内藤小説

32: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:40:06.39 ID:UwO5QGXeO
  

ショボンがテキーラのボトルを空けて杯に注いでる時だった。

電話の呼び出し音が部屋に響く。テキーラをグイッと煽って頭をはっきりさせてから受話器を取り上げる。

(´・ω・`)「もしもし」

(`・ω・´)『おぉ。弟か』

(´・ω・`)「兄さんか。どうしたの?」

(`・ω・´)『ドクオから連絡はあったか?』

(´・ω・`)「いいや」

(`・ω・´)『そうか。じゃあドクオが狙われた事も知らないんだな?』

(´・ω・`)「!!ドクオは!?」

(`・ω・´)『大丈夫らしい。さっきも電話があったから大丈夫だろう』



33: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:42:37.89 ID:UwO5QGXeO
  

(´・ω・`)「良かった…。相手は?」

(`・ω・´)『流石兄弟だと思う』

(´・ω・`)「流石兄弟…最悪だね」

(`・ω・´)『あぁ。俺も助けるつもりだったんだが、どうも一人で迎え撃つらしい』

(´・ω・`)「困ったなぁ」

(`・ω・´)『まぁあいつはあいつで裏の繋がりもあるだろうからな』

(´・ω・`)「そうだね…」

(`・ω・´)『おぅ。それだけだ』



34: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:45:13.47 ID:UwO5QGXeO
  

(´・ω・`)「あ、兄さん。ちょっと頼みたい事があるんだけどいいかな?」

(`・ω・´)『なんだ?』

(´・ω・`)「荒巻さんの近況を調べて欲しいんだ」

(`・ω・´)『?荒巻ってあの、お前達が昔会ってた荒巻スカルチノフさんか?』

(´・ω・`)「そう。元防衛庁長官の」

(`・ω・´)『わかった。分かったらまた連絡するじゃあな』

(´・ω・`)「助かるよ。気をつけてね」

(´・ω・`)「ふぅ…」

受話器を置くと、ショボンはまた資料に目を通す為にテキーラを口にした。



35: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:46:49.74 ID:UwO5QGXeO
  

時計の針は夜の9時を指していた。窓のないこの部屋では時計だけが時間の流れを知る唯一の道具だ。

思えば、随分長い間家に帰っていない。これほどの間監禁されたのは初めてだ。いつだったか、ドクオが二ヶ月程監禁された事があったがよく耐えたものだと思う。

それに今は一応保護という名目があるのだから監禁ではなく軟禁なのかもしれない。

ドクオは先程から死んだように眠り込んでいる。よほど疲れが溜まっていたのだろう。そこを自分が質問攻めしたのだから尚更だ。

( ^ω^)「……ツン」

ドクオのたどたどしい説明でも事情はある程度把握した。ツンは今CIAに拉致されている。ポジティブに考えれば保護なのかもしれないが、どうしてもネガティブな方向に考えてしまう。



36: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:50:15.92 ID:UwO5QGXeO
  

昔は周りからはやたらと脳天気だとか前向きだとか言われていたが、元々本性は根暗でネガティブだ。ここ数年は顕著にその傾向が出ている。

今ツンは一体何をしているのだろうか。ご飯はちゃんと食べさせて貰っているのか。睡眠は満足にとれているのか。暴力を受けていないのか。ちゃんと生きているのか。

( ^ω^)「ツン…会いたいお…ツン…」

自分は今何をするべきなのだろう。そんなの決まっている。


( ^ω^)「ツン、すぐ…助けに行くお」



37: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:53:28.99 ID:UwO5QGXeO
  

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

瞼が重い。それでなくてもそこの部分の筋肉はないというのに。


(´・ω・`)「ここか。流石に立派なお屋敷だ」


その門構えといい、敷地の広さといい気を引きしめるのには十分な威圧感がある。疲れた身体に鞭を打つとはよく言うが、これはこれで中々である。

インターホンを押すと、女中さんらしき人の声が聞こえてきた。失礼にならない程度に適当な挨拶をして名乗ると、話は通っていたらしく門が重々しい音をたてながら開いた。



40: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:56:07.30 ID:UwO5QGXeO
  

敷地内に足を踏み入れると、料亭にあるような日本庭園の景色が眼前に広がった。

大分長い距離を歩いていくとようやく玄関にたどり着いた。そこには日本家屋には似合わない黒服の男が立っており、ショボンが何も言わずとも部屋な中を案内してくれた。

そして1番奥の部屋の前まで案内すると男は去って行った。

ショボンはその場にひざまづいて扉越しに声を掛けた。

(´・ω・`)「ショボンです」

中からは何も反応がない。入っていいという事だろうか。



41: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/10/31(佐賀県警察) 23:58:33.88 ID:UwO5QGXeO
  

(´・ω・`)「失礼します」

扉を開けるとヤクザの組長の部屋のような雰囲気だった。黒いソファーに黒いテーブルと黒いデスク。その向こうの黒い椅子にはこちらに背を向けて男が座っている。

「……来たか」

こちらの顔も見ずに男はそう言った。

(´・ω・`)「お久しぶりです。……荒巻長官」

/ ,' 3 「元……だ」 

振り向いた顔には以前と比べて皺は増えていたが、それが彼の威厳を更に強くしているように感じた。



43: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:01:29.12 ID:V+dooPVkO
  

ドクオと連絡がとれなくなって三日が過ぎた頃、ショボンは日本に戻って来ていた。ツン達の行方は相変わらず分からないままだった。

シャキーンが調べてくれたおかげで荒巻の居場所は把握する事が出来た。ツン達の事も気になるがどうしても荒巻に会って確かめなければならない事がある。

それにドクオも気掛かりだ。流石兄弟に狙われたらしいが、今頃どうしているのか。最悪のケースも考えられる。

その為ショボンはなんとか荒巻にアポを取り付け、こうして荒巻に会っている。

/ ,' 3 「それで用件はなにかね?」

(´・ω・`)「貴方もお人が悪い。今何が起こっているのか全て把握しているのでしょうに」



44: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:03:49.56 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「ふぉっふぉっ。相変わらずだのぉ。外見はいくらか歳を取ったが」

(´・ω・`)「僕もいい歳ですからね。それより貴方が知っている事を教えて頂きたい」

/ ,' 3 「私は何も知らんよ」

(´・ω・`)「そんなはずはない。第一、これは貴方の身の危険にも関わっている」

/ ,' 3 「……」

(´・ω・`)「だから貴方はここに身を潜めている。違いますか?」

/ ,' 3 「ただの骨休めじゃよ」

(´・ω・`)「この存在してないはずの建物で、ですか?」

/ ,' 3 「ふぉっふぉっ。どこから情報を仕入れた?」

(´・ω・`)「ちょっと深く探れば出てきますよ。つまり、洩れてるって事です」



45: 【大吉】 ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:05:43.84 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「ふむ。それで?」

(´・ω・`)「貴方の事を疎ましく思っている奴らが貴方を消そうと思えば消せるんですよ」

/ ,' 3 「だから協力しろと?」

(´・ω・`)「利害は一致してます」

/ ,' 3 「だが、今の私には組織を動かす程の力はないぞ」

(´・ω・`)「そんな事を期待していませんよ。ただ、貴方とライブテンファンド社の関係についてお聞きしたいだけです」

/ ,' 3 「…やれやれ。もう面倒には関わりたくないと思っておったんじゃがな…」


荒巻は葉巻をくわえると過去の事を語り出した。



46: 【豚】 ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:07:17.35 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「もう25年くらい前になるかの…」

私はロシアの軍事兵器開発総合研究所におった。

名前を見ても分かる通り私は日本とロシアのハーフで生まれた。日本で生まれ日本で育ったのだが、時代が時代だ。環境は決していいものではなかった。

そして…まぁ色々とあり私は日本に居ながらロシアの諜報員となっていた。その後だな、ロシアの軍事兵器開発総合研究所に研究員として配属されたのは。

そこにはまぁただならぬ事情を抱えた人間が集まっていた。しかし、同時に政府にとって都合のいい優秀な人間ばかりでもあった。



47: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:09:40.21 ID:V+dooPVkO
  

その頃のロシアと言えば、核の開発にやっきになっていたよ。研究員達もそれ相応の見返りは約束されているからな。

朝も昼も夜も、とにかく働いた。そんな時だったよ、二人の男と出会ったのは。モイヤーとレインズだ。モイヤーとはすぐに打ち解けた。彼もまたハーフだったし、何よりも愉快な奴だった。

レインズとは中々打ち解けるのに時間がかかった。まぁ後になって考えるとそれも当然だ。

奴はアメリカのスパイだった。どうやってここの研究員になれたかは知らないが、まぁアメリカがバックに居たのだから不思議でもない。



48: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:13:02.55 ID:V+dooPVkO
  

勿論スパイが同僚に自分はスパイだ、などと公言するのはタブー中のタブーだ。しかしレインズがそれを言ってしまう程に私達は仲が良くなっていた。

私達が置かれていた環境のせいもあるだろう。放射能に怯えながら研究をするというのは特異な状況だ。その中で何でも話せる友人を持つというのは私達にとって新鮮であった。

レインズの告白に私もモイヤーも驚きはしたが、それを咎める気持ちは毛頭なかった。むしろその告白によって絆が深まったといってもいいだろう。

ちょうどその頃だったよ、私に日本の工作員が接触してきたのは。

意味は分かるだろう。二重スパイだ。私はロシアの諜報員としての活動こそあまりしていなかったが、意味としては二重スパイだ。

私は悩んだ。

しかし、答は一つしかない。日本のスパイとして生きていくという選択しかな。



49: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:16:12.41 ID:V+dooPVkO
  

モイヤーにもレインズにも言えないまま、何年も研究を続けた。お国の為、命の為に。

そしてその日は来る。研究所を脱走して、データを日本に持ち帰る日が。それがどういう事か。モイヤーもレインズも裏切り、そして私と仲の良かった彼らの命を危険に晒すのだ。

スパイとしての宿命だ。レインズもスパイだが、彼のバックはアメリカだ。核の生産は自国で出来る環境にあった為、レインズの仕事は報告だけであった。
対して当時の日本には核を作る能力はなく、どうしても私自身がデータを持ち帰り、生産に当たるしか方法はなかった。

私は日本の指示に従って脱走した。

そして成功して日本に無事帰り着く事が出来た。それからは言うまでもなく、核開発に専念したのだ。



50: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:19:36.64 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「とまぁ、私と彼らの繋がりはこんなものじゃな。そして…」

(´・ω・`)「僕達が狙われる原因となる出来事」

/ ,' 3 「そう。覚えているかな?君達を連れて行った時の事を」

(´・ω・`)「もちろんです。どう考えてもそこにしか原因は見当たらないですから」

/ ,' 3 「とんだとばっちり…と思っているかね?」

(´・ω・`)「まぁ僕らも認識が甘すぎましたし、国の依頼という事で浮かれてもいましたね」

/ ,' 3 「ふぉっふぉっふぉっ。君らには直接関係のない事だからな」

(´・ω・`)「あの時の事も話して貰えますね?」

/ ,' 3 「いいだろう」

そう言うと、何本目かの葉巻に火をつけてゆっくりと語り出した。



55: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:38:44.38 ID:V+dooPVkO
  

私が研究所を脱走した後、モイヤーとレインズも脱走したと風の便りで知った。

当然だろう。データを持ち出した私と親しかっただけでなく、レインズもスパイなのだからあそこに居続けられるはずもない。

私が脱走したのが2000年の事だ。そして、私と君達とでロシアに行ったのが2003年だったかな。

当時、私は今は亡き外相の付き添いとして同行した。君達を連れて行ったのも私の提案だった。マスコミはNGだと言う向こうに無理矢理飲ませた条件だ。

当時のショボン君達は下手をしたらマスコミよりも影響力があったのでな。向こうに対する抑止力として利用させてもらった。



56: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:40:48.43 ID:V+dooPVkO
  

あの外遊の目的は名目上外相同士の会談になっていたが実際はそうではなかった。核の情報収集だ。現地に居る日本工作員と連携して核のデータを持ち帰る。

まだあの当時の日本は非核武装国…というより軍事力を放棄していた状態だった為、核実験はおろか核の生産すら表立っては出来なかった。もちろん生産に関しては極秘には行われていたが。

データを取れないというのは生産において致命的であった。

そこで、私は自分の仕事…つまり情報収集をやった。成果も上々で無事に終える事が出来た。

ロシアから見れば私はいわば裏切り者だからな。もし私が脱走した後、研究の傍ら政治という表舞台に出なかったら間違いなく消されていただろう。

その心配もあって私はひどく怯えていたが、幸運にも何事もなかった。



57: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:45:34.24 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「と、ここまではいいかの?」

(´・ω・`)「えぇ。読者はともかく僕と作者は大丈夫です」

/ ,' 3 「君が知りたいのはこの先じゃな」

(´・ω・`)「そうです。今までの話だとレインズが憎むのは貴方であっても僕たちではないはず」

/ ,' 3 「ふぉっふぉっふぉっ、だが残念ながら私が話す事はもうない」

(´・ω・`)「…そんなはずはないでしょう」

荒巻の顔が余裕に満ちている。何だろう…この胸のざわめきと違和感は。



60: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 00:53:03.58 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「ふぉっふぉっふぉっ、君は一つ大きな勘違いをしておるの」

(´・ω・`)「…」

/ ,' 3 「おかしいと思わんか?政界から身を引いた私がなぜ今も生きていられるか」

どうも雲行きが怪しい。

(´・ω・`)「…ロシアにとってあなたは脅威でなくなったからでは?レインズにしても貴方を殺す程恨んでるかどうかは疑問でしょう?」

/ ,' 3 「その通り。流石に君は頭が切れる」



61: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 01:03:36.94 ID:V+dooPVkO
  

(´・ω・`)「何が言いたいのです?」

ショボンは少し苛立ちを感じていた。

/ ,' 3 「君は最初に私に言った。ここで身を潜めていると」

(´・ω・`)「…それが?」

/ ,' 3 「正解だよ。実に面白い。答は時として過程を間違えていても正解である事が出来る」

/ ,' 3 「だがベクトルが違うのだよ、ショボン君。誰から身を潜めているか。それがこの場合重要だ」

(´・ω・`)「……!」

これは単なる苛立ちではない。ショボンはやっと理解した。



63: ◆P.U/.TojTc :佐賀暦2006年,2006/11/01(佐賀県職員) 01:11:09.76 ID:V+dooPVkO
  

/ ,' 3 「…気付いたかね?」

(´・ω・`)「…僕ら…から…?」

/ ,' 3 「それでは△だ。正確にはショボン君、君だ」

(´・ω・`)「……」

/ ,' 3 「つじつまの合わない事が多かっただろう?」

(´・ω・`)「いや…例え貴方が黒幕だったとしてもつじつまは合わ…ない」

/ ,' 3 「何故だか教えてやろう。私もついこの間までは先程までの君と同じ考えだった」

/ ,' 3 「ライブテンファンド社が君達を捕らえ、秘密を握っている事をネタに私を脅迫。日本の軍事データを全て奪う。従わなかったら、君達を買収という形で広告塔にし、全世界に裏を公表する。君もそう考えていたのだろう?」

(;´・ω・`)「……」

図星だった。全身が強張る。



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