり、二人を守る者はもはや十人にも満たない。

『グギャッツ!!!』

『ぎゃあッ!! ぐああああッ!!』

ついには、最後の砦であった彼等もあえなく踏み潰され、弾き飛ばされてしまう。

('、`;川「……お願い



532:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:12:16.94 ID:8EfekdEx0
  
ペニサスも必死に祈っていたが、回復が追いつかない。
ブーンは震える手で鉄パイプを構え、敵を威嚇する。
そして筋肉の壁が無くなった時、屍の標的が二人に変わった。

『グアアアアアアアッツ!!!』

(;゚ω゚)「……」

眼前の屍鬼を睨む彼は、無言であった。
対して、全く怯む様子の無い敵はゆっくりと足を進めてくる。

(;゚ω゚)「……ええいっ!!」

彼は何かを決断したように、鉄パイプを投げ捨て闘いを放棄した。
目の前の敵は、とても自分には敵わないと思ったからだ。

(;゚ω゚)「……来いお。僕の肉は美味いお」

('、`;川「ブーンちゃん?」

だが、それは逃げる為ではなかった。
彼は彼女の前を塞ぐように両手を広げて立ち憚かる。
彼の決断とは自分の身を呈して彼女を守ることだった。
戦うことができないのならば、自分が盾になろう。彼はそう思ったのだ。

『グガアアアアッ!!!!』

('、`;川「いやああああああああッ!!!!」

そして、屍鬼はその牙を彼に突き立てた。



536:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:15:08.68 ID:8EfekdEx0
  
「……ボウズ、やるじゃねえか。その勇気、確かに受け取ったぜ」

『ガ……ガ……?』

だが、屍が突き立てたのは彼の身体ではなかった。

(;^ω^)「へ……?」

「どいつもこいつも、俺の腕に噛み付きやがる……そんなに美味そうに見えるのか?」

それは、鎧の小手のような形をしていた。

銀よりも白い光沢を纏う、歪曲した金属プレート。
上腕部にはそれが筒状に幾重にも重ねられており、接合部の隙間からは無数の銅線が覗いている。

それは、金属で造られた義手であった。
身体の一部であるかの如く、それは目前の男の左腕に繋がっている。

('、`;川「……あなたは」

「だが、残念ながら喰われるわけにはいかないな。俺にはやる事がいっぱいあるんだ」

――そう、彼は一陣の風のように颯爽と現れた。
  _
( ゚∀゚)「待たせたな!! 義手の『J』、ただいま見参ッ!!」

かつて『英雄』と呼ばれた『J』がブーンの危機を救ったのである。
薄暗い空の下で、トレードマークの義手の金属光が鋭く輝いていた。



538:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:17:09.71 ID:8EfekdEx0
  
  _
( ゚∀゚)「とりあえずお前は邪魔だ。あっち行け」

『ギ――』

彼は小さく呟くと、噛み付かれた義手を堂々と振り抜いた。
銀色の閃光は簡単に屍鬼の頭を粉々に砕く。
頭部を失った屍鬼は、力無くその場に横たわった。

( ^ω^)「ジョルジュさんッ!!」
  _
( ゚∀゚)「よお、元気か……って、ん? やけに屍が多くないか? しかも何かでっかくなってるし」

『J』は、あっさりと目の前の屍を屠った後で、首を左右させ周囲を伺いながら言った。
周囲では、普段よりも大きさを増した屍が暴れ回っている。
  _
( ゚∀゚)「まあ、いいか。とりあえず、チャチャッと片付けるか」

(;^ω^)「え、あ……でも」
  _
( ゚∀゚)「心配するな、すぐに終わるさ」

『J』は心配するブーンの肩をポンと叩き、不敵に笑みを浮かべると、その横を通り抜けた。
敵の数を気に留めるでもなく、左腕を大きく振り回しながらゆっくりと歩みだす。
  _
( ゚∀゚)「この技だけは危険だから封印していたが……こんなに敵がいるんだ。大丈夫だろ」

彼の視線は、戦士たちを容赦なく襲う屍鬼の群から、己の義手へと移っていく。
そして、彼は群の中に向かって疾走した。



541:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:19:14.32 ID:8EfekdEx0
  
  _
(♯゚∀゚)「特別にショボンに開発してもらった対屍用の必殺技だ。『Type-Cannon』ッ!! いくぜッ!!」

義手の拳部分は激しく回転し、腕内部へと潜っていく。
折り重なったプレートは前方へ回転するようにスライドし、やがて筒状へと変化する。
そして、彼は巨大だった屍鬼の頭を軽々と飛び越すほどに高く跳躍した。
彼は宙を舞いながら、屍鬼の集まる中心に照準を定める。

『ギッ!?』

筒状になった左腕――砲身の内部から熱を帯びた光の塊が膨れ上がる。
それを囲うように、十のプレートが輪を描くように筒の外側を旋回する。
やがて、塊は輪の中心で球状に形を変え、回転と紅電を帯び始めた。
  _
(♯゚∀゚)「アトミックファイアアアアアアアッ――」

――そして、凝縮された濃密度の熱線は放出された。

『J』の腹の底から振り絞られた叫びは一瞬にして掻き消される。
次の瞬間、一帯が地を揺らすような轟音に包まれたからだ。
目が覚めるような赤を帯びた光の筋は、地に触れた瞬間、膨れ上がるように波紋状に拡がる。

『ギ――』

超高温のエネルギーは、瓦礫をも巻き込んで屍鬼を灰にした。
その場にある、存在と呼べる存在全てが熱によって蒸発する。
気化熱は吹き荒れる爆風を生み、一帯に赤の渦巻きを作り出す。

そして、空間は一切の光に包まれた。



543:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:21:07.22 ID:8EfekdEx0
  
(;^ω^)「……すごいお」

('、`;川「こんな一瞬で……」

溶岩のように溶けたアスファルトの地面の上で、二人は立ち尽くしていた。

対屍用の最終形態『Type-Cannon』、それは恐るべき破壊力であった。
数百体程も存在した屍鬼達はその一撃によって消え去ってしまった。
残ったのは、屍鬼の身体が燃え尽きてできた灰のみである。

ブーン達があの爆発に巻き込まれながら、その体に傷一つ付いていない。
それは、ペニサスが技の発動の瞬間、ペンダントに祈りを捧げていたからである。
放たれた光が結界となり、寸前で屍以外の者達を守っていたのだ。
  _
(;゚∀゚)「ちょっとやりすぎたかな? まあ…いいか。」

その中心では『J』がポリポリと頭を掻きながら、自分の放った技の威力に溜息をつく。
建物や道路などの形あるものを全て溶かしきってしまったのだ。
さすがにその状況を見ると、思わず屍に同情せざるを得なかった。
  _
( ゚∀゚)「……さてと、お前ら無事だったか?」

彼は不意に、遠くで呆然としていた二人に声を掛けた。

( ^ω^)「ジョルジュさん……やっぱり来てくれたのかお!!」
  _
( ゚∀゚)「……まあ、色々あってな」

('、`*川「助けて頂いてありがとうございます。なんてお礼を言えば……」



544:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:22:51.04 ID:8EfekdEx0
  
  _
( ゚∀゚)「いいってことよ。これも俺の仕事だもんな」

そんなやり取りの中、残りの者達も彼の元へと走ってきた。

(;´・ω・)「……危なかったよ。僕の『断駒』まで灰になってしまうところだった。
       『Type-Cannon』は周りを良く見て撃てって言っただろう?」
  _
( ゚∀゚)「別に当たらなかったんだろ? だったらいいじゃねえか」

(`・ω・´)「おや? ナイスマッスルな君ではないか? 私と共に筋トレしに来たのかい?」
  _
(;゚∀゚)「やんねえよ馬鹿」

そして、彼の到来を最も待ちわびていた男もその場にやってきた。

('A`)「……遅えよ。来るんだったら最初から来やがれ」

永遠のライバル、ドクオである。
彼は『J』を見るなり、悪態をついた。
しかし、その表情はどこか笑みが零れているようにも見えた。
  _
(;゚∀゚)「へっ。正義のヒーローは遅れてやってくるもんだぜ。
     美味しいところをお前なんかに渡すかy……ぐっ……」

『J』も憎まれ口で彼の言葉を返そうとしたが、急に腹を押さえてその場にうずくまる。
腹部の傷からの出血がひどく、白いTシャツを赤く染め上げていた。

('A`;)「!! しっかりしろッ!! お前そんな身体で……」



547:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:24:40.00 ID:8EfekdEx0
  
  _
(;゚∀゚)「へっ……大丈夫だよ……」

(;^ω^)「ペニサスさん!! 早くッ!!」

('、`;川「ジェ、『J』さん!! しっかり!!」
  _
(;゚∀゚)「大丈夫……だ……七色のブルマーを履いた相撲取りの行進がはっきりと見えるから」

('A`;)「ちょwww」

見た目よりも相当危険な状態であった『J』はペニサスの懸命な祈りを受けて回復した。
そして、十秒後には元気に飛び回る彼の姿があった。
  _
( ゚∀゚)「ケアルガうめえwwwやるじゃねえかばあさん!!!!」

(´・ω・`)「いや、これはべホマだ」

('A`)「いや、これはマックスヒールだ」
  _
( ゚∀゚)(´・ω・`)『ねーよwww』

('A`;)「ウツダシノウ」

('、`*川「ふう……これでよし。やっと戦いも終わったねえ」

治療が終わると、周囲を一瞥して小さく言った。
彼らの立っている場所を中心にして、建物も瓦礫も道路もすべて表面がどろどろに溶けている。



549:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:26:23.95 ID:8EfekdEx0
  
  _
( ゚∀゚)「……ッ!? いや、どうやらまだ終わっていないようだ」

しかし、彼は何やら気配を感じ取ると、緩んでいた表情を一変させある方向を睨んだ。
そこには表面が焼け爛れた瓦礫の山があった。
  _
( ゚∀゚)「……いるんだろ? 出て来いよ」

彼はその中に何者かが居るかのような口調で声を掛けた。
すると、彼の声に反応するように、山が音を立てて動いた。

川 ;;。V听)「グ……グ……」

山から這い出てきたのは一匹の屍であった。

その肌はただれたように溶け、顔からは頬骨がむき出しになっている。
右目の瞼がめくれ、そこから眼球が零れ落ちている。
そして、脳天から真っ二つに割れ、脳と体液が溢れ出していた。

その屍にショボンと『J』は見覚えがあった。

(;´・ω・)「まさか……?」
  _
(;゚∀゚)「……驚いたぜ。生き残っていた屍がお前だなんてな」

それは二人にとって大きな存在であった女性の、変わり果てた姿だった。
あの超高温の中で、彼女は運良く生き残っていたのだ。



552:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:28:06.20 ID:8EfekdEx0
  
(;^ω^)「これが……クーさん?」

('、`;川「『J』さんの恋人だった人の屍……」

二人はゆっくりと後ずさった。
それまで、屍を目の当たりにしていた彼らでも、彼女の凄惨な姿には目を背けたくなった。
そして、彼らとは対照的に三人の戦士が前へ出る。

('A`)「……ここは俺が」

(`・ω・´)「いやいや、私が……」

(*゚ー゚)「いえ……私が」

('A`)(`・ω・´)「どうぞどうぞ」

Σ(;*゚ー゚)「えっ!?」

何故か彼らはコントをしていた。
しかし、それを押し退けるように『J』が足を進めた。
  _
( ゚∀゚)「悪いが……俺がやる。こればっかりは俺の問題だ。決着を付けなければいけない」

彼は、かつての恋人だった屍に歩み寄りながら言った。

('A`;)「……大丈夫なのか?」
  _
( ゚∀゚)「……」

心配するドクオの言葉に、彼は短く「ああ」とだけ返した。



555:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:29:47.47 ID:8EfekdEx0
  
そして、二者は再び対峙した。
爪を前に出し滲み寄るクーに対して、『J』は構えを取ることなく自然体で立っていた。
  _
( ゚∀゚)「すっかり変わっちまったな。あんなにキレイだったのによ……」

川 ;;。V听)「グ……ガ……」
  _
( ゚∀゚)「……辛い思いをさせちまって済まないな。全部俺が不甲斐ないせいだ」

彼は穏やかな声で、言った。
  _
( ゚∀゚)「実はな、つい前まで……俺はお前に喰われることが最大の報いだと思っていたんだ」

川 ;;。V听)「グ……グ……」

クーは、大きく口を開いて涎を溢しながら彼を喰い殺すために近づいてくる。
それでも、彼はそのままの姿勢で続けた。
  _
( ゚∀゚)「でもな、もしお前が生きていたら、情けない俺の姿を見たとたん、俺の頬を引っ叩くだろうな。
     俺は……お前の事だったら何でも知っているぜ。
     お前の好きな花。お前の好きな歌。お前の好きな事なら何でもだ」

川 ;;。V听)「グアアアアアアアッ!!!!」
  _
( ゚∀゚)「だからきっと、今生きていたらこう言うと思うんだ。『私を止めてくれ』……ってな」

屍は既に駆け抜けていた。
砂埃を巻き起こす程の勢いで彼に迫る。
  _
( ゚∀゚)「もう、俺は逃げない。……しっかりと受け止める。……決着を付けるんだ……だから――」



558:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:32:25.32 ID:8EfekdEx0
  
屍が猛スピードで己の間合いに入る。
数十センチまで近づき、彼の腹に向かって爪を突き出してきた。

彼はそれでも、動かない。
そして――

「ギッ……」

彼女が爪を突き立てるよりも早く、彼は彼女の腹に左拳を突き立てた。
それはいとも簡単に腐った肉を貫き、内臓にまで届いた。
彼の義手に感覚は無い。
だが、彼女の体内に流れる血液は、何故か彼には温かく感じられた。

最後に、喉の奥から声を絞り出して言った。

「――さよならだ」

彼の左拳は輝きを帯びた。
暖かくも悲しげな、そんな儚い輝きだ。
そして、金属の鼓動を彼女の身体全体へと伝えるように、彼は拳を強く握った。

「ギアアアアアアアアアアッ!!!!」

彼女の腹部から発光が拡がっていく。
光は同時に彼女の身体を溶かし始めた。
四肢を必死に動かし、もがきながら抵抗しようとするが、それすらも間に合わない速度で蒸発が進み、

「ッ――」

彼女が最後の言葉を発した瞬間、遂に彼女の身体は完全に消え去ってしまった。



560:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:34:06.34 ID:8EfekdEx0
  
  _
(  ∀ )「……」

(;^ω^)「……ジョルジュさん?」

('A`)「ブーン……」

屍が完全に消えた後も、『J』は無言で立ち続けていた。
それを心配したブーンは声を掛けようとしたが、ドクオが彼の肩に手を置き首を横に振ってそれを制止する。

(´・ω・`)「とりあえず、そっとしておこう……ともかく屍はあらかた片付け終わったんだ。
       これで長かったこの世界の……ん?」

ショボンが途中で口を止める。
それは、足元に小さな揺れを感じたからであった。

彼が「地震かな」、と声に出そうとした――その矢先だった。

(;^ω^)「うわああああああっ!!!!」

突然、地面が突き上がるような、激しい振動が彼らを襲った。
逃げる暇すら与えられないほどの唐突な揺れだった。

('、`;川「きゃあああああっ!!!!」

突然の地震に全員はその場に倒れこんでしまった。
揺れは、容赦なくアスファルトを幾つにも裂き、辛うじてその形を残していた建物の数々を震い倒していく。

(;`・ω・)「これはッ!?」



565:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:36:13.57 ID:8EfekdEx0
  
そんな中、彼等は不気味な光景を目の当たりにした。

『グアアアアアアアアアアッ!!!!』

地獄の底から鳴り響くような唸り声と共に、地面から焼け残った屍のものと思われる体の一部が出現した。
それは臓器なのか、筋肉なのか、骨なのか、皆目見当が付かない程に原型を留めていない。

そして、それの一部一部が意志を持っているかのように動き出した。
肉片はある一点に向かって動いているようであった。

ある程度の数が集まりだすと、今度は折り重なるように融合していく。
まるで、赤と黒の緑の蛆虫が糞の山に群がって大きな塊を造りだす、そんな気味悪さを感じさせる光景だった。

(;´・ω・)「ここは危ないッ!! 逃げるんだッ!!」

ショボンは叫んだ。
その声につられるように、その場に居た者は全員瓦礫と揺れに転びそうになりながらも懸命に避難する。

彼等も本能で感じ取っていた。
言葉で言い表せないほどの、危険な、恐ろしいものがこの場にやってくる。
そう思うと走らずにはいられなかったのだ。

(;^ω^)「ハアッ……ハアッ……」

『バーボンハウス』から離れるにつれて、揺れは次第に弱くなっていった。
気がつけば二キロ以上の距離も走っていた。
しかし、ショボンの『断駒』のお陰で逃げ遅れた者は誰一人居ない。

そして地震の被害が及ばない所にまで来ると、彼らは元居た方角を見上げた。



571:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:37:56.18 ID:8EfekdEx0
  
  _
(;゚∀゚)「何だよありゃあ……聞いてねえぞ……」

('A`;)「馬鹿な……屍は全滅させたはず……」

(;*゚ー゚)「嘘……」

そして一同は括目した。

それはまさに『絶望』を形にしたものであった。
もはや、『屍』という言葉では表現できる程の存在ではない。

純粋に巨大であった。
その高さは周りの建物と比較しても頭一つ分大きい。
具体的に言えば百メートル程はあるだろうか。

地に己の身体を支えるかのように、然りと四肢を伸ばしている。
天を二つに裂くかのように、氷山のように鋭い牙を向けている。
それに近い形状を挙げるならば、獣。
虎や獅子の肉食獣に似ていた。

だた唯一違っているのは、赤と黒と緑が複雑に絡み合った色であることだ。
名称を付けることが出来ないような狂気を帯びた、そんな色を全身に纏っていた。

『グアアアアアアアアアッ!!!!』

喉という器官が存在しているかどうかすら怪しいが、腐獣は遠吠えの如く顔をあげて、唸った。
その振動は二キロ離れた、現在彼らが居る地点にまで押し寄せてくる。



575:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:39:51.63 ID:8EfekdEx0
  
(;´・ω・)「!! おい『J』!? 一体何をするつもりだ!?」

腐獣に気を取られてショボンは気づかなかったが、彼の横で『J』は何かをしようとしていた。
  _
(♯゚∀゚)「許せねえ、あの身体を造っている屍の一つ一つだって……こんなの望んじゃいねえッ!!!!」

彼は左腕を腐獣の方角へ向けている。
いつの間にか彼の義手は再び筒状に変わっていた。
ショボンが止める間も無く、彼は吼えた。
  _
(♯゚∀゚)「『Type-Cannon』ッ!! 喰らいやがれッ!!」

(;´・ω・)「よs――」

技の発動と同時に、彼らの居た空間は轟音に埋め尽くされる。
赤い閃光は義手が沸騰しかねない程の熱を帯びながら、腐獣の頭部に向かって一直線に放出された。

そして、一瞬の溜めの後、腐獣の身体よりも赤い炎が命中点を包み込んだ。

『グガアアアアアアアアアアッ!!!!』

腐獣は苦しむように声のような音を上げる。
だが、それだけであった。

('A`;)「……効いて、ない?」

彼の怒りの炎は、腐獣の皮一枚を焼いただけである。
焼け爛れた皮膚は脱皮するようにずるずると、煙を上げて剥けてゆく。
皮の中からは、平然とした様子の腐獣の中身が顔を出してきた。



578:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:41:33.51 ID:8EfekdEx0
  
(;´・ω・)「まずいね……『J』の『Type-Cannon』も効かないとは……」
  _
(♯゚∀゚)「畜生!! こうなれば至近距離でぶちかましてy」

(;´・ω・)「ちょっと待った」

怒って腐獣の元へと駆け出そうとする『J』の襟首をショボンは思い切り掴んだ。
『J』の足は空を駆け抜け、そのまま地面に背中をぶつけて倒れる。
  _
(♯゚∀゚)「何しやがるんだ!! 絶対奴をぶっ飛ばすから止めんな!!」

仰向けになりながら『J』は足をじたばたさせて言った。

(;´・ω・)「近くで撃っても威力は変わらないよ。それよりも策を練るべきだ」

ショボンは『J』をたしなめる。

その横で、腐獣は街を闊歩し始める。
動くと同時に、人間も建物も瓦礫も関係なく、次々とその大口を開けて飲み込んでいった。
攻撃を受けても、こちらの方を無視して全てを食い荒らすその姿はもはや本能すらも残ってはおらず、
純粋にこの世界を破壊する為だけに存在しているようにも見えた。

('A`;)「…ってもどうするんだ? あれだけデカいと手の付けようがないぞ」

(;´・ω・)「うーむ……せめてあれと同等の兵器がこの世界にあれば……
       とはいえ、そんなものは存在しないだろうし」

聡明なショボンですらお手上げの状態であった。
腐獣の力は明らかに彼らの力を超えていた。



581:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:43:16.61 ID:8EfekdEx0
  
(;^ω^)「くそう……ダイヴィッパーがあれば……」

街を次々と破壊していく腐獣の姿を見つめながら、ブーンは歯痒い思いをする。

(;´・ω・)「ッ!? それだ!!」

だが、ショボンはそれを聞き逃さなかった。
そして、閃きと同時に大声を上げる。

(;^ω^)「へ? ダイヴィッパーはここには無いですお……」

彼は当然のように返した。
それが無いから彼は悶々としていたのである。

(´・ω・`)「だったらこっちに呼べばいいんだ……しまった。
      どうしてペンダントの能力が分かった時点で、それを思い浮かばなかったんだ……迂闊だった」

('、`*川「どういうことなの?」

ショボンの言葉が理解できないのか、ペニサスは聞いた。

(´・ω・`)「そのペンダント、もといビコーズが、ペニサスさんをこの世界を呼んだんだろう?
       なら、同じようにそのダイヴィッパーというのを呼べばいいんだ」

('、`*川「なるほどねえ……確かにペンダントなら可能かもしれないけど……
     そのダイ…何とかってのがいまいち想像できないわ」

(;^ω^)「だったら僕も手伝いますお!! 僕がテレパシーでペニサスさんにイメージを送るんだお!!」



586:レースクイーン(アラバマ州) :2007/04/14(土) 04:45:15.72 ID:8EfekdEx0
  
困惑する彼女の横で、ブーンは叫んだ。
彼は、気持ちとは反対に自分が何も出来ないという板挟みに苛まれていた。
だから、彼はここで本気で役に立ちたいと思ったのだ。

('A`;)「しかし、空間をねじ曲げて巨大なメカを運ぶなんて……できるのか?」
  _
(;゚∀゚)「よくわかんねえけどよお、それしか方法がないんだろ?」

(´・ω・`)「その通りだ。決して可能性は高くはないが……僕達にはそれしかないんだ」

事実、『J』の『Type-Cannon』が通用しない以上、他に戦う術はない。
藁にもすがる思いでそれをやるしかなかった。

('、`*川「……がんばってみるよ。ブーンちゃん、私の手を握って」

(;^ω^)「おっ……」

二人は手を取り合って目を閉じた。
そして、必死に祈った。
最後の希望を手に入れる為に、不可能を可能にしようとした。

もはや、奇跡を信じるしか無いのだから。

第六話 完



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