内藤小説
- 41: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:22:52.77 ID:xbcHOmWmO
(´・ω・`)「変わってないな、ここは」
仮眠から目覚めたショボンは『ヘヴン』に来ていた。
ドアを開けて店内に入ると昔とほとんど変わっていない様子に懐かしさを覚えた。
時間が少し早いせいか客はまばらだった。ショボンはカウンター席に腰を下ろし、テキーラの水割りを頼んだ。
バーテンやボーイは当時とは全員変わっているようだ。といってもショボンが働いていた当時バーテンはショボンとモイヤーで充分だったし、ボーイもアルバイトだったから当然だが。
- 42: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:24:07.90 ID:xbcHOmWmO
(´・ω・`)「モイヤー…」
いやがおうにも思い出す。一ヶ月前に亡くなったモイヤーの事を。
ここへ来る前、一ヶ月前の新聞などで調べてみた。聞いた通り死因は薬物の大量摂取によるショック死だった。
しかし彼はドラッグなどに手を出すような愚か者ではなかった。
テキーラの水割りが運ばれてくる。ショボンはボーイに声をかけた。
(´・ω・`)「ちょっといいかな」
ボーイ「はい。何か?」
(´・ω・`)「僕はタイムス紙の記者なんだが、モイヤーさんの事について聞きたい事があるんだ」
ボーイは一瞬驚いたような顔を見せたがすぐに取り繕ってみせた。
ボーイ「どのような事で?」
- 43: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:27:04.03 ID:xbcHOmWmO
(´・ω・`)「彼は薬物により亡くなったそうだが彼は普段から薬物を使っていたのかな?」
ボーイ「プライベートな部分までは把握しておりません」
義務的な受け答えだ。面倒な事に関わりたくないという表情が顔に出ていた。
(´・ω・`)「そうかい。実は彼とは個人的な付き合いがあったもんで、どうしても彼が薬物を使用したとは思えなくてね」
付き合いがあると聞いて安心したのかボーイの顔が少し緩む。
ボーイ「そうでしたか。…実は僕もモイヤーさんがあんなことをするとは思えません」
(´・ω・`)「ふむ。そうか」
- 44: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:28:34.02 ID:xbcHOmWmO
ボーイ「…もしかしたら他殺なんじゃないでしょうか?職業柄、変な事に巻き込まれたり…」
(´・ω・`)「心当たりはあるのかい?」
ボーイ「…殺されるような事はないと思います」
(´・ω・`)「そうかい」
ボーイ「あの…記者だったら何か知ってるんじゃないんですか?教えて下さい!」
(´・ω・`)「…いや実際に薬物反応も出てるわけだし外傷もない。疑う余地はないよ。下手に首を突っ込まない事だね」
ボーイ「………」
ショボンは代金とチップをボーイに渡し、店を後にした。
- 45: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:30:29.11 ID:xbcHOmWmO
――――――――――――
その男はいつものように大きな窓から見える下の世界の景色を眺めていた。
「ようやくここまではい上がって来たんだ…」
営業の外回りで汗だくになりながら歩き回るサラリーマンが小さな虫のように見えた。
いや、実際彼らは虫なのだ。働きアリとなんら変わりがない、それでいて自分は特別な人間なんだと信じ込んでいる哀れな生き物だ。
今まではそいつらと同じだった。自分の目線に見えるものが全てだと思っていた。
だが今は違う。こうして登りつめ下の世界を見下ろす。見えなかったものが見えてくる。見たいものを見る事が出来る。
だからこそこの場所は譲れない。邪魔をするもの自分を脅かすものは排除しなければならない。
モイヤーと同じ様に。
- 46: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:36:38.35 ID:xbcHOmWmO
「…世の中は馬鹿で溢れている」
男はそう呟くと、今日何本目かの葉巻に火をつけた。
無意識の内にもイラついているのだろう。それもこれも思うように事が運ばないせいだ。
もしこの件で下手をうったら間違いなく放り出されるだろう。命すらも危うい。
ターゲットの抵抗は予想外だった。ここまで引っ張ったせいでCIAも尻込みをし始めた。もともとCIAにはそれほど期待してはいなかったが。
しかしCIAの情報網が使えなくなるというのは痛い。
もう一つの誤算はターゲットの一人を逃した事だ。これは本当に頭が痛くなった。
だが、まだそう切迫した事態でもない。今からでも充分に理想的な終わりに持ち込める。
この地位と権力、この会社の情報と技術、そして己の力がある限りそれは絶対だ。
コンコン、
「入れ」
秘書「おはようございます、レインズ常務」
レインズ常務と呼ばれた男は挨拶も返さず、窓の外ばかりを見つめていた。
- 47: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:39:12.26 ID:xbcHOmWmO
- ちょっと散歩でもするかい?
とあいのり風に誘ってきたのはハマーだった。
この三人を残して行くというのも不安だったが結局ハマーの腕力には敵わなかった。ずるずると引っ張られるようにして連れ出された。
ハマー「あ、見て!虹!きれーい!」
('A`)「ねーよ!」
ハマー「HAHAHA!まぁそうカッカしなさんな」
('A`)「悪かったな」
ドクオが流暢な英語でハマーと会話をして………れば良かったのだが、流暢なのはハマーの日本語だった。
※注
前回、ドクオが皆に向かってやハマーと話している描写がありましたが、あの時はドクオの日本語をツンか武田が超同時通訳をしていたのです。
- 48: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:40:52.83 ID:xbcHOmWmO
ドクオが理由を尋ねると、ハマーはニヤッとしてごまかしていたがおそらく裏の仕事で覚えたんだろうと思った。
('A`)「話したいことがあるんじゃないのか?」
ハマー「HAHAHA。それはおまえさんだろう?」
('A`)「ぁん?」
ハマー「顔に書いてあったぞ。ハマーさん、僕解らない事だらけなんで教えて下さい!、ってな」
('A`)「へぇ」
ハマー「顔に出るようじゃまだまだだな」
('A`)「そりゃあんたらプロと比べたらな」
ドクオは煙草に火をつけた。ハマーにも勧めたが、禁煙してるんだ、と断られた。
- 50: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:45:34.09 ID:xbcHOmWmO
('A`)「…ジュディの事でちょっとな」
ハマー「ツンから聞いたか」
('A`)「あぁ」
ハマー「あいつがカーターを殺したとは思わんが、CIAだという線はかなり信憑性がある」
('A`)「CIAならカーターという人を消したという線も強いだろうが」
ハマー「まぁ…な」
('A`)「歯切れが悪いな。私情に流されているのはツンだけじゃないみたいだな」
ハマー「HAHAHA…その通りだ」
- 51: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:47:24.36 ID:xbcHOmWmO
('A`)「…ジュディがCIAだという情報元は信用出来るのか?」
ハマー「確かな筋だ。100パーセントとは言わないがな」
('A`)「そうか…」
どうやらジュディは相当したたかな人物らしい。CIAだというのが確かならいつ捕えられてもおかしくない。
しかしショボンも言っていたようにCIAがどう出るかはまだ分からない。現に今の所は何の動きもないようだ。
('A`)「とにかく今は様子を見るしかないか」
ハマー「そうだな。実際、CIAが動いて来たら抵抗のしようもない」
('A`)「確かに。……まぁなるようになるか…」
半ば諦めた様にそう口にしたドクオとハマーは武田亭に戻る事にした。
- 53: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:50:43.59 ID:xbcHOmWmO
時間にして30分くらいだろうか。ドクオとハマーは散歩を終えて武田邸帰ってきた。
('A`)「ん?」
ハマー「どうかしたか?」
後ろから歩いて来たハマーが尋ねる。
('A`)「……あいつらの靴がない」
ハマー「おかしいな」
('A`)「ちょっとガレージを見てくる。あんたは部屋を見に行ってくれ」
ハマー「わかった」
思わずハマーも険しい顔つきになる。
- 54: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:52:15.21 ID:xbcHOmWmO
嫌な予感がする。
ドクオは急いでガレージへ向かった。普段なら武田の車が置いてあるはずだ。
('A`)「!!」
車のないガレージは文字通りもぬけの殻だった。
家の玄関に戻るとちょうどハマーが出て来た。
ハマー「…やられたか」
('A`)「……荷物は?」
ハマーは答える代わりに両手を上げ肩を竦めるアメリカ人独特の動作をした。
('A`)「あぁ…なんてこった…」
ドクオは自分の甘さを心底呪った。
- 56: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:53:54.93 ID:xbcHOmWmO
ξ゚听)ξ「…どこへ行くの?」
ジュディ「………」
ジュディはまっすぐ前を向いて運転している。
こんな時なのにも関わらず、彼女の横顔を見て美しいなとツンは思った。
武田「安全運転で頼むよ。この車高かったんだから」
ジュディがCIAとも知らず呑気なものである。
なんとも言えない沈黙と先程まで武田が食べていたピザポテトの匂いが車内に充満する。
- 57: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 00:56:52.70 ID:xbcHOmWmO
ドクオが心配しているだろうな。
車がないのだから追い掛けて来てくれるはずもない。
家から抜け出す直前、ジュディは携帯電話で連絡をとっているようだった。ツンも耳をすませて聞いてみようと試みたが駄目だった。
それから急にジュディが荷支度するように言い。車に乗せられた。
無論、ツンも武田もはいそれと支度したわけではない。
拳銃を突き付けられたのだ。
こうなっては言う事を聞く他はない。ツンはなるべくゆっくりとやったが、ドクオたちは間に合わなかった。
- 58: ◆P.U/.TojTc :2006/10/11(水) 01:00:48.62 ID:xbcHOmWmO
またツンが口を開く。
ξ゚听)ξ「ジュディ、あなた…」
その先の言葉を飲み込んだ。やはりジュディを信じたい。今ここで裏切りの言葉を聞きたくはなかった。
ジュディは未だ黙ったままだ。
ツンは目を閉じた。
ドクオ、ショボン、そして内藤の顔が浮かんでくる。ショボンと内藤の顔は昔のあどけないものだ。
二人とも今どんな顔になっているんだろう。
もしかしたら捕まっている内藤と会えるかもしれない。
それが運命なら運命を待つだけだ。
ツンは自分にそうけじめをつけ、目を閉じたまま黙る事にした。
車内には誰かさんがガチャガチャと二つ目のピザポテトの袋を開ける音が響いた…
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