('A`)ドクオが一瞬を見るようです
- 78: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:25:43.96 ID:q9kjNJAC0
( ^ω^)「はい! 無事に駅に着きましたお!!
しかし、家に着くまでが海水浴です! みんな、寄り道せずに帰りましょう!!」
('A`)ノξ゚ー゚)ノ川 ゚ -゚)ノ「「「 はーい!!」」」
( ^ω^)「しかも、ななななーんと! もうすぐで十二時ですお!!
女性の一人歩きは危険なので、僕がツン、ドクオがクーを家まで送りますお!!」
駅前についた一行。
矢継ぎ早になされたブーンの提案に、俺とツンの表情が固まる。
クーは相変わらずのポーカーフェイスでよく分からない。
ξ////)ξ「べべべっ、別に送ってもらわなくて結構よ!」
( ^ω^)「どうせ家が隣だお。ついでだお」
('A`;)「お、おおおおおおお、俺がクーを送っていくのか!?」
( ^ω^)「だって長岡、電車に置いてきちゃったんだもん」
- 82: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:27:22.82 ID:q9kjNJAC0
('A`;)「そ、そういえば長岡がいない!
終電だぜ!? なんで起こさなかったんだよ!?」
( ^ω^)「だってあいつ、起こしても起きなかったんだもん」
('A`)「そりゃ仕方ないな」
ξ゚听)ξ「仕方ないわね」
川 ゚ -゚)「ああ、仕方ないな」
満場一致で、ブーンの無罪が決定した。
- 86: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:31:44.36 ID:q9kjNJAC0
そんなわけでクーを家まで送っていくことになった俺。
('A`;)「……」
川 ゚ -゚)「……」
だけど、どうにも気まずい。会話が、ない。
二人っきりは今までも数度あり、そのときは平然と話せた。
しかし、今は深夜だ。人もほとんど歩いていない、ホントにホントの二人っきり。
それに、もともとクーは自分から話しかけてくるタイプの人間ではない。
ならば俺から話しかけなければならないのだが、
先ほど彼女の胸の谷間や寝顔を見てしまったせいなのか、
なんだか意識してしまって、いつものように話しかけられない。
('A`;)「今日は……楽しかったな」
川 ゚ -゚)「ああ。楽しかった」
頑張って話しかけても続かない。
ちょっぴり泣きたくなった、そんな十七の夏。
- 88: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:33:43.79 ID:q9kjNJAC0
川 ゚ -゚)「……なあ」
('A`)「んぁ? どうした?」
話が続くような会話の内容をシミュレートしていると、突然彼女が話しかけてきた。
珍しいことだった。
普段、彼女は自分から話しかけるようなことはしない。
初対面の頃はその理由がわからなかったが、
長く友達づきあいを続けることで、その答えが見えてきた。
彼女はシャイなのだ。
クールな態度や外見に隠れて見えにくいが、本質的には人見知りなのだ。
そんな彼女が話しかけてきた。もしかしたら彼女も俺と同じように、
深夜に異性と二人っきりで夜道を歩くという異質な状況に戸惑っているのだろうか?
そう思うと、気が楽になった。
緊張の糸が少しずつほどけていく。
- 89: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:34:44.02 ID:q9kjNJAC0
川 ゚ -゚)「ドクオは、大学にいっても水泳を続けるのか?」
彼女の声がハッキリと聞こえる。
意味を理解し、反芻する。
少しの間をおいて答える。
('A`)「……続けないな、きっと」
川 ゚ -゚)「どうしてだ?」
('A`)「……」
どうしてなんだろう?
ただ漠然と『水泳を続けない』と考えていたせいで、今度はしばらく考え込む羽目になる。
- 91: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:36:57.97 ID:q9kjNJAC0
('A`)「多分……お前たちがいないからだろうな。
ブーン、ツン、クー、お前たちがいないからだ」
ポツリ、ポツリと、言葉が不思議なほど自然に出てくる。
なぜだかわからない。だけどきっと、これが俺の真実の想いなんだろう。
('A`)「このメンバーで泳げた。だから、高校からはじめた初心者の俺も部活を続けられたんだと思う。
俺はは水泳が好きなんじゃなくて、きっと、お前たちといるのが好きだったんだ。
大学にはお前たちはいない。なら、俺が水泳をする意味は、もうない」
川 ゚ -゚)「……そうか」
('A`)「俺からも聞きたい。お前はなんでうちの学校に来たんだ?
うちの学校の水泳部は、たいして強くもない普通の水泳部だ。
お前ほどの腕なら、もっと強い高校から誘いがあっただろう?」
入部したての頃。
まったくの初心者だった俺から見ても、彼女の泳ぎは群を抜いていた。
今も目の前に浮かんでくる。
水を切り裂くように進むのではなく、水の合間を縫っていくかのような、滑らかな泳ぎ。
- 93: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:39:45.75 ID:q9kjNJAC0
川 ゚ -゚)「……なんとなくだ。なんとなく、いやだったんだ」
('A`)「なんとなく、か?」
川 ゚ -゚)「ああ。いろいろな高校から誘われて練習にも参加したが、楽しくなかった。
みな、表面上は仲良くしている。でも、その裏でライバル心をむき出しにしていたのが、
私には手にとるように感じられたんだ。それがたまらなく嫌だった」
歩きながら、わずかにうつむきながら話す彼女の言葉に、俺は気付いた。
きっと、彼女は人一倍、感受性が豊かなのだろう。
人の気持ちがすぐにわかる。
わからなくても、大体こうではないかと想像してしまう。
そして、人が怖くなる。
相手の気持ちがわかるから、怖くなる。
繊細で、優しくて、脆い。
それを隠す防波堤として、彼女のポーカーフェイスは築かれたのではないか、と。
そして、今も隠している。
淡々とした口調の中に、自分の脆さを隠している。
そんな彼女が少し憎らしく、だけど、たまらなくいとおしいと感じられた。
- 96: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:43:06.45 ID:q9kjNJAC0
川 ゚ -゚)「私は泳ぐのが楽しかった。だから、高校でも楽しく泳ぎたかった。
そんな時、私たちの高校で練習する機会があった。
私はすぐにここに入ろうと決めたよ」
('A`)「楽しかったんだな?」
川 ゚ -゚)「ああ。本当にみな、楽しそうに泳いでいた。
ここで泳ぎたい。素直にそう思えた」
彼女は立ち止まり、俺の方を振り向いた。
笑っていた。
川 ゚ー゚)「そして、その通りだった。ブーン、ツン、そしてドクオ。素敵な仲間と出会えた」
('A`)「……クサい台詞だ。なんだか、お前らしくないな」
川 ゚ー゚)「ふふ、そうだな。だけど言わせてくれ。
人と接することが苦手な私でも、君たちは優しく包んでくれた。仲間と認めてくれた。
ありがとう。君たちと出会えて、君たちと泳げて、本当に楽しかった」
- 97: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:44:43.64 ID:q9kjNJAC0
彼女は俺の手を取った。
いつも水の中にいるせいだろうか?
ひんやりとした、冷たい手だった。
顔を上げると、彼女の顔が視線の少し下にあった。
切れ長の目。
黒い瞳。
通った鼻筋。
ぽってりとした唇。
夏の夜、虫たちがささやくように鳴く。
空には三日月。
周囲の街灯の光は頼りない。
彼女は言う。
川 ゚ -゚)「ドクオ……キス……してみないか?」
- 100: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:48:39.57 ID:q9kjNJAC0
('A`;)「ええ!? あんdじょんjdvjふぁん……キスッ!?」
予想外も予想外な言葉。
頭の中が真っ白になる。自分が何を口走っているのかがわからなくなる。
('A`;)「キスってあの……せ、接吻か?!」
川 ゚ -゚)「ん? ああ、そうだ。接吻だ」
('A`;)「そ、そうか……うん。そうだよな。間違いない。
い、いや……しかーし! そ、そういうもんは、恋人同士がやるもんじゃないの…かなぁ?」
川 ゚ー゚)「意外と古風なんだな、君は。
どうする? こんなチャンス、二度とないかも知れんぞ?」
クスリと笑う彼女。
挑発的な彼女の笑みになんだか負けた気がして、俺はつい、口走ってしまった。
('A`;)「し、します! してやろうじゃないか! 後悔するなよ!!」
- 102: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:50:07.76 ID:q9kjNJAC0
川 ゚ー゚)「ふふ。わかった」
俺は震える手で彼女の肩に手を置く。
俺のあごの高さにある彼女の瞳。
それがゆっくり閉じられる。
ぽってりとした、桃色の唇。
近づいてくる。
いや、俺が近づいているのだ。
息を止める前に、軽く呼吸した。
彼女の髪の香に混じって、先ほどと同じ、潮の香りがした。
海のにおい。
さわやかな夏の象徴。
夏が来るたび、俺は彼女とのこの『一瞬』を思い出すのだろうか?
- 103: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:51:03.57 ID:q9kjNJAC0
近づく。
ゆっくり。
彼女の顔が。
彼女の唇が。
俺は、瞳を閉じた。
もう、後には引けない。
- 107: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:53:08.06 ID:q9kjNJAC0
『曖昧3cm それってプニってことかい? ちょwww
ラッピングが制服。ラブリーってことない? ぷん♪』
覚悟したそのとき、俺のケータイがけたたましく音を奏でた。
驚いて飛びのく。クーも、何事かと眼を見開いていた。
鳴り続けるアニソン。
恥ずかしい。
死にたい。
穴があったら挿れたい。
この現状を打破するには、電話に出るしかなかった。
(#'A`)「……もしもし……」
( ^ω^)『おいすー、ドクオ! ちゃんとクーを送り届けたかお!?
まさか襲ったりとかしてないかお? 暴漢から守るドクオがクーを襲っちゃ本末転倒だお!
ミイラ取りがミイラになっちゃダメだおwwwww
うはwwwww僕うめぇwwwwwwwピーナッツですwwwww』
- 114: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:56:14.61 ID:q9kjNJAC0
(#'A`)「……」
怒りのあまりに言葉が出ない。
俺の中に初めて誰かを殺したいという感情が芽生える。
ぷるぷると震える俺の腕。そこからクーがケータイを取り上げる。
川 ゚ -゚)「……おい、ブーン……」
( ^ω^)『あ、クーかお? 大丈夫かお? ドクオに襲われたら警察に駆け込めおwwwww』
川#゚ -゚)「今日はゆっくり眠ることだ。明日、自分の部屋で眠れると思うなよ?」
(;^ω^)『はい? どういうことでしょ……ブチ』
クーは乱雑に通話を切ると、俺に向けてケータイを投げてよこす。
慌ててキャッチする。
顔を上げれば、般若のような表情の彼女。
川#゚ -゚)「……帰る! じゃあな!」
- 118: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/04/30(月) 16:59:06.67 ID:q9kjNJAC0
('A`;)「ちょwwwwww あ、あの〜……接吻は……」
川;゚ -゚)「し、しるか! そんなこと!!」
彼女は肩を怒らせて道を進む。
そんな彼女の後姿を呆然と見詰めていると、彼女は立ち止まり、静かに振り返った。
('A`;)「あ……どうした? なんか……忘れ物か?」
川 ゚ -゚)「いや、違う。……送ってくれて……ありがとな」
('A`;)「ど、どどどどういたしまし……た」
再び振り返った彼女は、夜道の先へと消えていく。
混乱していた俺は、その後姿に向けて思い出したかのように叫んだ。
('A`;)「ぜ、全国大会がんばれよ! 絶対に勝てよ!!」
クーは振り返らなかった。
代わりに右手を上げると、ひらひらと振って見せた。
やがて、彼女の姿は闇に消えた。
明日、ブーンを全殺しにしよう。俺は固く決心した。
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