('A`)はダークヒーローのようです

6: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/21(土) 23:59:07.19 ID:tZXdmTscO
第二十七話 魔宴

━━意識を失った荒巻を医務室に運んだ後、ブーンとツンは研究室で再びブラインドガーディアンのページを繰っていた。
人間は、邪神によって創造されたという恐るべき真実。
それを荒巻は、自分の目で見てきたという。
この書物によれば、人間とは邪神の始祖である「マリア」と呼ばれる原発の混沌たる邪神により、この世に生み出された第二の二足歩行動物だという事だ。
最初は、泥の塊のような不定形の粘着くゲル状だった個体が、時とともに徐々に今の人間の姿を取るようになり、その姿に収まったと、ブラインドガーディアンには記されている。
では荒巻が、ここに記されている事を信じざるを得なくなるきっかけとなった、『今まさに進化を終えようとするそれ』とは、このゲル状の「人間の祖先」の事なのだろうか。

( ;゚ω゚)「う、嘘だお…僕たち人間が、あんな化け物に生み出されただなんて…」

ブーンのブラインドガーディアンを掴む腕が、震えている。

ξ;゚听)ξ「でも、荒巻教授のあの憔悴ぶりを見たら、あながち嘘とは言い切れないわ。
あの人は、自分の目で確かめなければ、決して納得しない人だもの」



7: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:00:20.36 ID:Rot5G1AwO
ツンの言葉に、ブーンの震えは余計に激しくなった。
自分が信じていた常識を覆され、狂気の知識に犯された彼もまた、荒巻のように憔悴しきってしまったのか。

( ;゚ω゚)「…っ……」

彼は無言で立ち上がると、研究室を出ていってしまった。

ξ;゚听)ξ「ブーン……」

それでも、ツンはこの禁断の知識から目を背けてはいけないと、すくみそうになる自我を強固に保ち、なんとかブラインドガーディアンのページを開く。

ξ;゚听)ξ「きっと、絶望的な知識だけが載っている筈は無いわ。それだったらこの本を記した人間だって、発狂してしまってる筈だもの」

そう自分に言い聞かせ、その忌まわしき禁忌の知識が詰まった書物を、彼女は初めから読み進めていった。
夕闇が迫る研究室の中には、彼女のデスクにだけ明かりが灯り、今まで不気味とも感じた事の無いカラスの鳴き声が、ツンの耳に厭な余韻を残して木霊する。
ページが進む毎に、段落が進む毎に、行が進む毎に、禁断の知識がツンの中へと流れ込み、今まで信じ込んでいた常識が音を立てて崩れ去っていくのをツンは感じた。



9: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:01:36.42 ID:Rot5G1AwO
ξ;゚听)ξ「ちょっと待って。第二の二足歩行動物?」

人間は、地上第二の二足歩行動物とあるが、では第一は?
その疑問の答えは、次のページに記されていた。

━━曰わく、原発の混沌は人間の祖先を生み出す前に、その原型となるいわば「プロトタイプ」を生み出していたという。
彼等は、骨格だけの生物として形作られたがそれだけでは非常に脆い為、周囲の有機物を取り込む事によって自らの肉体を形成し、本体の骨格を守るのだそうだ。
一度肉体を形成した個体は、凄まじいまでの運動能力と自己再生能力を併せ持ち、その身に纏った肉が自然に腐れ落ちると、まるで蛇の脱皮の如く古い肉体を捨て、新しい肉体を形成する。
そうやって、寿命というものの無い彼等は、骨格を破壊されない限り永遠に生き続けるのだ。
そんな忌まわしき不老不死の怪物を、この書物では「マリアの子」と呼んでいた。

ξ゚听)ξ「これって、ドクオの事よね?」

あのVIP丘陵遺跡での光景を思い出し、ツンはある事に気付いた。

ξ゚听)ξ「でも、あの時彼は酸の湖の中に居たわよね。それじゃあ、どうして骨格が無事だったの?」



10: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:02:49.78 ID:Rot5G1AwO
この書物には、彼等「マリアの子」は骨格だけでは非常に脆くか弱い存在だと記されている。
5000年前から、あの酸の湖の中で眠っていたのだとしたら、骨格などとうの昔に溶けてしまうのではないのか?

ξ゚听)ξ「5000年前…そうだ、彼は魔術を扱えるんだったわね」

クリプテリアでは、5000年前の邪神戦役の際に救世主であるドクオとその仲間は、魔術を扱って邪神達を封印していったという。
そして、その魔術の秘技を数人の人間に伝え、魔術師が生まれた。
彼は結局、その魔術師達によって皮肉にも封印されるわけだが。
その際に、骨格の溶解を防ぐ魔術を施されたのならば、辻褄が合う。

そうだ、魔術だ。

残念ながら、クリプテリアには具体的な魔術の行使方法は載っていなかった。
だが、ドクオが何の力も持たない人間達に魔術を伝授したというのなら、私達も行使方法さえ知っていれば扱えるのでは無いのか?
それによって、邪神達を封印する術を知ることができれば、これ以上の犠牲も出さずに済む。

ξ゚听)ξ「善は急げ、ね」

早速、ツンは魔術についての記述を探して、ブラインドガーディアンのページ繰り再開した。



11: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:04:01.67 ID:Rot5G1AwO
━━息も切れ切れに走ったのは、これで何回目だろう、とミセリは考えていた。
以前は、こんなにも必死になって逃げたりする事など無かったのに。
邪神の復活、オリジンの目覚め。これも仕方の無い事か。

ミセ;゚ー゚)リ「ふぅ……ここ、どこだろう」

気が付けば、ニューソクの街の灯りは遥か遠く、見渡せば其処は荒れ果てて汚染された荒野だった。
遠目に、巨大な獣が横たわるかのような影を見つけ、背筋に冷たい汗が走ったが、よく目を凝らすとそれが倒壊した家屋であることがわかった。
その向こうには、小さく微かながらも灯火の明かりが見える。
それにより、おそらくここはかつての都市VIPの郊外だろうという事がわかった。
邪神の侵攻により、荒廃仕切ったかつての首都は、月明かりによって退廃的な美しさの中に浮かび上がっている。

ミセ*゚ー゚)リ「大分、遠くに来てしまったのね」

呟き、これからどうするかを考える。
ハインリッヒから逃げる事に夢中で、本来の目的を忘れていたが、このまま彼の元へ直行するのもどうだろうか。



13: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:05:35.94 ID:Rot5G1AwO
ミセ*゚ー゚)リ「確か、ハインリッヒもオリジン様の元に向かうと言っていたわ。私の足よりも、彼女の転移術の方がずっと早いだろうし……」

ハインリッヒ。
その名前を口にした途端、あの時の彼女の顔が思い出された。

自分には、彼しかいない。彼だけが、自分を受け入れてくれる。

その為に彼女は、ミセリの存在を亡きものにしようとした。
あの時間近で見た彼女の涙に、私は同情し、その命を彼女に差し出そうとしかけた。
だが、それも一瞬の気の迷い。自分の甘さ故に、ミセリは大切な指名を放棄しかけたのだ。

ミセ*゚ー゚)リ「今のオリジン様は、記憶を無くして不安定な状態にある筈。だから、私が彼の記憶を取り戻させてあげないと……力だけを取り戻したら、きっとオリジン様は暴走してしまうわ」

だから、その前になんとしても自分が彼の元にたどり着かなければ。
だが、一体どうやって?
魔術も扱えない脆弱なこの身では、到底ハインリッヒよりも先に彼の元へは辿り着けない。

ミセ;ー;)リ「どうすればいいの……」

知らず知らずに涙が頬を伝う。
自分は、こんなにも無力だ。弱者はただ、涙を流すことしか出来ないのか。



14: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:06:39.82 ID:Rot5G1AwO
「おい、お前」

途方に暮れてしゃくり上げる彼女の背中に、凛とした声がかけられたのは、天の救いだろうか。
ミセリが振り向くと、そこには透き通るような美貌と、彼女の主に似た雰囲気を纏った美女が月明かりを背負って立っていた。

ミセ*うー;)リ「あ、あなたは?」

魔術は扱えずとも、ミセリにも魔力の存在は感じられる。
目の前の女性からは、ひしひしとそれが感じられた。

川 ゚ -゚)「お前は、もしかして彼の……」

从'ー'从「間違いありませんねぇ。彼女は、ドクオさんの『アルバム』です」

先の女性の言葉を繋ぐように、彼女の背後からもう一人女性が現れた。
こっちは、どことなく間延びするような雰囲気を持った、和やかな女性だった。

ミセ*゚ー゚)リ「も、もしかして、クー様ですか?」

もしかしなくとも、ミセリは目の前の女性を知っている。

川 ゚ -゚)「あぁ、そうだ。お前が、『アルバム』か?」

ミセ*゚ー゚)リ「ミセリと呼んで下さい。そっちの方が、気に入っているので」

その言葉にクーは優しげに微笑むと、ゆっくりと頷いた。



16: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:07:47.02 ID:Rot5G1AwO
━━━━━

廃墟の壁に月明かりが差し込み、仄かに三人の顔を浮かび上がらせる。

川 ゚ -゚)「なる程。『フォース』の奴が先にオリジンの元へ向かったか」

クーの言葉に、ミセリは苦い顔で頷く。

ミセ;゚ー゚)リ「ハインリッヒは、オリジン様だけがいればいいと言っていました。人類の救済なんか、どうでもいいと。オリジン様と一緒になる為なら、クー様も殺そうとする勢いでした」

その言葉に、クーは何を感じたのだろうか。
小さく苦笑する。

川 ゚ -゚)「私も随分と恨まれたものだな。だが、彼女の我が儘の為に死んでやれる程、私も甘くない。向こうが殺す気でかかって来るなら、こちらも……」

クーの言葉に冷気が宿るのを感じて、ミセリは慌てて口を開いた。

ミセ;゚ー゚)リ「で、でもハインリッヒは!あの子は悪くないんです!ただ、誰にも優しくされなかったから……愛に、誰かの愛に飢えているだけなんです!だから……」

从'ー'从「ミセリさぁん。あなたはぁ、少し甘いと思いますぅ。だってぇ、彼女の役目はオリジン様の力を補完する事だけの筈ですよぉ。
それがぁ、自分の私欲の為だけに人類を邪神の前で放置するなんてぇ、無責任ですぅ」



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:08:57.25 ID:Rot5G1AwO
渡辺の口調は、穏やかながらも、その言葉には感情の暖かみが感じられない。

ミセ;゚ー゚)リ「で、でもハインリッヒを殺したら、オリジン様も力を取り戻す事が出来ません!」

从'ー'从「でもぉ、完全な力が無くても邪神の封印は可能ですぅ。
むしろぉ、聖騎士団の目論見も果たされなくなるのでぇ、逆に好都合ですぅ」

ミセ;゚ー゚)リ「な!それじゃあ、ハインリッヒを殺すって言うんですか!?」

思わず立ち上がり、口調を強めるミセリ。
それを諫めるように、クーが口を開いた。

川 ゚ -゚)「まぁ落ち着け。まだ完全に彼女を抹消するかはわからない。
ただ、彼女がオリジンを独占するというのなら、その時は少々強引にでも彼女を黙らせる必要があるだけだ」

その言葉に、ミセリは不承不承といった様子で腰を下ろす。

川 ゚ -゚)「とにかく、今はハインリッヒよりも先にオリジンの元へ向かうのが重要だ。渡辺、もう一度探査術を頼む」

从'ー'从「わかりましたぁ」

こうして、不穏なままに異邦の者たちの夜は更けていくのだった。



18: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:10:13.58 ID:Rot5G1AwO
深海の中を泳ぐ魚ですら、一寸先をも見通せない程の闇の中、五人の賢人達は会合を開いていた。

?「残念な知らせがある。ダイオードとフサギコ、それにヒッキーが死んだ」

?「……」

?「更に『鍵』と『力』を完全に見失ったと、ビコーズからも報告が入っている」

?「…振り出しに戻る、か。しかし今度は、ヒッキーがいない。彼の探索能力を失ったのは、痛いな」

?「残るはセントジョーンズとビコーズのみ、か」

?「最早壊滅状態だな。彼らだけで、果たして『鍵』と『力』を手に入れる事ができるものか?」

?「無理、だろうな」

?「……」

?「持ち駒はもう無いぞ。まさか、我々が動くのか?」

?「そうする他には…あるまい」

?「まぁ待て。面白い話しを聞いている。最近、邪神共の動きが活発だそうだ。これが、何を意味するかわかるか?」

?「まさか…『約束の時』が近付きつつあるのか!?」

?「そんな馬鹿な!まだその時には早すぎる!そんな筈は無い!」

?「まぁ落ち着け。まだ、それが「約束の時」かどうかはわからん。だが、奴らがある一点を目指して一斉に侵攻を開始したというのは、好都合だ」



19: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:11:27.68 ID:Rot5G1AwO
?「なる程、つまりは……」

?「あぁ。邪神が集まれば、『鍵』も『力』も『扉』も邪神を封印する為に集まる。大勢の邪神達の侵攻により、混乱も生まれる。この期を上手く利用するのだ」

?「それまでは、待つのだ」

?「よろしい。それでは、本日はここまでという事で」

?????「「「「「旅人に、祝福あれ」」」」」



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