('A`)はダークヒーローのようです
- 6: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:09:17.14 ID:lMAIPocMO
- 最終話 救世主
━━目を開けると、滴が零れた。
('A`)「あ…れ……?」
何だろう、これは。何から零れた滴なのだろう。
考える暇も無く、救世主は目前にあった顔を見やった。
('A`)「ミ…セリ……」
ミセ*゚ー゚)リ「ドクオ様……」
背中に触れる暖かい感触に、今自分は彼女の腕に抱かれているのが分かる。
('A`)「それじゃあ、今のは……」
ミセ*゚ー゚)リ「ええ…あなたの、記憶です」
やはりか。
納得して、思い返して、頬を冷たい感触が伝った。
(;A;)「あ……」
泣いている、のか。
自分は、泣いているのか。
- 7: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:10:01.48 ID:lMAIPocMO
- ミセ*゚ー゚)リ「……全て、思い出しましたか?」
優しく、ミセリが腕に力を込めたその動作で、彼の歯止めは利かなくなった。
(;A;)「あぁ…あぁ…思い出したよ…オレは…オレは、何て大切な事を忘れていたんだ……」
ヒトというものに興味を持ち、地上に降りてきてから自分が重ねた日々。
ヒトというものに初めて触れて、その温かさを知り、それを守りたいと思ったあの時。
- 8: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:11:14.50 ID:lMAIPocMO
- 初めて、唇を重ねたあの瞬間。
愛を知り、胸を焦がし、足掻いて、耐えて、信じて。
やっと、掴んだと。
それを、やっと手に入れたと。
だけれども。
(;A;)「居ないんだ……もう、居ない。彼女はもう…何処にもいない……」
“猫さんを、生き返らせれないかな”
桜の木の下でそう呟いた少女は、もう居ない。
(;A;)「彼女が…あんな、近くに居たのに……オレは…気付かないで……」
“おじちゃんは、魔法使いさんがどこにいるかわからないの?”
- 9: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:13:18.53 ID:lMAIPocMO
- 魔法使いを探して欲しいと、彼女は言った。
それに自分は何と答えたか?
(;A;)「魔法使いは……すぐ近くに、居たじゃないか……」
“うん!約束だよ!絶対絶対、教えてね!”
“ああ、任せろ。オレが魔法使いを見つけたら、一番にお前に教えてやる”
(;A;)「どうしてあんな事を……オレは……」
嘘を、着いた。
小さな、小さな、取るにたらない、けれども、取り返しのつかない、嘘を。
(;A;)「まさか、お前がそんな近くに居るなんて…思わなかったんだ……だから……」
- 10: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:14:27.63 ID:lMAIPocMO
- (;A;)「それに…あの時は、まだ自分が何者なのかも分からなかったんだ……」
そんなもの、言い訳だ。
お前は、大切なモノを置き忘れたまま、それが何であるかも知ろうとせずに、今まで歩いてきた。
それを顧みる事もせず、ただがむしゃらに罪を重ねてきた。
これは、そのツケだ。
(#;A;)「違う!オレは知らなかっただけだ!まさか、あいつがそんな……オレは……!」
違わない。
無知とは、それだけで罪だ。許し難い大罪だ。
その境遇に甘んじる事そのものが、お前の罪だ。
- 11: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:15:31.82 ID:lMAIPocMO
- (#;A;)「じゃあオレはどうすれば良かった!?あの時、どうすれば良かったんだよ!」
癇癪を起こした子供のように、泣き叫ぶ。
何が救世主だ。自分の事も何一つ知らずに、どうして世界を救える。
愛する人も救えず、自分は何を救うつもりだったのか。
今まで積み重ねてきた日々。今し方思い出した、かつての記憶。
どちらが先でどちらが後?
事実上の答えは明白。だのにこの現実感の欠如は何だ。
何が正しくて何が間違っていて何をして何を成す為に今ここに居る自分は一体誰なのか。
- 12: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:16:57.62 ID:lMAIPocMO
- (;A;)「……オレは、何だ」
人か?違う。人と呼ばれるには余りにも永く生き過ぎた。
救世主か?分からない。自分は一体何を救うつもりだったのだ。
では魔術師か?違う。猫も生き返らせれない魔術師など、居ない。
違う。
“うん!魔法使いさんがね、ふっかつのじゅもんを唱えると、死んじゃった猫さんも蘇るんだってさ!”
違う。そんなものは、デタラメだ。
(;A;)「死んだものは……蘇らない」
- 14: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:18:14.95 ID:lMAIPocMO
- そう、死んだものは蘇らない。ああ、これだけは安心して断言出来る。
死んだらおしまい。さようなら。
(;A;)「死んだら……おしまいなんだよ…な……」
嗚呼、思考が支離滅裂で何を考えているのか自分でも分からない。
もう、イヤだ。
何もかもが、イヤになった。
知らない。自分は何も知らない。邪神だとか人類の危機だとか、そんなもの知らない。
そんなものはフィクションだ。絵空事だ。自分の仕事じゃない。そんなものはヒーローが何とかしてくれる。自分には関係ない。
奴らを根絶やしにしたところで、ジョルジュやヘリカルが戻って来るわけじゃない。
- 15: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:19:20.60 ID:lMAIPocMO
- だから。
(;A;)「もう…嫌だ……」
暖かい誰かの腕の中で、縮こまる。
ああ、こうしていると、凄く落ち着く。
このまま、眠りに落ちてしまえたら。
そうしたら、きっとこの夢も覚めるだろう。
(;A;)「……あぁ」
暖かい、誰かの胸に顔を埋める。
ああ、この暖かさこそ、自分が求めたものじゃ無かったか。
こんなに簡単に手には入るなんて……思ってもみなかった。
('A`)「あぁ…」
気持ちいい。
このまま……。
ミセ*゚ー゚)リ「……死んだら、おしまい」
- 16: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:20:01.99 ID:lMAIPocMO
- ふと、誰かがそんな事を呟いたような気がして、顔を上げた。
('A`)「…?」
ミセ*゚ー゚)リ「死んだら、何もかもがおしまい。そこで、その人の記憶はおしまい」
何を言っているんだろう。
分からない。
意味が、分からない。
ミセ*゚ー゚)リ「誰かが忘れなくても、必ずその人の記憶には終わりが来る。いつかは、みんな、終わりが来る」
('A`)「……どういう、事?」
ミセ*゚ー゚)リ「でも……いつかは忘れられるとして、その人が生きた証は初めから無かったの?」
- 17: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:21:17.36 ID:lMAIPocMO
- (;'A`)「……違う」
ミセ*゚ー゚)リ「そう。違う。忘れられるなら、記憶には意味が無いなんて……違う。意味なんて単語、そのものが無いから……お門違い」
('A`)「意味…というもの自体が、無い…」
ミセ*゚ー゚)リ「そう。生きるという事、死ぬという事、愛するという事、憎むという事、慈しむという事。全部に意味なんて、無い。それらに意味を見いだすのは、全て感情」
('A`)「……なら、オレはどうしたらいい?」
ミセ*゚ー゚)リ「生きなさい」
('A`)「……どうして?」
- 18: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:22:53.33 ID:lMAIPocMO
- ミセ*゚ー゚)リ「理由が、必要?」
('A`)「……え?」
ミセ*゚ー゚)リ「生きる為に、理由なんか必要なの?」
その言葉を聞いた時、何か、何かとても大切なモノを…見つけた気がした。
ミセ*゚ー゚)リ「何事にも、終わりは有る。永遠であるあなたにも、いつかは終わりが来る。死ななくても、いつかはあなたも考える事を止める時が来る」
ミセ*゚ー゚)リ「……でも、まだあなたは考えるのを止めようとは思っていないでしょう?その体はまだ、死なないでしょう?」
- 20: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:24:20.59 ID:lMAIPocMO
- ミセ*゚ー゚)リ「だから、生きなさい。どんなに無意味でも、どんなに無駄な事でも、あなたはそれを“美しい”と思ったのでしょう。ヒトというものに触れたあなたなら、分かる筈」
('A`)「ヒトは、自分が美しいと思ったものを手に入れようとする傾向が、有る」
ミセ*゚ー゚)リ「……手に入れなさい。あなたが“美しい”と思った、彼らの営みを」
そうだ。こんな、単純な事だった。
自分が、ここに居る理由。
意味は、無い。
だが、美しい。
美しいから、求めた。
- 21: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:25:33.97 ID:lMAIPocMO
- 彼等が美しかったから、守りたいと思った。
争いも、欲望も、自己愛も、本能も、何もかもが、美しかったから。
('A`)「……そうだ、守らなきゃ…」
そうだ。
死んだらそこでおしまい。
美しい彼等の営みは、そこで終わる。
それを、あの二人は身を持って自分に教えてくれたじゃないか。
('A`)「嫌だ」
そう、嫌だ。
('A`)「あれが失われるなんて……」
そんなもの、嫌だ。
('A`)「……手に入れなければ」
何としても、手に入れよう。
- 22: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:26:49.55 ID:lMAIPocMO
- ('A`)「オレは、絶対に手に入れる」
その、決意と同時。背中を包んでいた腕の感触が緩んだ。
ミセ*゚ー゚)リ「……」
改めて、自らを抱き締めている彼女を見つめる。
('A`)「ミセリ……」
ミセ*゚ー゚)リ「……間に合って、良かった」
言葉どうり、彼女の体は靄がかったように、薄い。
ミセ*゚ー゚)リ「まさかドクオ様がこんなところでへたれてしまったら、私、どうしようって思ったんですよ」
悪戯っぽく笑う。
('A`)「すまんな、最後の最後まで迷惑をかけて」
- 24: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:27:56.10 ID:lMAIPocMO
- ミセ*゚ー゚)リ「……いえ。アフターケアも、私の仕事のうちですから」
('A`)「そうか。だが、もう大丈夫だ。お前の言葉に救われたよ」
ミセ*゚ー゚)リ「ふふ。その言葉で、私も救われました」
二人、笑みを交わし、離れる双身。
('A`)「…お前も、ハインも、自分の役目を果たしたんだ。今度は、オレが気合いを入れなきゃな」
ミセ*゚ー゚)リ「そうですね。ドクオ様は、死なないから、死ぬ気で頑張って下さい」
('-`)「はっ、おかしい事を言う」
ミセリの体が、霞む。
確かだった存在が、薄れていく。
最後が、近付く。
- 25: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:29:07.26 ID:lMAIPocMO
- ('A`)「おっと、言い忘れるとこだった」
ミセ*゚ー゚)リ「?」
小首を傾げる、少女。
その姿が消える前に、伝えなければ。
('A`)「ハインが、お前に謝っていたぞ」
薄れる体が輝き、粒子となって散る刹那。
ミセ*^ー^)リ「 」
最後の言葉を、彼女は聞き届けたのか。
ただ、満面の笑みを湛えたままに、少女は五千年越しの帰郷を果たした。
('A`)「……」
暖かい光の粒子が春風のように舞い、救世主の身を覆う。
それは、彼の身へと吸い込まれ、やがて、消えた。
- 26: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:30:11.37 ID:lMAIPocMO
- 人一人が居た空間が、がらんどうに変わる。
そうして、ミセリと代わるようにして目の前にへたり込んでいる彼女を、救世主は見下ろした。
川 ゚ -゚)「……」
放心した用に、ただ、ただ、見上げてくる瞳は何を思っているのか。
('A`)「…すまないな」
救世主は、その瞳に懺悔する。
川 ゚ -゚)「……」
('A`)「オレは、人類を救う。約束したからじゃない。求められたからじゃない。オレが、ただ、そうしたいから、救う」
- 29: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:31:25.18 ID:lMAIPocMO
- 川;゚ -゚)「……」
オンナの瞳が、その声に一瞬揺れた。
('A`)「さっき、お前は自分を“美しい”かとオレに尋ねたな」
川;゚ -゚)「━━!」
('A`)「何を偽る事があろうか。求める為に手を伸ばす。それのどこが醜い?」
川 ; -;)「……でも、私は……」
('A`)「クー。お前は、美しい」
川 ; -;)「私は!」
('A`)「だから、オレはお前のその美しさを守る為に、行く」
狼狽するオンナ。
彼女へと背を向け、救世主は大いなる母を臨む。
川 ; -;)「オリジン!」
その背へ、オンナは叫んだ。
- 30: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:32:39.40 ID:lMAIPocMO
- ('A`)「最後に二つだけ……」
振り向かず、救世主は言う。
('A`)「お前は、生きろ。絶対に、生き伸びろ」
川 ; -;)「!」
('A`)「そして」
一拍置き、肩越しに振り返る。
('A`)「オレの名前は、ドクオだ」
- 32: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:33:49.36 ID:lMAIPocMO
- ━━否定の言葉が、地下の黴臭い空気を震わせた。
( #゚ω゚)「そんな訳、無いお……!」
今まで、こんなに他者の意見に頑なに反対したことなど、あっただろうか。
少年は、自分でその数を数えてみた。
(’e’)「そんな訳、無い…と。ふむ。まぁ、取りあえず落ち着きたまえ、少年」
聖騎士は動じず。ただ、抜かり無く凶器を弄ぶ。
( #^ω^)「…落ち着いてなんかいられりかお。流石の僕でもそんな事言われたらブチぎれるお」
(’e’)「何故?」
- 33: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:34:42.58 ID:lMAIPocMO
- ( #^ω^)「当たり前だお!これから僕はツンを助ける為に死ぬんだお!それなのに、あんたはその僕の決意を踏みにじるような事を言って……馬鹿にするなお!」
吠える少年。
それを嘲笑う聖騎士。
(’e’)「おやおや、それはすみませんでした。しかしね、君、何も自分が犠牲にならなくとも、もうじき君の想い人共々、人類は救われるのだよ?」
( #^ω^)「だから、それが馬鹿にしてるって言ってるんだお!」
じり、と少年は足を踏み出す。
- 35: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:35:37.23 ID:lMAIPocMO
- ( #^ω^)「そりゃああんたらが言うとおり、思念だけになればお腹は減らなくなるし、痛いのも無くなるし、殺し合いも無くなるお」
(’e’)「えぇ。それのどこがいけないのです?」
( #^ω^)「全部だお!」
(’e’)「これはまた我が儘な」
( #^ω^)「そんなの、全然良くないお!楽しく無いお!幸せじゃないお!」
(’e’)「幸せ……?」
( #^ω^)「美味しい物が食べられる。休みの日に二度寝する。映画を見る。ツンに頭を叩かれる。ツンに溜め息をつかれる。ツンに嫌みを言われる。ツンに……ツンに……」
- 37: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:36:36.22 ID:lMAIPocMO
- ( #^ω^)「その全部が、肉体が無くなったら出来なくなるんだお!」
叫び、走り出す少年。
( #^ω^)「泣いたり笑ったり…死ぬ事だって、立派な僕らの権利だお!それを…それを…あんたらは僕らから奪うって言うのかお!?」
向かう先は、背徳の聖騎士。
銀の輪環を携えた天使は、酷薄な笑みを浮かべ。
(’e’)「そんなもの、有った所で意味なんて無いでしょう?」
少年の身を、その言葉共々切り捨てた。
- 38: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:37:37.86 ID:lMAIPocMO
- ( ゚ω゚)「いっ━━!?」
翻るチャクラム。鮮血の花吹雪。その中を舞う、少年の右腕。
激痛で我に帰った時には、遅かった。
( ;゚ω゚)「ぎゃああぁあぁあ!?」
「ブーン!」
肘から先、今まで有ったモノが無くなった違和感。
滴る朱。痛み、なんて生易しい表現では伝えきれないものが、喉を通って溢れ出す。
(’e’)「何を言い出すかと思えば、随分と退屈な事をおっしゃる」
返り血を振り払い、チャクラムを構え直す聖騎士。
- 39: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:38:48.89 ID:lMAIPocMO
- (’e’)「あなたが言う幸せなんてのは、熱に浮かされたガキの戯言となんら変わりません。“幸せ”という定義自体、曖昧過ぎてまず信用出来ない」
無表情。無感情。
その顔は、冷酷とはまた違う。流れ作業をする機械みたいな、声音。
(’e’)「上っ面だけで中身が無い。熱血してればそれでいいなんて、許される歳ですか?」
だから少年は後数秒もしないうちに、自分がこの男に殺されるんだなぁと。
(’e’)「…あなたには、圧倒的に経験が不足している。だから、幾ら言葉を尽くそうと我々がこの世界に抱いた絶望など、理解出来ないでしょうね」
- 40: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:39:53.58 ID:lMAIPocMO
- 殺されて、死んでしまうんだなぁということが。
(’e’)「だから、身をもって知りなさい。肉体を持つことの虚しさを。幸せという言葉の、真の意味を」
わかってしまった。
「いやぁぁあ!」
( ^ω^)「……ぁ」
三度、翻る輪環。
銀の軌跡が狙うは、少年の首。
避けれない。今まではワザと狙いを外して貰っていたんだ。それでも避けれなかったのに、どうしてこの一撃が避けられようか。
だが。
( ^ω^)「……やっぱり、わかっちゃったかお」
- 43: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:40:40.48 ID:lMAIPocMO
- 輪環は、本日三度目の手抜きを演じてみせた。
(’e’)「……何と、言った?」
少年の首すれすれに振り下ろした輪環を引き戻し、訝しげな顔で唸る聖騎士。
彼の顔を一瞥し、少年は嘆息した。
( ^ω^)「やっぱり、長く生きてる分大人は違うお」
(’e’)「……」
( ^ω^)「その通りだお。うん。僕がさっき言った事に中身なんかこれっぽーっちも無いお。あんたの言った事が正しいんだって、最初から分かってたお」
右腕の痛みに、顔をしかめながら少年は続ける。
- 45: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:41:57.90 ID:lMAIPocMO
- ( ^ω^)「どんなに美味しいもの食べたって、どんなにお金持ちになったって、結局最後は死んでしまうお。死んでしまえばそこで終わりだお」
「……ブーン」
唐突な少年の言動に、“声”は何を思ったのだろう。
諦観じみた声音で、彼女は呟いた。
( ^ω^)「最後は死ぬ。死んだらおしまい。それは決定事項。何をしても同じ。なら、“生きてる”って事に意味なんか無いお」
(’e’)「……」
- 47: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:43:03.03 ID:lMAIPocMO
- ( ^ω^)「でも、肉体を捨てて永遠の存在になったら、僕達の“意味”はそこで今度こそ本当に無くなってしまうお。思念だけになってまで、僕達は何をするんだお?考える?何を?動かすべき体も無いのに、何を考えるんだお?」
(’e’)「それは……」
( ^ω^)「何も考えない、って言うのなら、それでいいお。そしたら、僕のやる事にも分かりやすい口実が出来るお」
(;’e’)「何も考えない訳が…無い、だろう……」
聖騎士の反論。が、歯切れは悪い。
( ^ω^)「じゃあ、何を考えるんだお?」
(;’e’)「それは……」
( ^ω^)「……いいお、悩まなくても。どうせ、結局は考える事なんて無いお」
- 49: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:44:31.41 ID:lMAIPocMO
- ( ^ω^)「肉体も無くなって、考える事も無くなって…そうしたら、まさにそれは“死”だお。完全な“死”だお。
そんなもの、僕達は望まないお。そんなのよりも、僕は“考え抜いた先”の死を望むお」
力の入らない膝を叱咤し、少年は立ち上がる。
( ^ω^)「“意味”は無いお。ただ、僕は、消えたく無い。死にたく無い。単純だお。その為に、“死ぬ覚悟”で僕は生きる道を選ぶお」
ふらつく体を隣の試験管にもたせ、呼吸を整える。
黙っていれば、失血死。運命は確定的に明らか。矛盾した決意は、しかし、人間らしい欲求の現れか。
- 52: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:46:03.65 ID:lMAIPocMO
- (;’e’)「……あなたは、このままでは死にますよ」
だから、聖騎士の言葉は当然の事実。
(;’e’)「私を出し抜いてこの娘を取り戻し、更にこの場から逃げおおせたとして、その傷ではあなたは助かりません。それが、分かっているのですか?」
その言葉に、しかし少年は満面の笑みを浮かべてこう答えた。
( ^ω^)「……それでも、あんたを言い負かす事が出来たんだから、もう充分だお。せめてツンだけでも助けて……」
- 53: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:47:52.51 ID:lMAIPocMO
- (;’e’)「だから、今のあなたではそれすら不可能だと言うのです!」
( ^ω^)「ふひひ、そうだおね。……あーあ、なんか格好悪いお。それらしい啖呵なんか切っちゃって、結局僕は何にも出来なかったのかお」
苦笑し、ずるずるとその場にへたり込む。試験管に背を預け、足を投げ出し、残った左手で頭をかくその姿は、いつもの彼となんら変わり無く。
( ^ω^)「……ごめんお、ツン」
とても、死を目前に控えた者とは思えず。
だからか。
- 56: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:49:28.25 ID:lMAIPocMO
- だからか。
(’e’)「……ふぅ」
聖騎士はゆっくりと少年に歩み寄り、彼の失われた右腕に手をかざし、何事かを呟いた。
( ^ω^)「……え?」
少年は、右腕の違和感に驚く。
先まで限界以上の絶叫を発していた傷口の痛みが、今は何も感じられない。
それどころか、出血も止まっているようだ。
( ^ω^)「……どういう?」
不可思議を顔に描く少年の前に、今度は少女の形をした不可思議が投げ出される。
( ^ω^)「え?え?」
蒼白な顔の横には、金色のツインテール。閉じていても尚、つり上がった目はまさしく、彼の想い人。
- 58: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:51:09.44 ID:lMAIPocMO
- ( ;^ω^)「……さっぱり話が見えないですお」
ツン。つまりは、彼にとっての人質を解放した目の前の聖騎士を、少年は見上げる。
奇行、どころでは無い。
一体これは何のつもりか。
(’e’)「……行きなさい」
呟き、聖騎士は少年に背を向ける。
( ;^ω^)「へ?」
(’e’)「あなたではどう頑張っても私を出し抜く事はかなわない。そしてあなたの相棒も、既に精神強奪の力を失ったただの思念体。あなた達が今ここに居ても出来る事は有りません」
- 62: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:52:41.76 ID:lMAIPocMO
(’e’)「だから、唯一この場でまともに動ける私がここに止まろうという訳です」
チャクラムを収め、聖騎士はそのまま施設の奥へと歩き出した。
( ;^ω^)「ちょ!それは…」
「どういう風の吹き回し?」
困惑。当然の困惑だ。
先まで自らの命を刈り取ろうとしていた死神が、突然鎌を下げて自らの身代わりになると言い出したのだ。
納得出来る筈が無い。
「あなたは上司に言われて私達の邪魔をしに来たのでしょう。それがどうして突然?」
- 64: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:54:14.27 ID:lMAIPocMO
- “声”の提示した当然の疑問。
それに、聖騎士は振り返らず。
(’e’)「……いえね、彼の言い分が最もだっただけの事ですよ。エデンの目的が達成されたところで、人類に待っているのは虚無だけ…それなら、ここで絶滅しても同じかな…と思いましてね」
歩みを止めず。
(’e’)「…それに、あなた方がしようとしている事は何だか格好が宜しい。それで万が一人類が救われたのなら、あなた方が英雄としてもてはやされる」
言いたい事だけを言い。
- 65: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:55:20.54 ID:lMAIPocMO
- (’e’)「そんな役割に、ただ嫉妬しただけですよ」
十字架の待つ、闇の中へと消えた。
- 67: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:57:20.99 ID:lMAIPocMO
- 後に残された二人と一人の“声”は、ただ、彼が消えた闇を見つめる。
( ^ω^)「……」
形は違えど、彼が目指したのもまた人類の救済。
その彼が、救うと言ったのだ。
信用には足りる。
ならば、ここは彼に背を向けるのが信頼の証。
( ^ω^)「……ヒーローの座は、あんたに譲ってやるお」
足元に投げ出された想い人を背に担ぐ。
全身の痛みはまだ消えないけれど。片腕しか使えないけれど。これぐらいなら、まぁ、問題は無い。
( ^ω^)「あんた、格好良かったお」
振り返らず、言いたい事だけを言った。
- 68: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:59:00.46 ID:lMAIPocMO
- ━━跳ぶ、飛ぶ、翔ぶ。
最期へ向けて、ひたすらに翔ぶ。
('A`)「……“約束の時”、か」
ここは地獄の最下層、ジュデッカ。
血の色の空を覆うは、大いなる母の御手。
裂けた大地を埋め尽くすは、黙示の聖母の御衣。
かしづく子等は全ておしなべて異形。
万魔殿と化したニーソクの街に、かつての面影は全く無く、ヒトの声はもうしない。
('A`)「これがあんたが待ちわびた楽園だとしたら、随分と悪趣味な茶番だな、マリア様よ」
毒づき、加速する救世主。
目指す先は唯一つ。全ての始まりにして、全ての終わりの世界樹。
- 69: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 22:59:46.62 ID:lMAIPocMO
- マリアは今や二柱の邪神を取り込み、その震える肉幹は世界をも飲み込まんとばかりに大口を開けている。
( ´∀`)「あ…母ちゃん……」
それでも尚、未だ母の声に抗い、ヒトとしてのアイデンティティを捨て切れない者達が、そこには居た。
( ;´_ゝ`)「……あぁ…ぅ」
前へ進みそうになる脚を、必死で踏み止める。
(´<_`; )「はぁ…っ…ぅぅう」
それは本能への反逆であるならば、彼等の理性は何故にこうも強靱なのか。
- 70: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:01:33.16 ID:lMAIPocMO
- ノハ;゚听)「あぁ……ぇぅ…うくっ……う……ドクオ」
一人の少女がある名前を呟いた。
( ;´_ゝ`)「…ぁ…ぁか…ドク、オ」
どこかで誰かがその名前を呟いた。
(;=゚ω゚)「ドクオ……」
再び誰かがその名前を呟いた。
(´<_`; )「……ドクオ」
呟きは、呼び声に変わった。
(;゚ー゚)「ドクオさん…」
その名前は救いの名。
誰もが許された祈りを汲み取るべき者の名。
- 72: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:03:06.99 ID:lMAIPocMO
「「「ドクオ」」」
それは、救世主の名前。
「「「ドクオ!」」」
空が明滅した。
「「「ドクオ!!」」」
母が胎動した。
「「「ドクオ!!!」」」
そして、彼はそこに現れた。
- 74: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:04:09.80 ID:lMAIPocMO
- ('A`)「待たせたな、マリアさんよ」
大いなる母まで二百メートル弱の中空。
黒光を身に纏い、母を睨み据える男が一人。
('A`)「決着を着けようか」
世界を飲み込む咆哮。
同時に、アーマゲドンは始まった。
御手を振りかざし、我が子へ罰を与えるよう。巨大な触手が救世主へと伸びる。
一つ、二つ、三つ、四つ、十、百、千、無限。
一つ一つが巨人の拳であるならば、それはオーバーサイズの拳のラッシュ。暴風の如き勢い。
- 76: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:05:40.49 ID:lMAIPocMO
- それを一つ、また一つとかいくぐりながら、救世主は叫んだ。
('A`)「おい、お母様よ!嘗めてくれるな!」
脇腹を掠めた触手に手を当て、魔力を流し込み、粉砕する。
('A`)「オレは始めの一発に全てをかける!だからお前さんも全力でこい!」
触手を蹴り、跳ぶ救世主。追撃するべく追いすがる触手の暴風。
だが捉える事など、不可。
ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。
横薙の一撃をかわされれば、縦一文字の突き。それでも足りねばと袈裟を切る。
('A`)「無駄無駄無駄!」
- 78: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:06:53.15 ID:lMAIPocMO
- 触手の嵐。功を成さずに母は接敵を許す。救世主は既に聖母の本体、肉幹に張り付けられた異形の女神像へとたどり着いていた。
('A`)「しまいだ」
両手を振りかざし、魔力を両掌に収束。全身の隅々からかき集めた力は最大最高最終出力。
(#'A`)「消えて無くなれぇぇええ!!」
それを、裂帛の気合いを込めて解放する。
目的は対象の根絶。
純粋な破壊を目的とした魔力の粒子は、救世主の両掌から極大の光子力砲の如く迸る。
- 82: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:10:00.51 ID:lMAIPocMO
- 空気を、大気を、その中の分子を、原子までをも粉砕する破壊の光柱。
五感を揺さぶり、崩壊の旋律を奏でる大瀑布。
(#'A`)「おぉぉぉお!!」
表現に限界があるのをこの時ばかりは惜しいと思った。
それ程までに超越的な大破壊。
山を割り、地を裂き、海を呑み、天を落とすような。
例えるなら、“世界”を終わらせるに最も相応しい程の。そんな、一撃。
やがて、全てを飲み込みジュデッカを覆い尽くしていた光が晴れた暁には、そこには救世主以外の者など居るまい。
- 83: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:11:27.57 ID:lMAIPocMO
- そう、彼は思っていたのだろう。
しかし。
そこには、傷一つ無い母の姿と。
(;'A`)「貴様は…!」
- 84: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:12:39.61 ID:lMAIPocMO
- (#∵)「ジョォォオオルジュゥゥゥウ!!」
純白の聖骸布を携えた悪鬼が、立ちふさがっていた。
(;'A`)「何故…?あの時確かに……」
仕留めた筈。
しかし、悪鬼はそれを真っ向から否定するよう、紅に染まった口腔を開け哄笑している。
(#∵)「ジョォルジュゥウウ!どこに居るっ!?どこだぁぁあ!?」
右足は既に無く、左腕は肩から皮一枚で繋がり垂れて。
その姿は既に満身創痍の度を超えているにも関わらず、悪鬼はそこに浮いていた。
- 86: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:13:51.15 ID:lMAIPocMO
- ズタズタの肉体。何故「コレ」が生き延びていたのか。
その答えを類推するに、恐らく悪鬼の肩から掛けられたマントが一役買っているのだと、救世主は思う。
(;'A`)「まさか、あのマントは……」
ハインリッヒの記憶。彼女の蓄積した数多の情報の中に、それを臭わせるものがあったのを救世主もまた思い出した。
“しかし、あなたでも私のマントには歯が立たないのでは?”
(;'A`)「対魔術絶対防壁……なのか?」
それならば頷ける。否、彼の最大級の一撃を真っ向から受け止めたのだ。それ以外には考えられない。
- 87: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:15:08.32 ID:lMAIPocMO
- (;'A`)「……ちぃっ」
とんでもない化け物が最後まで生きていたものだ。
救世主の顔が苦渋に歪む。
(#∵)「アガガカジョォルジュウゥウ!!」
理性など、最早塵芥程も残っていないのか。
大いなる母を前にして彼が叫び続けているのは、既に失われた半身の名。
その執着心に自分は殺されるのかと考え、救世主は自嘲の笑みをこぼさずには居られなかった。
- 88: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:16:21.30 ID:lMAIPocMO
- ('A`)「ははは……お互い、“親離れ”出来ないガキだったわけだ」
呟き、肩を落とす。魔力は体中のどこを探しても残っていない。
最後の最後で、しくじった。
(#∵)「おぉぉおぉぉジョォルジュウゥウウゥ!!」
悪鬼が、救世主を視認した。
マントを振り乱し、飛び出して来る。
彼我の距離は十数メートル。
空を駆ける悪鬼の速度は救世主にとって、決して速いものではない。
避けようと思えば避けられる。
('A`)「……せめて、お前だけでもアイツの元へ送ってやるよ」
だが、救世主は避けない。
いや、避けられない。
- 90: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:17:26.16 ID:lMAIPocMO
- いや、悪鬼の突撃は避けられる。
避けられないのは……。
(;'A`)「なっ!?」
巨人の拳。先にそう形容した母の触手。
横薙ぎの一撃が彼らを襲い。
(#∵)「グベッ!?」
(;'A`)「がぁっ!?」
弾き飛ばす。
与えられた衝撃は四肢を砕く程。
錐揉みしながら吹き飛ぶ二人の姿は玩具のよう。
冗談みたいに吹き飛び、吹き飛び、吹き飛び、吹き飛び、地面に衝突。
アスファルトを砕いて、地に埋もれ、後はそれっきり。
- 93: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:19:19.54 ID:lMAIPocMO
- 動かない。二人は、動かない。
救世主と悪鬼。二人仲良く吹き飛ばされ、着地点も一緒。
動かない。
死んだ?
かも知れない。間違いなく一人は死んでいる。
その一人の顔を見つめながら、生き延びた方は嘆息した。
(;'A`)「……ぐっ」
奴が死んだのは、先に自分が付けた傷で既に満身創痍だったから。
自分が生きているのは無傷だったから。
だが、次はそうもいくまい。
(;'A`)「この傷……」
体に力を入れる。
(;'A`)「……やはり、な」
体に力は入らない。
(;'A`)「……神経がやられたか」
- 95: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:20:22.04 ID:lMAIPocMO
- 立ち上がることも、ままならない。
立ち上がれないんじゃ、戦えない。
立ち上がれないんじゃ、避けられない。
立ち上がれないんじゃ、生きられない。
('A`)「はは……」
そこまで考えた救世主の耳を、一つの咆哮が震わせる。
喜びが分かるのか。奇怪な音色は愉悦に浸るかのよう。
('A`)「……あぁ、違いない」
脈打つ肉柱を見上げ、救世主は呟く。
('A`)「あんたの勝ちだ……」
ジュデッカに、マリアの勝ち鬨が響き渡った。
- 101: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:21:57.72 ID:lMAIPocMO
- ━━コンソールを睨み付け、かつて聖騎士と呼ばれていた男は溜め息を漏らした。
(’e’)「…さて、彼らにあんな大見得を切ったものの…」
ボタンの一つに指を伸ばし、引っ込める。
(’e’)「どうして今になって、こんな未練など湧いてくるのでしょうね」
自分の生を振り返る。
思えば、戦いの為だけに生きた数年であった。
人類を救う為と言い聞かされ武器を握らされ、異形のものと斬り結ぶ毎日。
そこに安息や喜びが有ったかなど、自明の理。
かといって、それに文句は無い。
文句など言える道理が無い。
- 104: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:23:14.31 ID:lMAIPocMO
- (’e’)「……」
背後を振り返る。
薄闇の中、林立する試験管の群れ。
(’e’)「お前達も、生きてみたかったのか?」
その中に浮かんでいるのは、地を歩くことすら許されなかった自らの兄弟達。
彼らを前にして、どうして自らの生を否定出来よう。
それに彼自身、この世に生を受けた事には感謝している。
“お前達は世界を救うという、神聖な目的の為に生まれてきたのだ”
彼の生みの親たちはそう言った。
- 107: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:24:20.33 ID:lMAIPocMO
- “その為に戦え。お前達は聖騎士団。世界を救う、最後の聖騎士達よ”
自分達が世界を救うのだと、そう考えると、堪らなく嬉しかった。
だが、いつからだったろうか。
倒しても倒しても一向に絶滅しない化け物。
戦えど戦えど、好転しない戦況。
そして、ある日言い渡された方針変更の報告。
人類を肉体の枷から解き放ち、精神だけの存在とする。
疑問は持った。それが真の救いなのかと、何度も自問した。
しかし、返ってくるのはいつも同じ答え。
“我々は世界を救う為の存在。世界を救う事に間違いなど無い”
- 109: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:25:09.61 ID:lMAIPocMO
- それでいいのか。問う間にも戦況は不利になり、人類は日に日に命を落としていく。
それに、諦めがついたのだろうか。
いつしか生命を謳歌する喜びは失われ、“足”を失う事こそが救いだと思い込むようになっていた。
だが、それをあの少年は真っ向から否定した。
“意味”は無いお。ただ、僕は、消えたく無い。死にたく無い。単純だお。その為に、“死ぬ覚悟”で僕は生きる道を選ぶお。
- 112: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:26:34.33 ID:lMAIPocMO
- 肉体も無くなって、考える事も無くなって…そうしたら、まさにそれは“死”だお。完全な“死”だお。そんなもの、僕達は望まないお。そんなのよりも、僕は“考え抜いた先”の死を望むお”。
(’e’)「……全く、その通りですよ」
何故そんな大切な事を忘れていたのか。
自分達が救いたかったのは、そんな「生きよう」とする人々では無かったのか。
(’e’)「そうですよ……。私達は、“ヒト”を救いたかったんですよ」
それこそが、喜びでは無かったか。
それこそが、自らの幸福では無かったか。
- 113: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:27:33.40 ID:lMAIPocMO
- (’e’)「……何を迷う事がありましょうか」
そう、何を迷うのか。
この未練は何なのか。
ボタン一つ押すだけ。それだけで自爆装置のカウントが始まり、ゼロになったら兄弟達の思念体が解放され、世界は救われる。
それを拒むこの未練は何なのか。
(’e’)「……あぁ」
考えるまでも無かった。
(’e’)「私も、人並みの平凡な人生をおくりたかったのだな……」
それは単純な、いたって単純な、小さく些細な、それでいて途方もなく遠すぎる望み。
- 115: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:28:42.41 ID:lMAIPocMO
- 普通の親の元に生まれ、普通の学校に通い、普通の友達を作り、普通に卒業し、普通に就職。
普通の恋人を見つけて、普通に結婚し、普通の子供を授かり、普通に育てる。
普通に歳を重ね、普通に隠居し、普通の孫を授かり、普通に老衰する。
そんな人生を、一度だけ夢見た事があったっけ。
(’e’)「……どうみても高望みでしょう」
それは無理。叶わぬ願い。
だから、自分に許された幸せだけでも勝ち取るべきだ。
(’e’)「……そうですね。せっかく、あの少年からこの役を譲って貰ったんです」
- 116: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:29:38.95 ID:lMAIPocMO
- それが、自分にとっての最大の幸福。
もう、躊躇いは無い。
ボタンに、指を伸ばす。
(’e’)「ただ、許されるのならそんな人生を、送ってみたかったものです」
人差し指に力を入れる。
(’e’)「ですが、私も…そして、人々も旅立たなければいけません」
カウントダウンが、始まった。
(’e’)「意味は無くとも、新たな地平を切り開く為に、旅立たなければならない。それが、私達の理想とするところ……」
だから。
(’e’)「さぁ、祈りましょう!旅人達に、祝福を!」
真の祝福を込めて、そう、叫んだ。
- 118: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:31:25.27 ID:lMAIPocMO
- ━━穴蔵の中で、寝返りを打つ。
打とうとして、体が動かないのを確認して、笑う。
(#'A`)「ああ、そうか、そうだったな畜生!」
やけっぱちの笑顔で、悪態をつく。
('A`)「動かない……」
動けない。
('A`)「冗談じゃ、ねぇ」
天高く聳え立つマリアを見上げる。
先の一撃で救世主はもう死に体だと悟ったのだろうか。
最早マリアの眼中に救世主は無く、彼女は自らにすり寄る我が子達を吸収する事に集中していた。
('A`)「やれやれ、大見得切った割にはわりかしあっさりと叩きのめされちまったな」
- 120: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:32:27.93 ID:lMAIPocMO
- 見上げる空は深紅。血の涙を流す聖母像があると、いつかインターネットで見た事があったが、もしかしたらこの空の色はヤツが流した血の涙なのだろうか、などと下らない事を救世主は考えてしまう。
それ程までに自分は追い詰められているのか。
('A`)「……クソ」
涙を流したいのは、こっちだ。そんな思いで救世主は聖母を睨み付ける。
(;A;)「……クソ!」
視線で相手を殺せたら。
想いで相手を殺せたら。
有り得ないのは周知の事実だというのに、彼は睨み付ける意外には何も出来なかった。
- 121: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:33:36.38 ID:lMAIPocMO
- (#;A;)「クソったれぇぇええ!」
睨み付ける意外に出来る事と言えば、叫ぶ事だけ。
叫び声で相手を殺せたら。
また、下らない願いが脳裏をよぎる。
(#;A;)「ふざけるな!こんなんでくたばってたまるか!こんなんで死んでたまるかぁぁぁあ!」
叫ぶ。無意味と知りつつ叫ばずには居られない。
マリアは我が子を吸収する合間にも、街をその触手で薙ぎ払う。
世界樹の枝が一振りされる度、ビルが崩れ、地が割れて、地を這う全てを押し潰す。
- 122: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:34:17.38 ID:lMAIPocMO
- (#;A;)「止めろ!もう止めろ!お前の敵はこのオレだ!他は関係ない!」
随分とふざけた台詞だと、言っていて彼にも自覚出来ていた。
だが、叫ばずには居られない。
マリアは触手を振るい、天を裂く。天の裂け目から覗くは、彼女の御手。
空に張り巡らせられたその触手の先端が開き、神罰の光条を降らす。
地に突き刺さり爆裂する様は、落雷か、はたまた空爆か。
(#;A;)「止めろ!止めてくれ!」
雨霰。降り注ぐ光。爆裂する地。歓喜に震える聖母とその幼子等。
- 124: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:35:26.92 ID:lMAIPocMO
- (;A;)「……お前の相手は…オレだ……」
舞い飛ぶ瓦礫。舞い散る命。
(;A;)「だから……」
轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音轟音。
(#;A;)「こっちを見やがれぇぇぇえ!!」
途端。
光の嵐が収まった。
(#;A;)「はぁ…はぁ…はぁ……」
聖母の触手は、金縛りにあったように動かない。
聖母の瞳は、釘付けられたように一点を見据えている。
濁った瞳は、彼だけを見据えている。
(;A;)「やっと、言うこと聞いてくれたか」
瓦礫の中から、聖母の瞳を睨み返す。
- 125: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:36:06.58 ID:lMAIPocMO
- 視線で相手は殺せない。
ならばせめて、殺す気迫を込めて睨む。
(#'A`)「お前はオレが殺す。絶対に、絶対に殺す。何があっても殺す。絶対に。絶対に」
その殺意が向こうへ伝わったのか。
聖母は汚らわしい瞳を三日月に歪め、触手の一つを救世主へと伸ばす。
(#'A`)「そうだ、いい子だ。お前の相手はオレ。それ以外には手を出すな。もとよりお前とオレ達だけの問題なんだからな」
触手の先端が、花の蕾のように開く。
鼻先まで迫ったそれを睨みながら、救世主はラフレシアを想起した。
- 128: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:37:15.97 ID:lMAIPocMO
- ('A`)「よし…よし。思えばお互いに異端児だったわけだ。最後に一つ、話でもしないか?どうしてお前が宇宙なんか創ったのか、興味があるんだ」
巨大な花弁は、それに答えを返す素振りは見せない。
敢えて返答と解釈するなら、その花弁の中心に収束していく光の粒子が返答だろう。
('A`)「そうかい…負け犬に語る言葉は持たないってか。いいさ。オレもお前と会話が成立するなんて期待してなかったからな」
加速度的に膨れ上がる周囲の魔力。
触手の先端に収束したそれが解き放たれれば、間違いなく救世主は消える。
- 130: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:38:42.51 ID:lMAIPocMO
- そう、文字通り消滅する。塵芥も残さず消滅する。決定的なトドメ。
('A`)「さて、遺言の時間か」
カウントダウン。五。
('A`)「まず、謝らなきゃな。すまん、皆。オレはお前達を救えない。救いたいが、オレにはもう無理だ」
四。
('A`)「クー。お前は生き延びろよ。必ずだ。オレが消えても、お前ならなんとか出来るかも知れん。頼む」
三。
('A`)「ミセリ、ハイン、お前達にも謝らなきゃな。せっかくお前達がオレをここまで導いてくれたのに、お前達の期待に応えられなかった。許せ」
- 131: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:39:45.40 ID:lMAIPocMO
- 二。
('A`)「兄者、弟者、ヒート、ぃょぅ、ギコ、しぃ。お前達と逢えて良かった…と思う。ああ、いや、良かった。お前達が、もう一度ヒトを救いたいと思う気持ちをくれたんだ。有難う」
一。
('A`)「そして、ジョルジュとヘリカル……オレが一番守りたくて、守れなかったヤツら。せめて、最後はカッコ良く決めたかったが……」
零。
(;A;)「無理、みたいだ……」
解き放たれた、魔力。
視界が、真っ白に染まった。
- 137: ◆cnH487U/EY :2008/08/25(月) 23:55:48.82 ID:lMAIPocMO
- ━━どこかで何かが爆発する音が聞こえた。
(;゚ー゚)「!?」
それを認識した直後、視界が真っ白に染まった。
(;>ー<)「うっ!」
耐えきれず、目を瞑った。
それは人間の五感を破壊する程に激しい閃光だった。
目を閉じずには居られない。
目を開けてなど居られない。
(;>ー<)「……っ」
どれくらい長い間だったろうか。
目を開けば、視覚が壊れてしまうかも知れない。
だから、瞼越しに光が消えたのが感じられても、彼女はしばらくの間目を開けられなかった。
(;つー<)「……」
だから、恐る恐る、瞼を持ち上げていった。
- 141: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:08:22.19 ID:t/PTtmIhO
- (;つー゚)「……?」
ゆっくりゆっくり、目を開いていった。
(;゚ー゚)「……何、アレ?」
- 142: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:13:01.22 ID:t/PTtmIhO
- ━━初め、彼等はそれを天使の降臨だと錯覚した。
ノパ听)「なんだ…あれ……」
血の空を割り、差し込んできた光の柱。その暴風が収まったと思えば、すぐにそれは起こった。
(つ<_` )「眩しっ……」
深紅の空は、上から真白の絵の具を塗られたかのように、その色彩を乳白色に転じ、激しく明滅する。
( ´_ゝ`)「……これは……」
その乳の海の中を泳ぐよう、優雅に、激しく、激烈に、地を目指して降りてくる無数の光を纏った何か。
(=゚ω゚)「天、使…?」
- 145: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:14:54.08 ID:t/PTtmIhO
- ドレという画家が残した数多の絵画の中に、天空で輪舞する無数の天使を描いたものがある。
彼等が目にしたものは、その絵画とまさに瓜二つ。天使降臨の光景と見紛う程の美しさを持っていた。
/ ,'3「超越者……偉大なる種族……おぉ、神よ!」
その光景を、地上に生きとし生けるものの全てが見ていた。
ある者は朽ちた瓦礫の下から。またある者は半壊した建物の中から。
やがて降臨した光はその速度を増し、各々が各々、真っ直ぐに邪悪なる神々を目指し飛び始める。
- 146: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:15:48.39 ID:t/PTtmIhO
- 天使の進軍。迎え撃つ邪神。
黙示録に記されたアルマゲドンか。
天国と地獄の大戦がこれから始まろうと言うのか。
( ^ω^)「……」
ただ一人真相を知る少年は、丘の上で静かに笑みを浮かべる。
( ^ω^)「騎士さん、ご苦労様でしたお。後はドクオに任せて、ゆっくりと休んで下さいお」
呟き、足元に横たえた少女の脇に腰を下ろす。
( ^ω^)「さぁ、後は結果を待つだけだお」
その仕草に、僅かに少女が身じろぎした。
- 147: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:16:59.55 ID:t/PTtmIhO
- ━━純白に染まった世界の中で、彼は死の感覚に犯されていた。
(-A-)「クソ…死ぬってのは、眩しいもんなのか?」
悪態をつき、思考を閉ざす。
死出の旅とはすなわち未知への旅立ち。
だから彼は、一向に自らの意識が無くならない事に疑問を持たない。
「ドクオ……」
耳元で声が聞こえた。
(-A-)「…幻聴か?それとも死神なんてのは本当に居るのか?」
今ならそんな奴が居ても、笑いながら許容出来る。
「幻聴じゃないわ、ドクオ。私よ」
(-A-)「……幻聴じゃない?だとしたら死神か?随分と馴れ馴れしい死神も居たもんだな」
- 149: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:18:28.46 ID:t/PTtmIhO
- 「……だから、死神でも無いわ。ドクオ、いい加減目を開けて。あなたは死んでなんかない」
その言葉に、素直に目を開く。
(;つA`)「うおっ、眩しっ……」
白銀の世界が、目に飛び込んできた。
(つA`)「これは……」
「あまり時間が無いから、手短に説明するわ。ちゃんと聞いて」
(つA`)「……よくわからんが…」
「いい?」
(つA`)「あぁ……」
- 152: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:19:52.87 ID:t/PTtmIhO
- 「邪神達は私の姉妹達が何とかしてくれたわ。元々精神を持たない存在だったから、奪い取る事は簡単だったの」
(つA`)「奪い取る…とは?」
「でも、アレは駄目だった。何人で挑んでも、付け入る隙すら無かった。…もうかつての力を失っているとは言え、腐っても超越者って事なんでしょうね。私達大鋸屑じゃ、乗っ取る事が出来なかったわ」
「だから、アレはあなたの力でどうにかして。私達が出来るのは、その為の舞台を整える事だけ」
(つA`)「何をどうすればいいか分からんが……オレにはもう、何かを成す力なんか……」
- 153: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:20:48.35 ID:t/PTtmIhO
- 「大丈夫よ。あなたはまだ、使って無い。最後に一つだけ残っている力が、まだ有るわ」
(つA`)「……それは…?」
「……私って、つくづく嫌な女ね。“最後”だなんて。この期に及んで、またあなたに酷い選択肢を突き付けて……」
(つA`)「おい…お前は……」
「さよなら、ドクオ。私の事を恨んで。それが、私が救われる唯一の……」
それを最後に、声はもう聞こえなくなった。
- 154: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:22:25.06 ID:t/PTtmIhO
- 同時に、瞼の向こう側で光が和らいだ気がした。
ゆっくりと、瞼を押し上げる。
('A`)「……何だったんだ?」
何だか、とても懐かしい感じがした。
どこかで、聞いた事が有るような声の気がしてならない。
思い出せる。思い出せるが、その事実は肯定しない。
('A`)「……ヘリ…カ…」
声に出しそうになって、止める。
('A`)「イヤ、違う。彼女は、あんな言葉なんか……」
否定して、それが逃避である事に気付く。
頭を振る。
('A`)「馬鹿、いい加減成長しろ。オレはこれから何をするんだ?」
- 156: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:23:22.29 ID:t/PTtmIhO
- 決まっている。
('A`)「終わらせるんだろう。決着をつけるんだろう」
だから、中途半端な気持ちとはもう決別。
('A`)「恨んでくれ…なんて言いやがって。馬鹿な奴だ」
ゆっくりと、首を上げる。
('A`)「恨む訳、無いだろう。ヒーローに相応しい幕引きだ。喜んで受け入れてやるさ」
穿たれたアスファルトの中、埋まる彼の身。そこから世界を見上げる。
相変わらず屹立したままのマリア。
だが、周りに立ち尽くした彼女の子等は数瞬前とは様子を変じていた。
- 162: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:35:17.34 ID:t/PTtmIhO
- まるで、今までの行進は気の迷いだったと言わんばかりに、母から遠ざかっていく禍神。
ある者は四肢で、ある者は触足で、ある者は翼でもって、故郷から…母から、親離れを始める。
('A`)「……さて、それじゃあオレもそろそろ親離れしなきゃな」
足に力を入れる。ズタズタになった神経も、数分あれば修復されている。この体を宿主に選んで良かった。
ふらつきながらも立ち上がり、アスファルトの棺桶から這い出す。
突如訪れた我が子等の反抗期に、聖母は戸惑いと怒りの叫びをあげていた。
- 165: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:39:38.42 ID:t/PTtmIhO
- ('A`)「そう嘆くな、母さんよ。子は、いつか必ず親の下を離れるもんだ。一人前の親だったら、我が子の旅立ちぐらい祝福してやれ」
ゆっくりと、ゆっくりと、両腕を高らかに掲げる。
最後に残された力。盲点だった、と恥じいるのはもう少し後でいい。
今は、祝福を。
('A`)「さらばだ、人類諸君!これより君たちは自分の足で地に立ち、自分の足で歩き始める!」
星幽体の奥底、決して使われないと思っていた扉の錠を外す。
- 166: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:40:42.24 ID:t/PTtmIhO
- ('A`)「幼年期は終わった!今こそ、自らの足で歩み出せ!」
扉が、ゆっくりと開いていく。押し込められていた力が、一気に迸ろうとする。
押しとどめ、霧散しないよう注意深くいなし、最後の願いを込めて、一つの指向性を持たせた。
超越者である権限を放棄し、代わりにたった一つの創造を望む。
(;゚ー゚)「ドクオさぁぁあん!」
どこからか、声が聞こえた。
身体を構成する原子が一と零に変質していく感覚の中では、遠すぎて聞き取れない。
(;゚ー゚)「私、ずっとドクオさんに言いたい事があったっんですぅぅう!」
- 167: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:43:27.26 ID:t/PTtmIhO
- 巨大な質量へと成る為に、原子が別のものへと置換されていく。
.+。゚'A`)「……」
聖母が、悲鳴を上げたのは分かった。
(;゚ー゚)「でも、その勇気が無くて…一人きりは不安で…」
だが、それよりもっと自分には聞かなければならない事がある。
(;゚ー゚)「でも、やっと決心がついたんです!」
分解されていく。頭のてっぺんから、つま先まで。気持ち良いような、悪いような、不思議な感覚。ハインやミセリも、こんな気持ちだったのか。
- 169: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:45:04.69 ID:t/PTtmIhO
- (;゚ー゚)「私……私……私達……」
聞き取れない。何を言っているのか、分からない。
・。:*゚ A`)「……」
もう言葉を紡ぐのすら困難。だから、せめて聞き遂げたい。
(*;口;)「今まで有難うございましたっ!私達はもう大丈夫です!ドクオさんが居なくても、もう立派に歩いていけます!だから、心配しないで下さぁぁぁあいっ!」
- 170: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:46:39.58 ID:t/PTtmIhO
ああ、そうか。
・。:*゚ -`)「そいつは……」
安 心 だ ・ ・ ・
- 173: ◆cnH487U/EY :2008/08/26(火) 00:50:39.98 ID:t/PTtmIhO
そして、白が、全てを包んだ。
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