ガンパレードブーン


  
431:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/28(月) 23:48:19 ID:o1c1+2Vp0
  
(;^ω^)「!?」
瀬戸口「・・・消えた?倒した・・・わけじゃないよな、さすがに。どこ行っ…」
(;^ω^)「後ろだお!」
瀬戸口「なに!?」

影法師は瀬戸口の後ろにいた。
まるで最初からそこにいたかのように。
影法師は手をかざす。瀬戸口にかざされたその手が何かを握る。

瀬戸口「ぐぁ・・・!?くっ、この俺に気配を感じさせないだと・・・!」

影法師が握っているのは瀬戸口の体だった。
不可視の握力にとらわれ、瀬戸口の体が悲鳴をあげる。

( ^ω^)「今助けるお!」

影法師に向かう内藤にむかって、影法師はかざされた手をふるう。
その手の先にある瀬戸口の体が、ハンマーのように内藤を吹っ飛ばした。



  
436:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 00:16:53 ID:KUoSz1B00
  
自分に突っ込んできた瀬戸口の体を抱きとめながら、内藤は地面に転がる。
二人が立ち上がっても、影法師は動いていなかった。

(;^ω^)「・・・なめられてるお」
瀬戸口「痛ぅ〜、骨がギシギシいってやがる・・・。おい、なんか変だ、あいつ。気配がねぇ」
影法師「それは・・・当然」

影法師の声は背後から聞こえた。
さっきまで前方にいたはずの影法師の体はどこにも見当たらない。
内藤が後ろを振り向くと同時に、隣にいた瀬戸口の体が地面に叩きつけられる。

影法師「私はこの世界のキャラクターではない。ただの介入プログラム。故に気配などはない」

瀬戸口の体は地面に沈んでいく。
道路の舗装を破り、肉を削り骨を軋ませながら。

瀬戸口「こっ・・・の・・・!俺ばっかり攻撃しやがって・・・!」



  
437:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 00:27:48 ID:KUoSz1B00
  
影法師「不公平かね。それではこうしよう」

影法師が内藤の後ろを指差す。
そこにあった竜の残骸がいくつかの形を作る。それは幻の肉でつくられた砲台。
その砲台から、生体レーザーが放たれる。

砲台の数は4つ、たかが4本のレーザーではアーリィFOXは捕まえられない。
内藤はいったん影法師から標的を変更した。
姿が霞むほどの速度で砲台にせまり、あっさりと4つの砲台を破壊する。
それが敵の狙い。
内藤は砲台を破壊するために影法師と距離が離れていた。
いかにアーリィFOXが速かろうと、距離を縮めるためにはわずかの時間がかかるのは必然。
そのわずかな時間は、影法師が口を動かす時間。

影法師「赤よ赤。捩じれよ螺旋。螺旋は破壊、曲がれ」

影法師に迫っていた内藤の脚が、あらぬ方向にねじれ曲がった。



  
440:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 00:53:03 ID:KUoSz1B00
  
(;^ω^)「っ!!??・・・・っ!!」

脚が曲がり折れ、アーリィFOXの高速をそのままに地面を滑っていく。
内藤の最大の武器である速さは奪われた。

重圧で地面に縛り付けられている瀬戸口と、脚を破壊された内藤。
それに対し、悠然とたつ影法師。

影法師「・・・ふむ。別に士魂号を使ってもらっても良かったな。これでは楽しめん」

内藤の蹴りで少しヒビのはいった仮面を正し、ため息をつく。
やはりこの世界のキャラクターではプログラムには勝てないのか。

舞「・・・ならば楽しませてやろう」
速水「うん。許可がでたね、使わせてもらうよ」

声がした方向を仰ぎ見る。
戦っている三人を見下ろすビルの上。
左腕を失い、間接部の融解した装甲をむりやり引き剥がした複座がいた。



  
445:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 01:33:08 ID:KUoSz1B00
  
影法師に比べ、圧倒的な体躯を誇る士魂号が跳躍する。
自分をめがけ落ちてくる複座の巨体を前に、影法師は瀬戸口にくわえていた重圧をけし、影に溶けた。
重圧から開放され、即座にその場をはなれる瀬戸口。
瀬戸口がいた辺りに、複座が轟音とともに着地する。

瀬戸口「・・・速水と姫さんか。青の選んだ青たる青と、青の娘。・・・だが、あの影に勝てるか?」
(;^ω^)「あいつ、無駄に強いお・・・どうすれば勝てるお?」
瀬戸口「・・・どこかの誰かが望めば・・・あるいは・・・」

影にとけた影法師は複座の影から現れた。
複座は、再び手にした宝剣で迎え撃つ。
炎を従えるその剣閃を影法師はゆらゆらとかわした。
常に複座の死角をとるその動きは、静かにして豪華絢爛。
ループを飽きるほど繰り返した動き。
複座も持てる戦技を駆使する。死角の取り合い。

舞「・・・ちょこまかと!」
速水「舞、後ろをとる!すぐに斬って!」

複座は竜との戦いで傷ついた筋肉を酷使し、素早くステップを踏む。
右斜め、反転しつつ背後へ。影法師が反応するよりも早く。



  
446:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 01:34:56 ID:KUoSz1B00
  
舞「とった!」

宝剣を振り下ろす。
圧倒的な体格差。

影法師「ぬぅ!なめるな、キャラクター!!」

絶命必死のはずの宝剣の一撃を、影法師は両の手で受け止めた。
うけとめた影法師の立つ地面が割れる。宝剣の炎が影法師の手を焼いた。
だが、その剣身は影法師に届かない。

速水「・・・白刃取り!?」
舞「馬鹿な!」

振り下ろす複座の腕と、うけとめる影法師の腕が震える。
影法師の掌がわずかに赤く光った。

影法師「赤よ赤!我が双掌の間隙にありし物!悉く砕けよ!」

宝剣が赤い光に包まれ、炎がかき消える。
だが、神々が打ったただ一振りの剣は決して折れなかった。



  
450:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 02:11:34 ID:KUoSz1B00
  
影法師「・・・折れぬか・・・!」

影を断たんと隻腕に力を込める複座と、そうはさせぬと受け止める影法師。
拮抗は続く。
だが、やがて複座の力が弱まってきた。
すでに人工筋肉が限界にさしかかっている。押し戻される宝剣。

影法師「てこずらせたな、ヒーローとヒロインよ!」

影法師が宝剣を押し戻し、駆ける。
今までのゆらゆらとした動きではない、直線の動き。
影法師は複座を殴り飛ばした。
へこむ胸部装甲。

速水「ぐぶっ・・・ぁ・・・がっ・・・」
舞「速水!?速水!返事をしろ、うつけもの!」

装甲と共に、速水の体が押しつぶされる。
速水は激痛の中、意識を手放した。



  
452:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 02:25:14 ID:KUoSz1B00
  
影法師「・・・ふん。いらぬ力をつかわせよって」

着地する影法師。
それに迫る者があった。
満身創痍の瀬戸口が、影法師を羽交い絞めにする。
影法師は、影に溶け逃げようとした。

瀬戸口「させるか・・・!リューンよ、わずかな時で良い、こいつの動きを!」
影法師「むっ!?こ、小賢しい・・・!」

青い光が影法師と瀬戸口をつつむ。
影に溶けかけた影法師の体は形を取り戻した。

瀬戸口「今だ!俺が動きを止めている間にこいつを・・・!」
影法師「ふん、脚が使えない者に何が出来る?無駄な足掻きだ」
( ^ω^)「・・・俺が・・・誰かが、望めば・・・!」

内藤は立ち上がる。
折れた足を無理やり使って。



  
456:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 02:35:48 ID:KUoSz1B00
  
瀬戸口「そうだ!俺の事は構うな!こいつを倒してやり直す事だけ考えろ!」
( ^ω^)「わかってるお・・・!俺が今出来ることはそれだけだお・・・犠牲はいとわないお!俺は、希望だけを望むお!」

その声に呼応し、アーリィFOXの青い単眼が輝きを増す。
制御系の奥深く、内藤の望みにこたえる存在があった。
その存在は、7つの世界でただ一つ、VIPクオリティをもつプログラム。

−VIPPERS−SYSTEM Ver0.87 −

…………nu ru po

GA!!

“おけwww把握したwwwwwww”



  
461:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 02:57:49 ID:KUoSz1B00
  
アーリィFOXの脚部筋肉が、ただしい形へと戻っていく。
その内部でバキバキになっている内藤の脚は、脚部筋肉の膨張、形状変化により、無理やり真っ直ぐになる。
凄まじい激痛が走るが、それさえ無視すれば、使える。一度くらいなら、走れる。

( ^ω^)「うっ、痛ぅ・・・青い光・・・これが最後だお、力を貸してくれお・・・!」

傷ついた脚と体で、内藤はクラウチングスタートの構えをとる。
アーリィFOXの装甲は漆黒。
それは、黒すぎて青く見えた。
アーリィFOXの瞳は一つ。
それは、未来しか見る必要がないから。

未来とは希望。
内藤は、希望へむけて走り出す。
その速度はまさに神速。ゴッドスピード。

( ^ω^)「精霊ブーーーーーン!!!!」



  
463:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 03:08:08 ID:KUoSz1B00
  
いつか聞こえた歌が聞こえる。
それはどこかの誰かが愛する歌。内藤のために歌う歌。

( ^ω^)「光る風を追い越したらー」

内藤は駆ける。
影法師にむかって。

( ^ω^)「君にきっと逢えるねー」

影法師を縛る青い光が薄れていく。
影法師は瀬戸口を払いのけ、殴り飛ばした。

( ^ω^)「新しい輝き・・・!」

だが、遅い。
影法師は避ける間もなく、青い流星にさらされる。

( ^ω^)「HAPPY READY GO!!!!」



  
465:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/29(火) 03:17:01 ID:KUoSz1B00
  
影法師は青い流星の前に消し飛ばされる。
内藤とどこかの誰かの最後の一撃の前に。

影法師「・・・見事だ。コンテニューするがいい。私も、少しだけハッピーENDを見たくなった・・・」

消え去る前、影法師はそう言った。
空を駆けたまま、内藤の意識が薄れていく。
まるで悪夢から目覚めるように。
まるで眠りに落ちるように。

次は、いい夢が見れそうだった。



  
595:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/30(水) 02:35:40 ID:9fVXE2QR0
  
内藤は、空を駆けていた。
何のために駆けているのか思い出せない。

内藤は立ち止まった。
あたりを見回す。
静かな夜空に、わずかな戦いの匂い。内藤がいるのは、熊本城。
あの日のあの夜。分岐の夜。

( ^ω^)「・・・?今、俺は・・・?」

内藤は夢を見ていた。悪い夢を。
友を失い、愛する人のところに戻れなかった夢。
絶望の世界で希望を求めた夢。
希望を求め駆け抜けた先で、目が覚めた。
目が覚めたら、夜空を駆けていた。

( ^ω^)「一瞬だったけど、長い夢だったお・・・ここは、熊本城?・・・たしか俺は・・・」



  
598:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/30(水) 03:00:30 ID:9fVXE2QR0
  
(;^ω^)「そうだお、ドクオ!!」

内藤は止めていた脚を動かす。
目指すは熊本城。
悪い夢を見たせいだろうか。何か、とても嫌な予感がした。
さっき見た夢を正夢にするわけには行かなかった。


103
内藤は熊本城にたどり着く。
熊本城では、ドッペル西洋型が静かに立ち上がる所だった。
ドッペル西洋型は剣鈴を折られても、折れた剣鈴を手放していない。
ドクオに気取られないように、ゆっくりと静かに折れた剣鈴を構える。
腰を落とし、ドッペル西洋型は損傷だらけの脚に力を込める。
夢と同じ光景。

内藤は、着地した熊本城の正門の上からその光景を見ていた。
あの悪い夢では、内藤はドクオに呼びかけた。結果、間に合わなかった。
なら、今度は―――

(;^ω^)「ちんぽっぽ!!ドクオを助けてくれお!!」
('A` )「ぁん?」

その声がドクオに届くと同時に、ドクオの駆る西洋型の腹部から折れた剣鈴の切っ先が突き出した。



  
599:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/30(水) 03:00:54 ID:9fVXE2QR0
  
('A` )「・・・ガ・・・ハッ・・・」
(;^ω^)「ドクオ!!!!」
('A` )「へっ・・・お前が変な事叫ぶからよ・・・避けそこなったじゃねぇか…」

ドッペル西洋型が折れた剣鈴を引き抜く。
抜いた後すぐに、刺突の構え。

('A` )「ちっ・・・俺も、瀬戸口の二の舞・・・か。だがよぉ・・・てめーは連れてくぜ!!」

ドクオは剣鈴を逆手に持つ。
ドッペル西洋型の折れた剣鈴が心臓のあたりに迫る中、ドクオは逆手に剣鈴をもったまま大きく腕を振り上げる。

(;^ω^)「頼むお、ちんぽっぽ!!

左胸をドッペル西洋型に貫かれながら、ドクオは自分の体、西洋型の腹部を突き刺した。
背中から突き出した剣鈴がドッペル西洋型を貫く。
ドッペル西洋型の胴体中心部、コクピットにあたる部分にあるコアを貫かれ、ドッペル西洋型は静かに霧散した。

ドクオの駆る西洋型は、腹部に自分の剣鈴を突き刺したまま膝をつき、それから動かなくなった。



  
600:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/30(水) 03:01:09 ID:9fVXE2QR0
  
(;^ω^)「ドクオ!大丈夫かお!?返事するお!!」

夢では、西洋型は動かなかった。
だが、動いた。膝をついた格好から後ろに座り込む。
合成された機械的な声と、ドクオの声が聞こえてきた。

(*‘ω‘ *)「…大丈夫だ。彼が自分ごと敵幻獣を刺す瞬間、私から強制的に感覚リンクを切った。」
('A`)「ぐぁっ…ぃ痛つつ…大丈夫じゃあるかよ、腹刺されてんだぜ、こっちは!」
(*‘ω‘ *)「命があるだけマシだろう。私に感謝するのだな」
('A`)「それだけどよ、なんでお前が感覚リンクを切れるんだよ。完全同調してメインは俺のはずだろうがよ」
(*‘ω‘ *)「私は特別だと言わなかったかな?まぁ・・・あれだけ大声で呼ばれればな」
('A`)「けっ、デタラメな戦車だぜ。…おー痛ぇ」

ドクオが腹を抑えて、西洋型から降りてくる。
軽口を叩いてはいるが、腹部を貫かれているのだ、顔色は悪かった。

(;^ω^)「ド、ドクオ、大丈夫かお?死なないかお?」
('A`)「いきなり縁起悪い事言ってんじゃねぇよ阿呆。この俺がこの程度で死ぬかっての」
( ^ω^)「そうかお。そりゃそうだお、ドクオは強いからこれくらいじゃ死なないお!」
('A`)「どっちだっつーの…それにホレ、迎えも来たしな…」

ドクオが指差した先の夜空に、軍用ヘリの点滅灯が見える。
さっき見た悪い夢では、あれに乗るなと言われた。だが、内藤はあれに乗ろうと思った。
これは、あの夢とは違うのだから。



  
730:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/11/30(水) 23:51:32 ID:Fzaw0Ib90
  
内藤とドクオは迎えのヘリに乗った。
眼下では西洋型が片手をあげている。
ヘリの中でドクオは自分で傷の応急手当をした。
内藤は横で見ている。

('A`)「・・・見てるだけかよ、内藤。そこの包帯とってくれ」
( ^ω^)「ん、わかったお」
('A`)「よし、っと・・・。で、内藤よ」
( ^ω^)「なんだお?」
('A`)「お前、何があった?俺と別れてた間にずいぶん気配が変わってるじゃねぇかよ」」
( ^ω^)「気配?何いってるお、ドクオ?俺は別に変わらないお?」
('A`)「・・・そうか。じゃあ俺の気のせいだな」

('A`):(やはり何か違う・・・この感じ、力翼が増えている・・・?)



  
752:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 00:38:57 ID:S8TwSNbE0
  
内藤とドクオはVIP小隊に帰ってきた。
ウォードレスを脱ぐために整備テントにはいると、誰かがコーヒーを飲んでいた。

(*゚ー゚)「随分遅かったわね。迷子にでもなった?」
( ^ω^)「・・・しぃさん?まさか待っててくれたのかお?」
('A`)「まさか。違うだろ・・・何やってんだ?一人で。ギコと一緒じゃないのか?」
(*゚ー゚)「いいえ、待ってたわよ?内藤君が連れてくる狐さんをね」
( ^ω^)「・・・俺がこいつを着てくるってわかってたのかお?」
('A`)「・・・誰から聞いた?いや・・・聞いて知り得るものじゃねぇ、何者だいあんた?整備班長さんよ」
(*゚ー゚)「やーねぇ、そんなに構えないでよ。私はちょっと耳の早い整備班長。それだけよ」
('A`)「・・・」
(*゚ー゚)「ほら、さっさとウォードレスなんか脱いじゃって。早く帰って寝なさい」
( ^ω^)「・・・何で知ってたのか不思議だけど、それがいいお。帰ろうお、ドクオ」
('A`)「・・・そうだな。腹も痛ぇしな・・・」

('A`):(・・・本気で何者だ?・・・熊本の女傑とでも繋がりがあんのか?わかんねぇが、注意しても良さそうだな)

( ^ω^)「何してるお、ドクオ。考えても仕方ないお、帰って寝るお」
('A`)「ん・・・あぁ。そうだな、そういや今日ゴージャスタンゴの再放送あったし帰るか」



  
756:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 00:58:21 ID:S8TwSNbE0
  
(*゚ー゚)「・・・もしかして変に疑われちゃったかしらね」

しぃは二人が帰った後で、新しいコーヒーを淹れた。
内藤が来ていたアーリィFOXに近寄る。

(*゚ー゚)「さて・・・光る風の向こうに何をみたの?狐さん?」

誰かが見ていれば、独り言のように見えただろう。
だが、アーリィFOXの状態を示すコンソールに返答があった。
その画面には、黄金色の文字で“希望”と書いてあった。

(*゚ー゚)「そう。それが世界の選択なのね。…なら、私も少しだけお手伝いさせてもらおうかしら」

しぃはそう言って一人作業を始めた。
しぃの苗字は萩という。それは小隊の人間なら誰でも知っている事。
だが、しぃには誰も知らない名前があった。
その誰も知らない名前は、どこかの世界の魔女と同じ。
その名を、ヴァンシュタインといった。



  
760:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 01:11:51 ID:S8TwSNbE0
  
内藤は、ドクオの家でゴージャスタンゴの再放送を見て家に帰った。
自分のベッドにもぐりこむ。
楽しい夢でも見ているのだろうか。
幸せそうに眠る内藤を、青い光が見守っていた。
青い光に集まるように、小神族が集まってくる。

「不思議な感じの人ね、イトリ」
「私達の加護を受けてるわけでもないのね、どう思う、ハトリ?」
「うん・・・ズームイン!!かな?」
「意味わかんないわよ」

ハトリと呼ばれた小神族が、内藤の頬にそっと触れる。
小神族はしばらく内藤の顔を見た後去っていった。
小神族は皆笑っていた。内藤の幸せそうな顔を見ただけで何故か楽しくなった。
内藤はどんな夢を見ているのだろう。



  
765:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 01:38:40 ID:S8TwSNbE0
  
熊本城攻防戦から数日後、VIP小隊のメンバーは司令室に集まっていた。
司令室といっても、女子更衣室を使わせてもらっているのだが。

FOX「・・・あー、という訳で。人型戦車の補充は時間がかかる。よって、しばらくは人型戦車・・・M型ではなく、L型を使ってもらう」
('A`)「・・・で、誰が乗るんだ?嫌な予感しかしねぇんだが」
( ´_ゝ`)「戦車兵は一人以外全員入院してやすがねぇ?」
('A`)「・・・俺も腹に穴開いてんだが・・・」
FOX「私は一向に構わんッッッッ!!!!」
(#'A`)「・・・止めるな、長岡。こいつは斬る・・・!」
(;゜∀゜)「落ち着け!落ち着け!」
荒巻「・・・ブワッ」
( ^ω^)「スカウト隊は健在だお。スカウト隊は今までどおりかお?」
FOX「うむ。戦車がL型になるだけだ。以上だ、解散して良いぞ」
(#'A`)「・・・野郎、逃げやがった!」

FOXは解散を言い渡して脱兎の如く女子更衣室から出て行った。
元気に追っていくドクオ。腹の傷は大丈夫なようだ。

( ^ω^)「・・・今日も平和だお」
(,,゚Д゚)「おい、飯食おうぜ内藤。てかこれ見ろよ、しぃの手作り弁当。どうよこれ?どう思う?なぁ」
( ^ω^)「うん、とりあえずギコは死んでいいお」



  
771:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 02:46:43 ID:S8TwSNbE0
  
VIP小隊は伊達に熊本城攻防戦を乗り越えていない。
たとえ戦車がL型一台になっても、普通の戦闘では安定した戦果をあげた。
熊本の幻獣の総数も減り、休みも増える。
そんなある休日の出来事。
ショボンが病院で目を覚ます。

(´・ω・`)「・・・ここは・・・病院、か。生きているようだな、僕は」
白衣の男「目を覚ましましたか、ショボンさん。気分はいかがです?」
(´・ω・`)「良くはないね・・・目が覚めたら病院で・・・失くした左腕どころか、脚もない」
白衣の男「・・・あなたの脚は生体レーザーの熱による火傷で組織が破壊され、壊死が進んでいました。生命維持のためには脚の切断手術が必要だったのです」
(´・ω・`)「・・・そう。あの怪我だったからね。しょうがないか・・・残念だけど」
白衣の男「そこで提案が。あなたが望むならば現在研究中の四肢のクローン培養による再生手術が可能です。・・・希望しますか?」
(´・ω・`)「!・・・考えさせてくれ・・・と言いたいけど、希望するよ。一応、僕にも守りたい人がいるからね」
白衣の男「ではここにサインを。はい、結構です。研究中の技術ですので秘密裏に移送されますがよろしいですか?」
(´・ω・`)「かまわないよ。この手足が治るならね」
白衣の男「わかりました。フフフ、良い、実に良いぃぃぃぃぃ!では早速移送の手続きをしましょう!準備派出来ています!イヒヒヒヒ素晴らしいぃぃぃ!!」
(´・ω・`)「・・・ずいぶん変態チックな医者だね」



  
775:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 03:04:22 ID:S8TwSNbE0
  
病院でそんなやり取りがあった頃。
整備員A、勇美は、病院に向かっていた。その表情は実に微妙だった。
缶ジュースを飲みながら、曲がり角を曲がる。

「キャッ!?」
勇美「あっ!?ご、ごめんなさい!大丈夫ですか・・・?」
「大丈夫じゃないよ、もー!見てよこれ、染みになっちゃったらどうするのよ!」
勇美「ごめんなさい・・・ちょっと考え事をしてて・・・」
「むぅ〜・・・もう!君、名前は?」
勇美「あ、はい。勇美です。あの、本当にすいま・・・」
「勇美?へぇ〜、僕と同じ名前じゃん!あ、僕、新井木。新井木勇美!」

新井木「同じ名前だしね。僕の服にかかったジュースの弁償は大負けに負けてあげる!」

勇美は、自分と同じ名前の少女に連れられて半ば強引に味のれんという店に連れて行かれた。
どうやらアップルパイを奢らされるらしい。



  
776:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 03:26:28 ID:S8TwSNbE0
  
勇美は、新井木と一緒にアップルパイを食べていた。
この戦時下だというのに凄まじい低価格。店の売り上げが心配になった。

新井木「ふーん。好きな人のお見舞いに行く途中だったんだ。・・・もしかして悪いことしちゃった?」
勇美「・・・ううん、良いですよ。行くかどうか、迷ってたし・・・」
新井木「迷ってた〜?何で何で?」
勇美「・・・私、素直じゃないんです。なんていうか、笑ってごまかしてるって言うか、ストレートに接しきれてないっていうか・・・」
新井木「・・・ふーん。君も馬鹿だね。何でも素直に言わないと通じるはずないじゃん」
勇美「そうですけどぉ・・・怖いでしょ?あの人淡々としてるし・・・私またいつも通り冗談まじりで接しちゃうかもしれないし・・・」
新井木「・・・だからどうした!」
勇美「え?」
新井木「恋でも何でも、だからどうしたって言う所から始まるのよ!怖がってないで突撃しないと何にもならないじゃん!」
勇美「・・・」
新井木「気持ちのままに突っ込んじゃえば良いの!で、悪いことしたり怒らせたりしたら素直に謝る!常識だよ!!」
勇美「・・・そうですよね。うん、そうですよね!なんだかスッキリしました。私、お見舞い行ってきます!」
新井木「うんうん、がんばれ〜」

勇美はアップルパイの代金を払うと、駆け出していった。
新井木は満足そうにニコニコしている。

新井木「へへ、良いことしちゃったかも。おじさん、アップルパイもう一つ〜!食べ終わったら僕も先輩探しに行こっと!」



  
778:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 03:53:28 ID:S8TwSNbE0
  
勇美は病院まで走ってきた。
乱れた息を整える。

勇美「よし、素直に・・・行くぞっ、と」

ショボンの病室に行く。だが、病室には誰もいない。
すでにショボンは白衣の変態により移送された後だった。
もちろん、そんな事は誰も知らない。
ショボンの病室にショボンがいない。
事態が飲み込めない勇美の耳に、廊下を歩く看護婦の会話が聞こえてくる。

「そこの病室の患者さん、どうしたの?」
「さぁ・・・先生に聞いたら聞くなって言われたから・・・多分」
「死んじゃったんだぁ・・・すごい怪我だったもんねぇ・・・」
「戦争してるんだもん、仕方ないよ」

勇美の体が震える。
いなくなった?死んだ?ショボンさんが?

勇美「嘘。嘘よね・・・嘘だ・・・!!」



  
780:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 04:12:49 ID:S8TwSNbE0
  
そうだ、きっと末端の看護婦が偶然知らなかっただけで、別の病室に移されたんだ。
勇美は受付に行き、ショボンの事をたずねる。
だが、返ってきた答えは期待していたものではなかった。

「親族の方ですか?そうでなければ教えられない事になっていて・・・」

親族の方にしか教えられない?
親族くらいの関係じゃないと教えられない事。
それはつまり、死んでしまったという事?

勇美「・・・っ!」

勇美は駆け出した。
小隊のある学校に。
もしかしたら、ショボンがひょっこり帰ってきているかもしれないから。
それは、儚すぎる希望だった。



  
781:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 04:13:16 ID:S8TwSNbE0
  
ショボンが移送されてすぐ、FOXに連絡がきていた。
ショボンが芝村の研究所で研究中の医療技術を試すと。
連絡を受けたとき、司令室にはFOXとフーン、そしてギコがいた。

FOX「芝村の研究所にか。ショボンが希望したらしいが・・・」
( ´_ゝ`)「危なくないんですかねぇ?実験台にされたり・・・」

司令室の外の廊下で、足音がした気がした。

(,,゚Д゚)「しっかしショボンも馬鹿だよなぁ」
FOX「まぁ、もう行ってしまったんだ。仕方なかろう」
( ´_ゝ`)「まったくですよ。冥福を祈るとしましょう」
(,,゚Д゚)「チーン・・・てな」

その時、また足音が聞こえた。
誰かが走っていったようだ。

FOX「縁起の悪いことを言うんじゃない。別に死なんだろう」
( ´_ゝ`)「ま、そりゃそうですなぁ」
(,,゚Д゚)「別に俺らだって本気で言ってんじゃないさ」



  
782:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 04:14:02 ID:S8TwSNbE0
  
勇美は学校にもどってきていた。
ショボンの居場所を知っていそうな人を探す。
司令なら知っているかもしれない。

司令室の前まで行って部屋にはいろうとした時、話し声が聞こえてきた。

「しっかしショボンも馬鹿だよなぁ」
「まぁ、もういってしまったんだ。仕方なかろう」
「まったくですよ。冥福を祈るとしましょう」
「チーン・・・てな」

馬鹿? なにが?あの人が何かした?
いってしまった? どこへ?逝ってしまった?
冥福を祈る? 誰の?なんで?
チーン・・・てな? なんでそんなにふざけて言ってるの?

勇美は言いようのない感情に包まれ、走った。
不安、恐怖、怒り、悲しみ、喪失―――。
それら全てが混ざり合った感情は、絶望といった。



  
783:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 04:15:55 ID:S8TwSNbE0
  
耐え難い絶望と、世界への憎しみと、赤い光。
怒りが世界を、すべてを憎み。
悲しみが自分を閉じ込めて。
その殻の中に、赤い光がはいってくる。
その赤い光は、自分を慰めてくれるようで、心地よかった。



  
784:1 ◆NcZOHhe0jA :2005/12/01(木) 04:16:15 ID:S8TwSNbE0
  
その幻獣は、突然VIP小隊の学校の校庭にあらわれた。
女性的な形。ゆがんだ顔。小柄な体躯に、涙を流す赤い瞳。背中には6枚の翼と、長い尾。
その体は深紅。
その幻獣は嗤う天使のようにも、泣いている人間のようにも見えた。

そしてその幻獣は、何故か、雄雄しい竜のようにも見えた。



TOPに戻る次のページ