('A`)はダークヒーローのようです

9: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:03:51.69 ID:lYrBkbemO
第五話 信念

照明の落された部屋に、五人の人間が集まった。
それぞれに顔は見えないが、皆一様にただならぬ雰囲気を纏っていた。
その中の一人が口を開く。

?「例の『扉』は見つかったのか?」

?「あぁ、一応はね。だが、まだ確証はとれていない」

?「またそれか。『鍵』の時もお前はそうだったな」

?「まぁまぁ。慎重なことはいいことだ。我々の計画は慎重に進めなければならない」

?「しかし、少しでも遅れれば『救済の時』を逃してしまう。あまりうかうかしてはいられない」



10: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:05:20.40 ID:lYrBkbemO
?「そう焦るな。『救済の時』までまだ猶予はある。それまでに『扉』を使えるようにすればいいだけの話しだ」

?「あぁ。2ヶ月ほどで、使えるまでに整えよう」

?「頼んだぞ。それまで私の方も『鍵』を拘束しておかなければならないんだ」

?「任せてくれ。私が諸君の期待を裏切ったことがあるか?」

「それもそうだな。だが、油断は禁物だ。しくじって、『扉』が使いものにならなくなるような事だけは避けろ」

?「わかっている」

?「……では、今日のところは解散としようか。旅人に、祝福あれ」

????「「「「旅人に、祝福あれ」」」」



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:07:03.81 ID:lYrBkbemO
小一時間程パソコンと格闘していたドクオは、十分かけてやっと「しぃ」と入力し終えた。

(;'A`)「……できた」

(;*゚ー゚)「(『ぃ』の文字に苦戦し杉)」

(;'A`)「学習能力は高い筈なんだが……納得いかん」

(;*゚ー゚)「で、でもドクオさんは飲み込みが早い方ですよ。
私だって、ブラインドタッチできるようになるのに一日中かかりましたもん。
ドクオさんも、そのうちすぐに『ぃ』を簡単に打てるようになりますよ」

('A`)「ウツダシノウ」

(;*゚ー゚)「そ、それじゃあ次はインターネットの使い方を教えますね」



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:12:14.74 ID:lYrBkbemO
それからまたしばらく、ドクオはしぃからインターネットについてのあれこれを教わっていた。
こっちの方は、最初の五分程で大体の使い方をマスターでしたようで、一時間もするとコピペ荒らしと夏厨の違いを見分けることができるようになっていた。
どうやら、キーボードの操作が苦手なだけのようだ。
彼が一本指でキーを押す姿は、中性的な容姿には不釣り合いで滑稽である。
彼は今、ご機嫌な様子で掲示板をロムっている。

(;*゚ー゚)「(パソコンを初めて触った人間が、いきなり2ちゃんにアクセスですか)」

('A`)「このサイトはいいな。実に興味深い。お気に入りに入れておくか」

(;*゚ー゚)「(ヨウツベっすかwww)」

('A`)「ん?お前、まだいたのか。もう大体はわかるようになった。
後は一人で出来るから、出ていっていいぞ」

ドクオは、虫でも追い払うようにしぃに「しっしっ」と手を振った。

(;*゚ー゚)「そうですか。それじゃあ私はこれで……」

('A`)「困ったぁ時は陰陽師♪let's go!」

(;*゚ー゚)「(きめぇwwww)」



19: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:14:47.02 ID:lYrBkbemO
ドクオの部屋を出た後、しぃは書類整理の仕事を思い出して、事務局へと向かうべく歩を早めた。
食堂の角を曲がった時、見慣れたしょぼくれ顔と出くわす。

(*゚ー゚)「あ、ショボン大将、お疲れ様です」

(´・ω・`)「やぁ、しぃ君か。お疲れ。
そうだ、今度の魔物討伐の日取りが決まったんだ」

(*゚ー゚)「意外と早いですね」

(´・ω・`)「あぁ。決行は二日後の早朝五時、VIP峡谷に巣くってるグールどもの巣に襲撃をかける」

(*゚ー゚)「グールなら、そんなに強力でもありませんしね」

(´・ω・`)「小手調べにはちょうどいいだろ?
ドクオ殿にも知らせておいてくれ」

(*゚ー゚)「了解しました」

(´・ω・`)「それじゃあ、僕は用事があるからこれで。ギコ君に宜しく」

(*゚ー゚)「た、大将!」

しぃが赤くなって何かを言うが、ショボンは笑いながら去っていった。



21: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:16:13.35 ID:lYrBkbemO
基地唯一の娯楽、「飲酒」。
それが許される場所、兵士達の楽園「バーボンハウス」の隅で、二人の互いによく似た男がノートパソコンを前に昼から酒を飲んでいた。

(´_ゝ`)「よし、ブラクラゲット」

(´<_`)「時に兄者、オレ達の次の出撃が決まったようだが、それについてどう思う?」

(´_ゝ`)「だからどうした?どうせ、また生き残るだけさ」

(´<_`)「救世主様も参戦するみたいだが」

(´_ゝ`)「あぁ、そういうことか」

(´<_`)「あぁ、そういうことだ」

(´_ゝ`)「………」

(´<_`)「正直、初めてあいつを見たときは魔物よりも恐ろしいと思ったよ。
別に何をしたわけでもないのに、ただそこにいるだけで…」

(´_ゝ`)「弟者」

(´<_`)「何だ、兄者」



22: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:17:19.33 ID:lYrBkbemO
(´_ゝ`)「あまり深く考えるな。オレ達は兵隊だ。兵隊は考えなくていい。ただ黙って銃を撃ってりゃあいいんだ。
そうすれば、カーチャン達が安心して生活できる。ただ、それだけだ」

(´<_`)「……あぁ、そうだな兄者。すまん、このことは忘れてくれ」

(´_ゝ`)「言われなくとも」



25: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:19:45.18 ID:lYrBkbemO
兄者の言葉を合図に二人はまた酒を飲むことに集中した。
気まずい空気が流れる。
二人とも、ただ黙々と酒を飲む。
臆病風に吹かれた訳では無い。ただ、弟者は彼には、「ドクオ」には馴染めそうに無かった。
こう見えても、兄者と弟者はジョルジュの率いる小隊の中では古参だ。
様々な戦場を渡り歩いてきて、戦いに慣れている。
そんな弟者の戦士のカンが、彼は良くないと告げている。
兄者も兄弟故にそれを知って、あえて弟者には何も言わせない。
言ったところで、どうにもならないから。
感情というものは、言葉に出すと抑えられなくなる。
戦闘が控えているというのに、自ら士気を落としていては勝てるものも勝てなくなってしまう。
戦いというのは存外にメンタル面の影響が大きいものだ。

ふと、バーボンハウスのドアの開く音がした。
もやもやした気持ちを持て余していた二人は、そろって振り返る。



29: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:23:00.56 ID:lYrBkbemO
( ゚∀゚)「やぁ、兄者に弟者、また昼間っから酒か?」

(´_ゝ`)「そういうあんたも飲みに来たんだろ、隊長」

(´<_`)「右に同じ」

( ゚∀゚)「ははは、そんなに邪険に扱わなくてもいいだろう?
どれ、ご相席させてもらうか」

(´_ゝ`)「どうぞ」

ジョルジュは二人の隣に座るとテキーラを注文し、ちびちびとやる。

(´<_`)「隊長」

( ゚∀゚)「なんだ?」

(´<_`)「隊長は何で戦っているんですか?」

弟者が表情を出さずに問う。



32: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/02(土) 01:30:13.95 ID:lYrBkbemO
( ゚∀゚)「これまた唐突だな。どうした?」

(´<_`)「いえ、ただの好奇心です」

ジョルジュは洞察力と観察力に長けている。そして彼は弟者の変化に気付いた。
弟者が表情を出さない時は何かしら悩みを抱えている時だ。
しかし彼はそこにあえて踏み込まない。
それが彼のスタンスであり、彼の人望の元でもある。

(´_ゝ`)「そいつはオレも聞きたいな」

ジョルジュはグラスを見つめしばらく考えていた。
やがて顔を上げてポツリとこぼす。

( ゚∀゚)「この、酒のため……かな」

バーボンハウスの中に、シニカルな笑い声が響いた。



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