('A`)はダークヒーローのようです
- 25: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:18:41.79 ID:oUYYkgreO
- 第十七話 スクランブル
もう、三日三晩も飲まず食わずで不眠不休だな。そんな事を、女は考えていた。
川 ゚ -゚)「まぁ、私には問題ないが」
さえずる小鳥の鳴き声が、密集した木々の梢の間を通り抜ける。
遠くで、水のせせらぎが聞こえる。人の話す声もちらほら聞こえる。
集落が近いのだろう。あまり人間とは接触できない。どんなことであれ、追われている今は少しの油断が命取りだ。
だが、正直なところ人肌が恋しい。
出来ることなら、誰かと話しがしたい。
川 ゚ -゚)「いかんな、予想以上に精神面が軟弱になってきてしまっている」
これも、彼らと過ごした一年ちょっとの弊害かと自嘲気味に呟くと、女はそこだけ周りよりも繁茂した茂みの中に隠れ、息をすます。
川 ゚ -゚)「とにかく、渡辺と早く接触しなければ。彼女は無事だろうか」
独りごち、いよいよ自分の寂しがり屋が店のシャッターを開けた事に溜め息をついた。
ふと、遠くで誰かの悲鳴が木霊する。
それに続いて、身の毛もよだつような汚らわしい咆哮。
川;゚ -゚)「……(落ち着け。今は出て行ってはならない。自分が今置かれている立場を理解しろ)」
- 26: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:20:02.59 ID:oUYYkgreO
- ぐっと、下唇を噛み締め、人々の悲鳴に耳を塞ぐ。
今は、今人目につくのは、まずい。避けるべきだ。
だが…
川;゚ -゚)「くそっ、どうにでもなれ」
女は意を決して茂みから立ち上がると、悲鳴の聞こえた方向に向けて駆け出した。
川 ゚ -゚)「随分と私も甘くなったな…」
自嘲し、足に力を入れる。
悲鳴の音階は、いよいよ高くなりつつあった。
- 29: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:21:42.56 ID:oUYYkgreO
- ━━VIPにかわるニュー速国の現行首都ニーソク。
享楽に賑わうその街の喧騒に隠れるように、その地下街は存在した。
ニーソクの地下を網の目のように走る地下鉄や、カジノやドラッグバーが支配するアングラ色の強い地下街とは、また一線を画すその人気の無い一見閉鎖地区とも思われるそこに、男達は一同に会していた。
彼らは全員が全員、白を基調として青と黒を織り交ぜた奇怪な形状のローブを纏っている。
その中の癖毛長髪の男━━以前、フサギコと呼ばれた男━━が、口を開いた。
ミ,,゚Д゚彡「『力』の回収は失敗しました。申し訳ありません」
苦々しく言うと、頭を垂れる。
(’e’)「ビコーズも同行していて逃したのか。やはり、我々の力でも彼女は手に余る」
背中に巨大な銀の輪環を背負った男が、溜め息混じりに呟いた。
( ∵)「自分が付いていながら、申し訳ありません。ところで、『鍵』の方の捜索はどうですか?」
ビコーズが、自慢の銀髪をいじりながら輪環を背負った男に尋ねる。
(’e’)「君たちと大して変わらんよ。こっちもお手上げだ。以前ニーソクで見かけたと、ヒッキーから報告があったのだが」
- 31: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:23:10.15 ID:oUYYkgreO
- 輪環の男はそう言い、彼の後ろに立つ一同よりも背の低い小柄な男を振り返った。
むしろ男というよりは少年に近いあどけなさを残した彼は、その肩にとまっているソフトボール大の奇怪な昆虫に視線を向けた。
(-_-)「僕はただ、こいつがそれらしい女を見たからそう言っただけですよ…責任のなすりつけは、止めて貰えますか?」
陰鬱な声で呟くと、彼は昆虫の頭を指で撫でた。
(’e’)「……」
輪環の男は昆虫の少年を一睨みすると、ローブのポケットに手を突っ込む。
(-_-)「…ま、僕には関係ないですけど」
それにいささかの反応も示さず、昆虫の少年はそのまま後ろを向いてしゃがみ込むと、肩の昆虫とじゃれあい始めた。
ミ,,゚Д゚彡「手詰まり…ですか」
フサギコの言葉に、場の全員が歯噛みするようにうなだれた。
沈黙が流れる。
/ ゚、。 /「……打開策が、ある」
ふと、今まで黙っていた、壁のようにそびえる巨人のような男が声を上げた。
身の丈二メートル強はありそうなその巨躯の背中には、彼の体躯よりも僅かに大きい棒状の鉄塊を背負っている。
- 32: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:24:08.33 ID:oUYYkgreO
- ( ∵)「打開策とは?」
ビコーズが一番に尋ねた。
/ ゚、。 /「……」
寡黙なのだろう。
一同を見回すと、長い間を開けて巨躯は口を開いた。
- 34: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:25:47.10 ID:oUYYkgreO
- ━━いてもたってもいられず外に飛び出したミセリの目に、不吉な影が飛び込んできた。
遠目に見えるニーソクの目抜き通り。
そこを、何やら黒ぐろとした蟻のような行列が行進している。
目に神経を集中してよく見ると、それは頭から黒いフードを被った異相なる人間の群れだった。
ミセ;゚ー゚)リ「あれは……もしかして、邪教徒達!?」
噂だけは、彼女も聞いて知っていた。
邪神の持つ理不尽なまでの驚異に心酔し、自らの神として崇める集団がいると。
あの集団が、邪教徒の集まりなのだろうか。
ミセ;゚ー゚)リ「一体、あそこに集まって何をしているのかしら…」
集団の方から、耳をつんざかんばかりの絶叫が木霊した。
ミセ;゚ー゚)リ「た、大変っ!」
自分が行ったところで何ができるだろう、という考えは彼女の頭には無かった。
ただ、何が起こっているのかを確かめたい。そして、できるなら悲鳴の主を助けたい。
その一心で、彼女は走り出した。
- 35: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:27:03.77 ID:oUYYkgreO
- ━━ドクオは、あのヘリカルという少女と出会ったベンチに腰掛け、何をするでも無くぼんやりと考えに耽っていた。
彼の隣に、少女はもう居ない。
それが、なんとなくドクオの手持ち無沙汰な気持ちに拍車をかける。
悲しみが、わからない。
悲しみというものが喪失感ならば、ドクオはまさに悲しみの渦中にいると言えるだろう。
だが、それだけでは無いような気がする。
もっと大切な何かが…
(;゚ー゚)「ドクオさんっ! 緊急事態です! すぐに準備をして正面ゲートに来て下さい!」
突然ドアを開けて現れたしぃの言葉に、ドクオの思考は中断させられた。
('A`)「また、戦闘か…で、今度は何が起こった」
気だるげに立ち上がると、尋ねる。
(;゚ー゚)「邪教徒の集団が、ニーソクの目抜き通りでテロを起こしています! ニーソクの警備隊ではどうにもならないから、私達が出動する事になりました! 詳しい話しは兵員輸送車の中でします! とにかく早く来て下さい!」
口早にまくし立てると、しぃは慌ただしく駆けて行った。
ドクオも、その後ろ姿を早足に追う。
- 36: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:28:24.15 ID:oUYYkgreO
- ━━兵員輸送車から降りたジョルジュ小隊の面々は、ニーソクの目抜き通りに漂う異様な雰囲気に戸惑った。
おどろおどろしい祈りの歌ともとれる不協和音が、アスファルトの森に響き渡り、所々で火の手が上がっている。
邪教徒達は口々に不気味な唸りとも囁きともとれる声を上げ、その目深に被ったフードの下の目は病的な切迫さと狂気に苛まれたように爛々と光っていた。
手に手に、松明やどこから調達したのか銃器や手榴弾、斧に鎌を携え、逃げ惑うニーソクの住民達を虐殺していく。
(,;゚Д゚)「ひでぇ……なんで、同じ人間を…」
ギコが苦い表情で、目抜き通りの惨状を見つめる。
彼は前回の補給活躍での活躍がジョルジュに評価され、一足跳びにジョルジュ小隊に配属される事が決まったのだ。
( ゚∀゚)「初出撃が、こんな胸糞の悪い任務でスマンな…どうかここはこらえてくれ」
ジョルジュは優しくギコの肩を叩いた。
- 38: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:29:42.66 ID:oUYYkgreO
- この時代の軍隊は、人を敵として想定した訓練は申し訳程度にしか行われていない。
数年前に可決された世界平和協定により、人間同士の戦争というものは完全に駆逐されたからである。
それでも、今回のようなテロが起こらないとは限らない為、暴動鎮圧の戦術などは訓練兵の時期にそれとなく習う。
そして、今回がその訓練の成果を活かすときなのだが、やはりギコの表情は暗いままだ。
彼は自分が邪神とその下僕だけと戦うものだとばかり思っていたのだから、しょうがないと言えばしょうがない。
ノパ听)「外道が…まったくムカつくぜ…」
人一倍仲間同士の絆に熱いヒートが、怒りを堪えながら押し殺した声で呟く。
その手には麻酔銃が握られている。
世界平和協定の手前、テロリストや邪教徒であろうと緊急事態以外での実弾の発砲は認められていない。
その為、ジョルジュ小隊の装備は随分と生易しいものばかりが揃えられた。
(=゚ω゚)「生け簀かねぇ任務だな……さっさと終わらせて酒でも飲みたいぜ」
ぃようが、スタンバトンと呼ばれる警棒に電流を流す装置を取り付けたもので、肩を叩きながらぼやいた。
- 39: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:30:44.45 ID:oUYYkgreO
- ( ´_ゝ`)「しかし、他小隊の面々がまだ到着してないように見えるが」
邪教徒の虐殺行進を眺めながら、兄者が呟く。
今回の任務には、ジョルジュ小隊の他に二つの小隊が参加する事になっていた。
(´<_` )「まぁオレ達だけでもなんとかなるだろ。新型も手に入ったし、何より心強い新入りも居る」
弟者は、背に担いだ巨大な樽に似た装置から伸びるノズルのような発射機構を撫でながら、ギコを振り返った。
(´<_` )「宜しく頼むぞ、ギコ君。模擬戦闘ではトップクラスの成績だったそうじゃないか」
ニッと笑い、握手の形にしてギコに右手を差し出す。
(,*゚Д゚)「いえ、自分は…」
ギコが照れながら弟者の差し出した手を握る。
(,;゚Д゚)「痛っ!」
刺すような痛みに、慌てて握った手を離すとそこには画鋲が刺さっていた。
( ´_ゝ`)「ちょwww弟者自重wwwww」
兄者が珍しく腹を抱えて笑っている。
それを眺め、ぃようも笑いながら言った。
(=゚ω゚)「あひゃひゃwwwそれ、オレも昔やられたぜwwwww弟者流の歓迎の儀式だとよwwww」
('A`)「下らん事を…」
- 41: ◆/ckL6OYvQw :2007/06/20(水) 22:32:38.62 ID:oUYYkgreO
- (´<_` )「これがブラクラだ。美味しい話しには裏がある。これに懲りたら、エロ画像と言って貼られている画像のURLは、安易に踏まんことだな」
ニヤニヤ笑いながら、弟者が言う。
(´<_` )「最も、オレ達は、敢えてその地雷とも言える嫌がらせの中に自ら進んで飛び込む。何故ならば…」
( ´_ゝ`)(´<_` )「オレ達が、漢としてこの世に生を受けたからだ」
ぃようが腹を抱えて笑いのたうち回っている横で、ギコは間の抜けた顔で立ち尽くしていた。
この不思議な先輩達と、これからどう接していけばいいのかを考えあぐねているようだ。
( ゚∀゚)「さぁ、緊張もほぐれた所でそろそろ任務に取りかかるか。お前ら、準備はいいか?」
ジョルジュが締めるように、その場の全員を見回し言った。
邪教徒達のカーニバルはいよいよ激しさを増し、目抜き通りに住民の引き裂かれんばかりの絶叫が一際高く響く。
それを合図に、ドクオ達は血と狂気が支配する目抜き通りへと、駆け出して行った。
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