('A`)はダークヒーローのようです
- 25: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:08:07.87 ID:BDyp4T7cO
- 第十話 雨と追憶
朝はあんなに天気が良かったのに。
そんな事を考えながら、ツンはあまり広いとは言えない自室のベッドの上でオカルト雑誌「ヌー」のページを繰っていた。
外は天の床板が外れたかのような土砂降りの大雨。
時刻は十二時を回っている。
大学の研究室に顔を出す予定だったが、朝起きてみると頭がくらくらした。
熱を測ってみると、三九度。
心なしか喉も痛むようだったので、内藤にメールで今日は研究室に行けない事を告げた。
内藤と来たら、そんな些細な内容のメールにすら必死に心配して電話までしてきた。
少し大袈裟だと思ったが、そんな内藤の思いやりがツンには堪らなく嬉しかった。
内藤は、研究室の帰りにツンの部屋に寄ると言って電話を切った。
それが四時間前。
急に雨が降り出したのが二時間前。
出来損ないのリゾットを作ったのが一時間前。
- 28: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:11:12.68 ID:BDyp4T7cO
- ξ゚听)ξ「ブーン、何時頃研究室出るのかな」
ξ゚听)ξ「お見舞いには何を買ってくるんだろ」
ξ゚听)ξ「相変わらず、あのキバヤシとか言う大袈裟な男と一緒に馬鹿やってるのかな」
ξ゚听)ξ「雨だけど、傘はちゃんと持ってるのかしら」
ξ゚听)ξ「あ、久しぶりに来るから、道忘れてるかも。大丈夫かな……」
そこでツンははっとする。
先程から内藤の事ばかり考えているではないか。
ξ*゚听)ξ「は、何考えてるんだろ私。馬鹿みたい。ブーンがお見舞いに来るくらいで……」
一人の部屋で上気した頬をつねり、ベッドに顔をうずめる。
ξ--)ξ「私のキャラじゃ、無いわよ」
- 29: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:12:21.66 ID:BDyp4T7cO
- 気付けば時計の針は二時をさしている。
ξ;゚听)ξ「二時間もブーンの事考えてたなんて……こりゃあ重傷だわ」
ξ゚听)ξ「あー、やめやめ。とりあえず部屋の掃除でもしとかなきゃ」
気分を入れ替える為、ベッドから立ち上がる。
ξ゚听)ξ「とりあえずは、この『ヌー』の山をなんとかしなきゃね」
そう呟くと、彼女は床に散らばるオカルト雑誌の山を見つめた。
この『ヌー』は、ツンが高校生だった頃から毎号欠かさず購読しているもので、ツンは内藤に教えてもらって初めてその存在を知った。
当時の彼女は、内藤がこの雑誌を教室で読んでいるのを見て、
ξ゚听)ξ「オカルトヲタきめぇwwwww」
などと言っていた。
しかし、放課後本屋から出てきたツンの小脇にはしっかりと『ヌー』が挟まれていたのだった。
内藤を「オカルトヲタ」呼ばわりした手前、自分もこの雑誌を購読していることを知られてはしめしがつかない。
ツンは意を決して床に散乱する『ヌー』をかき集めると、紐できつく縛り持ち上げた。
- 31: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:14:26.51 ID:BDyp4T7cO
- 二年分の雑誌を紐でまとめると、四束のオカルトの山ができた。
自分でも呆れる程に集めたものだ。
ため息を吐きながら、押し入れを開けてその中に『ヌー』を押し込もうとして、彼女はふと懐かしいものをそこに見つけた。
青い表紙の分厚いそれは、ツンの母校である「都立VIP高校」の卒業アルバムだった。
ξ゚听)ξ「卒アルかぁ……懐かしいなぁ」
大掃除お約束のノスタルジィタイムである。
一ページ、一ページを、丁寧に愛おしげに捲るツン。
ξ゚听)ξ「あ、これ貞子じゃん。あの子今頃どうしてるのかな。相変わらず影薄いのかな」
口元を綻ばせながら、思い出を噛み締める。
ξ゚听)ξ「ブーンはこの頃からキモピザねwww」
ξ゚听)ξ「あ、修学旅行。そういえばラウンジに行ったんだっけ。まさかあそこが滅びるなんて思いもしなかったなぁ」
- 34: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:15:23.30 ID:BDyp4T7cO
- 楽しかった高校時代、何もかもが輝いていた。
つまらないものなど無く、目に映る全てが新鮮で希望に溢れていた。
ξ゚听)ξ「これ……」
アルバムの中に、かつての傷跡を見つけたツンは、ページを捲るのを止めた。
その視線は、一つの写真を悲しげな眼差しで見つめている。
写真の中では、まだ上手く巻けていないツインテールのツンと、黒髪の美少女がこの世の春を謳歌するように満面の笑みを浮かべている。
ξ゚听)ξ「クー……」
胸の中を、切れ味の悪いナイフが抉る。
写真の中にツンと一緒に写っている少女は、もういない。
最後のページ、卒業写真の中にもその少女の姿は無い。
━━行方不明。新聞やニュースはそう告げた。
ある日、忽然とツン達の前から姿を消したのだ。
去年、死亡宣言の許可が下りるちょうど七年目に彼女の家族は死亡宣言をし、保険金を受け取った。
思えば、家族からは愛されていなかったのだろう。
その後、誰も彼女のことを探そうとする者は現れなかった。
- 36: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:17:38.06 ID:BDyp4T7cO
- それでもツンと内藤は諦めなかった。
周囲が彼女の事を忘れ去っても、懸命に彼女の行方を捜し続けた。
それはVIP大学民族学部の院生になった今でも変わらない。
暇を見つけては彼女の失踪に関わりがありそうな事なら、どこまでも掘り下げて追求した。
しかし、その成果は芳しく無い。
八年経った今でも、彼女の足取りはようとして知れないでいる。
ξ゚听)ξ「絶対、見つけ出して横面張り倒してやるんだから……」
ツンが呟くのと同時に、玄関のチャイムが鳴った。
慌ててアルバムと『ヌー』の束を押し入れに押し込むと、彼女はふらつきながらも玄関まで駆けた。
ξ゚听)ξ「はいはい、開いてますよ」
- 38: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:20:09.34 ID:BDyp4T7cO
- ツンがドアを開けると、そこにはずぶ濡れの内藤と、その内藤に支えられた見覚えの無い女が辛うじて立っていた。
ξ;゚听)ξ「ど、どうしたのよその人!?」
驚くツンを遮り、内藤は見ず知らずの女を支えながらツンの部屋に上がり込む。
そのままソファに彼女を寝かせると、やっとツンの方を振り返った。
(;^ω^)「道端に倒れてたんだお。死んでるかと思ったけど、まだ意識があったからここまで連れてきたんだお」
内藤の息は荒い。女一人の体重とはいえ、土砂降りの中をここまで支えて来たのだ。さぞかし大変だったろう。
ソファに横たわる女を改めて見る。
恐らく藍色だったであろう長衣は、雨と彼女自身の血液で見るも無残に汚れ、あちこちが破れていた。
長衣の切れ目からは、生々しい傷口がのぞいている。
ξ;゚听)ξ「いけない!早く救急車呼ばないと!」
ツンが慌てて携帯を開く。だが、今までソファで苦しそうに横たわっていた件の女が、その手を掴んだ。
ミセ;>ー<)リ「救急車も、警察も……はぁ、呼ばない…で」
ξ;゚听)ξ「でも、あなた、その傷は流石にまずいでしょ……常識的に考えて」
- 40: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/10(日) 22:23:04.44 ID:BDyp4T7cO
- ミセ;゚ー゚)リ「私なら、平気ですから……少し休ませていただければ、大丈夫です……それに、病院だけは……」
そう言うと、傷だらけの女は目を閉じた。
何やらただ事では無さそうだと、ツンは思った。
ξ;゚听)ξ「わかったわ。どこにも連絡はしないから、とりあえず手当てだけはさせてね?」
救急箱を取り出し、蓋を開ける。
彼女はツンの言葉に黙って従った。
外では遠雷が轟き、雨はよりいっそう激しさを増したようだった。
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