内藤小説

3: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:11:29.36 ID:S/AYdx4wO
  
かつて某有名掲示板で絶大な人気を得ていた一人の男がいた 

彼はネットというある意味で闇に覆われた世界で住人達のマスコット的な存在であった 

しかし時は流れ、誰もが彼の存在を忘却の彼方に追いやった 

更にネットの世界での時の流れというものは現実のそれとは比べものにならないほどだった 

古参と呼ばれる一部のネット精通者達の中には時折彼の事を思い出し、彼が今どこでどんな生活を送っているか気に掛ける者もいた
 
しかし、彼の近況を知っている者はおらずいつしか古参達ですら彼の事を口にする者はいなくなった

「彼は今どうしてるんだろう」

最後に「彼」について書き込まれたその文は一つもレスがつかないまま暗く淀んだ底に沈んでいった…



5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:13:11.66 ID:S/AYdx4wO
  

時は2015年

( ^ω^)「…ムニャムニャ…ふわぁ、よく寝たお…」 

男は濡れた鼻をムニュムニュしながら、いつも通り寝起きの一発目を抜こうとした

( ^ω^)「……おっ………おおっ……………………………ぉ…………」

と、絶頂に達しかけたその時

ピンポーン 

郵便屋「内藤さーん、お手紙配達に参りましたー」 

( ^ω^)「ちょ…今……………………アッー」

必死で、興奮を抑えようとしたがぽこたんは言うことを聞かずなんとも不完全な形で事は終わってしまった



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:15:11.83 ID:S/AYdx4wO
  
( ^ω^)「…まだまだ未熟だお」

そう己を戒め、玄関に向かいスコープから郵便屋であることを確認した
 
( ^ω^)「ぬるぽ」

郵便屋「ガッ」

ガチャ

郵便屋「ちゃーす、三河屋でーす」 

( ^ω^)「黙れお。いいからさっさと手紙よこせお」

郵便屋「はいはい。これです」

( ^ω^)「ご苦労さまだお」

郵便屋を早々に追い出し、部屋に戻り手紙の内容を読む

( ^ω^)「差出人の名はっと………平山………………知らんお。誰だお…」



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:16:46.76 ID:S/AYdx4wO
  


手紙の内容はおおよそこのようなものだった 

まず突然の無礼を詫びること。そして、内藤をずっと探していてやっと住所を捜し当てたこと。内藤の家にネットも電話もない故に手紙を使ったこと。そして…


( ^ω^)「明日の晩7時にホテルUHOの1501の部屋でお待ちしています……かお…」


気味の悪い手紙だった。知らない人物から手紙をもらう事自体も気味が悪いし、ずっと自分を捜していた、ということがよりいっそう不気味さを増していた


( ^ω^)「なんか恐いお…うほっとか勘弁してくれお」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:18:43.20 ID:S/AYdx4wO
  
( ^ω^)「とりあえず………抜くお」

わかることは、差出人の平山という人物が昔の内藤を知っていること。内藤を追ってこんな田舎まで来るとはよっぽど内藤に会いたい理由があること

内藤は某有名掲示板から姿を消した後逃げるように住居を転々とし、3年前この地に腰を据えた

田舎すぎるほど田舎で、ネット環境も整っておらず、内藤が人目を忍んで暮らすには絶好の場所だった

なぜ自分は逃げているのか一体何を恐れているのか。それは彼自身にも分からなかったが、とにかく自分が自分で無くなってしまう前に逃げなくてはならなかった。

この数年、内藤は一度も働かなかった。食料の買い出し以外に外を出歩くことは皆無だったといっていい。

食料ですらネットを使えば家から出ずとも手に入ったが、ネットを繋ぐのは同時に逃げられないという事を意味していた。

幸い金銭面での心配は無かった。彼はこの生活をするまでは睡眠も満足にとれない程働いていたし、収入も一生遊んで暮らしていけるくらいあった。



9: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:20:34.72 ID:S/AYdx4wO
  

( ^ω^)「アッー」

( ^ω^)「ふう。やっぱり一度の失敗はでかいお。とりあえず…寝て次に備えるお」

内藤はこの生活を始めて寝てばかりいた。というより寝る以外にすべき事が見つからなかった、と言った方が正しいだろう。いわゆるニートである。しかも童t(ry

( ^ω^)「……ムニャムニャ…ふわぁよく寝たお。もう夜かお…………と思ったら夜明けかおwwwwwニートにはよくあることだおwww」



時刻は朝の5時

5月になったばかりの朝はまだ薄暗さが夜明けを惜しむようにほんのり残っている



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:22:46.77 ID:S/AYdx4wO
  

普段は昼間でも閉めきっているカーテンを開け、窓を開けてみる

( ^ω^)「まだまだ寒いお…」

ふと玄関の方で物音がしたような気がして玄関の方を見やる

( ^ω^)「…気のせいかお……?…」

気のせいだとは思いながらも、何か義務的な事のように感じて玄関に足を運ぶ。寝起きのアレもすっかり忘れて 

( ^ω^)「…これは…」

そこには玄関のドアの隙間に挟まっていたであろう二つ折りの紙が落ちていた



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:24:28.32 ID:S/AYdx4wO
  



「暗闇の中 光の中 あたしを連れ出して 」



紙にはそれだけ書かれていた

( ^ω^)「…………」 

内藤はその字と言葉に見覚えがあった。少し斜めにあがっているクセのある字。

でも決して嫌いじゃなかった、その字。まさか、今ここで見ることになるとは


( ^ω^)「やはり行かなきゃならんかお…」

いくら能天気な内藤でも昨日の手紙を忘れるわけはなかった。そして、今日のメッセージ。何かが動きだしている。それも急激に。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:26:21.87 ID:S/AYdx4wO
  
約束の時間が来るまではやけに長かったように感じた。いや短かったのか、いずれにせよ内藤の心は絶え間なく揺れ動いていた

そのホテルは都内にあるホテルだった。内藤の住んでいる所から飛行機に乗ってタクシーを使って行ってもかなり時間を要した。

( ^ω^)「ようやく着いたお…。平山って一体何者なんだお」 

ホテルUHOは高級ホテルである。内藤は豪華なロビーを足早に通り抜け、エレベータに乗って15階のボタンを押した



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:28:41.52 ID:S/AYdx4wO
  
( ^ω^)「1501、1501っと」

廊下を歩きながら内藤は平山という人物について考えていた。自分に会いたがる人物……そんな人がいるとは思えなかった。自分はもう誰からも必要とされなくなった。だからこそ今の生活を選んだ。 

それから、今朝の手紙も気掛かりだった。あの言葉を知っているのは自分を除いて一人しかいない。その人が今回の事に関わっているのは間違いないだろう。

( ^ω^)「お?1501…ここかお」

ドアにノックするのを一瞬躊躇した。一度この扉の向こうに行けば、今の生活には戻れない様な気がした。


「暗闇の中 光のなか あたしを連れ出して 」


その人が中にいるんじゃないだろうか。自分を呼び出す為に平山という偽名を使って………



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:30:51.79 ID:S/AYdx4wO
  

ガチャ

鍵をあける音

内藤はまだノックすらしていない

そして扉が開く

そこに見えた顔は――― 

( ^ω^)「…ド…ドクオ……?……」

('A`)「……な…内…藤…………か……?」

内藤は想定外の人物に驚いたが、ドクオも相当面食らったようだった

( ^ω^)「ドクオ……なんでキミがここに……?もしかしてキミが…」


('A`)「…それはこっちの台詞だぜ…今まで連絡ひとつよこさないで…いや、そんな話は後だ。とりあえず入れ」

( ^ω^)「………」



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:32:25.15 ID:S/AYdx4wO
  
ドクオに促されて部屋に入る。内藤は顔はいつもの笑顔のままだったが、頭は激しく混乱していた。なぜドクオが…。ドクオが平山…?

('A`)「違う、俺じゃあない」

まるで内藤の考えを見透かしているかのようにドクオが言う

( ^ω^)「違う?僕に手紙を出して呼び出したのはドクオじゃないのかお?」

('A`)「違う。……お前は何という名の奴に呼び出されたんだ?」

( ^ω^)「平山という奴だお。ドクオはなんでここに居るんだお?」



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:34:28.10 ID:S/AYdx4wO
  

('A`)「ふぅ…ったく、どうやら俺たちは同じ誰かさんに踊らされてるようだな」

( ^ω^)「って…ドクオも平山とかいうやつに呼び出されたのかお?」

('A`)「あぁ。ご丁寧に手紙を送ってきてな」 

( ^ω^)「そうかお…平山って一体誰なんだお?」

('A`)「さぁな、俺にも心当たりはない」 

( ^ω^)「平山はまだ来ていないのかお。もう約束の7時になるお」 

('A`)「7時?俺に来た手紙には6時30分って書いてあったぞ」 

( ^ω^)「…なんだおこの差の30分は…。ドクオが来たときにも誰もいなかったのかお?」 

('A`)「あぁ。といっても俺が着いたのはお前が来る2、3分前だったがな」

( ^ω^)「お得意の遅刻かお。もう帰ったんじゃないかお?」


('A`)「本当に会いたいのなら帰る筈はないだろう。」

( ^ω^)「まぁ一理あるお」

('A`)「まぁでも確かに妙な話だ。お前の方にはどんな手紙が届いたんだ?」



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:36:02.51 ID:S/AYdx4wO
  

内藤は自分に来た手紙の内容を出来るだけ正確に伝えた。ただし、今朝の手紙の事は言わなかった。なぜかそうした方がいいと思ったのだ。

一通り説明し終えるとドクオはただでさえ難しい顔をいっそう難しくして何か考えているようだった。

そして顔を上げ、立ち上がるや冷蔵庫からビールを二缶取出し、一缶を内藤に放り投げる 


( ^ω^)「?…急にどうしたのかお?」



20: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:37:36.10 ID:S/AYdx4wO
  

一気にビールを飲み干してふぅ、と一息ついてからドクオが答えた

('A`)「いくら待っても平山なんて奴は来ねーよ」

( ^ω^)「kwsk」 

('A`)「ただの悪戯だよ、コレは。んで、俺もお前も見事に釣られたってわけだ」


( ^ω^)「ク、クマー……じゃないお。悪戯にしては手が込みすぎてるお」

ドクオは二本目のビールのふたをあけ、半分ほど喉に流し込んだ


('A`)「世の中にはそういうのを生き甲斐にしている奴もいるもんさ。ま、大方大昔に潰れたvipの残党ども仕業だろうよ」



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:39:22.06 ID:S/AYdx4wO
  

( ^ω^)「…そうは思えないお。僕が今住んでいる所なんて簡単には調べられないお」

('A`)「…そういえば、お前…一体今どこで暮らしてるんだ?」 

( ^ω^)「…辺境の地…みたいな所だお」

('A`)「そうか…いや言いたくないんだったらいいんだ。俺だって自慢できるような暮らしぶりじゃないしな」


( ^ω^)「………」

('A`)「…………」 

( ^ω^)「でも確かに平山が来る気配はないお。…悪戯……かお…」

('A`)「そうだって。お前の住所にしても、役所の人間は把握しているしその人を介すれば調べるのは容易いことさ」

( ^ω^)「…確かにそうだお……」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:40:46.47 ID:S/AYdx4wO
  


内藤は何か腑に落ちないものを感じていた。平山…例えそれが悪戯だったとしても、今朝の手紙はどうだ。

あの言葉を知っている者は自分以外には一人しかいない。あのタイミングを考えると平山の事と無関係とは考え難い


('A`)「ったく、何を笑顔でごちゃごちゃ考えてるんだ。そういうところは昔と全く変わってないな」

( ^ω^)「ちょww別に笑顔じゃないおw」



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:42:00.50 ID:S/AYdx4wO
  

こんなに人と会話をしたのは何年振りだろうか、人と顔を会わすのが嫌で、家から出ない生活を送ってきたのに、人と会話するのをこんなに楽しんでいる自分はなんだろう。

久しぶりかに再会した懐かしさのせいだろうか


( ^ω^)「ドクオも変わってないお。どうせ未婚だろうおw」

('A`)「('A`)」 

('A`)「俺の事はいいんだ。お前はどうなんだよ?」 

( ^ω^)「魔法使いになるかもわからんね」

('A`)「ちょwwwwwwwwww」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/10/02(月) 12:43:29.73 ID:S/AYdx4wO
  

二人ともすっかり平山の事など忘れて昔のように笑い転げていた。それでもお互い昔の事には触れず、また現在の事も話題を選んで喋っていたが、ドクオが切り出すように言った

('A`)「……ふぅ…昔はいつもこんな感じだったな…」

('A`)「過去も未来も何も考えず、ずっと人気者でずっとこのままでいられるつもりだった…」 

( ^ω^)「ドクオ…」



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