('A`)はダークヒーローのようです

3: ◆/ckL6OYvQw [今日はちと長くなるぜ] :2007/06/04(月) 14:41:03.45 ID:gKhdfQsFO
第七話 出撃、そして再会

兵員輸送車の幌の隙間から覗く太陽が、ドクオの目に鈍い光りを映す。
朝からの曇天は、だがしかし小隊の面々の士気に多少の影響もきたしはしなかった。
現在時刻午前四時五二分。
ドクオ達魔物討伐隊━━「ジョルジュ小隊」はVIP峡谷の奥深く、通称「屍鬼の穴」の手前に待機し、突入の時間を待っていた。
ドクオ以外の小隊のメンバーは、強化装甲服「ギア」を装着し、それぞれ重火器を手に思い思いの戦前儀式を行っている。

ドクオはと言えば、軍用拳銃とカトラス、それに手榴弾とヘッドセットのみを装備し黙々と文庫本を読んでいる。

(=゚ω゚)「ぃよう救世主様、戦闘前に読書かい?そんなことより、もっとまともな装備を身に付けた方が、オレっちはいいと思うね」

ぃようが、ガムをかみながらドクオに絡んでくる。



4: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:43:26.09 ID:gKhdfQsFO
('A`)「オレはお前ら人間と違って装甲服なぞいらん。自分の心配でもしてろ」

文庫本から顔を上げるでもなく、ドクオは言い放った。

(=゚ω゚)「へっ、そうかい。まぁ救世主様にはいらない心配だったかね」

気を悪くしたのか、ぃようは鼻を鳴らしてそれきり押し黙る。
他の面々も口を開く者はおらず、兵員輸送車の中は出撃前の静寂に支配される。

(*゚ー゚)「……突入まで、あと二分を切りました」

オペレーター兼兵員輸送車運転手として同行したしぃが、静かに告げる。
皆、銃を構えて輸送車を降り始めた。

( ゚∀゚)「いいか、もう一度今回の作戦について確認する」

ジョルジュの声は幾分真面目な響きが加わっただけで、いつもと変わりは無かった。

( ゚∀゚)「突入開始の合図として、まずオレが手榴弾を横穴に向かって投げ入れる。
それが爆発したのを確認したら、突入開始だ。ヒートとぃよう、それにオレの三人が先行する。
兄者と弟者はその援護を頼む」

兵士達が口々に了解と呟く。

( ゚∀゚)「ドクオ、君は我々の隊列を乱さない程度に自由戦闘を行ってくれ」

('A`)「了解だ」



5: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:44:41.68 ID:gKhdfQsFO
ドクオが頷いたのを確認すると、ジョルジュは全員の顔を見回す。
皆、緊張した面持ちで頷いた。
ヘッドセットから聞こえるしぃの声が、突入開始のカウントダウンを始める。

(*゚ー゚)「…四…三…二…一…」

( ゚∀゚)「よし、それじゃあぼちぼち始めるかぁ!」

その掛け声と共に、兵士達は立ち上がった。
ジョルジュが後腰に下げた手榴弾を掴み、眼前の横穴に投擲する。
手榴弾の描く弧が、世界の時間の流れを遅滞させるような錯覚を、兵士達は覚えた。
やがてその錯覚は、耳をつんざく轟音によって覚まされる。

( ゚∀゚)「突入開始ぃ!」

ジョルジュの掛け声が、皆の足を動かした。戦闘開始である。



6: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:46:30.16 ID:gKhdfQsFO
ノパ听)「おらおらぁぁ!!突撃だぁぁぁぁぁ!!!!1111」

ヒートが手にしたヘビーマシンガンを乱射しながら、一番に横穴へと突入していく。
横穴の中からは、うめき声とも唸り声ともつかないおぞましい声が響いてくる。
おそらく、この横穴の住人「グール」だろう。

( ゚∀゚)「あまり先行し過ぎるなよ。今回はドクオの実力を見る為の作戦だ。
オレ達がグールを全滅させたって意味は無いんだからな」

ジョルジュがセミオートショットガンを発砲しながら、ヒートを窘める。

ノパ听)「しゃらくせぇぇぇぇ!!戦場では早い者勝ちだぜ、隊長ぉ!!」

( ゚∀゚)「やれやれ。聞いたかい、ドクオ。君も彼女に負けないよう、存分に暴れてやってくれ」

('A`)「言われなくとも」

ジョルジュの言葉が終わらないうちに、ドクオは駆け出した。グールごときに戦術など必要ない。
その足で一気にヒートを追い越し、先頭に出る。
視界に皺だらけのゴムのような皮膚をした、人影の群が飛び込んでくる。
死んだ魚のような、鈍よりと濁った眼孔。指先にねじくれた鉤爪を持つそれが、「グール」だ。



8: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:49:13.14 ID:gKhdfQsFO
奴らの数歩手前で足を止め、腕を構える。

('A`)「目的、前方五メートル×五メートル×七メートルの空間の焼夷。掌を支点に九十度に展開。開始」

そう呟き掌をグールの群に向かって開く。
すると、ドクオの掌から噴き出すかのごとく、灼熱の炎が荒れ狂う。
その炎がグール達を飲み込み、穴の中を赤々と照らす。
グール達は魂消るような絶叫を上げ逃げ惑うが、炎が彼らを逃すことは無かった。
無慈悲なる灼熱が、一匹残らず彼らを焼き尽くしていく。



9: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:50:37.58 ID:gKhdfQsFO
( ;゚∀゚)「これは……」

ジョルジュが、信じられないと言わんばかりに目を見開く。

(=゚ω゚)「うっひょー!まさかこれが『魔術』ってやつかい!?」

口笛を吹き、眼前の光景を見つめるぃよう。

ノハ*゚听)「熱いぜぇぇぇ!!!」

興奮して歓喜の雄叫びを上げるヒート。

( ;´_ゝ`)「流石救世主、『魔術』を扱えるとは……」

(´<_` )「それぐらい、やってくれなければ救世主としても認められないがな」

後方から、兄者と弟者がそれぞれの感想を述べる。



10: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:51:29.80 ID:gKhdfQsFO
やがて炎が沈静化すると、そこには消し炭と化したグール達の死骸が散らばっていた。

('A`)「さぁ、ここは片付いた。さっさと先へ進むぞ」

ドクオは後ろも見ずに言うと、さっさと奥へと進んでいった。

( ゚∀゚)「これは、頼りになるな」

ジョルジュが、ニヤリと笑う。

( ゚∀゚)「さぁオレ達も負けてられないぞ!進撃!」



11: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:52:58.25 ID:gKhdfQsFO
暗闇にマズルフラッシュが煌めき、屍鬼達の絶叫が木霊する。
硝煙の臭いと、屍鬼の流す生臭い血液の臭い。それはまさに死臭。

(=゚ω゚)「いやっはぁ!これでも喰らいな!」

暗がりから這うようにして現れるグール達を、ジョルジュら前衛が重火器で蹴散らす。

( ´_ゝ`)「よし、二匹ゲット」

(´<_` )「流石だな、兄者。こっちも二匹ゲットだ」

彼らが伐ち漏らしたのを、兄者と弟者がライフルで丁寧に駆除する。

('A`)「鬱陶しい猿どもだ。纏めて片付けてやる」

ドクオは一人先行し、かたまったグールの群をその『魔術』で一掃する。
グール達はその勢いに抗うこともできず、次々と地に沈む。最早、これは一方的な虐殺になっていた。

やがて銃声が止み硝煙が晴れる頃には、穴の中に動くグールの姿は無かった。



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:54:48.26 ID:gKhdfQsFO
( ゚∀゚)「よし、大方片付いたな。しぃ、穴の中の熱反応はどうだ?」

ギアのヘルメット部分に内蔵された通信機に、ジョルジュが呼びかける。

(*゚ー゚)「はい、穴の中にいるのはジョルジュさん達だけです。作戦終了ですね、お疲れ様です♪」

ドクオのヘッドセットからも、しぃの軽快な声が聞こえてくる。

ノパ听)「あーあ、もう終わっちまったのかよぉぉぉ……ドクオ、てめぇが一人で殺し過ぎなんだよぉ!」

ヒートが、勢いよくドクオの背中を叩く。

('A`)「少し黙れ」

ノハ#゚听)「あぁん?てめぇ、誰に口k」

('A`)「いいから黙れ」

ドクオが手でヒートを制す。彼の耳を済ますような姿勢に、全員が訝しげな反応をする。

( ゚∀゚)「……どうしたドクオ」

ジョルジュの声を無視して、ドクオは穴の更に奥へと入っていく。

( ゚∀゚)「おい、待てドクオ、作戦は終了だ!待て、待つんだドクオ!」

ジョルジュの声が、穴の中に虚しく響いた。



13: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:56:12.72 ID:gKhdfQsFO
ジョルジュ達を後ろに残して、ドクオは横穴の奥へと走る。
微かに人の声を聞いた気がして、それが彼の深層心理の琴線に触れた。

壁に沿って進むと、やがて突き当たりの空間に誰かが立っているのがぼんやりと見えた。
逸る気持ちを抑えられず、ドクオはその人影に声をかけた。

('A`)「おいお前!」

ドクオの呼びかけに、その人影がゆっくりと振り返る。

美しく真っ直ぐな黒髪に縁取られた顔は、恐ろしい程に均整がとれていて、今まで見たどんな人間よりも美しかった。

川 ゚ -゚)「やぁ、久し振りだね、『オリジン』。それとも、今は『救世主様』と呼んだ方がいいかな?」



15: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 14:58:27.55 ID:gKhdfQsFO
その顔にドクオは見覚えが無かった。
だが、胸の内から沸き起こる言いようのない「懐かしさ」にも似た感情が、目の前の女と自分が過去に会合している筈だと訴える。

('A`)「お前は……」

頭に残る違和感を振り払うべく、強気な態度を取り繕うが無駄だった。
ドクオは弱々しい言葉しか捻り出せない。

川 ゚ -゚)「思い出せないのも無理は無いさ。
彼らは君に幾重にも重ねた記憶封印を施したのだから。
今の君は、邪神を倒す術と五千年前の生活風習ぐらいしか頭に残って無いハズだ」

女は表情を変えずにそこまで言い、小さく呟いた。

川 ゚ -゚)「私のことも……な」

悔しそうな、辛そうな表情はだが一瞬で、直ぐにまた平坦な表情に戻る。

川 ゚ -゚)「君はまだ自分が何者なのかも知らない。
邪神を倒すのも、ただ本能に従っているだけ」

('A`)「オレは……」

混乱した頭では何も言えず、ドクオは言葉を繋げられなかった。



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/04(月) 15:00:33.96 ID:gKhdfQsFO
川 ゚ -゚)「思い出したかったら、『魔術師の末裔』を倒すんだ。いや、倒して欲しい」

川 ゚ -゚)「そうしないと、私達は『時の墓標』へと帰れない」

女の言葉に被せるようなタイミングで、後ろから足音が響く。
恐らくはジョルジュ達であろう。

川 ゚ -゚)「む、まずいな。ここにも奴らの飼い犬がいるのか。それではな、ドクオ。私は去らねばならない。
落ち着いて二人きりで話したいが、そうもできない」

そう言うと、女は後ろを向き『魔術』の展開に入ろうとする。

('A`)「待て!名前を、名前を教えろ!」

川 ゚ -゚)「クー……君がくれた名前だ」

寂し気に呟くと、彼女は『魔術』を再開する。

川 ゚ -゚)「目的、自身の転移。前方の壁を支点に二メートル×一メートルに展開。座標、ここより十キロ先の山中。開始」

彼女の言葉と共に壁が光を発する。その光の中に彼女は足を踏み出し、やがて光と共に見えなくなった。

('A`)「クー……」

残されたドクオの耳に、ジョルジュ達の声がぼんやりと入ってくる。



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