('A`)はダークヒーローのようです

3: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:39:10.86 ID:HPrQx23eO
第三十二話 迷子

━━夜明け前。
生きとし生けるもの全てが、安らぎのうちに微睡む時。
一つの例外が、VIP基地の中を突き抜けた。

『501非常警報、501非常警報、全兵員は直ちに所定の位置に着き、上官の命令を待って下さい。繰り返します。501非常警報、501非常警報……』

“501”。極限的緊急事態を表す警報コードは即ち、「最悪の天敵」の襲来を表す悪魔の呼び鈴。
安らかな眠りを悪夢へと一転させる鐘楼に、基地中の兵士は寝床から飛び起き騒然となる。
熟練の敏腕兵士である弟者も、例外では無かった。

(´<_`; )「501だと?嘘だろ!?」

二人のメンバーを失い、開店休業状態だった元ジョルジュ小隊に所属する彼は、次期隊長を決める為のミーティングと称して、日付が変わる前までバーボンハウスでメンバーと杯を交わしていた。
その間にも邪神がこちらに近付いて来ている、という話しは聞いていない。
そもそも、“501”非常警報とは「いきなり邪神が現れました。すぐそこまで迫って来ているから、遺書でも書いとけ」と言ったような意味を持っている。



4: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:39:54.37 ID:HPrQx23eO
つまりは見張り役がサボっていて、尚且つ基地のレーダーがぶっ壊れていない限りは発令されないような警報なのだ。
レーダーに不調があるなんて話しも聞いていない。

(´<_` ;)「何があった……?」

基地の廊下をあちらへこちらへと走り回る兵士たちも、弟者同様困惑の色を隠そうとしていない。
非常電源に切り替わった赤熱灯の下で、皆一様に嘆きわめき散らている。

(=゚ω゚)「これが訓練された兵士ねぇ……まるで小遣い貰い損ねたガキだな」

背後から突如かけられた声に弟者は振り返る。
眠そうな目を擦りながら立っているのは、ぃょぅ。
そのどこか冷めた表情に、弟者は若干の違和感を感じた。

(´<_`; )「ぃょぅ!一体これはどういうこt…」

(=゚ω゚)「オレが知るかよ。兄者は何か言って無かったのか?」

兄者。結局のところジョルジュに代わる新隊長は、戦果や在隊歴から兄者に抜擢された。
故に、現在弟者たちの上官となるのは兄者である。

(´<_`; )「いや、何も聞いてはいない。それに今鳴っているのは501だ。事前に何か聞いてるわけ……」



7: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:40:43.23 ID:HPrQx23eO
(=゚ω゚)「そうだよ、501だよ。そういう事なんだよ。最悪の非常事態、手遅れ、現世さんさようならって事だ。腹くくるしかねぇだろ」

冷たく突き放すぃょぅの言葉。

(´<_`; )「ぃょぅ、お前……」

何故こいつはこんな状況下でこんな言葉が吐けるのか。

( ´_ゝ`)「弟者、ぃょぅ、ここに居たか」

それが気になる弟者だったが、そんな思考はまたもかけられた背後からの声に中断された。

(´<_`; )「兄者!教えてくれ、501だなんていくらなんでも不自然だ!一体何が起こってる?」

恐らくは今の事態に一番詳しいであろう兄者に、弟者は詰め寄る。
切迫した彼をいなすように、兄者は口を開いた。

( ´_ゝ`)「あぁ、安心しろ。501ってって言っても別に今すぐ遺書を書く必要は無いぞ。ただ、一応筆の手入れはしとけ……」

重々しくも落ち着いた声。いつもの兄者だ。
そう思った途端、弟者の中の焦りは抑えられた。

(´<_` )「……そうか。ところで筆ってのは下の方のか?」

下らない冗談で、いつものペースへと梯をかける。
だが、そんな彼の努力も兄者が口にした言葉により、二秒後には無駄となる。



8: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:41:32.98 ID:HPrQx23eO
( ´_ゝ`)「ニーソクに、邪神の群れが迫っている」

━━━━

( ;´∀`)「ニーソクに、邪神たちが向かっているだって!?」

まだ薄暗い執務室の中、モナー小将はその重い体をソファから浮かせつつ、叫んだ。

( ;´∀`)「か、数は?数はどれくらいモナか?」

彼が喚くのに合わせて、革張りのソファもぎちぎちと唸る。

( ・∀・)「確認出来ただけでも魔物が七億と少し、邪神が二十数体はいる」

戸口にもたれ掛かったモララーの口から出た言葉は、絶望色。

( ;´∀`)「七億!?それは、何かの間違いじゃないモナか?」

よろよろと立ち上がるモナー。
彼は、信じられなかった。否、信じたくなかった。
目の前の同僚は悪魔の化身で、自分を破滅へと導く為に地獄より遣わされた崩壊の御使いだと思いたかった。
七億の魔獣に、それを従える破壊の神達が二十柱。
そんなものに、人間の軍隊がいくら足掻こうとも無駄なのは分かりきっている事実だ。

( ・∀・)「残念ながら、間違いじゃない。現に今響いている501警報で、兵士たちは死への覚悟を固めている最中だ」



9: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:42:24.57 ID:HPrQx23eO
重々しく響く警報。
涅槃の特等席を予約する鐘の音。
それを自分にも認めろというのか?

( ;´∀`)「そんな……」

( ・∀・)「モナー小将……いや、モナー君。これは事実だ。どうして今になって、邪神たちが総力をあげて攻めてきたかはわからない。
だが、いつかこうなる事は君でも分かっていたハズだ。今まで我々が生きていた事の方が不思議だったんだ」

この彼の言葉が沈痛な面持ちで語られたならば、それは人間の有るべき姿だと全てのか弱き人間が納得出来る。
だが、モララーの顔は至って平坦なものだった。
迫り来る審判の時を目前に控えてなお、彼の顔は静かな湖畔の平坦さを保っていた。
それは死への覚悟か?
何が彼をそうさせる?
モナーにはそれが分からなかった。

( ;´∀`)「それは……でも」

( ・∀・)「……君の気持ちはわかる。だが、ここで我々が狼狽えては仕方がないだろう。我々は腐っても、人の上に立つ人間だ。
そんな我々が取り乱していては、兵士たちにも支障が出る。覚悟を決めるんだ、モナー」



10: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:43:12.36 ID:HPrQx23eO
( ;´∀`)「僕は、でも……」

良心の呵責。そんな下らないもので命を落とすのは、馬鹿のする事。
暗く黒い何かが、モナーに告げる。

( ;´∀`)「……それでも」

それでも。
501。501警報。もう間に合わない。生き延びる望みは、無い。
いや、このまま基地を飛び出してどこか安全な場所に逃げることだって出来るはず。
しかし、いや、そんなわけには、どうする、どうする、どうするどうするどうするどうするモナー。

( #´∀`)「えぇい!何を臆しているんだモナー小将!僕は天下のモナー財閥の総帥モナよ?
総帥として、小将として、父として、誇りを見せずにどうするモナ!?僕には百万の命を預かる責任があるモナ!
逃げてたまるか!逃げるわけにはいかないモナ!邪神なんか蹴散らすモナよ!どっからでもかかってくるモナ!」

弾かれたように立ち上がる。
食いしばった歯、震える歯の根。
握り締めた拳、震える両手。
情けない。いや、情けなくてもいい。
胸を張れ。胸を張って、最後まで前を向いて、死ぬときは前のめりに倒れよう。



11: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:43:59.07 ID:HPrQx23eO
頼りない背中を震わせ、それでもモナーは決意する。
破れかぶれだろうが、最後ぐらいは男らしく生きよう。
執務机の上の受話器を乱暴に取り、忘れかけていた番号をプッシュする。

( ´∀`)「……僕だモナ。大至急、“ベルセルク”達をこっちに寄越すモナ。……あぁ、それと僕用のギアも頼む。…ああ、直ぐにだ。二秒で支度するモナよ」

堰を切ったように言葉を吐き出し、受話器を叩きつける。
目を閉じ、拳を握る。
強く、強く、握る。
勇気を寄越せと握り締める。

それは、彼が初めて金では買えないモノを欲した瞬間だった。

━━━━

後ろ手に扉を閉めながら、モララーはその表情を緩める。

( ・∀・)「……さて、残された時間は後わずかだ。早めに行動に出なければな」

七億の悪魔と二十の邪神。
常識と相談しても、この国の人間が生き残る確率は零に限りなく近い。
迫り来る“死”は、確定的に明らかだ。
ならば、残された時間で自分は何をするべきか。
501警報で目を覚ました瞬間から、彼はそのことを考えていた。



12: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:44:59.28 ID:HPrQx23eO
現世の思い出達に、一つ一つ別れを告げていくべきか。
死を覚悟した上で、それでも足掻くか。
選択は二つに一つだった。
二つに一つだった。

あの会話を聞くまでは。

(´・ω・`)『……あぁ、遂に始まったみたいだね。予想していたのよりも、些か早過ぎる気がするが。
……うん、大丈夫。そっちの方は聖騎士団が何とかしてくれるさ。僕とオサムは“鍵”の方の回収に当たるよ。……心配するな、任せてくれよ。僕は禁呪を使える。“鍵”に遅れは取らないさ。
……ああ、それじゃあ切るよ。……旅人に、祝福あれ』

禁呪。
この単語を聞いた瞬間、モララーは今まで自分が追い求めて来たモノの尻尾を、ついに掴んだ事を確信した。

( ・∀・)「“魔術師”ショボン。あの噂、やはり真実だったか」

二十一歳という若さで、軍の大将に成り上がったという異例な経歴故、ショボンに対してはありとあらゆる噂が飛び交っている。
実は魔術を扱えるのだとか、その力で軍の上層部に圧力をかけているだとか、そういったゴシップには事欠かない。



13: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:45:53.30 ID:HPrQx23eO
そのあまりにも荒唐無稽過ぎる噂に、モララーも初めは興味を持つことは無かった。
だが、隣の部屋で交わされるショボンの電話の内容を盗み聞く内に、彼の好奇心が抑えようも無いほどの秘密の片鱗をモララーは見つけていた。

魔術、禁呪、聖騎士団、そして、何やら陰謀めいた計画。

自室で耳を澄ますだけで手に入るその情報に、いつしかモララーはショボンの正体を暴いてやろうという、些か子供じみた欲望を持つようになっていた。

そして今日、世界が終わる日にかかってきたショボンへの電話。
“鍵”がどうのこうのと言っていたが、間違いない。
彼は今日、何か行動に出るつもりでいる。
その証拠に、501警報の発令と共にショボンはモララーへと部隊の管理権を委託してきた。

( ・∀・)「部隊の指揮は、兄者に任せるとしよう。私には、遣らなければならない事がある……」

人の好奇心は猫をも殺すと言う。
モララーは、履き違えた使命感を胸に歩き出す。
崩壊の時は、刻一刻と迫ってきていた。



15: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:46:41.24 ID:HPrQx23eO
━━走り続けていた。
丸一日、走り続けていた。

ξ;;)ξ「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

泣き続けていた。
丸一日、泣き続けていた。

ξ;;)ξ「ブーン!ミセリ!どこに居るよ!どこよ!」

叫び続けていた。
丸一日、叫び続けていた。

ξ;;)ξ「どこに居るのよ?どこ?どこよ!どこなのよ!?」

昨日、開け放しの家に帰ったツンの目に飛び込んできたのは無人のリビングだった。
鍵はちゃんとかけておきなさい。そう言っておいたハズなのに、玄関のドアが開いていた時点でおかしかったのだ。

ミセリは、そこに居なかった。

怪我が治って出ていったのだろう、と結論づける事も出来た。
それでも彼女の性格から、書き置きぐらいはしていくだろう。
不安を払拭する為に、ツンはブーンに電話をかけた。
それが、今ツンが走り続けている原因となった。

いつまでたっても出ないブーン。
コール音が重なる度に増す不安。
二時間に渡って合計五十二回、ツンは電話をかけては切りかけては切りを繰り返した。



17: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:48:22.43 ID:HPrQx23eO
だが、ブーンが電話口に出る事は無かった。

居るはずの人間が居ない。

ツンの胸の中のダムが、遂に決壊した。
電車で大学にまで引き返し医務室を覗けば、そこにはもぬけの殻となったベッド。
何が起こったのかわからなかった。
行方不明なんて想像もしなかった。

ブーンが部屋に帰って居ないことを知るまでは。

何度押しても返事の無いインターフォン。
いくら鳴らせど、出ない電話。
八年前の光景が、オーバーラップした。
あの日も、あの時も、唐突に“彼女”はツンたちの前から姿を消した。
そう、まるで近所のコンビニへ行くかのような気軽さで。



18: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:48:38.58 ID:HPrQx23eO
ξ;;)ξ「ブーン!ブーン!」

かつての傷口が、開いた。
溢れ出した痛みは残酷なまでに新鮮さを持っていて、ツンは恐怖と不安と痛みから涙を流した。

置いて行かれる。

置いて行かれる。

置いて行かれる!

いてもたってもいられなくなった。
足は自然と早くなり、右手は常に携帯電話を握り、口は彼の名を叫んでいた。
ブーン、どこにいるの。私を置いていかないで。一人にしないで。
少女の叫びが、早朝のニーソクに木霊した。



20: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:49:46.90 ID:HPrQx23eO
━━どこにいるの。
ねぇ、あなたは今、どこにいるの。

(*゚ー゚)「501……ははは、501だってさ」

しぃの口からは、力無い声。
基地内放送がひっきりなしに終末を告げる中、自室のベッドの上でしぃは抜け殻のように横たわっていた。
今すぐにでも飛び起きて、兵員輸送車へと乗り込まなければならないのに、その気力が沸き起こってる事は無い。



21: ◆/ckL6OYvQw :2008/02/16(土) 00:50:13.45 ID:HPrQx23eO
どうせ死ぬんだ。
みんなみんな、死ぬんだ。
人類が足掻いたところで、どうせ邪神にはかなわない。

そう考えると、何もする気が起きなかった。

(*゚ー゚)「……ドクオさん」

あの日から、何度この名を口にしただろう。
かける相手の不在。固有名詞単体の呟きは意味のない繰り言。

(*゚ー゚)「……ねぇドクオさん。あなたは今、どこに居るんですか?」

あなたが居なければ、私達は死ぬしかない。
喉元までせり上がったその言葉を、しぃは音に出来なかった。
もう、どうしようも無い。
一度夢見た希望、明るい未来。

あまりにも儚く未熟なその夢想は、儚いままに散った。

(*゚ー゚)「……ドクオさん…助けてよ」

縋る声もまた、小さく散った。



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