( ^ω^)ブーンが植物の世話をしているようです

77:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 21:53:07.11 ID:aOvnGawE0
  
『高等学校』


高校受験では勉強のイライラと虐めが相重なって家での暴力は当然になっていた。
家出をしたし、罵ってカーチャンを何度も泣かせてしまった……が、それはまた別の話だ。


母子家庭だったにも拘らず、中学のメンツとは会いたくなかったので自分は離れた私立に入学した。
田舎では大体が近場の高校に通う、片道2時間の高校にわざわざ行く生徒はいなかった。
レベルもそこそこに高い、うってつけの高校だった。

知っている顔がいないのは幸か不幸か、対人恐怖症になりつつあった自分はそこでも消極的だった。
怖かったのだ、他人が。

どんどん出来上がるグループ、自分は次第に孤立していった。

一人で食べるお弁当、本を読むか寝るマネをして過ごす休み時間。
そんな頃、クラスにもう一人同じ存在を見つけたんだ。

('A`)

彼の名は毒男、出席番号29番。
そこまで調べた、そして自分と同じ存在だった。

ただ……同じ存在だっただけに、どちらから話し掛ける事もなかった。



79:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 21:54:08.09 ID:aOvnGawE0
  
話し始めはほんの偶然だった。
自分が鞄を落として、散らばった教科書を拾ってくれたのだ。

普通ならここで「ありがとう」だけで終わる所だが、仲間意識はあちらにもあったらしい。

('A`) 「『プリンセス・ちんぽっぽ』好きなのか?」

( ^ω^)「……それなりに」

『プリンセス・ちんぽっぽ』は当時でもマイナーなアニメだった。
そのキーホルダーを鞄にしていたので聞いてきたのだろう。
そんな毒男に、自分は素っ気無く答えた。

('A`) 「……」

( ^ω^)「……」

('A`) 「……ぷっ」

( ^ω^)「おっおっ!」

('∀`) 「ははっ、ちんぽっぽ可愛いよな」

( ^ω^)「ちんぽっぽ派かお、邪道だお!」

話すきっかけと話題が欲しかっただけなんだ。
そしてこの日から毒男との楽しい高校生活が始まった。



80:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 21:55:51.20 ID:aOvnGawE0
  
毒男も小学校中学校と虐めにあっていた。
そしてそれが嫌で、遠くのこの高校に入学したらしい。
自分とまったく一緒だ、それだけで十分だった、それ以上の共通点は望んでいなかった。

('A`) 「それでよー、あのちんぽっぽの可愛さと言ったらないよなー」

( ^ω^)「はいはい、ちんぽっぽフリーク乙」

('A`) 「テメー、全裸でトイレにぶっこむぞ! あれがどれだけ屈辱的か……」

( ^ω^)「残念、全裸で女子トイレにぶっこまれ済みです」

('A`) 「なに、羨ましいことしやがって!」

( ^ω^)「トイレの花子さんとはマブダチですお」

気があった以上に同じ境遇という事も助けてくれた。
互いに虐められ続けたことが災いして言葉遣いは悪かったが、彼と一緒なら虐められたことを笑い話に出来た。
二度と振り返りたくない過去を彼のお陰で乗り越えれた自分がいた。

虐められた内容自慢みたいな時もあった。
むしろその内容で劣っていたりすると、地味に悔しかった。
こんな日が来るなんて思っていなかった。

帰りの電車は同じ方向、片道2時間の自分の方が近くから通っていた。
毒男は自分よりもう10分ほど行った場所に住んでいる。
電車の間の2時間も彼と一緒だから暇することはなかった。



81:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 21:57:25.11 ID:aOvnGawE0
  
自分は虐められてもひたすらに頑張って笑っているように努めたが、毒男はその逆だったらしい。
そんな些細な違いも、自分たちにとっては深い友情の仲立ちとなった。
似たもの同士より性格は逆な方が相性がいい、そういう事だろう。

( ^ω^)「ちょ、あの子可愛くないかお?」

('A`) 「mjd? レベル低いって、俺あれくらいのレベルの娘に『目が虚ろでキモイ』って言われたぜ?」

( ^ω^)「言葉攻めプレイktkr! テラしてホシスwwww」

('A`) 「俺くらい覇気の無い顔してみろって」

( ´ω`)「ウツダシノウ」

('∀`) 「そんな感じ、それなら間違いなく言って貰えるぜ?」

毒男といるお陰で次第に自分は意識せずに明るく笑顔でいられるようになった。
他の人とも挨拶できるように、そして会話できるようになった。
その上で毒男とはいつも一緒にいたが。


毎日が楽しくて楽しくて。
自分は私立のこの高校に入れて良かったと思った、人生でようやく楽しい時を過ごせたんだ。



83:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:00:06.68 ID:aOvnGawE0
  
この時高校でさらにおこずかいを上げてもらうと同時、
カーチャンが痩せている事や家族で一緒に買い物や旅行に行かなくなったことに気付くべきだった。

とはいえ自分は友達に誘われてよく旅行に行っていた。
そのたびに親に言って、五千円を貰っていた。
五千円を貰うために旅行に行っていた気もする。

この頃仕事も止めさせられたカーチャンは家の中でずっと内職だけをしていたというのに。

いつからカーチャンはこの町から外に出なくなったんだろうか?

この時の自分は、アフリカのように餓死する人もいない日本にお金は十分あると思っていた。
大人に頼めば数万円くらいポンと出てくるものなんだって思っていた。
どれだけカーチャンが頑張っていたかも知らずに。


私立の授業料、通学定期、自分のお小遣い、そしてこれからまだ必要な自分の教育費。
今から考えればお金など吐き捨てるほど必要じゃないか。


当時の自分は自分があまりに楽しくて。
その時があまりに嬉しくて盲目だった。

いや、そもそも高校の時代なんかにそこまで気にする人間もそうはいないだろう。
何よりカーチャンはその事をずっと黙っていた。
気付けるわけがなかった。



84:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:01:09.85 ID:aOvnGawE0
  
('A`) 「ちょっと、もしもーし、ねぇ〜聞いてる?
   え、オレは悪くない? ウソばっか!」

(;^ω^)「ボーっとしていたのは認めるから勘弁してくれお」

('A`) 「そんな言葉も聞こえないフリ、ゴメンって言うまで許さない♪」

(;^ω^)「Uzeeeeeeeeeeeeee! それで用件は何だお?」

('A`) 「おー最近会ってないから元気かなって」

( ^ω^)「ボチボチですお」

毒男とは高校だけの付き合いだ。
それでも……絶対に切らしたく無い縁なのだ。

幸運にも、相手もそう思ってくれているようでこうやって定期的に連絡を取り合っている。
仕事を始めてからも月一で会っているのだが、ここ最近忙しくて全然会えていなかった。

赤信号に引っ掛かり、車を停止させた。

( ^ω^)「あー、長い信号に引っ掛かったお」

('A`) 「運転中か?」

( ^ω^)「そうだお」

('A`) 「通報しました」



85:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:01:53.53 ID:aOvnGawE0
  
信号はまだまだ変わりそうにない、首を回しながら電話を続けた。
郊外の夜は早い、もう店は電気を消して、数少ない外灯が夜道を照らしているだけだった。

('A`) 「もしかしなくてもツンちゃんのところ行く途中か?」

( ^ω^)「当然だお、一日の中でこれは譲れないお」

('A`) 「……そうか」

毒男が言わんとしている事は分かった。
自分たちの事情は彼にも話してある、その度に同じ事を言われるのだ。

信号はまだ変わらない。
もう目的地の病院はすぐだというのに。

('A`) 「内藤、ツンは元気か?」

( ^ω^)「相変わらず元気だお」

('A`) 「そうか、相変わらずか……」

毒男は言いたいだろう言葉を飲み込んでくれた、正直に感謝したい。

少しの沈黙、そしてとうとう信号が青に変わった。
交差点を過ぎるともう病院の敷地内だ。



86:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:02:41.83 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「毒男、病院に着いちゃったお。電源を切らないといけないお」

('A`) 「ああ、用件か。今週末は空いてるか、久しぶりに会わねぇ?」

( ^ω^)「今週末……土曜は仕事で、日曜は仕事の進み具合次第だお。
   また改めて連絡でいいかお?」

('A`) 「了解」

( ^ω^)「わざわざ電話してくれてありがたいお」

('A`) 「ああ、ツンちゃんによろしくな」

( ^ω^)「おk、それじゃ切るお」

('A`) 「うい、じゃな」

電話を切ると、同時に電源も切った。
そして暗い病院に入って、唯一明りの点いている受付を済ましてツンの病室へ向かう。

今日も30分くらいいられる。

ツンの横にゆっくりと腰掛けた。



87:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:03:39.99 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「今日は外回りしてきたお」

( ^ω^)「意外にいい感じだったお、暑い中頑張った甲斐があったお」

( ^ω^)「そういえばさっき毒男から連絡があったお」

( ^ω^)「よろしくって言ってたお、早く元気になってまた会えるといいお」

ゆっくりと今日一日の報告をする。
大きな報告を済ませると次は小さな報告を。

時計が秒針を刻む音と、自分の話し声だけ。
まるで時間が経つのを待っているようだ。

断じて違うのだが。
そう、絶対に違う。

ツンが話し返してくれる、その時を待っているのだから。


ふと中学時代が頭を過った。



88:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:04:48.12 ID:aOvnGawE0
  
演劇が終わってからの話だ。

机に置かれた花瓶。

死人扱いか、良くあることだ。
こんな平凡ないたずらしか出来ないなんてガキだな。

そう思って泣きそうな自分は気丈に振舞っていた。
泣いちゃダメだ、そう思いながら。

花瓶を元の位置に戻そうとすると、また何か言うヤツがいる。

( ^Д^)「おい、同じ植物同士話しろよ!」

そしてそれに周りも便乗した。
注目される中、話するしかなかった。

( ;ω;)「こ、こんにちはですお……内藤って言いますお……ブーンって呼んで……欲しいお」

( ^Д^)「キメェwwww」

(、ン、)「マジしんしょーだぜ、その花とどっか行ってくれよ」

ひそひそと女子の話し声も聞こえる、きっと僕をバカにしているのだろう。

花瓶に刺さった綺麗な花に申し訳なくなった。
自分のせいで……笑われ者にされているこの花に。



89:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:06:07.96 ID:aOvnGawE0
  
それからその花の世話はずっと自分の役目だった。
『植物の世話』だ。

( ^Д^)「朝の挨拶はどうしたんだよ!」

( ;ω;)「花さん、おはようございますお……今日は曇りだけど元気出して欲しいお……」

(、ン、)「もうあの花に近寄れねーぜ!」

( ^Д^)「おいブーン、ちゃんとその花の水かえとけよ!」

( ;ω;)「お水かえましょうね、ちょっと辛いけど我慢して欲しいお」

(、ン、)「マジ誰か救急車呼べよ、マジ気持ち悪いって」

( ;ω;)「水道水だけど我慢して欲しいお、このままよりはきっと良いと思うお……」


花は喋らない、なのに自分はひたすら話しかけた。
他の人の声を聴きたくなかった、だから間をおかずに話しかけ続けた。
心でその花に謝り続けながら……。

自分せいで笑いモノになる、その綺麗な花に謝りながら……。



90:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:06:44.33 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「……」

ダメだ、今日の昼間に中学時代を思い出してしまったために下らない事も思い出した。

( ^ω^)「ゴメンだお、ツン」

違う、ツンは違う。
植物なんかじゃない。
花のように綺麗だけど、花なんかじゃない。

( ^ω^)「まったく違うお、あの時と今は似ても似つかないお。
   だって、ツンは話ができるお。
   自分のいう事を聞いて、返事をしてくれるお」

そう言ってもツンの反応は当然無かった。
泣きそうになったが、ツンに悪く思って泣けなかった。

21時には少し時間があったが、泣きたい感情を隠すかのように今日は早い目に病室を後にした。



91:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:07:52.40 ID:aOvnGawE0
  
家に帰ってからは、今日も昨日と同じようにパスタを茹でた。
手軽でいい、本日の味はミートソースだ。

そして食べながら無機質に流れるニュース番組を見ていた。

戦争、芸能スキャンダル、スポーツ……どれもが遠い世界の話だ。


ごはんを食べると、それからあともテレビをボケーッと見ていた。

明日は土曜日だが出勤しなければならない。
日曜日にようやくお休みだ。


日がまたぐぐらいまで起きていて、そのまま寝た。
シャワーは……いいか、明日の朝浴びれば。
暑くなって少し寝苦しい今日この頃だが、疲れた日には関係の無い話だ。



92:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:08:38.49 ID:aOvnGawE0
  
次の日は朝にシャワーを浴びると、いつも通り早い目に出勤する。
高校生だろうか、部活へ向かう集団がいた。

例に漏れずコンビニでパンと野菜ジュースを買うと、職場で朝食にした。
今日のお昼は風羽さんの手作り弁当だ、正直とても楽しみだ。


(´・ω・`)「やあ、おはよう」


今日は珍しくショボンさんが来た。
自分たちのグループリーダーであり、会社きっての実力者。
大抵自分たちのような地域支部でなく本社で働きながら、
グループ会議のときだけ姿を見せるのだが……今日はどうしたのか?


川 ゚ -゚)「ショボンさん、わざわざ呼び出して申し訳ありません。
   ただ、あまりに無茶な注文が入ったので何とかしてもらいたく思い……」

(´・ω・`)「気にしなくてもいいよ、どうせ暇だしね。
   それじゃ改めて主催側と話しに行こうか」


栖来さんと合流すると、すぐに会社から出てしまう。
忙しい人達だ、それを横目に自分は打ち込みの作業を開始した。



93:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:09:20.15 ID:aOvnGawE0
  
パンフレットの製作に入ると、色々とやっているだけで時間は無常に過ぎていく。
昼になってまだ全然仕上がらないデータに悲しくなる。
まぁいいや、気にせずお昼の時間に入ることにした。

(*ノωノ)「内藤先輩、お疲れ様です。これ、お弁当どうぞ」

( ^ω^)「嬉しいお、これ食べたら昼からもきっと頑張れるお」

(*ノωノ)「はいっ、頑張れるようおまじないかけときましたから」

風羽さんからお弁当を受け取ると、今日もカーチャンのいる施設へと車を走らせる。
昨日行けなかった分、今日こそは行かないと。



94:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 22:10:33.91 ID:aOvnGawE0
  
( ^ω^)「こんにちはー」

<_ヽ`∀´>「これはこれは、どうぞ」

そしてカーチャンと一緒にごはんを食べる。
何気なく鞄からお弁当を出すと、カーチャンは目ざとく反応した。

J( 'ー`)し 「あらあら、可愛らしい包みだねぇ」

(;^ω^)「こ、これは違うお、後輩を毎日送り迎えしてあげたお礼にもらったんだお!」

J( 'ー`)し 「ふーん、お礼ねぇ……」

カーチャンはずっとニヤニヤとしていた。
自分にはツンがいる事を知っているのに、まったく意地悪だ。

照れながら食事を手短に済まして、逃げるように会社に帰った。
お弁当はとてもおいしかった。



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