('A`)はダークヒーローのようです

71: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 02:54:03.05 ID:QV3B1W3VO
第二話 百万回の死

VIP基地の朝は早い。
軍隊ならば一般人よりも早いのは当たり前のことなのだが、その中でもVIP基地は飛び抜けて早い。
今日も早朝4時に起床した後、新米兵士たちは遠掛けに出かける。
約二時間をかけて20qの道のりを往復した後、基地に帰ってきて一時間組み手の練習を積む。
ひよっこたちが朝食にありつけるのは、それからだ。

\(^o^)/「よし、今日の早朝訓練はオワタ!いつも通り各自、9時まで自由行動とする!」

オワタ教官の一声で、未来の強者たちは我先にと食堂へ駆けていく。

(*゚ー゚)「ふふふ…朝から頑張ってるなぁ」

しぃは、そんな新兵たちの様子を少し離れた楓の木の根本で眺めていた。
そのしぃの視線に気づいたのか、忙しなく走る新兵の中から一人がたいのいい男が彼女の元へと走ってくる。



72: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 02:55:33.53 ID:QV3B1W3VO
(,,゚Д゚)「はぁ…はぁ…おは…はぁ…よう、しぃ」

切れた息を更に切れ切れにさせながら、男はしぃの前まで来て膝に手をついた。

(*゚ー゚)「おはよう、ギコ君。そしてお疲れ様」



74: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 02:59:29.04 ID:QV3B1W3VO
肩で息をしているギコに、しぃは優しく労りの言葉をかけた。

(*゚ー゚)「毎日毎日朝から大変だね。頑張っているようで結構♪」

(,,゚Д゚)「まだまだ訓練兵だからな…はぁ、はぁ。配属先が決まれば、もう少し楽になるさ」

(*゚ー゚)「うんうん。それまでは死に物狂いで頑張らなきゃね」

(,,゚Д゚)「あぁ。必ず邪神討伐隊になって、そこで一気にのし上がってやるさ」

二人の語らいは、日常の何気ないものであったが、そこには恋人同士の間にしか無い幸福と充実感が溢れていた。

(*゚ー゚)「あんまり無理はしないでね。体が資本なんだから。時にギコ君」

(,,゚Д゚)「ん?」

(*゚ー゚)「もう外には誰もいないみたいだけど、朝ご飯は食べなくてもいいの?」

(,,゚Д゚)「……」

(,;゚Д゚)「!ちっ、迂闊…!すまねぇしぃ、重大な事を忘れてたぜゴルァ!とりあえず、またな!」

ギコは頭上にエクスクラメーションを浮かべると、どたばたと基地に向かって駆けていった。
後には朝の風と、しぃだけが残される。

(*゚ー゚)「さて、私も会議に行かなきゃ」

くすくすと笑いながら、しぃはスキップで基地の中へと向かう。



75: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:03:10.49 ID:QV3B1W3VO
━━暗闇の中で、声が聞こえる。

?「もういかなきゃ」

('A`)「そうか」

?「ごめんなさい」

('A`)「何故謝る」

声の主を、彼は知っている。

?「あなたを今まで騙していたの」

('A`)「そうか」

声の主を、思い出せない。

?「怒らないの?」

('A`)「何故」



76: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:04:35.17 ID:QV3B1W3VO
?「私は自分に腹を立てているわ」

('A`)「可笑しな奴だ」

それは遥か昔の夢うつつ。

?「私が憎くないの?」

('A`)「どうでもいい」

?「そう」

?「私は……」

現実か、虚構か。

声が遠ざかる。
視界と意識が徐々に鮮明になってくる。



77: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:05:52.35 ID:QV3B1W3VO

基地のベッドの中で目を覚ました時には既に、どんな夢を見ていたのかドクオは思い出せなくなっていた。

('A`)「そういえば、会議があるんだったな」

そう独りごち、彼は部屋を出た。



78: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:08:10.41 ID:QV3B1W3VO
部屋を出る前に、なんとはなしにクローゼットから黒のジャケットを引っ張り出し、昨日から着たままのラバースーツの上に羽織った。
だが端から見たら充分以上に怪しい。
ドクオのセンスはいかほどに。

部屋を出たものの、ドクオは会議がどこで開かれるかを知りかねていた。
これから協同戦線を張ることになるのだ、一応会議には出席しておくべきだろう。
それに、自分の存在は人間達にとっては欠かせないものだ。
そのうちしぃとか言う世話役の女が迎えに来るだろう。
そう思いながら、彼はあてもなく基地内をぶらついていた。
特に意味は無かった。理由もなく、歩く。
そうやって歩いていると、ドクオはテラスになっている場所を見つけた。
とりあえずそこから見える景色を眺めてみる。

('A`)「桜、か」

季節は春なのだろうか、外の河川敷には桜の花が咲いていた。
近くで見てみようと思い、ドクオはテラスの扉を開けて外に出た。
あまり遠くに行くと、世話役が自分を捜せなくなると思い、ドクオはドアの近くのベンチに腰を下ろした。
そこからぼんやりと桜を見つめる。



80: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:10:48.07 ID:QV3B1W3VO
どれくらい時間が経っただろうか。
そんなには経ってはいないはずだ。
ドクオがふと桜から目を離すと、彼の目の前に小さな少女が立っていた。

*(‘‘)*「………」

頭の両端をお下げにして手に絵本を持った女の子は、軍の基地には似つかわしくないほどに幼かった。
何故こんなところにこんな少女がいるのか。
そんな疑問が頭を一瞬よぎった。

('A`)「………」

だがしかし、ドクオは直ぐに少女への興味を失うと、また桜の木へと視線を戻した。

ふと、袖を引っ張られたような気がして目線を落とすと、件の少女がドクオのジャケットの袖口を掴んでいる。



81: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:12:09.75 ID:QV3B1W3VO
('A`)「何か用か?」

*(‘‘)*「……」

('A`)「用が無いのなr」

*(‘‘)*「絵本、読んで」

少女はそう言って、手に持った絵本をドクオに押し付ける。
ドクオは面倒だと感じた。

*(‘‘)*「……」

しかし少女は期待のこもった眼差しでこちらをじっと見つめている。

('A`)「………(やれやれ)」

ドクオは早いうちに諦めると、自分の体に穴が空く前に絵本を開いた。



83: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:14:43.28 ID:QV3B1W3VO

━━絵本は、猫が何回も何回も死んでは蘇り死んでは蘇りを繰り返し、最後には伴侶を見つけて死ぬというよくわからない内容のものだった。

絵本を読んでいる間、少女は場面ごとに息をのんだり怒ったり、かと思えば花が咲いたように笑ったりした。
ドクオはそれを眺めながら、子供とは実に素直に感情を表現するのだなとぼんやり考えていた。

('A`)「……それっきり、猫が蘇ることはもう二度とありませんでした。終わり」

そう締めくくり、絵本を閉じる。

*(‘‘)*「…猫さん、死んじゃったね」

少女は、呆けたように呟いた。



84: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:15:52.44 ID:QV3B1W3VO
('A`)「あぁ」

*(‘‘)*「もう、生き返らないの?」

('A`)「この絵本には、生き返らないと書いてある」

*(‘‘)*「そっかぁ…なんで、もう生き返らないの?」

納得のいかない顔で、少女が訪ねる。

('A`)「さぁな。作者に聞け」

*(‘‘)*「だって、折角好きな人が出来たのに、これじゃあ猫さんが可哀想…」

少女はそう言うと、悲しそうな顔をして俯いてしまった。

('A`)「そういう物語なのだろう。とにかく、物語はここで終わっている」

不満そうに、うらめしそうに、少女はドクオを見上げている。



86: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:18:16.35 ID:QV3B1W3VO
*(‘‘)*「猫さんを、生き返らせれないかな」

少女は顔を上げたと思ったら、今度は真剣な顔で架空の問題に取り組み始めた。
不思議な子供だ。
物語の猫の為に、真剣に悩んでいる。
それとも、子供故の認識力の不足がそうさせるのか。

*(‘‘)*「おじさんも、一緒に考えてよ」

少女が真剣な眼差しで訴える。
面倒ごとは避けたい。泣かれるなんてもってのほかだ。

('A`)「ん?あぁ、そうだな。オレも考えておこう」

ドクオがそう言うと、少女は本当に嬉しそうに笑った。

*(‘‘)*「本当!?有難う!」



87: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:19:40.29 ID:QV3B1W3VO
少女の言葉に頷いたその時、テラスの方から聞き覚えのある声が自分を呼んでいるのが聞こえた。

(*゚ー゚)「ドクオさーん、どこ行ったんですかー?」

*(‘‘)*「!あたしもう帰らなきゃ。おじさん、絵本読んでくれて有難う!
またね!」

少女は慌てたように、ベンチから飛び上がると、河川敷の向こうへと走って行ってしまった。



88: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/01(金) 03:23:22.80 ID:QV3B1W3VO
少女の姿が見えなくなったのと同時に、テラスの扉が開いた。

(*゚ー゚)「こんな所にいたんですか。
捜したんですよ?もう会議、始まってますよ」

('A`)「場所を知らせ無かったのはそっちだろう?」

(;*゚ー゚)「うっ……とにかく、早く会議に行きましょう」

しぃは口早に言うと、ドクオの傍らに置かれた物にふと視線を留めた。

(*゚ー゚)「どうしたんですか、その絵本」

しぃに聞かれて、ドクオも初めて少女の忘れ物に気付いた。

('A`)「……この時代について知っておこうと思ってな」

そこで嘘をついた理由は、その時のドクオにはわからなかった。

(*゚ー゚)「ふーん……あ、急がないと!さぁドクオさん、早く行きましょ行きましょ」

しぃに急かされて、ベンチから立ち上がる。
少し迷ってから、絵本を懐に閉まった。



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