('A`)はダークヒーローのようです

7: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:15:45.35 ID:yHcU96r5O
第二十九話 戸惑い

━━煙草の煙とアルコールが、むせかえるほどにストレスを生む。

(´<_` )「……」

バーボンハウス内には、三人の兵士以外はバーテンしかいない。
かつて「ジョルジュ小隊」と呼ばれていたその兵士達の集まりは、皆が皆静かにグラスを傾けている。

(=゚ω゚)「ドクオの奴が消えたって、本当なのか?」

ぃようの言葉に反応する者はいない。
誰もが皆、気まずげに押し黙ったままだ。
ただ、時間だけが流れる。
店内に流れている落ち着いた曲調のジャズが、そのときばかりはいやに彼らの耳にこびりついた。

ふいに、兄者がグラスをテーブルに叩きつける音が強く響く。



8: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:16:13.61 ID:yHcU96r5O
( ´_ゝ`)「オレは、許さねえからな」

他の二人に背を向け、彼は静かな怒気をはらませた声を漏らした。

(´<_` )「兄者……」

兄者の向かいに座っていた弟者は、兄の背中を複雑な表情で見つめている。

( ´_ゝ`)「弟者、お前も言ってただろう。奴の独断行動で、二人も仲間が死んだんだ。絶対に許していい事じゃない」

(´<_`; )「……」

彼に、返す言葉は無かった。
ドクオのとった行動。その結果ジョルジュの命は失われ、邪神は封印された。



9: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:17:17.64 ID:yHcU96r5O
( ´_ゝ`)「結果だけ見れば、ドクオの行動は間違っていなかったのかも知れない。あのままだと、オレたちは邪神に皆殺しにされていただろうからな」

淡々と語る彼の声に含まれる押し殺した怒りの矛先は、ここにはいない「男」に向けられているのが、明確だった。

( ´_ゝ`)「だが、奴は隊長を。ジョルジュ隊長を殺した。それを許す事など…」

(´<_`; )「おk兄者、時に落ち着け。ドクオはもうこの基地にはいないんだ。だから、もういいd」

( #´_ゝ`)「やかましい!だからこそ、この怒りのやり場の無いのが余計に苛つくんだ!」

弟者のさとすような言葉を遮り、兄者の怒声が響いた。

また、沈黙が流れる。
店内に流れるジャズは、物悲しいメロウな曲調へと知らぬ間に移っていた。
美しいピアノの音が、ジュークボックスから切なげに流れる。

ふと、ぃようが呟いた。

(=゚ω゚)「でもよ、ドクオの奴……泣いてたよな」

グラスの中を見つめる彼の表情は、苦虫を噛み潰したようなもので。

(=゚ω゚)「あの涙は……間違いなく、本物だったぜ」

その言葉は、静かにバーボンハウスの空気に溶け込んでいった。



10: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:18:16.95 ID:yHcU96r5O
━━ドクオ逃亡。

その報告を聞いても尚、ショボンは別段慌てふためく事も無く、執務机の上で書類と睨み合いを続けていた。

( ;・∀・)「どうするんですか、大将。彼が居ない今、最早我々は邪神の驚異に立ち向かう術をもう持たない。このままでは……」

モララーの顔には、明らかに冷や汗とわかる滴の群が浮いている。

(´・ω・`)「それは一大事だね。とりあえず、一個大隊規模の捜索隊を編成して、すぐにでも彼の捜索にあたってくれ」

書類から顔を上げずにそう言い放ったショボンに、モララーは戸惑った。

( ;・∀・)「…随分と、冷静ですね」

不気味なものでも見るような彼の視線に気付いたのか、ショボンはゆっくりとその顔を書類から上げる。
血のように真っ赤なその双眸は、何を考えているのかわからないような妖しげな光に濡れるように輝いていた。

(´・ω・`)「取り乱して、何か得な事でもあるのかな?こういう時、指揮官が冷静でいないといけないのは常識だよ。
そんなのは、三つのガキでもわかる事さ。分かったら、早く兵士達に通告するんだ。早くしないとぶち殺すぞ」



12: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:19:29.03 ID:yHcU96r5O
その言葉に、室内の体感温度がぐっと下がるのをモララーは確かに感じた。
いつも温和なショボンからは想像もつかないような、その殺伐とした口調に知らず知らずのうちに鳥肌がたつ。

( ;・∀・)「わ、わかりました。すぐにでm」

(´・ω・`)「返事はいいからさっさと行け」

怒鳴るでも無く、激昂するでも無く、ただ無機質な言葉を吐く彼の異様な威圧感に、モララーは慌てて敬礼すると大将室を後にする。

扉を後ろ手に閉め、それにもたれ掛かると、安堵の溜め息がこぼれた。

( ;・∀・)「…大将が、お怒りとは。これは相当だな」

いつもの飄々とした態度を、自分のアイデンティティを取り戻そうと軽口を叩いてみたが、それも功を成さない。
何よりモララーを畏怖させたのは、ショボンの言動から発せられたあの「氷のような威圧感」だった。
決して常人には発する事もできないような、不気味な圧迫感。

彼は以前、一度だけそれを味わったのを覚えていた。

( ;・∀・)「……あれはまるで、ドクオのようだ」

口にして、改めて寒気が全身を駆け巡るのを体感する。

( ;・∀・)「やはり彼には、何かある」

そう呟きながらも歩き出す彼の背中は、まだ震えていた。



14: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:20:48.97 ID:yHcU96r5O
━━モララーが退室したのを確認すると、ショボンは軽く舌打ちをした。

(´・ω・`)「やれやれ。彼の勘ぐり好きにも困ったものだ」

その言葉は、誰に向けられたものかは明確だった。

(´・ω・`)「まぁ、どうでもいいか」

しかし大して気にもとめていないかのように、彼は表情を変えると立ち上がって伸びをした。

(´・ω・`)「色々と面倒が多くて困るな、お偉いさんなんて立場は」

一人ごち、ぼんやりと戸口を見つめる。
官僚職お約束のルーチンワークも、救世主脱走の後始末にも彼は辟易していた。
彼にとってそのどちらも、さして重要な意味を持たない空虚なものでしか無い。

(´・ω・`)「少々、休憩でもいれるか」

そう呟くと、彼はまた大きな伸びを一つして大将室の扉を開けた。

━━━━━

酒は夜の嗜み。それがショボンのルールだ。
よって、今彼は自販機の前で柄にもなくコーヒーを啜っていた。
いつもなら執務室据え置きのコーヒーメーカーで、眠気と疲れを払拭するのだが、今日は気分転換も兼ねて一般兵士のように缶コーヒーを飲む事にした。
隣の自販機では、紙コップでコーヒーを販売しているようだが、彼は「缶コーヒー」にこだわってみる事にした。



15: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:21:50.45 ID:yHcU96r5O
自販機の前にぽつねんと配置されているベンチに腰掛け、ちびりちびりとスチール缶からカフェインを摂取する。
執務室で飲むコーヒーとは違い、庶民的でチープな味が彼の味覚を楽しませた。

(´・ω・`)「缶コーヒーなんて、何年振りかな」

やはりこっちの方が自分には合うと、しみじみ思う。
そんな懐かしい味が、思い出のアルバムのページを開いたのだろうか。
ふと、彼は高校時代の事を思い出した。
真っ先に浮かんだのは、ブーンとツンの夫婦漫才。
そして、それを茶化すクールな少女。

『君は察しがいいな。それに聞き上手だ』

彼女の言葉がフラッシュバックする。

『将来はカウンセラーか、バーのマスターなんかになったらいいんじゃないか?』

(´・ω・`)「バーのマスターか……確かに、実家はバーだしその方が良かったかもね」

自嘲気味に呟いた彼の表情は、どこか寂しげで。

(´・ω・`)「クー……」

思わず、その名前が口から零れてしまう。

(´・ω・`)「やれやれ…自分に同情するなんて。僕らしくないな」

また自嘲し、立ち上がる。
いや、立ち上がろうとして。



16: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:23:11.79 ID:yHcU96r5O
立ち上がろうとして、彼は視界のはずれに彼女を見つけた。

(´・ω・`)「クー……!?」

物憂げな表情。
憐憫に満ち、どこか遠くを見つめるような瞳。
柳のような静かな佇まい。
その全てが彼の中で重なって、追憶が飽和量を超えて溢れ出す。
思わず、彼はその「彼女」の肩を掴んでいた。

ノパ听)「……大将?」

だが、そこに居たのは彼が求める人物とはあまりにもかけ離れた人物。

(;´・ω・`)「あ、あぁ、ヒート君か」

ばつが悪そうに、ショボンは掴んだヒートの肩から手を離す。
自分でも病んでいるな、と気が滅入った。



17: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:23:56.14 ID:yHcU96r5O
ノパ听)「どうしたんですか?」

怪訝な表情をするヒート。

(´・ω・`)「いや、別にこれといって用は無いんだが。ただ、君が何か落ち込んでいるようだったからね」

ヒートをごまかしながら、我ながら上手い言い訳だなとショボンは思った。
そんな彼の内心など、ヒートには知る由も無いのだろう。

ノパ听)「え?あ、いや…まぁ、ちょっと」

ショボンの言葉に、歯切れの悪い調子でヒートは口ごもった。

(´・ω・`)「ジョルジュ君の事かい」



18: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:25:08.82 ID:yHcU96r5O
自分の傷跡から目を背けるように、ショボンはヒートへと思考をシフトさせていく。

ノパ听)「……」

ヒートは俯いたままだ。
珍しく覇気の感じられない彼女は、誰が見ても落ち込んでいるのがわかる。

(´・ω・`)「その件は、本当に残念だったね。本当に惜しい男を失ったよ。彼は、兵士としても人間としても実に立派な男だった」

上官として、お決まりの台詞だなと思いながらも、もっと気の利いた言葉をショボンは探してみた。

(´・ω・`)「しかし、悲しんでばかりもいられないよ。僕達は……」

そこまで言って、案外自分は語彙が少ないのだなと、ショボンは気付く。
思わず、彼は目を伏せた。

だがヒートは、首を振る。

ノパ听)「違うんです。それも…有りますけど…その、ドクオが……」

絞り出すような彼女の言葉に、ショボンは目を少し見開いた。

(´・ω・`)「あぁ……話しは聞いているよ」

ジョルジュの死。その責任が自分に有るとして、ドクオはこの基地から姿を眩ましたという事は聞いていた。

(´・ω・`)「彼の事は、捜索隊が探している最中だ。人類の救世主なんだ。必ず探し出して、連れ戻すよ」



19: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:25:57.76 ID:yHcU96r5O
その言葉にも、ヒートは物悲しげな表情を変える事は無かった。
そんな姿が、やはり「彼女」に似ていたのだろうか。
再び、ショボンの胸を何かが締め付けた。

(´・ω・`)「だから、君は何も心配しなくてもいいんだ」

そう言うショボンの傍らで、ヒートはただ静かに窓の外を見つめている。
普段の彼女の姿とあいまって、一段と儚げなその姿をショボンは美しいと思った。

ノパ听)「あいつ……下手に気を使いやがって」

ヒートの呟きはショボンを置き去りにして、窓の外に広がる荒廃した世界のどこかへと、落ち葉のように散っていくようだった。



21: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:27:06.21 ID:yHcU96r5O
━━主のいない部屋は、無駄な装飾で虚ろな煌びやかさを保っていた。
綺麗に片付けられた内装は、しぃが整えたものでは無い。
案外ドクオはきれい好きなのかも知れないなどと、彼女は下らない事を考えた。

(*゚ー゚)「……」

異常なまでに生活感の無いこの部屋からは、つい先日まで一人の男が暮らしていたなんて事を想像する事はできなかった。

(*゚ー゚)「ねぇ、ドクオさん」

言葉とは、会話の為の道具。
かける相手の無いそれは、意味のないもの。

(*゚ー゚)「何も、ここから逃げ出す事なんて無かったんですよ」

しぃは、しわ一つないベッドの上に腰を下ろすと、改めて室内を見渡した。
豪奢なクローゼット、大理石の床、電源のついていないデスクトップPC。
そのどれからも、やはりドクオの存在は感じられない。

(*゚ー゚)「ドクオさんは、この時代では一人ぼっち。いわば、あなたは外国人みたいなものだったんじゃないですか?」

聞くものの居ない言葉は、独白。

(*゚ー゚)「ドクオさんが聞いたら怒るでしょうけど……きっと、寂しかったんじゃないですか?」



22: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:28:06.24 ID:yHcU96r5O
しぃは、くすりと笑う。

(*゚ー゚)「だから、私は出来るだけドクオさんと仲良くなってあげたかった」

そこまで言って、しぃはふっと自嘲気味に頬を歪めた。

(*゚ー゚)「なんだか、随分と偉そうな事言ってますね、私」

(*゚ー゚)「でも、自己満足かもしれないけど、ドクオさんと仲良くなりたかったっていうのは本当ですよ。私の、本当の気持ち、です」

窓の外には、夕日が輝いている。
いや、「輝く」という表現は、些か似合わない。
落日は毒々しい色合いで、世界を照らしていた。

(*゚ー゚)「あ、仲良くなりたいっていうのは、その……好きだとかそういうのじゃないんです。
ただ、ドクオさんの居場所になれたらなぁなんて」

でも、と付け加える。

(*゚ー゚)「結局、ドクオさんの事を一番良く分かっていたのは、ジョルジュさんだったんですよね。
あはは、私の出番なんて最初から無かったみたいです」

そこで言葉を途切らせ、しぃは自分の膝に目を落とす。
俯きながら、少しの沈黙。

(*゚ー゚)「早く、帰ってきて下さいよ……」



24: ◆/ckL6OYvQw :2007/08/09(木) 00:28:57.10 ID:yHcU96r5O
平坦な表情は、何を思っているのか。
平坦故に、その表情の奥底にある複雑な気持ちは、計れない。

(*゚ー゚)「なーんて、あの時私が引き止めていれば何も問題なんか……無かったんですけど、ね」

最後の言葉をふざけた調子で音にすると、しぃは後ろ向きにベッドへと倒れ込む。
窓の外はもう日が落ちて、代わりに夜の帳が降り始めていた。



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