('A`)はダークヒーローのようです
- 5: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:29:52.91 ID:0vrQ6n+LO
- 第二十四話 牙
蠱の嵐の中を駆け抜けるクーは、『招待主』の姿を求めて周囲に首を巡らせた。
突進してくる蠱をかわしながら、とにかく走る。
四方八方から飛びかかってくるシャン達は、本当に理性があるのかすら疑わしい程に捨て身の構えだ。
川;゚ -゚)「厄介な奴らだな、まったく。休みなくかかってくるから、魔術の展開もままならない…」
そう毒づきながら、クーは目の前に迫ったシャンのバレーボール大の頭部に手刀を突き刺す。
卵の殻を割るような音に続き、彼女の右手にぬめりとした脳漿の感触が伝わった。
一瞬でその汚らわしい蠱の体内から腕を引き抜く。
シャンは、断末魔も上げずに情けない羽音を立てて地に落ちた。
川 ゚ -゚)「何より、『招待客』であるこいつらは、『使い魔』なんかと違って『招待主』との距離関係など無関係に行動できるのが、一番難儀だ。先程の声からして、何故かこの近くにいるみたいだが…」
- 6: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:30:49.24 ID:0vrQ6n+LO
- 魔術の中には、使い魔と呼ばれる魔術によって生み出した生物を、支配し操る技術がある。
その場合、魔術で精神が繋がった使役者が、常に使い魔の見える場所に居て指示を与えなければならないのに対し、魔術的な繋がりが何も無い『招待主』と『招待客』の関係は、ある種の共闘関係に近いと言えよう。
川 ゚ -゚)「いくら渡辺がいるとは言え、長期戦に持ち込まれると、いささか分が悪い。あまりスマートでは無いが、力任せに行くとしよう」
そう言うとクーは大きく跳躍し、蠱の大群から離れた位置に着地した。
川 ゚ -゚)「目的、対象の圧壊。掌を支点に前方500メートル×45度に展開、開始」
詠唱と共に、掌を突き出す。
その動作と共に、不可視の波動でも放たれたのだろうか。
彼女の視界内に映る物質という物質が、凄まじい程の重力によって押し潰れた。
材木の軋む音、折れる音、それらが混沌とした不協和音を奏でて全てを地面に屈させる。
ただし、そうなったのはあくまで家屋や木々だけだった。
シャン達は、元気に飛び回っている。
- 7: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:31:47.16 ID:0vrQ6n+LO
- 川 ゚ -゚)「やはり、シャンもろともとはいかないか」
魔術とは精神の力だ。
精神力を消費し、この世界の物理的法則をねじ曲げる。
それが魔術と呼ばれる技術だ。
火を起こしたり、遠くに移動したり、多種多様な使い方がある魔術だが、一つの欠点がある。
精神を持つもの、すなわち自我を持ち、尚且つ魔術の力を知るものに対しては、抵抗されるとその力を十分に発揮できないのだ。
だから、魔術を知る人間を内側から爆発させようと思い魔術を詠唱したところで、対象の人間が強く拒めば、それは無意味な独り言となんら変わらない。
川 ゚ -゚)「さて、『招待主』はいるか?」
言いながら、彼女は倒壊した家屋の残骸の山を眺める。
土煙はやや掠れはじめ、向こうのシャンまでも見通せたが、それだけだった。
川 ゚ -゚)「隠れるならば、家屋の中だと思ったが…違ったか。ならばどこへ?」
見渡す限りに禍々しい昆虫の群ればかりの‘元’集落を一望し、彼女は小さく舌打ちした。
遮蔽物の無くなった一帯には、到底隠れられるような場所は無い。
となると考えられるのは、鬱蒼と樹木が生い茂る山の中か。
- 8: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:32:46.15 ID:0vrQ6n+LO
- 川 ゚ -゚)「しかし、確かにあの声は念話などでは無く、肉声だった。絶対にこの近くに居るはずだ」
対象の脳内と自分の脳内に魔術によって回線を開き、精神によって会話をする技術の事を念話という。
使い魔に指示を出すのにも使われるこの技術は、距離に影響されない。
しかし、先程クー達に話しかけて来た『招待主』と思われる声は、明らかに肉声だった。
どこから聞こえてくるか判断がつかない、という不振な点を除いて、通常の会話とは何ら変わりは無い。
「ははは、無駄だよ、無駄無駄。僕を探しているんだろう?生憎、僕は頭がいいんだ。君じゃ見つけられない。おとなしく、シャン達にバラされなよ。
骨格が無くならない限り、君は死なないんだろう?大丈夫。骨だけになったら、僕が助けてあげるから」
哄笑が山間に響く。
やはり、肉声だ。
川 ゚ -゚)「……しかし、どこに居るというのだ?」
そこで、彼女はある仮説に考えが至った。
いや、しかしそれは無茶だと常識が反論する一方、それしか考えられないと前頭葉が告げる。
川 ゚ -゚)「まさかな……」
- 10: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:33:45.30 ID:0vrQ6n+LO
- ━━その頃渡辺は、蠱の嵐の中心で氷で作り出した戦斧を振り回し、次々と宇宙昆虫共を薙はらっていた。
右に一振り。左に一振り。戦斧が振るわれる度に、シャンの硬質の殻とも呼べる皮膚が潰れる嫌な音がする。
体液が、肉片が、空中に舞い地を汚すが、彼女の着ている愛らしいワンピースは一切汚れる事は無かった。
从'ー'从「ふぅ。クー様は、『招待主』を見つけられたんでしょうかぁ」
そう呟き、彼女は手にする戦斧を地に下ろした。
周囲を飛び回るシャン達の数は大分減っており、あらかた彼女の仕事は終わったと言えよう。
从'ー'从「……とりあえずぅ、私もお手伝いしないといけませんねぇ」
そう言うと、彼女は勢いを弱めた蠱の嵐の中を、クーの居る方向へとスキップで歩き始めた。
まるで戦場には不釣り合いな光景だが、スキップの幅を見れば、彼女が常識に当てはまらない存在なのは一目瞭然だ。
一跳びでトレーラー一台分の幅を跳躍する彼女は、今では廃れてしまったオリンピックにでも出たら、間違いなくドーピングで退場させられただろう。
- 11: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:34:46.01 ID:0vrQ6n+LO
- そうやって、進んで行く内、彼女の視界に瓦礫の群れが飛び込んで来た。
クーが『招待主』を探し出す為に、虱潰しに破壊した「集落」の成れの果てだ。
その瓦礫の群れを前に、何やら思案するように佇むクーを見つけ、渡辺は駆け寄った。
从'ー'从「クー様、こっちの方は大体終わりましたよぉ」
クーは、その渡辺の声に振り向きもせずに口を開いた。
川 ゚ -゚)「そうか。こっちは、相変わらずどこに奴がいるのかわからん。肉声が聞こえるという事は、必ずこの近くにいると思うんだが……」
そう言い、顎で前方の瓦礫の群れを指し示す。
渡辺はそれの意味を悟り、周囲のシャン達を見渡した。
从'ー'从「私が思うにぃ……」
川 ゚ -゚)「あぁ、私も大方予想はついている。あまり突飛過ぎて、今まで却下していた仮説だが……」
二人はそこで顔を見合わせると、またシャンの群れに視線を戻す。
川 ゚ -゚)从'ー'从「「この中に、『招待主』はいる(いますね)」」
- 12: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:36:02.24 ID:0vrQ6n+LO
- ━━警報が鳴る。
拠点への侵攻を開始。邪神討伐隊の兵士は速やかに……。
(*゚ー゚)「また、出撃なのね……」
自室で書類を整理していたしぃは、スピーカーががなり立てる緊急出動の合図に、疲れきったような表情を浮かべた。
そんなに広くない、六畳程の個室にはベッドと机以外にあまり物は無い。
数日前までは、その何も無い空間にギコの写った写真が、質素なスタンドに入れて飾ってあったりもした。
今、その写真はギコの姿だけを小さく切り取られ、彼女の首に下げたロケットの中に入れられている。
(*゚ー゚)「……また、誰かが死ぬのかしら」
そう呟くと、ジョルジュ小隊の面々の顔が頭に浮かんだ。
(*゚ー゚)「いかなきゃ……」
諦めたような、そんな呟きを残し、彼女は狭い部屋を後にした。
━━━━━
兵員輸送車は揺れる。
勇敢なる兵士を乗せて。
行き先は天国か。はたまた地獄か。
死の揺りかごに揺られて、がたんごとんと。
薬室に詰まった我が同士が、疲れきった音を立てて銃身に挨拶をする。
- 14: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:37:03.42 ID:0vrQ6n+LO
- ( ゚∀゚)「今回の作戦は、邪神共の住処への急襲だ。VIP樹海の奥、奴らのコロニーである遺跡に遠距離から焼夷弾の射爆を行い、その後先見隊が燻り出した化け物共を露払い、オレ達邪神討伐隊が樹海の遺跡内、つまりは本拠地へと乗り込みドクオにかたをつけてもらう」
兵員輸送車の中に、ジョルジュの声が響く。
それを聞く兵士達の顔には、疲れの色が色濃く浮き出ていた。
ここ最近の彼らの出撃頻度は、異常なまでに上がって来ている。
ジョルジュ小隊以外の兵士も乗る、この死の国行きの馬車の客は、誰もがその死の国から帰って来た出戻りばかりだが、相次ぐ邪神の侵攻に最早、自分が生きているのか死んでいるのかすらわからないような状態だった。
( ゚∀゚)「最近の奴らは、少し図に乗りすぎだ。ここいらで、人間様の力を見せつけて牽制してやるというわけだ。オレ達だって、いつまでも待ちの姿勢じゃねぇってところを見せてやれ」
その場の全員が、気合いの返事を返す。
だが、その声はどこか頼りなげだ。
皆、疲れているのだろう。
- 15: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/11(水) 01:38:13.43 ID:0vrQ6n+LO
- ( ゚∀゚)「さぁ、そろそろ到着だ。各自、武器の用意を怠るな。下の銃もちゃんと手入れしとけよ。この戦いが終わったら、極上のコールガールを手配してやる」
ジョルジュの冗談に、やっと兵士達は笑いを零した。
( ´_ゝ`)「樹海か……」
(´<_` )「あぁ、オワタ軍曹の故郷らしいな」
(=゚ω゚)「ねーよwww」
いつもの冗談。下世話な軽口。
ジョルジュ小隊の面々の口から吐き出される言葉には、仲間の戦死という出来事を感じられない。
考えるな。兵士は、ただ銃を撃つのみ。
かつて、兄者がそう言ったように、彼らは何も考えない。
死んでいった人間への手向けは、自分に銃を突きつけるのと同じ事。
悲しむ暇は無い。そう、無理矢理に割り切っているのだ。
彼らも人間だ。無感動にはなれない。
だが、いつまでも涙を流すわけにもいかない、というだけの事だ。
('A`)「……」
そんな兵士達をぼんやりと眺めながら、ドクオは何を思っているのだろうか。
死の国への馬車は、目的地を目指して静かに進む。
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