( ^ω^)ブーンが植物の世話をしているようです
- 130:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:04:50.97 ID:aOvnGawE0
- 『社会人〜これまで1』
罵るがいいさ、なんとでも罵倒するがいいさ。
待ち合わせ時間4時間前に起きて朝からシャワーに髭剃り、身だしなみをバッチリ決めた。
会社に車を取りに行く時に知り合いに会うのではないと心配になって待ち合わせ時間の40分前に家を出た。
……そして待ち合わせ30分前に自分が集合済みなのも想像できたことだろう。
( ^ω^)「……ふぅ」
何を考えているんだか。
そんな事を思いながら時計を見た、まだまだ時間はある。
クーラーのきいた快適な車内で、駅から出てくる人を目で追い続けた。
( ^ω^)「僕なんかが上司か……時の流れは早いもんだお」
ちょっと前までは大学を中退した情けないだけの男だったというのに。
- 133:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:06:02.78 ID:aOvnGawE0
- (;^ω^)「新入社員の内藤です、よろしくお願いします!」
まだあの頃は初々しかった。
初めて出た社会という所にただただ唖然とするばかりで何もかもが新しかった。
川 ゚ -゚)「同じく新入社員の栖来だ、よろしく頼む」
そして同期の栖来さん、彼女は入社早々空気が違った。
入社の時の面接でかなりいい評価を得たらしく、早々にショボンさんから目を付けられていた。
そうそう、栖来さんは同期だがちゃんと大学出ているので2つ上だ。
今でも若々しい反面、年齢不相応なほどこの時からしっかりとしていたが。
自分は見南(みんな)先輩に色々と教えてもらう事となった。
( ゚д゚ )「内藤、オレが一応オマエの面倒を見るからよろしくな」
( ^ω^)「見南先輩ですか、よろしくお願いしますお」
そして自分は見南先輩の下で、しっかりと基礎を学んでいく事となる。
- 135:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:08:57.31 ID:aOvnGawE0
- そして時間は過ぎて2年もすると、自分は仕事を大体覚えた。
「事務作業が向いている」と言われたが、どこまで本気で褒めているのか分からない。
ただ3年目にしてとうとう見南さんの元を離れて、新しいグループで事務作業を任されると言われた。
( ゚д゚ )「オマエはもう十分だよ、自信持っていい。
ただちゃんと自分ひとりで経験して、独断で決めるべき所と相談すべき所を把握できるようにならないとな」
(;^ω^)「見南先輩……」
他人が言うほど自分では自信がなかった、本当に一人で出来るのかと思った。
今までは自分のミスを何度も見南先輩がカバーしてくれたのだろう。
これからは違う、自分の責任は確実に自分に返ってくる。
責任という言葉が重くのしかかった。
そして自分たちの新しいグループは4人、それに新人を足した5人で仕事を進めていくことになっていた。
その新入社員というのが……何という運命だったのだろう?
ξ゚听)ξ「津村です、大学を出たばかりで右も左も分からない状態ですが、頑張るのでよろしくお願いします」
- 136:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:11:51.16 ID:aOvnGawE0
- コンコン
( ^ω^)「お?」
ボケーッと考え事をしていると、窓を叩かれる。
見ると風羽さんがいて、窓ガラスをノックしていた。
夏らしい薄い服装、車と目線を合わせるために屈んでいて、その白い乳房が覗けた。
わざとらしく窓を開ける。
( ^ω^)「おはようだお」
(*ノωノ)「おはようございます、相変わらず早いですね」
( ^ω^)「気にしないでくれお、心配性なだけだお。
とりあえず車を旋回させるからちょっと待っててくれお」
(*ノωノ)「はーい」
駅前のロータリーをぐるりと一周して、風羽さんの前に助手席の扉をもってきた。
余談だが、自動車学校は社会人1年生の時に行った。
車を買ったのは結構最近だが。
(*ノωノ)「今日はすみませんね、わざわざ……」
( ^ω^)「暇だったからいいお。
映画館は尾布市の映画館でもいいかお?」
- 138:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:12:44.42 ID:aOvnGawE0
- 尾布市はここから車で30分ほど離れている。
(*ノωノ)「はい、いいですがどうかしたんですか?」
知り合いに一緒にいる所を見られたくなかった。
いや、決して浮気とかそんなんじゃないのだが。
絶対に違うのだが。
( ^ω^)「ドライブしたいお。あと、尾布市にお勧めのお店があるからそこで食事したいお」
(*ノωノ)「あ、分かりました。よろしくお願いしますね」
照れた笑顔がとても可愛かった。
仕事中は自分でも割り切っていられるが、こうやって休日に会うとすごく意識してしまった。
そんな考えを打ち消すかのように車を発進させた。
海岸通りの混んだ道を走らせる。
海ではもう泳ぎ始めている人達がいた。
(*ノωノ)「海……気持ち良さそうですね」
( ^ω^)「こう暑いと本当に泳ぎたいお」
(*ノωノ)「また今度、一緒に泳ぎにきましょうよ」
あどけない笑顔が可愛かった。
- 139:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:13:36.37 ID:aOvnGawE0
- 尾布市に着くと、自称「お勧めの店」であるイタリアンレストランに入った。
これまで一度ツンと入ったことがあった、このお店。
(*ノωノ)「いい雰囲気のお店ですね」
( ^ω^)「ちょっと値段は張るけど、オススメだお」
そして二人で食事する。
映画が始まるまでは1時間以上あった、何気ない会話をして時間をつぶした。
……懐かしい感覚だった。
これがツンとしたデートの感覚、これはデートではないがツンとのデートはこんな感じだった。
(*ノωノ)「それで、今日はどんな服装にしようかって悩んでいたんですが……思い切っておしゃれしてきました」
( ^ω^)「うん、とてもよく似合うと思うお」
(*ノωノ)「あぷー……面と向かって言われると恥ずかしいですよ……」
これはデートじゃない、断じて違う。
そんな事を思っていた。
そして……頭ではツンのことを考えていた。
- 140:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:14:44.86 ID:aOvnGawE0
- ξ゚听)ξ「津村です、大学を出たばかりで右も左も分からない状態ですが、頑張るのでよろしくお願いします」
(;^ω^)「……」
最悪だと思った。
そして怖かった。
自分の小中学校時代を知る者の登場は、恐怖以外何でもなかった。
せっかく忘れていたのに。
せっかく新たな人生を歩み始めていたのに。
あの時の自分とは乖離できないのだろうか?
いつまでも自分は縛り続けられるのだろうか?
ξ゚听)ξ「よろしく、内藤」
真っ先にそう言われた。
何をよろしくすればいいのか?
その挨拶はまるで脅迫のように感じた。
(;^ω^)「津村さん……よろしくですお……」
ξ゚听)ξ「何かしこまってるのよ、ツンでいいわよ。
それより仕事ちゃんと教えてよね、私全然分からないんだから」
「仕事ちゃんと教えてよね、教えなかったら……分かってるわね?」
勝手に頭の中で解釈が進んでいた。
怖かった。
- 141:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:15:38.59 ID:aOvnGawE0
- それからは上下関係に拘わらずツンに気を使い続けた。
仕事途中に分からないことはないか?
悩んでいるようなら誰よりも早くそれを察知して声をかけた。
お茶を汲みに行った時は忘れずに彼女にも欲しいかを聞いた。
ξ゚听)ξ「ブーン、これから飲みに行かない?」
断った事はなかった。
断るとどうなるか……それを考えると無理してでも一緒した。
『ブーン』というそのあだ名、そのあだ名がどれ程の恐怖を持っていたことか。
他の人達からは良くからかわれた。
「オマエツンちゃん好きなんだろ?」
「ラブラブだね〜」
笑って誤魔化しておいた。
本当のことを知られてはまずかったから、そんな反応しか出来なかったのだ。
体重は一気に痩せた。
そして毎日が辛かった。
- 142:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:16:34.32 ID:aOvnGawE0
- ( ´ω`)「ふぅ……」
J( 'ー`)し「最近辛そうね、大丈夫?」
(;^ω^)「お、全然大丈夫だお!」
空元気を見せつつも、精神的に限界に来ていたことは誰が見ても明らかだった。
ただ、それ以上にカーチャンも衰弱しきっていた。
元々体の強くない上に、ずっと自分のせいで過度の負担がかかっていたのだ、当然とも言えた。
そしてその年の冬に、とうとうカーチャンは倒れた。
(;^ω^)「……カーチャンがッ!?」
突然の病院からの電話。
そして母が倒れたという連絡。
仕事など後回しで病院に直行すると、意外に元気な母親がいて安心した。
ただそれでも体はもうボロボロらしい。
改めて見ると頭にはいくつものハゲが出来て、肌はカサカサで出来物ばかりだった。
まだまだ若い、そんな年でも無いというのに……改めて自分がどれだけ勝手に振舞ってきたのかを実感した。
J( 'ー`)し「ゴメンね、仕事中だったのに……でもカーチャンは全然大丈夫だからね」
- 143:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:17:33.87 ID:aOvnGawE0
- それからは思うように仕事が手に付かなかった。
考え事ばかりしてしまって、ともあればパソコンの画面に向かってポケーッとしていた。
ξ゚听)ξ「ブーン」
(;^ω^)「おっ! 何だお、どうしましたかお?」
ξ゚听)ξ「ううん、元気無さそうだけど大丈夫?」
止めてくれ、もう母親のことだけで頭がいっぱいなのに……そんな昔の事を考えたくない。
自分の昔を掘り返さないでくれ。
ツンという女性が怖かった。
(;^ω^)「全然大丈夫だお、心配させてしまってゴメンお、トイレ我慢していただけだお!」
とはいえ無碍に扱ったらきっと自分の過去を言いふらされた事だろう、とっさに言い訳を並べてトイレに逃げ込んだ。
この時くらいから少しずつツンを避けるようにした。
考えたくなかったんだ。
今までは仕事上そうもいかなかったが……もう自分が限界だった。
ξ゚听)ξ「……」
えてして無視や避けるといった行為は、される方は気付くものである。
今までの経験で学んだはずなのに……どこかで『人気者』の彼女は気にしないだろうと思っていたのかもしれない。
チヤホヤされてきただけの人間なんて、きっと気付かないだろうって……。
- 144:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:19:13.55 ID:aOvnGawE0
- それから一週間ほどは問題なく過ぎた。
その頃には自分もツンともほとんど係わり合いがなくなって、少し気楽になれていた。
J( 'ー`)し『大丈夫、アンタのお嫁さんを見るまでは死ねないからね……その後はもういいから……』
(;^ω^)『何バカな事言ってるんだお、そんなの僕が嫌だお!』
依然カーチャンの悩みはあるものの、仕事での気疲れが大きく軽減された事は大きかった。
ξ゚听)ξ「……ねぇブーン」
(;^ω^)「おッ!?」
そんな時に、久しぶりにツンから話しかけられた。
仕事の事だろうと思いつつ、心臓はひどく大きく鳴っていた。
(;^ω^)「資料はまだ完成していないですお、でも途中まででよければデータをメールするから――」
ξ゚听)ξ「そうじゃなくてさ、今晩暇?」
(;^ω^)「えっと、今晩は忙しいお、申し訳ないお」
この頃は事つけてツンからの誘いを断りだしていた。
断るくらいじゃツンは自分の過去を言いふらさない事が分かったし、
もしかしたら断った方がいいんじゃないか、相手も自分なんかと居たくないだろうなんて考え出していたんだ。
- 145:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:20:49.29 ID:aOvnGawE0
- ξ゚听)ξ「じゃ明日」
(;^ω^)「明日もちょっと……」
ξ゚听)ξ「じゃ明後日」
何の話か分からないが、とりあえず自分と話がしたいようだ。
しぶしぶ明後日で手を打った。
カーチャンは倒れてからずっと病院にいた。
誰もいない家に帰ると、カーチャンの大切さがジワジワと身に染みてくる。
明後日が憂鬱になってため息を吐いた。
なんで……ツンが自分を誘うんだろう。
大体想像できたが。
きっと自分の過去を使って何か言い出すのだろう。
それでも自分は絶対に仕事は止めないぞ、なんと言われようと挫けない。
カーチャンのためにも……止めれないんだ。
無視や虐めにはもう小中学校で慣れた、慣れても辛くて泣きそうにだってなるがとりあえず慣れたんだ。
小中学校のことを出されたら小中学校の扱いに戻る、ただそれだけだ。
(;´ω`)(きっと誘いを断り続けた事を怒ったんだお……
こんな事ならちゃんと誘いに乗っておけばよかったお……)
言い訳がましいのは自分の性格だ。
- 146:◆7at37OTfY6 :2006/07/22(土) 23:22:13.19 ID:aOvnGawE0
- (*ノωノ)「内藤先輩、それじゃそろそろ行きましょうか?」
( ^ω^)「おっ、もういい時間だお、映画楽しみだお」
昔を思い出していて相手の言葉は右から左にすり抜けていたが、
風羽さんはそれを気にする素振りもなく頑張って話しかけてくれた。
そんなに嬉しいのかと思う反面、相槌でも返ってくるという事の大きさを改めて感じた。
『おい、同じ植物同士話しろよ!』
違う、自分は植物なんかじゃない。
ツンだって当然植物なんかじゃない。
映画館に行くと、風羽さんと一緒に最近流行のラブストーリーを見た。
当然のように美男美女が下らない事で口論をし合っている、その様が遠くのことにしか見えなかった。
となりで風羽さんは泣きそうな顔で映画に入り込んでいた。
それをみて見ない振りして、ボーっと大きな画面を見ていた。
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