( ^ω^)ブーンが植物の世話をしているようです

6:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:26:23.31 ID:aOvnGawE0
  
『幼少期』


僕は植物が嫌いだ。
植物はただその場にいるだけだ、何もしない……もとい何も出来ない。

だが生きているんだ。

生きているといっても自身だけではどうも出来ない。
ただ雨が降り、ただ太陽に照らされて……それで命を繋げている。

何のために?

意味の無い『生』だ。


花屋の隣を歩きながら、そんな否定的なことを考えた。

( ^ω^)「太陽が眩しいお」


季節は夏に入ったばかり、商店街に植えられた木々は青々と綺麗だった。



7:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:27:41.01 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「花なんて、所詮は見世物だお」

そう言いながらすぐに視線は隣のケーキ屋さんに移る。
朝から良い香りを醸していて、空腹を刺激する。

いつもの調子で朝からコンビニでパンを買うと、そのまま出勤した。


会社はあまり大きくなく、名前もまったく聞かないようなところだ。
それでも大手からの信頼もあるイベント企画会社である。

自分のデスクに着くと、まずはと買ったパンの袋を開けた。
野菜ジュースも飲めばいつも通り、健康的(?)な朝食だ。

( ^ω^)「クールビズのお陰で快適だお」

自分たちの会社は、クールビズの影響もありスーツ着用義務から私服へと変化した。
私服と言っても当然常識の範囲内という規則はあるが、こんな暑い中スーツ出社なんてやってられない。

パンを食べ終わるとようやくタイムカードを押した。
何となく毎朝何時に出社しているかを知られたくなくて、いつもタイムカードはギリギリだ。



8:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:28:52.18 ID:aOvnGawE0
  
( ゚∀゚)「まーた内藤はギリギリか」

( ^ω^)「長岡さん、間に合えばいいんだお」

川 ゚ -゚)「そう言ってこの前は忘れて遅刻扱いになっていたよな」

(;^ω^)「そういう日もあるお、業務はこなしているから問題ないお!」

そんな自分に話しかけてくれたのは長岡さんと栖来(すくる)さん。
長岡さんは先輩で、栖来さんは同期にあたる。

自分はそんな二人に文句を言われながら改めて自分のデスクについてパソコンを起動させた。
その脇には比喩でなく山積みの資料が置かれている。

パソコンが立ち上がるまでの間、その資料に目を通した。

( ^ω^)「今度はマラソン大会のサポートかお……参加者は結構多くなりそうだお」

そしてパソコンにログインすると、メールの確認をする。
栖来さんから2通、片方は大会の概要であり、もう片方には仕事内容が書かれていた。

とりあえずは大会の参加申し込み用紙作成と、当日のパンフレットの作成。
その後協賛金集めの手伝い。
参加証の郵送やレース後の結果整理はまた後で考えよう。



9:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:29:46.28 ID:aOvnGawE0
  
川 ゚ -゚)「内藤、メールは見てくれたか?」

( ^ω^)「今確認したお」

川 ゚ -゚)「とりあえず私は主催者側と話に行って来るから、ちゃんと仕事をしておいてくれ」

( ^ω^)「把握したお」

栖来さんは
同期だけど自分なんかよりもよっぽど才能があったのか、見る見る間に重役を任される身になった。
比べて自分は事務的な作業ばかりだ、もっとも逆にそれらを任されている気もするが。

慣れた手つきで大会の重要項を当て嵌めていく。
大会の正式名称、日付、時間、場所……日付には曜日を忘れずに、場所はスタートや受付の時間も含めて詳細に。

ランニング大会か……突き出たお腹を見て、到底無縁な話しだなと改めてパソコンに向かった。

( ^ω^)「マラソンで参加費が5000円……参加賞は何くれるかが重要そうだお」

ブツブツ呟きながら打ち込み作業をしていると、声をかけられる。

(*ノωノ)「内藤先輩、ちょっといいですか?」

( ^ω^)「ん、どうしたお?」



10:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:30:59.69 ID:aOvnGawE0
  
風羽(ふう)さんは四つ下の後輩で、自分と同じでデスクワークをメインとしている人だ。
ほとんど自分を補助してくれる仕事であり、同時に自分が上司として育てている最中だ。
かなり不器用なので育てる身としては普通厄介だが……積極性があるのでまったく問題ない。

自分たちはこれにショボンさんを加えた5人で大体行動をしている。
ショボンさんとは本名・年齢供に不明の自分たちのグループのボスだ。
超やり手という噂もまんざらではなく、この人のお陰で自分たちのグループは社内でもかなりの評価を受けている。

ショボンさんは栖来さんを育てるためにこのグループにいるらしいが、その二人がいるからこその営業成績だ。

さて、そんなこんなで自分は大抵風羽さんと活動を供にしている。

(*ノωノ)「いえ、ワードで行数を増やしたいんですが、やり方が分からなくて……」

( ^ω^)「ああ、それならページ設定で簡単に出来るお」

ためしに自分のパソコンでやってやる。

(*ノωノ)「あぷー、こんなに簡単に出来ちゃうんですね……」

( ^ω^)「使ってればすぐに覚えるお、使わない機能は僕もすぐ忘れちゃうお。
   マクロとかもいちいちその度に調べて……」

(*ノωノ)「マクロってなんですか?」

( ^ω^)「……」

(*ノωノ)「あぷー……ごめんなさぃ……」



11:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:32:09.48 ID:aOvnGawE0
  
そんなやり取りしながら、仕事を終わらせねばと改めてパソコンに向かう。

(*ノωノ)「この案内って内藤先輩が作ったんですか?」

( ^ω^)「そうだお、今適当に羅列しただけだから当然完成なんかじゃないけど」

(*ノωノ)「いえいえ、そんな事ないですよ見易いです!
   私なんて縦の列をそろえようとしても、微妙にずれる事もあって……」

( ^ω^)「それは等幅フォントかタブキーを使えば解決するお」

それからしばらくは風羽さんとワードについての講義になった。
風羽さんは去年までは名前などの打ち込みだけと雑務だけだったが、
今年から僕がもっと本格的な作業を教えることになった。
数年すれば彼女も先輩となるのだろう。

説明が終わると、ありがとうと言って風羽さんは自分のデスクに戻っていった。

( ^ω^)「あ、そうだ風羽さん」

(*ノωノ)「はい、どうしましたか?」

( ^ω^)「明日は一緒に協賛金集めに走るお」

(*ノωノ)「……え、喜んで一緒します」

可愛い後輩だ。



12:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:33:13.75 ID:aOvnGawE0
  
それから風羽さんに時折質問を受けながらも、順調に業務を進めていき昼食の時間になった。
パソコンの電源を落とし、大きく伸びをする。

(*ノωノ)「あの、先輩……一緒に食事しませんか? 仕事で聞きたい事もあるので」

( ^ω^)「ありがとうだお、でもやっぱり無理だお」

(*ノωノ)「そういうと思いました、また帰ってきたら教えて下さいね」

( ^ω^)「把握したお」

( ゚∀゚)「じゃあ風羽は俺とメシ食うか?」

(*ノωノ)「長岡先輩、よろしくお願いします」

( ゚∀゚)「内藤もちゃんと時間内に帰って来いよ」

( ^ω^)「はいですお」

そう挨拶すると、会社においてある車に乗ってエンジンをかける。
自分の住んでいるアパートには車を置けない、仕方なく車は会社に常駐させている。
まあ家までは歩いて5分程度、出勤にはそれほど苦労しない。



14:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:34:49.54 ID:aOvnGawE0
  
そして車で10分ほど飛ばすと、ある施設に到着する。
降りて挨拶すると、すぐに担当の人が案内してくれる。

<_ヽ`∀´>「内藤さんも毎日大変ですねー」

( ^ω^)「いえいえ、僕なんて昼の時間だけだお」

そして案内された先には、ベッドに寝込むカーチャンの姿があった。

J( 'ー`)し 「おかえり」

( ^ω^)「ただいまだお」

ここが家でもないのにこんな挨拶は変かもしれない、
でも「こんにちは」と挨拶をして笑い合って以来、この挨拶をすることにした。

カーチャンの前には病人食と言える様な質素で色気無い料理がトレーに乗っていた。
以前食べたらまったく味がしなくて気持ち悪いくらい食感が無かった事を覚えている。

スプーンですら重そうな、そんなたどたどしい手つきでカーチャンは食事を少しづつ口に運んでいた。

その隣で冷凍食品を詰め込んだだけの、自分の手作りお弁当を開けて一緒に食べた。
手作りなんて面倒だったから初めはコンビニ弁当だったが、無駄にカーチャンが心配するのでちゃんとお弁当を作るようになった。

カーチャンは時折むせていた、その度に自分は背中をさすった。

J( 'ー`)し 「ゴメンね、ゴメンね……」

いつからそれが口癖になったのか?
今では自分をよく産めたものだと思うほどに衰弱し切っていた。



15:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:36:22.80 ID:aOvnGawE0
  
自分は産まれながらにして平均より少し太り気味の赤ん坊だった。
泣き声がとても大きくてお医者さん達が困ったと、どこまでが本当か分からない話をされた。

家でも昼夜問わずに沢山泣いたらしい。
そしてそれ以上に沢山食べたらしい。
すぐにお漏らししたとも言われた、オムツ代がバカにならなかったと言われた。

3歳の時にトーチャンは死んだ。
そんなに昔の出来事を自分は覚えていない。

トーチャンの記憶はただ白黒写真でしかなかった。
ビデオカメラなんてない時代だ、自分のトーチャンは慰霊の姿しか無かったのだ。
思い出の中ですら動いていない、呼吸をしていない人間だった。

誕生日は知っているものの命日だって未だに知らない。
形見と言って貰ったタイピンはそっくにどこかにやってしまった。



16:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:37:28.98 ID:aOvnGawE0
  
それからカーチャンは働き出した。
自分のおもりもしっかりとしながらだったのだろうが、生憎自分の記憶には保育園の先生しかなかった。
保育園で一番最後まで残って、カーチャンに迎えに来てもらったことしか覚えていない。

その時はどうして他の子供たちのお母さんは早く来て、自分のカーチャンが遅いのかなんて考えなかった。
ただ、何となく悔しくて、母親が自分を嫌いなんじゃないかって思っていた。
だから迎えに来るのが遅いんじゃないかって。

幼稚園でもそうだった、最後のひとりとなって保母さんと積み木遊びばかりしていた。

参観日に、お絵かきの時間で皆が書いた絵を飾って親に見てもらった。
皆が父親や母親を書いていた中、自分はその保母さんを書いた。

  「上手でしょ?」

  「そうね、とても上手だね」

そう言った悲しそうな母親の顔が忘れられなかった。
どうして悲しそうな顔をするのか、その時は気付いていなかったから。
むしろ心から褒めてくれない事を敏感に察知し、頬を膨らませたくらいだ。



17:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:38:31.82 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「今日からは本格的にマラソン大会のイベントを受け持つ事になったお」

J( 'ー`)し 「すごいわね、頑張ってね」

( ^ω^)「それで、明日から数日間は現地に行かなきゃいけないから、お昼にこれないお」

J( 'ー`)し 「全然いいわよ、アンタが頑張ってる姿見ているのがカーチャン一番嬉しいから」

そして少しだけ話すると時間になったので会社に戻った。


それから打ち込みを始める、栖来さんから連絡を受けてメールを送って数回やり取りした。
その場で即座に訂正、再送信をしながら相手の要望にこたえれるものに仕上げる。


外も太陽が沈んで18時になろうかというところ、自分の仕事はとうに片付いて見直しを何度か終わらせた。

( ゚∀゚)「さーて、それじゃオレは終わるか……」

長岡さんは早々にタイムカードを押して退社した。
自分もそれに続きたかったが、任された後輩がいるからにそうもいかない。
パソコンと格闘している後輩に声をかける。

( ^ω^)「調子はどうかお?」

(*ノωノ)「あぷー……全然進まないです……。
   あ、いいですよ内藤先輩は先に帰って下さい!」

( ^ω^)「……今日の21時からオススメの映画がやるお」



19:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:39:16.37 ID:aOvnGawE0
  
(*ノωノ)「はい……?」

( ^ω^)「ぜひ明日それについて話したいお、だから早く片付けるお」

(*ノωノ)「……ありがとうございます」

そして風羽さんの仕事を少し受け持って、入力を手伝った。
二人でやると効率はとてもいい、19時過ぎには全てが終わる。

そして二人でタイムカードを押して車に乗る。

(*ノωノ)「すみません、いつも帰りまで送ってもらって……」

( ^ω^)「別にいいお、車の運転は好きなんだお」

そしてカラフルなホテル街を素通りして、十数分運転すると風羽さんの家に着く。
玄関先で彼女を降ろすと、お礼にと缶コーヒーをくれた。

(*ノωノ)「タクシー代です」

映画を見るように念入りに釘を刺すと、そのまま自分の家とは別方向に車を走らせた。



20:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:40:40.40 ID:aOvnGawE0
  
時間は20時半、今日もギリギリになってしまった。
空になったコーヒーの缶を持つと、くずかごに捨てて受付を済ませる。

夜の病院は静か過ぎて怖い。
ゆっくりと歩いても、自分の足音が大きく響く。
そんな中自分以外の足音がするだけで過剰に反応してしまったりする。

階段を登って、目的の病室に着くとドアをノックした。
返事がないことくらい分かっている、でももしかしたらと0%の確率に賭けたくなってくるのだ。

扉を開けると、そこには静かに女性が寝ていた。

可愛い寝顔だった。

( ^ω^)「ただいまだお」

ここでもこの挨拶をしたが、返事は帰ってこなかった。
その空間では点滴から垂れる水滴と自分だけしか動いていないのだから。

( ^ω^)「いい子にしてたかお? 看護婦さんに迷惑かけてないかお?」

動かないその空間自分の声は自分にだけしか届かない。
女性は静かに寝ていた。

もう少し動いてくれてもいいのに。
もっと看護婦さんに迷惑をかけてくれてもいいのに。



21:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 20:41:09.49 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「聞いてくれお、僕なんかが上司になって教えてるんだお!」


( ^ω^)「明日は現地の方に行って来るお」


( ^ω^)「マラソンなんて走る人の気がしれないお」


( ^ω^)「でもファミリージョギングとかもあるみたいだお、いつか出たいお」


一人で話題が途切れないように頑張って話した。
自分が話を止めると気まずい雰囲気が流れる、そうなると自分は怖くなるんだ。

自分といるのは楽しくないんじゃないか?
自分は嫌われたんじゃないか?
自分と……もう二度と話してくれないんじゃないかって。

それで泣いちゃうんだ、子供みたいに。
それでも何も言ってくれなくて……すごく辛いんだ。

( ;ω;)「ツン……好きだお……」

返事は返ってこないんだ。



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