('A`)はダークヒーローのようです

3: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:29:41.24 ID:6w5rVPXGO
第三十四話 開幕

━━街は魔物で溢れかえっていた。

(兵;- >-)「くそっ!死ねるか…死んでたまるかぁっ!」

雄々しく轟いた人類の先手砲撃。
しかし、それは荒ぶる神の大行進を止める事は出来なかった。

(兵;゚ >゚)「うっ…!うわぁぁぁぁあ!」

ニュー速国現行首都、ニーソク。
その海の玄関である第四埠頭の守備に当たっていた兵士達は、海面下から躍り出てくる邪神とその配下の魔物達との激烈な攻防を繰り広げていた。

(兵;゚ゝ゚)「来るな、来るな、来るなぁ!」

潮風に吹きさらされ劣化が激しい石畳の上。
ギアと肉のぶつかり合うグロテスクな音。
人間と魚をごちゃ混ぜにし、奇妙なまでに戯画化したような化け物の群れが、兵士達を蹂躙していく。
通称「ディープ・ワン」。海を束ねる邪神にかしづく忌まわしき半魚の生命に、マシンガンなどの火器は幾分有効なダメージを与えているかのように見える。
だが、後から後から水面を裂いて現れる化け物の数に、その必死な攻撃も意味を成してはいなかった。



4: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:30:28.63 ID:6w5rVPXGO
離れた両目。手足の指の間の水掻き。首筋の鰓。地上を蛙のごとく跳ね回るどこか滑稽な姿。
そのせいで侮られがちなディープ・ワンだが、物量の面で圧倒的に人類を上回っている彼らは、その醜く節くれだった鉤爪で、強化装甲服の兵士達をまさに人海戦術宜しく食い荒らしていった。

(兵;´ヽ`)「蛙如きが、舐めるんじゃねぇ!」

蹂躙される人類。
そんな中、一人の兵士がヘリの座席で抵抗の叫びを上げた。
同時、ヘリの両翼から放たれる対戦車ミサイル。
伸び行く二条の煙が、波打ち際の半魚の群れへと着弾、爆発。
轟音。巨大な水柱。
打ち上げられた水と、半魚だったものの肉塊が雨のように降りしきる。
ディープ・ワンの群れは突然の爆発に動揺し、動きが鈍った。

(兵´ヽ`)「ぃやっほい!所詮は蛙ちゃんよ。ミサイルの味は如何なもんだい?ざまぁかんかん!」

ミサイルがもたらした戦果。
それに調子づいた件の兵士は、操縦桿のトリガーを引き九ミリ機関銃で地上の半魚達へと掃射をかける。



7: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:31:30.36 ID:6w5rVPXGO
攻撃的なフォルムの砲身から放たれる鋼鉄の蜂達。
それがもたらす断続的な振動が、心地良く逆襲のリフを刻む。

(兵#´ヽ`)「おらおらおら!人間様のお通りだぁ!魚はミンチだ!魚肉ソーセージだぁ!死ね!死ね!死ね!死ね!死ねぇ!」

景気の良い連射音。

(兵#゚ゝ゚)「おぉらぁぁあ!」

呼応するように反撃を開始する地上の兵士達。
グレネードの炸裂音。機関銃が地を穿つ破壊音。煙る硝煙。飛び散る血煙。
勢いづいた人類の快進撃が、港から天敵達を追い返すのも時間の問題だろう。
そう、誰もが確信した時だった。
━━突如、今まで活発だったディープ・ワンの進撃が止んだ。
海面下から飛び出し続けていたあの勢いはどこへやら、水面は唐突に水しぶきを上げるの止め、静寂のうちに凪いだ。
兵士達がそれに気付いたのは、地上に残ったディープ・ワンの殲滅を終え、吐き気を催す半魚の死体の山を見下ろす頃合いになってからだった。

(兵゚ゝ゚)「やけに、静かだな」

(兵- >-)「もう全滅か?案外、呆気ないもんだったな」



8: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:32:23.50 ID:6w5rVPXGO
兵士達は我に返ったかのように銃を下ろす。
彼らが死闘を繰り広げていた埠頭の石畳の上には、人と半魚の亡骸が死屍累々と折り重なって転がり、数分前までの殺し合いの余韻をありありと呈していた。
その上を今は、銃声と咆哮の代わりに波音だけが歩るくように滑っている。
戦場に立ち込める硝煙は、人間とディープ・ワンの血を吸って赤く染まっていた。

血霧が濃いな。
ふと、誰かが呟いた。

空になったマガジンが捨てられ石畳の上に落ち、乾いた音を立てた。
音は、どこか幻想的な響きを持って、辺りに染み入るようにして反響した。
後には、静寂。



9: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:33:19.42 ID:6w5rVPXGO
霧、晴れないな。
また、誰かが呟いた。

おかしい。誰もがそう思った。
銃が作った硝煙なのに、何故こんなにも長い間漂っているのか。
兵士達の間に、不安が広がった。

(兵´ヽ`)「…なんなんだよ。ったく、気持ち悪いぜ」

ヘリに乗った件の兵士は、毒づいた。
ローターの音だけが、機内に響いている。
霧は濃さを増し、いよいよ視界が悪くなってきた。
嫌な雰囲気だ。
呟きそうになり、しかし、その言葉は頭の中で真っ白になった。

(兵;´ヽ`)「な、なんだコイツは!?」

紅い霧の向こう、暗黒の大海原。
そこにぼんやりと映る巨大な“モノ”。
それを最後に、彼の網膜は現実を映すのを止めた。



10: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:34:21.31 ID:6w5rVPXGO
━━ビルが、断末魔の叫びを上げて崩れた。
コンクリートの破片をばらまきながら、地へと落下して行く人類の文明の結晶。
その崩壊の雨の中をかいくぐりながら、翼を生やした漆黒の鬼達の数千にものぼる群れが飛び交う。
顔のない悪鬼、「ナイトゴーント」。
彼らの顔面が一斉に横に裂け、そこに擬似的な口腔が生じ毒々しい赤の光条を放った。
それはビルを、看板を、地を貫き、虚ろなる破壊の痕を穿つ。

(兵@ゝ@)「スカルリーダーより各機に通達。敵の数は無限に近し。覚悟を決めろ!フォーメーション・ハスター!」

破壊の光条、その裁きの柱の間を縫うように幾筋もの針の如き戦闘機が駆け抜ける。
翼持つ夜鬼に対して空の守りを固めるは、人類の守人。銃持つ鋼鉄の隼、戦闘機“グロスター・トライデント”の十個大隊だ。

(兵゜倚)「任務了解。フォーメーション・ハスター!」

(兵`>')「フォーメーション・ハスター!」

隊長機からの指令を聞いた勇猛なる隼達は、返事の代わりの雄叫びを上げると、アフターバーナーに点火。
空を駆ける無数の颶風となる。



13: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:35:22.52 ID:6w5rVPXGO
(兵#´≧`)「しゃらくせぇぇ!一気に決めるぜぇ!」

亜音速で空を疾駆する隼達。
夜鬼の群れに突進し、空対空ミサイルを吐き出し、離脱。
連続する爆音。
交錯する紅の光条。
唸りを上げて飛び交うは、ミサイルか?隼か?夜鬼か?

疾風怒濤、目まぐるしく展開する上空の攻防を見上げながら、クーは地を蹴る。

川 ゚ -゚)「目的、対象の爆裂。前方五メートルを支点に二メートル×三メートルに展開、発動」

突き出した手、力有る言葉。
収束した空気が張り詰め、緊張が臨界点に達した瞬間、彼女の眼前に迫っていた屍鬼の体が、腐肉を撒き散らして爆散した。

川;゚ -゚)「くそっ…こんなにも早く、邪神達の侵攻が始まるとは……」

汚らわしい血と内蔵の染みとなった屍鬼。
それを後目に駆け抜けながら、クーは漏らした。
彼女の前方に伸びる、ニーソクのメインストリート。
休日は人々の憩いの場となるであろう、ショッピングモールを現在闊歩しているのは、屍肉喰らいの邪鬼、「グール」達だ。

从'ー'从「“約束の時”が迫っているのでしょうね。“地獄”が胎動しているのがわかります」



16: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:36:49.94 ID:6w5rVPXGO
クーの横を併走する渡辺の表情は、いつもと変わらないポーカーフェイス。

ミセ;゚ー゚)リ「はっ、はっ…オリジン様も…はぁ、はぁ…気付いているのでしょうか?」

全力疾走でも息一つ乱さない彼女たちの後ろを、懸命に走るミセリ。
疾駆する三人の美女達を求めて、屍鬼達は貪欲な爪を振りかざして迫る。

川 ゚ -゚)「彼なら絶対に気付いているさ。邪神を倒す事が今現在の彼の使命であり、本能の欲求だ。この騒ぎに気付かない筈がない」

襲いくる屍鬼の群れ。
前から、後ろから、右から、左から、血肉を求める不浄なる手を彼女たちは時にかいくぐり、時に駆逐しながら進む。

ミセ;゚ー゚)リ「でも…ぜっ、はぁ…オリジン様は…はっ…ハインリッヒと接触してしまったんじゃ……」

ミセリの言葉の所以。
それは、今朝一番の探査魔術の結果から来ている。
遠方よりの地鳴りで目を覚ました三人は、人類の生存期限が差し迫っている事に気づき、渡辺の魔術によってのドクオの位置を突き止めようとした。



18: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:37:57.24 ID:6w5rVPXGO
だが、その試みは絶望的な結果をもたらす。
探査魔術への明らかな妨害魔術での干渉。
渡辺が感じ取った莫大な魔力によるジャミングが示すものは、ドクオの現在位置を隠蔽しようとするものの存在。
この状況から、考えられるのはたった一つ。すなわちそれは、ハインリッヒとドクオの接触を意味していた。

ミセ;゚ー゚)リ「ハインは…あの子は、人類を憎んでいます。だから、邪神と戦おうとするオリジン様の邪魔をするんじゃ……」

川 ゚ -゚)「邪魔、か。…例えば?」

眼前に立ちふさがるグールの頭を手刀で叩き割りながら、クーは問い返す。

ミセ;゚ー゚)リ「例えば……そう、記憶の無いオリジン様に、嘘の真実を語って、人類を憎ませる…とか?」

尻すぼみになるミセリの言葉。
その言葉に、クーは何を思ったのだろう。ミセリを振り返ると一瞬目を見張り、次の瞬間には苦笑をこぼしてまた視線を前に戻した。

川 ゚ -゚)「安心しろ。彼に限って、嘘を見破れないなんて事は無い。必ず、ここへやって来るさ。邪神を倒しにな」



22: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:38:50.35 ID:6w5rVPXGO
ミセ;゚ー゚)リ「でも、オリジン様は本当に何も知らないような状態でした!この世に生まれ落ちた雛鳥が、一番最初に出会ったモノを親だと思い込むように、オリジン様だってもしかしたら……」

尚も言い張るミセリ。だが、クーは絶対的な自信と共に切り返す。

川 ゚ -゚)「そうだとしても、だ。彼は必ずここにやってくるさ。何があろうと、彼は邪神を倒しにやってくる」

ミセ;゚ー゚)リ「でも……」

川 ゚ -゚)「私を信じろ。…いや、オリジンを、お前の主を信じろ。彼の事はお前が一番良く知っているだろう?」

右から迫ってきたグールの胴を蹴り飛ばしながらのクーの言葉。

ミセ;゚ー゚)リ「……はい」

それにミセリはやっと納得したのだろう。力強く頷いた。

川 ゚ -゚)「そう、お前が一番オリジンの事を良く知っている…私や、あいつよりもな……」

それを後目に、クーがふと零したその言葉。
だが、決着のついた問答から意識を前方に移したミセリの耳に、その呟きは届かなかった。



25: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:39:40.94 ID:6w5rVPXGO
━━ヘリが、戦闘機が、空を駆ける。
戦車が、装甲車が、地を這う。
強化装甲服を纏った兵士達が、その後を追随するように走る。
戦火は今や完全にニーソクを包み込み、黙示録の闘いは不幸な人間達を巻き込み、加速度的に激化していた。

【+ 】『人は、何故生に執着するか。わかるかね?』

血と臓物、銃弾と硝煙が溢れる表通り。
そこから伸びるまるで抜け道のような裏路地。
街灯の光があったところで届かないだろう、その暗がりに彼等は居た。

(´・ω・`)「……まずは君の見解から聞こうか」

一人は踝まである軍用コートを着た、若き大将ショボン。
彼の血のような双眸は、闇の中で餓えた狼のようにぎらついている。

【+ 】『……欲望。全ては欲望の為、人は現世に執着する』

そしてもう一人━━否、“これ”を人と呼んでいいものか。
どう形容するべきか……。二メートル弱。材質は鋼。
人の形をしているが、全身を覆う鋼鉄のスーツには重々しい兵器の類が埋め込まれている。
強化装甲服「ギア」の特注品、と呼ぶのが一番しっくりくるだろうか。



29: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:41:01.56 ID:6w5rVPXGO
まるで前世紀のSF映画のフィルムから抜け出たかのような、鋼の二足歩行型ロボットと呼ぶべき姿をした、“そいつ”は、聞き取りづらい機械音声で言葉を発していた。

【+ 】『美味い飯を食いたい。あの映画が観たい。面白い本を読みたい。友達を作りたい。親友と語り明かしたい。
酒を飲みたい。異性と話したい。恋人が欲しい。性交したい。誰かに認められたい。名声を得たい。大金が欲しい。……生きているだけで生まれいずる欲望にはきりが無い』

(´・ω・`)「人はそれを、文化と呼ぶね」

熱心に機械音で弁を垂れる鋼の塊と対照的に、ショボンはこのやり取りに興味を示していないようだ。
彼は視線だけを遥か遠くに見据え、適当に相方をあしらった。

【+ 】『東方に伝わる宗教、仏教ではそれら欲望を“煩悩”と呼び、人間が現世に縛り付けられる理由として説いている』

機人は尚も続ける。
電子音声であるにも関わらず、その声音は異常に人間味を帯びていた。

【+ 】『欲望。それは生きる原動力である反面、彼等人間にとっては苦悩の由縁ともなる。
かなえられない欲望は、人の心を蝕むだけだ』



31: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:42:11.02 ID:6w5rVPXGO
【+ 】『欲求不満。それは人類史における永劫の苦しみだ。誰もが自分の思い通りにはいかない気持ちを引きずりながら、生きている。
そんな世界は、果たして幸せか?
満たされない欲望を抱えながら、自分を騙し騙し生きる世界は果たして、生きるに値する世界か?
ショボン、貴公に問おう。貴公は幸せか?貴公は満たされているのか?』

いよいよ弁に熱を帯びた機人は、半ば狂的なまでの切迫さでショボンへ詰め寄る。
が、やはりショボンは機人のやり取りには些かの興味を示さない。

(´・ω・`)「……僕たちが何のために動いているかぐらい、オサム、君でもわかるだろう?…愚問だよ」

わかっている、と身振りするかのようにさらりと答えたショボン。
だが、機人はその反応に冷笑を返した。

【+ 】『……だと、いいがな』

先程までの熱意に取って代わり、まさに見た目通りの無機質な声色。
それは何を意味するのか。

(´・ω・`)「……」

【+ 】『……』

“一人”と“一つ”は向き合い、睨み合う。



33: ◆/ckL6OYvQw :2008/03/01(土) 00:43:04.99 ID:6w5rVPXGO
端から見れば、ポーカーフェイスの青年がロボットを見上げるような形のそれはだがしかし、確実に腹のさぐり合いだった。
二人の間に、緊迫した時間が流れる。

【+ 】『……ふん』

しばらくの睨み合いの後、機人が鼻を鳴らして先に目を外した。

【+ 】『見つけたぞ。“鍵”だ』

その言葉を言うために視線は外されたのか。
何とも言い切る事は出来ない。
ただ二つ言える事。それは、ショボンが目を向けた先、表通りを一つの影が横切ったという事と。

(;´・ω・`)「クー!」

その影が、彼がこの数年間で他のどんなモノよりも必死になって求め続けたモノだったという事だ。



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