( ^ω^)は綺麗な街に住んでいるようです

4: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:04:32.01 ID:SRqM6Nim0
第22話

心臓が甚く締め付けられている、息も震え震えになっていく。
 直視したくない現実だ。
まさかバルコニーから落ちるとは思わなかった。
既にフーの脚は僕の身体から外れていたが、
今の時点でそれは何の意味も為さない。

落下していく中、ソォっと目を開けた。

暗闇だった。フーの姿も渡辺さんの姿も分からない。
わずかに、地面で何かが小さく動いているような気がするが、
まともに認識出来る物は1つも無かった。

ホール・ロビーの光源は全て仕事をしておらず、
高級感溢れる穏やかな装飾は全く目に映らない。

身体の芯から冷え切っていた。
上へと吹き荒ぶ風が身体を貫いていくようだ。

先の全く見えない闇の中、
いつ地面と衝突するのかが分からなく、
それが、堪らなく怖くて、泣きたい気分だった。



9: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:08:01.44 ID:SRqM6Nim0
(;^ω^)「ぅう……ううッ!」

歯がガチガチと鳴る。心臓は竦み上がっている。

もう僕は、どうしようもな―――……

(;^ω^)「ブヘッ!?」

突然、身体前面に痛みが生じた。
しかし、それは落下したにしてはあまりにも弱すぎるものだった。
まるで、はたかれたような痛苦だ。
僕は面食らいながらも、今の状況について把握しようと
身体を恐る恐る動かした。

(;^ω^)「ぁ、ありゃ……?」

今自分が触れているこの地面らしきものは、
硬いが、ゴムのような弾力を持っていて、起き上がるのに苦労してしまった。
実際立とうとすると、重心の置き場に困り
何度もよろけてしまい、
最終的には立ち膝をすることにした。

(;^ω^)「これは一体……」

「テントの上みたいだよ」

どこからか渡辺さんの声が響いた。
と同時に、今の危険な状況、フーがこの暗闇の中に
潜んでいるという事実を思い出したのだった。



11: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:12:48.23 ID:SRqM6Nim0
(;^ω^)「ッ!? フーは!?」

「今は……いない、テントから降りたのは分かったけど……」

もう一度、このザラザラした感触のテントを撫でてみた。
何となくだが、触った感覚と張られた具合からして
運動会にある本部席のテントを更に広げたようなものだろう、と推察出来た。

(;^ω^)「……ありがとうだお……渡辺さんは注意力が、凄すぎだお」

「えぇぇ〜? そんなことないよ〜」

おどけた口調だったが、どことなく喜びみたいなものが滲んでいた。


僕は息を吐くと、これからどうすればいいか、考えることにした。
まず、地の利は圧倒的にフーが得ているはずだ。
ここ「ホール・ロビー」の構造を奴なら、完全に知り尽くしているに違いない。
だからこそ、この暗闇の中フーは
素早くこのテントの上を降りたのだろう、何か策を狙いながら。
あの身体で、このテントを飛び降りて暗闇の中を駆けることが出来るほどの。


しかし、今の時点ではどうしようもない。
渡辺さんも、口振りからして詳しいここの地形は覚えていないようだった。



15: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:16:27.97 ID:SRqM6Nim0
( ^ω^)「渡辺さんはバルコニーの下がこうなってるのを知ってたのかお?」

テントの硬い布を何度か手触りしながら尋ねると、
緊張感の無い、ふんわりした声が返ってきた。

「うん、監督本部テントのこれは明日外すって聞いたから……
 ここでも落とせばフーは死ぬかと思ったんだけどね〜……」

さらりと毒のある言葉だったが、深く追求するのは
止めておく。

フーの手がどういったものなのか、知りたい。と
渡辺さんに話しかけようと思ったとき、
既に彼女の気配は無かった。

(;^ω^)「え? え? え?」

どういうことだ、と何も見えない暗闇をキョロキョロと
何度も見渡すと、ふいに渡辺さんの小さな声がテントの下の辺りから聞こえた。



17: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:18:42.10 ID:SRqM6Nim0
「ちょっと、いいこと思いついたから待っててね〜」

(;^ω^)「……渡辺さん?」

パタパタと駆けていく足音が、遠くに向かっていくのが聞こえた。


もう、行ってしまったか。。。

普段より多少語気の入った言葉に少しだけ
安心しつつも、「無責任だな」と考えつつも、
渡辺さんを待とうとした、

そのときだった。



突然、下や横、あらゆる場所から強い光が発せられた。
暖色の電球、埋め込み型のシャンデリアが一斉に動きだしたのだった。
予想していなかった出来事に面食らいながらも、
僕は今、何が起こったのかを理解した。

ホール・ロビーの灯りは、何者かによって点けられたようだ。



18: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:21:49.12 ID:SRqM6Nim0
ホール・ロビーの全景が突然目の前に
ライトアップと共に現れた。そのなんとも
煌びやかな姿に形容し難い、軽いショックを
受けてしまった。

随分前に兄者に見せてもらった時よりも
更に装飾を凝らせているようで、それは
もうロビーとは言えない、完全に町長の
趣味の集大成のようなものに変貌していた。

流線型のクリスタルの壁が円のロビー内を
縦横無尽に駆け巡っていて、その壁には
ヒスイを埋め込み、描かれた女神――
まさしく、女神像公園にも居る、あの女神が、
まるで往来のポスターのように、そこにいくつも配置されていた。
床板は恭しいほどに丁寧に研磨された大理石の石畳で、
歩くのも躊躇われるほど、美しく光を反射している。

噴水が突然動き出した。
公園の噴水よりも豪勢な造りの"女神像の噴水"は、
音を立てずに多量の水でアーチを描かせながら、
石畳の間の堀に、沿うようにして水を与えていく。
その川の中に埋め込まれたいくつものオレンジ色のライトが
水の中でボンヤリと光を浮かばせていく。

僕の乗っているこのテントの薄汚さが際立ち、
何となく居心地の悪さを感じてしまうほど、ロビーは輝いていたのだった。



21: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:23:50.09 ID:SRqM6Nim0
かと思えば今度は魔方陣のような埋め込み型のシャンデリアが
眩しく光踊り、狂って――周辺の描かれた薔薇も、
ボウっと存在を浮かべさせていくのだった。
するとそれらは、ユックリと時計回りに動き出していった。
緋色の素晴らしいドレスを飾った亡霊のダンスのようだ。


思わず見惚れてしまうほど、確かに此処
ホール・ロビーは美しい場所だったのだが、
今ではもう、混沌に、ゴタゴタと装飾を施したようになってしまっている。
人は落ち着けないだろう、中央の
ラウンジにある深々としたソファに座ったって、
気休めにもならないはずだ。僕なら確実に。


地響きのような音が微かに聞こえたような気がした。
フト気がつけば、僕達の居るテントの近くに、
既にフーは居た。こちらを見上げながら、
怒りを顔に出しながら。

ミメ,,メД゚彡「……わざわざ、点けてやったぜ」

( ^ω^)「そうかお」



24: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:31:06.76 ID:SRqM6Nim0
横を見ると、ジョルジュから貰ったバットが横になって
テントの上で右へ左へと小刻みに動いていた。
咄嗟にそれを拾うと、
遠くのフーを睨む。

(#^ω^)「ジョルジュに謝らせてやるお」

ミメ,,メД゚彡「血迷ったか、渡辺はどうした。何処にいった?」

(#^ω^)「………」

ミメ,,メД゚彡「まあいい、お前もこれで終わりだろうがな」


ニヤリと肩頬を歪めてフーは笑うと
不自由なはずの身体を動かして、右の方にある
銅飾りされた巨大なドアを見た。


また、地響きのような音が聞こえた。
さっきよりも、確実に強くなっていた。

・・・ ・・・・



25: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:34:10.81 ID:SRqM6Nim0
・・ ・・・

(´・ω・`)「方角的には、正しいはずさ」

隣の席に座っている、瀕死のドクオに
勇気付けるために呟いた一言だったが
それはただの独り言に変わっていってしまった。

運転操作を誤らないように注意しながら、
横目でドクオの状態を観察した。

正面より少し上を向きながら、まるで何物にも
興味が無いように、その瞳はウロウロとさまよっていた。

目を閉じれば、死んでしまったのか、と
恐ろしい不安に苛まされそうだ。
息も、よく見なければ、しているのかどうか、
分からないほど弱いものだった。

僕には、僕には……どうしようもないのか。

(;´・ω・`) 「……くそっ…」



27: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:38:22.03 ID:SRqM6Nim0
「……せる……な」

(´・ω・`) 「え?」

突然、ドクオの居る方向から声がした。
バっと振り返ると、ドクオは身体を震わせながら
僕に向かって懸命に話しかけていた。
すぐさま運転を停止して、話に聞き入った。

('A`)「……お前が、さ……」

(;´・ω・`) 「ドク……」

(;'A`)「リードしてくれ……る、お前が……焦ったらさ……
    もう、絶体絶命だぜ? ……」

(;´・ω・`) 「……!」

(;´・ω・`) 「ドクオっ……」

('A`)「頼りに、してんぜ?」



29: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:40:33.74 ID:SRqM6Nim0
ギュっとハンドルを握り締めると、
アクセルを踏んで再び車を発進させた。
狙いは当然、バルコニー・エリアだ。

急がないと、僕達に時間は無い。



緩やかなカーブが続いていたのだが、
突然、大きな道が広がった。
どうやら僕達が今まで走っていたのは、
横穴のような場所だったらしい。

慎重に巨大な道に出ると、
方角に沿って車を運転した。

だだっ広いその道を進んでいくと、
不思議な安堵感が生まれていくのだった。

・・・ ・・・・



31: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:42:50.59 ID:SRqM6Nim0
・・ ・・・

( ^ω^)「……?」

地響きは止まることなく、段々と強くなっていくばかりか
何かの気配すら、生み出そうとしていた。

( ^ω^)「……何だお」

ミメ,,メД゚彡「ハハハ……」

こちらを見ることなく、右方にある巨大な扉をフーは眺め続けていた。
僕もつられて、それを見た―――

扉が勢いよく、開かれた。



33: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:45:24.89 ID:SRqM6Nim0
(;^ω^)「なッ……!」

兵隊だった。

扉から入ってきてホール・ロビーを埋め尽くそうとしている、
そう思えるほどの数が居た。
武装はしていないものの、皆、体躯がよい。
イカつい顔をしており、闘志は既に全員、みなぎっているようだ。

ざっと50は越えている、
これらを往なして奥の黒いエレベーターに向かうのは、
不可能な気がしてならない。
兵の代表者らしき人間が慎重にフーへ近づいていった。

(兵`Д´)「到着しました!」

( `Д´)「続兵は30分後に来る予定です!」

ミメ,,メД゚彡「よし来たか……銃は使うなよ? ロビーに傷がつく……

       あのガキをぶち殺したらッ! 地下内を調べ上げてネズミを血祭るぞッ!」


「「「「「おおおおおお!!!」」」」」

一斉に咆哮をあげた。
熱気がロビー内に溢れかえっている。僕は押されながら
同時に、1つ分かったことがある。



36: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:49:09.60 ID:SRqM6Nim0
これだけの人数の兵をここに集めて、
僕1人を嬲り殺そうとしている。
本来なら、人数を分担して地下内のドクオ達を追いかけるのが
まず、合理的なはずなのに、だ。

フーはさっきも、
わざわざこのロビーの灯りを点けてまでして、
僕に宣戦布告を仕掛けた。

つまり、それだけフーは本気なのだろう。
形式ばった、劇じみた演出をわざわざ施す。

ここの町長の元に仕える人間としては、
至極当たり前のこと、なのかもしれない。


……そうだ、町長に、僕は会うんだ。
僕にとって……
僕にとって、ここはまだ中間地点じゃないか!

目的は、まだ遠いじゃないか。



38: ◆tOPTGOuTpU :2007/09/29(土) 21:52:18.92 ID:SRqM6Nim0
(;^ω^)「でも……」

今直面している現実は、恐ろしく非情なものだった。

多数の兵は後数秒もすれば、このテントをよじ登って
僕を殺そうとするだろう。
杭を抜き、テント毎倒壊させるつもりなのかもしれない。

周りの兵は、殺気立たせて僕を凝視していた。
その数の多さには、絶望的な気分に陥ってしまいそうだ。

ここで死ぬかもしれない。

しかし、だとしても、
やらねばいけない。

自然とバットに力が込められていく。

不思議なことに、
闘志も、どんどん胸に込められていく。

(#^ω^)「来るなら来いお!! 僕たちを止めてみせろお!!!」

金属バットを振り回し、威嚇をする。

僕は、敗れる気などまるで無い。(第22話終)



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