( ^ω^)は駆動兵器を操るようです

54: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:17:12.40 ID:Jn45hc820

川;゚ -゚)『……なんだと……!!』

彼女は、驚愕した。
余りにも突然な、男の死に。

('A`)『……今伝えたことが、全てです。ブーンは、もう』

彼は、伝える。
余りにも突然な、男の死を。

受け止めきれない、現実を。
そして、鳴り響く、南部指令基地からの通達。

ショボン二等兵と思われる男の、反逆行為。



( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第26話『神の線引き』



55: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:19:09.12 ID:Jn45hc820

『現在、南部指令基地にて、ショボン二等兵と思われる人物が、
 駆動兵器を用いて、少将との交渉中。現在、南部指令基地にて――』

/ ,' 3「……!!駆動兵器、じゃと!?」
(;'A`)「……ショボン!?」

な、なんでアイツが……!?
ショボン!!何してんだ!!!!

『駆動兵器隊は、早急に引き返されるよう。繰り返す。駆動兵器隊は、早急に引き返されるよう』

( ,'3 )「なにが……起こっておる……」
( メωФ)「この機に乗じての反逆行為……汚い奴だ」

順応スーツの手首の部分をグイッと寄せて手を動かす。
隻眼は、鋭い眼光を放っていた。

( メωФ)「今は、ブーン二等兵の悲しみに浸っている場合ではないようです。私は、でます。あなた達は、どうしますか?」

そう、クーとドクオへ語りかける。
ドクオは、満身創痍な上に、この事実を突きつけられて、何が出来ようか。



56: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:20:15.99 ID:Jn45hc820

川 ゚ -゚)「……出よう」
(;'A`)「……」

( メωФ)「ドクオ二等兵。君は待っていなさい。VBも破損が酷い。今は無理だ」
(;'A`)「……くっ。ショボン……」

でも……。
何か、何かあるんだよ。
ショボンが……。こんなことをするわけが無い!!!
理由が……。

(;'A`)「……行かせて、下さい!!!!!」
川;゚ -゚)「な……。ドクオ!!」

( メωФ)「……友人なのだろう?撃てない敵の前に出るという事は、どういうことかわかっているのか?」

繋がっているんだ、きっと。
ブーンの死と……。

これを逃すと……それが、わからなくなりそうで。
本能が、そう言っているように感じた。



57: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:21:28.54 ID:Jn45hc820

(;'A`)「いや……たとえ駄目だと言われても、出ます」
川;゚ -゚)「ドクオ……。自分が一体何を言っているのかわかっているのか!?
     私たちは、ドクオを心配して言っているんだぞ?」

('A`)「それは、重々承知してます。心配をかけて申し訳ないとは思っています。
   でも…出なくちゃいけないんです」

川 ゚ -゚)「ドクオ……」

ブーンのような、あの真っ直ぐな目を、クーは垣間見た。

そうか。
ドクオとブーンは、全く正反対の人間だと思っていた。
違っていた。
根本的な部分。友を思う部分は、全く一緒だったんだな。

( メωФ)「……そうか。だが、君をVBへ乗せることはできない」
(;'A`)「……なら……」

( メωФ)「焦らなくてもいい。私のVPの補助座席に乗ればいい。
       ショボン二等兵と、話がしたいんだろ?私も、少し接点があると睨んでいる」

おそらく、駆動兵器へと乗る者の中で、一番優れているのはロマネスクであろう。
知性。判断力。積極性。
全てをとっても、本当に超一流であることは、周知の事実。
ただ、その戦闘を見たものが、ほとんどと言ってもいい程いない。
VIPの砦は、そう姿を現すものではなかった。



59: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:23:35.75 ID:Jn45hc820

('A`)「……。お願いします!!」
( メωФ)「決まりだな。じゃあ、行こう。ブーン二等兵の話は、これが済んでからだ……!!」

ロマネスクとドクオが格納部へと駆けていった。
それを追いかけるかのように、クーもVRの元へと急ぐ。
ブーンの死は、どれほど人の心を動かすのであろうか。

それは、水に石を投じて、現れた波紋のように広がり、収拾を見せる事はない。

( メωФ)『すぐにでも開けてください。2CH-VP。出ます!!』
川 ゚ -゚)『こちらも同じく。2CH-VR、出る』

勢いよく飛び出した、VRとVPは、最短距離で、南部指令基地を目指す。
そして、その様子を見ている荒巻、そしてバルケン。

/ ,' 3「これは……。もっとややこしい事になってそうじゃ……」
( ,'3 )「……そのようですね」

すると、荒巻が、バルケンへと話を始めた。
その内容とは――。



60: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:26:07.01 ID:Jn45hc820

/ ,' 3「勧悪懲悪、という言葉を知っているかね?バルケン」

( ,'3 )「はい。勧善懲悪では無く、元は悪である因子が、
    最終的には正義になってしまう、というものでしたよね?」

/ ,' 3「そうじゃ。正に今、その勧悪懲悪が行われているのかもしれん」
( ,'3 )「今、ですか?」

/ ,' 3「そうじゃ。バルケン、君は今、何が正義かわかっているのかね?
    もうわしには、正直わからん。ずっと、そうずっとじゃ。νの悪行を正す剣を作るために、
    こうVIPにおった。そして、この一件を通して、私にはもう、わからなくなってしまった。
    戦争の勝ち負けなどよりも、国の優劣などよりも、一人の命の方が重い。そう思ってしまったのじゃ」

俯き、少し小さな声で言う荒巻。
その言い方は、今まで自分が、好奇心に近いもので兵器を作り出してきたことへの悔いが込められているようであった。
νの独立を決意したのも、そもそもは実験をするにつれて、消えていく人たちを助けたい為。
自分がもう、実験をしたくないからという事ではなかった。

原因があっての結果。

そう。
その原因である、νを叩き潰せれば……。結果である、実験による人の死が発生することは無かった。

全て、その全てがブーンの死によってひっくり返ってしまった。
そう、荒巻は言う。



62: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:27:30.17 ID:Jn45hc820

( 3 )「……それでは、荒巻殿はVIPに正義は無い。
    フサギコ殿の作ったこの軍に、戦う意義が無いとおっしゃるのですか?」

予想をし得なかった、バルケンの発言。
NRPに、張り詰めた空気が充満していく。

( 3 )「さっき、荒巻殿は”国の優劣より、一人の命の方が重い”そうおっしゃいました。
    だが、それはどうなのでしょう?私は、それはやはり違うと言いたい。
    いや、言わせてもらいます。同じ忠義の集まりの、このVIPなのです。
    νを潰したい、νによる支配をもう行わせるわけにはいかない。
    そういう者達の集まりでしょう?違いますか?」

/ ,' 3「……」

バルケンは、続ける。

( 3 )「そうでしょう?その為には、何が必要ですか?
    一人個人である前に、集合体であるVIPというものが無いと太刀打ちも出来ないでしょう?
    個人の集まりが、集団である。そのようなことはわかりきっています。
    だが、その集団が動くには、その集団の総意が無いといけないでしょう?
    おのずと、個人より集団が尊重されなくてはいけません。なので、個人の死は、集団の総意に劣るものです。
    その集団の総意とは、戦争に打ち勝つこと。そして――」

/ ,' 3「……なっ!!!?」

バルケンが取り出したのは、銀色にギラつく拳銃。
NRPに、悲鳴が響く。



63: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:28:29.00 ID:Jn45hc820

/ ,' 3「なっ、何をするのだ!!?」
( ,'3 )「その総意に背く者は、消されるべきなのですよ。博士。
    クルーの諸君。そこを動くんじゃない。動けば、頭か……それとも胸か。大きな穴が開くことになる」

明らかに、先ほどとは違うバルケンに、戸惑いを隠せない。
なぜ、あの時共に夢を見、平和な世の中を誓った仲間が、私の命を奪おうとしているのか。
何が、こうもバルケンを変えたのか。

そして、その点は、後に荒巻の中で線になる重要な要因になる。

銃を構えるバルケン。
手は震えてもおらず、全く動じてはいない。
いつ、撃って来てもおかしい状況ではなかった。

( ,'3 )「さあ。反論は無いのですか?」
/ ,' 3「……」

トリガーに指をかけ、荒巻を一点に見つめる。

( ,'3 )「無いのであれば、このVIPの大義の元、死んでm……」

ダーツが、壁に刺さるような。
そんな音が、NRP内に響く。

そして、その音に続いて、大きく、ドサリとバルケンが倒れた。
バルケンの体からは、赤く暖かい血が流れ出、震えるような声を発し、歯をカタカタと鳴らしていた。



65: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:29:55.96 ID:Jn45hc820

/ ,' 3「……すまない」

撃ったのは――。

从 ー 从「いえ……。大丈夫です、問題は、ありません」

ワタナベであった。

ちょうど、背後にいたワタナベとアイコンタクトを取り、撃つタイミングを、ワタナベが見計らっていたのだ。
そして、荒巻が、バルケンの拳銃を取り上げる。

( 3 )「……はぁっ……。ぐっあ……」
/ ,' 3「……バルケン。君が、そこまで頑なにVIPを正義として通そうとするのかを、教えてはくれないか」

( 3 )「……っ。荒巻殿が……わかっていらっしゃらないだけ……ぐぅ」
/ ,' 3「……何を、じゃ?」

震える手で、撃たれた胸を押さえながら、笑っているのだろうか?

どんどんと流れていく血は止まることも無く、南部指令基地へと進むNRPの傾きによって後ろへと溜まっていく。
荒巻がもう一度、何をか、と問うと、バルケンは重い口を開いた。



66: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:30:43.50 ID:Jn45hc820

( 3 )「……。知らないのです。フサギコ殿の……素晴らしさを……。
    知らないのです、あの研究の成果を……っぐ」

/ ,' 3「フサギコ……実験……0.25%の事か!?
    フサギコが、あの0.25%に関わっていたのか!?」

( 3 )「……」

/ ,' 3「……くっ」

肝心な事を聞きだせる事は無く、バルケンは死んだ。
急に動き出した物語に、皆動揺を隠せない。

荒巻の頭の中に、νの実験の事が思い出される。忌まわしき、思い出。
いや、思い出といういいものではない。

悪夢。
正にそれであった。



68: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:31:43.13 ID:Jn45hc820

/ ,' 3『……今日届いたサンプルの数は?』
( ,'3 )『今月分、230人だそうです』

(-_-)『いい加減、人というもの止めませんか……?もう、辛すぎます』

ν帝国中央研究所。
まだ帝国としての支配が行われており、VIPが存在しなかった、7年前の事。
そう、駆動兵器を使用した、VIPの独立が行われる、2年前の歴史の一コマ。

/ ,' 3『だが、人は、人じゃ。私達はその命を預かっておる……。この帝国の未来に、命を投じてもらっておるのだ』

ν帝国大統領クマーによる、キメラ生成の指示があってから荒巻達は、日々人体合成の研究を進めていた。
はじめは、人間の体に鼠や虫を植え込むことから始め、そして現在に至っては、人と人の合成というステージにまで上げていた。
もう、どれだけ人を実験に使ったであろうか……。
皆、極力、考えないことにしていた。

(-_-)『……そうですよね。すいませんでした』
/ ,' 3『いや、わかってくれればそれでよい。いつか、いつか終わる』

そして、その人体合成実験が行われている最中、荒巻は偶然にも作り出してしまう。



69: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:33:10.94 ID:Jn45hc820

/ ,' 3『……これは……』

超硬度合金。
ヴィプクロメタリウム。
『生きている金属』である。

荒巻は、震えた。
この強大な力を目にして。

これなら……。
これなら、νからの独立も、夢ではない。

そう、思ったのである。
そして、荒巻は、研究員達にこの事を告げる。

/ ,' 3『私は、とんでもない兵器を考案してしまった』

私のあの言葉で、人体実験は終わった、そう思っていたのだ。
そして、今となれば、なぜ駆動兵器開発にフサギコが資金を出してきたのかも説明がつく。
VIPを独立する際に、名乗りを上げたのもだ。

あいつは、全て知っていた。
全て、理解しつくしていたのだ。



70: ◆Cy/9gwA.RE :2007/07/22(日) 21:33:55.10 ID:Jn45hc820

ミ,,゚Д゚彡『荒巻博士……でしたか。はじめまして、私、しがない武器商人。フサギコと申します』
/ ,' 3『はぁ……。一体、どういった御用で?』

ミ,,゚Д゚彡『私、この度このVIP軍の少将に任命されまして……。
      博士が開発された『駆動兵器』に、大変興味を持っております。そこでお話なのですが……』

あの時から、私は、見えない糸で操られていた。
私は、馬鹿だ。

ミ,,゚Д゚彡『資金援助を、させていただけないでしょうか?』

あやつは、裏で行われていた人体実験の成功によって生まれた、
試験管人間の可能性を試すために、駆動兵器を使ったのだ。

全てが、繋がり始めた。

/ ,' 3「ワタナベ君。もう少し飛ばして、南部指令基地まで。君の愛する人の死が、わかるやもしれん」
从'ー'从「……!!わかりました、速度を上げます」

フサギコ。
もう思う通りにはさせん。

/ ,' 3「うむ。ここにいるクルーの皆は、これからの真実から目を背けてはいけない。全てが、変わるかも……しれん」



( ^ω^)は駆動兵器を操るようです 第26話『神の線引き』 完



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