('A`)はダークヒーローのようです
- 10: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 21:52:03.36 ID:BDyp4T7cO
- 第九話 ニコチン
大蛇のようにうねる人の波。
生きているが生気の無い目。
疲れきった表情。
つまらなそうな足取り。
溜め息。愚痴。怠惰。
感情渦巻く交差点、彼女は大衆の中で孤独に打ちひしがれていた。
从゚∀从「死者の行進だな、こりゃ」
人の流れを振り返る。
仕事に追われるサラリーマン、携帯片手に声高に喋る若い女、薬物依存らしい虚ろな表情の男性。
ラッキーストライクの煙越しに見る人々は、このタバコの煙よりも存在が不確かなような気がして。
彼らは本当に生きているのだろうか?
真の意味で人生を生きているのか?
彼女の脳内を、そんな考えが支配する。
- 11: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 21:54:00.17 ID:BDyp4T7cO
- 从゚∀从「こいつらは真に守るに値するのかね?」
イントネーションに、彼女なりのアクセントをつけて独りごちる。
今日のタバコは、不味い。
从゚∀从「はは、考えるだけ無駄、か」
馬鹿馬鹿しくなったのか、彼女は肩をすくめるとまた歩き出した。
まだ随分と残っているラッキーストライクを、携帯灰皿にねじ込む。
彼女の背中は、大衆の中にあって一人だけ妙に生き生きとしていた。
- 14: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 21:56:33.13 ID:BDyp4T7cO
- ドクオが、コーヒーの最後の一口を飲み干すと、彼の探し人が曲がり角から姿を現した。
( ゚∀゚)「やぁドクオ、散歩かい?」
ジョルジュはいつもの気だるげな歩き方で彼の目の前の自販機に歩み寄ると、ドクオのと同じコーヒーのボタンを押し、カップを取りドクオの隣にもたれかかった。
('A`)「お前を捜しているうちに散歩になった」
紙コップをゴミ箱に放ると、長い前髪をかきあげる。
自分でも、鼻につく癖だと思う。
( ゚∀゚)「オレを捜して?はは、オレもついに男にモテるようになっちまったか」
軽口を叩き、コーヒーを啜る。
('A`)「聞いて欲しいことがあってな」
含みのある声で、ドクオは切り出した。
- 15: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 21:57:48.27 ID:BDyp4T7cO
- ( ゚∀゚)「オレに聞いて欲しい事?」
決してジョルジュはせせら笑う事をしない。それが彼の魅力だ。
('A`)「あぁ。少し困ったことがあってな。今まで何千年も生きてきた筈だが、こんな事は初めてだ」
ジョルジュは黙って先を続けるよう促す。
('A`)「嘘を、ついたんだ」
ジョルジュはコーヒーをまた一口啜ると、ドクオの方を見た。
( ゚∀゚)「嘘か。どんな嘘なんだ?」
('A`)「些細な事かも知れん。だが、相手にとっては、その言葉が、唯一の、希望なんだ」
一つ一つ区切って言葉を紡ぐ。彼にしては珍しい喋り方に、ジョルジュも真剣な顔をする。
( ゚∀゚)「ふむ。偽りの希望を相手に与えてしまったと」
('A`)「あぁ。オレでは彼女の願いを叶えてやることはできないのに、だ」
ドクオは、今までに感じたことの無い不安を抱えていた。
何においても完璧であった筈の自分が、こんな感情を抱くとは夢にも思っていなかった。
- 19: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:01:11.45 ID:BDyp4T7cO
- ちらとジョルジュの方を見やる。
だが彼は別段笑うでも無く驚くでも無く、真剣な眼差しでドクオを見つめている。
その眼差しに、彼は安堵と安らぎを覚えた。
( ゚∀゚)「それでお前は、その相手の願いを叶えてやりたいのか」
ゆっくりと、ジョルジュが訪ねる。
('A`)「わからない。本来なら、人間なんかに興味など持たない筈なんだが……」
( ゚∀゚)「なら簡単だ。はっきりと『嘘だった』と謝ればいい」
('A`)「しかし……」
煮え切らないドクオの言葉。
( ゚∀゚)「しかし、なんだ?」
('A`)「相手はまだ成熟しきらない子供だ。しかも、物心がついたばかりの」
( ゚∀゚)「ふむ……確かにそいつは厄介だな。子供は嘘に傷付きやすい。余程上手くやらなきゃいかんぞ」
ジョルジュはコーヒーを一気に飲み干すと、カップを捨てソフトケースに入ったマルボロを取り出し、火をつけた。
- 20: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:02:16.63 ID:BDyp4T7cO
- ('A`)「オレはどうしたらいい?」
( ゚∀゚)「そうだな……その子供の『願い』っていうのはどうしても叶えられないものなのか?内容によっちゃどうにかなるかも知れん」
('A`)「絵本の中の猫を蘇らせたいんだそうだ」
( ゚∀゚)「……お前さんは何て答えたんだ?」
答えるべきなのか。少し躊躇ったが、一呼吸を置いて、ドクオは胸の内を吐き出した。
('A`)「魔法使いを捜してきてやると」
( ゚∀゚)「……」
二人の間に沈黙が流れる。ジョルジュは思案しているようで、煙を吐き出してはそれを眺めている。
気がついたように、閉まったマルボロを一本取り出しドクオに差し出す。
( ゚∀゚)「お前さんも一本どうだい?」
この直径八センチ弱の細長いニコチンの塊の味を、ドクオはまだ知らない。
試しに一本貰っておく事にしてみた。
ジョルジュがジッポですかさず火をともす。
煙を灰いっぱいに吸い込み、吐き出す。
苦いながらも、ほっとするような味がした。
( ゚∀゚)「……オレが思うに、最後までその子供の魔法使い捜しに付き合ってやるのが、この際一番だと思うぜ」
- 23: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:04:48.64 ID:BDyp4T7cO
- ('A`)「だろうな。やはり、それが一番なのかも知れん」
タバコの煙がゆらゆらと揺れる。
ドクオの胸中を表しているようで、滑稽だった。
( ゚∀゚)「あぁ。だが結局は魔法使い捜しなんてのも、まやかしなんだ。その場しのぎにしかならん。
いつかは限界が来る。その時どうやってその子を納得させるかは、ドクオ、お前さんが考えることだ」
マルボロをフィルターぎりぎりまで吸うと、ジョルジュは灰皿に押し付けた。
蛍のような火が消え、後には灰が残る。
('A`)「わかってる」
くわえたマルボロから煙を補給する。
唇から離して、マルボロをしげしげと見つめた。
( ゚∀゚)「まぁ、頑張れよ」
我が子でも見るように、ジョルジュが目を細める。
('A`)「お前は、煙草みたいな男だな」
ドクオがポツリと呟いた言葉は、ジョルジュの耳に入ったのか。
彼はいつもの苦笑いを残して、歩いていった。
後には煙草の煙が残る。
戻る/第十話