('A`)はダークヒーローのようです
- 3: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:34:56.69 ID:4nbZKtEZO
- 第三十七話 帰還
━━唐突に突風が巻き起こった。
(´<_`; )「な、なんだ…わぶっ!?」
視界を埋める純白。
横殴りの颶風。
弟者の身はそれに殴り飛ばされるように地を転がり、ハイウェイの壁面に激突した。
(´<_`; )「ぐ…うぅ……」
鈍い痛みに顔をしかめながら、突然降って沸いたそれを睨み付ける。
(´<_`; )「久し振り、だな……」
聖套を身に纏い、純白の布を右腕に巻き付けたその姿は、まるで聖皇帝。
(´<_`; )「ビコーズ!」
( ∵)「……」
- 4: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:35:37.29 ID:4nbZKtEZO
- ビコーズ。その名を呼ばれた件の男は、しかし弟者の事など眼中に無いように兵士達の波の方へと歩き出す。
(´<_`; )「元第三遊撃小隊隊長……“人喰いビコーズ”。確かラウンジ王国遠征の際に戦死したって話じゃなかったか?今更何をしに現れた?」
“人喰い”。その単語にぃょぅが反応を示した。
(=゚ω゚)「“人喰いビコーズ”だって?…じゃあ、あんたがあの有名な味方殺しの……」
(´<_`; )「戦場で負傷した味方の兵士達を手当てと偽って五十人も殺した…が、証拠不十分で不起訴。だがオレは知っている。あいつは紛れもない、殺人鬼だよ」
- 5: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:37:05.48 ID:4nbZKtEZO
- 汚物を見るような目でビコーズの背を睨み付ける弟者。
(´<_`; )「しかし……何故、生きている?そしてあの格好は…?」
相変わらず二人の事などに興味ももたいないビコーズは、逆巻く兵士達の波を一心に眺めている。
能面のような顔に、そこだけぎらついた目。
そうして一通り見回した後、彼はゆっくりと二人を振り返った。
( ∵)「……ジョルジュは、どこに居る?」
感情など、どこかに落としてきてしまったのか。
幽鬼めいた青白い顔を弟者に向け、ビコーズは凍えるような寒々しい声を出した。
(´<_`; )「……」
( ∵)「ジョルジュはどこだと、聞いている……」
静かに、だが圧倒的な激情を声の裏に潜ませ、尋ねる。
(´<_`; )「……死んだよ。隊長はな」
それを言葉にしながら、弟者は自分の背中に氷の塊が入ってきたかのような錯覚を覚えた。
(;∵)「死ん…だ、だと?ナゼ?」
信じられない。
その時、初めてビコーズの顔に感情の色が浮かんだ。
大きく開いた眼孔。蒼白な顔色の上に更に上塗りされる白の絵の具。
明らかに彼は動揺していた。
- 6: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:38:12.39 ID:4nbZKtEZO
- (´<_`; )「邪神討伐の際に、ドクオの魔術に巻き込まれて……」
( ∵)「……」
ドクオ。
ビコーズの身が、ピクリと震えた。
( ∵)「そうか、あの男が……そうか…そうか…ふはは…救世主が…我らが救世主が…“門”が……。
ははは…そうか、そうか、そうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうかそうか」
突然、壊れたように言葉を発し始めたビコーズ。
その呪文のような声が十六ビートドラムの連打のように速度を増し臨界点に達した時。
( ∵)「ジ ョ ォ ォ ォ オ ル ジ ュ ゥ ゥ ゥ ゥ ! !」
幽鬼が、吠えた。
(´<_`; )「な、何だ…?」
( ∵)「ジョルジュ!ジョルジュ!ああ、何故お前はいつも私の手の届かない所へ行ってしまう!?私を置いていかないでおくれ…!ああジョルジュ!しかし私はジョルジュゥゥゥゥ!」
( ∵)「私は私はお前を必ず手に入れるいやお前は死んだ死んだもういないでも生きている必ず生きている死んだ死んでいるいない生きている生きていたジョルジュジョルジュジョルジュゥゥゥゥ!」
- 8: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:39:20.27 ID:4nbZKtEZO
- 狂気。
それはあまりにも純粋な狂気。
常人の理解の範疇を超えた、果てしない深淵。
その奥、暗く黒く塗り込められた闇の中に燃え盛る業火。
ビコーズの瞳は鬼火の不気味な光を帯び、狂気の言葉を吐き出す唇は波打つ芋虫のグロテスクさで開閉する。
( ∵)「悔しいだろう苦しいだろう痛いだろう辛いだろう悲しいだろうあんな糞の役にも立たない化け物に殺されてでも大丈夫私が直ぐにそこから助け出してあげよう」
( ∵)「私の全てをかけてお前を助け出そう私が全てお前は私私はお前一つになる私は私は私は私はジョルジュジョルジュは私そうだお前を救うそうして私が」
( ∵)「お 前 を 殺 す」
息継ぎ無しに一気に言い終えた後、幽鬼は狂気に染まった面を俯け、立ち尽くした。
不気味な沈黙が、三人の間に訪れる。
やがて、ぃょぅが恐る恐る口を開いた。
(=゚ω゚)「なぁ……どうして、あんたは味方なんか殺したんだ?」
(´<_`; )「お、おいぃょぅ……」
何を血迷ったのか。こんな狂人相手に何を言い出すのか。
弟者は戸惑った。
- 9: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:40:46.76 ID:4nbZKtEZO
- ( ∵)「……」
しかしぃょぅは弟者の事など気にもかけず、続ける。
(=゚ω゚)「興味が有るんだ。快楽殺人鬼ってぇのは、一体どんな思考を持っているのかってね。どうせオレ達は間もなく死ぬ」
ちらと背後を振り返るぃょぅ。遠目に迫るは不浄なる死の神。
(=゚ω゚)「だから、死ぬ間際にでもちょいとは面白い話を聞きたいんだよ」
逃げ惑う兵士達。救いを求める叫び。
悪あがきの銃声。死を告げる咆哮。
悪夢めいた終末の情景の中、ビコーズはその蒼白な面をゆっくりともたげた。
- 10: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:41:24.67 ID:4nbZKtEZO
- ( ∵)「快楽、殺人鬼……と言ったか?」
(=゚ω゚)「あぁ、確かに。あんたは人を殺すのが気持ちいいんだろ?」
ぃょぅの言葉に、ビコーズの口元が微笑の形に歪む。
( ∵)「……勘違いだな。私は何かを殺める事に喜びを感じた事は無い」
(=゚ω゚)「ならば、何故五十人も殺したんだ?」
少しの間。そうして。
( ∵)「そうせずには、いられないからだよ」
呟いたビコーズ。
その顔に浮かんでいるのは、苦悩か。
複雑過ぎる彼の面もちでは、元々常人には理解し難い彼の思考を読み取る事は出来ない。
- 11: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:42:31.28 ID:4nbZKtEZO
- (=゚ω゚)「……それは、強迫観念みたいなもんか?」
( ∵)「満たされないのだ。殺さなければ、満たされない。だが殺しても満たされない」
(=゚ω゚)「乾き…?」
( ∵)「何かが足りないと思い、何人も殺した。しかし、いくら殺しても足りない。
やがて私は気付いた。数じゃない。唯一無二の存在を、奴を殺さなければ私は満たされない……と」
切々と語るビコーズ。その悲哀がこもった表情は、不思議な程に艶めかしく妖艶な美しさを帯びていた。
(=゚ω゚)「それは、一体誰なんだ?」
また、ビコーズの口元が歪む。
( ∵)「親友にして我が半身……」
( ∵)「ジョルジュだ」
恍惚の表情。
恐らくはその狂気の脳髄が浮かべているのは悦楽の情景だろう。
その唾棄すべき思考に気付いた弟者は、顔面を苦しげに歪めた。
(´<_`; )「戯れ言を。一体どんな環境で育てば、こんな狂った馬鹿野郎になれるんだろうな」
苦々し気に吐き捨てる弟者の言葉。
途端純白の疾風が閃き、弟者のヘルメットが音も立てずに分解した。
- 12: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:43:36.24 ID:4nbZKtEZO
- (´<_`; )「……っ!」
一瞬にして風通しの良くなった頭。
気付けば、ビコーズの右腕に巻き付いていた白布が風にはためくようにして垂れ下がっている。
知覚不能の一撃がその白布から放たれたのだと弟者が理解するのには、少々の時間を要した。
( ∵)「おい、愚民。言葉には気をつけるんだな。愚者は口を開くな。見苦しい」
冷たく言い放つ。
その威圧感に、弟者は最早何も言えなくなった。
( ∵)「環境が人を作る、と言うが……私はそうは思わない」
( ∵)「少年Aは恋人の少女の首を絞め殺害後、切り取り、手製のバターと一緒に食しました。骨も目玉も舌も、脳みそも脳漿も、ぺろりと美味しくいただきました」
( ∵)「少年は、以前からブラックメタルや過激な殺人描写のある映画を好んで試聴しており、これから影響を受けての犯行と見られます。
ニュースでは、それを聞いたどこぞの批評家きどりの馬鹿が、『子供達に悪影響があるから、そういうメディアカルチャーは規制すべきだ』と声高に叫びたてました」
- 13: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:44:31.09 ID:4nbZKtEZO
- ( ∵)「『これは、悪だ!邪だ!規制せよ!規制せよ!』」
( ∵)「貴様は馬鹿か?はたまた馬の糞か?と私は奴らに言ってやりたい。殺戮者は、殺人鬼は、環境では作られない。
過激なカルチャーに触発されて殺人を犯すのは、一部の希有なる愚者だ。それはそいつが馬鹿なだけだ」
腕を広げ、激しい身振りで語る姿は熱に浮かされたよう。
( ∵)「━━本物の殺人鬼は、遺伝子で作られる」
( ∵)「どうしてか?原因はわからない。もはや突然変異としか言いようが無い。
稀に神童と呼ばれる天才がひょっこり生まれるように、殺人鬼の才能は天文学的な確率でこの世に産み落とされる。それはまさに神の思し召し」
( ∵)「讃えよ!敬え!賛美せよ!祝福しろ!殺人の鬼子は神の申し子だ!天才なのだ!」
( ∵)「……それでもメディアははばからない。環境悪だと周囲の人間を責め立てる。嗚呼、なんと嘆かわしい事か」
( ∵)「私は、そんな下らない妄想の為に、マリリン・マンソンのライブ演奏が見られないのを遺憾に思う!彼らは自らの信念に忠実な天才的なメッセンジャーだった!」
- 14: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:45:38.97 ID:4nbZKtEZO
- ( ∵)「だが残念な事に、この世の大半を占めるのは馬鹿か腐れ外道。多数派社会は天才よりも圧倒的に多い愚者の意見を尊重する。私はそれが悲しい!
何故?どうして!?絶対的に正しい意見を蔑ろにするのか?甘美か?怠惰か?それらが貴様らにそうさせるのか?」
(#∵)「確かに、正しき意見は時として耳に痛い。しかし、“絶対的なる価値観”は!全てを幸せに導く!苦い薬が嫌だと駄々をこねコーラばかり飲んでいたならば、いつか人類の骨は腐れて地に堕ちる!」
(#∵)「天才を認めよ!私を認めよ!懺悔し、贖罪せよ!無知は罪なり!」
それはさながら稀代のロックンローラーのライヴを見ているかのような光景だった。
熱狂的な言葉、不気味なまでの説得力。時としてそのエモーショナルな姿は、カリスマの演説以上に人の胸を打つ。
(´<_`; )「……」
だが。だがそうであっても。この男の弁を聞いてはいけない、信じてはいけないと弟者の心は警報を鳴らす。
- 15: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:46:34.58 ID:4nbZKtEZO
- 躊躇いも無く人を殺し、何の感慨も抱かないどころかそれを正当化しようとする。
彼が天才であろう事は理解出来るが、彼の正当性を理解しようとは弟者には思えなかった。思いたくも無かった。
(´<_`; )「お前は、狂ってる……」
だが、弟者はその狂気に抗えない。
その狂気は圧倒的過ぎる。
恐れを抱き、浸食されないよう、必死に否定するしか彼には出来なかった。
( ∵)「詮無きかな。やはり愚民は愚民でしか無い。私が背負った天命を理解出来ない。いや、理解しようともせん」
やれやれと首を振るビコーズ。
弁を交わす余地など無いだろう。そう思い、弟者はぃょぅへと視線を移す。
(;=゚ω゚)「……」
先程から彼は黙ったまま、ビコーズの顔を凝視している。
その視線が、魔性に魅入られた傀儡のそれに思えて弟者の心中はざわついた。
(´<_`; )「おい、ぃょぅ……」
(;=゚ω゚)「あ、あぁ…どうした?」
呼びかけに振り返ったぃょぅの顔は、汗でヌラヌラと光っている。
今にも取り乱しそうな表情を見て、弟者は自分の考えが杞憂であった事を知り少しばかり安心した。
- 17: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:47:51.16 ID:4nbZKtEZO
- 死を達観し、不気味なまでに冷静だった彼にも狂人の弁は畏怖の対象だったのだろう。
( ∵)「戯れは終わりだ。気紛れで愚民に弁を垂れたが、やはり無意味な事このうえないものだな。私も精進が必要だ」
ゆらり、とビコーズの上体が揺れた。
- 18: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:48:35.92 ID:4nbZKtEZO
- ( ∵)「さて、では貴様らには罪を償ってもらおうか」
(´<_`; )「罪…?」
( ∵)「貴様らがジョルジュを死に至らしめた。貴様らがちゃんとあのイカレ救世主を見張っておかなかったから、ジョルジュは死んだ。
貴様らが私からジョルジュを奪ったのだ。その罪、万死に値する」
(´<_`; )「何を言ってやが……」
瞬間。二人の視界からビコーズが消えた。
とっさに身を伏せた弟者。だが、遅い。
( ∵)「返してもらうぞ」
(´<_`; )「がっ…!」
右足に激痛が走った。と思った次の刹那には右足の感覚が無くなった。
何事か?視線を右足に落とせば、何も無い空間。
(´<_`; )「あ…。あ、……」
( ∵)「貴様らの下賤な肉では物足りぬが……代用品としては最も相応しい」
( ∵)「貴様らをバラして、ジョルジュの身とする」
(´<_`; )「ああああああああぁぁ!!」
- 20: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:50:01.60 ID:4nbZKtEZO
- (;=゚ω゚)「お、弟者!」
絶叫を上げる同僚に気を取られた。
それがぃょぅの人生唯一にして最大の失態となった。
( ∵)「貴様は……右手を担当しろ」
視界の端で翻る純白。
右肘から上がる血しぶき。
(;=゚ω゚)「━━っぎゃああぁああ!!」
激痛。直ぐに訪れる不気味なまでの鎮静。
ぃょぅの身は、無様に地を転がった。
(;=゚ω゚)「……っな、なんだ?痛くねぇぞ?なんだ?なんなんだ?」
一度痛みに膝を付けば、痛覚の欠損からくる慄然たる不安に腰が抜けて二人は立ち上がる事が出来なかった。
(゚<_゜; )「……あっ、うう、痛くない。痛くない……どうして、どうして……どうして痛みが無いんだよぉぉぉお!?」
理解不能。先刻から続く常軌を逸した事象に、二人の頭脳は遂に狂気の闇に飲み込まれた。
その横に、ビコーズが音も無く足をつく。
( ∵)「弱いな。余りにも脆弱だ。所詮は愚民よ。そのまま泥府の中を転げ回れ。それが貴様ら犬畜生にはお似合いだ」
汚物を見るような目で二人を見下す。
皮肉にもそれは先に弟者がビコーズの背に投げかけたそれと酷似していた。
- 21: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:51:18.04 ID:4nbZKtEZO
- ( ∵)「さて、次はあの喧しい女と兄の方か」
二人の肢体を切り落とした物騒な白布を右腕に巻き付けながら、歩み出したビコーズ。
その背後で、突如巨大な爆音が響いた。
( ∵)「……?」
何事か。確認すべく彼が振り向いた先の荒野は、見事なまでの見晴らしだった。
一面に広がる赤茶けた大地。遮るものの無いそれは実に壮大なパノラマで……。
( ∵)「遮るものの…無い?」
違和感。
そう、確かにその荒野には先刻まで他を圧倒する死の影が……。そこまで考えて、ビコーズはとっさに右腕を頭上に翳した。
瞬間、耐え難いまでの爆発と衝撃が彼の右腕を襲う。
踏ん張った足に痺れが走り、足を乗せたアスファルトが陥没し踝までが埋まる。
「ちっ……勘のいい奴だ」
毒づく声。
音源に天を仰げど、声の主は見つからない。代わりに、脇腹に強烈な衝撃。
(;∵)「っ…!」
なすすべも無く衝撃に身を任せれば、中空を滑走する我が身。
ハイウェイの壁面が視界に迫り、激突するその寸前。
彼の体は下からの突き上げるような衝撃で再び宙へと投げ出された。
- 23: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:52:32.07 ID:4nbZKtEZO
- (;∵)「な、にが…?」
滑稽なまでに四肢を投げ出した形で宙を舞う彼。
その視界を、黒い影が掠め……。
直後。
「死ね」
実に明確な言葉。
それと共に彼の身を爆炎が包んだ。
「がぎゃああぁあ!!」
初め、その絶叫がどこから響いてくるのか分からなかった。
ああ、また愚民が鳴いているのだろう。そんな風に思っていた。
だが、我が身を這う煉獄の痛みと黒き炎に、彼は気付く。
(;∵)「あづい!あぢぃぃぃぃ!あぢぃぃぃぃヨォォオ!!」
そう、これは自分の叫びなのだと。
(;∵)「だずげ…!だずけで!誰か!誰かがががが!ぎぎぎぎぎ!!」
再び衝撃が訪れ、彼は自分が地に打ち付けられたのを知り、慌てて身を包む黒炎を消すべく転げ回る。
(;∵)「ぎえろ!ぎえろよ!ぎえろっでいっでんだょぉぉぇぉぇぇぅぅ!!」
だが、黒炎は収まるどころかその勢いを増し、毒蛇の如く彼の全身を舐めまわし、這い周り、縛り付け、責めさいなむ。
(;∵)「あぁぁぁぁぁ!止めろ!止めろ!私が何をじだ!私を誰だど思っでいる!聖騎士!聖騎士だぞ!天命をおびじ聖騎士だぎゃぁぁぁ!」
- 24: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:54:18.12 ID:4nbZKtEZO
- 地を這い、転げ、のた打ち周り、叫ぶ。
しかし。
「いいから黙って死ね」
残酷な裁判官は、上告を認めなかった。
(;∵)「あが…私が悪がっだ…謝る!だがらだずげでぐだざい!がみざま!がみざま!哀れな子羊をだずげで!」
先程までの威勢はどこへ?
最早彼には恥も尊厳も無かった。
有るのは、必死に生を渇望する原発の本能のみ。
- 25: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:54:44.31 ID:4nbZKtEZO
- だが、やはり裁判官は残酷だった。
「神は死んだ」
断言。断ち切る言葉。まさにその通りに、差し出した手は払いのけられ、縋るものの不在が宣言された。
(;∵)「ぞんな……がみざま!がみざま!」
尚も助けを乞う子羊。
その様子に、裁判官も呆れたのか。
「……ならば、オレが貴様の神となろう」
(;∵)「あなだががみざま?だずけで!だずげでがみざま!あぁぁぁぁぁ!」
一筋の希望。それが見つかった喜び。彼は歓喜した。歓喜し、感謝した。
これからは神を信じて全うに生きよう。毎日神への祈りを欠かさず、常に慎ましく生きよう。
そう思い彼が上げた顔を、神は覗き込みこう言った。
('A`)「駄目だ」
爆音が、荒野に響き渡った。
- 26: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:56:50.51 ID:4nbZKtEZO
- ━━ハインリッヒの手からカップが滑り落ちた。
琥珀色の液体が湯気を立てながら、宙へと躍り出る。
それはささやかな気遣いだった。
从゚∀从「え…?」
がちゃん。カップの割れる音。
びしゃ。遅れて珈琲の零れる音。
从;゚∀从「今、何て…?」
ハインリッヒの寝間着の足、その裾にはべったりと琥珀色の染みが出来ている。
板張りの床にも、同じような染みが広がっていた。
ドクオはその様子を見ながら、珈琲を用意したハインリッヒのその気持ちを考え、いたたまれない気持ちになった。
- 28: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:57:34.76 ID:4nbZKtEZO
- 从;゚∀从「嘘、ですよね?」
ドクオは、視線をハインリッヒの顔へと移す。
ハインリッヒの目は、不安げに揺れていた。
从;゚∀从「オリジン様、嘘……ですよね?」
もう一度、ハインリッヒが尋ねてくる。
彼女が今、何を思っているのかはわかる。わかるからこそ、ドクオの口は重い。
だが、開かなければならない。
いくら重かろうと、この口をこじ開けなければならない。
だから。
('A`)「これから、ニーソクへ向かう」
もう一度、その言葉を紡いだ。
- 30: ◆cnH487U/EY :2008/03/28(金) 23:59:28.11 ID:4nbZKtEZO
- 从 ∀从「……」
ハインリッヒは俯いている。
嫌な気分だった。
これから展開されるだろうやり取りが、ドクオにはありありとわかっていたから。
('A`)「……」
どうして。
押し殺した声で、彼女は言うだろう。
从 ∀从「どうして……?」
友の為。
自分は言うだろう。
('A`)「ジョルジュの…オレの親友との約束を果たしに」
- 31: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:00:12.91 ID:3ZoK+JLoO
- でも。
彼女は認めないだろう。
从 ∀从「どうして?どうして人間なんかの為に…?奴らが、あなたにどんな仕打ちをしたかわかってますよね?それでも行くっていうんですか!?」
それでも。
自分は言うだろう。
('A`)「ああ……」
全ては分かりきったやり取り。
古来より繰り返されてきたやり取り。
だからせめて、この声が誰のものでもない、自分のものだという証明に、強く響くよう、力を込めて言おう。
('A`)「オレは、行く」
口上だとか、そんなものは不要だ。
ただ、ただ、確固たる意志を込めて、力強く。
- 33: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:02:30.73 ID:3ZoK+JLoO
- 从 ∀从「……そう、ですか」
諦めてくれ。
そんな甘えた言葉は、いらない。
自分は行くのだと。これが、自分の意志なのだと。強く、強く刻む。
从゚∀从「……じゃあ」
顔を上げたハインリッヒ。
そこで、ドクオの意志は僅かに揺らぐ。
泣いているものとばかり思っていた。
涙で濡れた顔で、すがりついてくるものだとばかり思っていた。
だが。彼女の顔は、無表情。午後の湖畔のその表面のような、落ち着き。
(;'A`)「……」
思わず逃げる視線。
目を背けるな。自分を叱咤し、ハインリッヒの顔に視線を戻そうとした時、何かがドクオの胸にぶつかってきた。
- 34: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:02:49.54 ID:3ZoK+JLoO
- (;'A`)「?」
視線を下げると、黄金の羽毛。
背中に手を回し、ハインリッヒが抱きついていた。
('A`)「……おい?」
从 ∀从「何も言わないで」
顔を、ドクオの胸にうずめたまま、ハインリッヒは腕に力を込めた。
きつく、きつく、強く、強く。
そうして、緩める。
从 ∀从「これが、私の気持ちです」
('A`)「……すまない、オレは…」
从 ∀从「だから、何も言わないで」
- 36: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:04:23.40 ID:3ZoK+JLoO
- ('A`)「……」
体温が、感じられる。
暖かい、今まで感じたことの無い程の心地よい、暖かさ。
ハインリッヒの温もり。
从 ∀从「私が望むのは、あなたの幸福です」
ぽつり。くぐもった声で聞き取りずらかったが、彼女は確かにそう言った。
从 ∀从「だから、あなたの邪魔はしません……ただ」
('A`)「ただ?」
从 ∀从「私を、愛して下さい」
ふと、胸元に湿り気を感じた。
('A`)「……」
黙って、ハインリッヒの頭を抱き締める。
夜なべの語らいに聞いた彼女の身の上。
人々に恐れられ、迫害され、孤独に生きた五千年。
その大きすぎる穴を、この抱擁で少しでも埋めれるなら。
- 37: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:05:00.73 ID:3ZoK+JLoO
- かつて、彼女はドクオの足りない穴を埋めてくれると言っていた。
だから、今度は自分の番。
ドクオは、ハインリッヒの頭を抱く腕に優しく力を込める。
从 ∀从「……んっ」
切なげな声。
そのまま、二人抱き合い、どれだけの時間が流れたろうか。
案外に、短い時の抱擁だったと事実は告げていた。
登りきらない朝日を見つめ、心ばかりに目を細めているとハインリッヒは自分から身を離した。
- 39: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:06:19.29 ID:3ZoK+JLoO
- 从゚∀从「……これで、何も思い残すことはありません」
('A`)「……」
二人、見つめ合う。
どちらともなく頷き合い、そして手を取った。
言葉はいらない、とはよく言ったものだなと皮肉ぶってドクオは胸中で呟く。
从゚∀从「……これが、私があなたに残せる最後の贈り物です」
('A`)「あぁ」
握ったハインリッヒの右手、そこから光の粒子が湧き出、二人を照らした。
从゚∀从「短い間でしたが、これでお別れですね」
ハインリッヒの体が、光の粒子になってドクオの体へと流れ込む。
ゆっくりと、ゆっくりと、分解され、次第に薄れていく彼女の姿。
それが、全て消えてなくなってしまう寸前。
从゚∀从「ミセリを探して下さい。そして、伝えて下さい。私が、ハインリッヒが謝っていたと」
('A`)「ああ、約束する」
ドクオが頷くと、ハインリッヒは嬉しそうに目を細め。
そして、それきり。
彼女の姿は、完全に消えた。
- 41: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:08:05.52 ID:3ZoK+JLoO
- ('A`)「……」
目の前の、何もない空間を見つめる。
数瞬前までそこには金髪褐色肌の美しくも慎ましい女が居て、ドクオの方を見つめていた。
今ではそこには、彼女が零した珈琲の染みと残り香が漂うばかり。
だが、彼は知っている。
彼女は居なくなってなどいない。
ただ、あるべき場所へと、自分の故郷へと帰っただけなのだ。
彼の体に満ち溢れる“力”、そしてその胸の暖かさが教えてくれる。
彼女はあの時、彼の腕の中で確かに幸せだったのだ。
('A`)「……」
彼女の気持ち。それが彼の胸に暖かく染み渡り、こう言う。
“自らが義と思うところを成せ”。
- 42: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:08:46.39 ID:3ZoK+JLoO
- ('A`)「……解っているさ」
呟き、足を踏み出す。
玄関の扉に手をかけ、リビングを振り返る。
もう、誰も座ることの無いソファ。
使われる事の無いキッチン。
拭かれる事の無い珈琲の染み。
だが、敢えてそれら全てをそのままにしておこうと彼は思う。
いつか。そう、いつかまた立ち寄るかもしれない、その時の為に。
だから今は、しばらくのさようなら。
('A`)「行ってくる」
短く、出立の挨拶を告げる。
胸の中で、返事がかえってきたような気がした。
- 45: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:09:49.89 ID:3ZoK+JLoO
- ━━兵士達が歓喜の叫びを上げた。
命が助かった事に、脅威が消えた事に、救われた事に、喜び叫ぶ。
涙を流して喜ぶ兵士達を隣に視界の隅に、分断された右足が目の前でおぞましくも癒着するのを見て、弟者は開いた口を塞ぐ事に必死になっていた。
('A`)「これで問題なく歩けるだろう。さっさと逃げることだな」
そして、弟者が口を開けているもう一つの理由が今目の前に居る。
(´<_`; )「ドクオ……お、お前…」
予期せぬ再開。
それは喜ぶべき事の筈なのに。どんな顔をしていいのか。
心中は複雑だ。
('A`)「お前達が言いたい事は山ほどあるだろう。だが、今はそれを聞いている暇は無い」
口を動かしながらも、彼は傍らで呻いているぃょぅの腕を取り、どのような方法でか接合する。
(;=゚ω゚)「……す、すげぇ」
再び繋がった腕をゆらゆらと振るぃょぅ。
それを尻目に、ドクオは弟者の方を向く。
('A`)「取りあえず、これだけは聞いてくれ」
- 46: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:11:31.58 ID:3ZoK+JLoO
- (´<_`; )「……」
('A`)「すまなかった」
その一言には、どれほどの想いが詰まっているのか。
“すまなかった”
ドクオが初めてみせる誠実さ。
それに、弟者は戸惑う事しか出来ない。
なんと返事を返すべきなのか。
それを決めあぐねている内にも、ドクオは立ち上がる。
(´<_`; )「お、おい何処へ行くんだよ?」
- 47: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:11:55.65 ID:3ZoK+JLoO
- 場つなぎに、口をついて出たのはそんな下らない言葉。
('A`)「あいつらを片付けてくる」
ニーソクの中心部を見やるドクオ。
そこには、禍々しい姿を晒して犇めく邪神達。
燃え盛る街並み、倒壊したビル、上空を舞い飛ぶ悪鬼の群れ、闊歩する古の神々。地獄がそこに顕現したような情景。
(´<_`; )「お前、奴らが何匹居るか解っているのか!?」
('A`)「見たところ、二十柱と言ったかんじか」
(´<_`; )「そうじゃない!あれを、あの数をお前一人で相手にして……」
しかし、弟者の声は寸でのところでドクオには届かなかった。
まばたきの次の刹那に彼の体は弟者の視界から消え、慌てて目で追えばその身は既に中空へと飛び出していた。
- 50: ◆cnH487U/EY :2008/03/29(土) 00:13:17.17 ID:3ZoK+JLoO
- (;=゚ω゚)「……いっちまった」
二人が唖然としている内、ドクオは一筋の黒き光上となると尾を引くように曇天を滑空し、見えなくなった。
(´<_`; )「……馬鹿野郎。いつも一人で突っ走りやがって。……だからオレはお前が嫌いなんだ」
苦々しげに吐き捨て、ドクオが消えた空を見つめる。
(´<_` )「オレはまだてめぇに言いたい事が山ほどあるんだ。必ず、必ず生きて帰ってきやがれよ」
苛だたしげな言葉。
しかし、弟者の顔はどこか楽しげですらあった。
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