俺は( ^ω^)のペットのようです
- 125:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 20:34:24.23 ID:dtE6Oyd50
- ばしゃばしゃと夜道に二人分の足音が響く。
雨は夜になっても降り続き、少し風も出てきた様だった。
俺「なあ!こんな時間に病院行っても面会なんてさして貰えねーだろ!?」
( ^ω^)「大丈夫っ!こんなこともあろーかと、抜け道はしっかり調査済みだお!」
俺「忍び込むつもりかよ!!」
俺と、俺の首輪につながれたリードを持ったブーンは
小声で会話を交わしながら雨の中を走った。
ブーンは自分のものらしい青い傘、俺はブーン父のものらしい灰色の傘を差して。
雨の真夜中に外出するようなバカが俺たち以外にいる筈もなく、
人目がないのだけが救いだった。
俺「何考えてんだよ全く・・・。友達だって迷惑だって。こんな夜更けじゃなくて
また調子のいい日に会いに行けばいいじゃねーかよ」
( ^ω^)「――それじゃダメなんだお! 今日じゃないと・・・・今日じゃないと意味がないんだお!」
ブーンが珍しく真剣な様子で叫ぶので、
ぶつぶつと文句ばかり言っていた俺は口を閉じるしかなかった。
- 129:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 20:44:46.43 ID:dtE6Oyd50
- やがて俺の足が限界に近付き、
ピザのくせに妙にスタミナのあるブーンがうらめしくなってきて
こいつちょっと殴ってやろうかなと思い始めた頃に
俺たちは病院にたどり着いた。
( ^ω^)「無事に着いてよかったお!途中ちょっと迷っちゃってどうしようかと思ったお!」
とりあえず一発殴っといた。
病院は町を一望できる小高い丘の上に建っていた。
清潔な白い建物も、強い雨の降る真夜中に見上げるとちょっと不気味だ。
( ^ω^)「さあ、ツンの病室に行くお!」
ブーンは小突かれた頭などものともせずに、小声で元気にそう言うと
病院の裏手へと歩き出した。
俺「・・・どうなっても知らないからな、俺は・・・・」
リードでつながれている俺もしかたなく後について行く。
もしも病院の職員に捕まった時、俺の姿がどう映るかは
あえて考えない事にした。
- 137:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 20:59:39.37 ID:dtE6Oyd50
- ブーンは、通用口だろうか、鍵のかかっていない目立たない扉から
病院の中に入り込み、意外にもさくさくとその中を進んでいった。
一度、見回りの看護士の足音がカツンカツンと近付いてきて、
下手なホラーゲームよりドキドキしたが
二人で狭い物陰に隠れてどうにかやりすごした。
( ^ω^)「もーすぐツンの病室だお・・・」
ブーンはひそひそと言って、俺にうなずいてみせる。
ここまで来たらもうどうにでもなれだ。
俺もブーンの顔を見返して、小さくこくりとうなずいた。
とうとう俺たちは病院の東側、五階の病室の前までたどり着いた。
ドアの横の名札にはツン、とだけ書かれている。
どうやら今現在、この部屋にはツンという子一人しかいないようだ。
重たい扉をそろそろと開く。
つんとした消毒薬の匂いが廊下よりも濃い気がした。
- 139:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 21:09:18.32 ID:dtE6Oyd50
- ( ^ω^)「・・・」
俺「・・・」
俺とブーンは足音を立てないように歩き、
ただひとつカーテンのかけられてるベッドにそろそろと近付いた。
ブーンが少しだけカーテンをめくってベッドの中を覗き込み、
それから、ちょいちょいと俺を手招きする。
初対面の女の子の寝顔を無断で見るのは少し気が引けたが、
ここまで来ておいて今更遠慮もないだろうと
俺は極力音を立てないようにベッドのそばに近付いた。
綺麗な子だった。
肩まである金色の、ふわふわとしたウェーブがかった髪。
化粧っ気のないくちびるが少しばかり青ざめていても
それでも充分絵になっていた
人形が寝ているみたいにも見えたが、ちゃんと布団の下でつつましく胸が上下していた。
( ^ω^)「ツン。・・・ツン」
ブーンが、小さな声でとても優しく声をかけた。
- 145:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 21:19:24.58 ID:dtE6Oyd50
- ( ^ω^)「・・・ツン。起きてお」
ξ゚听)ξ「・・・・ン・・・・」
やがてツンという子がうっすらとまぶたを開き、
上を向いた形のいいくちびるからかすかな声を漏らした。
( ^ω^)「ツン。判るかお。ブーンだお」
ξ゚听)ξ「・・・ブーン・・・?」
ツンはしばらくとろんとした目を開けたり閉じたりしていたが、
やがてまっすぐ天上の方を見たままで布団から手を出し、
そのへんの空間をさぐりはじめた。
ξ゚听)ξ「ブーンなの?そこにいるの・・・?」
( ^ω^)「いるお、ブーンはここだお」
ブーンがその手をつかまえて優しく握る。
俺はこの娘の目が見えないのだという事をその時改めて思い出した。
ツンはブーンの手を握り返し、眠たげな、けれど少し笑いを含んだ声で言った。
ξ゚听)ξ「馬鹿ねえ、朝の検温より早く会いに来るなんて。まだ夜でしょう?またこっそり忍び込んだのね」
( ^ω^)「おっおっおっwww」
ξ゚听)ξ「ほんとにしょうがないんだから。私がいつそんな事してって頼んだのよ?」
言葉はつんけんしていたが、それでも顔は嬉しそうに微笑んでいる。
- 152:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 21:34:18.63 ID:dtE6Oyd50
- ( ^ω^)「今日は特別だお!ツンにどうしてもブーンのペットを紹介したかったんだお」
ξ゚听)ξ「ペット・・・?」
ツンが不思議そうな口調で言った。
・・・いや、つーか、そんな急に本題に入られても
心の準備ってもんが出来てないんだが。
どうすりゃいいんだよ俺は。
( ^ω^)「そうだお、この前急に魔法使いが現れて、それでお願いしたんだお!
イチは世界一の最高のペットなんだお」
人の気も知らないでブーンは楽しげに喋っている。
ξ゚听)ξ「魔法使い?本当?」
( ^ω^)「本当だお!さあイチ、この子がツンだお。挨拶するお」
していいのか、挨拶。
しかたなく、俺はツンのベッドにもう一歩近付いてしゃがみ、
驚かせないように控えめな声で言った。
俺「・・・どうも」
- 161:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 21:47:24.71 ID:dtE6Oyd50
- ξ゚听)ξ「・・・こんばんは」
ツンは鈴の鳴るような声で言って、身体を起こそうとした。
( ^ω^)「だ、大丈夫かお?」
ξ゚听)ξ「平気・・・起きたいの」
ツンは慌ててブーンが背中に差し入れた手に手伝ってもらい、
ゆっくりと上半身をベッドから起こした。
ξ゚听)ξ「イチ、っていうのね?」
俺「・・・うん、まあ」
勝手につけられた名前だけど、本名を言うとツンが混乱しそうだから俺はしぶしぶうなずいた。
ξ゚听)ξ「顔を触ってもいい?」
( ^ω^)「もちろんだお!」
ξ゚听)ξ「あんたじゃないわよ馬鹿。私はイチに聞いてるの」
( )「・・・・orz」
へこんでいるブーンを横目で見ながら、俺は「いいけど」と言って
宙をさまよっているツンの手を取り、
それを自分の頬のあたりに持っていった。
- 166:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 21:59:55.77 ID:dtE6Oyd50
- ツンはなめらかに手をすべらせる。
頬からあご、鼻、それからくちびる、ぐるっと回って頭の方まで。
少し雨の湿気を吸って濡れた俺の髪の毛を
くしゃくしゃとなでる。
ξ゚听)ξ「・・・ナナみたい」
やがてツンは、ぽつりと言った。
俺「ナナ?」
( ^ω^)「ツンが昔飼ってたペットの名前だお」
ξ゚听)ξ「ナナもこんな風にさらさらで綺麗な毛をしてた。
ナナもこんな風に触らせてくれた・・・・」
ツンは細い指で俺の頭をなでながら
独り言のようにつぶやく。
ξ゚听)ξ「やさしくて賢くて、ナナは私の自慢だった。
ブーンと一緒にいっぱい遊んだ。陽の光の当たる場所で・・・三人で・・・」
- 173:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 22:16:24.71 ID:dtE6Oyd50
- ξ゚听)ξ「・・・かえりたい」
ツンはいつの間にか
光を反射しない目からぽろぽろと涙を流していた。
ブーンと二人でぎょっとして、けれど頭に手を添えられている俺は動けなくて、
どうしていいか判らないのでとにかく黙って固まっていた。
ξ゚听)ξ「帰りたい。ブーン。帰りたいよ。
またあの公園に行きたい。子供みたいに走り回りたい。
ドクオたちにも会いたい。ママとパパの顔が見たい。
ブーンが見たい。ブーンの顔が見たいよ。ブーン・・・・・・」
ぽろぽろと、とめどなく涙を流してツンは言った。
( ^ω^)「・・・帰れるお」
ブーンはツンの頭をぽんぽんとはたいて、とびきり優しい笑顔で言った。
( ^ω^)「だってお医者さんが言ってたお。ツンの『よくなりたい』っていう気持ちが何より大切だって。
だから、きっともうツンは大丈夫だお!
注射も手術も怖くないお。退院したらいっぱいいっぱい外で遊ぶお!」
- 210:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 23:15:15.64 ID:dtE6Oyd50
- それからツンとブーンは二人でぼそぼそと話し合った。
ちゃんと薬を飲むんだとか、ドクオたちもお見舞いに来たがっているとか、
自分の病気にちゃんと正面から向き合うんだとか、いろいろ。
ブーンはずっとツンの手を握り締めていた。
ツンはブーンのいう事のいちいちに
うん、うん、とうなずいていた。
会話の端々から、
表面上は強がっていてもずっと手術を受けるのを怖がっていて、
ブーンはその臆病風に吹かれたツンをどうにかしたいと思っていたこととかが
俺にもなんとなくうかがい知れた。
( ^ω^)「それじゃあツン、さすがにもう寝なきゃいけないお。
こんな時間に急に来てゴメンだったお」
ξ゚听)ξ「ううん、いいの。すごく嬉しかった。ブーンのおかげで勇気が湧いたもの。
きちんと手術を受けて、絶対この目を治すんだって思ったもの。
・・・ちょっとくらい感謝してあげてもいいわよ?」
ツンは冗談めかして笑い、それから、俺のほうを見て言った。
ξ゚听)ξ「イチもありがとう・・・。久しぶりにナナに会えたみたいで、楽しかった」
- 215:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 23:23:21.47 ID:dtE6Oyd50
- 俺は急にこっちにふられて、あたふたと「いや、俺は何も」と手を振って言う。
俺「・・・でも、少しでも役に立てたんなら、よかったよ。早く治るといいな」
ξ゚听)ξ「うん。本当にどうもありがとう」
ツンはブーンの手を借りてまた布団に身を沈める。
さすがに疲れたのか、すぐにとろりとまぶたが下がり始めた。
( ^ω^)「よし!帰るおイチ!看護士さんにつかまらないように!」
俺「またあの泥棒ごっこをやるのか・・・」
ちょっとウンザリしながらも、俺は何となく晴れやかな気持ちで病室を出ようと移動する。
ξ゚听)ξ「気をつけてね・・・雨、上がったみたいよ・・・」
ベッドからツンの眠たげな声がする。
( ^ω^)「お?本当かお?」
俺「みたいだな、雨の音が聞こえない」
ξ゚听)ξ「うん・・・きれいな・・・・お月様・・・・」
- 221:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 23:36:02.25 ID:dtE6Oyd50
- 俺「・・・・」
( ^ω^)「・・・・」
俺( ゚ω゚ )『・・・・・・・へ?』
ドアの近くまで来ていた俺とブーンは数秒互いの顔を見つめあい、
それから光りの速さでツンのベッドに戻って
おたつきながらも慎重にカーテンを少しめくってみた。
ツンは何事もなかったかのようにすぅすぅと寝息を立てている。
けれど確かに、反対側のカーテンの隙間から、うすいレモン色の月が窓越しに見えた。
俺とブーンは恐る恐るといった感じで囁きあう。
俺「い、今の・・・?」
(;^ω^)「しゅ、しゅじゅちゅ前でも、光を感じ取るとか、少しだけ
回復することはありえるかもしれないって、でも・・・・でも・・・」
動揺の余り噛んでいることも自覚していないらしいブーン。
だが、俺は先程、一瞬だけツンの顔を正面から見たことを思い出してはっとした。
俺「さ――さっきさ、ツン、ちゃんと俺のほう見て俺に話しかけたよな・・・!?」
(;^ω^)「!!!」
ブーンは思わず叫び声を上げそうになったのだろう、ばっと口を押さえて、
それからがくんがくんとムチウチになりそうな勢いでうなずいた。
- 234:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/27(木) 23:50:56.58 ID:dtE6Oyd50
- 興奮の余り、放っておくとそのまま病室を駆け回らんばかりの勢いだったので、
俺はブーンを羽交い絞めにしてツンの病室から退出した。
ブーンは盆と正月がいっぺんに来たような顔をして、
それでも最後の理性で声だけは控えめに、その分、手足をばたばたさせて
喜びを体中から発散させていた。
( ^ω^)「やったお!やったお!回復の兆しってやつだお、
ツンは治るお、きっとぐんぐん良くなるお!」
俺「うんうん!」
かく言う俺も興奮していないといえば嘘になる。
だってこんなの奇跡みたいだ。映画や本の中でしかお目にかかれないような奇跡。
( ^ω^)「イチはすごいお!イチのおかげだお!!」
俺「お、俺?はは、いや俺は別に何もしてねーよ」
( ^ω^)「全然してるお、貢献しまくりだお!魔法使いさんにお礼をしなきゃ――」
あ。
ブーンははたとつぶやいて、それから急に顔色を変えた。
( ^ω^)「い、イチ、今何時だお!?」
- 247:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/07/28(金) 00:02:31.11 ID:Frw3qVRM0
- 俺「え?いや、知らん」
言いながら、時計はないかときょろきょろと辺りを見回す。
俺「一階のロビーで見た時はたしか、四時少し前じゃなかったかな――」
(;^ω^)「たたたた・・・・大変だお!!」
ブーンはだらだら汗を流して(正直キモイ)俺のリードを握り締め、
(;^ω^)「ぐずぐずしてたら夜が明けちゃうお!!イチ、急いで屋上に行くお!!」
俺「は?なんで?帰るんじゃねーの?」
(;^ω^)「なんでもいいから早くするお――っ!!」
俺「ちょ待っ、ぅぐえっ!」
何が何だか判らないまま、俺は暴れ馬のように疾走しだしたブーンに
病院の屋上まで一気に引っぱられた。
俺の首が無事だったのもある意味奇跡だと思う。
戻る/次のページ