( ^ω^) ブーンはノックしているようです

6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 01:56:22.96 ID:KNDeZUs20




一:こんこん





7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 01:57:05.28 ID:KNDeZUs20


彼女――ツンとは幼馴染だった。


ツインテールの似合う可愛い子で、僕は幼稚園の頃から既に意識し始めていた。
『おえかき』の時間、周りの子は両親や動物、アニメのキャラクターを描く子が
大半を占めていたが、僕だけは違う。

ツンを描いていた。絵を描くツンを描いていた。
その時は、彼女も「似てる」とか「似てない」とか、どこまで真面目なのか分からない
感想を述べるだけだった。ただ、笑っていた。僕の絵を、君を写した絵を見て笑っていた。
僕はその笑顔を描いた。その頃からツンの絵は増えていく。

クレヨンでは繊細な線は出せないが、
モデル、つまりツンをよく観察し、丁寧に描いていった甲斐あって、
幼稚園を卒業する頃には彼女の特徴を掴んだ、立派な似顔絵を描く事が出来た。
先生は、その上手さに舌を巻いたが、半分気味悪がってるようにも見えた。

しかしツンは褒めてくれた。
「すごいねー」と興奮しながら喜んでいた。
その姿を僕はまた画用紙に写し取っていった。



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 01:59:35.69 ID:KNDeZUs20
小学生になっても、僕はツンを描き続けていた。
春のツン、夏のツン、秋のツン、冬のツン、そしてまた春のツン。
授業中も鉛筆でノートに彼女を描いた。

僕の鼓膜は教師の下らない話なんて聞き取らない。
僕の眼は黒板の下らない文字の羅列など見向きもしない。
聞こえるのは彼女の呼吸のみ。見つめる先はただ一点、彼女の姿だけだ。

席替えは楽しみだった。
ツンの見える角度が変わるから。
角度が変われば、表情も違って見える。影も変わる。
また違う彼女を、また違う位置から、僕は線にしていく。
僕が最前列で彼女が最後列になったケースもあった。
少しくらい後ろいても、手鏡さえあれば、その中にいる彼女を描く事が出来たが、
一番前と一番後ろの距離は遠い、他の人間も映る。邪魔で仕方がない。

だが、その程度の障害ならまだマシだったと思える事態が発生した。
小学五年の頃か、ついに僕らは別々のクラスになった。
悔しくて校長に猛抗議した。これでもかという程、暴言を吐いた。
それでもクラスは変わらない。しかし最善は尽くす。
休み時間、清掃時間、登下校、授業以外では一瞬たりとも彼女から目を逸らさなかった。

一番の楽しみは僕は教室で授業、ツンのクラスは校庭で体育、というパターン。
高い角度から彼女を見下ろし、それをノートに写す。
動く物をリアルタイムで描いていくのは至難の業だったが、
回を重ねる度に、上達していったのが自分でも分かった。

その時期はツンに大きく成長が見られる。
多少だが、膨らんだ胸が白の体操服に凹凸を作り出す。
身体が全体的に丸くなり、絵も自然と柔らかなタッチになった。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 02:02:30.27 ID:KNDeZUs20
中学生になった僕とツンだが、三年間同じクラスになる事は無かった。
今回も頭の禿げかかった校長に異議を申し立てたが、一秒で却下された。
この頃からか、僕とツンは殆ど会話をしなくなる。
僕が積極的に話し掛けようとしても、彼女は振り向いてくれなかった。
愛情の裏返しだと、僕は勝手に解釈した。

そう、中学生だ。異性を意識し始めるのは当然の事。
ツンも例外じゃない。僕に近寄るのが少々恥ずかしかったのだろう。
僕ほど魅力的な男を目の前にすれば、流石のツンもたじろいでしまう。
僕は彼女の思いを尊重し、極度に接近するのを止めた。

部活動は美術部に所属した。
顧問がまた適当な先生で、好きな時に好きなものを描け、をモットーにしている。
逆に僕はありがたかった。好きな時に、毎日、好きなものを、ツンを、描けるのだから。
そのツンはソフトテニス部に入部した。
細い脚でボールを追いかけ、打つ。美しい顔に流れる汗が光る。

何度も何度も彼女を描いた。
何度も何度も、他の部員に文句を言われた。
部外者が勝手に入ってくるな、練習の邪魔だと。
僕も反論する、これは部活動の一環だと。
好きなものを描けという顧問の仰せの通りにしているだけだと。

証拠にスケッチブックを突き出した。
最初は「うめぇ……」だったが、徐々に「きめぇ……」に変わっていった。
女子部員は特に迷惑しているみたいで、変な男がこっちをジロジロ見ながら
観察してる、気持ちが悪いと噂している。
図に乗るな。誰がお前らブスの汚い尻を描かなければならないのだ。
僕のモデルはツンだけでいい。
そのツンからも「お願いだから、帰って」と、冷たく言われたのは正直ショックだった。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 02:05:55.64 ID:KNDeZUs20
高校生。
当然だが、僕は義務教育の九年間を絵を描いて過ごしてきた。
勉強なんか米粒程度もしていない。

だが両親が高校だけでも出ておけという事で、糞みたいな偏差値の学校へ行かせられた。
逆に成績優秀なツンは、地元で一番の高校へ進学した。
その優秀な学校の優等生であるツン、三流以下高校の落ちこぼれである僕。
天と地どころか、天空と地下ほどの差が出来てしまった。

しかし、それでめげる僕じゃない。ランクは違えど家は隣り同士、
双眼鏡を使うまでも無く、肉眼でツンの部屋が覗ける。
人より不用心なツンは、カーテンもせずに着替えを始める。僕が見ているとも知らずに。
屋根を伝い、直接部屋に侵入した事もあった。

ツンの全てが知りたい。そして描きたい。
その一心で僕はツンの箪笥の中を漁る。
するとどうだろうか、出るわ出るわ、宝の山万歳。

スケスケのランジェリーを始め、ほぼ色素が見当たらないショーツ、
乳首の部分だけ開閉が可能な謎のブラに数々の際どい下着達。
「ウヒョヒョー」
僕は叫んだ。嬉しい悲鳴、それは彼女へのラブソング。

黒レースのパンツを被った僕は、外に駆け出し、盗んだバイクで走り出した。
やがて空は紺碧に染まり、雲は闇のように蠢く。
視界が黒で覆われ、注意散漫となった僕は通行人に衝突してしまった。

幸い僕は大きな怪我も無く、無事逃亡に成功したが、
ツンの父親は翌日息を引き取ったそうだ。



15: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 02:09:07.75 ID:KNDeZUs20
ツンの親父の生死など、
姑が指でツ――……ってやって嫁に見せる埃くらい興味無かったが、
一応、形だけでも葬式には参加した。

普段気の強いツンが涙を流す。貴重な画。僕はその姿を絵にしていく、小さなメモ帳に。
しかし仏さんの娘、あんな哀しい顔をしていても、
下着は恐らくTバックか何かだろう。
君のそういう所、嫌いじゃないぜツン。寧ろ大好き、愛してる。

あの日から、あの時から、彼女の印象はガラリと変わった。
相当な変態なんだね、あの手の下着しか無いじゃないか。
例え同じモデルでも、元々描き手が持っている印象が変わるだけで、
その絵は別物になる。意識などしなくても。
僕の描くツンは、どこか妖艶な雰囲気(ここでふいんきにするか悩んだ)を放っていた。
自分自身レベルアップしたのか、違う、ツンの見方が変わったからだ。
箪笥の中には僕の知らないツンがいた。

現時点で僕はどれほどツンの事を知っているだろうか。
毎日のように絵を描いていたんだ、少なくとも一般人よりかは詳しい筈。
しかし知り足りない、ツンを知りたい。
今のままでは本当のツンが完成しない、描く事が出来ない。
感じなければ。僕の身体で直接理解しなければ。

君の全てを。
君の全てを見せてくれ。
僕はそれを絵にしてみせる。
君の全てを描いてみせる。僕の全てで描いてみせる。

時間は惜しまないさ。僕なら何日かけてでも君の身体中の黒子を数えられる。
僕なら何年かけてでも、君の全身の体毛を数えられるさ。



17: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 02:10:50.96 ID:KNDeZUs20
やがて数年の月日が経ち、僕は引き篭もりとなった。
追い出された。当然だ。両親は豪鬼のような形相だった。
うちは裕福じゃない。父も母も、老後の資金を芋虫みたいな息子に食い潰されるのは
頂けないと踏んだのだろう。懸命な判断だ。僕が親でもそうする。

妙に納得し、僕は今まで描き続けたツンを持って家を出た。
異常な量だったが、一作品たりとも欠く事は自分が許さなかった。

さて、これから僕はどうやって生きていこうか。
答えはすぐに見つかった。
最愛のツンと一緒に暮らせばいいのだ。

ツンは無事、立派な社会人となり、親元を離れ一人暮らしをしているそうだ。
僕は其処へ転がり込めばいい。
ツンが僕の願いを聞かないワケが無い。

僕はこんなにもツンの事を愛している、よって断られる道理が無い。
二人で、二人だけで生きよう、ツン。
ずっと描いてあげるから。まだ僕に見せた事の無い顔は沢山あるだろう。
全部全部拝ませてくれおくれよ。僕はそれをキャンバスに写し取るよ。

ツンの住むマンションに辿り着き、彼女の部屋のドアを数回に渡り、叩いた。
暫くして、扉が開く。本当に暫くしての話だった。
ツンは僕の顔をみた途端、全身から不機嫌のオーラを醸し出し、眉間に皺を寄せた。

落ち着け、僕は白馬の王子だ。
自然な感じで言葉にするんだ。

「ヘロウ! 今日から部屋に泊めて! つーか結婚しようお」



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/21(月) 02:13:42.65 ID:KNDeZUs20
え? なんだい、その顔は。
怒った表情も素敵だが、今僕が求めているのは……

ビンタ。ビンタビンタビンタ。もう一発ビンタ。

「馬鹿じゃないの!? 気持ち悪いのよ! 二度と近寄らないで!!」

往復ビンタに続き、罵声が飛び散った。
何故だ。僕が君を愛しているという事は、君も僕を愛しているという事じゃないのか?
違うのか? 違う筈が無い。だって人間は愛し合って命を育むのだから。

必ず最後に愛は勝つんだろう?



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