( ^ω^)がSAWの世界でゲームを楽しむようです

2: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:20:26.64 ID:jpXO7HU90

もし母親のお腹の中にいた時の記憶が蘇ったとしたら、
きっと今感じているような感覚に包まれるのだろう。

羊水の中を力なく漂うようなまどろみ。
何も確認できない程の漆黒の闇を、僕は心地よく感じていた。


 『プッ、ザァーー・・・』


どれほどの時間が過ぎた頃だろうか、僕は不意に目覚めた。
例えるなら、幼少の頃に道路へ飛び出し、母親に力ずくで引き戻されるような、
自分では到底敵わない力によって現実に無理矢理引っ張られたような、そんな唐突さだ。



4: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:21:32.44 ID:jpXO7HU90

先ほどまで感じていた漂うような感覚とは掛け離れた重みが僕を襲う。
硬く冷たいコンクリートが背中に冷たさを伝えている。
僕は仰向けで寝ているのか。
死にかけの蛍光灯がしがみ付く天井が、今の僕の状況を教えてくれた。

体を無意識に起こす。いつもではあり得ない程に頭が重く感じた。
とても自分のものとは思えない。
上体を起こし、視覚として物事を捉えてから初めて、僕は足枷がはめられている事に気づいた。
両足に絡みつくそれは、冷え切った誰かの手で握られているような感覚だった。
しかし、この足枷は一体なんだろうか。足を少し動かすと、それはジャラっと音を鳴らした。

( ^ω^)(・・・・どうなってるんだお?)



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:22:45.57 ID:jpXO7HU90

 『やぁ。目が覚めただろう』

自分が生み出した以外の音が耳に入り、僕の意思とは無関係に体がびくついた。
音の主を探そうと振り返ると、あっけなくそれは見つかった。
それほど広くない部屋の隅、コンクリートに溶け込むように小さなテレビが佇んでいた。
また、それは音を放った。

 『君自身を縛るその鎖を外す方法を教えよう』

小さな箱の中のそれは白い顔をカタカタと震わせながら喋った。

 『君の目の前にある人形の中に鍵が埋め込まれている』

 『その人形に11箇所の印が付いている。そのどこかに鍵はある』

( ^ω^)(人形?)

体の向きを戻すと、確かに声の言うとおりだった。
徐々に暗闇に慣れてきていた目が捕らえたのは人のようなそれだった。
人形の手足には小さく赤い×印が書かれているのが薄っすらと確認できた。



7: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:23:37.35 ID:jpXO7HU90

 『君はその人形が握っているナイフを使って鍵を見つけ出す』

 『見事鍵を見つけ出せれば君の勝ちだ』

 『ただしその人形は君自身だ。君は自分を傷つける代償として生を手にする事が出来る』

( ^ω^)(・・・・僕自身?)

僕は声の意図する真意を瞬時に解析することが出来なかった。
人形が僕というのはどういう意味なのだろうか。
僕は再びテレビに向き直った。



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:24:42.63 ID:jpXO7HU90

 『急いだほうがいい。この部屋にはそろそろ血を流す雨が降る』

雨という単語に誘われ、僕は自然と天井を見上げた。
生命を絶ちかけている蛍光灯が、思い出したようにチカチカと点滅していた。
暗くなっている間だけ、天井に丸い機械が取り付けられているのが確認できる。
明かりが付いている間は、白い幕に覆われたようにそれは姿を消してしまった。
あれはスプリンクラーか何かだろうか。僕には確かな事は分からなかった。

 『君は自分と共に君の運命をも縛っているその鎖を断つ事が出来るかな?』

 『さぁ、ゲームを始めよう』



 『ザァーー・・・』


雨音のようなものが部屋を包んで、やがてふっと消えた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:25:57.21 ID:jpXO7HU90

静寂と僕だけが部屋に取り残されたような気分だ。
少し体を動かすと、また足元でジャラっと音がした。

まだ自分の置かれている状況を把握するには時間がかかる。

僕は改めて辺りを見回した。
それほど広くない部屋の中心に僕がいて、目の前には人形が転がっている。
後ろには壁に寄りかかるように置かれた古臭い小さなテレビ。あるのはそれだけ。

壁は全面コンクリートが剥き出しになっていて窓は無かった。
先ほど見上げた時には何とも思わなかったが、天井が異常に高いことに気づく。
ここは地下なんだろうか。そう思った途端、なぜか空気が急に重くなったように感じた。

人形が置かれている更に先の壁に、浮かび上がったかのように扉があった。
試さなくても分かる。この足枷がある以上、あの扉には触れられない。
そもそもあの扉は鍵がかかっているんじゃないだろうか。



12: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:27:05.85 ID:jpXO7HU90

( ^ω^)(なんで、こんな事になってるんだお?)

自分自身に向かって決して答えの出ない問いかけをしていた。
そんな事を考えるくらいならここから出る事を考えるべきだ。

しかし、頭では分かっていても気持ちがついてこなかった。

 ((見事鍵を見つけ出せれば君の勝ちだ))

ふと、テレビに映っていたあの顔が言っていた事を思い出した。
鍵を見つけることが出来れば足枷が外れる。

( ^ω^)(とりあえずここから出なくちゃダメだお)

また鎖が鳴る。まるで僕の答えに賛同してくれているような気がした。
僕は暫くぶりに、重い腰を上げた。



16: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:29:39.66 ID:jpXO7HU90

足枷に付いている鎖は短く、とても部屋を歩き回れるような長さではない。
人形が目の前になければ、僕は成すすべなくこれと同じように転がっているしかなかっただろう。

テレビの声が言っていたように、人形の右手にあたる部分に30センチほどのナイフが置いてあった。
僕は膝をついてそれを手に取ると、人形の手に書かれている赤い×印が目に入った。

 ((その人形に11箇所の印が付いている。そのどこかに鍵はある))

再び、あの声を思い出した。この人形には確かに×印がついている。
位置的には頭・胸・腹・両二の腕・両掌・両太腿・両ふくらはぎにあたる部分だ。
計11箇所。声の言う通りだった。

人形の質感は硬い布のような皮のような、よく分からない材質だった。
でもこれなら辛うじてナイフで切り裂くことは出来るだろう。
印以外の部分は真っ白で、暗く無機質なこの部屋では不自然に感じる存在だった。
この世の物ではない別次元の物体なのではないかと錯覚するほどに。
それくらい、異様に白かった。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:30:38.53 ID:jpXO7HU90

僕はナイフを握ったまま、数日前に見たニュースを思い出していた。
ゲームをするかのように殺戮を繰り返す殺人鬼が出没しているというような内容だっただろうか。
自分の生きる世界とは無縁の話だと思い、その時は興味も沸かなかった。
そのせいだろうか。ニュースの詳細を思い出すことが出来なかった。

( ^ω^)(こんな事ならもうちょっと真面目に見ておけば良かったお)

何を悔いても後の祭りだと分かっていても、今は何かのせいにしてしまいたい気分だった。
本来ならこの状況を作り出している人物に矛先が向くはずなのだが、
実態の分からない何かよりも、はっきりと自分で認識できるものに責任転嫁する事で
不確かなものを明確にしたような錯覚に浸りたかったのかもしれない。

 『カチッ』

頭の上の方で今までになかった音がした。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:31:46.38 ID:jpXO7HU90

( ^ω^)「うわぁぁぁぁぁあああぁああ!!!」

小さな機械音のあと、天井から雨のように水がパラパラと落ちてきた。
それが当たった肌は瞬く間に焼けるような熱を持ち、次第に火傷のようにただれていった。
背中の服は蒸発し、剥き出しだった腕は解けるように表面が崩れた。
空気に薬品と皮膚の焦げた匂いが混ざる。

雨はすぐに止んだ。

あまりの痛さに僕はその場で床に転がった。
床に残った水分が体の側面に付いただけで、再び焼けるような熱さが蘇ったが
体を起こしている事の方が苦痛だった為に、その姿勢を変える事が出来なかった。
皮膚が剥がれた腕からは血が滲み滴り落ちる。

 ((この部屋にはそろそろ血を流す雨が降る))

頭部の皮膚もただれたのか、額の上を血が走った。



22: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:32:44.36 ID:jpXO7HU90

( ^ω^)(くそっ、雨ってこういう事かお)

恐らくは硫酸のような薬品だったのだろう。
僕が持つ知識ではその程度の事しか分からない。
視界に入った人形の表面も水玉模様のようにポツポツと穴が開いていた。

( ^ω^)(・・・もたもたしてられないお)

またあの雨が降り出すかもしれない恐怖に鞭打たれ、体を起こす。
力を入れた腕からは絞り出したように真っ赤な血が溢れ出る。
床に落ちたナイフを拾い、四つん這いのような態勢で人形に向き合った。
膝の皮膚がじりじりと音を立てる。

印は11箇所。鍵は一つ。
一刻も早く鍵を見つけてここから出なくてはならない。
僕は無心で、一番手前の左掌にあたる印にナイフを突き刺した。



23: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:33:36.47 ID:jpXO7HU90

 『パンッ』

軽い、爆竹が破裂した時のような音がした。
同時に、僕の左掌の表面が吹き飛んだ。

( ^ω^)「ぁああ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁぁぁああ゙ぁ!!!!」

皮膚がただれた時のインクのような鮮明な赤とは違い、
どす黒い血がボタボタと流れ出ては床の上で踊った。
血で塗れた手を見るとクレーターのように抉れているのが見て取れる。
痛みが何倍にも膨れたように感じて思わず目を背けた。

( ^ω^)「ぁうぅぅ・・・あ、ぅあ゙・・・・」

僕は震える右手を使って着ていた上着を脱ぎ、それを左手に巻きつけた。
無造作に巻きつけた服はたちまち赤を吸い上げその身を染める。

 ((その人形は君自身だ))



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:34:46.40 ID:jpXO7HU90

僕が人形を刺すと僕の体の同じ部分が破裂する。
人形を刺すという事は僕を刺す事と同義。
つまり人形は僕そのもの。

( ^ω^)(・・・これじゃ、手当たり次第に探すわけにいかないお)

人形に刺さったままのナイフを引き抜き、
開いた穴の中を探ってみたが鍵は見つからなかった。
鍵は別の印のどこかにあり、また人形から鍵を探し出す必要があった。

破裂した勢いで腕が後ろに引っ張られたような感じになったせいか、
肩に違和感を感じた。
掌の痛みが勝っているせいだろうか、肩から痛みは感じられない。
間接が外れているような事はないだろうが正常な状態とも言えないような気がする。
だが今はそんな事を考えている場合ではなかった。

次はどこにナイフを刺すのか。

生きたままここから出るためには確実に次の一発で鍵を見つけなければならない。
既に立ち眩みのような感覚に襲われているのだ。血が流れすぎている。
何度もあの衝撃に耐えられる自信は皆無だった。



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:35:49.04 ID:jpXO7HU90

残る印はあと10箇所。10分の1の確立。

最初に吹き飛んだ場所が掌だったのは不幸中の幸いだったかもしれない。
これで頭に刺していたらと考えると寒気がした。

 ((君は自分を傷つける代償として生を手にする事が出来る))

あの言葉が本当だとしたら頭や胸の部分に鍵を隠すだろうか。
もし心臓が吹き飛んだとしたら『傷つく代償に死なない』というのは不可能。
という事は足や手のどこかに鍵があるのではないか。

左手に巻いていた服はすっかり赤く染め上がり、吸いきれない分の血が雫となって床に落ちた。

だがあの言葉が本当とは限らない。
殺戮を目的としているならば人形の胸に鍵を隠し僕の心臓を破裂させたとしても何の不思議も無い。
かといってそれを試す精神力も体力も無い。
しかし、危険な部分を避け次に足を破裂させたとして僕の生命力は持つのだろうか。

そもそも印の場所に本当に鍵は隠されているのか。
鍵は本当に存在するのか。

( ^ω^)(くっそぉ!何を信じればいいんだ!)


 『カチッ』

聞き覚えのある音がした。



27: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:37:17.02 ID:jpXO7HU90

時が止まったように感じるとはまさにこの事じゃないだろうか。
音を拾った瞬間、僕は体が凍りついたように固まったのが分かった。

再び硫酸のようなものが天井から吹き零れ、僕は体を抱えて床を転げまわった。

( ^ω^)「ぎゃあ゙あ゙ぁぁぁああ゙ぁぁあ゙あ゙あ゙あ゙!!!!!」

既に焼け上がったような腕に降る雨は、一度目よりも衝撃が増しているように思えた。
まるで無数の針が体中に突き刺さるような耐え難い痛みに包まれる。
このまま気絶出来たらどんなに楽だっただろうか。

弾けた左手に液体が染み込むと、業火で熱せられた鉄板の上に
押し付けられているような熱さと痛みが植え付けられた。
あまりの痛さに思わず左手を床に叩きつける。
そうする事で痛みが相殺されるような錯覚に陥ったが実際には何も変わらない。

もがき苦しむ僕とは対照的に、雨は静かに止んだ。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:38:45.46 ID:jpXO7HU90

( ^ω^)「・・・かはっ、・・・・ぁ・・はぁ、あぁ・・」

上手く呼吸をすることが出来なかった。
ひどく暴れたせいだろう。足枷がしてある足首の皮が擦り切れている。
しかし今はそんな事、気にもならなかった。

鍵を探す事にばかり気がいっていたせいで硫酸の事が頭から抜け落ちていた。
悠長に考え耽っていられる時間は僕にはない。
またあれが降る前にここから出なければならない。早く出たい。

出るためには足枷を外す為の鍵を探さなければならない。
鍵を探すためには人形を刺さなければならない。
僕の体の一部を吹き飛ばさなければならない。

そもそもあの扉に鍵はかかっていないのだろうか。

考えられる疑問は次々に沸いて出てくる。
しかし、今の僕に出来ることはたった一つだけだった。

どこにナイフを刺すのか。



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:40:14.13 ID:jpXO7HU90

体を起こす気力も沸かず、呆然と人形を見つめていると、何か違和感があった。

人形にも当然のように硫酸がかかったのだろう。表面は先ほどよりも溶けて穴が大きくなっていた。
だが溶けているのは表面の白い布だけのようだ。
穴が開いていると思っていたが溶けている布の下は黒い別の布で、
そっちの方には全く穴が開いていない。
溶けていないようだ。

僕は匍匐前進の調子で人形に近づき、辛うじて動く右手で人形の表面を剥ぎ取った。
上手く手に力が入らなかったが、やがて全ての布を取ることが出来た。

真っ黒な人形になった。

最初に見た時の印象とは打って変わって、
もの凄くこの空間に溶け込んだ存在になったように思えた。

黒い人形には×印はなく、腹部に赤い字で「Key」とだけ書かれていた。



33: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:41:24.63 ID:jpXO7HU90

( ^ω^)(・・・・腹の部分だったのかお)

この文字こそ罠のような気がしてならなかったが、
目の前に確かに存在しているもの全てを信じるしか道はなかった。
漠然と溢れ出す疑問を一つずつ消化する気力も、今はもうない。

皮膚の焼ける匂いと血生臭い匂いが空気に乗って鼻をつく。
吐き気が込み上げてきたがなんとか堪えるように慎んだ。

この文字を切り裂いて鍵を取り出せば助かる。
同時に僕の腹も裂かれる。

耐え凌ぐ事が出来るか、否か。

僕にナイフを振り下ろす勇気があるのか。



36: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:43:32.88 ID:jpXO7HU90

急に恐怖心が迫り出し、天井を見上げる。
またいつ雨が降り出すとも分からない。
迷っている時間はなかった。

僕は震える右手で上体を起こした。
体中から血が迸り次々に床に落ちてはぴちゃぴちゃと音を立てる。
その音が死へ向かって歩く足音にも聞こえて膝が笑った。
立ち上がることまでは出来ず膝を突いた状態で闇に溶け込む人形を見下ろした。

空っぽになった右手でナイフを握る。

( ^ω^)「くっそぉぉぉぉぉおおおー!!!!」

僕は高々と右手を振り上げ、人形の腹部目掛けてナイフを振り下ろした。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:45:44.12 ID:jpXO7HU90

 『パンッ』

またあの音がした。
響き渡るそれはまるで部屋の空気を切り裂いたような音だった。

次の瞬間、僕の体に大きな真っ赤な花が咲いたように
血が噴出し腹の肉片がばらばらと部屋を舞った。
それは引火した火薬が火花となって散布する姿にも似ていた。
僕の体は風圧で押し倒され、再び床に仰向けで寝転がる形になった。

迸る血が瞬く間に広がり、血溜まりがゆっくりと大きな輪を広げていく。
内臓には至っていなかったようで皮膚と少しの肉が千切れただけに止まったようだ。

( ^ω^)「・・・・・・・・・・・・」

声を出す気力もなく、不思議と痛みも感じなかった。
体が麻痺してしまったのだろうか。

( ^ω^)(鍵・・・・)

人形を調べるために体を起こそうとしたが、思うように力が入らなかった。
自分の体重が何百キロにもなったかのような感覚だった。
唯一自由に動く右手を頼りに体を横に向けた。

 『カランッ』

また、知らない音が鳴る。



41: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:47:32.01 ID:jpXO7HU90

音に誘われて顔を動かすと、小さな鉄の塊が血溜まりに沈んでいた。

小さな鍵だった。

 ((人形の中に鍵が埋め込まれている))

 ((その人形は君自身だ))

脳裏に響くあの声が、壊れたラジオのように繰り返し同じ事を口走る。

( ^ω^)(僕の腹の中に埋め込んでたのかお)

半ば諦めかけていた物が今目の前にある。
赤黒く染まった鍵に手を伸ばし、それを握った。
それは触る事の出来る唯一確かな助かる道だった。

僕は体を縮めて足枷の付いた足を引き寄せる。
指の感覚が鈍っているせいか、震えが止まらないせいか、
鍵を外す事が至極困難な事のように思えた。
拙い動きで鍵穴に刺さった鍵を捻ると、がしゃんという音と共に足は解き放たれた。



42: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:49:08.87 ID:jpXO7HU90

ゆっくりと、確実にもう片方の足枷の鍵を外す。
先ほどと同じように音を立てて、それは口を開けて床に落ちた。

( ^ω^)(や、やったお)

まだ部屋を抜け出たわけでもないのに、既に自由になったような気がした。
後はあの扉を開けるだけだ。
それで生きる道が繋がる。

体を起こし、歩き、扉を開ける。
今までぶつかってきた困難に比べればなんて事のない事ではあったが、
今の僕には到底出来そうになかった。
目は霞み、体を動かすことも出来ず、今や右腕さえ上げることが出来ないほどに朽ちていた。
すぐ横に転がっている黒い人形と、今の僕には違いがないように思えた。

( ^ω^)(あと、あとちょっとなんだお)

意思とは無関係に、目を開けていても徐々に視界が暗くなっていった。



47: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/05/25(金) 19:50:59.13 ID:jpXO7HU90

あの時感じていた、羊水の中を力なく漂うようなまどろみ。
何も確認できない程の漆黒の闇を、僕はたった今感じていた。

死を間近にして、生ま出る直前の感覚と同等のものを味わえるとは思ってもみなかった。


生は死への始まりであり、死は新たなる生への架け橋になる。


生は死であり、死は生と同義。


なぜこんな事を考えているのだろう。

血の海に浮かびながら、漠然とそう思っていた。
体の感覚は既に無く、自分の体が全て解けて無くなってしまった様な気分だった。
意識が徐々に薄れていく。それは睡魔にも似た心地よさがあった。

( ^ω^)(・・・・あたたかいお)

体温を帯びた血溜まりが広がっていく中、またあの声が響く。


 『ゲームオーバーだ』


僕の耳に、その声が届くことはなかった。



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