三丁目の('A`)ドクオ達のようです

5: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:42:49.08 ID:LBaxcfTzO
(,,゚Д゚)「あーあ、腹減ったなぁ」

ポリバケツの中に頭を突っ込んだまま、俺は力無くため息を零した。
袋の中身はどれも正真正銘のゴミばかりで、腹の足しになりそうな物は見当たらない。

(,,゚Д゚)「ちぇ、今日はついてねーや」

頭を引っ込めながら毒づく。
この分だと、今夜は飯にありつけないかもしれない。
せめて待っている連中の分くらいは確保しておきたいのだが。

(,,゚Д゚)「……駄目だ、ここには無いな」

辺りに散らばったゴミを見やりつつ、鼻を鳴らす。
今度はこのゴミを、漁られたと分からない程度に片付けないといけない。何とも憂鬱な作業だ。

(,,゚Д゚)「ったく、何で俺らがゴミを戻さなきゃいけないんだっつの」

ドクオは何やかやと理屈を並べていたが、掃除なんて無駄に綺麗好きな人間共に任せておけば良いと思う。

('A`)「グチグチ言ってないでさっさとかたせ。何かめぼしいのあったか?」
(,,゚Д゚)「今やるよ、つか手伝え。収穫はナシだ」
('A`)「そか。やっぱこの区画はもう駄目かねえ……これまで水曜は必ずあったけど、もう二ヶ月位さっぱりだから……うんたらかんたら」



6: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:44:32.20 ID:LBaxcfTzO
ドクオはぶつくさ呟きながら、器用にゴミを袋の中に突っ込んでいく。
後半は完全に聞き流していた。

('A`)「やっぱ、今まで荒らしっぱだったのがまずかったんだろうな。
    住人側も警戒して残飯を置く頻度が明らかに下がったみたいだし」

(,,゚Д゚)「あー、飯が減るのは困るなー」

('A`)「そうだな。だからとりあえず掃除しろやコラ見てんじゃねえ」

(,,゚Д゚)「分かってるけど……腹が減って力出ねーよ、ついでにやる気も出ねー」

餌を探すのなら張り切りようもあるが、ゴミを戻す作業はどうにも頑張り甲斐が無い。

('A`)「……しょうがないな、ちょっと待ってろ」

ドクオは尻尾を揺らしながら、近場の塀の隙間に頭を突っ込む。
口に大きな袋をくわえて戻ってきた所を見ると、何かを隠していたらしい。

(,,゚Д゚)「お、何だそれ」
('∀`)「じゃんじゃじゃーん(CV:ニャンちゅry」

ドクオがキモい声色と共に見せてきた袋の中身には、
手羽先に海老天、唐揚げなど、超がつく程に豪勢な餌がぎっしり詰まっていた。

(,,゚Д゚)「うおおおおおおおおおおお!!!!!1111」



8: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:46:32.69 ID:LBaxcfTzO
(,,゚Д゚)「どうしたんだよこれ!?」
('∀`)「近所の惣菜屋の売れ残りを、そのまま頂いてきたのよ。タイミング良かったぜ」
(,,゚Д゚)「うおおお! GJと言わざるをえない!!」

袋から漂ってくる食欲をそそる香りに、ガラにも無くテンションが上がってしまう。

('∀`)「皆の分も大丈夫だろうし、ちょっと食べてこうぜ」

(,,゚Д゚)「そうこなくっちゃな!」

('A`)「ただしゴミを片してから」

(,,゚Д゚)「よっしゃあ!いっただっきまs 何だとぉ!?」

('A`)「やる気、出たろ?」



こいつ鬼だ。


第九話 六月十二日─深夜・その二─



10: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:48:14.72 ID:LBaxcfTzO
(,,゚Д゚)「いやー、うめえ。生き返るよ」

手羽先の骨をバリボリ噛み砕きながら、口の周りについた食べかすを舐めとる。
思いのほか油でこってりしていたが、たまに食う分には悪くない。

('A`)「他の皆が見つけた分も合わせれば、今日はかなり豪華な食卓になるかもな。
    あー、いや、ここは少しくらい保存の方にも回しておくべきだろうか……」

つまみ食いもそこそこに、ドクオは相変わらずどうこう言っている。
前から思ってたがこいつ、美味そうに飯を食えないタイプだな。

(,,゚Д゚)「お前さあ……。もうちょっと気楽に考えろよ、色々」

('A`)「ぼんやりしてっと鬱になるんでな。何か考えてた方が気が紛れる」

ドクオは相変わらずの仏頂面のまま、右手で顔を洗う。
一体何をそんなに憂いているのか知らないが、そんなだからお前はモテないんだよ。
と言うと、泣くかもしれないから黙っておく。

(,,゚Д゚)「流石にモララーの右腕ともなると、悩み事が多いのか?」

ちょっと嫌味な言い方だったろうか。
俺の問い掛けに、ドクオは渇いた笑みを浮かべた。



11: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:49:26.09 ID:LBaxcfTzO
('A`)「さあてな。あの猫の話聞いて悩まない奴がいたら、そのツラ拝みつつ爪の垢を煎じて飲ませて頂きたいとこだよ」

(,,゚Д゚)「よく分からんが、しんどい事だけは伝わった」

視線を外し、路地裏の狭間から表通りを眺める。
見える光景はいつもと同じ。人間や自動車が、けたたましい騒音と共にひっきりなしに行き来している。
変わり映えのしない眺めだ。

(,,゚Д゚)「…………」
('A`)「…………」
(,,゚Д゚)「…………」
('A`)「…………ゲップ」

(,,゚Д゚)「おい」
('A`)「あ、ごめんついうっかr」
(,,゚Д゚)「お前さ、頑張ってるよな」
('A`)「え、あ……うん?」

(,,゚Д゚)「だから、頑張ってるよな」
('A`)「あー……そう、なのかね」

俺の言葉の真意が分からないのか、歯切れの悪い返事をするドクオ。

(,,゚Д゚)「ああ」

猫の世界で小柄であるという事は、とりもなおさず他より劣っている事を意味する。要するにハンディキャップだ。
そんな中でこいつは、持ち前の頭脳だけを頼りに今の地位を築き上げた。
これを頑張っていると言わずして何と言う。



13: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:51:06.09 ID:LBaxcfTzO
(,,゚Д゚)「お前はさ、これからどうするんだ?」
('A`)「?」
(,,゚Д゚)「今お前は、モナーとモララーの次に力のある立場だ。お前ほどじゃないが、俺もな。
     まさか、今のままで満足してる訳じゃあないだろ」
('A`)「んん……んー?これから、ねえ。考えた事も無かったぞ」

(,,゚Д゚)「……まぁいい。少なくとも俺はそうだ」

表の雑踏から路地裏へと顔を向け、傍らにいる辛気くさい面の黒猫を見やる。

(,,゚Д゚)「俺はいずれ、やってやるぜ。
     こんな汚ねぇ場所で縮こまってる必要の無い、自由な居場所を作り上げてやる」

ドクオは俺の言葉を聞き終えると、伏せていた目をゆっくり開けた。そして、力強く言い放つ。

('A`)「……俺は、先の事になんか興味無いね」
Σd('A`)「何故なら俺たちは、『今』を生きているから──!」

…………。

(,,゚Д゚)「…………」
('A`)「…………」
('A`)「ごめん今の冗談」



14: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:52:29.99 ID:LBaxcfTzO
※    ※    ※

陳腐な言い方になるかもしれないが、気の良い仲間だった。

肥大化する集団の中で、小さな身体を物ともせずにのし上がっていく姿を見て、
嫉妬と、憧憬の念すらも抱いていたのかもしれない。

しかし、モララーの死により、奴は豹変した。
俺のように群れを離れて独立もせず、縄張りの確保もせず、ただ東区に逃げ延び、
挙げ句の果てに下らない罠で右手まで失い、小さな広場で同じ落ちこぼれ共と馴れ合うばかり。

俺にとって今の奴は、惨めな敗者以外の何者でもなかった。


その惨めな黒猫は、今、俺の目の前に立っている。
ずたぼろの身体を、引きずるように。



18: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:54:10.20 ID:LBaxcfTzO
(メ;'A`)「ッ、ハァ、ハァ……。ちっ」

足がふらついている。
もともと身体のバランスが崩れているのだ、これだけ動けばヘバらない訳が無い。

(メ,,゚Д゚)「大したもんだ。そんな身体でよくこんなに動けるな」

(メ;'A`)「ぜぇ……、シューの缶詰の、おかげ、かもな……」

話をするのもやっとだと言うのに、ドクオはこちらを油断無く見据えている。
フラフラではあるが、すぐに回避できるように重心を低くしている。
尻尾を揺らし、タイミングを計っている。

俺にまだ、勝つ気でいる。

(メ,,゚Д゚)「……頭の切れるお前らしくもねぇ。何でまだやる気なんだ」

俺たちは必要最低限の争いしかしない。
勝負がはっきりした時点で、素直に縄張りを明け渡すか、もしくは服従の姿勢を取るべきであるというのが暗黙の了解となっているからだ。

(メ;'A`)「何言ってんだ……、勝て……ると、思ってるから、やってんだろうがよ」

俺は無意識に、奥歯に力を込めていた。
歯と歯が擦れる不快な音が口内に響く。



19: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:55:32.27 ID:LBaxcfTzO
(メ,,#゚Д゚)「……いい加減に」

地を蹴り、跳ねるようにドクオ目掛けて疾駆する。
ドクオはすぐさま横に回避しようと身体をひねるが、一瞬遅かった。

俺の腕が、ドクオの脇腹を捉える。

(メ,,#゚Д゚)「しやがれ!!!!」
(メメ;'A`)「ぅぐッ──!!!」

そのまま引っ掛けるようにドクオを巻き込み、アスファルトに叩きつける。
次いで体重をかけてのしかかり、退路を絶つ。

鋭い爪を喉元に押し当てた状態で、俺はドクオを睨みつけた。

(メ,,#゚Д゚)「俺は今も昔も短気なままなんだよ、あんまりおちょくらないでくれるか?
       爪も出さない癖して何が勝つ気だ、笑わせんな」
(メメ;'A`)「ゲホ、ゴホ……ッ」

背中を打った衝撃で息ができないのか、ひたすら咳き込むだけのドクオ。
俺は構わず、言葉を続ける。

(メ,,゚Д゚)「周りを見ろ。お前の頼れるお仲間は、全員完全にノビちまってるぜ」

俺の言葉通り、ドクオの周りに集まっていた連中は、既に俺の手によって打ち倒されている。
たかが知れているとは分かっていたが、想像以上に手応えが無かった。



21: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:57:19.83 ID:LBaxcfTzO
(メ,,゚Д゚)「ひでえもんだ、吐き気がする。お前はこんな低レベルな連中と同じになっちまったのか」

ドクオはやっと痙攣が治まったのか、頬を引きつらせながらか細い声を漏らす。

(メメ'∀`)「レベルが低かろうが何だろうが、俺にとっては貴重な話相手でね……」

精一杯の虚勢。
俺の目にはもはや、そうとしか映らなかった。
以前のドクオはもっと知略を巡らし、格上の相手でもあの手この手を用いて勝利していた。
その頃の面影は、見当たらない。目の前にいるこの黒猫は、かつてのライバルではない。

途端に、昴ぶっていた心が冷えていくのを感じた。

(メ,,゚Д゚)「……もう、止めだ。負けを認めろ」
(メメ'A`)「…………」
(メメ'A`)「ちっ、やっぱりこれだけじゃ駄目か……」

(メ,,゚Д゚)「てめェ、まだ悪あがきを──」

(メメ'A`)「なあ、ギコ。せっかくだから聞いとくけどよ」
(メメ'A`)「わざわざ俺が、何の計画も立てないまま、お前のねぐらに乗り込んでくると思うか?」



24: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 04:58:59.38 ID:LBaxcfTzO
(メ,,゚Д゚)「……あ?」

(メメ'A`)「何で俺が、遅れて来たんだと思う?」
(メメ'A`)「何でショボンは、わざわざ跡地の入り口にお前を呼んだんだと思う?」
(メメ'A`)「何でショボンは、その場で、俺がいないまま話を進めたんだと思う?」

ドクオはあくまで、淡々と言葉を連ねていく。
その瞳は、戦闘中とは思えないほどに冷え切っていた。
背中が、総毛立つ。
まさかこいつ──

(メメ'A`)「はっきり言おうか。っつか、これもお前自身に聞いた方が早いな。
     さーてここからが問題だっケローン」
(メメ'A`)「問い1。お前が考える、『ギコ最大の弱点』って、一体何よ?」

(メ,, Д )「…………」
(メ,, Д )「……弟者」

(´<_` )「はい」

(メ,, Д )「例の部屋、見てこい。今すぐにだ」

(´<_` )「把握しました」
( ´_ゝ`)「いてら」



25: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:00:16.68 ID:LBaxcfTzO
弟者は一直線に跡地の方へと駆けていく。
数分後、全く同じスピードで駐車場跡に戻ってきた。

(´<_` )「誰もいません。もぬけの殻です」

(メ,, Д )「…………にやった」
(メメ'A`)「あんだって?」
(メ,,#゚Д゚)「しぃをどこにやったァ!! 言えゴルァアアアア!!!!!!」
(メメ;'A`)「ぅがッ!!?」

殴りつけつつ、鼻先が触れる距離にまで顔を近づける。

(メ,,#゚Д゚)「どうやらてめェ……性根が完全に腐っちまったみたいだな!!」
(メメ'A`)「……なりふり構っていられるか」

ドクオは吐き捨て、こちらを睨み返してくる。
瞳の向こうに、怒り狂っている俺の顔が見えた。



29: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:01:48.13 ID:LBaxcfTzO
(メメ'A`)「それに、性根が腐っちまったのはどっちだよ」
(メメ'A`)「縄張りばっかり広げやがって。それがお前の自由な居場所か?ん?」
(メ,,#゚Д゚)「て、めェ……ッ!!!!」

俺は歯の根を折らんばかりに噛み締め、爪の伸びきった拳を思い切り握り込む。
有らん限りの力を込め、その拳を振り下ろそうとした瞬間──

(メメ'A`)「はいオッケー!!」

ドクオはおもむろに左手を伸ばし、俺の首にがっちりと組み付いてくる。距離がいきなり零になり、拳が空を切る。

(メメ'A`)「やっと注意を逸らしたな。キレたらマウントポジションを維持する癖、直ってなくて助かったぜ」
(メ,,゚Д゚)「何を言っ──」


(メメ'A`)「ギコォ! てめーの敗因はたった一つ!!」
(メメ'A`)「てめーは奴らをナメ過ぎた!!!!」



30: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:03:18.35 ID:LBaxcfTzO
 


(#^Д^)#><)#-_-)#^ω^)#´・ω・`)「「「──おおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」」」




ドクオが腕を外した瞬間、周囲で倒れていたはずの取り巻きが一斉に突進してくる。

(メ,,゚Д゚)「なッ?!!」

回避する暇も無く、俺は全方位から衝撃を受ける。
猫五匹分の体重が乗った一撃に、さすがの俺も視界が暗転しかけた。

(メメ,,#゚Д゚)「ぐっ……そ、ナメんなよ、ゴルァ…………!!」

突進したまま、俺に張り付いて離れない取り巻き共を引き剥がすため、全身に力を込める。
何てことは無い、この程度の連中の力なら……

(#^ω^)「よく、分かったお。あん、たは……東区の主でも、何でも、無いお」
(メメ,,゚Д゚)「何?」

正面に張り付いていた小僧が、突然口を開いた。

(メメ'A`(#)「ごめんブーンちょっと顔踏んでるんですけどいや本当すいません」
(;^ω^)「アッー! すまんこ」



32: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:04:37.59 ID:LBaxcfTzO
(メメ,,゚Д゚)「……お前ら、本当に訳分からない台詞が好きだな」

(#^ω^)「僕は、分かるお。
       あんたはドクオよりも……いや、ハインがいる時のショボンよりもずっと、ダメダメだお」
(;´・ω・`)(ちょ、何その比較)

(#^ω^)「最初、何でこの跡地は猫がこんなに少ないのか不思議だったお。
       でも、何のことは無いお。縄張りの主がこんなんじゃ、誰だって寄り付かんお」

小僧は俺を睨みつけながら、俺を掴んでいる手に少しずつ力を込めていく。

(メメ,,゚Д゚)「知ったような口聞いてんじゃねえぞ、ゴルァ」

(#^ω^)「そうだお。昔の事とか、主の役目とか、そんなん知らないお。
       そんな僕でもこれだけは、断言できるお」

(#^ω^)「……あんたは、孤独だお」


(メメ,,゚Д゚)「──!」



34: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:06:21.85 ID:LBaxcfTzO
(#^ω^)「どれだけ、あんたが、凄かろうと」

小僧の全身が膨れ上がり、掴んだ腕が更なる力を帯びていく。
いくら身体をよじろうとしても、万力のようにビクともしない。

(#^ω^)「どれだけ、縄張りが、広かろうと」

ギリギリと骨が軋むような異常な音をあげ、常に低い体勢を保っていた俺の身体が、徐々に持ち上げられていく。

(メメ,,;゚Д゚)「なん、だと…………!?」

冗談じゃない。
こんなガキに、俺の身体が──

(#^ω^)「低レベルとか! 落ちこぼれとか!! そんな事しか言えない奴に!!!!」


(#`ω´)「皆がついてくる訳ねぇおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!!!」



35: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:07:54.75 ID:LBaxcfTzO
(メメ,,#)Д)「ッッ!!!!」

真下から打ち上げるかのように凄まじい頭突きを喰らい、俺の身体は一瞬、完全に浮き上がる。
まずい、身体が「開いて」しまった。

そこに飛び込んでくる、一陣の黒い風。

(メメ,,#゚Д゚)「ッこの……!」

叩き落とすべく、腕に力を込める。今まで幾多の敵を弾き返してきた、自慢の豪腕。
理想の為に鍛え上げてきた、俺の唯一の武器。

だと言うのに。

それが、何故、奴に届かない。
何故、取り巻き程度を振り解けない。
何故、俺は、こんな奴らに──

(メメ,,#゚Д゚)「──畜生……ッ!!」


黒い風は俺の喉笛を完全に捉えた状態で、ピタリと動きを止めた。



39: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:09:23.86 ID:LBaxcfTzO
※    ※    ※

(メメ;'A`)「ハァ……くっ、俺達の……勝ちだ、な」

高鳴る心臓と痙攣気味に酸素を求める肺とを必死になだめながら、ギコの首から牙を離す。
ギコの動きを封じていた皆も、ゆっくり奴の拘束を解いた。

ここまでくれば、こいつだって負けを認めてくれるはずだ。

(メメ,,゚Д゚)「……。何で、やらなかった」
(メメ;'A`)「は?」

何故かギコは恨みったらしく、俺を睨みつけてきた。
いや、お前本当に怖いから止めて欲しいんだけど。

(メメ;'A`)「そーゆーあれじゃないだろ、今回」

俺たち猫の間では、縄張り争いでむやみやたらと相手を傷つける事は流儀に反するとされている。
なるべくならスマートにケリを着けるべきという、なかなか悪くない考え方だ。

(メメ;'A`)「それに、お前死んだら東区どうすんだよ。俺にゃ無理だっつの」

(メメ,,゚Д゚)「…………」


( ´_ゝ`)「はいはいはいはい、そんじゃ試合終了でFA?」
(´<_` )「結果はドクオさん側の勝利で異論ありませんね」

立会役を担っていた双子らしき兄弟がそそくさと近寄ってくる。



40: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:11:35.42 ID:LBaxcfTzO
この兄弟、自分のボスが負けたというのにいやにサバサバしている。
公平なのか、単に淡白なだけなのか。

(メメ,,゚Д゚)「……」

(´<_` )「異論無いようですね。では、ドクオさん側の要望を受け入れます。
       案内しますのでこちらへ」
( ´_ゝ`)「ま、場所だけは無駄に余ってるしなー。気にすんな、ドンマイギコ」
(メメ,,゚Д゚)「……お前ら、後で死ぬぞ」
(´<_` )(何で俺も必ず入ってんだろ……)

若干しっかりした風貌の方の猫が、俺達を先導しようと駐車場入口に立つ。
俺はぼんやりと座り込んでいるギコに向き直り、軽く頭を下げた。

(メメ'A`)「悪いな、あいつを利用しちまって。今頃はもう部屋に帰してるはずだ」
(メメ,,゚Д゚)「……」

最後の切り札、それはギコにとって他の何よりも大切な猫、しぃの事だった。
彼女に関する話になると、奴は途端に周りが見えなくなる。
あまりこういう事を利用するのは愉快ではなかったが、結局切り札も使ってしまった。
六匹がかりでこれとはシャレにならん、二度と戦いたくない。

結局ギコから何も言われないまま、俺達は駐車場を後にした。



43: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:14:11.01 ID:LBaxcfTzO
とりあえず敷地内の隅に皆を集め、勝った事を報告する。
ギコの凄さを理解している猫などは、あからさまに驚愕して信じられない様子だった。無理もないけど。

从 ゚∀从「いやぁ乙!! よー頑張ったな! ご褒美に娘撫でてやっても良いぜ」
(メメ'A`)「何か返事しづらいご褒美だな」
从 ゚∀从「あ、俺の方が良い?」
(メメ'A`)「お前撫でて何か得すんの?」

件の娘はハインの懐に隠れながら、こちらを若干怯えた目で見上げている。
今の俺は満身創痍も良いとこだから、仕方ない。ご褒美は丁重にお断りしておこう。
昔のハインもこんな感じで可愛かったんだが……

(-_-)「……良かったよ、ブーン。凄かったね」
( ><)「あのギコをふっ飛ばすなんて予想GUYなんです!!」
(*^ω^)「え?あ、ありがとお。照れるお」
( ^Д^)「確かに。なかなか見込みあるかもしれねぇな」
(メ´・ω・`)「ところでプギャーも、そろそろ噛ませ犬癖を直さないとマズいんじゃないかい?」
(#^Д^)「そんな癖つけた覚えないんだけど」



44: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:15:58.51 ID:LBaxcfTzO
不安から解放され、疲れも忘れて賑わう野営組や母親たち。
ここなら危険が及んでもすぐに対処できるし、
そもそも市街地からは大分離れているので、あのゴーグル男共もわざわざやってくるとは思えない。
今夜は皆、ゆっくり安心して眠れるだろう。

ショボンを呼び、少し離れたところで尋ねる。

(メメ'A`)「……ショボン、傷の方は?」
(メ´・ω・`)「ちょっと痛むけど、血も止まってるし許容範囲内だね。
       君こそ大丈夫かい」
(メメ'A`)「血は出てないし、殆どはちょっとぶつけただけだから平気だろ」

顔を上げ、市街地がある方角を眺める。
夜ではあるが、街の上空を覆う闇は明かりに照らされ、
星もうっすらとしか見えない。

(メメ'A`)「じゃあ俺、帰るわ」
(メ´・ω・`)「……この距離を歩いて帰るのかい?休んでからの方が良いんじゃ」
(メメ'A`)「時間さえかけりゃあ平気だ。ちょっと、気になる事もあるしな」



46: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:17:33.00 ID:LBaxcfTzO
戦っている最中、かすかに例の発砲音が聞こえたような気がした。
これだけ距離があると空耳と紙一重のような気もするが、何となくそうは思えない。

(メ´・ω・`)「……何か変な事を考えてるんじゃないだろうね」
(メメ'A`)「馬鹿言え。帰って寝るだけだ」

この言葉に偽りは無い。
こんな状態で単身特攻しようと思うほどには、トチ狂ってはいないつもりだ。

(メ´・ω・`)「そう、か。明日は来るかい?」
(メメ'A`)「あー……分かんね。明日は一日身体動かないかも分からんし」

(メメ'A`)「ま、何かあったら頼むわ。色々」
(メ´・ω・`)「ああ。分かった」

何気なく、ショボンと、野営組の輪の中で雑談しているブーンとに視線を向ける。
俺の視線に気づいたのか、ブーンが軽く尻尾を振ってきた。
あいつ誉められてテンション上がってやがる。

(メ´・ω・`)「彼にはびっくりしたよ。大したもんだね」
(メメ'A`)「ああ、たまげた」

ブーンも割と体格は良い方だが、ギコには及ばない。
あの巨体を抱えて頭突きをかますなんて、同じ体格の猫にもそうそう出来ない芸当のはずなのに。



48: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:19:13.17 ID:LBaxcfTzO
(メ´・ω・`)「あれ多分トレーニングの副産物だね」
(メメ'A`)「何だそりゃ」
(メ´・ω・`)「ほぼ毎日、かなりの運動してたからね。一匹の時とかに」

(メメ'A`)「へー。しかし何でまた……ってまさか」
(メ´・ω・`)「そのまさか。空飛ぶ為だね」
(メメ'A`)(大物なのか?ただのアホなのか……?)

よく分からないが、そういう事に情熱を注げる精神は評価すべきなのかもしれない。

(メメ'A`)「……。うっし、じゃあ俺戻るわ。皆にもよろしく言っといてくれ」

(メ´・ω・`)「分かった。気をつけて」

踵を返し、跡地の入口へと向かう。
例の兄弟猫がいた門の前で、不意に彼らに呼び止められた。

(#)_ゝ`メ)「おい、ドクオ」

……何でタメ語なんだ。ボロクソになってるのはスルーしておくが。

(メメ'A`)「何スか」
(メ<_`(#)「しぃさんから伝言だ。
      『役に立てたみたいで、嬉しい。皆で頑張ってね』だそうだ」

(メメ'A`)「ああ、どうも」

(メ<_`(#)「あと、『もし良ければ、ギコと前と同じように接して欲しい』、とも言ってたな」



49: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:21:28.66 ID:LBaxcfTzO
(メメ'A`)「……」

それは、正直難しい。
お互いに昔に戻るには、色々と変わりすぎてしまったように思える。

(メメ'A`)「……努力する、とだけ伝えてくれ。ありがとう」

その一言と共に軽く頭を下げ、門の外へと足を進める。

戻れはしないかもしれないが、それで構わない気もした。
あいつには立ち止まらずに、いつか本当の理想の居場所を作り上げて欲しい──そんな勝手な期待を寄せていたから。


(#)_ゝ`メ)「なぁ、弟者」
(メ<_`(#)「何だ兄者」
(#)_ゝ`メ)「しぃちゃんってあの黒いのにさらわれてたんじゃないの?伝言おかしくね?」
(メ<_`(#)「いや。実はな、さらわれてなかったんだよ」

(#)_ゝ`メ)「な……何ぃ?」
(メ<_`(#)「パn……しぃさんから、部屋にはいない事にしてくれって頼まれてな。
       断る理由も無いからいない事にした」



52: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:23:13.67 ID:LBaxcfTzO
(#)_ゝ`メ)「何だ、しぃちゃんも協力していたのか。
       なら何故にあの黒いのはさらったとか言ったんだぜ?」

(メ<_`(#)「そうじゃなきゃ、しぃさんに迷惑かかるからじゃないのか。
       それと、しぃさん大好きなギコも凹むだろうし。無駄に気配りな男だ」

(#)_ゝ`メ)「なるほど把握した。……あの黒いの……」
(#)_ゝ`メ)「すげーめんどくせー事するのな」

(メ<_`(#)「傷だらけの俺に他に言うこと無いか?」



54: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:24:51.40 ID:LBaxcfTzO
工業跡地から家までたどり着くのには、想像以上の時間を要した。
ただでさえヘトヘトだった上に、例の連中に出くわさないように警戒して進んでいたからだ。
結局それらしい音が聞こえることも無く、アパートのベランダに到着してしまった訳だが。

見たところ、明かりは点いていない。時間が時間だから、別に蛍光灯が消えていても仕方ない。

ベランダに上がり込み、遮光カーテンの隙間を覗き込む。
部屋の中は真っ暗だが、夜目が利く猫にとっては昼間とそう変わらない。

(メメ'A`)(……いないな)

寝室で寝てる。
その可能性も考えたが、明らかに人の気配を感じなかった。

(メメ'A`)「やれやれ。間の悪い奴だ」

ぼそりと呟きながら、ベランダのサッシに背中を預ける。
だいぶ傾いている月をぼんやり眺めながら、その場に座り込む。
ひんやりとしたコンクリート床の感触が、疲れた身体には心地いい。



57: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:27:31.11 ID:LBaxcfTzO
(メメ'A`)「……信じる者は救われる、か」

シューから言われた言葉を、何気なく口にする。
改めて考えてみると、何というか、実に無責任な言葉のような気がしないでもない。

(メメ'A`)「ま、何だっていいさ。ちょっとそこら、探しに行ってみるか」

ひょっとしたら、俺を探しに近所を回っているのかもしれない。
そう思いつつ軽く頭を振り、ベランダを出ようとした、次の瞬間──

俺は床に倒れ込んでいた。

(メメ'A`)「……あれ?」

身体に力が入らない。足が、腕が、背中が、頭が、耳が、動かない。

(メメ'A`)「ど……っい、これ……」

急速に血の気が引いていく。
冬でもないのに、恐ろしく寒い。身体の震えが止まらない。

(メメ'A`)(ま、さか……冗談じゃねえぞ! まだ、こんな……)

瞼が重い。強烈な眠気が襲ってくる。
沼に沈み込むような違和感に必死に抗いながら、俺は助けを求めようと口を開く。

(メメ'A`)「っ…………!」

声が出ない。



59: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:29:24.83 ID:LBaxcfTzO
ガチガチと音を立てて顎が震え、視界が暗く、狭まっていく。
圧倒的な何かに、俺の全身が飲み込まれようとしていた。


冗談じゃない。
冗談じゃない。
冗談じゃない。
冗談じゃない。


まだだ、まだこんな所でくたばってなんかいられない、
広場の皆だってまだ安全とは言い切れない、母親たちも、子供たちも、野営組の連中も、ツンも、ギコも、

クーの事も。放っておけない事ばかりなんだ。

(メメ A )「…………!」

俺の抵抗も空しく、冷たい何かは俺の四肢を覆い、徐々に押し潰そうとしていた。

もう、頭がろくに働かない。良い案も浮かばない。
何に必死だったのか、何を焦っていたのか。そんな事も分からなくなってくる。
いつの間にか、氷のように冷たい身体にも慣れてしまっていた。心地良いとすら、感じつつある。

この感覚は、以前にも一度体験した。この心地良さがまやかしである事も、知っている。知っていながら、どうする事もできない。

俺は意識を失う寸前まで、ただひたすら、怯えていた。


最後に脳裏に浮かんだのは、クーの横顔だった。



60: 以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2007/08/16(木) 05:31:25.43 ID:LBaxcfTzO
※    ※   ※

(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽ! ちんぽっぽ!」

ξ )ξ「ううん……」
ξ゚听)ξ「あれ……いつの間にか、寝ちゃってたのね」

(*‘ω‘ *)「ぽっぽ!」

ξ゚听)ξ「おはよう。ごめんね、強く噛みつき過ぎちゃって。首痛いでしょう?」
(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽちんぽっぽ!」

ξ゚听)ξ「……私の言う事は一応分かるのかしら……あなたの名前は?」
(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽ!」

ξ゚听)ξ「ちんぽっぽちゃん……ね。私はツン、よろしく」
(*‘ω‘ *)「ちんぽっぽ♪」

ξ゚听)ξ「うん。……さて……」



ξ゚听)ξ「ここ……どこなんだろ……」


第九話 終



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