( ^ω^)ブーンが空も飛べるようです

542:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 15:29:20.18 ID:rj7j0ieaO
  

( ^ω^)が空も飛べるようです
遥か高空には小さな雲が漂っている。太陽は灼熱を示し、その眼下に広がる地上の万物を等しく照らしていた。
暑い。ブーンは手で汗を拭った。季節は夏。木々が青に染まり、地平で陽炎の戯れる、ある夏の日。時折吹き抜ける涼やかな風に、もう長い間切っていないブーンの髪が揺れる。
( ^ω^)「暑いお……」
炎天の下、ブーンは廃駅の古びたベンチに腰掛けて空を仰いだ。



545:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 15:32:51.40 ID:rj7j0ieaO
  

廃駅、とは言うものの、実際に死んだ駅なのかと問われれば、それはブーンにも答えることが出来ない。
片田舎の山中にある、木々に囲まれた小さな駅。色あせたベンチに埃が積もり、歪んだレールが赤錆を浮かせた、時間から乖離した空間。長らく電車が停止した覚えがない。その様がここを廃駅のように見せるだけで、本当はまだ、駅として機能しているのかもしれない。
固いベンチに背を押し付けるブーン。茹だる陽光の狭間を、蝉の鳴き声が舞い踊る。
( ^ω^)「ここに来るのも久し振りだお」



546:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 15:38:04.04 ID:rj7j0ieaO
  

一体あれから幾つの年月が過ぎたのか、ブーンにはもはや分からない。あまりに駅から離れ過ぎた。
皆は随分と前に列車に乗って、遠く、気の遠くなるほど遠く遠く遠いところに行ってしまった。
友人たちが旅立ったそのその当時、ブーンはどこか暗いところにいた。
ただ無力感がブーンに囁いていた。お前には何も出来ぬ、お前など何の価値もない、愚図、のろま、無能、それがブーン、お前の全てだと、暗く寒い憂鬱はブーンをそう罵り続けた。若いブーンはそれに屈した。抗う術を知らなかった。
憂鬱の海に沈んで、どれくらいの月日が空費されたのか、ブーンには正確に把握出来ていない。暗闇の中で見つけた光、VIPという、とある巨大電子掲示板を見て、「うはwwwおkwww」などと呟いている間に、色々な物を床の染みに変えてしまった。
いつしかブーンは闇に慣れてしまっていた。
( ^ω^)「光なんて必要ないおwww一生ここで暮らすおwww」
そんなことさえ嘯いて見せた。それは決して嘘ではなかったが、しかし真でもなかった。



548:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 15:45:38.10 ID:rj7j0ieaO
  

ブーンは闇に身を任せて漂い続けた。
一年、二年、三年と、ブーンの知らぬ内に月日は飛び行く。
そんな毎日をブーンは生き続けた。不安や疑問がなかったわけではない。そも、不安と疑問は名をブーンといった。
流動を忘れて、変動を無くし、同じ場面の連続する、無限にも等しい時間の群れ。ブーンは沈んでいる。暗く暗く暗く暗い闇の底、ブーンは両手を広げ、眠っている。
ある時、VIPにズビュンが空も飛べるようですというスレッドが設立された。
両手を広げてズビュン!と飛ぶ格好をしながら地上を走る、可愛さの中にどこか哀愁を感じさせ
るキャラクターが、本当に空を飛べるようになったという創作小説の連載用掲示板だった。
( ^ω^)「うはwwwwwww良スレktkrwwwwwww」力なく呟いて、ブーンはこの板に張り付くことに決めた。
そしてその日、ブーンは暗闇から飛び出した。
>>1によって描かれたズビュンは、見事に空を飛んでいた。ぎこちない動きで、ひどくみっともなかったが、それでも見事に空を飛んでいた。
苦しみながらも悪を討ち、恋をして、誰かを救い、走り、不格好に、それでも素晴らしく飛んで、そして戦った。
鬱屈した日々と。積もりゆく不安と。すぐに挫けそうになる自分自身と。
ブーンは、その姿に失った何物かを見出だしていた。



550:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 15:51:47.98 ID:rj7j0ieaO
  
学生時代の鬱々として、閉塞感に捕らわれていて、ある時は挫けそうになり、またある時は諦めそうになり、それでも立派に、ほうほうの体であろうが惨めであろうが、つらくてもくるしくてもそれでも勇壮に進み続けたあの日。
いつか必ず報われる時が来ると未来を睨んだあの瞬間から、いつかはきっと空も飛べるはずと高らかに歌ったあの日から――いったい、どのくらい経ったのだろう。
今まで暗闇に縛られていた思いが息を吹き返す。
ズビュンは飛んだ。
僕はどうした。
ズビュンは戦った。
俺はどうした。
俺は、俺は、俺は――。
気付けば闇を掻き分けていた。わけもわからず、衝動につき動かされて、水面に向かって泳ぎ続けた。手足に纏わりつく闇が重い。目鼻に流れ込む闇で苦しい。
それでもブーンは、浮かび続ける。
必至の必死で、ひたすらに、目指した。求め続けた。
光を。

そして気付けばここに居た。いつか、闇に誘われて背を向けた、夏の陽光降り注ぐこの駅に。
ブーンは再び列車に乗る為にやってきた。
いつか乗り損ねた、彼方に続く線路を走る希望と呼ばれる列車に乗るために。
あの暗闇にはもう戻らない。
何時だって光が欲しかった。必要だったのは切っ掛け。幾年の封印を、ズビュンはその立ち姿を持って断ち切ったのだ。
しかし。
(;^ω^)「列車、来ないお……」



551:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 15:55:43.46 ID:rj7j0ieaO
  

蝉の鳴き声に疾走する車輪の音が混じることはなかった。列車は来ない。列車は、とうの昔に過ぎ去ってしまった。
(;^ω^)「もう、ダメなのかお……」
あの暗闇が、脳裏をよぎる。
「――やあ。ようこそ、この時代遅れの廃駅へ」
突然に、ブーンは自分の隣りから声を聞いた。
( ^ω^)「だ、誰だお?!」
見ると、そこには一人の中年男性が座っていた。その姿はホームレスにも見えたし、紳士にも見えた。
(´・ω・`)「そう驚くことはない。私はショボン。このうらぶれた駅の駅長さ」
ショボンと名乗るその男は、柔らかに笑った。
( ^ω^)「え、駅長さんなのかお! ブーンは教えて欲しいことがあるんだお。列車は、もう来ないのかお?」
ショボンは微かに頷いた。
(´・ω・`)「残念だが列車はもう来ない。君は遅すぎたんだ」
(;^ω^)「そ、そんな……」
ブーンは愕然とした。体から力が抜けて行くのを感じる。無力感。また無力感だ。自分には何も出来ぬという空虚な絶望と無力感。
(´・ω・`)「しかし君は運が良い。今は特別に、列車を使わずに目的地に着ける裏技を教えてあげたい気分なんだ」
ショボンは、告げた。



553:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 16:03:28.22 ID:rj7j0ieaO
  

( ^ω^)「裏技ktkr! ほんとかお?! 教えて欲しいお、どうすれば良いんだお?!」
(´・ω・`)「でもこれはとても厳しくて、君には難しいと思う方法なんだ。きっと挫けそうになると思う。そんな方法でも聞きたいのかい?」
ブーンは一度目を瞑った。ためらったのではない。覚悟を決める為の、一瞬の祈り。
( ^ω^)「どんなことでもするお! 僕だって……僕だって飛べるお!」
ショボンは満足げに頷いた。
(´・ω・`)「まぁ、簡単な事なんだ。この線路に沿って、ずっとずっと歩いて行けば良い。百キロか、二百キロか、ひょっとしたらもっと長いかもしれない。うん、でも頑張れば行ける距離だとは思うんだ」
ブーンは寸時呆気にとられ、言葉に詰まり、そして、
(#^ω^)ピキピキ「それ、裏技でも何でもないと思うお! ふざけんなお!」
(´・ω・')「ははは。でもこんな事でも、きっと私が言わなければ気付かなかっただろう」
( ^ω^)「……」
ブーンは暫く押し黙っていた。
(´・ω・')「きっと厳しい旅になるだろうと思う。可愛い子には旅をさせろってね、サービスで特別列車を出してやるつもりもない。
でもこの道程を歩き抜いたとき、君は言葉では言い表せない「希望」や「未来」みたいなものを感じてくれると思うんだ。殺伐としたこの世界で、そんな感情を忘れないで欲しい」
ショボンは小さく笑うと立ち上がり、ベンチの後方に回り込んだ。
(;^ω^)「ま、待って欲しいお……」
慌てて腰を浮かせたブーンの視線の先には、誰もいない。誰の姿も、なかった。



555:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2006/06/17(土) 16:17:20.80 ID:rj7j0ieaO
  

( ^ω^)「……分かったお! やってみせようじゃないかお!」
ブーンは両手を伸ばしてやってやるおー!と叫んだ。そして駅のホームから飛び降りて、線路の枕木を踏み付けた。
(#^ω^)「ブーンは進むお! どこまでだって進んでやるお! もうあんな暗くて苦しい所は嫌だお! 皆みたいに、ズビュンみたいに……ブーンだって、飛んで見せるお!」
陽炎の踊る線路の真ん中を、ブーンは歩いて行く。
太陽は黙してブーンの道を照らし、雲は穏やかに時折ブーンに影を作り、蝉達は揃って唱してブーンを包み、草草の優しい匂いがブーンを行き先へ導く。
果てなく続く旅路、ブーンは錆付いたレールの上を歩きながら、両手を大きく伸ばした。
ゆっくりと、しかし確かに足取り。ブーンは碧く青い空を見上げた。
暑さは刻々とブーンの体力を奪って行く。ショボンの言った通り、厳しい旅になるだろう。
( ^ω^)「きっと今は……今は空も飛べるはずだお!」
ブーンは走り出す。転んだりしないと知っている。何故ならブーンは空を飛んでいるのだから。
飛ぶ鳥は躓いたりしない空を舞うブーンは、躓いたりしないしない。いくら駆けても疲れる訳がない。渡り鳥は風に乗れるから。旅するブーンも風に乗れるから。
そのときブーンは――そのときブーンは、確かに空を飛んでいた。


【( ^ω^)が空も飛べるようです】
終わり




最後に一つだけ。
正 直 す ま ん か っ たorz
こんな厨文読んでくれてありがとうね(´・ω・`)



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