('A`)はダークヒーローのようです
- 3: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:35:24.54 ID:r9PKt3gqO
- 第三十八話 再会
━━爆炎が上がった。
(´・ω・`)「目的、対象の刺殺。掌を支点に前方三十メートル×三十メートル×四十メートルに展開、発動」
魔術師の右手が翳される。
刹那、次々と地を喰い破り咆哮を上げる血の色をした槍の穂先。
川 ゚ -゚)「……ふむ」
それが疾駆する魔女の足元を狙い、執拗に食らいつこうと伸びる中、彼女は地を蹴り天高く飛翔、右手を翳した。
川 ゚ -゚)「目的、対象の根絶。自己を中心に半径二十メートルに球を描き展開、発動」
途端、魔女の周囲を真空のいと鋭き爪が掻き回す。
真紅の槍はその爪に引き裂かれ、一つまた一つと霧散した。
それを見た魔術師は思わせぶりな笑みを口元に浮かべると、その場に仁王立ち。
開かれた口が、禁断の言葉を紡ぐ。
(´・ω・`)「目的、障壁の創造。自己を中心に半径二メートルに展開。並列目的、更なる障壁の創造。自己を中心に半径二百五十メートルに展開。並列目的、核爆発の創造。両脚を支点に半径二百メートルに展開。━━並列発動」
長い詠唱。その全てが終わった瞬間。
天地が、爆裂した。
- 4: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:36:14.68 ID:r9PKt3gqO
- 川 ゚ -゚)「目的、自己の転移…」
振動する大気、鼓膜を破壊する轟音、灼熱の熱波、破壊の風。
ビルが、街頭看板が、路上の車が、アスファルトが、限定空間内の全てが悉く熔解し、塵芥と化す。
空気中の原子という原子全てがぶつかり合い生まれる核熱は、煉獄の炎ですら生温いと言わんばかりの超高熱で、地に屹立するものの全てを薙払った。
五感すらも破壊する程の爆発。
その純粋な破壊の嵐が収まり行き、白熱した視界が徐々に平常を取り戻す頃、ショボンはゆっくりと血塗られた双眸を開いた。
(´・ω・`)「目的、障壁内の浄化。発動」
短く呟き、周囲を見渡す。
天に燦然と輝いている太陽。
まるでそれが落ちてきたかのような光景。
地は抉れ、建物という建物は粉々に砕け散り、白い灰と化している。
(´・ω・`)「…うん、このぐらいでいいかな。おーい、クー」
動くもの無い世界に呼び掛ける魔術師。
返事の代わりに、彼の目前数メートルの空間に亀裂が走った。
川 ゚ -゚)「あぁ、全て終わったかい」
- 5: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:37:23.80 ID:r9PKt3gqO
- ぽっかりと中空に浮かぶ魔女の生首。
辺りを伺うように、視線を巡らす。
川 ゚ -゚)「……それにしても、凄まじいな。目くらましにしては少しやりすぎじゃないか?」
一面焼け野原となったニーソクの一角。
それを見渡しながら、彼女は亀裂から脚を踏み出す。
死の灰の白に染まった地面は、痛々しいまでの惨状だ。
だが、それを作り出した件の魔術師は悪びれた様子は無い。
(´・ω・`)「悪戯は派手にやった方が面白いだろう?それに、ちゃんと無人の区画を選んだんだし」
ちろっと悪戯っぽく舌を出す。
川 ゚ー゚)「確かに」
(´・ω・`)「慣れたもんだろ?」
- 6: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:38:56.06 ID:r9PKt3gqO
- 顔を見合わせる魔術の徒等。
ふっ。どちらからともなく、笑みがこぼれ。
川 ゚ー゚)「ふふふ……」
(´・ω・`)「ははは……」
それは忍び笑いになり。
(´・ω・`)川 >∀<)「はははは!」
爆笑に変わった。
川 ゚∀゚)「ははは!いやぁ、最高だよ!ははは!」
(´・ω・`)「だろう?流石の奴らも、核爆発があれば二人とも死んだと思うさ」
腹を抱え、身を折り曲げ、笑う。
黄色い声は絡み合い、更地となった街角に響いた。
- 7: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:39:59.63 ID:r9PKt3gqO
- 川 う∀゚)「ははは!いやぁ可笑しい…ふふっ…ははは…ふふっ。あぁ、変わってないなぁ君は」
笑いすぎて滲んだ涙を拭いながら、魔女は改めて目の前の魔術師を眺める。
しょぼくれた顔、優しげに垂れ下がった眉。
長大な軍用コートを身に纏い、胸に幾つもの勲章をぶら下げていようと、その姿は数年前と何も変わらない、彼━━。
ショボンのままだった。
(´・ω・`)「君こそ、相変わらず鋭い洞察力だよ。ウインク一つで全部僕に合わせてくれた」
懐かしき旧友との再会。
細められた真紅の双眸が、彼の胸の内を語る。
川 ゚ー゚)「君の考えそうな事は大体解るさ。知恵は回るくせにそれを真っ当な方向に活かそうとしない。昔から君はそうだった」
(´・ω・`)「その辛辣さも、相変わらずか。そんな性格じゃ損するよ」
親友同士の歯に布着せぬ語らい。
嗚呼、こんな時間が再び訪れるなんて夢では無かろうか。
頬をつねる。
川 ゚ -゚)「痛っ」
(´・ω・`)「?」
川*゚ー゚)「夢じゃ、無いんだな」
照れ隠しの笑み。
それを見て、ショボンも頬をつねる。
- 9: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:41:00.21 ID:r9PKt3gqO
- (´・ω・`)「……っつ。夢じゃ、無いみたいだ」
見つめ合い、再びの爆笑。
互いに、心の底から笑ったのは何年ぶりかと計算しかけ、やはり止める。
そんなものは無粋だと、気付いた。
川 ゚ -゚)「そう言えば、いつから君は兎になったんだ?ギャグみたいに目が真っ赤だぞ。それとも不眠症か?軍人というのは寝る暇も無いのか?」
(´・ω・`)「ああ、これ?」
思い出したように尋ねる彼女。
返答の代わりに、ショボンは自らの瞳に指を這わせ、ぬるりと抜く。
指先には、真っ赤なレンズ。
(´・ω・`)「一応、大魔術師という触れ込みだからね。雰囲気出すのに入れてたんだよ」
血の色のコンタクトを弾いて捨てる。
川 ゚ -゚)「厨二病に効くワクチンでもやろうか?」
(´・ω・`)「結構。間に合ってるよ」
川 ゚ -゚)「そうか。それは残念。……しかし、あながち大魔術師というのも誇張ではないな。
あれだけの禁呪を連発して、よく精神力が持つものだよ。私ですら連続発動は三回までが限度だ」
- 11: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:42:35.14 ID:r9PKt3gqO
- 感服したように肩をすくめる魔女。
それにショボンの口元が、悪戯っぽく歪む。
(´・ω・`)「よくぞ聞いて下さいました。それではこれをご覧下さい」
言うが否か、いきなり軍用コートを脱ぎ出すショボン。
ジャケットを脱ぎ捨て、下のシャツに手がかかったところで、魔女を見上げる。
(´・ω・`)「止めないの…?」
川 ゚ -゚)「私がそれ如きで顔を赤らめると?いいから早く脱げ」
(*´・ω・`)「…いやん」
鈍い音がショボンの頭蓋を震わせた。
(´ノω;`)「それでは、御披露目ターイム」
- 12: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:43:12.29 ID:r9PKt3gqO
- 若干涙目になりながらショボンがたくしあげたシャツの下、割れた腹筋の上、厚い胸板のその中央。
川 ゚ -゚)「これは……」
(´・ω・`)「そう、お察しの通り……」
川 ゚ -゚)「見苦しい胸毛だな」
(#´・ω・`)「違うよ!そこじゃないよ!それ以前に胸毛なんて生えてないよ!僕は綺麗好きなんだ!」
改めて見た胸の中央。
そこには古い火傷のように、十字の痣が刻まれていた。
川 ゚ -゚)「“魔女の接吻”か。こんな刻印を、どこで貰ってきたんだ?」
- 13: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:44:28.62 ID:r9PKt3gqO
- (;´・ω・`)「……」
その一言。それにショボンの胸が僅かに高鳴った。
川 ゚ -゚)「どうした?」
アーモンドのような目で覗き込んでくる彼女。
顔と顔との距離が、近い。
(;´・ω・`)「い、いや!何でも無い。さぁ話を続けようか」
慌てて顔を背ける。心なしか、頬が熱い。
川 ゚ -゚)「続けるとは?今ので“魔女の接吻”の説明は全て終えられたと思うのだが」
(;´・ω・`)「そ、そうだけど…。ほ、ほら、君も聞きたいだろ、僕がどうして『エデン』に入ったかをさ」
川 ゚ -゚)「……ふむ。興味が無いと言えば嘘になる」
(;´・ω・`)「だ、だろ?」
思わず溜め息が漏れる。どうしてだろうか。
彼女を前にすると、いつものような弁が振るえない。
手玉に取られるというか、なんというか、完全に向こうのペースだ。
(´・ω・`)「魔術の力を手に入れた僕は帰還後、基地の健康診断で奴らに目を付けられた」
(´・ω・`)「正直な話、当時の僕はただ魔術をべらぼうに扱えるだけの魔力タンク程度の人間でしか無かった」
- 14: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:45:32.23 ID:r9PKt3gqO
- (´・ω・`)「世界の秘密だとか、五千年前の真実だとか、そんなもの何も知らない僕を、奴らは飼い慣らして体のいい鉄砲玉にでもするつもりだったんだろうね」
川 ゚ -゚)「……ふむ」
(´・ω・`)「そんな事は奴らの会話を聞いていれば大体理解出来たんだけど、僕は特に何か行動を起こそうとは思わなかった」
(´・ω・`)「僕にとっては奴らの計画だとか、邪神の事なんかもどうだっていい。元々軍隊に入ったのだって、早くこんな世界とおさらばしたかったからだしね」
川 ゚ -゚)「……」
淡々とした語り口調。だが、彼女はその裏に潜む憐憫を確かに見た。
(´・ω・`)「でも、ある時見つけてしまったんだよ。奴らの会議机の上に置き忘れられた、君の写真をね」
川 ゚ -゚)「私の、写真……」
(´・ω・`)「僕は心底驚いた。どうしてクーの写真がここに?失踪したんじゃなかったのか?それは乾ききった砂漠の如き僕の人生の中で見つけた、一滴の滴だった」
- 15: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:46:26.06 ID:r9PKt3gqO
- (´・ω・`)「それから僕は奴らの会話に耳をそばだてるようになった。君の行方、その手掛かりを掴む為に必死になった」
(´・ω・`)「それでも僕の扱いなんてのは、本当に鉄砲玉でしか無かった。遺跡内に潜り、怪物を魔術で倒して古代の秘密を暴く日々。聞こえはいいが、僕に言わせれば下らないルーチンワークさ」
(´・ω・`)「どうにかしてのし上がらなければ。組織を動かせる程の立場に上り詰めなければ、まともな情報は掴めない」
(´・ω・`)「そう理解してからは、思案の日々だった。独自に魔術の研究を行い、誰でも魔術が扱えるように簡易媒体を創ったり、魔力が込められた武器を創ったり」
(´・ω・`)「そうしていく内、僕の頭脳が認められ、聖騎士団の団員として採用された。もうそこからはとんとん拍子さ。戦果を上げ、君が言う舌先三寸で奴らに取り入る」
(´・ω・`)「すぐに僕は奴らに認められ、晴れて五賢人の仲間入り。そうして奴らの計画に荷担するフリをして、君の行方をずっと探し続けた」
(´・ω・`)「……で、今に至ると」
- 16: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:47:20.72 ID:r9PKt3gqO
- 蕩々とした語りを終えると、ショボンは小さく溜め息をついた。
(´・ω・`)「長かった」
(´・ω・`)「実際には、ほんの二年ばかりの事だけどね」
目の前の、魔女を真っ直ぐに見つめる。
(´・ω・`)「やっと、君に会えた」
お互い、血塗られた道を歩いてきた。
振り返れば、後ろに転がるのは屍の山と、血と泥に濡れた自分の足跡。
無明の荒野の中、ただひたすらに目指してきたモノ。それに、今やっと手が届いた。
その実感を確かめるように、二人、目を閉じ、しばしの沈黙。
旅路を追憶する長い静寂。始めに口を開いたのは魔女の方だった。
川 ゚ -゚)「……その様子だと、君は私の正体はもう知っているんだろう?」
(´・ω・`)「あぁ、大概の事は知ってるよ。……君が何者であるのか。何の為に、ここにいるのか」
ショボンの返答。
それは予期していた事とはいえ、魔女は目を伏せずにはいられなかった。
川 ゚ -゚)「軽蔑……するか?」
恐る、恐る、絞り出された言葉。
拒絶を恐れる、その儚さ。
- 17: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:48:47.05 ID:r9PKt3gqO
- 不安。
肩が震える。
しかし。
(´・ω・`)「するわけ、無いじゃないか」
川 ゚ -゚)「本当に…か?」
(´・ω・`)「クー。君は、僕達の紛れもない、親友じゃないか」
クー。
その名を呼んでくれた事が。
親友。
その肩書きをくれた事が。
幾千の言葉よりも確かに、彼女の笑顔の花の開花を手伝った。
川 ゚ -゚)「ショ、ボ……ン」
途切れる言葉。
(´・ω・`)「ん?」
川 ; -;)「ショボ……ン……」
18: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:49:18.96 ID:r9PKt3gqO
- (;´・ω・`)「おいおい、どうして泣くのさ」
川 ; -;)「わからない……わからないけれど……」
胸の暖かさ。
孤独、不安、使命。
背負ってきたものは、重すぎた。
でも。
(;´・ω・`)「けれど、なんだい」
川 う -;)「……涙が、出るんだ」
ただ、そこに居る。ただ、頷いてくれる。ただ、受け入れてくれる。
それだけで。
ただ、それだけで、自分はまだ歩いていける。
魔女は、少女は、いや、クーは。
そう、確かに思うのだった。
- 19: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:50:39.54 ID:r9PKt3gqO
- (;´・ω・`)「……しょうがない子だなぁ、君も」
困った顔で、ハンカチを差し出すショボン。
川 ; -;)「こ、子供扱いするな。…少なくとも、君よりは遥かに長生きなんだぞ」
軍の刺繍が入ったそれ。受け取るクーの手は繊細で、とても、五千の齢を重ねた魔女の手には見えなかった。
(´・ω・`)「それならほら、泣いてなんかないで。涙、拭きなよ」
鼻をすする音が、情けなく響く。
川 ; -;)「……あ、ああ」
ハンカチで涙を拭こうとするが、手が震えて上手くいかない。
- 20: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:51:22.74 ID:r9PKt3gqO
- もたもたしていると、横合いからハンカチを奪われた。
(´・ω・`)「まったく。いつも憎まれ口を叩いているかと思えばこれだ。ほら、こっち向いて」
川 ; -;)「よ、余計な事を……」
そうは言いつつも素直にショボンの方を向くクー。
その頬を、優しい布地の感触が伝う。
(´・ω・`)「……よし。こんなとこかな」
綺麗になったクーの顔を見て、ショボンはハンカチをポケットにしまう。
にこやかに笑い。
そうして。
ぽん。
クーの頭に、柔らかい感触。
- 22: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:52:51.16 ID:r9PKt3gqO
- 川;゚ -゚)「なっ…!」
うりうり。
撫でくり回す。
川;゚ -゚)「だから子供扱いするなと……」
(´・ω・`)「肩肘なんか張らないで。うん…まぁ、なんというか上手くは言えないけど、まずは落ち着いて欲しい」
にこやかな、笑み。
それに毒気が抜けたのか。
クーは微睡むように目を閉じる。
(´・ω・`)「君は頑張ったんだ。五千年も、一人で。疲れただろう。今は、ゆっくりするといいさ」
優しく髪を滑る親友の掌の感触に身を委ね、静かに息を吐く。
今まで何度かついた溜め息は、ぶつかるものも無く空気に染みて消えたが、今は違う。
吐息は空気を伝い、コートを這い、ショボンの胸にぶつかって、確かに跳ね返ってくる。
川 - --)「……有難う」
囁きは小さく。
けれど確かに。
地獄の一丁目、その更に奥まった一角。
死の灰の敷き詰められた地で、束の間の安らぎに溺れる役者達。
夢見るは叶わぬ自由か。
無情な時間の流れを見ぬよう、閉じられた目。
安楽の時間。
- 23: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:54:14.31 ID:r9PKt3gqO
- だが、それは永くは続かないだろう。
役者は舞台に出なければならない。
演目は残酷なまでに未だ進行中だ。
舞台袖では、無慈悲な演出家がこの悲劇の主役達の登場をせかし、丸めた台本を叩いている。
終幕にはまだ遠い。
さぁ、第二幕の始まりだ。
轟音。
それが合図。
川;゚ -゚)「な、なんだ!?」
爆炎。
それがスポットライト。
- 24: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:54:41.51 ID:r9PKt3gqO
- 「やぁやぁやぁ、随分とお熱いようで。悲劇のヒロインとその相手役にはうってつけですな」
皮肉の声音は、細く研ぎすまされた禍々しき美声。
「……うーん、今の台詞、なんだか僕が悪役みたいだね。嫌いじゃないが気に食わない」
(´・ω・`)「……もう、か」
ショボンが歯を噛みしめる。
川;゚ -゚)「ショボン…?」
緊張、不安。
それぞれの思いを顔に浮かべながら立ち尽くす二人の眼前。
その空間が縦に裂け、忌まわしき演出家達がその姿を表した。
- 25: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:55:38.67 ID:r9PKt3gqO
- 爪'ー`)y‐「でぃ、君はどう思う?」
ダークグレーのスーツに、後ろへ撫でつけた髪は乳白色。
紳士然とした壮年の男は、右手に挟んだマルボロを一口吸うと隣の女に問う。
(#゚;;-゚)「良く言えば古典的」
でぃと呼ばれた妙齢の女は、顔面を袈裟掛けに縦断する裂傷をなぞりながら、身に纏う漆黒のドレスの裾を軽く持ち上げた。
爪'ー`)y‐「悪く言うなら?」
(#゚;;-゚)「退屈でオリジナリティの欠如した、考えうる限り最低最悪の登場」
爪'ー`)y‐「うーんいいよ、その言葉。やはり君は素晴らしい。批評の才が輝いている」
(#゚;;-゚)「星無し。評価対象外」
午後のお喋りをする異相なる演出家達。
だが、役者達はそんな様子にも油断なく構え、緊張の糸を全身に張り巡らしていた。
(´・ω・`)「お喋り狐さん、こんな場末の安劇場に来るなんてどうしたんです?
あなた程の方ならば、もっと高貴な劇場へ通っているとばかり思っていましたが?」
- 26: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:56:44.80 ID:r9PKt3gqO
- 爪'ー`)y‐「ん?あぁ、これはこれは大魔術師殿、ご無沙汰しております。
いえね、うちのご婦人がどうしてもこっちがいい、この劇場でなければいけないと駄々をこねるものですから」
(#゚;;-゚)「血染めのベールで覆われた虚偽。つまりは真っ赤な嘘。真実は遙か遠く、海原の果ての曙」
爪'ー`)y‐「素晴らしい!やはり君は詩人になるべきかも知れないね、でぃ。そう、確かに我々は観劇に来たのではありません」
手を叩く紳士。
(´・ω・`)「ほほう、それではどのようなご用で?」
爪'ー`)y‐「さしずめ、ダンスの相手を探しにきた…とでも言いましょうか」
(#゚;;-゚)「星一つ。当たらずとも遠からず。されど美的観点から見た場合では甚だ美しさが欠けた文章」
(´・ω・`)「ダンス?と、言いますと?」
眼前で優雅な佇まいを見せる二人。
芝居がかかった口調で会話を楽しむ彼らはしかし、押し殺せぬ程の膨大な魔力を身に纏っていた。
歳月が蓄積した経験から、クーは僅差で自分達が彼らに及ばないのを知り、じりじりと後退する。
- 27: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:58:10.92 ID:r9PKt3gqO
- 爪'ー`)y‐「最近、剣の舞いに凝っていましてね。ダンスマカブル━━ご存知ですか?」
(#゚;;-゚)「星一つ。直接的過ぎる。しかし遠ければよいというものでも無い。精進あるのみ」
(´・ω・`)「いえ、恥ずかしながら存じ上げませんね」
抜かり無く、相手の隙を伺うように身を強ばらせるショボン。
その間にも、視線でクーへと合図を送る。
(´・ω・`)「FOXさん、宜しかったら一つ、御教授願えますか?」
- 28: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 02:58:50.17 ID:r9PKt3gqO
- 目前の乱入者を見、クーを見、そして、後方を見る。
隙を着いて逃げろ。
二度目のアイコンタクト。
伝わらない筈は無い。
だが、彼女はまばたきもせずに見つめ返すばかり。
川 ゚ -゚)「……」
爪'ー`)y‐「ええ、差し支えなければお教えしますよ。きっと、あなたも気にいるでしょう」
FOXの手がすっと伸ばされ、天を指す。
指先のマルボロが、じりじりと短くなっていく。
(´・ω・`)「……」
もう一度、視線を送る。
今ならまだ間に合う。さぁ、早く。
けれども。
- 29: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 03:00:33.02 ID:r9PKt3gqO
- 川 ゚ -゚)「私もそのレッスン、加わって宜しいか?」
一歩。踏み出した足が、ショボンを超えて地に着く。
(;´・ω・`)「クー……!」
戸惑う俳優。
止める言葉。
しかしそれは無慈悲なる演出家に遮られた。
爪'ー`)y‐「宜しい!そちらのレディもご一緒なら、ダンスも盛り上がる!」
(#゚;;-゚)「星五つ。私的感情が多分に含まれている為、参考にせぬよう」
演出家は再び手を叩いて喜びを表し。
次の瞬間。
爪'ー`)y‐「では、始めましょうか」
- 31: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 03:01:07.84 ID:r9PKt3gqO
- 爪'ー`)y‐「では、始めましょうか」
掲げたマルボロが燃え尽き。
ダンスマカブルは優雅に始まった。
(#゚;;-゚)「まずはステップ、これが大事。全ての基本。初心忘るべからず」
言葉通りに軽やかなステップを踏んだ貴婦人の身が、ふわりと宙を舞う。
爪'ー`)y‐「次は手先。剣の舞いですから、自らの内面の美と攻撃性を表現するように、美しく、そして力強く」
踊るように飛び出した紳士がその横に並び。
(#゚;;-゚)「言の葉の紡ぎ。歌声は緩急をつけ、観客に聞こえるよう明確に」
二人、詠唱する。
- 32: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 03:02:44.77 ID:r9PKt3gqO
- 爪'ー`)y‐「目的、対象の惨殺」
歌うように。
(#゚;;-゚)「四つの手を支点に前方十メートルの目標を補足」
流れるように。
爪'ー`)y‐「発動後、接触するまで追跡。確定」
絡み合うように。
(#゚;;-゚)爪'ー`)y‐「「発動」」
溶け合うように、奏でるユニゾン。
完成されたバロックオペラの終わりに、歌い手達の掌から生まれいずるは白銀の閃光。
- 33: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 03:03:11.91 ID:r9PKt3gqO
- 光り輝くスタチューは宙を駆け下りる合間に分裂、無数の矢となり悲劇の主人公達へと降り注ぐ。
川;゚ -゚)「……これはっ!」
(´・ω・`)「絶対追尾魔術……か」
かわせない。
確定的に明らかな事実。
ショボンが取る行動は、決まっていた。
(´・ω・`)「目的、対象の転移」
ちらと、横目にヒロインを見やる。
川 ゚ -゚)「目的、障壁の創造……」
駄目だ。その魔術では二人がかりの禁呪は防げない。
だから。
(´・ω・`)「接触展開」
傍らの肩に触れる。
川;゚ -゚)「おい、ショボンその魔術は……?」
- 34: ◆cnH487U/EY :2008/03/30(日) 03:04:11.45 ID:r9PKt3gqO
- 華奢な肩。
壊れそうな彼女。
守りたい人。
そして。
(´・ω・`)「五年間、これを言うために君を探していた」
川;゚ -゚)「何を言って…!?」
(´・ω・`)「愛してる」
川;゚ -゚)「ショボン!?」
(´・ω・`)「発動」
閃光。
それは、誰が唱えた魔術の結末か。
川;゚ -゚)「ショボォォォォォン!!」
白銀の輝きが全てを包み、そして、消した。
戻る/第三十九話