('A`)はダークヒーローのようです

5: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:35:08.21 ID:nPEKmkj5O
第二十八話 涙

落日がこれ程までに残酷だという事に、今初めて気付いた。

日が落ちれば、月が登る。

月は無慈悲な夜の女王だ。

太陽はそれまでの前座に過ぎない。月が昇れば夜になる。

夜は、不安だ。暗闇は、嫌な事ばかり思い出させる。
だからと言って、太陽に沈むなと言うことはナンセンスだ。
結局の所、残酷なまでに夕日は沈んで行って、やはり月が登って夜が来る。

('A`)「やれやれ、だな」

自分の力や知恵が及ばない存在というのを、古来より人間は「神」として崇め、恐れてきた。
今ならドクオにも、その古人の気持ちがわかる。

('A`)「やはり、月は好きになれないな」

いつものテラス、いつものベンチに座り、ドクオは寿命の切れかかった蛍光灯よろしく山あいにしがみついている夕日を眺めていた。
もうじき、夜が来る。無慈悲な女王の時間は、彼にとっては苦痛でしか無い。

('A`)「…行くか」

立ち上がろうとして、独り言が癖になっていた事を知ったドクオは、苦笑する。
心の中で、人間らしくて結構だと呟いた。



6: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:36:19.56 ID:nPEKmkj5O
━━と、ドクオが完全に立ち上がるを前に、テラスのドアが開いて、しぃが現れた。

(*゚ー゚)「あ、ドクオさん……」

葬儀の日以来まともに口をきいていない為か、少し気まずそうな顔をしている。

('A`)「仕事は一段落ついたのか?ちょうどいい。話しがある」

そう言うと、ドクオは浮かした腰をベンチに戻す。
しぃが頷いたのを確認すると、彼は身振りで隣に座るように促した。
しぃは、不承不承それに従う。

('A`)「お疲れ様…と言ったところか。オペレーターも大変なんだな」

ここ数日のしぃの多忙振りを労うように、彼はジャケットの胸ポケットからブラックデビルを取り出すと、しぃに一本差し出した。

(*゚ー゚)「私がこれしか吸わないって、誰から聞いたんです?」

しぃは意外そうな顔で、ドクオの顔を見つめた。

('A`)「ジョルジュがこの間言ってた。昔は、案外なヘビースモーカーだったそうじゃないか」

しぃはバツの悪そうな苦笑いを浮かべると、少し逡巡してからその黒い円筒を受け取った。
すかさず、ドクオがジッポーで火を灯す。



8: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:37:26.95 ID:nPEKmkj5O
(*゚ー゚)「有難うございます。それにしても、久々に吸ったなぁ、ブラックデビルなんて」

しぃのくわえた煙草から紫煙が昇るのを確かめ、ドクオはジッポーを閉じる。
シンプルな銀のボディに、ストイックなストライプが入ったデザインだ。

('A`)「煙草は、良いものだな。心が安らぐ」

そう言いながら、彼もマルボロをくわえる。
ジッポーを手のひらで一回転させ、火を灯した。

(*゚ー゚)「それって、ガスの無駄遣いじゃないですか?私につけてくれたときに、自分のもつければ良かったのに」

('A`)「新しい玩具を見つけた子供みたいなもんさ。火を付ける行為自体が楽しいんだ」

ドクオのその言葉に、しぃは思わず苦笑した。

(*゚ー゚)「ギコ君もジッポーをプレゼントしてあげたら、夢中になって手のひらで回す練習してました。男の子って、みんなそうなんですね。ドクオさんがこういう事するなんて、ちょっと意外ですけど」

('A`)「自分でも気付かないうちに、オレも人間らしくなったもんだ」

そう呟いて、ドクオはどこか遠い眼をした。
そのうち、何か嫌な事でも思い出したのか。
顔をしかめて煙を吐き出した。



10: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:38:50.15 ID:nPEKmkj5O
そんなドクオの様子を見て、しぃも察したのだろう。

(*゚ー゚)「あの……」

気まず気に、おずおずと口を開きかけた。

('A`)「いや、いいんだ。ただ、今日の煙草が不味かっただけだ」

ドクオは、苦笑を浮かべながら煙草を壁にこすりつけてもみ消す。

(*゚ー゚)「そう、ですか」

聞いてはいけない事、というものぐらいしぃにもわかる。
だから、彼女もしばらく口を開けなかった。

ただ、ただ、助長なだけの沈黙が続く。

夕日は遂にその寿命を終え、山あいへと沈み、夜の帳が下りてきた。
夏になりかけているのだろうが、相変わらず日は当分は長くなりそうにない。



11: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:39:38.25 ID:nPEKmkj5O
やがて、そんな沈黙が耐えられなくなったのだろう。
しぃが、またおずおずと口を開いた。

(*゚ー゚)「あの、それで何かお話しが有るんじゃないですか?」

その言葉に、ドクオは少しの間を開けて頷く。
その眼は、少しばかり細められていた。

('A`)「……すまなかった」

謝罪の言葉。
その突然の一言に、しぃは面食らった。



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:40:52.39 ID:nPEKmkj5O
(*゚ー゚)「え?」

('A`)「ギコが死んだ時、オレはお前に随分と酷い事を言ってしまった。あの言葉は撤回する。本当にすまなかった」

彼の瞳は、真っ直ぐに夜闇にうっすらと浮かぶ山の稜線をなぞっていた。
その表情は、真剣そのものだ。

('A`)「ジョルジュに言われた通りだった。大切な人間を失う悲しみというのは、同じ経験をしなければわからないものなのだな」

━━━━━

穴の底から這い上がって来た大質量のそれを、ドクオは真っ直ぐに見据えた。

('A`)「ディルゴム……全ての触手持つものの王…」

どこまでも昇り行くかのように見えたその肉の柱が、唐突に上昇を止めた。
ドクオのいる位置からでは、それは無数の触手を生やした巨大な円柱形の肉の塊に見える。
その肉の塊の表面に、一筋の切れ目が入ったかと思うとそれは縦に開き、貪欲に輝く血走った眼孔がそこに現れた。
汚らしく、舐め回すようにドクオの全身を睥睨するその目からは、しかし神たる者がもつ尊大な威圧感のようなものが感じられる。

('A`)「ちょうどいい。今は、とにかく機嫌が悪いんだ。貴様を叩きのめして、すっきりするとしよう」



13: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:42:13.80 ID:nPEKmkj5O
そう吐き捨てると、ドクオは魔術の体制に入る。

('A`)「目的、対象の滅却。前方7メートル地点を支点に、10メートル×360度×5000メートルに展開。懲罰、執行準備」

途端、目の前のディルゴムが脈打つ。
ドクオがこれから何を行おうとしているのか、本能で理解したのだろう。
粘液を滴らせた、巨大ミミズの如き触手をドクオ目掛けて一斉に伸ばす。
ドクオの四肢に、不浄なる触手が絡みつき彼を奈落へと引きずり込もうとするが、ドクオの体は頑として動かない。

('∀`)「無駄だ」

まるで地に根を張ったかの如く不動を貫くドクオは、嗜虐的に唇の端を吊り上げると魔術の仕上げにかかる。

('∀`)「荒ぶる煉獄の焔にその身を永遠に灼かれるがいい。懲罰、執行!」

右手を振り下ろし、ドクオが叫ぶと同時に、陰鬱な闇が充満していた縦穴の中が、急速に明るくなる。
それは一瞬で目も開けていられない程に強烈な閃光に変わると、人間の五感を超越するスケールで爆音を上げた。
爆音に次ぐ爆音、また爆音。



14: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:43:29.80 ID:nPEKmkj5O
最初の爆音程のスケールは無いが、どれも鼓膜を痛める程の音量で遺跡内に響き渡るそれは、青白い炎を伴って呪われし神の身を焼く。
痛覚など無いはずの神の身が、裁きの炎にのたうち回っては、声無き断末魔を上げる。

('∀`)「はははは!あーはっはっはっ!いいぞ!燃えろ!苦しめ!もっと上手く踊ってみせろ!最高だ!」

その狂気の舞踏会を見下ろしながら、ドクオは陰鬱なる哄笑に身をよじっていた。
顎を限界まで下げ、目には邪な喜びの光を輝かせ仰け反るその表情は、地獄の悪鬼さながらに醜く歪んでいた。
彼の四肢に絡みついていたディルゴムの触手も、青白い炎に焼かれて今はドクオの足元で痙攣している。
のたうち、その巨躯を悶えさせ、邪悪なる神は自らの身を焼く戒めの炎を振り払おうとするが、それは悉く徒労に終わる。
青白き炎はその勢いを一層強め、触手の王の巨躯の全てを包み込んだ。

やがて、炎の勢いが臨界点に達した瞬間、再び人間の五感のスケールを超越した爆発が起こった。
閃光が長い長いホワイトアウトをもたらし、それが徐々に収まるとそこには既にディルゴムの姿は無く、元の陰鬱な暗闇を伴った縦穴が口を開けているだけだった。



16: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:44:56.12 ID:nPEKmkj5O
('∀`)「はははは!他愛も無い。それでも神か!」

嗜虐の喜びに、ドクオはその醜悪な表情をより一層醜く歪めると、穴の底へ向けて叫んだ。

本来なら、その声に応えるものなど、居る筈もなかった。

本来なら。

「あ、あの声は…」

「ドクオか?ドクオの野郎がいるのか!?」

思わぬ返事に、ドクオは虚を突かれたような顔をする。
この穴の底に、兵士達がいるという事なのだろうか。

('A`)「何故奴らが下に?」

こんな事は予測もしていなかった。
そうとは知らずに、大規模な封滅魔術を使ってしまって。

嫌な予感がした。

('A`)「まさかな……」

兵士達は、何やら口々に叫んでいる。
だが、ここからではよく聞こえない。
胸の中がざわつくのを抑えながら、ドクオは暗い穴の底へと身を踊らせた。



18: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:46:43.35 ID:nPEKmkj5O
━━━━━

祭りの後、というにはあまりにも惨たらしい光景が、そこには広がっていた。

「あぁぁ……」

「死ぬな!死ぬなよ!」

「痛ぇ…痛ぇよぉ……」

「熱い…あぁぁ…熱いぃぃ…」

(;'A`)「あ…ぁ…」

焼け爛れ、皮膚がケロイド状になってもうめき声を上げて生を訴える兵士達。
ギアの装甲は無残にも煉獄の炎に食い破られ、そこから痛ましい火傷が覗いている。



20: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:48:04.71 ID:nPEKmkj5O
四肢が有り得ない方向に曲がり、それでも命が零れ落ちないよう懸命に泣き叫ぶ兵士。

ノハ;゚听)「ドクオ!」

全身の至る所に火傷を負った、同士達。

(;=゚ω゚)「さっきの爆発は…おま…」

痛ましい光景。しかし、ドクオの目の中にはある一点しか入り込んでこなかった。

(;'A`)「あ…あ…あ……」

情けない声が、途切れ途切れに半開きの口から零れた。

( #´_ゝ`)「ドクオ!てめぇよくも!」

(´<_`; )「あ、兄者……」

珍しく、激昂する兄者を弟者が抑えているが、やはりドクオの耳に届いていない様子だった。
ただ、驚愕に目を見開いて「その一点」だけを凝視している。

そこには……。



21: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:48:34.35 ID:nPEKmkj5O
(  ∀ )「ぁ……」

焼け爛れ皮膚がめくれ上がり、最早微かな呼吸音だけが命の灯火の証明となっている彼を、ドクオはよく知っている。

(;'A`)「ジョ…ル、ジュ……」

最も信用していた。
最も心を許していた。
彼だけは、自分を分かってくれると思っていた。

(;'A`)「ジョルジュゥゥゥウ!」

ドクオは、その友の名前を叫びながら駆け出した。
躓きながら、その黒こげのずた袋のような友の元へ、跪く。



23: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:50:26.50 ID:nPEKmkj5O
(;'A`)「おい!ジョルジュ!何があった!」

愚問だと、自分でも分かっていた。
だが認めたくない。認めたくない。
そんな筈は無い。そんな馬鹿げた事などあるわけが無い。
そう、心が叫んだが、目の前の事実は無情にも彼の犯した罪を責め立てる。

( メ∀#)「ドクオ…か…」

最早言葉すら紡げないと思われた彼が、口を開いた。

(;'A`)「ジョルジュ…大丈夫だ!オレがなんとかする!お前は死なない!だから安心しろ!」

ふと、あの時の事がフラッシュバックする。
傷付き、最早虫の息となったギコに向かって、ジョルジュが言った言葉。
全くそれと同じセリフが、ドクオの口をついて出た。

( メ∀#)「ははは…そいつは、頼もしい…な」

弱々しい言葉が、ドクオの不安を掻き立てる。

(;'A`)「あぁ、大丈夫だ!お前は死なない!オレが死なせない!だから!」

そんな彼の言葉を遮ったのは、目の前の消えかかった命の灯火だった。

( メ∀#)「ド、クオ…助かったぜ…お前の、おかげで…他の奴らが…助かった…あのままじゃ、邪神にやられ、て、全滅だっ…た」

責めるような口調では無い。純粋に邪神を倒した事への感謝の言葉。



25: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:51:34.61 ID:nPEKmkj5O
だが、その言葉も今のドクオには気休めにすらならない。

(;'A`)「オ、オレは……」

( メ∀#)「お前とは…馬が、合ったな…嬉しかった…ぞ」

震える指先は、焼けて原型を留めていないギアの装甲の隙間から、何かがを取り出した。

( メ∀#)「これを…」
それは、彼が愛用していたZippo。
シンプルな銀色のボディに、ストライプが入ったストイックなデザインのそれを、ジョルジュはドクオに差し出そうとして、取り落とした。

( メ∀#)「親友の…証だ。戦友でも、知人でも無い、紛れも無い…親友の、お前…に…」

その言葉に、ドクオの胸の中のダムは決壊寸前にまで追い込まれた。

(;A;)「ジョルジュ!」

とめどない感情の奔流が、渦を巻きながら押し寄せてくる。

( メ∀;)「へへ…人間らしく、なったじゃあ…ねぇか」

水分など、彼の体のどこに残っていたのだろうか。

二人の間には、涙の梯。

(;A;)「ふざけるな!誰が…お前らみたいに、脆弱だって!?許さないぞ!いいから、立ち上がれ!死ぬ事は許さないぞ!人間の分際で、オレの命令に逆らう気か!」



28: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:53:37.68 ID:nPEKmkj5O
そう叫ぶドクオの目には、限りなく透明に近い青色の滴。
ジョルジュ小隊の面々も、その様子に集まってくる。

(=;ω;)「隊長、オレからも頼む!」

ノハ;;)「おい、聞こえてんのか!オレからも命令するぞ!」

( ;_ゝ;)(;<_; )「隊長ッ!」

ジョルジュは、そんな彼等の顔を見回しながら、緩慢な動きで口を開いた。

( メ∀;)「すまない…その命令は、きけねぇな…」

(;A;)「やかましい!いいから立て!立っていつもの苦笑いをしてみせろ!」

なりふり構わず、ドクオはジョルジュの襟首を掴む。



30: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:54:17.70 ID:nPEKmkj5O
なりふり構わず、ドクオはジョルジュの襟首を掴む。

( メ∀;)「ドクオ…こいつらの事、頼むぞ…お前なら、立派な隊長に…なれる」

(;A;)「隊長はお前だ!それは絶対変わらない!」

(=;ω;)「そうだぜ!隊長はあんたしかいないんだ!」

( ;_ゝ;)「こんな馬鹿に務まるわけねぇだろ!」

(;<_; )「み、右に同じッ!」

全員を繋ぐ涙の梯。

( メ∀#)「ヒート……」

ノハ;;)「な、なんだよ!?」

しゃくりあげ、俯いていたヒートがとっさに顔を上げた。



32: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:56:24.68 ID:nPEKmkj5O
( メ∀;)「いい女に…なったな……」

ノハ;;)「ば、馬鹿野郎!今頃気づいたのかよ!」

( メ∀-)「幸せに…なれよ……お前には、その権利が…あ……………」

ノハ;;)「お、お前が幸せにしてみろよ!なぁ!……ジョルジュ?」

動かない、唇。

(;A;)「おい、この期に及んでふざけるのは……」

乾いた涙は、命の灯火をも消して。

(;A;)ノハ;;)(=;ω;)( ;_ゝ;)(;<_; )「!!」

(  ∀ )「…………………」



34: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:57:14.73 ID:nPEKmkj5O

人形のように動かないのは何故?

亡骸は、語らない。



「ジョルジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!!!!」


暗闇に、誰のものともつかない慟哭が響き渡った。

……

………



37: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:58:11.59 ID:nPEKmkj5O

━━━━━

月明かりに照らされたテラスに、虫の音が聞こえ始めた。
案外、夏も近づきつつあるのかも知れない。

('A`)「今更お前に謝ったところで、遅すぎるのはわかっている」

ドクオの表情は、以前よりも明らかに繊細で。
触れれば壊れてしまいそうな程に、儚かった。

(*゚ー゚)「……」

しぃは、口を開かない。
彼女が何を考え、何を思っているのかは、想像の及ぶ領域では無い。



38: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 00:59:25.96 ID:nPEKmkj5O
('A`)「ただ、最後のけじめとして言っておきたくてな。本当にすまなかった。許してくれとは言わん。
だが、最後に、オレも涙を流せるようになったという事を、知っておいて欲しい」

そう言って、ドクオはゆっくりと立ち上がった。
そのまま、夜の闇の中へと歩き出そうとする。
が、それをしぃの言葉が遮った。

(*゚ー゚)「最後って……どういう意味ですか?」

ドクオは振り返らない。

その、少し寂しげな背中もまた、触れれば壊れてしまいそうな繊細さを伴っていた。

('A`)「……オレは、ここを去ろうと思う」

肩越しに、そう呟くドクオの声にもしぃは立ち上がろうとする気配は無い。

(*゚ー゚)「そう、ですか」

ただ、相づちをうつだけだ。

('A`)「仲間殺しのオレは、ここには不要だろう。小隊の奴らにも、今更合わせる顔が無いしな。
我が儘かもしれんが、あいつらにオレが謝っていたと伝えておいてはくれないか」

しぃは、何も言わない。
ドクオはそれをどう捉えたのか。
彼はそのまま闇の中へと足を踏み出す。

と、黙していた筈のしぃが突然に声を上げた。



40: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 01:01:53.42 ID:nPEKmkj5O
(*゚ー゚)「それくらい、自分で言って下さいよ。私に言えて、どうして他の人には言えないんですか?」

ドクオは振り返らない。
だが、その歩みは止めた。

(*゚ー゚)「それに、無責任です!邪神はどうするんですか!?何もかも投げ出して、このまま逃げるつもりですか!?」

ドクオは、やはり振り返らない。
ただ、その繊細な肩を竦めただけだ。
また歩き出し、そのまま闇の中へと消える。

(*゚ー゚)「……意気地無し…」

しぃの声は、ドクオが消えた闇の奥まで届くことは無かった。



41: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 01:02:29.78 ID:nPEKmkj5O
━━━━━

('A`)「待たせたな」

闇の中に浮かび上がった黄金の双眸に向けて、ドクオは声をかけた。

从゚∀从「お別れは、済ませたんですか?」

闇に溶けるような肌の彼女は、小首を傾げる。

('A`)「あぁ。別れを告げる相手が少なかったから、早く済んだ」

それで、と付け加えて言の葉を繋ぐ。

('A`)「お前が、オレの記憶を取り戻してくれるというのは、本当なのか?」

彼の言葉には訝しげな色。

从゚∀从「えぇ。信頼して下さい。詳しい話しは、私の家でします。さぁ、行きましょう」



43: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/23(月) 01:04:06.83 ID:nPEKmkj5O
そう言い、彼女はドクオの手を取る。
ドクオは頷き、今一度基地を振り返った。

('A`)「ジョルジュ……済まない。お前の頼みは、オレでは果たせない」

名残惜しむ、と言うのは少し違う感情を胸に、自分の手を握る女へと視線を戻した。

('A`)「さぁ、頼む」

その言葉に、女は頷く。

━━と、一陣の風が吹き抜け、夜の下生えを揺らし。

その夜風が駆け抜けた後に、彼等の姿は無かった。



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