('A`)はダークヒーローのようです

21: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:14:52.88 ID:Rot5G1AwO
将来の為に努力するだとか、勉強して大学に入るだとか、残念ながら私には出来なかった。

隣の席の真面目な子が、放課後必死な顔で勉強しているのを見て、焦らなかったかと聞かれれば確かに頷けない。

就職する同級生、大学に進むと言った友人。
そんな彼らに混じって、私もいい大学に進学したいとか言っていたけれど。
何か足りないものを探すかのように、毎日をただなんとなく過ごして。
「何か違う」、「これはやりたい事じゃない」だとか、言いながら。

(;*゚ー゚)「うわ…遂にブービー……」

気付けば、私の学力では専門学校に進むことさえ難しいという、差し引きならない状況にまで追い詰められていたのでした。

(;*゚ー゚)「……」

凄く……「ヤバい」です。



(*゚ー゚)は「生きる」ようです



23: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:16:03.61 ID:Rot5G1AwO
何故、どうして、なんで、私は今まで勉強をしてこなかったのか。そんな事が、頭をよぎる。
将来に対する明確なビジョンが掴めないが故に落ちこぼれていくというのなら、まだわかる。

だけれども、私は将来お嫁さんになりたいと言う明確なビジョンが……

(;*゚ー゚)「相手がいませんよ!?もしもーし?私、独り身ですよー?」

しまった。結婚には、相手が必要なんだった……迂闊。

(*゚ー゚)「いや、逆に考えるんだ。相手がいないなら、探せばいいのよ」

そう、探せばいいんだ。

(*゚ー゚)「それじゃあ、相手探しに差し当たっては進学かな」

将来有望そうな人を見つけて、大学を卒業したらその人と結婚する。
私は専業主婦になって、その人が稼いで、子供は…二人がいいな。男の子と女の子が一人ずつ。
都心から少し離れた、閑静な住宅街に私達だけで住んで、五月蝿い姑は老人ホーム。
日曜日には家族(勿論私達二世帯だけ)でピクニック。

(*゚ー゚)「うん、これはいいビジョンね!」

よっしゃあ!ってな感じで、私はベッドの上でガッツポーズする。
なんだ、私もまだまだ捨てたもんじゃないじゃん。

でも、こんなんでいいの?
何か、何かが足りないような気がする。

ま、いっか。



24: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:17:26.42 ID:Rot5G1AwO
━━━━━

(*゚ー゚)「と、言うわけでぇ、今日の私は一味違います!」

昼休みの教室で、いつもの仲良しメンバーとお弁当を食べながら、私は得意気に胸を張る。

lw´‐ _‐ノv「どれどれ…」

「米」と書かれた弁当箱を机に置くと、シュールちゃんは私の顔をまじまじと見つめる。
相変わらず何を考えているのかわからない顔だなぁ。

━━と、

lw´‐ _‐ノv「ペロリ」

(;*゚ー゚)「ひ、ひゃっ!」

いきなり、彼女ったら私の頬を舐めて来た!

lw´‐ _‐ノv「この味は……嘘をついてる、味だぜぇ…」

(;*゚ー゚)「え、あ、いや、その……」

どう、反応していいのかわからないんですが……



25: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:17:50.55 ID:Rot5G1AwO
(゚、゚;トソン「同性のほっぺたを舐めた上、その嘘を見抜くなんて……シュール…恐ろしい子!」

トソンちゃんは、なんだか劇画調になりながら、箸を取り落とした。
何をやりたいんだろう。

lw´‐ _‐ノv「基本、ですから」

それにしてもこの二人、のりのりである。

(゚、゚トソン「で、啖呵なんかきっちゃって、何かあったん?」

(*゚ー゚)「よくぞ聞いてくれました!」



26: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:19:05.98 ID:Rot5G1AwO
ここぞとばかりに、昨日ベッドの上で誓った決意を、二人に聞かせてあげる私。
二人とも、真剣そうな表情で聞いてくれている。

そして……

(゚、゚トソン「しぃ……」

(*゚ー゚)「止めても無駄よ!私は、恋に勉強に頑張って、人生の勝ち組に編入してやるんだから!」

(゚、゚トソン「硫黄の元素記号は?」

(;*゚ー゚)「え?」

な、なんだろう…H?Cl?

(゚、゚トソン「haveの過去文詞は?」

え…と…。

lw´‐ _‐ノv「アイザック・アシモフ著、我はロボットの総ページ数は?」

(;*゚ー゚)「知るか!」



28: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:19:47.29 ID:Rot5G1AwO
(゚、゚トソン「全然ダメじゃん。今の、中学校の問題だよ?そんなんで、本当に大学なんか目指すつもり?」

(;*゚ー゚)「うっ……」

lw´‐ _‐ノv「諦めて、あなたも自宅警備員になりなさい。安定した収入が得られるわよ」

(;*゚ー゚)「むむむ……」

思ってたより、ヤバいのかな…私。

(゚、゚トソン「あ、一応断っとくけど、私は頼らないでね。大学受験なんて、対応できないから」

トソンちゃんは、就職だもんなぁ。そのクセ、成績は中の上あたりとかね。何故?



29: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:21:12.70 ID:Rot5G1AwO
それじゃあ、ここはやっぱりクラス一番の秀才に……。

lw´‐ _‐ノv「だが断る」

(;*゚ー゚)「ま、まだ何も言ってないよ!」

なんというエスパー…考えを読まれた。

(゚、゚トソン「お前は次に、『でも、どうしてダメなの?』という」

(*゚ー゚)「でも、どうしてダメなの?」

lw´‐ _‐ノv「……見たい、アニメがあるから」

えー…何、それ…

(;*゚ー゚)「アニメなんか、録画すればいいじゃん」

(゚、゚トソン「……(ボケをヌルーされたけど、そこに突っ込んだら負けかな、と思っている)」

lw´‐ _‐ノv「勉強は、自分でやるからこそ自分の力となるもの。お主の戦いに、私は水を差すような真似はしたくはない」

(゚、゚;トソン「す、すごい…シュールがまともな事言った!」



30: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:21:42.31 ID:Rot5G1AwO
(;*゚ー゚)「むぅ〜、わかった、もういい!私一人で勉強するもん!誰にも頼るもんですかっ!」

lw´‐ _‐ノv「それでこそ、私が見込んだ女よ」

(*゚ー゚)「今に見てなさい!次の期末考査で、一桁代に食い込んでやるんだから!」

(゚、゚トソン「さてはて、どうなる事やら」

でも、本当にそれでいいのかな?
勉強して、大学行って…それで?
何かが、足りないような…

あぁ、結婚だった。
何考えてるんだろう。
今は勉強だ。



31: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:22:47.59 ID:Rot5G1AwO
━━━━

lw´‐ _‐ノv「と」

(゚、゚トソン「言うわけで」

lw´‐ _‐ノv「き」

(゚、゚トソン「末考査が終了したわけだが……」

あの日から1ヶ月。
私は死に物狂いで、それなりに、大分、いやちょっと……まぁとにかく頑張って勉強したわけで。

目標を国内屈指の名門ニューソク大学へ設定したから、かなり大変だったけど、頑張ればなんとかなるもので、過去問も五問まで解けるようになった。

(*゚ー゚)「ふふ…順位発表が楽しみだよ」

私達は放課後の教室で、これから張り出される期末考査の順位表を、今か今かと待っていたのだった。

(゚、゚トソン「自信あり気じゃんか」

(*゚ー゚)「ふふん♪まあね〜」

lw´‐ _‐ノv「スラッシュメタルなら、スレイヤーを聞け」

教室には、私達の他にも進学組の生徒達が賑やかにテストの結果を予想しつつ、お喋りしているのが見える。
流石女子校と言ったところか、頭のいい子も「やっばーい、私きっと赤点だぁ」とか、無理のある謙遜をしている。
おいおい、それは謙遜を通り越して既に嫌みですよ。と言ってやりたい。



33: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:23:50.05 ID:Rot5G1AwO
そんな事を思いながら、心持ち期待しつつそわそわしてると、教室の前の扉が勢いよく開け放たれた。

川委゚。ゝ゚)「皆さ〜ん、順位表が張り出されたんでしょう〜!」

入ってきたのは委員長。
その鶴の一声に、教室中の生徒がサバンナの草食動物よろしく、怒涛の荒波となって廊下に飛び出した。
なんか、ライオンキングにこんなシーンあったなぁとか、ぼんやり考える。

(゚、゚トソン「しぃ、何ぼーっとしてんの!私達も行くよ!」

トソンちゃんの声に、はっとなる。

(*゚ー゚)「え?あ、そうか!」

lw´‐ _‐ノv「シンバ…スカーに気をつけて……」

━━━━━

順位表の前に出来ている人だかりは、まるで幕府からのお達しを見る為に集まった農民達を彷彿とさせた。
大多数は、苦い顔をしている。
その横の秀才達は、唇の端を緩めながらため息をついていた。この士族階級め。

混沌とした廊下の空気は、これから自分の順位に不満を感じた生徒によって、職員室打ち壊しでも始まりそうな勢いを醸し出している。



34: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:25:07.02 ID:Rot5G1AwO
(*゚ー゚)「私は、何位だろう」

頑張ったから、せめて真ん中ぐらいだろうなぁ。

(゚、゚トソン「下から見ていった方が早いんじゃね?」

このアマ、なんて事を言いやがる。後で校舎裏だね。

(*゚ー゚)「ドキドキするぅ……」

取り敢えず、無駄かも知れないけど上から見てみる。

(;*゚ー゚)「流石に、いきなり一桁は無理か…」

例の如く、名前はまだ無い。

━━と、

lw´‐ _‐ノv「Atta!」

シュールちゃんの声に振り返ると、彼女はある一点を指差していた。
恐る恐る、その指先に視線を移していくと……。



37: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:25:56.82 ID:Rot5G1AwO
━━━━━

(*゚ー゚)「鬱だ、氏のう……」

結果から言おう。私の順位は472人中、458位だった。

(゚、゚トソン『まぁ、ブービー返上できただけでも良かったじゃまいか』

なんて、トソンちゃんは言ってたけど、こんなんじゃ大学なんて夢のまた夢だよ……。
やっぱり、一朝一夕の努力じゃダメなのかな。

lw´‐ _‐ノv『一ヶ月で12位の上昇だから、一年で326位まで行けるな』

シュールちゃん、私達はもう18歳よ。一年なんて時間、どこにも残されてないわ。



38: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:27:01.96 ID:Rot5G1AwO
(*゚ー゚)「はぁ…落ち込むなぁ…」

私の落ち込みようが、傍目から見ても尋常じゃなかったのだろう。
二人とも、何も言わずに私を一人にしてくれた。
付き合いが長い二人には、私が落ち込んでいる時はとことん一人で居させるのが一番だと、わかっているのだ。

がむしゃらに勉強して、でもダメで。こんなんで良かったのかな。

とぼとぼと、夕日の差し込む校舎内を、玄関に向かって歩く。
定時制の生徒だろう。欠伸をしながら、ガラの悪そうな男子生徒が、向こうから歩いてくる。
うちの学校は、夜の定時制を同時に運営しているのだ。
時代錯誤な短ランに、私はすれ違い様に舌打ちをされた。

(*゚ー゚)「母さん、世間は想像以上に厳しいところですね」

遠くから、ドナドナが聞こえてきた。吹奏楽部だろう。
今の私には、最高の手向けだ。

(*゚ー゚)「ドナドナドーナ〜ドォーナ〜子牛を乗ぉせぇて〜」

(*;ー;)「ドナドナドーナ〜ドォーナ〜荷馬車が揺ぅれぇるぅ〜……」

今は、落ち込もう。思いっきり。どん底まで。

(,,゚Д゚)「下っ手くそなドナドナだなぁ。止めろよ、余計に気分が滅入る」



39: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:28:19.01 ID:Rot5G1AwO
辟易としたような声に、思わずドキリとし、振り返る。

(;*゚ー゚)「ギ、ギコ君」

そこに居たのは、中学の同級生。

(,,゚Д゚)「ん?何だお前、泣いてんのか?」

(;*゚ー゚)「ふぇ?あ、いや、これは、その……」

見られた……。

━━━━━

情けないながら、私はギコ君に涙の訳を説明する羽目になってしまった。
彼は終始真面目に話しを聞いていてくれたけど、それが逆に気まずい。

(,,゚Д゚)「…なるほどな。で、堪えきれずにドナドナと泣いてたわけだ」

ギコ君は馬鹿にするでもなく、真面目な顔で口を開いた。

(*うー;)「うん。恥ずかしながら、私は馬鹿みたいです」

昔は、定時制に進むと言ったギコ君を陰で馬鹿にしていたものだけど、なんだかこの構図は、私が凄く情けない。



40: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:28:53.91 ID:Rot5G1AwO
(,,゚Д゚)「へぇ、お前も進学すんのか」

(*゚ー゚)「お前もって、ギコ君も進学?」

定時制で?と言いそうになったけど、それは禁句。
ギコ君は、それに黙って頷いた。

(*゚ー゚)「専門学校?」

(,,゚Д゚)「いや、そんな金ねーよ」



41: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:30:42.91 ID:Rot5G1AwO
(;*゚ー゚)「じゃあ大学!?ギコ君のあたm」

(,,゚Д゚)「人の事言えんのかよ」

(;*゚ー゚)「うっ…ごめんなさい」

この、思った事をすぐ口にする癖は、今すぐ直しておこう。

……よし、直った。

(,,゚Д゚)「まぁ、確かにオレも頭は悪いさ。だから、防衛大学行くことにしたんだ。
あそこなら、馬鹿でも貧乏でも、全部国が面倒見てくれるだろ?」

成る程。朝夕とバイトに明け暮れる苦学生のギコ君には、確かにナイスなチョイスかも。

(*゚ー゚)「って事は、軍に入るって事?」

(,,゚Д゚)「当たり前だろ」

ギコ君は、当然とばかりに肩を竦める。
竦めるけど。

(*゚ー゚)「それって、邪神と戦うって…事、だよね?」

邪神。正直、私はそんなものの存在なんかは大して気にもかけていなかった。
たまに、ニュースで遠く、どこかの国が邪神の侵攻にあっているというのは耳にするけど、所詮そんなのは海の向こうの話しで、私には関係の無いものだと思っていた。
思っていたけど。

(,,゚Д゚)「あぁ。最近じゃ、ニューソク国もヤバいらしいからな。だから、ここでオレが、あいつらをぶっ飛ばして英雄になってやるのさ!」



42: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:31:56.94 ID:Rot5G1AwO
夢でも語るような口振りのギコ君。
いや、彼にとってはそれが夢なんだろう。
夢なんだろうけど。

(*゚ー゚)「え…と…」

それって、死ぬかもしれないって事でもあるんだよ?

━━━━━

(*゚ー゚)「蛍光灯って、何でこうもつくのが遅いんだろう」

そんな、どうでもいい事を呟いて、天井の染みに目を移す。
あの後、ギコ君とは下らない世間話をして別れた。
だけれども、ギコ君の言葉が頭から離れない。

(*゚ー゚)「軍隊に入るって……」

正直、ギコ君とはあまり面識は無い。
ただ、中学校が同じなだけ。



43: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:32:48.86 ID:Rot5G1AwO
風の噂で、彼の家が貧しくて普通の高校には通えないから、夜間の定時制高校に通っているというのは知っていた。
でも周りから見たら、お金があっても到底全日制高校に通えるレベルじゃないっ、てのもよく言われてた。
だから、ずっと馬鹿にしてたけど。

(*゚ー゚)「軍隊、かぁ」

どんな馬鹿でも、軍隊にだけは入りたく無い、とよく言われている。

昔の軍隊ならば、話しは別だったろう。
だけど、今は戦う相手が違いすぎる。
何しろ、不死身の化け物なのだから。



44: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:34:20.28 ID:Rot5G1AwO
今じゃ、歴史の教科書にも載っている「シベリア戦役」では、シベリア国とPINK国、それに鮫島王国と各国の傭兵部隊による総勢15億もの大規模な連合軍の、その半分以上が邪神とその配下の化け物に殺され、記録的大敗を記したとされている。
これだけの軍隊でも、邪神には勝てなかったのだ。
軍隊に入るという事は、わざわざ言わなくても「死」そのものを意味する。

だから、どんなに頭が悪くて他に行く場所の無い馬鹿でも、軍隊だけにはなりたくないと口を揃えて言うのだ。

じゃあ、どうしてギコ君はそんなところに、わざわざ自分から進んで入ろうとするのだろう?
そんなに死にたいのだろうか?

(*゚ー゚)「人生、捨ててるのかな?」

いくら考えてもわからない。
なんで?どうして?

(*゚ー゚)「って、人の心配してる場合じゃなかった!」

そう、私には私の人生計画があるんだから。
今日、自分の頭の程は知れた。このままじゃ、それこそ軍隊しか行き場所が無くなってしまう。

(*゚ー゚)「さぁて、勉強しなきゃ!」

………。

でも、なんで軍隊なんかに?

(;*゚ー゚)「あーもうっ!いいから勉強、勉強!」

でも、何で勉強するんだっけ。もう、わかんないや。



45: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:35:39.35 ID:Rot5G1AwO
━━━━━

(*゚ー゚)「で、なんで私はこんな所にいるかなぁ……」

目の前には、「定時制教室3」と書かれたプレートをぶら下げた、小さな教室。
中からは、扇風機の回る音が微かに聞こえる。
どちらかと言えば、生徒達の笑い声や、下らない冗談の方が気持ち大きめ、いや、大分大きい。

(*゚ー゚)「随分楽しそうに授業してるなぁ」

私達の教室とは大違いだ。
あの中で、ギコ君も勉強してるのかと思うと、無愛想な彼のキャラには合わないなと、勝手な事を考えてしまう。

(*゚ー゚)「何時頃、終わるのかな」

思い付きって恐ろしい。
今日の夕方、わざわざシュールちゃんとトソンちゃんの誘いを断って、私達と入れ違いに登校してくるギコ君を探そうと思ったんだけど、見事に見つからなくて。
そのうち時間だけが過ぎて、日も沈んじゃって。
そこで諦めておけば良かったのに、私はわざわざ職員室で定時制の教室を聞き出したのだ。
先生は、私の事を定時制への編入希望者だと思ってたみたいだけど、流石にそこまで馬鹿じゃない。

本当は、こんな事してる場合じゃないんだけどね……。



46: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:36:59.83 ID:Rot5G1AwO
(*゚ー゚)「で、今に至ると。はぁ、何やってんだろ」

なんと悲しい溜め息。
そして、それにユニゾンするチャイム。
教室から飛び出してくる、不良達。

(*゚ー゚)「あ」

どうやら終わったみたいだ。それにしても、物凄いスタートダッシュ。
チャイムが鳴る前に、既に席を立っていたんじゃないかと思えるタイミングだ。

そして、その中にギコ君も居た。

(*゚ー゚)「あ、ギコ君」

(,,゚Д゚)「は?え?しぃ?」

不意を突かれたような顔で、ギコ君は私の方を見る。
周りの生徒達は、口々に「彼女か?」などと彼をはやしたてる。
それをいなしながら、彼は私の元まで足早に近付いてきた。

(,;゚Д゚)「なんでお前ここにいんの?」

(;*゚ー゚)「さ、さぁ」

自分でも、間抜けというか馬鹿というか。
とにかく愚の極みです。



47: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:37:36.49 ID:Rot5G1AwO
(,;゚Д゚)「はぁ?とにかく、周りが五月蝿いからさっさと行くぞ」

周りの野次がまだ止まない中を、ギコ君は私の手を引いて駆け出した。

なんか、このシチュエーションは……ちょっと、ロマンティックです。

(;*゚ー゚)「ねーよwww」

慌てて、自分に突っ込みを入れる。

(,,゚Д゚)「は?」

ギコ君、怪訝な顔してる。気にしないでね。



48: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:39:06.54 ID:Rot5G1AwO
━━━━━

(,,゚Д゚)「━━にしても、よくこんな時間まで待ってたな、お前」

ギコ君は呆れているようですよ。

(;*゚ー゚)「あはは、本当にねー」

(,,゚Д゚)「で、何か用事でもあんのか?」

校舎の裏、今では枯れてしまったイチジクの木の根本に座った私達。

(*゚ー゚)「んー、用事って程でも無いんだけどね」

(,,゚Д゚)「は?」

何言ってんの、こいつ。って顔したよ、今。

(*゚ー゚)「昨日さ、ギコ君、防衛大学に行って軍隊に入るって言ってたよね」

(,,゚Д゚)「あーあれか。つうか忘れてたけど、あれ他の奴には絶対言うなよ」



49: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:39:46.56 ID:Rot5G1AwO
へ?

(*゚ー゚)「ふぇ?」

(,,゚Д゚)「なんか、お前のやけっぱちなテンションに流されて、オレも言っちまったけど、あれは親と先公以外には誰にも言ってないトップシークレットなんだよ。
頼むから、周りに言ったりすんなよ」

いや、そこまで頭が回らなかったですよ。

(;*゚ー゚)「う、うん」

何だろう。そんな恥ずかしい事なのかな。

(,,゚Д゚)「そっか。悪いな。それで、何だって?」

え?あぁ、話しを戻したのね。



50: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:40:55.12 ID:Rot5G1AwO
(*゚ー゚)「あ、そうそう。なんで、軍隊なんかに入ろうと思ったのかなぁって、気になってさ。だって、死にに行くようなもんでしょ?」

少しの沈黙。なんだか、ギコ君はばつの悪そうな顔をしている。
あー、タブーだったかな。

━━と。

(,,゚Д゚)「あー…こう聞かれるのが嫌だったから、周りには言わないようにしてたんだけどなぁ」

やっぱり。まずったなぁ。

(;*゚ー゚)「ごめんね、なんかいきなりこんな事聞いちゃって。言いたくないなら、別に…」

(,,゚Д゚)「あぁ、いいよ、いいよ。どうせだから、この際お前にだけでも話しとくわ。その方が、なんかいっその事すっきりしそうだし」

怒らせちゃった…かな?
いや、そうでも無いみたい。

(,,゚Д゚)「中学の頃からだったかな。生きてる実感が沸かなくなってきたんだよ、オレ」

(*゚ー゚)「?」

(,,゚Д゚)「なんつーの?なんか、何でオレは生きてるんだろうってさ。
最初はただの中二病かと思ってた。でもこの歳になって、家計の為にバイトして、高校行って。
楽しくないわけじゃないさ。充実してる、と思うよ」

意外。ギコ君が哲学してるよ。



52: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:41:55.82 ID:Rot5G1AwO
(,,゚Д゚)「でもさ、何か違うんだよ。やっぱり、オレが『生きてる』って実感が湧かない。
ニュースじゃ、毎日のように邪神との戦いが報道されて、また今日も、顔も知らない誰かが死んだって事を知る。
その時さ、ふと思ったんだ。『この兵士達は、今まで確実に生きて来たんだな』って。
この、戦死者リストに載っている人達は、『生きる』為に戦って、最後の最後まで『生きて』いたんだなって」

ポツリ、ポツリと語るギコ君の声は、小さかったけど。
私の事を惹きつけるには、充分過ぎて。

(,,゚Д゚)「『生きる』事の意味なんてさ、人間がどれだけ考えてもわからないもんだよな。
だから、どうせわからないなら精一杯『生きて』、自分で自分自身を『オレ生きてるなぁ』って、実感したいんだ」

私は身を乗り出して、ギコ君の言葉に耳を傾けていた。
足りない何かが、埋まっていきそうな気がして。



53: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:43:04.88 ID:Rot5G1AwO
(,,゚Д゚)「そう親に言ったら、社会に出て働く事も立派に生きてる証拠だって言われた。
でも、オレはそう思わない。だって、今でも世界のどっかでは、名も知らない兵士達が邪神と必死に戦っているんだぜ。
その人達に比べたら、こんな生温い養殖プールの中で何も考えないで、ただ惰性で泳いでる養殖魚みたいなオレ達は、死んでるのと変わり無いんじゃないのか?」

ギコ君の声は、訴えるように切実だ。

(,,゚Д゚)「オレは、そんなダラダラと生きて、いつかは刺身にされて食卓に並ぶような人生を送りたくない。
例え、行き着く場所は同じでも、オレは一生を養殖プールの中で過ごしたくは無い」

(*゚ー゚)「だから、軍隊に……?」

私の言葉に、ギコ君は静かに頷いた。
その横顔を月が照らし、彼の決意にスポットライトを当てているみたいだ。

(*゚ー゚)「そっか……」

こういう時、何て言えばいいのかわからない。
ただ、私の心は。
今までこんなに真剣に、自分の事について話してくれた男の子なんて、初めてだからだろうか。
私は、大して仲が良いわけでもないギコ君を、不覚にもカッコイいと思ってしまった。



54: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:44:10.51 ID:Rot5G1AwO
(*゚ー゚)「ギコ君が、そこまで考えてるなんて意外だった」

(,,゚Д゚)「だろ?オレのキャラじゃねぇよな」

そう言って、ギコ君は豪快に笑った。

(*゚ー゚)「私さ、将来は適当に大学出て、誰かのお嫁さんになって平凡に暮らそうと思ってた」

(,,゚Д゚)「別にいいんじゃねぇの?それも、お前の人生なんだから」

(*゚ー゚)「でも、ギコ君の話しを聞いてたら、なんかそれだけじゃやっぱり足りないなぁって思ったんだ。
ううん、前から薄々気付いてた。こんなんで、本当にいいのかって。まぁ、勉強が嫌いってのもあるけど」

私もギコ君も、ちょっと笑う。

(*゚ー゚)「別にドラマティックな事に憧れてるわけじゃないけど、私も『生きてる』実感が無かったのかもしれない。
だからかな。ギコ君の言うこと、他人ごとには思えないんだ」

自分でもわかるぐらい、私暴走してる。

(*゚ー゚)「ねぇ、死ぬことって、怖い事かな」

(,,゚Д゚)「…しぃ?」

怪訝な表情ってこういうのを言うんだな。

(*゚ー゚)「私は、怖いな。でも、このまま生きてたら、本当に死ぬことを怖がれないと思う」



56: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:45:17.83 ID:Rot5G1AwO
ギコ君の表情が、固くなった。
あーあ、私、完璧にギコ君を困らせちゃってるよ。

(*゚ー゚)「今気付いたの。人生って、死ぬことがとってもとっても、とぉっても怖くなるぐらいじゃなきゃ、つまらないかもね!」

クレイジーな子、みたいだ。
シュールちゃんと、大差ないよね。

(,;゚Д゚)「ちょっと待て、お前…」

(*゚ー゚)「決めた!私も、ギコ君の道ずれになりましょう!異論は認めませーん!」

遂に言っちゃいましたよ。
もう後には引けません。ライン際ギリギリを、ぶっちぎりで超えちゃいました。

(,;゚Д゚)「いや、マジで止めとけ。絶対後悔するぞ!」

慌てて止めるギコ君、でも今の私は止められない。

(*゚ー゚)「あれ?じゃあ、さっきのギコ君の言葉は嘘なのかな?精一杯生きるんじゃなかったの?」

悪戯っぽく笑ってみせる。

(,;゚Д゚)「いや、それはあくまでもオレ自身の話しだから…」

(*゚ー゚)「言ったよね、他人ごとじゃないってさ」

ギコ君は、溜め息をついている。
きっと、どうやって私を説き伏せようか考えているんだろう。
無駄だよ。私は案外頑固なんだから。



57: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:46:37.76 ID:Rot5G1AwO
(,,゚Д゚)「それは、一時の気の迷いじゃねぇのか?若いうちは、良くあることらしいぜ」

(*゚ー゚)「違うもんっ!」

(,,゚Д゚)「そういうのは、自分ではわからねぇんだよ。後になって気付くから、後悔なんだよ」

むぅ…馬鹿にしてくれるなぁ、ギコ君の癖に。
だったら……。

(*゚ー゚)「じゃあさ、賭けようよ。私のこの決断が、一時の気の迷いかどうかって事にさ」

(,,゚Д゚)「やれやれ……わかったよ。じゃあ来年の春、お前が軍に入隊してなかったら、何をくれるんだ?」

もうどうにでもなれって感じに、ギコ君は言った。
だから私は、こう答えたんだ。

(*゚ー゚)「ほいじゃあ、もしも私が負けたら……私の貯金を全部あげるよ!」

(,,゚Д゚)「ほう、言うじゃん。ちゃんと覚えとけよ」

ギコ君は、意地悪に笑った。

(*゚ー゚)「その代わり、私が勝ったら……」

(,,゚Д゚)「勝ったら?」



58: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:47:18.24 ID:Rot5G1AwO
ここでちょっとためる。やっぱり、こういう事言うのは恥ずかしい。
自分からなんて、初めてだしなぁ。
ええい、情けないぞ、しぃ!ファイトだ!

(*゚ー゚)「私が勝ったら、ギコ君を私に下さい!」



59: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:48:55.34 ID:Rot5G1AwO
(,,゚Д゚)「……」

ポカーンって擬音が一番似合う顔で、ギコ君は固まっている。
そりゃあ衝撃でしょうね。中学時代の同級生とはいえ、よく知りもしない相手から告白されたんだから。
正直、訳わからんって状態でしょう。

(,,゚Д゚)「なぁ、なんか彼氏が彼女の親父に頭下げてるみたいだぞ、そのセリフは」

そっちか!

(;*゚ー゚)「で、どうなの?この賭けに乗りますか?乗りませんか?」

私の、半ばやけっぱちの問い詰めに、ギコ君は……。

━━━━━

一年なんてものはあっという間だった。
文化祭に体育祭、修学旅行に卒業式。
とても充実した、とても素敵な時間。
それを、私は「死」に対しての覚悟を固めるために全力で使った。
あの夜以来、「死」について考えるようになって、その途端に色んなものに未練が芽生え始めた。

お母さんとお父さんの顔を見ただけで、涙が出たりもした。
修学旅行や文化祭の途中で、いきなり泣き出した私を宥める為に、シュールちゃんとトソンちゃんには迷惑をかけたっけな。

今謝るね。ごめなさい。

でも、そうやって「死ぬ」事を怖がっているうちに、日々の些細な出来事に幸せや喜びを感じれるようになった。



60: ◆/ckL6OYvQw :2007/07/22(日) 00:50:13.38 ID:Rot5G1AwO
そして、あまりにも「死」を身近に考え過ぎている自分が可笑しくなった。

人間、いつかは必ず死ぬんだ。だからこそ、日々を大切に「生き」ようと思うようになって。
末期ガン患者の気持ちがわかった気がする。

私が防衛大学に進むと言い出した時、周りのみんなはやっぱり私の事を止めた。
だけど、私の決意はそんな事では変わらない。「死」に対する覚悟はなんてできてないけど、人生を満喫する方法を知ったから。

正直言うと、「死ぬ」事はまだ怖い。
だけど、「死」について考えたら、こんなにも世界は素敵に見えた。

だから戦場に近づけば、もっともっと素敵な物が見えるような気がして。

━━だから私は、今ここにいる。

(教 ̄ゝ ̄)「続きまして、新入生代表挨拶。しぃさん」

(*゚ー゚)「はい!」

元気良く返事して、壇上に登る。
そこから、生徒達を見回した。
綺麗に並んだ新入生の中に「彼」の姿を見つけて、私は微笑みながらも自信たっぷりに口を開く。



(*゚ー゚)は「生きる」ようです

fin



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