( ^ω^)は綺麗な街に住んでいるようです

4: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 21:31:53.14 ID:ztjs6rNJ0
第25話



既にこの街、ヴィップは滅んでいた。
モララーの話を信じれば、そういうことになる。


街の至るところに配置されたゴミ箱から発せられた毒ガスのせいで。


そんな話なんて、信じたくなかった。
ショボンや渡辺さんの話と同様に、嘘だと決め付けてやりたかった。



でも、どうしてかそうすることが出来なかった。


毒ガスの話を信じてしまった、
この街が既に滅んだという話を信じてしまっていた。



5: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 21:35:06.80 ID:ztjs6rNJ0


(;゚ω゚)「そんな………そんなぁ……」

嘲笑いがカンカンと耳の中で反響していく。

「ハハハハハ………ハハ………。」


しかし、モララーの高笑いが不意に途絶えた。

何かあったのだろうか、と顔を上げようとした瞬間
眼前に革靴が勢いよく飛んできた、かと思うと

(;゚ω゚)「ぐぇッ!」


それは顔面に激突し、僕は仰向けに倒れてしまった。
鼻を中心をした顔に痛みがジンと走る。蹴り飛ばされた。
その事実に悔しさを覚えつつ、僕は鼻を右手で囲いナケナシの防御を行う。

モララーの方を見上げた。モララーは僕を冷淡な目と愉快といった笑みで見下ろしていた。


( ・∀・)「……フ……」

震える手を必死に稼動させて立ち上がり、少し距離を置いた。

ジョルジュのバットを置き忘れたまま。



7: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 21:37:13.32 ID:ztjs6rNJ0



(;゚ω゚)「……ぅぅ……」

( ・∀・)「……。 ナンダカ………"らしく"ないねぇ……?」


……らしくない? 唐突なその言葉に混乱してしまう。


いや、この男はさっきから嘘ばっかりを言う。


ショボンが死んだとか、渡辺さんが死んだとか。

……カウントダウンは既に実行されていたとか。



……そうだ、嘘に決まっている。デマカセだらけの汚い人間なんだ
こいつは……!


( ω )「らしくない……って何だお」



21: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:09:55.73 ID:ztjs6rNJ0
( ・∀・)「君らスペシャルについては前々から書類で把握していた。少々なんだが……」

全く姿勢を変えずにモララーは話を展開する。


( ・∀・)「兄者の考察などから推察したんだが、君だろう? このヴィップの地下の存在に勘付いたのは」

( ^ω^)「………」


( ・∀・)「だから、さ。 ……ところで君はピンチに弱いタイプなのか? その持ち前の発想で何とか考えられないの?」


( ^ω^)「……何の話だお」


理解していないという趣旨の僕の言葉を受け止めたモララーは心底ガッカリだ、といった表情を見せると
足でジョルジュのバットを転がし弄びはじめた。


(#^ω^)「何すんだお!!!」

( ・∀・)「ん? これか……? 確か、元スペシャルの人間の持ち物だったな?
      そんなのの名前など知らんが……で、それがどうしt――」

言い切らないうちに、
僕は激昂しモララーの頬に 拳を打ち込んでいた。



24: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:13:06.66 ID:ztjs6rNJ0
その間モララーはまるで抵抗をしなかった。
ただ殴られるがままに、委ねていた。
モララーの身体は檜の机から離れ赤絨毯の上に、
鈍い音を放ちながら激突していった。
口を擦りながら、半身を起こし真下をモララーはジっと見つめていた。

( ・∀・)「………」

バットを拾い、今度は僕がモララーを見下ろす。


(#^ω^)「ジョルジュだお………覚えろッ! これはジョルジュのバットだッ!!
       "そんなの"なんかじゃないッ!!!」

( ・∀・)「…………」


それでもモララーの表情、視線、仕草、何一つ変わるところは無かった。

僕も、そのモララーを見据えるのみ。


 



27: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:16:13.63 ID:ztjs6rNJ0

長い時間が経ったように思う。

はじめに口火を切ったのは僕だ。


( ^ω^)「……嘘に決まってるお……ショボンが、渡辺さんも死んだなんて……」


( ・∀・)「見込み違いか……私の。 ん? 現実を現実と受け入れられず、
      仮の話は真っ当に信じてしまう……」

( ^ω^)「……仮の話?」

( ・∀・)「毒ガスの話だよ……あくまで"例えば"だ。君のその発想力を生かせと、何度も言っているだろ?」

イライラした語調を含ませていた。しかし、それよりも
気になる一節があった。 毒ガスの話は……あくまでも例え?


……違うのか? カウントダウンは毒ガスを吐き出す計画ではないということか?

……ゴミ箱から何かを吐く、という例えに対し"毒ガス"という言葉を使用した。


そしてこの屋敷の物のなくなり様。まるでもうここは用済みだ、と言わんばかりの。

        
             何か、何かが……ある。



29: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:19:40.57 ID:ztjs6rNJ0


思考を巡らしていた頃、モララーは立ち上がり
僕に背を向けて、夜空と自らの所有する庭の方を眺め始めた。

そのモララーが、ふいに喋りだした。


( ・∀・)「街を守る……か。君はつくづく僕に似ているねぇ」

モララーの言葉には、無視出来ないものがあった。


( ・∀・)「……僕は"今"もこの街を守っている。だのに、君までも守ろうとする。

      ……互いに、別の方法でだ。
      一体、どっちが正しいんだろうねぇ……?」

陳腐な返答しか浮かんでこなかったが、それを返す。

( ^ω^)「僕の方に決まってるお……」

( ・∀・)「はたしてそれはどうかな? 君より僕の方が
      はるかに愛郷心に満ちているだろう。
      それなら、僕の方が正しいのではないのかな? ん……?」


 ……ふざけるな、正しい正しくない以前に、貴様は……。



30: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:22:04.29 ID:ztjs6rNJ0


(#^ω^)「お前はキチガイじゃないかお!!」

( ・∀・)「キチガイか……キチガイねぇ……ハハハハハハハ……
      なら愛郷キチガイという奴なのかなぁ僕は。
      なら君も、いつかはそうなるだろうね。

      君だって、"綺麗な街"を望むだろう……?」


綺麗な街。何度僕はこの言葉について考えてきたのだろう。


( ^ω^)「……望むお」

( ・∀・)「だろう? なr――」


( ^ω^)「でも、それ以上に僕は人を望むお。人間あってこその街だお」


( ・∀・)「………」


( ^ω^)「お前とは全然似てないお」

                        



32: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:26:13.84 ID:ztjs6rNJ0

( ^ω^)「モララー・シティーポリスマン。お前と違って僕は
       人間が大切なんだお。カウントダウンは絶対に止めてみせるお」

ここに来てモララーはショックを受けたような表情に変貌していった。
しかしその表情をすぐに無表情のマスクを被り、隠すと冷静な声で話をしはじめた。


( ・∀・)「………大切、か。なら、君も大切な人間を失えば僕と同じになれるかもね……」


( ^ω^)「……そうはさせないお……」


言い終えたその瞬間だった。
この男について、丹念に脳内の情報を洗い浚いしていた途中でもあった。


カウントダウンの概念について。


まるで突然、パズルのピースが降り注ぎそのままパズルを完成させたような
そんな感覚に僕は陥ったのだ。


                            



34: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:31:19.65 ID:ztjs6rNJ0

この男の趣味……経歴……言動……
このヴィップの地形……それらの破片が一斉に物を言った。


    カウントダウンの方法、目的を。


それはまだ、僕の発想に過ぎないものであったが、
確かにこの方法が当てはまる……毒ガスが違うのだとしたら、これ以外にありえない!



そして、これが正しいのだとすれば、
今のヴィップは……まだ死んでいないにしろ、殺される準備はさせられている。
時間の問題だった。



(;^ω^)「急がないと……!」


僕の視線は自然と後ろの扉へ向けられていた。


               



36: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:34:48.73 ID:ztjs6rNJ0

僕は自覚もなく扉へ駆け出していった。

その僕の背中に向かってモララーがピシャリと言い放つ。


( ・∀・)「どうした!? 逃げるのか!?」

足を止めくるりと振り返って、僕も言い返した。


( ^ω^)「逃げるわけないお!!」

( ・∀・)「そうかい、なら気づいたというワケだな……。だがどうすることも出来んだろう?
      ついでにもう一度言ってやろう。ショボンも渡辺も死んだんだ、もう諦めるんだな!!!」


言いたいことだけ言うとモララーは腕を組み
再び巨大な窓の方へ顔を向ける。


(;^ω^)「……ッ!」

言いたいことは僕にもあった。だけれど必死に堪えて

扉を開けて、部屋から飛び出した。

                  



38: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:37:52.49 ID:ztjs6rNJ0

今のヴィップを僕は救うことが出来るだろうか。
希望は限りなく薄かった、だとしても飛び出さざるを得なかった。



諦めたくなかった、何が何でも、諦めたくない……。

その気持ちだけだった。


そうして、気持ちを固執させていくうちに、


どこか、心の中でショボンと渡辺さんの死を認めてる自分に気づいたのだった。



( ω )「……」


そんな自分が嫌になる。
否定しておいたくせして、信じてしまうだなんて。


自分にもモララーにも怒りが湧き起こってくる。



40: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:40:34.19 ID:ztjs6rNJ0
エレベーターの脇に下へ続く階段があった。
何も考えずがむしゃらに下り始める。

踊り場の壁には絵を掛けていた跡がいくつも見受けられた。


やはり、この屋敷はもう用済みのようだ。



何の障害もなく階段を下りきると、
玄関にすぐさま辿り着いた。



僕とモララー以外、この屋敷に人は存在していないらしかった。




黒く磨かれた玄関のドアを開ける前に、
僕は祈るような気持ちでバッグの中を漁った。



41: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:43:59.55 ID:ztjs6rNJ0

( ^ω^)「……お」

ショボンはあの部屋で色々と物を詰めていたと言っていたけど、
それは本当のようで、カバン内にはぎっしり物が詰まっていた。

詰まっていたその中から僕は1つ、取り出す。


( ^ω^)「ショボン……」


ガスマスクを。この用意周到なところでショボンを強く思い出した。



それを頭部に装着してから、僕は玄関のドアを開けて
 仮死の街、ヴィップの空気を浴びる。


ここは町長の屋敷の庭、地面から突き出ている像の群には
地中海の雰囲気がどことなく漂っている。

その像の全てもまた、女神像だった。


                



44: ◆tOPTGOuTpU :2007/10/24(水) 22:47:23.04 ID:ztjs6rNJ0


石畳の上を走り抜けていく。


ガスマスクをしていても感じ取っていた。
夜だとしても静か過ぎるこの街の吐息を。


門は最初から開いていた。



躊躇なく外に出ると、


半ば自暴自棄のまま、何も考えられないまま、無人の道路を駆けていくのだった。



                         (第25話終)



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