( ^ω^)は駆動兵器を操るようです

5: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:05:28.73 ID:U+1Qwlr+0

一人、夜空を見つめる。
失った人は、もう戻るわけも無く……。
そして、大きく大きく胸に膨らんでいく。

もう、ブーンはいない。
あのまっすぐ前を見つめる瞳も、風のように空を翔る駆動兵器も、俺の胸倉を掴み、強がっていたあの姿も、全て、全て。
頭の中にしか、残っていない。



6: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:06:55.28 ID:U+1Qwlr+0

('A`)「……」

不思議と、涙は出なかった。
自分の中にいる、現実を受け入れることのできない自分が、一番先に、ブーンの死へと反応したからだ。


白い光が、湿地の上空に輝いた、数時間後。
2CH-VPを操るロマネスク中尉と、荒巻スカルチノフ博士が、NRPへと格納され、説明に来た。

( メωФ)「……、あの緑の駆動兵器に乗っていた男、名前は何と言いますか?」
( ,'3 )「ブーン二等兵です。それが、いかがしましたか?」

まだ、その頃はまだ湿地一帯に電波障害が残っていて、ブーンとは通信できなかった。
戦闘が収束し、そのブーンより先に、NRPに入ってきたロマネスク中尉を見て、疑問が浮かんでいた。



7: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:08:16.11 ID:U+1Qwlr+0

/ ,' 3「ロマネスク、言いにくいだろう。
……わしが言おう。VGへと搭乗していた、ブーン二等兵は、死んだ」

ゆっくりと空を進むNRPの中にいる、乗組員たちの驚いた顔を、俺は忘れない。
まさか、通信が取れないだけで、死んでいるなんて……思いもしなかった。

('A`)「……え?どういう……事ですか?」

( メωФ)「……非常に言いにくいんだが、あの光を見ただろう?」
('A`)「……はい」

( メωФ)「ブーン二等兵は、あのミサイルから、皆の命を守ろうとして、死んだ」

繰り返し、口から放たれる”死”という言葉。
その度に、ブーンの死という現実を、受け入れざるを得なくなってくる。
後ろを少し振り返ると、真っ直ぐ前を見ながら、涙を溜めているであろうワタナベさんが見えた。

('A`)「……なんで、なんでそんな事が言えるんですか?」

もう、手は震えきっていた。
初めて駆動兵器に乗った、あの時よりもずっと、ずっと震えていた。
信じたくなくて、信じたくなくて。



8: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:09:56.84 ID:U+1Qwlr+0

( メωФ)「私たちは、ミサイルへと突っ込んでいく二等兵を、止められなかったんだ」
('A`)「……」

ミサイルへと、突っ込んでいく……。

/ ,' 3「……このような空気で聞くのはおかしいことであるが、あの二等兵。
    何かの増強剤や、薬品を多用していたかね?」

( ,'3 )「……薬ですか?そのようなものは一切、私たちは投与していませんが……」
/ ,' 3「あの二等兵。何か”おかしかった”んじゃ」

( メωФ)「ブーン二等兵は、死を、恐怖と感じていなかった。
まるで、子供のように、何も知らずに死を選んだような……そんな感じがしたんだ」

('A`)「……たしかに、ブーンは子供っぽいところも多々あります。
でも、死というものには、人一倍恐怖を抱いていました。ずっと一緒にいた自分が言うんです。間違いは、ありません」

( メωФ)「それなら、なぜあのような行動に出たのか?
という事にはならないかい?何かの衝動に、急に駆られるというのは、あまりにも不自然だ」

/ ,' 3「そして、彼は最後に通信した際、こう言っておった」



( メωФ)/ ,' 3「「軍人たる者、命を燃やし、仲間を守る」」



10: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:10:54.18 ID:U+1Qwlr+0

――あいつが、頭に浮かんだ。

ブーンを撃った、あいつ。

俺達を、駆動兵器に乗せた、あいつ。

駆動兵器隊を結成した、あいつ。

そう、フサギコ少将が、俺の頭に浮かんだ。

('A`)「……そうですか。わかりました」

だが、この場でそんな事が言えるわけが無い。
俺の頭の中に浮かんだ、ブーンを間接的に殺した人物の候補が、フサギコ少将だなんて。

( メωФ)「核ミサイルの爆発したポイントへ、NRPを飛ばしてはくれませんか?
        VGの破片があれば、何かがわかるかもしれません」

ロマネスク中尉の言い方は、もう、ブーンは跡形も無い、といったような言い方であった。
ブーンは、本当にもういないのか?

この世から、消えてしまったのか?
俺の頭に浮かんでは消える、意味の無い考え。



13: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:12:09.97 ID:U+1Qwlr+0
/ ,' 3「正直な所、あの程度の威力しか無い核ミサイルでよかったのじゃ。
クマーも、首都へ爆発が及ぶのを恐れたんじゃろう。
通常のミサイルに格納できるほどの核燃料が入っていたら、今頃わし達も死んでおった」

('A`)「……」
( ,'3 )「……信じられません。ブーンが、こんなことになるなど……!!」

感情的になり、操縦パネルを大きくたたきつけるバルケン。
ドクオも、本当はそうしたかった。

ふつふつと湧き上がる、悔しさと悲しさ。
耐えることができる、自信は一欠片も無かった。

ゆっくりと旋回をし、ブーンの”いた”湿地の中央部分へと向かうNRP。
皆、悲しみに満ちていた。

〜〜〜〜〜

( ^ω^)『はっ!我々の命を燃やし、敵を業火の海へと葬りさってやることであります!』
( ●ω^)『それに、一度乗って見たかったんだお』


〜〜〜〜〜

あいつは……。
いつも、いつも強がりだった。
辛いことは、全て自分の中に放り込んで……。



14: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:13:09.98 ID:U+1Qwlr+0

/ ,' 3「……ここじゃ」

円形に、大きな地面がえぐれている部分を、空から見下ろして言う。
ドクオも知っている、ノトーリアスの起動の際に起こる”マーク”だ。

( メωФ)「彼は……。彼は、空へとのぼっていきました。
あれほどの出力でノトーリアスを起動できるとは……。やはり、正常な精神状態では無かったと思えます」

( ,'3 )「彼は、ノトーリアスを使いこなす訓練を多く重ねておりました。
それだけで正常では無いとは言い切れないのですが……」

/ ,' 3「そこの君。VPのメインカメラのログを引っ張り出してはくれんか?」

@^0^@)「ログですか?」
/ ,' 3「ああ。データに残っておるはずだ。主観的ではあるが、VPのセンサーが感じ取ったあの時のVGのノトーリアスの出力がの」

@^0^@)/「了解です」

パネルを忙しく弾くホッペマンのモニターを、各員が見つめる。
電子音と共にでてきたデータは、やはり、正常とは思えない記録。

『算出出力:約420%』



16: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:14:41.26 ID:U+1Qwlr+0

( ,'3 )「……!!420%!?」

普段のノトーリアスというものは、出力を70%ほど使用するように設定されてある。
連続使用の際に、ノトーリアスの吐く熱にノトーリアス自身が耐えられない、
という問題が残っているので、100%では使用できない、ということだ。

そこで、この420%は一体どういうことか、となる。

/ ,' 3「この数値だと、理論的にノトーリアスの中心の駆動部分が焼ききれてしまうだろう。
どうやってリミッターを外したのかは不明だが……」

( ,'3 )「……信じられない……」

('A`)「……ブーンは、死にに行った、ということですか?」

( メωФ)「そのような言い方は決してしない。ただ、彼の死にはおかしすぎる部分がいくつもある」
('A`)「おかしすぎる……」

また、俺の頭をフサギコ少将が頭を掠める。
頭の中では、それ以外考えられなかった。



17: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:16:02.82 ID:U+1Qwlr+0
( メωФ)「これは、僕が責任を持って調べさせてもらう。
VGの欠片を一つでも多く回収して、彼を止めることのできなかったせめてもの報いとさせてくれ」

('A`)「……」

/ ,' 3「ここだ。降下してくれんか」
从'ー'从「……了解」

NRPが地面へと降り立ち、乗降口が開く。
入り口から入ってくる生暖かい風は、どこか焦げたような、鉄のような臭いを帯びていた。

( メωФ)「……ドクオ二等兵、君は……」
('A`)「行かせてください」
( メωФ)「だが……」

('A`)「友の死を見取ってやれなかったんです。せめて輝いて散った場所だけでも……見ておいてやりたいんです」
/ ,' 3「こう、言っておるんじゃ。共に行っても、問題あるまい」

ロマネスク達が、乗降口へと足を向けるのと逆に、ドクオはワタナベの方へと向き、小さく声を出した。



18: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:16:58.65 ID:U+1Qwlr+0

('A`)「……ワタナベさん。俺は、ブーンとあなたの関係を聞いていました。あなたこそ、あの場所へ行くべきだと思うんです」

ブーンを愛し、ブーンに愛されていたワタナベ。
短いながらも、信頼を築いていた二人を、ドクオは羨ましくも見守っていた。

从'ー'从「……。私は、あの人を愛している以前に、このNRPの搭乗員です。この座席を空ける訳にはいきません……」
('A`)「……でも」

从'ー'从「それに、あんな場所へ行ったら、私泣いちゃいます。
今だって……耐えるのに必死で……。だから、ドクオさんがあの人が最後にいた場所を、見てきてあげてください」

('A`)「わかりました」

それ以上聞いても、意味が無いと思った。
ワタナベさんは、強い。強いからこそ、この現実を受け入れるのが早かったんだろう。

ブーンの死。愛した男の死。
俺とは、根本的に違う強さを、ワタナベさんは持っているんだ。



20: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:18:08.83 ID:U+1Qwlr+0

('A`)「じゃあ、行ってきます」
从'ー'从「……お願いします」

ドクオは、急いで乗降口へ行くと、VGが墜ちたであろう場所へと歩を進めた。
そこは、湿地であるにもかかわらず、風が吹いていて……。

土の乾いた、その一帯だけがまるで荒野のような場所であった。

それは、かつて二人が戦場へ身を投じる前に感じた風と似ていて、ひどく懐かしかった。
ブーンが、また頭に浮かび始める。
ドクオは、自然に浮かぶ涙を目に溜めて、先を行くロマネスクと荒巻を追う。

/ ,' 3「……やはり、ヴィプクロメタリウムでも、核エネルギーの直撃は耐えられなかったか……」

( メωФ)「しょうがありません。核は禁忌とされています。
このように、尊い兵士の命が一つ、私たちに教えてくれたんです」

/ ,' 3「ブーン二等兵。彼は、何を思っておったんじゃろうか」

熱で乾ききった砂に近い土を手で掬う。
蒸し暑い風が、砂を飛ばす。



21: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:19:00.69 ID:U+1Qwlr+0

('A`)「あいつは、このVIPの事を思っていたに違いありません」
/ ,' 3「君は、そう思うのかね?」

('A`)「物事を真っ直ぐにしか捉えられない、
しかも一つのことに夢中になるような男です。戦闘中は、VIPの事を思って死んでいったに違いありません」

( メωФ)「いい意味で、軍人の鑑――……、ん?なんだ?」

ロマネスクが、前方に散らばっている破片の中に、何か輝くものを見つけた。

( メωФ)「これは……バッジ?」

少しくすんだ色をした、銀色のバッジ。
欠けたり、溶けてしまっていて、原型を留めていないものであった。

('A`)「……それ、心当たりがあるかもしれません」

( メωФ)「これかい?」

('A`)「はい。それ、いただけませんか?」



23: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:19:51.76 ID:U+1Qwlr+0

( メωФ)「ああ、そういうなら。それと……」
('A`)「……はい?」

ロマネスクは、ドクオへとくすんだ銀のバッジを手渡した。
軽い、軽いバッジ。

しかし、ドクオの手には、大きな何か重い”もの”が乗っかったように感じた。
確信する。
これは、ブーンのものだと。

右手でどこかへいかないように握り締める。
ロマネスクと荒巻は周辺をもう少し見て回ると言うので、ドクオは先にNRPへと戻ることにした。

/ ,' 3「……何か、何かおかしいの」

( メωФ)「何か、ですか?」
/ ,' 3「そうじゃ、何か……こう、軋む音がしておる。軋む音……何かが、外れようとしておる」

( メωФ)「……」

荒巻の尋常ではない落ち着きの無さに、ロマネスクまでもが動揺を隠せない。

何が、起ころうとしているのか。

いや、何が起こっているのか。



24: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:21:06.59 ID:U+1Qwlr+0

ロマネスクが、一人の男の死を機に、闇の内部へと足を踏み入れ始めた。
そして、ドクオはNRPへと帰艦すると、ワタナベにバッジを見せた。

('A`)「これ……ブーンのものじゃないでしょうか」
从'ー'从「!!!」

他のものは、皆黙っていた。
機械に響く、小さな、小さな嗚咽。
ワタナベの中で、何かが弾けた。

从;ー;从「……っ。泣かないって……泣かないって決めたのに……ブーン……ブーン!!」
('A`)「……」

バッジを胸で押さえ、むせび泣くワタナベを、ドクオはじっと見ていた。
俺だって、泣きたい。
でも、友の死を、直視できない。

頭の中で、ブーンの死を、肯定したり、否定をしたり。

( ,'3 )「……ドクオ。少し、いいかね」
('A`)「……はい」



26: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:22:30.01 ID:U+1Qwlr+0

NRPの操縦室を出て、狭い通路へと二人は行く。
バルケンの重い面持ち。

( ,'3 )「今回は、私たちのバックアップのミスによって起きた惨事だ。
友を失わせてしまった事を、謝らせてくれ」

('A`)「……謝らないで下さい。あいつは、国のために死んだはずなんです。
上官に死を惜しまれてはあいつも浮かばれません」

( ,'3 )「……すまない。この事は、VIP軍全体にて軍葬させてもらう。もちろん、失われた命の価値は同じ扱いだが……」

('A`)「いえ、それでいいんです。
いつか、俺があの場所へ墓標を立ててやろう、そう、さっき決めてきました」

( ,'3 )「そうか。その際は、私もついて行かせてくれ」
('A`)「はい。いつになるかはわかりませんが、必ず」



27: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:23:44.84 ID:U+1Qwlr+0

――もう、誰が正義で、誰が悪かなんて、わからない。
ただ、ロマネスク中尉が、僕に言った言葉。

( メωФ)『ああ。そういうなら。それと……』
('A`)『……はい?』

( メωФ)『……バルケン中尉には、気をつけるんだ』

あの言葉が、本当なら、俺はVIPを憎むべき敵として、見なさないといけない。
もう俺の正義は、VIPには無いのだから。

ドクオの、静かな決意。
揺らめく炎のように、胸にともった、行き場を定めていない、復讐の念。
ロマネスクの言葉は、真実なのか――。



29: 作者 ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/12(木) 22:24:32.66 ID:U+1Qwlr+0

そして、ブーンの死を、まだ知らない兵士達。

川 ゚ -゚)「NRPが着陸しているポイントまで、あと130秒」

( ゚∀゚)「……戦争、戦争。か」

(´・ω・`)「もうすぐ、南部指令基地だよ」
( ゚∋゚)「ああ。抵抗するものは、容赦しない」

止んだ銃声が、また鳴り始めるのか。
ブーンは言った。
戦争は、回避のできない人の性だと。

放たれた銃弾。
振り下ろされた刀剣。

止められない物を、止める者。
止める者を、止める者。

('A`)「……ブーン」

軋んだ音が、胸に響き渡る。



( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第23話 『底なし沼』 完



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